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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜鬼無里荘〜


 都内にあるアパート、鬼無里荘。
 読みは『きなさそう』とアパートの名前としては多少損をしているとしか思えない名だが、入居者は確かに存在している。
 決まり事の殆どはどこにでもありそうなことばかりだが、変わったことが一つだけ。
 ここら辺はどこにでもありそうな決まり事だが、変わった事が一つだけ。
 管理人である鬼無里紅葉。
 彼女は偶に管理を他に任せて数日姿を消すのだが……その理由はまたの機会に語るとして、普段はハキハキとした世話好きな性格のお姉さんである。
「さてと……助かったよ、ありがとね」
「いいえ」
 できあがった料理を大皿に盛りつけ終えると、自主的に住人の一人がテーブルへと運んでくれた。
「こら」
「あははは、先に頂いてます」
 こっそりつまみ食いをしているのを見逃してはいなかったのだが、この程度は良い方だろう。
 大変なのはまだ起きてこない寝坊組だ。
 時間がかかるだろう二階の女性部屋から順にまわり、声をかける。
「ご飯できたよ」
「はーい」
 一つめはすんなりと完了。
 次の部屋。
「時間じゃないのかい?」
「え、まだ……」
「用があるから早く起こして欲しいって言ってたろ?」
「あっ!」
 部屋から飛び出し、慌てて廊下を駆けていく。
 こんな調子で上から下の階へと順に部屋をまわり、住人達を起こしていく。
 残りは二人。
 どちらも一回の部屋だ。
 一番大変な相手と、一番楽な相手。



 まずは前者。
「起きてるかい?」
 声をかけるが返事がない。
 ノックをしても反応がないのは同じだ。
「入るよ」
 元々男部屋の鍵は開いているが、それでも確認をしてから勢いよく戸を開く。
 余程よく寝ているのか、まだ起きる気配はない。
 朝が弱いのは解るが、ここまで来ると重症だと思いつつ部屋の中を見渡す
 明かりがついたままの部屋の中には、床の上に散らばった本と使われていない布団。
 付けっぱなしのパソコンとテレビ。
 住人であるりょうの姿は直ぐに見つかった。
 パソコンの置いてある机の前で椅子で、落ちそうな体制のままで寝てしまっている。
「良くこれで寝られるもんだ」
 思わず感心したくなるほどに、絶妙なバランスだったのだ。
 頭を背もたれに乗せ、両腕を横にだらりと下げ、椅子からずり落ちそうな姿勢。
 周りの状況を見るにかなり長時間の間この不自然な体制を保っているようだ。
 最もかなり辛いらしく、夢見が悪い様で思いっきりうなされている。
 早く起こした方が良いだろう。
「朝だよ」
「うあ!?」
 肩を叩くと体がびくりと跳ね、勢いよく椅子から転がり落ちた。
 大きな音を立てて床に転がるりょうの体を軽々と持ち上げ、起きてるかどうかを確認する。
「もう朝だよ」
「……う、ああ?」
 まだちゃんと目が覚めていないようだが、この状態でもちゃんと意外にちゃんと聞いてるのだ。
「遅くまで仕事してたみたいだね」
「そう……四時か……五時? うわ……体いた……」
 仕事中で熟睡してしまったのだろう。
「よく寝てたみたいだね、あの体勢なら痛くもなるだろうさ」
「えっ!? うわ! やば!!」
 ばたばたと慌ただしく仕度を始める。
 取り敢えずは目が覚めたようなので、次の部屋へと向かうのだった。


 最後が一番楽な部屋。
 少しばかりの独特さを除けばの話だが。
 ノックをして、声をかける。
「朝ご飯だよ」
「はい」
 直ぐに返事と共に扉が開き夜倉木が姿を現す。
 上から下まできっちりと身支度をすませ、出かける仕度を済ませている。
「また何やってたのかい?」
「まあ……少し」
 なにやら凝り性で秘密主義だが、表向きの仕事の他に何かをしているのは紅葉と同じだ。
 特に問題も起こしていないようだからと特に何も言いはしない。
 それに……。
「今日の予定は?」
「仕事の後は何もありませんが」
「ちょうど良かった、少し出かけるからここの管理頼んで良いかい?」
「どうぞ、気をつけて」
 向こうも何かあるとは気づいているだろうが、詮索もしてこないし話もしやすくて助かる。
「心配してくれるのはありがたいけど、急がないと朝飯無くなるよ」
「……そうですね」
 朝ご飯の量のこともあるが、早く食べて貰わないと片付けが出来ないのだ。
 と、そこでほんの少しだけ訂正。
 まだまだ寝起きらしいりょうが、這うように食堂に向かう時間の方がもっとずっと後になりそうだったのである。
「ほら、シャンとしな」
「……うう、眠い。目が、まぶしい。開かない」
 ふらふらと壁に手を突きつつ歩いているりょうを連行し、今度こそ食堂に戻るのだった。



 住人はそれなりに人数がいるが、全員がいっぺんに集まっているかと言われるとそうでもない。
 元々まとまりのない、もといそれそれの生活や仕事によって個人差があるのだ。
 起こす前に出かける者もいれば、先に朝食を取って出かけてしまう者もいる。
 かと思えば、こうしてゆっくりとしている場合もあったりと結構自由なのだ。
 人もまばらになった食堂で、のんびりと朝食を食べている最中。
「それにしてもおかしなもんだね」
「……?」
「何がですか?」
 不思議そうな顔をする二人に、紅葉がさらりと続ける。
「そうは思わないかい? 作家とその編集者がこんなに近くに住んでるなんて」
 言うまでもなく、りょうが作家で夜倉木がその担当だ。
「家賃が安かったからな」
「偶々ですよ、知ってたら違う所にした物を」
「そりゃこっちの台詞だ!」
 以前同じ様なことを聞いた時は、食事が出るからと立地条件がどうのだと聞いた覚えがある。
 つまり言ってる事が毎回違うのだが、当人らに言わせれば全て事実なのだろう。
「で、原稿は終わったのか」
「!?」
「朝までに半分は上げろと言ったはずだが?」
 当然予定通りに終わっている筈がない事は、紅葉にも解った。
「……え、えと。半分の半分ぐらい」
「ほう……」
 解りやすい程の喧嘩、もとい乱闘が始まる兆候に紅葉が口を出す。
 何しろ放っておくとどちらかが完全に倒れるまでやめない程なのだ。
「ほらほら、そこまでにしておきな。時間じゃないのかい?」
「そうですね、今日は混みそうだから早めに出ることにします。ごちそうさまでした」
「ん、ごちそうさんっと。俺もちょっとコンビニ」
 食器を重ね立ち上がりかけたりょうに釘を刺す夜倉木。
「午後には取りに来るから、それまでに形にしておけよ」
「うあ……」
 嫌そうな顔をしているりょうは無視して、食器を片付け始めた。
「何時も助かるよ」
「いえ、それじゃ鍵はいつもの所にお願いします」
「今回は数日だから。後は居ない間喧嘩しない様にしとくれ」
「………」
 念は押しておくに限る、最もどれほどの抑止力があるか解らないが。
「では、時間ですから」
 時計を見つつ急がしそうに会社に行く様子は、どう見ても話題を逸らしたとしか思えない。
「今度は家具が無事だと良いんだけどねぇ」
 食器を片付け、食後にゆっくりお茶でも飲みつつテレビ鑑賞中。
 管理人として忙しくなる前の貴重な一時なのだが……。
「ゆっくりしてていいのかい?」
「もうあいつ会社行ったし、大丈夫だって。気分転換も必要だしな」
 せんべいを囓りつつりょうがひらひらと手を振るが、その自信がどこから来るのかは全く解らなかった。
 このままでは戻ってきた頃に乱闘になるのは必至である。
「本当に仕方ないね」
「え? ちょっ、な!?」
 ひょいっと首根っこを掴み、玄関の方へと有無を言わさず引きずっていく。
「気分転換なら散歩にいっといで、その方が頭もすっきりするよ。そのまま行ったきりにはならないどくれよ」
「だ、大丈夫だって……」
 玄関の外で紅葉が手を離す。
 いまいち不安だが、家の中にこもっているよりはネタが浮かびやすいだろう。
 歩き出しかけたりょうが唐突に振り返る。
「そうだ、コンビニ行くけど洋菓子と和菓子どっちが良い?」
「そうだね、お茶請けが無くなりそうだから和菓子かな。ありがとね」
「じゃあ行ってくる。直ぐ戻ってくるから」
「気をつけて」
 手を振って出かけるのを見送ってから、紅葉も出かける前に色々と用事を済ませておこうと中へと戻る。
「さてと、忙しくなりそうだね」
 掃除に洗濯に仕事の準備。
 夜までに終わればいいのだが……。
 管理人としての仕事を済ませ、いつものように出かけた数日後。
 戻ってきた紅葉が頭が痛くなるような光景を目の当たりにするのは……。
 何時も通り、お約束の事である。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4824/鬼無里・紅葉/女性/999歳/アパートの管理人】

→りょうと夜倉木がアパートの住人だったら

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。

発注ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。

通称だと見た目だけは似たような年齢の筈ですが……。
紅葉さんが母さんのようだったからでしょうか?
何故か二人が大学のようなノリになった原因はきわめて謎です。