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<五行霊獣競覇大占儀運動会・運動会ノベル>


戦闘要請「酒持ってこーい!」

●緊急出動!

 戦闘要請……それは一本のEmergency callにも似ていた。

『酒持ってこーい!』
「は?」
 電話口で言われた人間は目を瞬いた。
 ちょっと何の事だかわからない。
 しかし、町会長からのご命令では逆らえまい。
「了解!(ラジャー) 商店街筆頭、坂野酒店店主・酒店同盟隊長、坂野トウジは現場に向かいます」
『作戦の成功を祈る』
「イエッサー! ……では、いってきまーーーーす!」
 若き店主はお手製の白い防衛軍スーツを身にまとい、お気に入りのダンスチューンを流す。パンダカラーのAE86トレノに乗り込んで店を去った。
 その日、酒屋のおっさんたちは、車に乗り――そして、現場に近いものはチャリンコに乗って町内会へと駆けつけていった。

 そして……

 運動場に立ち並ぶ瓶、瓶、瓶。
 草間武彦はそれを見た。
「なんだこりゃ……」
 驚くのも無理は無い。瓶のラベルにはあきらかに酒と思われるものもあれば、ソフトドリンクっぽいものもあった。
 そして、おつまみが無い。
「かすみ先生……これは一体」
『えーっとですね、飲み会ってここのプログラムにありますけど』
 マイクを持って言う、響カスミ。 
「何ーッ!」
『はい、飲み会ですよ』
「マジか? これを飲めと」
『らしいです〜』
「つまみも無しで飲めるかよ!」
 武彦は遠くにいるカスミに向かって叫ぶように言った。
『もー! 私に言ってもわかりません〜』
「じゃぁ、僕が〜」
 そう言って手を上げたのはいじめられ担当……じゃなかった、パシリ担当でもない、雑用担当の三下忠雄だ。多分、どれをとっても同じことであるのにはかわらないのだが。
 まあ、その三下がおつまみを買いに行くと手を上げる。
「ちょーっと待った!」
 すかさず制止する大会実行委員長の碧摩蓮(へきま・れん)。
 彼女曰く、「プログラムの一部なんだから、飲み会で戦え!」とのことである。
 どうやって戦うのか、何を基準に判定すればいいのかと、審判係の武彦は文句を言った。そして、蓮が悩むこと数分。答えは出た。
「そうだねぇ……おつまみを買いに行く人間はおつまみを探し、おつまみを作る人間は誰が一番上手かで判定しようかね?」
「随分と簡単だな」
 呆れたように言う武彦の言葉に、蓮はニヤッと笑う。
「甘いねぇ、おまえさん。だから、金が貯まらないのさ。今度、金運の護符でもやろうかい?」
「む……」
「ほーら、ごらん?」
 そう言って蓮が扇を振った。ちなみに、本日の日替わり扇は孔雀の羽だ。
 蓮が振った扇の先に、広大な迷路が現れる。驚く武彦はじっと蓮を見た。
「何だこりゃ?」
「有史前の皇帝が、敵を迷わすために作った迷路さ。この扇はそれを出現させるアイテムってところかね。古狐仙の骨を使ってあるみたいだがね、かなり強力だよ」
 うんちくはともかく。武彦には競技の続行と判定材料がわかっただけで充分だった。
「ルールをもう一度説明するよ。スタートもここ。ゴールもここ。料理の出来ないものはおつまみを探しにいくんだからね、迷路の中に。ちなみにマズイって言われたら減点対象さ。料理の得意なものは、これも迷路の中に探しにいくこと。戻ってきたら料理開始。そして、対する料理人は……」
 蓮がちょいと扇を振ると、かわうそ?がちょこんと現れる。
|Д゚)ノ よおっ!
「げぇっ! かわうそ?かよ!!」
|Д゚#) 武彦、なんか文句ある
「い、いや……かわうそ?は料理が上手いからな」
|Д゚#) 納得すればよし
「手料理か……まかせとけ」
 鬼鮫こと霧嶋・徳治(きりしま・とくじ)がこっそりと現れ、余裕の笑みを浮かべる。
「な、何故……」
 武彦は呟いた。
「はいはい、話の途中で悪いがね……ルールの続きをいくよ。つまみを食べさせ、より多くの【宴の盛り上がり】と【飲酒量もしくはソフトドリンクの消費量】で判定するのさ。酒池肉林なんて言うだろう? あれの酒&ソフトドリンクバージョンさ」
 無論、未成年にはソフトドリンクを勧めたいところである。草間零たち各組の代表選手はお給仕と称してメイド服が支給されていた。
「では、はじめるかねェ」
 蓮は時計を見て言った。

●バトル直前
「おつまみをもってきたらいいんでぇすね?」
 黒いローブに金の懐中時計がトレードマークの露樹八重(つゆき・やえ)はとても小さな頭を傾げた。
 体長10cm背中に黒翼を二対所有した少女は草間武彦にとって、可愛らしい小悪魔さんであり、天下無敵の強奪者なのだ。
 ちょっと離れたところで武彦は溜息をついている。
「俺の……俺の食い物が……」
 武彦の食物は必ずといって八重のお腹に納まる運命となっている。今までに一体何回の食べ物バトルに不敗してきたことか。
 今日はシュライン・エマと一緒に参加して美味しいご飯が食べられると思っていたのに、今回もそれは叶わないようだった。
「わぁ、鬼鮫さんの料理飾り切りとか上手そう♪ そう思わない武彦さん」
 彼の様子に気が付かず、シュラインはわくわくとしながら言った。
 手には支給されたメイド服がある。
 チョコレートブラック色の別珍ワンピースは袖が膨らんだ可愛らしいデザインで、生成り色のエプロンはおとなしめなイメージだった。大層気に入ったらしく、体にあててみていた。
 そんな様子を少し楽しげに、そして苦笑しながら武彦は言った。
「そうだなぁ。豪華なおつまみができそうだ。俺の口に入るんだったら……まぁ、何でもいいか」
「へ? なんで?」
「だってなぁ、八重……」
 そう言って、ふわふわと飛行している八重を指差す。
「あぁ〜〜〜〜〜、なるほどね。大丈夫よ、参加者多いんだから。食べれるわよ。そんなこと言っちゃ、八重ちゃんに悪いわ……それより事前確認を〜」
 シュラインが辺りを見回し、人ごみの中に碧磨蓮を見いだそうとしていた時、隣で何某かを呟く声が聞こえる。
 振り返れば、メイド服の代わりに割烹着と神父服を着ている青年を見かけた。
 地上に降りた際、偶発事故で天界との通路が閉じてしまった為に天界に帰れなくなった天使である。しかし、ここに居る人間のほとんどは知らず、彼のいる教会に行ったことがある者だけが知っているようだ。
 彼は仕方なく、ある教会に居候になっているのだが、そのうちにすっかり地上の生活に溶け込み馴染んでしまった。
「料理の消費量はカウントに入らないのかな?」と疑問に思いつつ、天使――イスターシヴァ・アルティスはシュラインの横を通り過ぎながら呟いている。
 彼は密やかに、かわうそ?が料理上手と聞いて対抗意識を燃やしていた。
 教会のお手伝いをしているイスターシヴァにとって、料理は得意分野だ。
 ナマモノなんかにゃ〜負けてはいられない。そうこうしている間に開始時間が近づいていった。
 ルールの説明が終わった蓮はマイクを片手に辺りを見回す。
「じゃぁ、準備が整ったようならはじめようじゃないか」
「その前に質問なんだけどー」
「何だい?」
 声をかけられ、蓮はイスターシヴァの方に顔を向けた。
「調味料はキッチンの付属品? それとも採ってくるの? 特にマヨネーズなんだけど」
 原料を取ってきて作るのか、調味料はキッチン備え付けなのかでかなり所要時間変わると言うのが彼の主張であった。
「あぁ〜、調味料? どうしようかねぇ〜」
 そこまでは考えていなかった、蓮。
 暫し悩んで、「採ってくるように」と言おうとしたところで鷲見条都由(すみじょう・つゆ)が調味料を出してきたのが見えた。そして、酒盛りを始めるおじさん達の前に簡易購買部を設置し始める。
 と言っても、ビールケースをひっくり返して赤い毛氈をひいただけの本当に簡単なつくりだ。
 そこにメモスタンドを出して、値段を書いた名刺サイズのカードを差し込んでは商品の前に置いていく。
 その手際の良さに蓮は感心して見ていた。
「あんた、手際が良いねぇ」
「そりゃぁ〜、あたしは毎日こういった仕事してますから〜」
 のんびりとした雰囲気の話し方は、童歌やらを歌う国営放送の子供向け番組のお姉さんなどが似合いそうな感じがしないでもない。だか、手だけはテキパキと動いていた。
 次々に並べられる、塩・砂糖・酒・みりんなどの日本料理に必要な調味料。
 そして、胡椒・七味・ソース・マヨネーズ・ドレッシング各種も。取り皿、箸、紙コップなどの宴会に必要な物の販売は基本中の基本だ。
 並べられる調味料を見ていた蓮は、なんだかルールを追加する気になれなくて、都由のやることを見ていた。
 参加者が調味料を買いに集まってくる。
 イスターシヴァもそこに並び、シュラインも並んだ。イスターシヴァは中華系、シュラインは得意のお母さん的日本料理の調味料を買っていった。
 文句を言う必要も無いし、どちらかといえば有難いぐらいだ。蓮は何も言わずに見守った。
 そして、真性の酒好き青年――加藤忍は自分が入り込むのに丁度良さそうな卓を捜していた。 忍曰く、「酒好きとして、他の方が飲んでいるのにおつまみ作りとは、お預け食らった犬も同然。私も飲むほうに混ぜてもらいましょうかね」とのこと。
 どうやら飲み専らしい。
 そして、ここにもおつまみを必要としない人物が居た。都由だ。商売もしっかりとこなしつつ、傍らには一升瓶。
「あら〜、ママさんエプロンが〜お似合いで〜。これは〜写真に〜撮っておくべきでしょう〜。そうしましょう〜♪」
 都由は嬉々としてママさんエプロン姿の鬼鮫を撮影しはじめた。
「なんだぁ、おめえ。ママエプロンはな、料理の基本なんだよ」
 いかつい顔に草臥れたトレンチコート。極彩色ツートンカラーのコントラストが眩しいシャツとネクタイを締めた鬼鮫は、ミントグリーンのエプロンはつけながら都由を睨む。
 しかし、元スケバンの都由がそんな視線に動揺するわけも無い。ヤクザや鉄砲怖くてマッポとタメは張れないのだ。
 この場合、都由はボーっとしているだけとも言えるのだが。
 その隣をこっそりと通り抜ける青年の呟きも聞こえた。
「これだけいっぱいあると、無い酒はないでしょうね」
 なんぞと言いながら、競技開始前から酒の山の中に入り込み、普段は飲まなそうな度が高い洋酒の瓶を大量に抱え込む……田中祐介がここに一人。
 開始の合図を待ちつつ、ほとんどの女性がメイド服に着替えているのを、それはそれはとても楽しそうに見ていた。
 ビヴァ、メイド天国。老いも若きもレッツ、メイド☆
「蓮さんに頼み込んでよかったなぁ〜」
 ホクホク顔の祐介は蕩けそうなほっぺたほ押さえつつ、スカートの翻して歩くお姉さんたちの姿を瞳に焼付けていた。
 とりあえずお金はかけたくないと言っていた蓮にユニフォームをと売り込んだのは正解だった。酒代に金がかかるなら、ジャージなどの運動会用品に払う余裕なんて無い。
 酒を飲むならジャージ姿のおっさんのお酌より、メイド服という可愛いラッピングで包んだ娘さん方のほうが良いに決まっている。
「あぁ、何人いるんだろう〜♪」
 祐介は幸せそうじゃった。
 そうこうしていると、遅めに会場にやってきた内藤裕子と隠岐明日菜はのんびりとスタート地点に来るのが見えた。
「宴会ですか、楽しそうですね」
 裕子はニコニコと笑う。
 明日菜についてきてきた裕子は運動会に参加するつもりだった。競技内容を近くの人に聞いた後は楽しそうにしている。
 どうも、料理は好きなようだ。
「私がおつまみつくってきますね、明日菜さん」
「お願いね〜、私はここで飲んでるから」
「はい、わかりました」
「さーて、飲も飲も〜……げぇ! 祐介じゃないの!」
 遠くにいた祐介を発見して明日菜は叫んだ。
「どうしてですかぁ?」
 裕子は明日菜の様子に目を瞬く。
「裕介とサシで飲むのだけは勘弁ね。あいつと飲むとこっちが気分悪くなるし……」
「そうだったんですか」
 そんな明日菜を見つけた祐介は、酒瓶抱えて明日菜を呼ぶ。
「おーい! こっちで飲もう」
「えーっ、あんたとなんか嫌よ。幾ら洋酒平気だからって、エーテル飲むなんて反則よ」
 明日菜は「おぉ、嫌だ嫌だ」などと半分冗談を言いながら肩を竦めた。
 断られてはしかたない。祐介は誰かと飲めないかと辺りを捜す。
 そして、人ごみの中に七継姉妹を発見する。
「おお〜〜〜〜〜〜」
 上から巨乳メガネっこの摩耶姉さんに、妖艶な黒髪美女の馨姉さん。そして、スポーツ万能貧乳系元気高校生、梨音。ちまっ子小学生の末妹、白姫ちゃん。
「全員……メイド服」
 そして、メイド服は全部ロングワンピースだった。
 スカートの裾からチラリと見えるくるぶしが堪りませんと、祐介の視線はがっちりロックオン☆
 そんな様子を明日菜は呆れて見ていた。

●はじめます、競技
「それじゃ始めるよ。質問はもう無いね」
 蓮が開始しようとした時、メイド服姿の月見里千里(やまなし・ちさと)が走ってきた。
「ま、待ってよ〜!」
「遅いよ、あんた」
「自分のメイド服取りにいってたのよ」
 小走りに近づいてくると、スタートラインに立つ。さて始めようかと皆が構える。不意に何処からともなく声が聞こえた。
「ま、まだ着替えてないのでぇ〜す!」
 ビールケースの山に隠れてもじもじと着替える、八重。
 それを発見した武彦は呆れていった。
「早くしろよ、八重」
「むむぎゅ〜ぅ」
「しかたないなぁ」
 武彦は見えないようにと、そこらへんにある帽子を八重に被せる。もちろん、帽子は人間サイズ。
 小さな体の八重は帽子の作り出す真っ黒な闇に飲まれ、帽子の中で叫んだ。
「ふわぁ! 見えないのでぇす! なにするでぇ〜すか」
「これなら周りを気にせずに着替えられるだろ?」
「むぅ〜。それもそうでぇすね」
 八重は帽子の中で着替え始める。
 すっかり着替え終わると、八重は帽子から這い出してきた。
「準備おっけーなのでぇす」
「それじゃ始めるよ」
 蓮の声を聞いた響カスミはマイクを持ってアナウンスを始めた。
『さて、競技が始まります。みなさん、スタートラインに立ってくださいね。では〜〜〜〜、始めっ!』
 パーン!と言う音が聞こえると、皆はスタートラインからダッシュして迷路の前に立ちはだかる門に殺到した。
「うっぎゃーっ!」
「助けてくれー!」
「門が、門がぁあああっ!」
 いきなり『門』に攻撃された人間達はあっという間にぶっ飛ばされていった。
 ぱぴゅーんと飛んでいく人間を眺め、かわうそ?は茶を飲む。
|Д゚)旦~~~ 普通の門と思うのは早計なり。
 よっこらしょと立ち上がると、かわうそ?は門をするりと抜けて中に入っていった。
「かわうそ? ……鬼」
 呆れて眺める武彦をよそに、かわうそ?は迷宮に消えた。
 その後をすかさずシュラインがママチャリで突っ込んでいく。
「さて、いってきまーす!」
 割烹着を着て自転車に乗るシュラインはお買い物に行くママのようだった。
 負けじと追いかけるイスターシヴァ。千里も走って門を潜っていた。裕子は箒に乗って迷路に入る。
 忍、都由、祐介、明日菜は残留組だ。
『それでは私もいってきます〜』
 カスミは中継用バイクに乗せてもらうと迷路へと入っていった。そしてバイクから実況生中継だ。
『あ、イスターシヴァ選手を発見しました! 欲しかったマヨネーズは購買部で購入。恐れるに足らずといったところでしょうか。豚肉、ネギ、キムチ……かぼちゃ? 一体何に使うんでしょうね、かぼちゃ』
 メニューがわからないカスミは首を傾げる。
 迷路の何処にあるのかわかっているのかと思うぐらいに、イスターシヴァは猛スピードで材料をゲットした。
 その横をたまたま通り過ぎたシュラインは、イスターシヴァの手にある材料を見てあっと声を上げる。
「は、早い! ううう……負けていられないわ!」
 拳握ったシュラインは勘を頼りに迷路の奥へと走っていく。そして、遠くでシュラインの喜びの声が聞こえてきた。
「やった〜〜〜〜〜〜、わかさぎゲットぉ〜〜〜〜〜♪ さぁ、バンバン次も捜すわよぉ!」
 どうも楽しくなってきてしまったらしい。
 シュラインは元気に自転車を漕いでいった。
「きゃぁ〜〜〜、お大根発見♪ お味噌汁にしようかしら、それともふろふき大根にしようかしら。あぁ、烏賊もあったらなぁ〜」
 食材前に夢見がちなシュライン。
 幸せそうにしている人に神様は親切なのか、迷路の曲がり角から意外な人物(?)が現れた。
「きゃっ! 何これ!」
 足元を水が走る。
 ちょっと足を上げて避けると、曲がり角からヴィーナスよろしく貝に乗った美形のお兄さんが波に乗ってやってきた。腰辺りは隠してあるが、無論マッパである。
「ら、裸族!」
「君が落としたのはこの金色の烏賊かな? それとも銀のさんま?」
 貝男はとても爽やかな笑顔で言った。
「銀のさんまって……そのまんまじゃない」
「おぉう、そう言うツッコミは大歓迎さ、お姉さん。ところで、どっち?」
「烏賊は落としてないけど、強いて言うなら『普通』の烏賊よ」
「うーん、イイね。そういう返し方は。よーしよーし、ボクが烏賊をあげましょう!」
「いただけるならいただくわ」
「では……」
「きゃ〜〜〜〜〜っ! 武彦さーん、助けてぇ!」
「シュライン!」
 ロミオとジュリエットよろしく、引き裂かれる二人。助けに行きたくても、実行委員会のメンバーである武彦は競技場に乗り込んでいくことはできない。
 いきなり貝男に貝に乗せられ、何処からともなく現れた海の中にシュラインは連れ去られた。
 「料理をするなら新鮮な魚類を」と、思った貝男の親切心からの行動なのだが、シュラインは吃驚するばかりだ。
 そして、貝は水の中に消える。
『あーッ! シュライン選手、いきなり貝男に攫われました! さすが、中国四千年の歴史ある迷路です……え? 貝……かいおとこ? キャーッ! おばけーッ! ……うーん』
 ふと目の前の状況に気が付いたカスミはぱたりと倒れる。
 それを中継センターで見ていた蓮は溜息を吐いた。
 目の前には連れ去られるシュラインと倒れたカスミが見える。
「まったく……あのコの癖をどうにかして欲しいね」
「おいおい……それは癖じゃなくって、苦手なものだろう?」
 隣にいた鬼鮫が肩を竦める。
「そんなこたぁ〜どうだっていいのさ。それより、あんたこれから食材を取りに行くんだろう? ついでに回収してきておくれよ」
「しかたねぇ……」
 鬼鮫は嫌々ながら迷路に入っていった。

 千里は迷宮に飛び込み、最後の食材である生中華麺を手に入れたところだった。
 もやし・キャベツ・豚バラ肉・小麦粉・イカ天・卵などはすでに入手済みだ。
 辺りを見回すと、材料を集め終わった人々が出口へと向かっている。千里は慌てて出口に向かった。
 外に出ると、入り口付近に預言書でマーカーを配置して早々に即材を手に入れた裕子が青椒肉絲を作っている。
 肉料理の美味しそうな匂いに千里は生唾を飲み込んだ。
「うわぁ〜負けちゃうわ、早く行こう……げーっ! 実行委員会って、調理室を用意してないのー!?」
 しばし呆然としていた千里は気を取り直し、手近な場所に空中の分子を変質固定する。そして、キッチンを創り上げた。
 綺麗なキッチンに飛び込むと千里は調理を始める。
 しかし、千里は近づいてくる新たなる脅威には気がついていなかった。その脅威が千里の背後に立った時、初めて気がついたのだった。
「美味そう……」
「わぁああああっ! な、何よっ! 綾じゃない……驚かさないでよ」
 振り返ったそこには、ギャルソンエプロンを着け、黒いハンカチを鉢巻代わりに腕に巻いた獅子堂綾(ししくら・あや)がいる。
「酷いな、そんなに驚くこと無いだろう?」
「後ろに立つからでしょ。なによ、黒組なの? 敵さんはあっち行ってちょうだい」
 あっちいけしっしと手を振ってから、千里は小麦粉を鰹出汁と水で溶き、マヨネーズを加えて生地を作った。
 料理に熱中するフリをして無視すれば、綾が悲しそうな瞳で見つめる。そんなことは気にせず、千里は中華麺をいためてソースで味付けしていた。そして、一気に広島風お好み焼きを焼きあげるのだが、そうは問屋が卸さない。
「できたっ♪」
「……」
「さーて、次いこ、次」
 そそくさと次のお好み焼きを焼き始める千里は、綾がちゃっかりと箸を持ち、端っこからちょびちょびと食べ始めていることに気がつかないでいた。
「生地は残ってるし、何枚焼けるかな〜」
「……」
 無言でひたすら食べる、綾。
 どうやら気に入ったらしい。
 好きな女の子が可愛い服を着て、美味しいお好み焼きを焼いている。こんな素敵なシチュエーションに、少し綾は頬を緩めていた。
 だがしかし、そんな幸せなひと時もつまみぐいが見つかるまでのことだった。
「あー!! 馬鹿、綾!! なにやってるのよ」
「試食……」
「それは完食っていうのよ! 全部食べちゃって、どうしてくれるのよ!」
「美味かった」
「美味かった……じゃなーい! そんな幸せそうな顔するなー! 怒れなくなるじゃない!」
「じゃぁ、怒るな」
「怒るわ〜〜〜〜〜!!」
「千里」
「なによ!」
「焦げてる……」
「へ? きゃぁあああ〜〜〜〜〜〜っ! こーげーてーる〜〜〜〜〜!」
 モクモクと黒煙がフライパンの中から上がる。危険なほどに焦げているだろうことは想像に難くない。
 慌てて千里は火を消すと、火事寸前になっている黒い物体――お好み焼きを見つめた。
「くっ……あたしのお好み焼きがぁ〜。いいわよいいわよ、もう一枚焼いてやる」
「千里」
「何よ!!」
「タイムアップだ」
 遠くで響く鐘がレクイエムのように聞こえる。それは黒焼きと化したお好み焼きを食べる人間のための葬式の鐘の音であろうか。
 とても不吉だ。
「いやーーーーーーッ! 綾の馬鹿ぁ!!」
 千里の叫びは何処までも続いた。

●くだものなのですよ
 丁度その頃、八重は迷路の中で悩んでいた。迷っていたのではない。悩んでいるのである。
「ううみ…お酒の肴ってどう言う物が喜ばれるのでしょー……」
 首ひねりつつ、八重は迷路を見上げた。
 何処までも続く迷路は果てしなく、何処に何があるのかまったく見当がつかない。
「……わかりませんです……」
 八重はがくりと膝を折る。
 チョコレート色のメイド服の裾がふわふわっと揺れる。生成り色のエプロンはフリルがいっぱいだった。
 落ち込む姿も思わず手のひらに乗せてみたくなる可愛らしさだ。
 そして何ごとかを思いついた八重は手をぽんっと打った。
「あ♪ 自分が美味しいと思うものをもってってあげれば良いのでぇす♪ 一緒に楽しく食べればどんなものでも美味しいのでぇす」
 急に元気になった八重は甘いものを探しはじめた。
 しかーし、食材を捜しに来ているわけで、甘いもの自体がそこに落ちているかどうかはわからない。
「見つけられたら運ぶのでぇすけど……あっ! 苺なのでぇす♪」
 遠くに苺のパックを発見すると、八重はふわっと飛んでいく。しかし、苺をたくさん持つことができるわけでもなく、できれば苺大福を置いておいて欲しいと思う八重だった。
「これでなんとか甘いものを作るのでぇす……はて、どうやって作ったらいいのでしょ〜……むむう」
 なんのかんのと言っても競技は終わらない。八重は苺をエプロンに包み、端を持って袋状にすると、へろへろ飛んで持ち帰りはじめた。
 しかし、それはとても効率が悪い。
 あっと言う間に疲れて道端にへたりこんでしまう。
「疲れたら甘いものを食べると良いって聞いた事があるのでぇす……でも……でも。今運んでる甘いものは食べちゃ、駄目駄目なんでぇすよね?」
 八重はじーっと見つめる。
「おいしそうでぇす…」
 八重は手で抱えるほどに大きい苺を見つめた。
 お店に行けば、一個一個トレーに並べられているような立派な苺である。芳醇な香りは仄かな甘さと酸味がミックスされて、とても優しい香りだ。
 きっと砂糖抜きの練乳を付けて食べても、ジュースにしても美味しいだろう。できればヨーグルトに添えてみたい気もするし、チーズスフレに埋め込んでオーブンで焼いたものを食べてみたい気がする。
 ぽわわんっ☆と夢見がちな表情で、八重はどうやったら美味しくなるのかを考えてしまう。
「…は! だめだめでぇすよ! 食べちゃったら、また取りに行かなきゃなのでぇす!」
 ブンブンと頭を振って小さな欲望を振り切ろうと、八重は懸命になって飛び始めた。
「しょ、食材はどこだぁ〜〜〜〜!」
「わるいごはいねがぁー」
「きりたんぽで終わりなんだ、神様ーッ!」
 遠くからそんな声が聞こえる。
 迷路の作り出す幻想に惑わされ、皆は戦い、破壊活動に専念していた。その横を自分自身の食欲と葛藤しつつ、ふらふらと八重はすり抜けていく。
「ふみみ〜、やっぱり味見は必要でぇすよ♪」
 そして、あっさりと欲望に負ける八重だった。
「いっただきますなのでぇす♪」
 かぷっと噛り付くと、じんわりと零れていくジューシーな果汁。のどをキュンっと潤す甘酸っぱい果汁の中に、バラ科果実特有の上品な香りが混ざって天にも昇るような気持ちだ。
「のどが渇いてる時はジューシーなものがいちばんなのでぇす」
 うっとりと苺を見つめる八重が止められるはずもなく、次々と歩きながら食べ始めてしまった。
 あっちこっちにポイっ、そっちにポイっと苺のへたを放れば、緑色の点々が道端にできあがる。最後の1個になって八重は自分のしていたことに気がついた。
「はッ! 苺がないのでぇす! ……あぁ、やってしまったのでぇす……」
 またまた、がっくりと地面に膝をついた八重はしかたなく来た道を引き返した。
 苺をむんずと掴み、エプロンで包んで歩き始めると、遠くから忍び笑いするような声が聞こえてきた。
 何ごとかと振り返ると、真っ黒い影が八重の後ろに立っていた――ように見えた。
「な、なんでぇすか?」
 見上げれば、たぶん武彦より大きいと思えるような人物が立っていた。あまりにも大きな人だったので、八重には自分よりどれだけ大きな人なのかがわからなかった。
 なが〜い黒髪に黒いスクリーングラス。モスグリーンのコートにごつごつの黒い岩みたいに硬い感じのする皮のブーツを履いた男の人だ。
 表情は愛想が無さそうだが、類を見ないほどに綺麗だった。その人物が口元を押さえ、笑い出すのを堪えてこっちを見ている。
「なんでぇすか、れでぃーに失礼なのでぇす」
「あぁ、すまん。つい……」
 どうやらつまみ食いを見てしまったらしく、うっとりしたり小さな体で懸命に運んだりしているのが微笑ましかったようだ。
「もうすぐ時間なんだが、間に合うのか?」
「……がーん! もう、時間なのでぇすか?」
「あぁ、そうだ」
 八重のエプロンからぽろりと落ちる苺を拾い、相手に渡してやる。暫し考えると、その人物は八重に言った。
「もしよかったら送り届けてやろうか?」
「いいのでぇすか? 失格になったらいやなのでぇす」
「これなら問題はないだろう?」
 そう言うや、その人物はあっという間に一匹の黒猫に変身する。
「わぁ〜〜〜♪ くろねこさんなのでぇす!」
 そして、その黒猫は首を傾げて「乗れ」と言った風に合図した。
 八重は礼を言うと、黒猫にまたがり、エプロンをぎゅうーっと握り締める。八重が乗ったのを確認すると、黒猫は迷路の中を真っ直ぐ走り始めた。

●会場では
「綾のばかーっ!」
「だから……怒るなよ」
「さあ、坂野さんの、チョット良いとこ見てみたい、最初に一つ、おまけに一つ、それいっきいっき、ご馳走様が聞こえない♪ さあ、もう一杯!」
 千里が綾に怒っている隣で、忍が一気飲みの音頭をとっていた。
 もう競技そっちのけで飲む気満々だった祐介は、ロシア産ウォッカを始めブランデー、スコッチ、コニャック、ウイスキーと飲みまくっていた。
 すべて割らずにストレートで飲んでいるのだが一向に酔う気配は無い。七継四姉妹を発見した祐介は、ちゃっかりと摩耶姉のお酌で飲んでいた。
 つまり、摩耶と祐介で一気飲みしていたのである。
 摩耶の方はもうフラフラで、倒れる寸前だった。祐介は倒れる前にと摩耶を介抱するために連れて行く。
 妹の梨音の方はすでに倒れ、さっき祐介が救護センターに連れて行ったのだった。
 裕子は青椒肉絲を他の組にもふるまっていたが、後で明日菜に貰った酒で寝てしまった。
 祐介の姉である明日菜は、酒瓶の山からドイツビールを大量に持ち出していた。それを片手間に飲みつつ、都由と同じようにビールケースで会場にカクテルバースペースを作った。
 かつて、仕事の気分転換と趣味で勉強したカクテルレパートリーと、パフォーマンスしながら注文のカクテルを作り、皆に拍手を貰っていた。
 時折、暇をみては運営委員の所まで行って注文を受け付け、主にカスミや蓮からの注文をこなしていく。
「うおおおおおりゃ! 必殺、てきや伝統ピック捌き〜〜〜〜!」
 鬼鮫は両手の指の股にいくつもの目打ちを挟み、それを器用に操ってたこ焼きをひっくり返す。
「あたたた! ひょぉおおおう! そりゃそりゃ、この速さに勝てるか、わっぱ!」
 鬼鮫はイスターシヴァに向かって叫ぶ。
 トロールの遺伝子のパワーがこんなところで発揮されるとは、ひじょーに情けない限りである。
「ま、マヨネーズ〜……よし、いきますよ〜〜〜〜〜そーれっ!」
 中華料理職人のように鉄鍋で豪快にキムチを炒め始めたイスターシヴァは、香ばしくマヨネーズ独特の酸っぱさを鼻腔に感じながら、鬼鮫のことは気にせずに楽しげに調理していた。
 すでに、ねぎの豚肉巻きや南瓜のポン酢煮はできている。あとは豚キムチ炒めを残すのみだ。豚キムチは油の替わりにマヨネーズ使い、独特の味を創り上げていた。
 豚肉巻きは楊枝の代わりに短く折ったパスタ。各料理に細かい工夫がしてあり、かな〜り本格的に料理していた。
 料理が目的と化し、競技が頭からすっぱ抜けているようだった。
 対する料理人はかわうそ?。
 かわうそ?の作っている料理は、若鶏のピーナッツオイル揚げとユッケジャンにナシゴレン&長崎ちゃんぽんと、なかなかにマニアなメニュー。
 「動物に負けるのはプライドが許さん!」と燃えているイスターシヴァも、このメニューにはちょっとピンチを感じざる得ない。
「くぅ〜〜〜〜、美味しそうだよー!」
 イスターシヴァは叫んだ。
|Д゚) 当然なり。酒飲みのメニューなら得意
「僕、おかずしか作ってなーい!」
|Д゚) おにぎり、茶漬け、ラーメンは酒の基本
「がぁーん、そうだった!」
 そう、酒を飲んだ後は、何故かご飯が欲しくなるものである。できれば飲んだ後にラーメンを食いに行ければ最高。
|Д゚) ちゃんぽんは直送便 かまぼこは市場から配達
「わーん、鬼だ〜〜」
 騒ぐイスターシヴァの隣で、シュラインが鬼気迫るようなおたま捌きで調味料をお鍋に入れていた。背後にいる貝男の存在が気になってしょうがない所為なのだが、今振り返ってあの姿を見るよりはマシだ。
 なんだか、貝に乗った人たちは妙に調理されたがる癖があるようで、嬉しそうに調理されるのを待っているのだった。
「お姉さん、まだかなぁ?」
「い、い、今は忙しいのっ。あとでね〜、良い子だから」
 「あれはそう。きっと幻なのよ〜」と現実逃避しつつ、シュラインは目の前の楽しいお料理に熱中しようとしていた。
 今は嗅覚からも食欲そそりお酒が欲しくなるものをと、昆布の佃煮を作っている。
 煮立てたみりんに砂糖を入れ、もどした昆布と干し椎茸を入れれば、醤油と酒を入れてゆっくり煮込んでいく。
 貝男から貰ったイカは大根と一緒に煮物にした。いかと大根が染み込んでいくように、これもゆっくりと煮込む。醤油、砂糖、酒、みりんの基本的なものだが、シンプルだけに難しい。
「ワカサギの甘露煮はこれでいいかしら〜」
 番茶でワカサギを煮て、酒と砂糖・みりん・醤油&たまり醤油でこってりと味をつける。そして、水アメに塩で照りを綺麗に。かつ、塩で甘味を締めて完成だ。
「お醤油やお味噌の焼きおにぎり〜〜……お好みでお茶かけて、香ばしいお茶漬けにも可能よね」
 シュラインは実にシンプルなラインナップで攻めてきている。
 かわうそ?の脅威はシュラインか?
 重なる物も多いし自転車の籠には材料入り切るようにと、極力シンプルベースで極めているのだが、そこのところが酒飲み――居酒屋マニアには堪らない。
 そう、美味しい佃煮を居酒屋で見つけるの至難の業。
|Д゚) 侮りがたし
 ……とは、かわうそ?の談。
「あ〜、美味しそうですね〜〜」
 都由もさすがに気になっているようだ。
「あらまあ、ありがとう。イカ大根は一緒に煮ると双方柔らかく仕上がって味の染み込みも良いし、濃い目の番茶でお魚煮ると臭みが取れて、身も骨も柔らかくなってほくほくなのよね」
「白飯が欲しくなりますね〜〜」
「あ、そうね……追加で炊こうかしら」
 シュラインは真剣に悩み始める。
 辺りには佃煮の香りに吸い寄せられてきたご老人やらおじさんが集まってきている。遠くの方で鬼鮫も佃煮が気になっているようだ。
「あら、鬼鮫さん。もしよかったら、そっちの『ネギのせたこ焼き』と交換しましょうよ」
 美味しくなぁれと愛情込めて料理を作っていたシュラインは、佃煮の入った小さな土鍋を持っていく。
 にっこり微笑んで、「どうぞ」と言って取分けた。
「む……悪いな。しかたねぇ、そこにあるイカ焼きとサザエのつぼ焼きを持っていけ」
 ママエプロンで的屋なメニューを作る鬼鮫はいつもの仏頂面のままで言う。
「えっ、いいのかしら?」
「別に構わねぇ」
「じゃぁ、そこで使ってない獅子唐と生しいたけ貰っちゃって良いかしら?」
「何に使うんだ」
「そーねぇ……たまり醤油と生姜だけで煎り煮しようかと思うのよね」
「ふむ……良い趣味だな」
「そぉ〜? 箸よごしに良く作るのよね」
「じゃぁ、持ってけ」
「ありがとうございます。きゃ〜、やったわ〜♪」
 ルンルン気分で食材を持っていくと、シュラインは再び料理し始めた。
「味、皆さんに喜んで貰えると良いわね〜……あら、八重ちゃん」
「ただいまなのでぇす♪」
 黒猫に騎乗して帰ってきた八重は、ピョンっと飛び降りると抱えてきた苺を得意げな様子でシュラインの前にごろんと転がす。
 それを見て武彦は笑った。
「お前なぁ〜、甘いものは酒にはあんまり合わないぞ」
「え…甘いものってお酒にあわないのでぇすか?」
 がーんと言った風に盛大なショックを受けた八重は、半ば泣きそうな表情でペタンと座り込む。次の瞬間には涙が浮かんでいた。
「まあまあ、武彦さん。からかわないの。大丈夫よ、八重ちゃん。飲み屋さんでデザートに果物あるし」
「本当でぇすか?」
 ごしごしとメイド服の端で涙を拭く、八重。
「本当よ、適当な材料も無いから苺の砂糖がけくらいしかできなさそうだけど……」
「わーい♪ お料理できるのでぇす」
「ちょっと待っててね……」
 シュラインは材料を持ってくると、卵白を泡立て練りこんでいく。
 粉砂糖を摩り込むようにして、真っ白に練っていった。ぽってりとした砂糖の衣ができると、シュラインは八重の前にそれを置いた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうなのでぇーす。ていっ!」
 苺を掴むと八重は砂糖の中にえいやっと投げ込んだ。
 白い砂糖の衣の入ったボールに赤い苺が点を作る。もう一個と八重は投げ込んだ。ボールの端に掴まって苺を転がすと自分の手も真っ白になった。
「べたべたなのでぇすよ。……んむっ、美味しいのでぇす♪」
「八重ちゃんたら〜」
 ボールのまわりで悪戯しているように見えないくもない八重の姿にシュラインは笑っていた。
「では、黒猫さんにもあげるのでぇすよ」
 しかし、八重は黒猫を探したが何処にもいなかった。
「黒猫のおにいさんがどこかに行っちゃったでぇす……」
「まあまあ、また逢えるわよ」
「そうだといいでぇすね。じゃぁ、ここに置いておくのでぇす」
 しかたなく、砂糖のかかった苺をお皿に乗せると、八重は料理の並んだテーブルの上に置いた。
 宴会もたけなわ。
 お料理もお酒もてんこもり。
 白組と黒組の盛り上がりと飲酒量は半端ではなく、楽しげに騒ぐ人々が歌いだす始末で、料理の終わった参加者はその様子をゆっくりと眺める。
 煙草一本吸う武彦に喧嘩を吹っかける鬼鮫との一悶着の後、僅差で白組の勝ちが決まった。
 貢献者は都由とシュラインであろうことは間違いない。
 白々と明ける夜の色を見ながら、最後の一盛り上がりを皆は楽しんだ。

 そして数日後……
 時計屋『ノルニル』の前に、小さな籠が八重宛に置かれていた。
 全部砂糖で作られた苺の形の砂糖菓子がたくさん入った籠。
 それを誰が置いたのかは誰も知らない。
 黒猫が一匹、その道を通り過ぎただけだった。

 ■END■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 組 / 順位】

0086/シュライン・エマ/女 /26歳/ 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト/白組
0165/月見里・千里/女/16歳/女子高校生/黄組
1009/露樹・八重/ 女/910歳/時計屋主人兼マスコット/黒組
1098/田中・裕介/ 男 /18歳 /高校生兼何でも屋/黒組
2922/隠岐・明日菜/女/26歳/何でも屋/赤組
3107/鷲見条・都由/女/32歳/購買のおばちゃん/白組
3670/内藤・裕子/ 女/22歳/迷子の預言者 /青組
5154/イスターシヴァ・アルティス/男/20歳/教会のお手伝いさん/黄組
5745/加藤・忍 / 男/25歳/泥棒/黄組
                     (以上、9名)

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■          獲得点数           ■
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 終了につき、特典はなし。

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■         ライター通信          ■
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 こんばんは、朧月です。
 おまたせしました、運動会の終了後にお届けと相成りまして大変申し訳なく。
 書くのが楽しくて、ついのんびりと書き込んでしまいました。
 フルキャストは話がズレていくので、関係ありそうな人物にとどめました。
 読むのが辛くなっちゃいますしね。
 そんなこんなですが、一応1位は白組なのです。
 点数も入りませんが、結果がわからないと変かなと思いまして、ちょっと書いておこうかなと。
 やーも〜、本当に楽しかったです。
 すっごく嬉しかったです。
 書き込んだら私のほうが止まらなさそうな楽しいPCさんがいっぱいで嬉しかった……はふう。
 メイドなキャラさんたちの運動会……見てみたいですよ(^^)
 この度はありがとうございました。
 私ばかりが楽しむのではなく、お客さんが読んで楽しいと思っていただけるようなら、それに勝るものはございません。
 ちゃんと汲み取れたのだろうか? そんな疑問を抱えつつ、どこまで走れるか。
 歩みの遅い私ですが、それでも届けられたら幸いと思っています。
 シナリオUPが私たちにとってスタートの合図で、それが鳴ったらひたすら走るのですね。
 次の合図が鳴ったら、またいらしてください。
 それでは、また……

 朧月幻尉 拝