コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


Dead Or Alive !?

 午前0時3分。
 時計を見たらこの時間だった。
 綾和泉・汐耶は読みかけの本を開く。寝る前に本を読むのが彼女の日課だった。
 と―――
「ちょ・・・綺音!押さないでよっ」
「いーからお前先入れっ!あの女、めっちゃ気強そうじゃんっ。俺、あの手のタイプ苦手なんだって!」
「そんな勝手な・・・っ」
「・・・・・・」
 汐耶は無言で本を閉じ、ベランダのドアを勢い良く開ける。
「こんな夜中に非常識ですね。何か御用ですか」
 二人の少年がきょとんとした顔で汐耶を見上げていた。


【長生きの秘訣?〜綾和泉・汐耶〜】


 二人の少年の名は鎌形深紅と紺乃綺音。
 彼らは「ナイトメア」という人間界の魂の管理をしている場所から来たという。
 何故汐耶の所にやってきたのか訊いてみると、何でもその日のうちに死ぬ人間の名が記された「死亡リスト」とやらに汐耶の名が手違いで載ってしまったそうだ。
 その「死亡リスト」というのは絶対の存在で、例え手違いであっても一度記されたら最後、その人間は必ず死んでしまうのだと彼らは語った。
 彼らは彼女の命を護りにナイトメアから遥々やってきたそうで・・・
「どうやら本当の話のようね」
 眼鏡をかけ直しながら、汐耶は冷静に判断する。嘘や冗談でこんな夜中に他人の家のベランダに訪問するわけがない。
「信じてくれるんですか・・・?」
「何かあんた、非現実的なことは信じないって感じがするんですけど・・・」
「確かに私は現実主義だけど、目の前で起きていることは信じるわ」
 答えてから汐耶は綺音に向けて「あんた・・・ね。キミ敬語の扱いがあまりなってないわよ」と言い放つ。綺音は冷や汗を流しつつ「す・・・すいませんでした。汐耶さん」と言い直した。
「やっぱ俺、この女苦手・・・」
「綺音・・・!聞こえたらどうするんだよ・・・」
 ばっちり聞こえていますが。
 汐耶は口には出さずに突っ込みを入れた。小さく溜息をつく。
「それで、死亡原因は何でしょうか?明日も仕事ありますし。協力はもちろんして頂けるんですよね?」
「そりゃあ、もちろん―――」
 言いかけて、綺音は「あ」と一度言葉を止め、仕切りなおした。
「ええ、それはもちろんです。俺達はその為に来たんですから」
「僕達が全力で護りますので、どーんと大船に乗った気持ちでいてください」
「こいつはドジばっかであてにならないと思いますけど、俺は優秀なんで」
「えー!ちょっと綺音、それ酷いよ・・・っ」
 本当に大丈夫なのか。
 まあ、何があっても自力で何とかするつもりだが。
 深紅達の話では、汐耶の死亡原因は誰かに殺害される・・・とのことらしい。
「なるほど。良くわかりました。それで、無事に今日が終わったら、後日でもいいからキミ達、この一件に関しての責任者連れてきて頂けます?」
「は・・・?えーっと、それは何故・・・」
「お詫びの言葉一つぐらいないとすっきりしないので」
「・・・・・・」
 顔を見合わせる深紅と綺音。小声で何やら話し合い、答えたのは綺音の方だった。
「何とか掛け合ってみます」
「ええ。お願いするわ」
 汐耶は頷くとベッドに潜りこんだ。
「え・・・?あれ?寝るんですか?」
「当たり前でしょう。キミ達、ちゃんと見張っているのよ。寝ている間に私が死ぬなんてことがあったら、ただじゃおきませんからね」
「りょ・・・了解です」
 声を合わせて答える二人を一瞥し、汐耶は目を閉じた。


 汐耶は都立図書館で司書の仕事をしていた。
「怪しい人物がいたらすぐに知らせるように」
 と言い残し、彼女は自分の持ち場へ向かう。それを見送ってから綺音は肩の力を抜いた。
「怪しい人物っつったってなあ・・・」
「図書館で殺人とかあんまり聞かないよね」
 ”図書館では静かに!”と掲示してあるように、ここは常に静寂に包まれている。こんな中、事件が起きようものなら大パニックだろう。
 綺音と深紅は念の為緊張感を保ちつつ、図書館内をぐるぐると周り続けた。
「何か変わったことはありました?」
 声に振り返ると汐耶が立っている。休憩時間になったので様子を見に来たそうだ。
「特に何も。怪しい奴なんて見当たりませんよ」
「汐耶さんは自分の命が狙われることに何か心当たりとかあります?恨みを買ってるとか」
「恨み・・・」
 汐耶はほんの少しだけ考え込んだあとで、首を横に振った。
「それはないわね。と、いうより―――」
 彼女の眼鏡がキラリと光る。
「やられたらいつも3倍返しくらいにはしているので、私に楯突こうとする人間なんていないんじゃないかしら」
「そ・・・そうですか」
 ――やっぱこの女、こえーって・・・!!
 綺音は心の中で悲鳴をあげる。恐らく彼女に殴られる羽目になるであろう自分の上司に心から同情した。
「それなら何で殺されるんだろ・・・」
「私が思うに要申請閲覧図書を狙った人物に殺されるんじゃないかしらね」
「要申請閲覧図書・・・?」
「曰く付の本だとか、魔術書だとか、珍しいものが多いから盗もうとする輩も多いのよ」
「なるほどねえ・・・」
 綺音にしてみれば本などただの紙切れで、盗もうとする人間の気が知れないのだが。
 汐耶が時計を見る。
「そろそろ時間ね。そういうわけだから、引き続きよろしく」
 汐耶の姿が完全に見えなくなってから、綺音はぼそっと呟いた。
「汐耶さんってさあ・・・放っておいても死なないんじゃねーの?何か自分で何とかしちまいそう・・・」
「はは・・・。それ、僕も思った」
 性格正反対の二人だが、この時ばかりは意見が合った。

 午後4時。
 綺音と深紅は要申請閲覧図書の整理をしている汐耶を眺めていた。周りに人気はない。
 犯人が狙ってくるなら、恐らく今。
 視線を感じた綺音が深紅の肩を叩く。
「深紅、あいつ」
 だいぶ離れていて顔はよく見えないが、確実にこちらの様子を伺っている人影があった。二人が去り、汐耶が一人になるのを待っているのだろう。
「鎌をかけるわよ」
「え?」
 本の整理を続けながら汐耶が自分の作戦を話す。わざと汐耶を一人にして、犯人を誘き出せというのだ。
「あの・・・っ汐耶さん。わざわざ自分を危険に晒すことないんじゃ・・・」
「そーですよ。俺達がそばにいれば多分安全――」
「それじゃ私の気がすまないわ」
 ぴしゃりと言い放つ汐耶。
「それに今捕まえておかないと、また来るかもしれないでしょう?キミ達、毎日私のそばにいるつもり?」
「・・・」
 確かに。
 綺音は息を吐き出すと、まだ躊躇っている深紅の腕を引き犯人の視界に入らない所まで移動した。汐耶は何事もなかったかのように整理を続ける。
 彼女は恐怖を感じないのだろうか。
 確実に襲いかかってくるであろう、犯人に。
 と―――
「綺音。私に向かって全力で走りなさい」
 汐耶の声に反射的に体を動かす。何が何だかわからないまま、とりあえず走った。
「でえ!?」
 視界にうつる銀の光。 ナイフだ。
 綺音は咄嗟にスピードを落とすことができず、そのままナイフを持った男に体当たりをしていた。男が本棚に激突し、その上に本が数冊落ちる。
「計算通りね。素晴らしい反射神経だわ」
「あんたは俺を殺す気かっ!!刺さったらどーしてくれるんだよっ」
 床に膝をついて喚く綺音。文句を言いつつも、犯人が持っていたナイフはちゃっかり回収している。
「キミ達、私を護りに来たんでしょう?体張るのは当然よね」
「そ・・・そりゃ、そーだけど・・・・・・」
「綺音っ。大丈夫?」
 深紅が駆け寄ってくるのと、犯人が身を起こしたのがほぼ同時だった。犯人は素手で汐耶に掴みかかり、そのまま彼女を押し倒す。
「汐耶さんっ」
 叫ぶ深紅に向けて、汐耶が何かを転がした。透明な液体の入ったビンだ。
「お前ら動くなよ。動いたらこの女の首、へし折ってやるからな」
「首をへし折る?笑わせるわね」
 首に手をかけられつつも、汐耶は余裕の表情だった。
「キミの細い腕じゃへし折るのは無理でしょう。きっとその前にそこの少年がキミに正義の鉄槌をくだすことになるわ」
 犯人が顔だけを深紅の方に向けた。深紅はビンを手に首を傾げている。
「硫酸を背中にかけられたら痛いでしょうね?」
「な・・・」
「うええええええええ!?」
 犯人よりも驚いていたのは深紅の方で。ビンを取り落としそうになっている。泣きそうな顔で綺音を見た。
「こ・・・これかけるの・・・・・・?」
「や。俺に訊かれても」
「早くしなさいっ」
 汐耶の声に押され、深紅は恐る恐るビンを開ける。目をきつく閉じて、思いきって犯人の背中にかけた。
 悲鳴があがる。
 汐耶は気絶した犯人を自分の上からどかし、立ち上がった。
「ご苦労様」
「あー痛いーっ、硫酸痛いーっ」
 頭を抱えて悶える深紅の肩を綺音が突付いた。
「ちょっと待て、深紅。落ち着いて犯人見てみろよ」
「へ・・・?」
 犯人の背中。
 シャツが濡れているだけだった。
「硫酸なんてかけたら、普通服が溶けたり肌が爛れたりするんじゃねーの?」
「そ・・・そういえば・・・何で・・・」
 汐耶の方に視線をやると、彼女はしれっとした表情で言い放つ。
「そのビンの中身が硫酸だなんて誰がいいました?」
「な・・・っえ・・・?」
「私はただ”硫酸を背中にかけられたら痛いでしょうね”と言っただけ。キミが勝手にビンの中を硫酸と勘違いして犯人の背中にかけたのよ」
「ええ!?」
 汐耶は伸びている犯人を見下ろし、「ふふ」と笑う。
「人間の思い込みというのも侮れないわね。ショックで気絶するなんて」
「う・・・嘘・・・・・・」
 へなへなとその場に座りこむ深紅からビンを奪い、臭いをかいでみる綺音。
「何だよ。これ、酢じゃん」
「酢ぅ!?何でそんなもの持って・・・・・・」
「酢って健康にいいでしょう?最近ちょっと飲むようにしてるのよ」
「えー」
 そんなのアリか。
 脱力する深紅と綺音に汐耶が言った。
「さて、キミ達。警察を呼んでもらえるかしら?」


 その後、当初の約束通り「死亡リスト」を管理している上層部の中でも一番の責任者の男を汐耶の前に突き出した。
 汐耶が恐いほどの無表情で繰り出したパンチは強力で。
 男の意識を飛ばしてしまうほどだった。
 汐耶は深紅と綺音を交互に見つめ、微笑む。
「一応、ありがとうと言っておくわ。キミ達のお陰で私は助かった」
「僕達がいなくても、汐耶さんなら大丈夫そうでしたけど・・・」
「まあ、確かにそうね」
「否定しないのかよっ」
 綺音は溜息をつき、力のない声で呟いた。
「あんた絶対長生きする・・・」
「それは光栄だわ」


 簡単に死んでやるつもりはない。
 だって生きる事が人間の一番の仕事でしょう?


fin

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

PC

【1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)/女性/23/都立図書館司書】

NPC

【鎌形深紅(かまがたしんく)/男性/18/生命の調律師】
【紺乃綺音(こんのきお)/男性/16/生命の調律師・助手】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

初めまして。。ライターのひろちという者です。
今回は発注ありがとうございました!
納品の方が遅れてしまい、申し訳ございません・・・。

調律師の二人が汐耶さんを護るシナリオのはずが、最初から主導権は
汐耶さんが握っていたようで・・・
むしろ二人が四苦八苦するような話になりました。
楽しんで頂けたなら幸いです。

また機会がありましたらその時はよろしくお願いしますね。
では、ありがとうございました!