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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「小噺・南瓜」



 公園のベンチに座っている欠月を見かけた守永透子は、ちょっと思案した。
(あれ……は、遠逆さん?)
 ラフな格好で何かを眼前で揺らしている少年は……おそらくそうだろう。
(あの髪の色といい……遠目でもわかる顔の良さは……たぶん)
 そうじゃないか?
 こんなところで彼に会うなど、そうそうないのでは?
 そう思うと透子はふらふらと彼に近づいていった。
「遠逆、さん?」
 近づいてそっと声をかけると、彼は視線だけこちらに向ける。冷たい横顔に透子はどきどきしてしまう。なんだか怖い。
 不機嫌なんだろうかと思う透子の予想を裏切り、彼は微笑む。
「やあ、守永さん」
 憶えていてくれたという安堵で、ほっと息を洩らす透子。
「あの、こんなところで何をしてるんですか?」
「見てわからない? ひなたぼっこだよ」
 にっこり。
 彼は微笑んだ。夜に見ると恐ろしかった色違いの瞳は、昼でも異質だった。
「ひなた……ぼっこ? お仕事はどうされたんですか?」
「今日はお休み」
「…………あの、それ、は?」
 ちょい、と指差した先は欠月の手にある紙だ。彼は「これ?」と透子にわかるように振る。
「これは洋食店のタダ券」
「えっ!? タダ!?」
 それはすごい。今時無料で料理を食べられることなどない。
 驚く透子を見て彼はきょとんとし、それからチケットを見遣る。
「あー……なんなら、いる?」
「ええっ!? でもそれは遠逆さんのでしょう?」
「でも、これ、ペア券なんだよね。相手もいないし、ボク」
 相手がいない?
 透子はぼんやりとその言葉を理解し、それからあちこちに視線を移動させて口を開いた。
「あ、あの……私でよかったら……その、ご一緒しませんか?」
「え?」
「いえ、ですから……」
「キミがボクと? いいの? だってこれ、ハロウィン用のだよ?」
「え……?」
「これ、ハロウィンの仮装していくのが絶対条件なんだよね。いいの?」
「…………」
 呆然としていた透子は、ぐっと唇を引き締める。
「はい。私はいいです」
 今度は欠月がぽかーんとした。
「へえ。なんか、けっこう強気なんだねえ守永さんて」
「えっ!? あ、いえ、そんなこと」
「そっか。じゃあ行こう。今晩どう?」
「あ、はい」
 こくこくと頷く透子に、彼はにやっと微笑む。そしてベンチから立ち上がった。
「それじゃ、お互い待ち合わせて行こうか。……いや、家まで迎えに行くよ」
「ええっ!? で、でもそこまでしてもらわなくても」
「女性をエスコートするのは男のつとめじゃないか。いいんだよ、こういう時は遠慮しなくて」
 にっこり笑うので、透子は戸惑いつつも頷いてしまう。
「わかりました……。あ、えっと、仮装だったら衣装をそれっぽくしないといけないですよね。二人で食事、ですし」
 考えてみれば、同い年くらいの……しかも男性と二人で食事などしたことがない。
 そう思って透子はかー、と顔を赤くする。
 慌てて早口で言った。
「遠逆さんはどんな格好をするんですか?」
「そうだね。リクエストがあるならそれにするよ?」
「え? でも」
「お望みならタキシードでも着ようか?」
 くすくす笑う欠月。それも確かに似合いそうだが……。
「え、っと……髪の色に合わせると、ドラキュラ、とかどうですか?」
「ふぅん」
「それ、だと……私はシスターの格好が違和感ないかしら……。あ、ごめんなさい。こういうこと、その、あまり参加したことなくて」
「……ねえ、それだとさ」
「はい?」
「ドラキュラって、美女の血を吸うんでしょ? その美女は、キミってことになるけど……そう思っていいの?」
 ???
 それは、なんだろう? どういう意味になるのだ?
 疑問符を浮かべている透子に彼は微笑む。
「なんてね。冗談だよ。じゃあ、あとで迎えに行くよ。用意できたら呼んでね」
「呼ぶ?」
「名前、心の中で呼ぶだけでいいよ」



 シスターの衣服で家を出る透子は高鳴る心臓を怒鳴りつけたかった。
 いや、まあ男の子とお出かけも初めてだし、こういうのも初めてだし。
(やっぱり……まだ来てないな)
 玄関先に欠月の姿はない。
(遠逆さん……やっぱりドラキュラで来るのかしら)
「呼んだ?」
「きゃあああ!」
 真横からの声に透子は悲鳴をあげて硬直してしまう。
「うわっ、意外に大きな声」
 驚いている欠月が、そこに居た。いったいいつの間に来たのだろうか?
 彼は透子の要望したように黒いマントのドラキュラ姿だ。
(うわ……似合ってるなぁ)
 違和感などない。本当に吸血鬼のようだ。
「あ、似合ってるね。可愛いシスターさん」
「え……あ、はい。どうも……。遠逆さんも似合ってます」
「そう?」
 彼はうっすらと笑い、透子の手を引いた。冷たい指にどきっとする透子。
「じゃあ行こうか」

 タダ券の店というのは、透子もよく知る評判の店だった。
 出された食事はかなり美味しい。
「あ、あの、訊いていいですか?」
「なに?」
 二人だけの席。緊張して仕方ないというのに、欠月は平然とした顔をしている。慣れているのだろうか?
(憑物のことを訊いたら……嫌がるかもしれないし)
 なにより彼に拒絶されるのが……想像しただけで…………こわいのだ。
 それがなぜなのか、透子はわからない。
「どうやってここの券を?」
 自分たち以外にも仮装して食事をしている者はいる。ほとんどがカップルだったが。
「ああそれ? お仕事のお礼にもらったんだよ」
「仕事のお礼? 退魔のですか?」
「そうだよ。いらないって言ったんだけど、しつこくてね」
 笑顔で言う欠月は白身魚をもぐもぐと食べている。綺麗な動作で思わず透子は見入ってしまった。
 ナイフの使い方も上手いが、箸の使い方も上手いのだ。
「……お仕事、大変ですか?」
「まあねえ。半日はそれに当ててるから疲れるよ」
「半日!?」
 仰天する透子であった。
 欠月は不思議そうに首を傾げる。
「どうかした?」
「は、半日って……12時間ですか?」
「そうだけど」
 けろっとして言う欠月は「美味しいよ? 食べないの?」と透子を促す。
(半日も退魔の仕事を……?)
 よくそれでこんなに元気とは。信じられない。
「守永さん……美味しくない?」
「えっ? あ、いえ、そんなことは」
「なんなら食べさせようか?」
「………………はっ!?」
 くるんとフォークを回して欠月は皿の上のプチトマトを突き刺す。そのまま軽く持ち上げて透子に向けた。
「あーん、してよ」
「…………!」
 目を見開く透子が固まってしまった。
「……守永さんて、可愛いよね」
 喉の奥を鳴らして笑う欠月はフォークを自分に向けてプチトマトを口に運んだ。もぐもぐと食べる。
(か、からかってる……!)
 怒りとも、恥ずかしさとも思える感情が湧いたが我慢した。
 料理は美味しいし、欠月はからかってくるが優しいのだから。
(そっか……遠逆さんは、仕事以外の時はこんな感じなんだ……)
 それは新しい発見で、よくわからないが…………嬉しかったのだ。
 この間はこんなふうにからかったりしなかった。それは、仕事中だったから、だ。
(やり返す、べきなのかな)
 からかわれてばかりは癪だ。
「じ、じゃあ遠逆さんは、私が『あーんして』と言ったらしてくれますか?」
「ん?」
「できないでしょう?」
「できるよ」
 彼はまじめな顔でさらりと言う。爆弾発言である。
 透子は全身の毛が逆立つような錯覚をおぼえた。
 こ、これもからかっているうちだ。そうだ。そうに違いない。
 透子は自分の皿の上のプチトマトを突き出して、そろそろと欠月に向けた。
「どうも」
 彼は笑顔でそう言うなり、ぱくりとトマトを食べてしまう。口を動かす彼は「おいしいねえ」と満足そうだ。
 ぜ、全然……!
(全然躊躇しなかった……!)
 信じられないっ。
「もしかして守永さんてトマト嫌いなの? 言ってくれたら全部食べてあげたのに」
「…………」
 本気で言っているのかどうかも怪しいセリフだった。どうも信用できない。わかってて言っているなら彼の性格はかなり捻くれている。
「もう、いいです。気にしないでください」
「ふーん。変なの」
 変なのはあなたです、と言いたい。

 食事を終えて家までの道。やはり彼は送ってくれた。
 暗い夜道を、彼は楽しそうに歩く。
「……なんだか、機嫌がいいですね」
「え? そう?」
「はい」
「それはたぶん、美味しいものを食べたから、かな?」
「え……?」
 呟く透子の横で彼はふいにまじめな表情になる。
「まあ、いい気晴らしにはなったよ。付き合ってくれてありがとう、守永さん」
「え……。あ、いえ、そんな……こちらこそ」
「ふふっ。守永さんは、『いいひと』だな」
 無邪気に笑って言う欠月に、透子は頬を赤く染める。
 男の子は、こんなふうに笑うんだろうか? それとも彼が特別なんだろうか?
 男に免疫がないから……こんなふうに、どきどきしてしまうんだろうか?
(…………嫌われたくない、な)
 この人に嫌そうな顔を向けられたらどうなるんだろう。自分は。
 想像して怖くなる。……人間を怖がるなんて。
「どうしたの? 顔色悪いけど」
 瞬きする欠月はぐっと透子に顔を近づける。そっと額に手を置いた。
「熱は……ないみたいだけど。気持ち悪いの? 背負おうか?」
「あ、いえ、大丈夫ですから」
 ぶんぶんと手を振るが、彼はじっと見つめてくる。間近で見ると、彼の瞳は本当に色が違うのがはっきりわかった。
「遠慮はよくないって、言ったでしょ? 今日はキミをエスコートするんだから」
「で、でも!」
「背負うのが嫌なの? 横抱きならいいの?」
 横抱きというと、いわゆる『お姫さまだっこ』!?
 想像して透子は首を激しく左右に振った。
「いいです! 結構ですから! というか大丈夫ですから!」
「…………あのさあ」
 彼は透子の額を人差し指で押す。
「ボクが信用ならないのはわかってるけど、こういう時くらいは頼って欲しいんだけどな」
 溜息混じりのセリフに透子は目を見開いた。
「ちっ、違います! ほ、本当に大丈夫で……」
 否定したら彼はうんざりした顔をするかもしれない。だったら。
「帰るまで、手を……繋いで欲しい、です」
「なんなら担ごうか?」
「いえ、恥ずかしいですから」
 ほんとに。
 透子の言葉に欠月は面白そうに笑って「了解」と呟き、手を差し出す。透子はその手に触れた。
(あ……やっぱり冷たい。遠逆さんて、体温低いのかしら)
 末端冷え性というのもあるが……。想像して透子は笑いそうになった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5778/守永・透子(もりなが・とおこ)/女/17/高校生】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、守永様。ライターのともやいずみです。
 それなりに進展したと思いますが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!