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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


心霊写真激写スポット


 ぱさっぱさっと、紙が落ちるような音がアトラス編集部内に静かに響いていた。編集長である碇・麗香(いかり・れいか)のデスクには、何十枚もの写真の山が出来ている。そしてそれを戦々恐々と見ているのは、今日も不幸そうな顔をした三下・忠雄(みのした・ただお)であった。
「はい、終り」
「あひゃあー!」
 碇の声に、三下が奇妙な叫び声を上げる。デスクの上にある写真の山は、二つの箱の片方のみに入れられていた。その一つには『採用』の文字が、もう一つには『没』の文字が書かれている。そして写真の山は『没』の方に出来ていた。『採用』の箱には一枚も入っていない。
「もっといい写真、撮って来れないの?」
「無理ですー! これが限界なんですー!」
「言い訳無用。……そうだ。そういえば心霊写真を撮るのに最適な場所があったわね」
 おうおうと泣く三下に構わず、碇はデスクの引き出しの中から一枚の地図を取り出した。その地図を三下に無理矢理持たせる。
「そこはね、良いも悪いも関係なく幽霊の多い場所なんですって。何でも、霊感のない人間でも何十枚と心霊写真が撮れるそうよ。そこならあなたでも迫力のある心霊写真が撮れるでしょ」
「嫌ですー! そんなところに行ったら死んじゃいますー!」
 地図を持ってガタガタと震える三下に、碇はにっこりと笑ってカメラを押し付けた。
「行ってらっしゃい」



「よっ、三下さん」
 アトラス編集部のあるビルから追い出された三下が、がっくりと肩を落としているところに声をかけたのは、愛用のMTBに乗った五代・真(ごだい・まこと)だった。
「五代さん……」
「どうしたい、浮かない顔して」
「実は……」
 いつにも増して不幸なオーラを漂わせてぽつりぽつりと話す三下に、五代の顔が哀れみの表情に変わる。
「毎回毎回、大変なところに行かされるなぁ、あんたも」
「うう……」
「まあ、そういうことならあんたの代わりに俺が撮ってやってもいいぜ」
 哀れな三下に同情したのか、五代はにこやかに笑って代行を申し出た。その言葉に三下が目を輝かせる。
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、まかせとけって!」
 神か仏かと言わんばかりに頭を下げて拝んで来る三下に、五代は自信満々に胸を叩いた。だが、その撮影場所を聞くと、しんなりと眉を寄せてしまう。
「遠いな……」
「ええ、ちょっと……」
「電車で行けないこともないが、三下さん、車持ってねぇのか?」
「持ってても、そんなところに車持って行きたくないですよぅ。何か連れて来ちゃいそうで……」
 そう言って情けない顔をする三下に、五代がうーんと唸る。すると、すーっと車が寄って来て、五代のすぐ後ろに止まった。
「おまえさんたち。んなとこで立ち話してると危ねぇぞ」
「あ、舘岩さん……」
 車の窓から顔を出したのは、舘岩・佑(たていわ・たすく)だった。舘岩は頭を下げる三下に軽く手を上げる。と、それを交互に見ていた五代がぱっと思いついたような顔になって、舘岩の方に身体を乗り出した。
「なあ、あんた、暇か?」
「あ? 暇っちゃあ、暇だが」
 別に店なんざどうでもいいしな、と呟く舘岩はおよそ繁盛しているパチンコ店の店長とは思えない。が、そんなことは露知らない五代は、ここぞとばかりに顔を突き出した。
「ちょっくら、この森まで俺らを乗せてってくんねぇかな」



 一時間後。三人は件の森にいた。
「何つーか、妙な森だな」
「舘岩さん、こういうところは初めてか?」
「ああ」
 五代の言葉に返して、舘岩が見上げた先には、鬱蒼と生い茂る木々があった。踏みしめる足の感触も何だかフワフワしていて、地面一面に苔がびっしりと張り付いている。周囲の湿度も異様に高く、日の光の入らない森は肌寒い。
「ほんじゃ、行くか」
「はははいー」
 逃げ腰の三下の腕を、五代がわっしと掴み、ずるずると引き摺って行く。そんな二人が森の奥に消えると、入り口には車と舘岩だけがぽつんと残った。
「さて、どうするかな。このまま店に戻んのも面倒だし」
 言いながら、舘岩は車に戻ると、座席を倒して寝る体制に入る。だが、睡魔はやって来ず、舘岩は暇そうに携帯電話に手を伸ばし、無意味にメールチェックしてみたりした。しかし、それで暇が潰せるわけもなく、舘岩はぼーっと携帯電話を眺め、くるりと引っ繰り返す、携帯電話のカメラのレンズが、舘岩の方に向いた。
「……まあ、たまにはいいか」
 呟いて、舘岩は車を降りる。そしてキョロキョロと辺りを見回しながら、森の奥へと入って行った。



 その頃。五代と三下は、半透明の人たちに囲まれながら、ずんずんと歩み進んでいた。
「いやあ、さすが碇さんの情報だな。良くも悪くもうようよいるぜ。何の霊でも撮れるんだったよな?」
「はひぃ。そ、そういう話です……」
「んじゃ、適当に浮遊霊でも撮りますか。三下さん、あんたも協力してくれよ? 元はあんたの仕事なんだから」
「はひぃー」
 近づいてくる幽霊にいちいちビクつきながら答える三下を後目に、五代は森の中でも一際暗い場所に辿り着いた。じめじめした感じが更に強くなる。
「暗い場所だなぁ。じゃ、場所にちなんで根暗そうなのでも探すか。……っと、お?」
 辺りをキョロキョロと見回した五代の目に、一人の青年の幽霊が映った。何やら単語帳のようなものをめくりながら、ぶつぶつと呟いている。
「おーい、そこの青年!」
 声をかけると青年の幽霊がゆっくりと振り向いた。フレームの分厚い眼鏡をかけ、長い前髪を上げもしていない青年は、見るからにガリ勉の根暗そうな雰囲気だ。
「ちょっと写真、撮らせてくんねーかな?」
 にこやかに頼むと、青年の幽霊は少し逡巡したあと、細い指で三下を指差した。それに三下が「ひぃっ!」と声を上げる中、ぼそぼそと呟く青年の幽霊の言葉に五代が耳を傾ける。
「なるほど、そういうことか。三下さーん、この人とツーショットで写真撮ろうぜ」
「な、何でですかー!?」
「こいつ、浪人生で受験に失敗して自殺したらしいんだけど、似たような不幸の境遇にいるあんたに親近感を覚えたんだとさ」
「おおお覚えなくていいですぅー!」
 思いっ切り首を振って否定する三下を、「まあまあ」と言って宥めつつ、かつ強引に青年の幽霊の横に押し出すと、五代は三下から借りたカメラを構えた。
「ハイ、チーズ」
 カシャッと音がしてシャッターが切られる。
「いい写真撮れたんじゃねぇーの? な?」
「あひぃ!」
 青年の幽霊に親しげに肩を組まれ、三下は可哀想なほど悲愴な顔で悲鳴を上げた。



 ぴろりろりんっと、間の抜けたような電子音が森に響く。その音の主である舘岩の携帯電話は、先ほどから何枚もの心霊写真を撮っていた。
「携帯の写真って投稿出来るんだっけか? まあどうでもいいや」
 舘岩はやる気なさげに、見かけた幽霊を次々と撮って行く。と、どこか遠いところから、ガシャリガシャリと音が聞こえた。聞き慣れない、その固いものが擦れあうような音に、舘岩は眉を顰める。聞く人が聞けば、その音が鎧武者の甲冑が擦れる音であることに気付いただろう。
 それがゆっくりと近づいてくる。舘岩は携帯電話を構え、カメラのレンズをその音のする方向へ向けた。すると、遠くに見える木々の間からずるりと鎧武者が現れた。手には人の生首を持って。
 その武者に続いて、首のない霊や肩口から身体が半分切り裂かれてぶらぶらしている霊、腹を切り裂かれて飛出た内臓をそのまま引きずっている霊など、猟奇的な惨殺体が幾人も現れた。
 突然の大行進に、舘岩が思わずシャッターを切る。森に響くぴろりろりんっという音が武者の耳に入ったらしく、兜の間から覗いた白い目が、ギロリとこちらを振り向いた。その目に、舘岩は逃げるようにその場を離れると、慌てて自分の車に戻って来た。
「うわー。すげぇもん撮っちまったぜ」
 言いながら、舘岩は先ほど撮った画像を確認する。おどろおどろしい大行進がバッチリ映っていて、舘岩は顔を引き攣らせると、何か汚いものでも掴むかのようにストラップを指で摘んで、後部座席に投げ飛ばした。
 と、そのとき、前から笑顔の五代が、憔悴しきった三下を引きずって帰って来た。三下を後部座席に押し込み、五代は助手席に座る。
「いやー、バシバシ撮って来たぜ。なぁ、三下さん」
「そほですねぇー」
 恐怖のあまり気絶寸前の三下をバックミラーごしにチラリと見て、舘岩は車をバックさせた。森を出たことで少し落ち着いたのか、三下が自分の尻の下に敷いてしまっていた携帯電話に気付いた。
「あれ? 舘岩さんの携帯ですか?」
「ああ。ちょっと画像フォルダ見てみろ」
 言われて、三下がフォルダを開き、「キャーッ!」っと甲高い叫び声を上げて携帯を放り投げた。
「何だ、何だ? ……うおー! すげぇな、コレ!」
 宙を舞った携帯電話を、身体を乗り出してキャッチした五代は、その大行進の画像に目を丸くした。
「それ、おまえにやるわ」
「だってよ。良かったな、三下さん。すげぇ写真が貰えて」
「携帯ごとやるから、お払いしといてくれ」
 二人にそう言われた三下だが、最後の最後で安心したところに止めをさされて、すでに意識はなかった。



 ぼさっと、写真の束が『没』の箱に入れられた。
「はい、お仕舞い」
「えひゃあー!」
「使えるのはこのツーショットと、携帯の惨殺体行進かしらね」
 言って、碇は三下に『没』の箱を押し付ける。その箱に入れられた写真は皆五代が撮ったものだったのだが、これが見事に全てピンボケで、とても雑誌に載せられるようなものではなかった。
「良い顔してるじゃない」
「そ、そおですかー?」
 幽霊に引っ付かれ、泣きながら映っているツーショットの写真を掲げられ、三下は困惑の顔を見せる。そんな三下に、碇はにっこりと笑うと、事も無げに言った。
「ツーショット、もう一回撮って来なさい」
「にゃーっっ!!」
 三下の奇声、もとい、悲鳴が止む日は、まだ遠いらしい。










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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1335/五代・真/男性/20歳/バックパッカー】
【5874/舘岩・佑/男性/23歳/パチンコ店店長】



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           ライター通信         
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こんにちわ、ライターの緑奈緑です。
今回は『心霊写真激写スポット』にご参加下さいまして、有難う御座いました。
そして遅延申し訳ありませんでした。
頑張って執筆致しましたので、楽しんで頂ければ嬉しいです。