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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


『風と竜が舞う大地』



○オープニング○

「父親を探してくれ」
 竜の血を引くという高校生、遠江・梓音が草間興信所を訪れた。
 幼い頃にいなくなったという彼の父親は竜で、病弱の母のために、彼は父親を探すことを決意したのだという。しかし、父親がいると思われる、富士の裾野にあるらしい竜達の大地は、どこにあるかわからず、しかも危険な場所であるのだ。
 それでも梓音が父を探す決意は強く、草間・武彦は、彼に協力してくれる者を集うことにした。



 風の舞う所に竜の翼もまた舞う
 霊山富士の裾野にありし扉は
 異界へいざなう入り口なり



「成る程な。お前も父親の事じゃ苦労してるってわけだ。人事とは思えないな」
 梓音と同じく、父親には苦労されられているという舘岩・佑(たていわ・たすく)が、遠江・梓音に呟いた。
「おかげで俺はこの年でパチンコ屋の店長だ。あのパチンコ屋を本腰入れて営業しようなんて気は起きないが、俺がいなくても勝手に繁盛しているからな、あの店は」
 23歳でパチンコ屋の店長をやる事になったらしい佑は、自分と立場は違うけれども、同じような思いをしている梓音を、ここで見過ごす事は出来なかったのだろう。
「富士周辺ってのがポイントだな。俺が車出してやるよ」
「ああ、すまないな。俺の為に」
 梓音が目を伏せるので、佑はわずかに笑顔を見せた。
「気にするな。父親で苦労している者同士、協力していこうな?」
「お母さんの為に危険を覚悟でお父さんを探そうとするのに、とても感動しました。私も、お手伝いさせて頂きます」
 マイ・ブルーメ(まい・ぶるーめ)はにこりと梓音に笑いかけた。そして、何かを思い出したような表情をしているのであった。
「その場所がどんな所なのかはわかりませんが、危険な場所には違いないでしょうから。私は、治癒役をやらせてもらいますね」
「治癒か。そうだな、もしもの事は考えて置いた方がいい。俺も出来る限りの事はと思っているが、何しろ生身の人間だ。荒事には、期待しないで欲しいからな」
 佑が言うと、マイが軽く頷いた。
「私はそれでも死ねない…いえ、誠意一杯、頑張りますね」
「どうして、こっそりしていなければならないのかしら」
 今回の依頼元・草間興信所の事務員であるシュライン・エマ(しゅらいん・えま)が、切れ長の目で梓音を見つめていた。梓音の事もあるが、惚れている武彦の為にも、この依頼を成功させようと、頭の中で自分の知る色々な情報を思い出していた。
「人と会っていた事が知れると、父竜が何らかの罪に問われるかもとの危惧も、お母様は持ってらっしゃるのかしら?」
「危惧だって?」
 梓音がエマに問い掛けてくる。
「ええ。勿論、これは私の予測だけど。聞くところによると、その異世界の竜達って、他の種族を嫌っているのでしょう?排他的な場所なら他世界の入口に番人等を、配置してる可能性もあるし。もしかして、遠江くんのお父様って昔、その役目の方だったのかも?」
 エマの言葉を聞き、梓音が眉を潜め、心配そうな表情を浮かべた。
「とにかく、ここで話していても、予測の域から出ないわ。ざっと考えると、門池や竜宮洞穴、竜が岳等を思い出すわね。そのあたりは、現地調査してみない事には何とも言えないし。佑さんが車を用意してくれるみたいだから、色々な場所を調査する事が出来ると思うの」
「あのあたりって、車でないと不便っスよね」
 エマと同じく、草間興信所でアルバイトをしている、天壬・ヤマト(てんみ・やまと)がエマの言葉に続けた。
「富士山麓は、交通の便も悪いっスから。佑さんが車出してくれて助かっス」
 そう言って、ヤマトが佑へと視線を向けた。
「今日はバイトの休み明けだから早めに家を出てきたけど、それはまた色々な意味で難解そうな依頼ですね」
 今度は、デスクに座って資料を眺めながら、エマ達のやりとりを黙って聞いている草間・武彦へと言葉を投げかけた。
「草間さん。オレはもちろん、協力します。お父さん探し、お母さん思いのイイ少年じゃないっスか。協力しなくちゃバチが当たるってモンですよ」
 そう言うと、ヤマトは少しだけ笑って見せた。
「そうね、苦労しそうだけど、遠江君と、それから武彦さんの為にも、私も出来る限りの調査を行うつもりよ」
 そう言って、エマは武彦へと笑いかけてみる。
「その竜達は、混血を嫌う良くある排泄的な連中みたいだから、気は進まないけど」
 右が黒、左が青というオッドアイの水鏡・千剣破(みかがみ・ちはや)が、梓音を見ながら言う。
「事情が事情だから手助けするのに異存は無いわね」
「出来るだけ沢山の手助けがあれば、棲家ってのも早く見つかるかもしれねえ。こんな危険な事につき合わさせちまって、申し訳ねえな」
 そう答える梓音に、千剣破はやや目を吊り上げて返事をした。
「むしろ、何年も妻を放っておくような薄情な父親をぶん殴ってやんなさい!いやむしろ殴るのは息子としての義務だわよ!」
 まるで熱血ドラマのようなセリフを言う千剣破のその表情からは、梓音を応援する熱意が伝わってくる。
「こういうのって、難しいっスよねえ。竜達に関しては話し合いが一番だと思うっス。素直に聞いてくれればいいんスけど」
「竜の種族にも、色々な種類なのがいると思うの。あたしも、彼と同じ竜の血を引いているから。だから、この仕事を引き受けたのよ。まあ、あたしの田舎は関西の方だから、彼の一族とは多分別口でしょうけど」
 と、千剣破がヤマトへと答えてみせる。
「とにかく、行ってみるしかないわよね。人の近寄らない富士周辺というと、一番怪しいのはやはり樹海だけど、歩いて探し回るのは危ないと思うの」
 千剣破が、そばのデスクに広げられた富士山周辺の地図に目をやりながら言う。
「私も、出来れば青木ヶ原には避けたいかと。いえ、私は良いのですが、他の皆様が」
 マイも、樹海付近はやめた方がいいと小声で続けていた。その理由は、エマも大体わかっているのだが、富士の樹海、特に青木ヶ原は自殺の名所として知られる場所である。この付近を巡る物好きなツアーもあると聞くが、出来ればあまり近寄りたくない場所である事は確かだ。
「ああ、それなら、オレ、休みの間にちょうど静岡行ってきたっスよ。それに、ちょくちょくあちこち全国仕事や趣味で回ってますから、そのあたりの道案内ぐらいは出来ますよ」
 デスクの地図の視線で指し示し、ヤマトが言った。
「では、ヤマトに運転席に乗ってもらい、ナビをやってもらおう。お前、18歳以上だよな?」
 佑がそう言うと、ヤマトは頷き答えて見せるが、すぐに眉を寄せた。
「ん、オレが運転席っスか?」
「そうだ。まあ、すぐにわかる事だから、心配する事はない」
 佑は不思議そうな顔をしているヤマトへと答えた。
「それじゃあ、決まりね。さあ、遅くならないうちに行きましょう。この時期は、すぐに暗くなるものね。まして、富士周辺ともなれば、木も多いし」
 時計に目をやった後、エマが武彦へと笑顔を見せた。冷静さはどんな時でも失わないのが、エマであったから、今回も情報をしっかりと受け止め、推測をして竜の住む大地を探すつもりであった。
「それじゃ、武彦さん、行ってくるわね」
「ああ。くれぐれも気をつけてくれ。富士の樹海よりも、その竜の方が危険そうだからな」
 武彦に見送られながら、エマ達は表へと出て、そこで佑の能力で自動車を呼び出し、自動車に乗り込み、富士へと出発した。



「成る程、オレが運転席って、こういう事だったんスね」
 佑の自動車には、運転席にヤマトが座り、助手席に梓音、後ろには女性陣であるエマ、マイ、千剣破が座っていた。
 そして、佑は、オフロードのバイクで先行し、自らの能力を使い、自動車を引っ張っているのであった。
「さすがに今日は平日だけあって、道路がすいている。この分なら、目的地にはあと2時間位で着くだろう」
 高速道路を、能力で自動車を引っ張りながら、佑はバイクを飛ばし続ける。
「それで、どこから探索をするの?富士周辺って言っても、目的地を定めないと。富士の裾野ってかなり広いし、それによっては、静岡だけでなく山梨の方まで行かなきゃならなくなるわよね」
「一応、さっき、遠江君の家に行った時に、利香さんに聞き込みをしてきたんだけど」
 千剣破の問いかけに、エマが返事をしてみせる。
 高速道路に乗る前に、エマ達は一度梓音の家に行き、出来る限りの情報を集めてきたのであった。
 梓音の母・利香は、かなり体調が良くなく、また時間も限られていたのであまり長い時間は話を出来なかったのだが、エマ達の真剣さと、利香や梓音に対する思いが伝わったのか、湖のそばに、その異界へと通じる扉があると教えてくれたのであった。
 だが、それ以上は彼女自身もわからないのだという。その言葉に嘘は感じられず、また利香の顔色があまり良くなかった為、エマ達はそれ以上は聞かずに、家を後にしたのであった。
 その時、帰り際にエマは利香に頼んで、利香自身が若い頃の写真を借りていた。
「その写真は、どうするのですか?」
 マイはエマに問い掛けてみた。
「お母様自身の事も、聞き込みをしようと思っているの。あのあたりに残っているであろう、竜に関する伝承と一緒にね」
 写真を借りた理由を、エマがマイに説明する。
「けど、湖って言ったって、どこなんスかね。富士には富士五湖がありますけど、全部まわるとかなり時間がかかりそうですよ」
 エマの後に、ヤマトが続けた。
「オレ、観光で全部行った事があるんですけどね。山中湖に河口湖、本栖湖に精進湖、西湖。遊びに行くなら楽しそうですけど」
「何かヒントはないのか」
 自動車に横付けするように走行しながら、佑が車のメンバーへと問い掛けた。
「さっき興信所の方で行ったけど、竜の伝説がある場所が怪しいんじゃないかしら?門池、竜宮洞穴、竜が岳あたりね」
「今、エマさんが言った場所と地図を照らし合わせると」
 ヤマトが再び、地図を広げた。
「門池は沼津、竜宮洞穴は西湖、竜が岳は本栖湖のそばっスよ」
「他にもあるのかもしれないけど、竜宮洞穴と竜が岳が怪しいよね。名前も、竜、なんてのがついてるし」
 千剣破が後ろの席から身を乗り出して、ヤマトへと答えた。
「そうか。しかし、そこを探すとしても、西湖と本栖湖じゃ距離があるぞ?どっちへ行けばいい?」
 風を体に受け、服を激しく煽られながら、佑が答えた。
「どちらも、この中央高速からいけるのですよね?」
 今度はマイが尋ねた。
「ああ、そうだ。本栖湖の方が奥になるんだけどな!」
 風の音で声が聞こえにくいからか、佑はわざと声を大きくする。
「こうなったら、近い方から寄るのがいいんじゃない?調査はしなくとも、寄るだけならそんなに時間も取らないはず。だから遠江君。そこで妙な感覚がするとか、何かしら感じたら教えてちょうだいね?人にはわからない、竜の種族特有の共鳴等があるかもしれないもの」
 エマが真剣な眼差しで梓音に言うと、すぐに返事が戻ってくる。
「わかった。俺も、神経を集中させてみる。そういうの、感じた事ねえけど」
「お願いね。私も、奇妙な風の音や、風の吹く方向によって声が耳に入ってこないか、気をつけておくつもりだから」
「あたしも同じ竜の血を引く者として、何か感じ取れるかもしれないから、意識を湖の方へ向けてみるわね」
 風に髪をなびかせ、千剣破も言葉を添えた。
「よし。まずは、西湖へ行くぞ」
 こうして、エマ達は西湖を目指してひたすらに走り続けた。



「どうだ?何か感じるか?」
 佑が梓音に尋ねるものの、彼は首を横に振っていた。
「あたしも局地的に小雨を降らせて調べているんだけど、これと言って怪しいものはないわね」
 エマ達は、西湖の湖畔に立っていた。富士五湖のひとつである西湖は2番目に小さい湖であり、水面が濃い藍色をしている為、どことなく神秘的な雰囲気を感じた。
 観光地としては一番有名な山中湖等とは違い、キャンプ場や観光施設があまりなく、また、まわりには手付かずの自然が残されている為、とても静かな佇まいであった。
「まず、竜宮洞穴へ行ってみましょう」
 エマは湖周辺を歩き、地元の人に道を聞いたので、エマの先導で他の者達を連れて一行は竜宮洞穴へと足を運んだ。
「あ、あれではないでしょうか?」
 マイが森の一点を指差した。確かにそこには『竜宮洞穴』と書かれた看板があった。
 しかし、森の中にあるそのほら穴は、現在では立ち入り禁止になってしまっている。岩に囲まれた場所の奥に入り口があるが、中は暗く、どうもよくわからない。
「地元の人の話によると、この洞窟は竜が高速で出入りしていたとか。水神を祀った祠もあるわね。それから、江ノ島の岩屋洞窟とつながっているって伝説も」
「岩屋ッスか!確かに、あそこにも竜の伝説が残っているっスよね」
 エマとヤマトは、洞窟の入り口まで立って話していた。
「で、どうなんだ。ここではなさそうか?」
「たぶん。何も感じねえんだよ、こっからは。俺の直感が正しいかはわからねえが、ここではない気がする」
 佑の問いかけに、梓音は首を傾げたのであった。
「それなら、さっさと次へ行こう。時間が限られているからな」
 エマ達は車へ戻ると、今度は本栖湖を目指して出発した。



「本栖湖の話は、私も聞いた事があります。武田信玄の宝があるとか、巨人魚がいるとか」
 本栖湖の景色を眺めつつ、マイが小さく言う。
 エマ達のいる場所から、霞に浮かぶ富士の山の雄雄しい姿が見えていた。本栖湖は透明度の高い、瑠璃色の美しい湖で、富士五湖の中では最も深い湖であった。レイクスポーツも盛んで、若者たちが水上スキーやボートなどを浮かべて楽しむ姿があった。
「ねえ、見て。このあたりに伝わる、龍神様の伝説が書いてあるわ」
 エマは湖の周りで聞き込みをしているうちに、この地域に伝わる伝承が書かれた立て札を見つけたのであった。その立て札には「龍神様の由来」と書かれていた。
 それによると、本栖湖は昔はもっと大きな湖で、東に集落があったという。その集落の村人達は、湖で魚をとったり山では獣を取ったりして平和に暮らしており、毎年正月になると、この本栖湖…かつてはセの海と呼ばれた湖で、身を清めるのが慣わしになっていた。
 ある日、一人の村人が身を清めていると、突然湖から竜が現れ、近いうちに富士山が噴火する、と告げ、竜が岳へと昇っていった。
 その日から地鳴りや振動が続き、人々は噴火を恐れ、山を越えて別の村へと避難した。
 こうして西暦800年、富士山は大噴火をした。この時に、セの海は3つに分断され、これが現在の本栖湖、西湖、精進湖となった。
 噴火が収まった頃、人々は戻ってきたが、家も畑も溶岩に埋まり、人々はこの有様に途方にくれた。
 だが、湖に魚が泳ぎ、山に獣がいるのを見て、村人達はここに住み着くことを決意し、元の巣に帰ってきたという意味から湖を「本栖湖」と改め、この噴火の災難から守ってくれた竜を尊敬し、以来守り神として祀り、信仰するようになった。
「こんな伝説があるのね!」
 千剣破が驚いたように言う。
「その証拠に、この3つの湖は、水位が同じ高さなんですって。地下でつながっているらしいという人もいるそうよ。それはいいとして、お父様が人の姿でこちらの世界訪れる事があるなら、この辺りに竜に関する情報、伝説等残ってるでしょうし。これもその伝説のひとつよね。それらを集めてみましょ」
 立て札の伝説をメモしつつ、エマが千剣破に答えた。
「でも、だとしたらその竜は、彼のお父さんの世界の竜とは別もの?だって、人々を助けたのでしょう?」
 立て札を見ながら、千剣破が言う。
「どうなのでしょうか。この伝説って1200年も前ですよね?その頃と今とでは、また違うかもしれないですし」
 と、マイは首を傾げていた。
「それで、どうですか?梓音さん、何か感じるところがありますか?」
「いや、まだ」
 自信がなさそうな梓音に、千剣破も続けた。
「あたしも、何か感じるものはないわね。やっぱり、竜が岳まで行くのがいいんじゃない?」
「そうッスね。竜が昇った山なら、そっちが怪しいっすよ」
 ヤマトは口笛を吹いていたが、何かを探しているようにも見えた。皆、様々な能力を持っているから、これも何かの能力なのかもしれないと、エマは思った。



「まあ、結構深い山ですね」
 マイがそう思ったのも無理はない。紅葉は美しいが、急な斜面が見え、木々が生い茂っていた。『竜が岳』と書かれた案内板の先に、山へと入る道が見えていた。
「確かに、竜がいても不思議でなさそうな場所だな」
 佑は山の景色を眺めながら呟いた。
「何だか、この山、不思議な感じがする」
 ずっと何かを考えていたような梓音が、やっと口を開いた。
「具体的にはわからねえが、そんな気がするんだ。霊感とか、そういうのに近い感覚かもしれねえ」
「あたしも、何となくだけど」
 今度は千剣破が答えた。
「彼と同じように、何っていう事はわからないのよ。何となくなんだけど」
「それでは、やはりこの山に何かがあるのかもしれませんね」
 マイが真剣な表情をして言う。
「あと数時間もすれば暗くなりますよ。捜索、急いだ方がいいッス」
 ヤマトが腕時計に視線を落としていた。エマ達は、すぐに山道に入り、千剣破や梓音の知覚力を頼りにしながら、山道を歩いた。黙々と歩いていると、やがてまわりが暗くなってきた。
「そろそろ、山下りた方がいいんじゃないか?暗い中だと危険だろう」
 佑が皆に注目する。
「危険があったら、私が盾に。でも、暗いと捜索は難しくなってきますね」
 マイはだんだん暗くなってくる、木々にさえぎられた空を見つめていた。
「それで、遠江君。何もない?私は、何も見つけられないのだけど」
「あ、あれは何だ?何か光っている」
 エマがそう尋ねた後、梓音が急に山の斜面の一点を指差した。
「あれなのか?入り口ってのは」
 梓音はそう言うが、少なくともエマにはそのようなものは見当たらない。
「あたしにも光は見えないわ。だけど、あの方向から何か、不思議な感覚を凄く感じる」
 千剣破がそう言っているところからして、竜の血を引く者しか感じられない何かが、そこにはあるのだろう。
「それなら、行きましょう。その、何かがある場所へ」
 エマがそう言った後、マイ達は梓音を先頭にして歩いていった。
 木々の間を抜け、岩が沢山転がっている殺風景な場所に出た、と思った時、急に世界がまわり始め、次の瞬間には高い崖のような場所に立っていた。山は暗かったが、ここは明るかった。
「あ、これは」
 エマ達の前に、大きな竜の石像があった。まるでこの場所を見守るように立っているその石像は、エマ達を歓迎しているようにも、追い払おうとしているようにも見えた。
「やっぱり、ここがその場所みたいね」
 千剣破が遠くを見つめて言う。
「あ、待って、皆、石像の裏に!早く!」
 エマが近づいて来る音を察知し、すぐに皆を石像の後ろへと追いやった。その直後、上空を巨大な竜、生きた竜が翼を広げて飛んでいった。
「本物の竜!始めて見たっス!」
 ヤマトは目を丸くしていた。
「間違いなさそうですね。さて、どうしますか?」
 竜がいなくなった後に、マイは梓音へと尋ねた。
「ここまで来たんだ。行くしかねえさ。手荒な事は避けたいが、けど、覚悟はしている」
 切り立った山があり、そこの斜面に巣のようなものが点在していた。竜達は、そこで生活しているのだろうか。
「目的をちゃんと話して、長居するつもりがない事を言えば、竜達もむやみに攻撃をしたりはしないだろうか。やるだけの事はやろう」
 佑が、竜の巣を見つめて言った。
 風が、皆の髪を揺らしていた。この大地のどこかに、梓音の父親がいるのかもしれない。それを信じて、行動するしかないのだ。(終)



◇登場人物◆

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0126/マイ・ブルーメ/女性/316歳/シスター】
【1575/天壬・ヤマト/男性/20歳/フリーター】
【3446/水鏡・千剣破/女性/17歳/女子高生(竜の姫巫女)】
【5874/舘岩・佑/男性/23歳/パチンコ店店長】

◇ライター通信◆

 シュライン・エマ様

 シリーズシナリオへの参加ありがとうございます。WRの朝霧です。
 今回のシナリオは、富士五湖や伝説、観光案内等のサイトを見ながら執筆しました。竜の伝説や、地名などは全部実際のものですので、かなりリアリティのあるシナリオになったかな、と思います。調べてて、とても楽しかったですね(笑)
 シリアスな話なので、エマさんが淡々と冷静に調査を進めていく様子を描いて見ました。先導しているシーンも多いですが、プレイングで竜ヶ岳を出して頂いたので、調査も的に当たっており、スムーズに目的地まで行く様子を描く事が出来ました。
 それでは、本当にありがとうございました。