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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「小噺・南瓜」



 なんだか見覚えのある学生服が視界をよぎった。
(あの深い紫色の軍服……!)
 梧北斗はバッとそちらを見る。
 思ったとおり、道路を挟んだ向こう側の歩道を歩いているのは遠逆欠月だ。
 こんな昼間から彼に会えるとは!
(すげえ偶然!)
 北斗は車がこないのを確認して道路を素早く渡り、欠月の前で足を止める。
「へへ、また会えたな。この前は急に消えたから、色々話ができなかっただろ? 気になってさ」
「…………」
 欠月はじっと北斗を見てから、怪訝そうにした。
 その態度に「あり?」と北斗が冷汗をかく。
(あ、あれえ? もしかして、憶えてないのか?)
 そういえば、北斗にしてみれば顔の整っているうえ妙ちきりんな学生服の欠月を憶えるのは簡単だが、欠月にとってみれば北斗は憶えにくかったのかもしれない。
(そ、そっか。俺の着てるのはどこでも見る学生服だし、退魔の仕事してたら色んなヤツと会うだろうし)
「ほ、ほら、梧北斗! 憶えてないか? かくれんぼして、鬼になった」
「憶えてるよ?」
 さらっと平然とした顔で言われてガクッと北斗は肩を落とした。
 いや、憶えてるなら、さっきのリアクションはなんだったんだ?
「お、おまえなぁ……まぎらわしい態度すんなよ」
「まぎらわしい? なにが?」
「いや、だからぁ……俺を見て『誰だこの人』みたいな顔したろ?」
「してないよ。なんでこんな昼間から学生のキミがいるのかなってちょっと考えただけだけど?」
 なるほど。そうでしたか。
 納得した北斗は「ははは」と乾いた笑いを洩らす。
 と、欠月が持っているものに目がいく。
(あ、あれってもしかして)
 噂にきく、かの有名な洋食店のタダ券!?
「な、なあそれ……」
「え? ああ。これ、仕事のお礼で貰ったんだよね」
 ひらりと眼前で軽く振る欠月。やはり、思ったとおりのものらしい。
 北斗はずいっと欠月に近づいた。
「欠月ってこの辺に住んでるのか?」
「いや」
「よかったらこの辺を俺に案内させてくれないか? で、でさ……楽しかったら、俺と一緒に…………そ、その、食事とかどうかな。なんて……」
 ご、強引な誘いだろうか?
 ちょっと視線を伏せる。
 でも、できたら楽しみたいし。
 ちらっと欠月を見ると、彼は顔をしかめて…………は、おらず、北斗を哀れむように見ていた。
(ちょ、なにその目)
「お、おい……なんだよその顔は」
「……男を食事に誘うとか…………いないの? 誘う女の子が」
「う、うるさいな! なんだその目! そういう意味か!?」
「くっ……。可哀想な梧さん…………」
「待て! そういう同情はやめろって!」
「女の子を紹介してあげたいけど、ボク、そういうツテはないんだよね。ごめん……力になれなくて」
「いや――! ちょ、待て! 本気で泣きそうな顔しないでくれっ!」
「青春てのはホロ苦いもんだよね、ほんと……」
「ぎゃー! 違うってぇぇ!」
 頭を抱えてしまう北斗であった。



 公園を案内している北斗の横にいる欠月がつまらなそうな顔をしていた。
「なるほどね。ボクの持ってるタダ券の店に行きたかったわけか」
「そうだよ。早合点するなっての」
「あのね、ああいう誘い方するかな? 男に」
「う……。いや、まあ確かに誤解されるような言い方だったのは認めるけど」
「ほんと、引くよ。ああいうこと言われたら」
 引くどころか、欠月は哀れんだが。
「で、ここなんなの? 公園?」
「そうだぞ。ここは俺がジョギングしてる公園だな!」
 えっへんと胸を張るが、彼は「へぇー」と興味無さそうに呟いた。
 せっかく案内しているというのに、なんだこの態度は。
「広い公園だねえ」
「…………感想、それだけか?」
「ほかになんて言えばいいのさ」
「案内してやってるんだから、もっと楽しそうにしろよ!」
「案内してくれなんて言ってないよ。勝手にキミがやってるだけでしょ」
「むっかー! なんでおまえってそうなんだよ!?」
「興味のないことに関心を持てる人はそうはいないでしょ。違う?」
 正論である。
 北斗は気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。
(焦るな。こいつはこういうヤツなんだ)
 だが、北斗はふと気づく。
(あ……れ? そういえば、この間は笑顔がすごく印象的だったけど)
 欠月を見遣った。彼はやれやれというように嘆息している。
(笑顔ばっかりじゃないぞ? 今日は)
「じゃあおまえ……なにに興味あるんだ?」
「ええ?」
 欠月は北斗を見遣り、ぎょっとした。
 きらきらと瞳を輝かせている北斗に、思わずのけぞる。
「ど、どうしたの……? なんか目がきらきらしてるけど……」
「なあ、なにが好きなんだよ?」
「ちょっと……こ、怖いからやめてよ梧さん……」
 じりじりと後退する欠月に、わくわくとしたような北斗が近づいていく。
 欠月は嘆息した。
「あのさ……どうしてそんなにボクに構うの?」
「かまう? んー……おまえに興味あるんだよな」
「……っ、あ、梧さんて……そういう趣味なの? ごめん……ボク、女の子が好きなんだよね」
「なにマジな顔で言ってんだ! 俺だって女が好きだぞ!」
「いや、ひとの趣味にあれこれ口出しするつもりはないから大丈夫だよ。ただ、ボクはその範疇に入れないで欲しいだけで」
「だから! 違うっての!」
 じたばたする北斗は、ハッとした。
 いつの間にか欠月がにやにやしている。
(うわあ! またコイツにハメられた!)
 気づいてわなわなと震えていると、欠月は近くにある時計を見た。
「じゃあそろそろ向かおうか。仮装しなきゃいけないし」
「! そうだったな。せっかくのタダ券なのに仮装しなきゃいけないとは……。なんか面倒だよな」
「…………行かないならそれでもいいけど」
「行くって!」



 結局町を案内しても欠月はたいして興味がないようだった。
(余計なお世話だったのか、もしかして……)
 がっくりする北斗である。
「どうしたの? なんか落ち込んでるね」
 声がして、北斗は顔をあげた。
「っ! お、おまえ執事か、それ?」
 正装している欠月は前髪をあげている。に、似合いすぎだ。
 これで「お嬢様、今日はいかがいたしますか?」とか言っていてもさまになる。
「適当に選んだらこれだったんだよね。梧さんは、それはなに?」
「俺は怪盗だ!」
 胸を張ると欠月は「へえ」と呟く。
「なんか盗むの? でもボクのイメージだとあれだよ。赤いジャケットの男がイメージ強いね」
「それってマンガじゃないか! 三代目じゃなくて、初代だ、俺は!」
「そんな大仰なマントつけて盗みに入れるわけないじゃない」
 さらっと言う欠月の前でがっくりと肩を落とす。なんてロマンのない男だ、こいつは。

 出された食事に北斗は満足だった。
 美味い。かなり。
(美味いうえにタダって最高だな〜)
 幸せに浸る北斗は、向かい側に座る欠月の様子に不思議そうにした。
 無言の欠月に「?」と疑問符を浮かべる。
「どした? おまえ、なんか嫌いなもんでもあったか?」
「…………」
 ちら、と北斗を見る欠月。色違いの瞳に北斗はどきっとする。
 これだ。ふいにあの色違いで見られると心臓が止まりそうになるのだ。
(なんか怖いんだよな、あの目)
 欠月は薄く微笑む。
「いや、ちょっと考え事してただけ」
「え? なんか悩み事か?」
 相談にのるぞと言わんばかりの北斗の態度に欠月は苦笑する。
「本当にお節介だなあ、梧さんは。悩みじゃないって。ほら、今日色々と見て回ったじゃない?」
「あ、ああ。それが?」
「いや、どこも知らないなあと思って。こう、ピンとくるものがないというか」
 ピンときてどうするんだろうか。デートにでも使うのか?
 そう考えて北斗はおかしなことに気づく。
「どこも知らないって、わざわざ考えるようなことか?」
「いや、ボクさ、一年前にも東京にちょっと滞在してたんだよ」
「えっ!」
 驚く北斗に、欠月はにこっと笑う。
「まあその時に事故に遭って、実は一年前までしか記憶がないわけだ、ボクは」
「じ、じゃあ……憶えてるのって、一年前までってことか?」
「なんで梧さんがそんな不安そうな顔するんだよ。べつに生活に支障はないんだし、たいして困ってないから大丈夫だって」
「いや、でも」
 忘れているということは、不安になることのはずだ。
 北斗は黙ってしまう。なんと欠月に声をかけていいかわからなかった。
(そっか。欠月は俺に案内されながら、なにか思い出すかってずっと考えてたんだ……)
「わ、悪い! おまえの事情知らなくて、俺、怒鳴って!」
「…………」
 頭をさげる北斗に、欠月は目を見開く。そしてくすくす笑った。
「べつに謝ることないじゃない。変なことするね」
「でも……」
「記憶がなくて可哀想だなんて思ってたら、その頭、ミンチにしてやろうと思うところだけど」
 ぞっとするようなことを平然と言い、欠月は柔らかく微笑む。
「梧さんはそうじゃないからね。まあ許しておくか」
「み、ミンチって……! おまえ怖いこと時々言うよな」
「いやあ、怖いと思ってくれるなら嬉しいよ」
「…………」
 だからさ、なんでそこでニッコリなんだ???
 北斗はじっと欠月を見つめる。
「記憶、早く戻るといいな」
「え? べつに戻らなくてもいいけど」
「ええーっ!? なんだそのどうでもいい感じの言い方は!」
「だってべつにどうでもいいもん」
 もぐもぐと料理を食べつつ欠月は言う。
「戻ってもなにか変わるわけでもないし、とりわけ必要でもないからね」
「…………おまえ、ほんといい性格してるよなぁ」
「前向きと言って欲しいな」
「ほんと、いい性格してるよ……」
 脱帽ものだ。
 自分がその立場だったら、物凄く不安になるだろうに。
 どれが本当で、どれが嘘か判断できなくなる。見知らぬ人を親と言われても実感がわかないように。
 それなのに。
(欠月って、なに考えてるのかさっぱりわからないけど)
 やっぱり悪いヤツではないのだ。
 最初に会った時に自分に似ているなんて、思ったことが不思議だった。
 ふ、と笑った北斗に欠月は瞬きをする。
「どうかした?」
「いや……。おまえがこんなに喋ってくれると思わなくて、さ」
「だって今日は仕事じゃないからね。普通に喋るよ?」
「仕事中だと違うのか?」
「だって仕事は仕事じゃないか」
「…………すげーよ。すごくてなにも言えない」
 あははと笑う北斗は、フォークを口に運んで料理を食べたのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 少しずつ欠月が心を開いていますが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!