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<東京怪談・PCゲームノベル>


[ 雪月花1.5 迷子はどっち? ]


「心癒されるのは……やっぱり田舎町よね」
 道は普段から歩きなれているアスファルトではなく、ろくに舗装されていない土の道だった。
 珍しくも一般の出版社から崎咲里美の元へと取材の依頼が入ったのは数日前の事。取材のテーマは『心癒す故郷』と言う物。それに当てはまる場所はどこかと地図を開き、「ココだ」と直感的に感じた場所へと取材に来た。それが、今里美が歩く場所である。
 最初は地図の上だけで見た都心から離れた場所に過ぎなかったが、実際この場所に来れば本当に長閑な田舎だと思える所で、広がる緑は確かに心癒され、誰しもの故郷に成りえると思った。
「やっぱり選んで正解だったなー、良かった」
 此処ならば良い記事が書け、良い写真も撮れると思う。ただ、少し気になっていた。此処に来た時からずっと、天から降り注ぐそれが。
「――雨、やまないなぁ……」
 差しっぱなしの傘をクルクルと回しながら足を止め、仰いだ空は一面灰色で。雲と空の境目など無いそこに向け、息を吐く。
「ま、好きだから良いんだけどね」
 ポツリ呟くと、まだ少し空を仰いだまま再び歩き始めた。
 彼女にとって嫌な事を全部流し心をも洗ってくれてくれる雨は、決して冷たく鬱陶しいものではなく、暖かく優しい物として傘を叩いている。
 それに、例え今がどんよりとした景色を見せようが、雨が止んだ時の日の光がとても綺麗なことを里美は知っていた。それを見ると、頑張っていこうという気になる。だから、雨は嫌いではない。
 そして考えても見れば雨の中でしか撮れない、雨の中だからこそ撮れる景色と言うものも存在する。それを見逃す手も勿論なかった。
「よし、雨の中での風景写真も撮っておこっと」
 この辺りの景色が良いだろうかと、足を止めると里美はカメラを出す。降り続く雨から守るよう、それでもいつも通り肌身離さず持っていたカメラ。
 まずは傘を上手く肩と頭で挟むと、ファインダー越しに辺りの景色を見た。
 此処には自分が直接見る世界とは少し違う景色がある。実際は同じ景色なのに、自分の目でもカメラでも、共にレンズと言う名を通し見る景色なのに。後に写真と言う形になるこの景色だけは、カメラでしか撮れない、このファインダー越しにしか見れないものなのだと思う。勿論その半面、自分の目にだけ鮮明に残る景色だってある。
 そのときの状況は……多分その二つが重なった。
 何度かシャッターを切り続けていた時、不意にそれは入り込む。
「――――?」
 思うに、歩いても歩いても人の通らない場所だった。だからこそ、余計にその人影が目を惹いたのだと思う。
 辺りの音が、全て消え失せた気がした。否、全神経がそこに向けられ、他には何も考えられなかったのかもしれない。カメラからゆっくりと目を離し。里美は一歩。また一歩と。見つけた人影へと向かう。
 その人影が、彼女の目にはきちんと人の姿に見える頃。パシャパシャと、時折水溜りを撥ねる音に気づいたのか、相手も足を止め、里美を見た。
「…………」
 彼、はただジッと里美を見る。その姿はどういうわけか、傘も持たずすっかり濡れそぼり、里美は思わず「ほらやっぱり」とでも言いたそうな表情で自分の傘を半分差し出す。
 彼は一瞬、微かに苦笑いを浮かべ。ポケットから出したメモ帳に、相変わらず文字を記していった。
『確か  崎咲さん、だったよな?こないだ助けてくれて‥メールもくれた』
「ちゃんと覚えててくれたんだ、良かったぁ」
 一回の人助けと一回のメール。然程昔のことでも無いが、どれも時間にすれば短いもの。里美自身が覚えていたとしても、相手もそうとは限らない。しかしその不安は、彼から手渡されたメモにより消え失せた。
 彼は続けて里美にメモを手渡してくる。その綺麗な文字は雨により少し滲んでいた。
『当たり前だ。色々と印象深かったって言うかな。まぁ、悪い事もしたかもしれないし。すぐには忘れられなかった』
「悪いこと? それにしても当たったね、柾葵さん。また、こうして会えたよ?」
 あの時は、こうなることを予測しようもなかったが。

 『偶然出会ったんだから偶然再会なんてのもありえるかもしれないでしょ?』

 彼――柾葵はただ、僅かに笑みを浮かべた。
 それは、雨の田舎道でのこと。



    □□□



「それにしてもこんな雨の中、傘は?」
 出会った場所から少しだけ雨を凌げる所へと、二人は移動した。この辺りは木々が多いため、その下へと入れば多少の雨は凌げる。もっとも、既に葉は落ち始めている季節。二人揃って完全に凌ぐとなれば、この辺りではどうにも見かけない建物の下へ入るしか無いのだろうが。
『さっきまでは持ってたはずだ。でもどっかで落としたぽい。ちょっと夢中になりすぎたと言うか。と、俺は濡れてるから傘は自分にな。カメラ濡れるぞ。確か大切なものだろ?』
 そこで早々に渡されたメモに、里美は思わず柾葵を見上げた。一方の柾葵は、唐突に顔を上げた里美に少し驚いたようで、首を傾げる。
「あ……うん。でもこれは気持ちね。私にすればこの姿は見てて放っておけないし」
 本当のところ、思わず柾葵を見たのはカメラのことについて彼が覚えていた所だった。それは少し、嬉しいこと。自分にとって確かに大切な物なのだから。ただそれは口に出さず、今はそれ以上に不思議に思うことを問う。
「それにしてもずぶ濡れって事にも気づかないで夢中って、一人で何してたの?」
 言われ柾葵は里美から視線を外すと、そのまま曇った空を眺め。少し何かを考えるような表情を見せたかと思えばペンを走らせ、メモを渡してきた。
『気づいたら洸とはぐれてた。おまえにこうして会って今、初めて自覚したけど。また置いてかれたかもしれないな』
「はぐれ……また置いていかれたって、え? それならすぐ探さなくちゃ」
 しかし里美が上げた声に、柾葵はまたもや里美を見るが、その表情が明らかに疑問を帯びている。そして何かをメモに書こうとするが、その前に里美が口を挟む。
「何? その「なんでだ?」って言いたそうな首の傾げ方……だって一緒に居たわけだし、一緒に旅をしているんでしょ?」
 するとやはり、書こうとしていた感情を言われてしまったらしく、既に書きかけの部分に斜線を引っ張っているように見えた。そして渡されたメモ。案の定最初の部分には斜線が引かれていたが、それは既に文字が見えないほどに黒く塗りつぶされ、多分図星だったのだと里美は柾葵には分からぬよう笑みを浮かべた。
『俺達はタダみちづれ同士…そんな仲の良い物でもない筈だし。いつも時間が経てば洸が現れる』
 ただ、目にしたその内容はどうにも理解し難い物で。みちづれと言う関係に思わず疑問符を浮かべる。どう見ても共に旅をしてるように見えるのに、仲が良いというわけでも無いらしく、彼等にとって今回のようなことは日常茶飯事と言ったところか。
「……っ、ぁ」
 それについてどうこう聞く権利は無いのかもしれないが、何か反応を返さないといけない。そう思った矢先にもう一枚のメモが差し出された。
『それよりもおまえが此処に居ることが俺には不思議なんだけど…何やってんだ?』
「取材。えっと、私も手伝うから一緒に探しに行こう? その方がいつもより早く見つかるかもしれないし。何処を歩いてきたか分かるなら、そこを戻るのも手だろうけど」
 自分の目的を簡潔に告げると手伝うことを告げるが、不意に柾葵はかぶりを振り何か書き始める。今の否定は一体何に対してだったのか、それはメモにきちんと書かれていたのだが。
『悪い、夢中でなんか追いかけてきたから何処歩いてきたかよく覚えて無いんだ。道もあいつに任せっぱなしで。でも、何よりおまえはその取材?途中なんだろ。そもそも取材って‥もしかして仕事?』
 メモを渡してきた柾葵は少しワクワクした表情で、里見の返答を待っているようだった。
「そっか、言ってないもんね。記者なの、私。それで今回『心癒す故郷』って言うテーマでロケーションハンティング中。でも、取材はついででも出来るから。行こ?」
 言いながら木の下から出ると、きちんと柾葵も後をついてきた。ただ、すぐ里美はその足を止められる。見れば、柾葵が里美の袖を引っ張り、無邪気な笑みを浮かべ短い言葉の書かれたメモを差し出していた。
『凄いなぁ、俺より小さいのにちゃんと職に就いてんだ』
 恐らく、全く悪気は無いのだと思う。ただ、やはり身長差はあろうが年齢差は然程無いはずで。思い出すのは初めて出会った時の別れ際。頭の上に置かれていた温かくて、優しく柔らかくも頭を掻き乱していた手。それらを思い出すと、たちまちそれは里美の表情に出た。
「…………むぅっ……あの、初めて会った時の事とメールの事、覚えてる?」
「……!!」
 声色と、思わず見た表情に流石の柾葵も何かを察したらしく。まずは慌てて両手をパンッと合わせると深く頭を下げ、ポケットから出したメモを落としかけては一気にペンを走らせていた。
『悪い!又やった…いや、でも俺まだ学生だし。やっぱ俺より下なのに普通に仕事してるのって少し羨ましんだ。悪気があったわけじゃないんだけど、ムカついたなら謝る』
 そんな彼に、里美はゆっくりと小さく膨らませていた頬を戻し。首を少し横に傾けると、メモからそっと目を離し柾葵を見た。
「……ううん、そんなに気にしてないから。むしろそこまで改まっちゃうと私の方が申し訳なくなっちゃうし。でも羨ましいって?」
 里美の問いに、柾葵はただ苦笑した。メモによる答えは返ってきそうにも無い。だから里美はそのまま、少し思っていた事を続けることにした。
「なんだか癪だから、お互い歳くらいは明かしておいた方がいいかな? 私は十九、柾葵さんは?」
『21‥そっか、ホント大差無かったんだな。悪い、ホント。でも』
「?」
 妙な部分で文字は切れていた。明らかに何かを書きかけていたような。それでいて、中途半端に消してあるため『でも』という文字ははっきりと見える。
 一体何が続くのだろうと、どうにも気になり里美が問えば、柾葵は少し困った顔をして――走って逃げた。
「ちょっ、何でよ!?」
 パシャパシャと水溜りに足を突っ込みながらも走る柾葵に、あっという間に二人の距離は離れていく。
 最初はその背中を、やがてその足音を。何時からか足跡を頼りに、里美は柾葵を追い続けるが、やがて完全に彼を見失い彼女は足を止めた。雨は小降りにはなってきたものの降り続き、心なしか視界が悪い。
「――もしかして霧? それに、まさかこんな状況で私達まではぐれちゃったって冗談っ」
 耳に響くのは傘を叩く雨の音と自分の呼吸だけ。人の気配もなく、唐突に独りを告げられた気がした。
 ただ、そこに心細さなど持ち合わせない。何よりも、二人を探さなければと言う結論に至った。
「……っ」
「探さなくちゃっ、柾葵さ――っ!?」
 そこでようやく気づく。今度は袖ではなく腕を引っ張られる感覚に。前へ行こうとする体と、それを引きとめようとする力。驚きに落とした傘は二人の間に転がった。
『ごめんな』
 振り返ると彼は、メモに書かれた文字ではなくそう言った。声は無い。けれど、確かに言葉は形として存在する。そして彼は又一つ、苦笑いを浮かべては里美から手を離し傘を拾う。
『はい』
 ズイッと渡された傘に、里美は礼を告げた。同時「良かった」と、もう一言だけ漏らし。
 やがて空にはまだ雲が広がったままではあるが、ゆっくりと雨は止んでゆく。
「雨が止んだら、見つかるかもしれないし。行こう? 柾葵さん」
 彼はゆっくり、けれど大きく頷いた。



    □□□



 里美が柾葵を追いかけていた距離は相当のものだったらしく、気づけば辺りの景色がすっかり変わっていた。ちらほらと民家のある道を抜けると少し先に紅い鳥居を見つける。
「あ、神社?」
 まず思ったのは被写体に良いということ。雨上がりの緑の中にひっそりと建つ建造物。そういえばこの辺りはまだ緑が濃く、葉も落ちてはいないようだった。都会ではあまり見られない光景に、思わず里美は撮りたくなった。もう一つは、神頼みと言うわけでもないが、要するにお願いでも出来たらと思う。
「……折角だし、ちょっと寄っていかない?」
 ピタリと足を止めると、少し後ろを歩いていた柾葵は頷いた。一時的ではあったが、アスファルトだった道を逸れ、二人は境内へと足を踏み入れる。先ほどまでの雨で十分水を吸った土が、歩く度に靴に吸い付くようで重い。
 木々の葉から落ちる水滴は大きく、時折首筋に落ちてきては脅かされた。
 しかしそこは本当に小さな神社だった。それでも存在する賽銭箱の前まで歩み寄ると、里美は財布からゴソゴソと小銭を出す。
「ちょっと意味合いが違うかもしれないけど、ご縁がありますようにって……すぐ会えますようにで五円玉ね」
 言いながら里美が出した五円玉は二枚。一枚は勿論柾葵へ手渡した。
 「俺もか?」と言いたそうな表情で自分を指す柾葵に、「勿論」と里美は言いながら五円玉を投げ入れる。
 ガランゴロンと頭上の鈴を鳴らし、パンパンと手を叩き目を閉じると、里美は早く洸が見つかるようにと心の中で願った。少しすると、小銭の投げられる音と、今よりも更に大きな音で鈴が揺らされる。そっと横目で隣に立つ柾葵を見ると、彼も両手を合わせ祈っている姿が見えた。
「早く見つかると良いね。もうすぐ日も暮れてきちゃうし。ぁ…ちょっと、二三枚だけ撮ってって良い?」
『勿論。寧ろそれが今此処に居る本当の目的だろ?別に俺達のことは気にするなよ。コッチもコッチで適当に探しておくから』
「それじゃあちょっとだけ、ね」
 そう言うと、里美は柾葵の元を離れ少し奥へと向かう。そこから先ほどの場所を振り返ると、その光景が良かったりし。思わず一枚。再び前を見ては緑の中数枚撮ってみたり。石造りの階段を見つけると、この場所が随分と高台にあったことも知った。見下ろす町並みはただ広く、そして小さく建物らしきものが存在する程度。
 最後のそんな町並みにレンズを向けると、シャッターを切り里美は踵を返した。
 時間にしては然程経っていないが、柾葵の元へ戻ると彼は賽銭箱の前に座っている。
「ごめんね、遅くなっちゃっ――」
 慌ててそこに駆け寄るが、そこで里美の声は途切れた。
 丁度、数分前に二人が来た道。そこから来る人に気づき。
「ねえ? アレって」
 思わず指した先を、柾葵も立ち上がり見た。その表情が、少しだけ笑みを浮かべたことに里美は気づく。
「……良かったね、見つかって」
 呟いた言葉が彼に届いたかは分からない。ただ柾葵は、一瞬里美を見て口を動かした。
 『ありがとう』と、確かに。
 やがて柾葵に気づいた人物――勿論洸が、ビニール傘を手に二つ持ちこちらへとやってくる。
「ガランガランやたら煩いと思ったら、やっぱりどっかの馬鹿が鳴らしてたのか……ったく、相変わらずすぐはぐれるし。ほら、おまえの傘落ちてたから拾ってやっといたよ」
 不機嫌そうな顔で柾葵の元へ歩いてくるや否や、洸は片手に持った泥まみれのビニール傘を差し出し里美を見た。
「えっと、確か……さぁ、…きざきさんで良かったですっけ?」
 一瞬名前が出てこないかとも思われたが、文字の羅列は正確に出てきたらしい。
「そうそう、崎咲。覚えてくれててありがと。それにお互いこうして会えて良かったね」
「こちらこそ、こんな馬鹿の相手有難うございました。それじゃあ俺達はこれで」
 しかし微笑む里見に洸は礼を告げると早々に背を向けた。ただ、その背中を止める言葉は無い。
 確かに二人はぐれていて、再会できたのだから。それは旅の再開も意味する。里美はただ取材でこの場に来ていただけで、行き先――否、帰る場所が違う。
「そう、だね。それに二人とも、もうはぐれないように気をつけてね」
 そう言った里美に、洸は短く返事をし。柾葵は頷き、洸に続いて踵を返す。
 ただ、その背中を見て。本当にこのままで良いのかと、里美は自分に問いただす。これで、会えるのは最後かもしれない。自分の髪にそっと触れ、俯いた。あの感触は、もう二度とないかもしれない。
「…………っ」
「――!?」
 気づいたら。少し前に自分がそうされたよう、今度は里美が柾葵の腕を掴んでいた。とは言え、大きな彼を引き止めるため幾分引きずられた感があったのだが。驚きに足を止め振り返った柾葵はジッと里美を見た。
「ごめん、ね。でももし、もしも…三度目があれば。それって多分、ううんきっと――偶然じゃないからね」
 今更ながらパッと柾葵の腕から手を離すと、里美はその手を後ろに回す。
「もしもだから。二人はこれからもっと遠くへ行くのだろうし。此処で偶然出会えたのは奇跡に近いんだから。でも私も仕事で色々なところを飛び回るかもしれない。人なんて、この意外に狭い世界の何処で会うかなんて、分からないんだから」
 言った後、柾葵から暫く反応は返ってこなかった。ジッと、合ったままの目が気まずく。フッと、里美の方が目を閉じた。俯き加減で来るはずの反応を待てば、暫くしてカリカリと文字を書く音が聞こえてきた。少し長い。
 やがてカサリとそれが自分の手に押し込められ、里美は顔を上げた。
 同時、丁度里美の目の前で柾葵の後ろ。目に入った空はいつの間にか雨雲が切れ、青空が覗いていた。もう夕刻近く。そしてそれはもうオレンジ色だが、確かに目の前に広がった景色は里美が好きだと思っていた光景。
「柾葵ぃ、置いてく」
「……」
 ただ、洸の声に互い我に返り。柾葵は洸の方を見ては手を振って、今行くとでも言いたそうな動きをした。そして再び里美を見ると、ただ口を開ける。もうその手にメモ帳もペンも無い。
『じゃあな』
「――じゃあ、ね」
 短く動かされた口に、里美も最後言葉を返した。



    □□□



 二人が石段を下り境内を後にすると、里美も元来た道から戻ろうと踵を返した。
 しかしそこで思い返す。最後に握らされた手紙、その内容を見ていない気がして。
「…なに、これ」
 未だ握り締めたままだった左手を開けると、中には小さく折りたたまれた紙切れがあった。しかも単純に折りたたんだものではない。どうも女子高生が授業中手紙のやり取りをする際、時折見かけるような折り方にも見える。
 今更疑問をぶつけることも突っ込むことも出来ないゆえ、里美は大人しく丁寧に開封すると中身を見た。

『あぁ。もしかしたら、又会えるかもしれないな。二度あることは三度あるって言うし?
 後、さっき書きかけたのは…まぁ、結局俺にとっては年齢なんてやっぱ関係ないと思ってさ。
 成人間近だろうと、例えおばんだろうが可愛いと思ったもんは可愛いし。
 だから、褒め言葉として受け取っておいてくれよ?
 って、なんか最後に話脱線したけど。じゃぁな。』

 読み終えた後も暫く、里美の動きは再開されることは無い。思考までもが止まり、動きを忘れていることを知らなかったと言う方が正しいのかもしれない。
 ただ、ようやく動きが再開されたと思えばまずは深い溜息が出た。それは安堵のような、なんとも言えない物のような。
「――――さっき目の前で開けなくて、良かったかも」
 反応に困る内容というのは確かなもので。
 里美はただ…そっと笑みを浮かべ、最後のメモをギュッと胸の前で握り締めた。


 陽は未だ沈むことなく。この長閑な田舎町を照らしている。里美の足元の水溜りも、それを反射してはキラキラと輝いていた。
「……今日、最後の一枚かな」
 ファインダー越しに今見えているのは、小さな水溜りと大きな足跡、小さな足跡。柾葵のものと、自分のもの。
 そこへ向け、恐らく今日最後のシャッターを切った。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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→PC
 [2836/崎咲・里美/女性/19歳/敏腕新聞記者]

→NPC
 [  洸(あきら)・男性・16歳・放浪者 ]
 [ 柾葵(まさき)・男性・21歳・大学生 ]

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、亀ライターの李月です。又のご参加有難うございました。
 お仕事に来ていて再会と言うことで、途中ハプニングも有りましたが洸探し、お楽しみいただけていれば嬉しいです。なんだかこの二人は本当に書いててほのぼのしてしまいます。柾葵から見た里美さんは可愛い子から抜け出せてはいないのですが、親密度は上昇中です。
 柾葵に関しては敬語は無しだけど、柔らかめな接し方で。洸には明るい感じでした。が、洸の呼び方も『さん』かなー呼び捨てかなーと悩んでしまい、上手く濁してしまいました。すみません。文字数の関係上メール内容にも然程触れられませんでしたが、年齢問題解決で落ち着きました。
 何かありましたらお気軽にお申し付けください。又、一応今回もお別れと言う形で終えています。もし又のご参加がありましたら、少し先にはなってしまいますが、宜しくお願いいたします。

 それでは又のご縁がありましたら…‥
 李月蒼