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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


燃えるが如く


 相澤・蓮(あいざわ れん)は走っていた。もの凄い勢いを以って、走っていた。
「風になれ、俺」
 小さくそんな事を呟きながら、蓮は走っていた。ぜえぜえと肩で息をしつつも、時折何かを思い出してへらっと笑っている。
「俺の足ってば、いくらでも走れるぜ!エネルギーは愛ってな」
 小さく呟き、蓮は再びへらっと笑って走りつづける。そうして辿り着いたのは、遊園地の入り口だった。蓮はそこにゴスロリの格好をした棗・火之歌(なつめ ひのか)の姿を見つけ、ぶんぶんと大きく手を振った。
「火之歌ぁー!お待たせ、お待たせ!」
 何度もぶんぶんと手を振りながら、勢いよく近寄る。火之歌も蓮の叫びに気付いて「やっほー、蓮ちゃん」と言って手を振り返してきた。それを見て、更に蓮の顔が緩む。
「蓮ちゃん、さっきまでお仕事だったんでしょ?」
「おうよ!んなもん、速攻で終わらしてきたぜ」
 ぐっと親指を立てつつ、蓮は答えた。ぜえぜえと肩で息をしているのは相変わらずだ。それを見て、火之歌はにこっと笑う。
「お疲れ様なのだ、蓮ちゃん」
「火之歌とデートできるって思ったら、疲れなんて全くねぇって。相変わらず、火之歌は可愛いし……」
 蓮はそこまで言い、ばっちり可愛らしいゴスロリ姿の火之歌を改めて見直す。そして、自分のよれっとしたスーツ姿も。慌ててスーツの衿を正す。
 そんな蓮の姿を見、火之歌は「にゃはは」と笑った。
「そ、そんなに変か?俺の姿……」
 いろいろな所を直しながら言う蓮に、火之歌は「そうじゃないのだ」と言って、ぎゅっと蓮の腕を掴む。
「そんな風に頑張っている蓮ちゃんの姿が、嬉しいのだ!」
 行くのだ、と付け加えながら蓮の腕を引っ張る火之歌に、思わず蓮は頬を赤らめた。そして火之歌に引っ張られるままに、遊園地の中へと足を踏み入れていくのだった。


 遊園地のフリーパスポート券を購入し、蓮は火之歌に「はい」と渡す。火之歌は「ありがとうなのだ」といい、にこっと笑う。
「さ、何乗る?火之歌。やっぱりばびゅんとジェットコースター?それともメルヘンチックにメリーゴーランド?」
「うーむ、どちらも乗りたいのだ。……蓮ちゃんはどっちに乗りたいのだ?」
「そうだなぁ……俺は……」
 蓮は少しだけ悩んだ後、にっこり笑ってから火之歌の手を握り締める。少しだけ、優しく引っ張りながら。
「まずはジェットコースターで悩みを吹き飛ばす!」
 蓮の返答に、火之歌はじっと握り締められた手を見、次に蓮を見てにっこりと笑う。
「よし、ゴーなのだ!」
「火之歌、やっぱり一番前?」
「勿論なのだ。ついでに、降下する時は両手を上げて万歳するのだ!」
「お、やる気だな?火之歌」
「当たり前なのだ!……蓮ちゃんはしないのか?」
 火之歌の問いに、蓮は「まさか」と言ってにやりと笑う。
「俺だって、やっちゃうって」
 二人は顔を見合わせ、にっと笑い合う。そして、まっすぐにジェットコースター乗り場へと手を繋いで向かって行く。
 スカイジェットコースターは、丁度先頭に並ぶ事ができた為、予定通り一番前に乗ることが出来た。
「わくわくするのだ」
「お、俺も」
 蓮はそう言った後、ぎゅっと火之歌の手を握り締める。火之歌が「ん?」と言って小首を傾げると、蓮は少しだけ頬を赤くする。
「俺、火之歌とこうしてたい」
「万歳しないのか?蓮ちゃん」
「手を繋いだまま、する。だってさ、俺……火之歌と一緒ならっ」
 がくん。
 蓮の言葉の途中で、ジェットコースターが動き始めた。がたんがたん、と音と共に座席が揺れる。だんだん上がっていく高度に、蓮が言いかけた言葉が何処かへと飛んでいく。
「……この時間が、妙に長い気がする」
 火之歌の手を握り締めながら、蓮は呟く。火之歌は周りの景色を眺めながら「綺麗なのだ」と嬉しそうに笑う。
 がたんっ。
「きゃー!」
「うおー!」
 コースターはもの凄いスピードで降下し、続けてぐるぐると回り始める。火之歌は嬉しそうに万歳をし、手を繋いでいる為に蓮も同じように万歳をした。
 最後まで、ジェットコースターは勢いを保ったまま動きつづけ、蓮と火之歌の仲を引き裂かんばかりに風を切っていた。だが、蓮はずっと火之歌の手を離さなかった。途中何度か離しそうにはなっていたが、ちゃんと離さなかった。
「蓮ちゃん、大丈夫?」
 コースターの終点で、火之歌が声をかける。蓮の手が冷たかったからだ。蓮はこくこくと頷き、それでも手を離さない。
「俺はさぁ、火之歌……」
「何だ?」
 さっきの続きだけど、と蓮は断ってからにやりと笑う。
「火之歌と一緒なら。天国だって地獄だって構わないんだぜ?」
 火之歌はその言葉ににっこりと笑う。
「そんなの、分かってるのだ!蓮ちゃん、今更だ」
 あっけらかんと返され、蓮は少しだけがっくりとする。そんな蓮を見て火之歌は笑いながら、ぽんぽんと蓮の肩を叩く。
「つまりは、火之歌は蓮ちゃんの事を一杯理解している、ということなのだぞ?」
「火之歌ぁ……」
 蓮はへらっと笑い、そして視界の端に何かを見つけた。そして、きゅっと火之歌の手をひっぱる。火之歌は突然の出来事に「にゃ?」といって小首を傾げる。足は、次に乗ろうとしていたメリーゴーランドに向いていたからだ。
「火之歌、あれあれ!あれ行こうぜ」
 蓮がそう言って指差す先には、お化け屋敷があった。


 お化け屋敷には、噂がつきものだ。作り物のお化けの中に、本物が混じっているというのが一般的である。
 そして勿論、蓮と火之歌が訪れたお化け屋敷も例外ではなかった。当然、二人は知る由も無いが。
「蓮ちゃん……ちょっと、ここは……」
 火之歌が少しだけ怯えたように、蓮の手をぎゅっと握り締めた。蓮はというと、落ち着いたように「大丈夫」と言って火之歌を励ましている。
 先日、肝試しをした時にいい所を見せられなかったという経緯のある蓮にとって、ここは何としてでも汚名返上をしたかった。幸いな事に作り物だと思えば、お化け屋敷は怖がる必要が全く無いものだったのである。蓮は落ち着きの無い火之歌の手をぎゅっと握り、進んでいく。
「火之歌、怖いか?俺がついてるから、大丈夫だぞ?」
「怖いというか……なんていえばいいのか、分からないのだが」
 お化け屋敷も終盤に差し掛かり、火之歌がそう言った瞬間だった。目の前に妙にリアルな落ち武者が現れたのである。
「……おお、凝ってるな」
「確かに凝ってるのだ……」
 二人は口々にそう言い、まじまじとその落ち武者を見つめる。と、次の瞬間落ち武者の口が大きく開かれ、二人に襲い掛かってきた。
 噂が真実となった、瞬間だった。
「ほ、本物かよ!」
 蓮は突っ込み、自らの内に存在する『蓮 壱式』を生じさせる。すらりとした刃を持つ日本刀を構え、蓮は攻撃を受け止めていく。
「蓮ちゃん、危ないのだ!」
 受け止めきれなかった攻撃を、火之歌が銃で撃ち返す。そして火之歌は息を吸い込み、歌を唄った。それにより、小さな真紅の炎が生じ、落ち武者の霊を浄化しようとする。
「火之歌、続けて!
 蓮は声をかけ、意識を集中させる。研ぎ澄まし、細い細いこよりを作るかのように意識を一つへとまとめていく。
「うおぉ……!」
 蓮の浄化の意志を携えた一閃と、火之歌の浄化作用を持つ真紅の炎により、落ち武者はすっと消えていった。二人は顔を見合わせ、ぱんと手を叩きあう。
「火之歌、サイコー」
「蓮ちゃんも、格好良かったのだ」
 二人が互いを称えあっていると、お化け屋敷のスタッフたちが何事かと集まってこようとしていた。二人とも顔を見合わせた後、その場を慌てて去って行った。
 何か悪い事を共謀して成し遂げたかのように、くすくすと笑いながら。


 当初の予定通りにメリーゴーランドに乗ったり、射的で火之歌の驚異的なテクニックを見て妙に恐れおののいたりしていると、あっという間に時間は過ぎていった。
 空が、赤い。
「もう夕暮れなのだ」
 火之歌が残念そうにいうと、蓮は「全くだ」と言って大きく頷く。
「じゃあ、綺麗な夕日を見に行くか」
 蓮はそう言ったが、既に太陽は山の中に隠れてしまっていた。空が夕日に照らされて赤く染まっているだけで。火之歌は小首を傾げる。
「蓮ちゃん、もう夕日はないのだぞ?」
「大丈夫」
 火之歌の疑問に、蓮はにっこり笑ってから火之歌の手を引っ張った。蓮の目的地を火之歌は知り「そうか」と言ってにっこり笑い返す。
 観覧車である。
 ゆっくりと回る観覧車に、二人は乗り込む。丁度回ってきた、赤いボックスに。
「ほら火之歌、夕日!」
 蓮はそう言って、窓の外を指差す。高度を増していくと、山の向こうに消えたはずの夕日を見ることが出来た。
「凄い!綺麗なのだ、蓮ちゃん」
 二人は当分、息を飲んでその光景に見とれた。眼下に広がる真っ赤な太陽と、頭上に広がる赤い大地を。
 二人を乗せたボックスは、残り半周に差し掛かった。あとは、高度が下がるばかりである。
「……今日、楽しかったのだ」
 赤い空から蓮に目線を映し、火之歌が微笑んだ。
「俺も」
 蓮も空ではなく、火之歌に目線を映す。赤い光が、二人をほんのりと赤く照らす。
「お化け屋敷で、火之歌がサポートしてくれたじゃん?」
 蓮の言葉に、火之歌が頷く。
「俺さ、やっぱり駄目だなって思ったんだ。火之歌がいないと、傍にいないと、駄目みたいだわって」
「じゃあ、傍にいてあげるのだ」
 火之歌はそう言い、蓮をじっと見上げて微笑む。
「蓮ちゃんが望むなら、ずっと傍にいてあげるのだ」
「天国だろうが、地獄だろうが?」
「当然なのだ。……蓮ちゃんの事は、火之歌が一杯理解しているのだ」
 二人は顔を見合わせ、ふふ、と笑い合う。そうして、ゆっくりと近付いていく。
 傍に。
 誰よりも近くに。
 優しい、口付けを。
「……火之歌。俺、燃えてるわ」
「火之歌もなのだ」
 だんだん地上が近付いてくる。それでも、まだ空は赤い。既に太陽は見えなくなってしまっているというのに。
 二人は赤い空間に包まれ、再び笑い合った。照れたように、だが幸せそうに。
 上がってしまったらしい体温を互いに確かめるかのように、蓮と火之歌はぎゅっと手を握り締めあうのだった。

<熱き掌は燃えるが如く・了>