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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「小噺・南瓜」



 店番をしていた黒崎狼は「はあ」と嘆息する。頬杖をついて。
 相談するにも、誰に相談すればいいのかわからない。そう、彼は悩んでいたのだ。
(……上海に手紙を出すのもなぁ)
 余計に不安にさせるかもしれないし。
(まあ……でも俺も悪いよな。あんなふうに詮索されたら、ヤな気分になるだろうし……)
 あの冷たい目。紫の、闇を映したような瞳。
(あーもう!)
 顔を片手で覆う。
 どうして自分はこうなんだろうか。
 はっきり言って他人と関わるのは面倒で嫌いなのだ。苦手ともいえる。
 けれども……けれどもだ。一度でも関わった相手のことが気になってしまうのだ。
(それが厄介だってことはわかってんだよ)
 うーん。
 狼はちょっと天井を見上げる。あ、あそこ汚れてら。
(そうだな。今度会ったら……謝っておこう。第一印象はかなりサイアクだけど)
 上海にいる彼女のことは、もしかしたら杞憂かもしれないし。



 で。
(な、なんで買い物の最中で会うかな……マジで)
 ずーんと思いつつ狼は買い物袋片手に弱々しく挨拶する。
「よ、よお、欠月」
「こんにちは、黒崎さん」
 愛想よく微笑む欠月に、狼は「うっ」と言葉に詰まった。
(お、怒ってる、のか……?)
 どきどきしつつ頷く。
「珍しいな。こんなスーパーで会うなんて」
「……そうだね」
 薄く微笑まれて狼は冷汗をかいた。
 だが挫けるわけにはいかない。
「おまえも買い物か!?」
「そっちは夕飯の買い出し?」
「ああ。居候の身としては雑用も色々しなきゃいけないしさ」
 欠月が目を見開く。
「居候?」
「え? あ、ああ。俺、ちょっと放浪癖みたいなものがあって……。で、今は『逸品堂』っていうとこで厄介になってんだよ」
「逸品堂?」
「骨董の店なんだけど……」
 あ、と思って狼はうかがいながら問いかけた。
「欠月は骨董とか好きか?」
「骨董? いや。ボクは古めかしいものとかあまり興味はないな。ほら、埃っぽい感じがするでしょ」
「……そ、そっか」
 がっくり肩を落とす狼。上海に行っている遠逆の退魔士のお嬢さんは、それはもう骨董とか古い感じが好きっぽかったので、欠月もそうかもしれないなあ……なんて考えは甘かったようだ。
 欠月は狼の様子を眺めてから苦笑する。
「まあそのうち、機会があったらお店に行ってあげるよ」
「えっ!?」
「ただし、なにも買わないからね」
「……いや、それはわかってるって。でもおまえ、夕飯の買い物か?」
「違う。ちょっとね、使うものがあって買いにきただけだから」
「使うもの?」
「術に必要なものだね」
 ……こんなスーパーで買うの?
 不思議そうな狼だったが、欠月は表情を崩さない。どうやら本当のようだ。
「ぐ、具体的には?」
「線香。塩」
「うわっ。それっぽい」
「他にも色々あるけど、まあここのスーパーは初めてだから物色だね」
「原材料を見て回ってるってか?」
「お! 勘がいいね」
 にこっと微笑む欠月。狼はほっと安堵した。
 良かった。怒っていないようだ。
 欠月は何かを取り出して狼に差し出す。
「? なんだこれ」
「タダ券」
「タダ券!?」
「そう。仕事のお礼にもらったものなんだけど、使い道なくてね」
 チケットに書かれていることは、仮装することとペアであることが条件ということ。
 知っている洋食店だ。美味いと評判なので狼も名前を知っている。
(こ、こんないいもん、よく貰えたよな……)
 正直に「すごい」と思った。
「な、なんだ? 自慢か?」
「違うよ。良かったらあげる。使ったら?」
「はあっ!?」
 あ。と気づいた。
 狼の脳裏に上海の彼女の姿が浮かんだ。彼女は実家から一人で東京にやって来ていた。
 そう、一人で。
 知り合いのいない東京で、憑物封印をしていたのだ。
(そ、そうか……欠月もそうなのか、もしかして。一人で来てるから……)
「おまえ、行かないのか? 勿体無いじゃないか」
「いいんだよ。誘う相手もいないしね」
 薄く微笑む欠月の言葉に、確信に変わる。
 やはりだ。彼はこの東京に一人で来ているのだ。
「じゃ! お、俺!」
 手を挙げる狼。
「俺が一緒に行けば、おまえも行けて、俺も行ける! 一石二鳥だ!」
「…………」
 目を見開く欠月は狼を静かに見つめる。
「なんでボクを行かせようとするの……?」
「え? だってこれの所有権はおまえにあるだろ? それに……」
「?」
「な、なんでもねーよ! 俺と一緒が嫌なのか、おまえ!」
「嫌ってわけじゃないけど……」
 少し考えるようにぼんやりと呟いた欠月は、そうか、と気づいたように言った。
「キミ、苦労しそうだね」
 とだけ呟く。
 はあ? と言う狼だったが、欠月は続けなかった。



 洋食店で、向き合って座っている狼と欠月。
 か、会話が……。
 ちらちらとうかがう。欠月は吸血鬼のようだ。それがまた、似合っている。
(いいよな、美形ってなんでも似合って)
 小さく嘆息した狼は狼男の格好だ。被り物は、今は外している。
 躊躇している場合ではないのはわかっているのだ。
 謝ろうと、決めていたのだから。
「その」
 声をかけると、欠月がフォークを止めてこちらを見遣る。
 色違いの瞳に「うっ」となるが怯まなかった。
「なんだ……この間は悪かった、な…………」
「…………」
「それ、謝っておこうと……思ってよ……。詮索されて、いい気持ちはしないもんな」
 後頭部を掻いていると欠月が目を細める。
「わざわざ? ひとがせっかく忘れたフリをしてあげたのに」
「えっ! そ、そうなのか!?」
「いいよもう。黒崎さんはそういう性格だってわかったから。お節介で苦労性なんだよね」
「いや、その、そういう単語で一括りにされると悲しいんだけど」
 がっくりと肩を落とす狼であった。
「あのさ」
「ん? まだあるの?」
「もう、訊かないから。安心、しろ……よ」
「…………黒崎さんて」
「?」
「ほんと、苦労しそうだよね。女の子に振り回されてポイ捨てされそう」
「っ! お、おま! それはヒドクないか!」
「いい女の子に会えるといいね」
 にっこり。
 本気で言っているのかどうかわからない。ただでさえ欠月は少しクセのある性格をしているのだから。
「おまえはいいよな! 顔もいいから、女にモテそうだし!」
「……そうかな。それって、見かけの話でしょ?」
「う」
 ナカミは、ほれこの通り。
(確かに欠月の性格知ったら、みんな逃げていきそうだよな……)
 言葉に詰まっている狼をじっと見ていたが、欠月はくすくす笑う。
「どうしてそうなんだろ。顔に出さなくてもいいじゃない?」
「うるさいな。勝手に出るんだよっ」
「そう……面白いねえ」
「その呆れたような物言いはなんなんだ……」
 こめかみを引きつらせる狼であった。
 欠月は小さく笑ってから食事を再開させる。狼ももぐもぐと食べた。
「欠月は普段はなにしてるんだ?」
「男の生活に興味あるの……? 残念だけど、ボク、そういう趣味はないんだよね」
 にやっとした笑みを浮かべる欠月に狼はついつい食べていたものを吐き出しそうになる。
「ば、ばかっ! そうじゃないって。退魔士の生活にちょっと興味があっただけだ!」
「普段ね……。そういう黒崎さんは?」
「え? 俺? そ、そうだなぁ……店番しろって言われたらするし、あとは雑用? まあ暇ができたら友達んトコに行ってみるくらいか」
「なにそれ。怠惰な生活だね」
「た、怠惰っておまえ……」
 ひどい。ひどすぎる。
 可愛い顔で言われたら余計に傷つくというのに。
「そういうおまえはどうなんだよ!? 俺にそう言うってことは、さぞや立派な生活してるんだろ!」
「大抵は仕事してるからね。半日ほど」
「はっ!?」
 半日?
 ということは、12時間か???
(いや……ほんとに? でもアイツはそんなこと一言も……)
 一言もなにも、上海の君は仕事に関してはほとんどなにも言ってくれなかった。
「半日って……てことは、朝の9時から夜の9時って感じか?」
「そうだね。そんな早くに仕事はしないけど」
「……おまえ、細いのに……」
「こう見えてもスタミナはあるほうだけどね」
 なんて信用できないセリフだろうか?
 筋肉がついているのはわかるが、それにしては細すぎる。
「東京って、変なのがたくさんいるからさ。まあ忙しくて助かるけど」
「忙しくて助かる? 変なこと言うんだな、欠月は」
「ボク、暇な時間は持て余すほうなんだよね」
 ……無趣味っぽいよな。
 なんてことを思うってしまうが、怖くて言えない。
(そうか……やっぱ退魔士って大変なんだな。アイツも……自分で傷薬持ってたし……)
 彼女が持っていた、塗り薬を思い出す。
「欠月は、ケガとかしてないよな? ほら、退魔の仕事って危ないから」
 本気で心配している狼を見遣り、欠月は微妙な表情を浮かべた。
 あまりに不自然な顔なので狼は不安になる。
「ど、どうした? やっぱり……ケガとかしてるのか?」
「いや。怪我はしてないよ。痛いの嫌だから」
「…………へ?」
 目を点にする狼であった。
(い、痛いのがイヤだと?)
「そ、そんなんで退治とかできるのか?」
「不可抗力で傷を負うことはあるけど……。そうならないために術があるんだし、人間は知恵がある。違う?」
「…………」
 言っていることはかなり正しい。
「狼さんておかしな人だね。怪我なんて放っておいても治るじゃないか」
「そ、そりゃ治るけど……」
 言われてから、狼は「はて?」と思う。欠月の言っていることは正しい。
 ケガは治るものだ。なのにどうして心配するんだろう。
(痛い、からか?)
 見ていて痛いからだろうか?
 場合によっては瀕死になるものもあるだろうが……欠月に限ってそんなミスはしないように思う。
「な、治ってもさ……やっぱいい気持ちしないだろ?」
「痛いのがいいわけないでしょ。それじゃマゾだよ」
「おまえさぁ……もっと言葉を包んでくれよ。ストレートすぎて恥ずかしくなるだろ」
「……遠回しに言って欲しいの? メンドクサイ」
 にこっと微笑む欠月。
 反対に狼は汗をかく。
(ほんとに……一筋縄にはいかないよな、遠逆の退魔士ってのは)
 そう、思うのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【1614/黒崎・狼(くろさき・らん)/男/16/流浪の少年(『逸品堂』の居候)】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、黒崎様。ライターのともやいずみです。
 少しは警戒を解いた欠月です。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!