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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「小噺・南瓜」



「いらっしゃいませ〜」
 時期はハロウィン。洋菓子店で臨時の販売員として働いていた焔乃誠人は大きな声を客にかける。
 入ってきたのは若い女性たち。
(うぅ〜、いいなあ! これだよこれ! 甘いものの店にはカワユイ女の子がたくさん来るもんね〜)
 内心ニヤけまくりの誠人は、ケーキを見ている女性陣たちを観察する。
 ああ、あの子もかわいい。この子もかわいい。
 うふふ。ふふーふふふ。
「はい、かしこまりました」
 笑顔で客にそう言った瞬間、
(うおっ)
 と目が店の外に釘付けになる。
 あの袴姿とリボンは、見間違えようがない!
(ヒナちゃん!)
 赤茶の髪を揺らして店の前を通過する遠逆日無子を目で追う。
 バッとすぐ横に居た、同じアルバイトの女の子に「ちょっとよろしく!」と言い放って店から出る。
 通り過ぎた後ろ姿を探す。
「ヒナちゃん!」
 声を出すと、彼女は足を止めて振り向いた。
 ああ、やっぱり!
 そう思って嬉しくなる誠人だったが、だいたいが間違えることもないのだ。日無子は目立つ格好なのだから。
 慌てて駆け寄る。
「やっぱり! ヒナちゃんだった!」
「…………」
 きょとんとする日無子の前で誠人は笑顔だ。
 日無子は誠人の姿を上から下まで眺めてから首を傾げる。
「だれ……?」
「ええーっ!」
 ガーンとショックを受ける誠人は、ハッとして被っていたカボチャを取った。
 誠人は店の方針に従って仮装で売り子をしていたのだ。
 タキシードのような衣装に、カボチャの被り物。確かにこれでは誰かわからない。
「俺だよ! 焔乃誠人! 18歳のピチピチの高校生!」
「ピチピチって、新鮮な魚じゃあるまいし」
 肩をすくめる日無子は誠人の姿に不思議そうにした。
「その格好、どうしたの?」
「え? あ、いまバイト中なんだよ」
「バイト、ね」
「そこのケーキのお店なんだけど。あ、ヒナちゃんの好きなケーキは? 奢るよ俺!」
「結構よ。今から仕事だから、お腹に入れるわけにはいかないの」
「あ、そうなんだ。そっかぁ」
 笑顔で断られて誠人は落ち込んだ。
 だがここで引くような誠人ではない。
「でもさ、好きなケーキはあるよね? ね?」
「…………」
「ちょっとでいいから見ていってよ! ね? ね?」
 日無子の手を握ろうと手を伸ばしたが、彼女はすっと手を引っ込める。
 スカッと宙を掻いた手に誠人は呆然とした。
 しーん……。
 日無子はにっこり笑う。なにも言わない。
 誠人はこれくらいで挫けない。
「手に触るのダメだった? ごめんね」
「だって焔乃さんて、なにかあるとすぐ触ろうとするんだもん」
 そ、そうだろうか?
 怪訝そうにする誠人に、日無子は言う。
「ほら、この前会った時、いきなりあたしの手を掴んだじゃない?」
「あー。あ、うん」
 納得して頷く誠人。
「油断すると図に乗りそうだから、ごめんなさい」
 くすくす笑う日無子。
 つまりだ。誠人が日無子に対して馴れ馴れしくしないように釘をさしたということだろう。
 しかし、サラっとひどいことを言う娘である。
「そっかぁ……」
 しょんぼりする誠人に日無子はケラケラと笑った。
「冗談よ、ジョーダン! だって焔乃さんて言葉と一緒でいきなり手を出してくるから、あたしが手を引っ込めたらどうなるかなって思っただけ」
「えっ!? じゃあ触っていいの?」
「まさか。だいたい女の子に気安く触るのって、あんまりよくないと思うのよね。
 そりゃ、触られたほうが嬉しい子もいるとは思うけど、ものには限度っていうのもあるし、節度は大事だよ?」
「そっかー。で、日無子ちゃんは?」
「あたし?
 そうね……。まあ、状況によるかな」
 にこっと微笑む日無子に誠人はグラっと揺らいだ。
 本当に彼女は可愛い。
「まあ手くらいならいいかな……。それ以外は触られたら……たぶんキックが鼻にめり込んでると思う」
「キック? 鼻?」
「うん。害意がないからまぁ……大丈夫でしょ」
 自分の掌を見て呟く日無子。
「焔乃くーん!」
 店のほうから声をかけられて誠人が振り向いた。店員が呼んでいる。
「あ! ヒナちゃん店の中においでよ! 見てるだけでもいいもんだよ?」
「今から仕事だって言ってるじゃない」
「あ、そっか」
「そうだ。これあげるわ」
 日無子はふところからチケットを取り出して渡す。誠人は不思議そうにそれを見た。
「これは……? あ、このお店知ってる。美味しいって評判だよね」
「そうなの。それ、仕事のお礼に貰ったんだけど、使わないからあげる。誰か誘って行ってね」
 じゃあ、と片手を挙げて去ろうとした日無子を慌てて止める。
「待って待って! これって誰かと行かなきゃいけないの!?」
「ペア券だもの。当たり前でしょ」
「じゃあヒナちゃんと行く!」
「はあ?」
「ヒナちゃんを誘う! うん! それがいいっ!」
 何度も大きく頷く誠人。
 日無子は片眉を吊り上げ、それから視線をおろす。
「わかった。相手があたしでいいの?」
「もちろん! 君以外に誰がいるんだよーっ!」
「……まあいいわ。で、仕事中なんでしょ? お店に戻らなくていいの?」
「いいんだよ!」
 はっきり言い放って誠人は胸を張った。
「ヒナちゃん優先!」
「…………」
「ヒナちゃんのためなら、給料を半分にされようがクビになろうがどうってことないさ!」
 清々しい笑みで言う誠人を、日無子は胡散臭そうに見ている。
「ただ、クビになった時はヒナちゃんの熱いベーゼで慰めてくれると嬉しいなぁ」
 くねくねと腰を動かす誠人を、日無子はじっと眺めて呟く。
「べーぜ? なにそれ?」
「えっ? 知らないの?」
「知らない。あたしも持ってるもの? 響きからしてガーゼっぽいけど薬品とかの一種?」
 ケガを手当てしてどうするというのか。
「誰もが持ってるものだよ!」
 大きく手を広げる誠人に、「ふーん」と洩らす日無子。
(も、もしかして本気で知らないの!? うわっ、ヤッタ!)
 誠人は鼻息も荒くキラキラと瞳を輝かせた。
「で、それってなに?」
「…………実践してあげようか」
「じっせん? 行動することなの?」
「う、うん」
 そんなに真っ直ぐ見つめられると恥ずかしい。顔を赤らめてしまう誠人だった。
 罪悪感を感じてしまうが……。
(ひ、ヒナちゃん……!)
 興奮度が最高潮に達しているために、体は動きを止めない。
 日無子の両肩に手を置いた。着物独特の感触を感じる前に痛みが走る。
「いつぅ!」
 ビリっときた。びりっとね。
 ぴくぴくと指先を痙攣させる誠人に、日無子は言う。
「この服、あんまり触らないほうがいいよ。痛いから」
「そ、それはもっと早くに言って欲しかった……!」
 では気を取り直して。
 ぐっと腰を曲げて、彼女に触れずに顔を近づける。
 あと5センチ。3センチ。
(う、うわ……! ヒナちゃんて本当に可愛い)
 間近で見て、喉を鳴らす。あと1セン……。
「ねえ」
 ぴた、と誠人が止まった。唇が触れるか触れないかというところで。本当にわずか1センチで。
「ベーゼで慰めるって、キスのこと? 接吻とかのことよね?」
「そ、そうだけど……」
「ふーん。なるほど」
 納得している日無子から誠人が吹っ飛ばされる。
 一瞬で身を引いた日無子の、痛烈な蹴りが誠人の腹で炸裂したのだ。
 横回転を空中で吹っ飛びながら演じ、誠人はどしゃんと地面に落ちた。
「乙女の唇を奪おうなんて、考えが甘いわよ」
 にっこりと微笑んで言う日無子は時計を探して視線をうろうろさせ、「もうそんな時間か」と呟く。
 腰に手を当てて嘆息する日無子。
「でも女の子のキス一つで焔乃さんて元気になるの? 現金な性格なのね」
「い、いつつ……。
 いや! ヒナちゃんのキスの為なら俺は火の中水の中!」
「はぁ……。あたしのキスにそれほどの価値があるとは思えないけど。そういう生き方をしてるとすぐ死んじゃうわよ?」
「君のためなら死ねる!」
「…………」
 あっそ、という目をすると日無子は気づいたように言った。
「仕事に戻らないと。ほんとにクビになるわよ。言っておくけど、クビになるのはあなたの自業自得なんだから、あたしはキスなんてしないわ」
「う、うぅ」
 しょんぼりと肩を落として立ち上がる誠人はとぼとぼと店に戻って行く。
 その哀愁漂う背中に日無子は声をかけた。
「で、どこにいつ来ればいいの? あたしは」
「へ?」
 振り向く誠人。
 疑問符を浮かべている。
「行かないの? 食べに」
「っっ!」
 そうだった!
 ぱあっと目の前に華が咲く。まだ天に見捨てられたわけではないようだ!
「行くよ! もちろんっ!」
「そう。で、どこに行けばいいの?」
「じゃあここで。バイト終わったら行こう!」
「…………」
「あ、ヒナちゃんはお仕事だっけ。それじゃあ違う日のほうがいいかな……」
「いいわ」
 日無子は笑顔で返事をする。
「じゃあこのケーキ屋の前ね。何時頃にバイトは終わるの?」
「ろっ、ろく……いや、五時半!」
「わかった。じゃあその時間にここに来るわ」
 きびすを返して歩いて行く日無子の背中を、大きく手を振って見送る誠人。
 とはいえ、あと2時間程度でその時間になるというのに。
(大丈夫かな……)
「焔乃くん……?」
 背後からの声に青ざめる。これは……店長の声だ。



 とりあえずクビは免れた。こってり絞られたが。
 裏口から出てくる誠人は、仮装の衣装として店のものを借りた。明日返しますと、散々お願いして。
(ヒナちゃんは、と)
 腕時計を見るとあと3分で時間だ。
 表に出るとそこには日無子の姿がある。
「あ、来たね」
 笑顔を浮かべた日無子を前に、誠人ははらはらと涙を流す。
「どうしたの?」
「うぅ……ヒナちゃん、その格好は嫌がらせなの?」
「は?」
「なんで男装なの! 可愛い格好が見たかった!」
「そう言うと思ったから、ドラキュラにしたのよ」
 くるんと一回転してみせた日無子は、黒のタキシードに黒マントだ。胸元の赤いリボンが揺れた。
「ひ、ひどーい!」
 誠人の叫び声が、空に響き渡ったのある――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5777/焔乃・誠人(えんの・まこと)/男/18/高校生 兼 鉄腕アルバイター】

NPC
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、焔乃様。ライターのともやいずみです。
 かなりコメディになってしまいましたが、いかがだったでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!