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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


さ迷える子羊2匹 <瀬名雫の罰ゲームレポート>

11月某日・土曜日・快晴
池袋駅前……AM10:15
月見里千里(16)無事到着。
服装、ヘアスタイル共に指示通り。
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■レポート前に事前の経緯・リプレイ■

「男の人…だ。えぅ……負けた」
「勝った! うーん、罰ゲームは何にしようか? 百物語とか」 
 瀬名雫の言葉に月見里千里は渋い顔をした。大きな声を上げる少女二人を、男性が不思議そうに見ながら横切っていく。
「え〜、そ…それは恐いよ。他のヤツにしてっ! お願い」
 千里はポンと両手を合わせて雫を拝んだ。
 勝負しようと言い出したのは千里の方。最初にドアから出てくるのが、男女どちらか当てるだけの単純なゲームだった。
 それだけでは面白くないので、なにか罰ゲームを設けようということになって――。
 雫に罰ゲームを決定されているのだ。
「千里恐いの? 別のって…何か面白いものあるかなぁ?」
「し…雫ちゃ〜ん。あんまり変なのしないでね」
 しばし、千里の顔を見入っていた雫は、それはそれは含みのある嫌な顔をした。口角が上がり、目尻が下がる。
「ウィッグ…借りられるところ、知ってるんだよね。長い髪の千里が見てみたいなぁ……。服装なんかも変えて。ふふふ」
「も、もしかして……コ、…コ」
 千里は雫の次の言葉を予測した。それはいわゆるコスプレ。
「そ、コスプレ! お嬢様みたいな清楚な恰好をして、一日街を歩いてもらいたいなぁ」
「ええっ!? そ、それも…やめ」
「じゃっ百物語っ! 私は大歓迎だけどね〜」
 抗議の声を呑み込まざるを得ない千里。恐いのは本当に勘弁てもらいたいのだ。情報に精通している雫のことだから、ここぞとばかりにリアルで真に迫る話をするだろう。
 千里は仕方なく、それを受け入れた。
「じゃっ、それ観察してレポートを公開するね〜♪」
「え〜〜っ! こ、公開するの?」
 雫が満面の笑みを浮かべた。

■行動観察レポート■
<案の定、ナンパに合う…AM10:25>
 薄茶色の清楚なワンピースに、腰までのストレートロングのウィッグ。どこから見てもお嬢様。
 池袋駅前に立って、まだ10分しか経ってないのに。
 当然かも。話し方も徹底するようにしてるし、なんと言っても素質が良い。
 千里必死に断わるも相手の男、引く気配なし。
 うーん、助けに行くべきか……。

<ナンパ撃退できず…AM10:42>
 ナンパ男。未だ千里の前を動かず。
 あ、江橋匠! 偶然通り掛かったらしい。
 ジャケットにチノパン。いつもよりも落ちついた雰囲気の服装をしている。
 千里が困っているのに気づいた模様。一瞬、躊躇して立ち去る……って、助けなさいよっ!
 あ…戻ってきた! 男の子はそうじゃなくちゃね。
 ナンパ男諦めたみたい。
「待った?」ってありきたりだけど、効果は絶大だなぁ。
 …ん? もしかして匠ってば、千里に気づいてない?
 会話がちょっとチグハグになってる。千里は――(小さくウィンク)。匠だってことに気づいてるみたいだ。
 千里が匠から離れてコチラに。
「たくみん、あたしだって気づいてないんだよ。からかってみようか♪」
 千里もなかなか小悪魔です(笑)

<匠をデートに誘う…AM10:57>
 サンシャイン60内ナンジャタウン。室内アトラクションを満喫できるデートスポット。
 千里お気に入りの「幸せの青い鳥」をプレイ。
 【幸せの青い鳥 補足】
 ハピルという鳥を腕に乗せ、他の青い鳥に向けると相性の良い鳥を教えてくれる。
 持ち主同士で手を握り、相性なども測れる。
 一日で最後まで育てることは難しく、データを保存して何度も通うパターンが多いようだ。
 匠のハピルが千里に反応!
 相性を測るため、手を差し出す千里。真っ赤な顔して身を引いてる…匠。
「だめ…でしょうか?」
 潤んだ瞳。上目遣い……匠陥落した模様。耳まで赤く染めてるところを見ると、どうやら余り女の子と接触する機会がないと思われる。
 歩き出す千里の背後で、じっと握り締めた手を見詰めている。――余韻?
 かなり緊張してる匠。手と足がほぼ同時に出てる。あれでよく転ばないなぁ……。
 いつも助平だけど、本当は案外純情少年?

<喫茶点にて…PM03:26>
 ナンジャタウン内にて、軽く昼食後、しばしマカロニ広場、福袋商店街などでアトラクションや買い物を楽しむ。
 詳細については割愛。
 このデートのメインは、あくまでも喫茶店での会話。
 必読!

■【ハルニレ】での会話シーン・リプレイ■

 ガラスウィンドウには胡蝶蘭が、美しくディスプレイされている喫茶店。軽くお茶を楽しむ…というには、少し高そうな感じのする店内だった。
 匠と千里はイタリア製だろうか、シンプルなのに洗練された木製のテーブルに対面で座っている。
「あ…あの、いつもあんな感じなのか?」
「え?」
「あ…いや、ナンパのこと」
 軽く緊張した面持ちで、匠が注文した後の空白時間を言葉で埋めた。
「いえ、あまり街中を歩かないものですから」
 千里の方もどこか緊張している風情。それもそうだろう。本来の快活なイメージを封印し、今は出で立ちと同じお嬢様を演じなければならないからだ。アトラクションで遊んでいる時は何度も素の自分になりそうで困った。ただ少し暗い室内であり、次々と新しい驚きが生じる場所だったので目立たなかったのだ。
 でも今は違う。柔らかなクラシック音楽がながれる喫茶店。客の数は少なく、忙しなく動きまわる給仕の姿もない。暖色のライトが、鮮明に千里の表情を照らしていた。
「そう…か。仕方ないかもしれないな…とても、か――(わいいから)」
 匠は自分の言いそうになった言葉を慌てて飲み込んだ。
「…あ、か、…か、か細そぅだから…」
 変な語調。千里は慌てふためく匠を見て、笑いを堪えるのが必死だった。こんな表情の彼をあまり見た記憶がない。ぶっきらぼうな割りに調子乗りで、いつも含みのない素直な表情をするのだ。
 照れているのを隠している姿は、もっと親しみが持てた。
 間が持たなくなったのか、匠がシュガーポットを手元に引き寄せた。少し見物するように触っている。
 千里の視界のなかで、記憶が遡る。

 優しかった、今はない指先が同じように器をなぞる。
 楽しげに話をする口元。
 テーブル越しに伸ばされた手は、いつも千里の手を取って柔らかく握り締めてくれた。

 匠がポットを元の位置に戻し、腕を伸ばした。テーブルの中央に広げられた両の手のひら。
 千里はそれが別の人物のものだと、それが現実なのだと知っていたけれど、そっと自分の手を匠の手のひらに重ねた。
「なっ!? …えっ……ちょっ」
 泡を食ったのは匠だった。緊張をほぐすための単純な動き。なんの策略でも、何かの効果を期待したわけでもない。ただ、本当にテーブルに乗せただけの手のひらだった。
 なのに、その上に少女の白い手が乗せられている事実。
 千里の視界が揺れた。涙が勝手に零れてくる。匠の顔が優しく歪んで見えた。
「……泣…いてる……のか…?」
 言葉を続けることは罪な気がした。このまま手に触れていていいものかしばし呆然と考え、匠は手を少し手前に引いた。
 ――途端!
 千里の指先が、逃げる手を握り締めた。完全に固まってしまった匠。無理もない、女性とこんな形で同席すること自体初めてなのだから。
 レポートするために観葉植物越しの席にいた雫でさえ、驚いて声を出しそうになったのだから。演技では決してない。本心からの涙。そして繋がれた手のひら。

「温かい…ですね」
 千里が笑顔を作った。まだ目尻からは光を反射する涙が零れている。
 それを目にした瞬間、一方的に握られていただけの手に力を込めた。少し冷たい白い手が無骨な指の間に隠れていく。
 匠にとってこの行動はひどく照れくさい。けれど、離してはいけない気がしてしまったのだ。
「たく…さん……」
 思わず、千里は匠をあだ名で呼びそうになった。江橋匠という人物はこんなにも人の気持ちを癒す行動を取る人だっただろうか。
 千里は思う。哀しい現実が思い出されて、誰でもいいから失った温かさが欲しかったのかもしれない。けれど、匠の手のひらは想像以上に温かで優しかった。胸につかえた痛みすら和らぐ感じがする。
「…俺…ので良ければ」
 匠はいつになく真摯な目で言った。
「あ…はい。ありがとうございます」
「いや…俺は何も――。ゴメン」
 緊張とは違う、甘い空気が流れた。そのことに2人は気づいていない。

「ご注文の品はこれでお揃いでしょうか?」
 ウェイトレスの声で互いに我に返った。慌てて手を離し、膝の上に置いた。
 すでに注文したものがテーブルに並んでいる。ということは――。
「は、はいっ。これで全部です」
「ありがとうございました」
 匠が辛うじて返事をして、真っ赤になっている千里の顔を見詰めた。視線が合うと吹き出すように笑い合った。
 テーブルには匠の注文してコーラとアメリカンワッフル。千里の前にはアールグレイのストレートティとシフォンケーキ。
 2人はナンジャタウンで遊んだ時よりも打ち解けた感じで、お互いの話をしてそれからの楽しい時間を過ごした。
 助けてくれたお礼ということで、千里がお茶の代金を奢って、2人は喫茶店の前で別れた。

 匠は池袋駅まで送り、彼女がどの沿線に乗るのか知りたかった。
 埼京線、東部東上、山の手……沿線だけでも知ることができたら、また会える機会もあるかもしれない。
 結局「送るよ」とも言えず、ロングストレートが揺れる背中は遠ざかっていった。


 レポート了。
 11月某日、瀬名雫。
 真実であることを誓います!


◎3日後…PM05時41分◎

 授業が終わり、ファーストフードの店内で寛いでいた匠。
 雫が分厚いレポート用紙をたずさえて、店内へ入った。後ろからはショートヘアのいつもの千里。
「なっなっなんでなんだぁ ―――――― !!」
 悲しい絶叫が響くのに、5分を要した。

◎それぞれの談話◎
 雫 「これっくらい騙される人がいると気持ちがいいもんよね♪」
 千里「たくみんには悪かったなぁ…。でも……いいかっ(*^-^*)」
 匠 「……感想…なし。………あ、…沿線知る必要なかったな…よかった(え?)」


□END□

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大変遅れてしまい申し訳ありません。ライターの杜野天音です。
ちゃんとレポート調になっているか不安です。かなりてこずりましたので、反応がかなり心配ですが、楽しんでもらえたなら幸いです。
では、ご依頼ありがとうございました(*^-^*)