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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


通販でGO!
●オープニング【0】
「え?」
 あやかし荘の管理人・因幡恵美は、とある空き部屋の扉の下の方にこんな張り紙がされているのに気が付いた。『通販商品発表会会場』と、そこにはあった。
「この字は……」
 誰が書いたのか、恵美にはすぐ分かった。これは嬉璃の文字である。それにだいたい、嬉璃はテレビショッピングが好きなのだから。
「でも……発表会って?」
 首を傾げる恵美。そこに、子供の妖狐・柚葉が通りがかって、ひょこっと張り紙を見た。
「あ、今日やっちゃうんだ、これ?」
「知ってるの?」
 柚葉の口振りは経緯を知っている様子。恵美が詳しい話を聞こうとした。
「うんっ、知ってるよっ! 珍しい通販グッズを持ち集まって、発表するんだって! ひょっとしたら交換することもあるかもって言ってたよ〜♪」
 楽しそうに言う柚葉。それを聞いて、何故か溜息を吐く恵美。
(今日も一騒動起こるのかな……?)
 いや、恵美さん、よく分かっていらっしゃる。その可能性は非常に……高い。
「ほれ三下、しっかり運ぶのぢゃ」
「うう……重いですよぉ〜」
 そんな恵美の耳に、嬉璃と三下忠雄の会話が聞こえてきた。見ると、三下は嬉璃に大量の座布団を運ばされていた。足取りはおぼつかなかった……。
 さてさて、発表会を覗いてみますか?

●閑古鳥【1】
「少ないのう」
 つまらなそうに嬉璃がつぶやいた。何がと言われれば、もちろん集まった人数がである。
 せっかく三下に大量に運ばせた座布団も、その大半は冷たいまま。つまり上に人が座っていない状態である。嬉璃がつまらなそうなのも当然だろう。
 さてさて、そんな発表会にわざわざ足を運んできたのは、シュライン・エマ、黎迅胤、内藤祐子の3人だった。3人とも各々に人数の少なさに何かしら思っているように見えた。
 さすがにこの3人と嬉璃だけでは少なすぎるので、嬉璃は近くに居たあやかし荘の住人たちを観客として連れてきていた。三下はデフォルトとして、後は恵美と柚葉の合わせて3人だ。これでも全部で7人にしかならないのだが……4人よりはまだましである。
「これ以上は集まりそうにないか」
 迅胤がぼそりと言った。骨休めになるかと思い自分がここに来てから1時間、恵美たちを呼んでからもさらに20分、この分ではもう参加者は増えないだろう。
「……みたいね」
 相槌を打つようにシュラインは言うと、小さくあくびをした。昨日は草間興信所で遅くまで書類のまとめをしていて遅かったのだ。
「そうぢゃな。仕方ない、これで始めるとしようかの」
 渋々といった感じで、前の方へ歩いてゆく嬉璃。祐子がパチパチと拍手をした。
「わあ、楽しみです」
 眼鏡の奥の瞳を輝かせている祐子。ちなみにその格好はメイド服であるが、あやかし荘では別段珍しい装いではないので誰も何も言ってこない。
「皆、こうして集まってくれて嬉しいのぢゃ。今日はどんな通販商品が出てくるか、わしも楽しみなのぢゃ。では、始めるぞ。心の準備はよいのぢゃな?」
 簡単に挨拶し、ニヤリと笑う嬉璃。ちょっとした脅しであろう。何しろ嬉璃を含めた参加者4人、何を持ってきたかはまだ自分しか知らないのだから。恐いものだらけになるかもしれないし、ほのぼのした物だらけになるかもしれない。それは蓋を開けてのお楽しみなのである。

●最近の逸品【2】
「まずはわしの最近手に入れた品を見せるのぢゃ」
 嬉璃はそう言って、三下に通販商品が載った台車を運ばせた。そこにあったのは、何の変哲もない高枝切り鋏だった。1メートル50センチほどだろうか。
「……普通だな」
 目を凝らす迅胤。けれども、どこをどう見ても普通の品にしか感じられなかった。
「ねえ嬉璃ちゃん。それ、普通のとどう違うのかしら?」
 シュラインが尋ねると、よくぞ聞いてくれたとばかりに嬉璃が頷いた。
「それなのぢゃ。今から見せる、驚くでないぞ。ほれ三下、渡すのぢゃ」
「はっ、はい!」
 嬉璃は三下から高枝切り鋏を受け取ると、それをしっかりと手に持った。……ちとよろけたのはご愛嬌。それでもやはり普通の品にしか見えない。と、嬉璃が何やら手元を動かした。
 ジャキン!
「あっ!」
 恵美が驚きの声を発した。何と高枝切り鋏が10センチほども伸びたではないか!
 ジャキン! ジャキン! ジャキン! ジャキン!
 また嬉璃が何やら手元を動かすと、高枝切り鋏は4回連続で伸びた。最初のと合わせて、50センチは伸びただろうか。
「どうぢゃ、手元のボタンを押すと、こうして1回10センチ伸びるのぢゃぞ。これが最大なのぢゃ」
「それは便利ですね」
 得意げな嬉璃に素直に拍手する祐子。ところが、シュラインが何か言いたげな顔をしていた。
「む、どうしたのぢゃ?」
 嬉璃がそんなシュラインに声をかけた。
「……もっと柔軟に伸縮する高枝切り鋏、売ってなかったかしら? 10段階くらいで、だいたい3メートルくらいになるの」
 シュラインが思い出しながら言う。ちなみに、嬉璃が今持ってる状態で2メートルだ。
「3メートルもあると、持てぬ」
 いや、そういう問題でなくて、嬉璃さん。
「俺も1つ気になったんだが」
 じーっと高枝切り鋏を見つめていた迅胤が口を開いた。嬉璃の視線が迅胤の方に向く。
「ボタンで伸縮するのは、何か意味があるのか?」
 素朴な疑問であった。すると嬉璃はふっと笑みを浮かべてこう答えた。
「ボタンでの伸縮はロマンなのぢゃ」
 どんなロマンだ。
「しかしお主ら、これだけで終わると思ったら大間違いなのぢゃ」
 おや、まだ何か機能があったのかと、皆の視線は再び高枝切り鋏に注がれた。
「何とぢゃな、切り鋏の代わりに包丁やらドリルやらをつけることが出来るのぢゃ!」
 ――集まった視線が1つを除いて散らばった。
「かっこいいーっ!!」
 その中でただ1人、柚葉だけが何故か目を輝かせていたのだった……。

●セミプロ(?)の目【3】
 2番手で持参した通販商品を紹介するのは迅胤である。迅胤はその場に座ったまま、皆に分かるようにその通販商品を見せた。
「俺が持ってきたのはこれだ」
 と言って見せたのは、手のひらサイズの銀色の物体。はっきり言って、よく見てもこれが何なのかよく分からない。
「あの、何だかモップの先のように見えますけど。お掃除関係の物ですか?」
 恵美がそう言うと、迅胤が鋭いなといった視線を向けた。
「その関係なんだろう。これは清掃用簡易ロボットだ」
「これが?」
 シュラインが首を傾げた。これのどこがロボットだというのだろう。
「……実際にやって見せた方がよさそうだな」
 迅胤は苦笑して、近くの誰も座っていない座布団を引き寄せた。
「はたきはあるか?」
「あ、持ってきます」
 恵美がすくっと立ち上がり外へ出てゆく。少しして、はたきを持って戻ってきた。
「見てろ」
 はたきを受け取った迅胤は右手でそのロボットを持ったまま、左手のはたきで座布団を軽く叩き始めた。迅胤はしばらく続けていたが、やがて叩くのを止めた。
「これで終わり?」
 きょとんとして柚葉が尋ねる。が、まだ終わりでなかった。迅胤がロボットを何やらいじくると、何と今度はそのロボットがはたきをぴたっとくっつけ、先程迅胤がやったみたいに座布団を叩き始めたではないか。ちょっとした歓声が沸き上がる。
「これも便利ですね。誰でも簡単に使えるんですか?」
 またしても素直に拍手し、祐子は迅胤に尋ねた。
「簡単だ。今みたくこいつを利き腕と反対側に持ちながら利き腕で何か掃除をすると、その都度覚えていて忘れることがない。次からスイッチ一つで、勝手に無駄のない完璧な清掃をしてくれる……という訳だ」
 説明する迅胤。なるほど、ごく普通に持ったように見えたが、ちゃんと意味があったようだ。
「いいですか?」
 と、今度は恵美が質問をする。そういえば、恵美は掃除が好きだったはず。
「何か掃除をすると記憶するんですよね」
「ああ、そうだが……」
「状況が変わるとどうなるんですか?」
 ――え?
「お部屋の模様替えをしたとか、そんな時です」
「……どうだったかな」
 恵美の質問に思案する迅胤。そういう説明があったかどうか、ちと記憶にない。
 考えてみれば、掃除の都度に覚えるということは、その状況を記憶するということなのかもしれない。だとしたら、状況が変わった時にどのような行動を取るのか……?
「まあ、まだ試作品らしいからな」
 迅胤がつぶやいた。その辺りは不具合あれば、今後の改良点となるのだろう。
 ともあれこれで迅胤の順番は終了、次に紹介するシュラインが準備を始める。すると、とことこと嬉璃が近付いてきた。
「少し聞きたいんぢゃが」
 耳元でぼそぼそと嬉璃が言った。
「試作とか言っておったが、どうやって手に入れたのぢゃ?」
 どうやら入手元が気になるらしい。迅胤は後でカタログを送ることを約束した。

●在庫処分【4】
 さて、3番手はシュラインだ。台車の上に、色々と通販商品が載っている。中でも目を引くのは、女性の膝を模した枕と、男性の腕を模した枕であろうか。
「……またよく分からぬ物ぢゃな」
 しげしげと眺めながら嬉璃がつぶやくと、シュラインは無言で苦笑した。こういう物が意外と売れたりする時代なのである。
「どうしてこういう物が必要なんでしょう」
 祐子が不思議そうに言った。
「んー、それなりに気持ちがいいらしいけど、その後が虚しそうよね」
 うんうんと頷くシュライン。すると、祐子は普通にこう続けた。
「だって、どちらも自分がしてあげられる物じゃないですか」
 その瞬間『え?』という空気が流れたかと思うと、次には何やら納得したような空気に変わった。
 ……何か微妙に誤解されたような気がしないでもないが、まあ誤解されたのは祐子じゃないはずだから大丈夫だろう、たぶん。
「これは、らしいな」
 迅胤が納得といった視線を向けているのは、煙草ケース型灰皿である。きっと草間武彦が使っていた物であろう。だからこその迅胤の言葉である。
「でもね、便利だけどこれもちょっとね」
「火が消せないのー?」
 柚葉がのんきに言うと、シュラインは首を横に振った。
「入れた吸殻より出る本数が多いみたいだって、持主がぼやいてたわ」
 どういう灰皿だ、それは。
「何か憑いてるのかもね……」
 いやシュラインさん、冗談なってませんから、それ。
「で、これがダウジングセット。2セット来たから余ったみたい。それからこの置物……」
 さらっとダウジングセットを紹介したシュラインは、続けて置物に目を向けた。それは妙なモアイの置物であった。
「これは何か由来があるんですか」
 三下がシュラインに尋ねた。
「さあ、何かしらね。頭は揺れるし、微笑ましいだけの物みたいだけど」
 と言ってモアイの置物を軽く揺らすシュライン。ゆらゆらとモアイの置物が揺れた。
「……あ、でも」
 シュラインがふと何かを思い出す。
「結露した窓に、小さい足跡が残ってたりしたことあったらしいわ。そばにこの置物があって」
「ほほう、面白そうな置物ぢゃな」
 嬉璃がニヤリと笑った。
「誰か欲しい人、居る?」
 ぐるり部屋を見回すシュライン。けれども、誰の声も上がらない。嬉璃はモアイの置物が気になっているようではあるが。
「じゃあ、三下くんにプレゼントしようかしら」
「何でそうなるんですかぁぁぁぁぁぁっ!!」
 三下が絶叫した――。

●乙女の大事な物【5】
 トリを務めるのは祐子である。祐子は部屋の外で準備を終えると、自分で台車を押して戻ってきた。台車の上には白い布がかけられていて、何が置かれているかは分からない。ただ、膨らみ具合からして何かを立てているようではあった。
「普段いつもお家に居ますから、暇な時間が出来ると通販カタログを読んでいるんです」
 祐子がにこにこと前口上を述べた。ならば結構な通販通であるかもしれない。期待が持てそうだ。
「何を持ってきたのぢゃ?」
 嬉璃が尋ねると、祐子は今からその説明を始めると言い、実際に話し始めた。
「今からお見せする物は、とても凄い物ですよ」
 一同は祐子の説明に耳を傾けることにした。
「私が持ってきたのはですね、緑色で、手のひらサイズの物です。形はですね、細長くて……あ、全体的にブツブツもしています。そして、電池式で……うふふっ、電源を入れると、ウネウネと動くんですよ〜」
 笑顔得意顔の祐子。実に楽しそうに説明する。その一方、聞いている側は表情が変わった者がちらほら……。
 迅胤は一瞬ニヤリとしたようにも見えたし、シュラインは何だか頭を抱えているようにも見える。かと思えば三下は視線を逸らしてるし、恵美は心なしか顔が赤くなっている。原因は今の祐子の説明にあるような気もしないでもないが、はてさて。
「お値段は定価5万5000円、いいお値段ですよね?」
 同意を求める祐子。けれども、何だか曖昧に頷く者が少なくなかった。
「では、そろそろお見せ……」
「あ、開ける……の?」
 白い布に手をかけた祐子に、確認するようにシュラインが言った。きょとんとなる祐子。目をぱちくりとさせた。
「……あ、はい、開けます。だってこれは楽しい物ですよ〜。寂しい時とか……1人で……ふふっ」
 真顔でそう答えてから、祐子は最後に意味ありげに微笑んだ。
「では、お見せしますね」
 そして一気に白い布を取り払う。次の瞬間――。
「ん?」
「え?」
「は?」
「何?」
「あ?」
「む?」
 各自発した声こそ違ったが、意味合いは同じであった。『これは何だ』、そう言いたげで。
 そこにあったのは、サボテンの形をしたおもちゃであった。祐子はそれを取り上げると、何やらスイッチを入れた。
「ほらほら、見てください! ウネウネ動くんですよ〜」
 確かに今あるそれは、祐子が言ったようにウネウネと動いていた。昔懐かしのおもちゃである。
「何でも復刻版らしいです」
 相変わらず得意顔の祐子。けれども、皆はそんな祐子に何と言っていいか分からない。結局、代表でシュラインが言うことになった。
「あー……ちょっといいかしら?」
「何ですか?」
「あのね……5万5000円はぼったくりよ。本来もっと安いはずだから、それ」
「はい?」
 祐子の動きがぴたっと止まった。
「その1割程度だろうな」
 迅胤が付け加えた。すると今まで得意顔だった祐子の表情が、たちまちに泣きそうな顔へと変わっていった。
「そ、そんなぁ〜」
 ぺたんとその場へ座り込む祐子。いやはや、ご愁傷様です――祐子さん。

●次なる品を求めて【6】
 最後は少々苦い終わり方になってしまったが、ともあれ通販商品発表会は無事に終了した。
 その翌日、あやかし荘の管理人室で嬉璃がカタログに目を通していた。表紙には『素人でも安全な裏取引通販』と書かれている。迅胤が後で送ると言っていたあれだ。
「ほほう、面白そうな物ばかりぢゃな……」
 興味津々といった様子の嬉璃。何だか近いうちにトラブルが起こりそうに感じるのは、決して気のせいではないだろう……。

【了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 1561 / 黎・迅胤(くろづち・しん)
                 / 男 / 31 / 危険便利屋 】
【 3670 / 内藤・祐子(ないとう・ゆうこ)
                / 女 / 22 / 迷子の預言者 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全6場面で構成されています。今回は全ての参加者の方の文章は同一となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせいたしました、びっくりどっきり商品……もとい通販商品発表会の模様をお届けいたします。本文にある通り少人数となりましたので、そう熱く盛り上がる発表会にはならなかったですけど、これはこれで味があったのではないかと思います。
・最後がちょっと気になる落ちですが……どんなことが起きるかは、またいずれ。
・シュライン・エマさん、96度目のご参加ありがとうございます。三下は引き取り拒否しましたが、たぶんそのまま三下の部屋に置いてゆかれることになった……と思われます。ひょっとすると、送り返してくるかもしれませんけど。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。