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お片付けの悲劇〈物捕獲大作戦〉
■□■オープニング□■□
「なぁんで、あたしが片づけしてるのぉ〜。も〜、つかれたぁ〜!」
「仕方ないよ。いつも皆さんにはお世話になってるんだから・・・。」
「お世話になってるも何も、りっちゃんは此処の生徒じゃんっ!」
少女はそう言うと、ペタリと力なく床に座り込んだ。
運動会が終わっての後片付けは、ちょっぴり寂しくもあり、それでも楽しかった思い出が次々に蘇ってくるものだ。
「ほらほらもな、立って。もう少しで終わるから、頑張ろう?」
「むぅ〜。」
京谷 律はそう言って片桐 もなを引っ張った。
もなが無駄な抵抗を試み・・・直ぐに諦めて立ち上がる。
「後、そこのダンボールを片付けたら終わりだから。もな、あれを隣の準備室に置いてきて。」
「・・っはぁ〜い。」
律に指示をされて、もなは渋々その箱を持った。
結構・・いや、かなり重い。そんなに大きな箱ではないのに、どうしてこんなにも重いのだろうか?
普通の女の子なら持てないような重さだが、もなは力に自信があり・・・言ってしまえば怪力なため、余裕で持てるのだ。
「気をつけて持って行ってね。」
「はぁい。」
律の言葉を背に、もなはカチャリと扉を開け、廊下に出て、1歩目を踏み出した途端・・・。
「なっ・・・え??キャァっ!!」
右足が左足に絡まると言う、途轍もない状況下の中で何もない所で転んでしまった。
何もないと言うか、左足があったと言うか・・・。
ガシャンと、大きな音が廊下に響き渡る。
持っていたダンボールは床に落ち、中身が散らばって・・・。
「えぇぇぇぇっ!!??」
“その光景”を見たもなは驚きのあまり固まってしまった。
「もな、今の音は・・・あ〜〜っ!!」
部屋から慌てて出て来た律も、もな同様“その光景”に唖然とする。
散らばった物から手と足が伸び、ひとりでに動き出しているではないか・・・!!
「りっちゃん・・なにこれぇっ・・・・!!なんの競技に使ったのよぉっ!」
「知らないよ・・とにかく、早く散らばった物を集めないと・・。」
バラバラと、めちゃくちゃな方向に飛んで行ってしまう物達。
「・・・も〜!こんなのあたし達だけじゃ無理だよっ!!!誰か〜〜〜っ!!!」
□■□シュライン エマ■□■
「誰か〜〜〜っ!!!」
その声に、シュラインはピクリと反応した。
聞き覚えのあるその声と、緊急事態が発生したとしか思えない叫び声。
「また何か・・・」
やってしまったのかしら?その言葉を飲み込むとシュラインは駆け出した。
兎にも角にも、緊急事態である事には間違いない。それが、どんな緊急事態なのかは、今の段階では極力考えない事にして・・・。
声の方に向かって走る。走って、走って・・・?何かが今、自分の足元を通り過ぎて行ったような気がしたが・・・まぁ、それは置いておこう。
とにかく“何か”緊急事態が起こっている事は確かなのだから。
「どうかした・・・」
角を曲がり、廊下に出たシュラインは、思わずその場でフリーズした。
ペタンと座り込み、今にも泣きそうな顔でダンボールを腕に抱いているもなと、なにやら必死にあくせく動き回っている律。
そして・・その場所には地獄絵図が広がっていた。
逃げ回る、物物物・・・。
「・・・なに・・これ・・・??」
「しゅ〜らぁ〜い〜ん〜ちゃぁぁぁ〜〜〜ん。」
くるりと、ツインテールを揺らしながらこちらを向いたもなの顔は、酷いものだった。
「どうしたの、これは・・・?」
「もなが転んで、ダンボールの中のものをぶちまけちゃって・・そしたら・・・コレです。」
律が、目の前のカセットビデオと必死に格闘しながらそう言う。
「とにかく、シュラインちゃん・・・手伝って!あたし達だけじゃ、どうにもなんなくって・・バラバラになっちゃって・・・。」
今にも泣きそうになるもなの頭を、ポンと優しく撫ぜると、シュラインはにっこりと微笑んだ。
「大丈夫、私も手伝うから。ね?」
「シュラインちゃん〜・・・」
シュラインはもなを元気付けるかのように、その背をポンと軽く叩くと、バラバラに散っていった物を追って行った・・・。
■□■おしゃべり出来るかな?□■□
走って走って、シュラインはいくつかの物を片手に再びもな達の元に戻って来た。
「あ、シュラインちゃん・・・!」
もなが、目の前の本達と格闘しながら大輪の笑顔で迎えてくれる。
「も〜!本が・・・いったたたた・・・。」
本を無理やりダンボールの中に入れようとするもな。それに必死の抵抗を見せる本達。
もなの髪を本の間に挟んで引っ張ったり、もなの手を挟んだりしている。
「も〜!!!あたし、怒ったんだからぁっ!!」
もなが立ち上がり、力任せにダンボールの中に入れようとして・・・その後頭部を、別の本が殴った。
「いったぁ・・・も〜・・・いやぁ・・・。」
とうとうもなはその場にペタリと座り込んでしまった。本達がその周りをしてやったりと言った感じでグルグルと回る。
「あらあら・・・。」
シュラインは手に持っていた物をひとまずダンボールの中に仕舞うと、もなの頭を優しく撫ぜた。
「道具達も、騒ぎ足りないのかしら?」
そう言って、本達を見つめる。グルグルと、楽しげに回る本達に、今にも泣きそうな様子で拳に力を入れるもな。
律の姿はない。おそらく、物を探しに何処かへと行ってしまったのだろう・・・。
「そうねぇ、手足だけじゃなくて口もついていればお話も聞けるのだけど・・・。」
駄目かしらね?そう言いかけたシュラインの目の前で、本がパカっと背を開けた。
真っ白なページに浮かぶ小さな黒い文字。その中のいくつかが、赤く光り輝く。
「あら?何かしら・・・?」
『し・ゃ・べ・れ・る』
「貴方達、しゃべれるの?」
『そ・う』
シュラインは、思わず本を覗き込んだ。
黒い文字を斜め読みでサァっと目を通す。・・・どうやら、ホラー物の本のようだ。
冒頭の一文は“この館の中には、俺達以外には誰もいないはずだったのに、どうしてだか気がつくと物が移動しているのだ。”だ。
なんだかこの状況とほんの少しマッチして、少々怖くなる。
それは物に手足が生えて・・・そんなわけないわね。
「まだ、騒ぎ足りないのかしら?」
『う・ん・す・こ・し』
「そう・・・。それは困ったわね・・もう少しおしゃべりしたり、遊んだりしたら、ちゃんとダンボールの中に戻ってくれるのかしら?」
『た・の・し・め・た・ら・な』
どうやら、物達を楽しませればおとなしくダンボールの中に戻ってくれるらしい。それならば、探す手間も追う手間も省ける。
「それじゃぁ、皆を集めてくれるかしら?」
『ぜ・ん・い・ん・は・む・り・だ・け・ど・な・ん・に・ん・か・な・ら』
「貴方が集められる範囲で良いわ。ありがとう。」
『ど・う・い・た・し・ま・し・て』
本はそう言うと、トテトテと走って行ってしまった。
どうやら他の仲間を集めに行ってくれているらしい。
「さて、あっちはこれで大丈夫だとして、どうやって物達を楽しませましょうか。」
シュラインはそう言うと、もなの瞳を見つめた。もうその瞳は泣きそうな色ではなかった。
「ダンスとか、歌とか・・・そしたら、楽しいんじゃないかな?あたし、踊るのも歌うのも好き!」
「そうね・・・。」
ダンス・・歌・・良いかも知れない。なかなか楽しい事になりそうだ。
「それじゃぁ、何か・・ラジカセみたいなものが必要ね。」
「あ、それなら・・もなのMDウォークマンがあるよ。音を最大に上げればそれなりに大きい音出るし・・。」
もながチラリと廊下の隅に置いてあるダンボールを見つめた。
その中には、律が必死になって押し込めたラジカセとテープが入っていたのだが・・・何のテープだか解らないし、もし再び動き出したとしたら・・・。
「そうね。それじゃぁ、それでやりましょうか。」
シュラインはふわりと微笑むと、本達が帰ってくるのを待った。
□■□レッツダンシング■□■
なかなか戻ってこない本達に、しびれを切らしたもながここを走って行ってからかなり時が経っていた。
まさか校内で迷子になっているとは思っていないが、もしかしたら、途中で本達と遭遇して・・・。
「なんだか仲が悪そうだったものね・・。」
シュラインはそう呟くと、とりあえずその場を離れる事にした。
ダンボールの中のものはいたっておとなしく、離れていても大丈夫そうだ。
走り出したシュラインの耳に、バタバタと何かが走ってくる音が聞こえた。・・この音からするに・・どうやらもなの足音のようだ。
「行ったよ〜!!」
「よっし!」
声の方をチラリと覗いてみる。金髪の少年・・・桐生 暁だ・・が、何かを必死に掴んでいる。
「よし、1匹ゲットだ・・・」
ゲシィっと、鈍い音がして暁が蹲りシュラインとは反対方向へふわふわの茶色いぬいぐるみ・・・馬??・・が、走っていくのが見えた。
「大丈夫〜!?暁ちゃん・・・!?」
もながお腹を押さえて蹲る暁に走り寄る。これは、私も出た方が良いのかしら・・・?
「馬は流石に反則だよね・・・。キックとか、ナシ!」
もなが暁の背中をさする。なんだかとても苦しそうだ。保健室に運んだ方が良いかも知れない。
そう思い、シュラインがそちらに行こうとした瞬間、暁は立ち上がった。
「・・でも、負けない。だって、男の子だもん!」
そう言って馬が走って行った方に向かって走り出した・・・。
「あ、シュラインちゃん。」
しばらくそちらを見つめていたもなが、シュラインの姿を見つけ、にこりと微笑む。
「もなちゃん。遅いからどうしたのかと思ったわ。」
「うん。ちょっと暁ちゃんに会って・・あ、そうだ、本達は?」
・・すっかり忘れていた。もう戻っているかも知れない。
「それじゃぁ、戻りましょうか。」
シュラインともなは、駆け足で再び先ほどの廊下に戻ってきた。いくつかの物が集まり、その場でグルグルと所在なさげにしている。
「あら、お待たせしちゃって・・・。」
「それじゃぁ、始めよっか!音楽スタート!」
もながそう言って、ウォークマンの電源を入れる。その小さなイヤホンからは、かなり大きな音が流れてくる。
かなりアップテンポの音楽だが、物達はなかなか良い動きで踊りだした。
音楽にあわせて、シュラインが手拍子を叩く。
もなも楽しそうに手拍子を叩いたり、少し踊ってみたりしている。
数曲を踊った物達は、ひとりでにダンボールの中へと入って行った。
もながウォークマンの電源を落とし、廊下は再びもとの静寂さを取り戻す。
『た・の・し・か・っ・た』
「それは良かったわ。」
『あ・り・が・と・う』
「・・こちらこそ、ありがとう。」
その時、ほんの少し、本が微笑んだ気がした。
もちろん・・本が微笑むなんてあり得ないのだが・・それでも、ふわりと、柔らかく微笑んだ気がした。
本は自分の足でトテトテとダンボールの中に入ると、コテンとダンボールの底に沈んだ。
■□■最終手段□■□
しばらくして、少々やつれた律が帰ってきた。
その両手には、消しゴムからノートから、沢山の物が抱え込まれている。
「やはり・・全部の物を1つ1つ集めるのは時間もかかりますし・・・。」
律が手に持った物をダンボールの中へとそっと入れる。
「だよねぇ。小物とか、集め切れないもん。」
もなはそう言うと、律の手に持った消しゴムをひょいと取り上げた。
可愛らしい手足をバタバタさせて、なんとかもなの手から抜け出ようともがく。
「恐らく蓮さんの所の道具じゃないかとも思うのだけど。」
こんな不思議な物は、蓮の所の物以外に思い当たる節はなかった。
「とりあえず、皆さんを集めて作戦会議・・のようなものを開いた方が早いかと。」
「そうね。案を出し合えば、良い作戦が思い浮かぶかも知れないし・・・。」
「解った・・それじゃぁ、電話するよ。」
スカートのポケットをあさり、ピンクの可愛らしい携帯電話を取り出すと、もなはどこかへと電話をかけ始めた。
『ねね、やっぱりラチあかないねって事になって・・みんなで作戦会議開く事にしたの!だから、いったん戻ってきて!』
「やっぱり、一つ一つ追って捕まえるって言うのは大変だから・・・ね〜、なんか良いアイディアないかなぁ?」
その場には、もなと律を含め、先ほど見かけた暁と、シオン レ ハイの姿があった。
「ん〜・・やっぱり、小物は掃除機かなんかで一気に吸っちゃった方が早いかも知れないわね。」
「そうですね。さっきの小豆は大変でした。」
シュラインの意見に、自慢げに小瓶に入った小豆を見せるのはシオンだ。
その頭には金髪タテロールのヅラがちょこりと乗っている。
「ねぇ、シオンちゃん。それは何のファッションなの?」
「はい??」
「・・・まぁ、いっか。そのまま乗っけてて。」
シオンが頭上に巨大なハテナマークを掲げるが・・まぁ、あながち似合っていなくもないので、それはそれで置いておく事にする。
「大きいものでも、吸い込んで動きを止めてるうちに捕獲してもらえば大丈夫だし・・。」
「うん。そうだねぇ。」
「俺さぁ、さっきまでぬいぐるみ追いかけてたんだけど・・・古典的だけどさ、物で釣るって言うのはどうかなぁ?」
そう言って暁は、さっと人参を取り出した。なぜ、背後から人参が出てくるのか・・誰も説明できるものはいない。
「それぞれが好きそうなもの持って見せて、ソレをダンボールん中へポイっとすればさぁ。」
確かに、ぬいぐるみを掃除機で吸ってしまうのはなんだかいたたまれない。
物とは言え、動物は動物だ。もしかしたらそれにつられて自らダンボールの中に入ってくれるかも知れない。
「そうね。あと、お皿とかの割れ物も掃除機で吸うのは酷ね。」
「掃除機で学校中の色々なものを吸い寄せてみましょうか。ちょっと、強硬手段になりますけど・・流石に、これだけ散らばってしまったら一つ一つ探すのは大変ですし・・・。」
律はそう言うと、ちょっと待っててくださいと言い残してどこかに走って行ってしまった。
「掃除機を借りに行ったんでしょうか?」
「そうね、後・・蓮さんから、ちょっとしたお札なんかも借りてくるかもね。」
「あ、帰ってきたよ!」
走ってくる律の手には、結構大きめな掃除機。引きずってはいるものの、少々重いらしく、足取りはおぼつかない。
暁がすかさず走り寄り律の手から掃除機を受け取る。
「もしかしたらと思ったんですけど、やっぱりこの物達はシュラインさんが言っていた通り蓮さんのところの物だったようで・・これをお借りしてきました。」
律が、一枚のお札をポケットから取り出す。
様々な色彩のお札の中央には、何語か分からないがなにやら文字が書かれている。
「これを掃除機に貼って・・スイッチを入れれば“物”だけが吸い寄せられる仕組みなんだそうです。」
「画期的ですね〜!」
そう言って珍しげにお札を眺めているのはシオンだ。
「あと、コレは・・はい。」
にっこりと微笑んで、律は暁に一枚のお札を渡した。
先ほどのお札とは少し違う・・黒だけで描かれたシンプルなお札だ。
「これは、色々な“食べ物”を具現化出来るお札って、言ってました。念じれば出てくると。」
暁は試しに天丼を思い描き、念じた。
ポンっと軽い音がして目の前に天丼が浮かび上がる。湯気がほんのりと立ち上り、匂いそのものも天丼だ。
「わ〜!!天丼ですっ!」
目の色を変えて天丼に手を伸ばしたのはシオンだ。手に持ったお箸をそのまま天丼に・・・スカッ。箸は宙を切った。
「結局、具現化出来ると言っても、視覚、嗅覚だけのようですよ。」
律が苦笑しながらシオンの肩を叩く。味覚まではどうやら補ってくれないらしい。
「移動も、念じれば出来ます。消す事も、出来ます。」
「ふーん。」
暁が、天丼を左右に振る。シオンが思わずそれを凝視する。
そして、天丼はぱっと音もなく消失した。
「慣れれば簡単だね。それじゃぁ、俺はコレを使ってぬいぐるみをどうにかするよ。」
「小物は、掃除機の吸引力で大丈夫ですけど、大きい物は近くまでしか吸い寄せられません。割れ物は、小さければ吸い込んでしまうかも知れませんが・・。」
「それじゃぁ、割れ物から先に片付けた方が良さそうね。大きい物は掃除機で吸い寄せたままにしておいて・・。あと、吸い込み口にガーゼをつけましょう。そうすれば、小物も吸い込まずにすむわ。でも、割れ物の小物は吸い込み口にくっつく前に拾い上げた方が良さそうね。」
「うん。それじゃぁ、ガンバロー!」
エイエイオー!と、もなが腕を上げた。
「それじゃぁ、用意は良い〜?」
もなが掃除機を持ったまま、待機している暁、シオン、シュライン、律に声をかける。
「いつでもOK!」
「こちらも大丈夫です!」
「えぇ、大丈夫よ。」
「大丈夫。」
「それじゃぁ、いっくよ〜!」
カチリと音がして、空気が吸い込まれて行く。
後方からの風の威力は凄まじいが、それでもどうやら“物”以外には何も起こらないらしく、風を感じるだけでそちらに引っ張られそうになったりはしない。
「皆さん!来ました!」
律の声とともに、前からは大量の“物”が吸い寄せられて滑ってくる。
鍋の蓋から、ブラシから、靴から・・凄い量の“物”がこちらに吸い寄せられてくる。
「まずは割れ物から・・。」
シュラインがそう言って、目の前を滑ってきたお茶碗をそっと手に持った。
可愛らしい花柄模様の美しい茶碗には、にょきっと手足が伸びている。
「あぁ、これも割れ物ですね・・・。」
シオンがそう言って、ビンを拾い上げる。
その中には、小さなビーズが所狭しと入っており、その一粒一粒には小さな手足がくっついている。
「一石二鳥・・ですね。」
そう言いながら、ぼんやりと先ほどの“物”が小豆で良かったと思った。ビーズとなると、流石に骨だったろう・・。
「来た来た。」
暁はにんまりと微笑むと、目の前に次々“食べ物”を作り出していった。
肉、レタス、魚、骨・・・そして・・・人参・・・。
「よし、取って来〜いっ!」
そう言って、廊下の隅に置かれたダンボールの中に“食べ物”を放り投げる。
ぬぐるみ達は一目散にそちらに走って行き、コテンと動かなくなった。
もちろんその中には先ほどの馬もきちんと入っている。
「集めたものはダンボールの中に入れましょう。」
シュラインの声で、手に持った“物”を次々とダンボールの中に入れて行く。
まずは割れ物、次に大きな物。そして最後は、掃除機の吸い込み口にくっついている小物だ。
もなが掃除機のスイッチを入れたままダンボールの所まで走って来て、プチンとスイッチを切った。
吸い込み口にくっついていた小物達が、ざーっとダンボールの中に入って行く。
ダンボールの中には様々な“物”が所狭しと並んでいた。
その中には、シオンが先ほどまで被っていた金髪タテロールのヅラもしっかりと入っている。
「ふぅ。なんとか全部ダンボールの中に入れたけど・・ぐちゃぐちゃだね。でも、またダンボールから出したら暴れちゃうかなぁ。」
「ううん。蓮さんが“物は、不可抗力でダンボールから出されない限りは手足が生えない”って言ってたよ。だから、また落としたりしなければ大丈夫。」
「それじゃぁ、整理整頓しましょうか。」
シュラインがそう言って、ダンボールの中の物を取り出して行く。
それをシオンと暁も手伝う。
「それにしても・・これは何に使ったのでしょうか・・。」
「さぁ・・。借り物競争かなにかで使ったのかなぁ。」
「何にしろ、痛まないようにまた次の活躍の時までちゃんと仕舞ってあげたいわよね。」
それぞれが手に持った“物”を労わりと優しい気持ちを持ってそっとダンボールの中に仕舞う。
なんでも手に入ってしまう世の中。使い捨ての容器。ゴミへと変わる物。
そんな物達に、もしも手足が生えていたならば・・きっとゴミ捨て場から飛び出して、自由に街中を歩き回ったかも知れない。
「ちょっと大変だったけど、物達が楽しかったんなら、それでいーや。」
暁はそう言うと、ふわりと穏やかに微笑んで手に持った兎のぬいぐるみをダンボールに仕舞った。
「そうですね。皆さん、たまには動き回りたかったのかも知れませんしね。」
シオンがヅラの毛並みを綺麗に整えて、ダンボールの中に仕舞う。
「ご苦労様。」
シュラインが、優しく物を撫ぜながらダンボールの中へと仕舞って行く。
「皆さん、もし宜しければこの後で喫茶店に行きませんか?手伝ってもらった御礼もしたいですし・・。」
「いーね、喫茶店。」
「お・・・おおお・・お礼・・ですか?!」
「そうね、少しゆっくりしてから帰りたいわね。」
律の提案に、暁とシオンとシュラインが賛同する。
もなも、何も言わずににっこりと微笑んで頷いた。
「ありがとう。次に使われる時まで、ゆっくり休んでね。」
そっと、ダンボールの蓋を閉じる。再び開けられる日まで・・・。
〈END〉
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 組】
4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト/トランスメンバー/劇団員/赤組(朱雀)
3356/シオン レ ハイ/男性/42歳/びんぼーにん+高校生?+α/白組(白虎)
0086/シュライン エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員/白組(白虎)
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■ ライター通信 ■
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この度は『お片付けの悲劇〈物捕獲大作戦〉』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
さて、如何でしたでしょうか?
オープニングと最終手段の途中から以外は個別に執筆させていただきました。
なにか心にふわりと残るものが描けていればと思います。
それでは、またどこかでお逢いいたしましたらよろしくお願いいたします。
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