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<東京怪談・PCゲームノベル>


〜IF〜 田中くんの恋人3


 よく晴れた冬の空。
 舞い散る落ち葉と澄んだ空気が心地よい。
「んっ……良い天気ね」
 少し前を歩いていた樟葉が振り返り、嬉しそうに早くと手を振る。
 今日の休みは忙しい合間を縫って、やっと手に入った貴重な一時だ。
 楽しみたいと思うのは祐介も同じ。
 そこに加えて、二人でゆっくりと羽を伸ばせたらと言うのが一番の希望でもある。
 どこに行こうか考え、選んだのがこの広域公園。
 こうして何も考えずにのんびり歩くのは良い気分転換になるだろうし、楽しそうな姿は見ているだけでこっちも嬉しくなってくる。
「寒くありませんか?」
「そうね、少しだけ寒いかも」
 それならと差しだした手に、樟葉がするりと腕を絡め寄り添うように並んで歩く。
「マフラー解けてますよ」
「ありがとう」
 柔らかい毛糸で編まれたマフラーを巻き直すと、樟葉が嬉しそうに目を細める。
「急に寒くなったわね」
「ほんの少し前までは過ごしやすかったですから」
「そうなのよ、今デザインを考えてるのは春物だから頭がこんがらがって来ちゃう」
「……ご苦労様です」
 夜遅くまで仕事を考えている姿が容易に想像でき、休みを取ってくれて良かったと本当にそう思う。
「大丈夫よ、ちゃんと休むときは休んでるから。今みたいにね」
「それは何より」
 優しく微笑む裕介に、それ以上に嬉しそうな樟葉に微笑み返される。
「ご飯一緒に食べたりとかはあったけど、一日完全にオフって言うのは久しぶりよね。ごめんね、寂しかったでしょう?」
「仕事が仕事ですから……って、俺はペットか何かですか?」
「もちろん冗談よ」
 口元を指先で隠しつつ笑う樟葉に、裕介も苦笑する。
 人をからかって反応を楽しむのが好きなのだ。
 それが息抜きになればと言うのもあるが、少しばかり困った癖ではある。
「もう少ししたら一気に忙しくなるから、いまの内に羽を伸ばさなきゃ……って、台詞、前にも言った気がするわ」
「夏頃ですね、確か」
 盆進行に会わせてちゃんとスケジュール調整はしていたはずなのだが、それでも目が回るような忙しさだった。
「……ちょうど夏にデートした後だったのよね」
 そこはかとなく遠い目をしたのは、またもや同じ事になっている自分の姿を予想してのことだろうか?
「その時は呼んでください、お手伝いしますから」
 前も同じ言葉を言った気かするが……だからこそ効果があることも解っていた。
「本当、ありがとう。嬉しいわ」
「どういたしまして」
 二人して同じ事に気づいたらしく、小さく笑いながら言葉のやり取りをいくらか繰り返してから、思い出したように話題を変える。
「煮詰まりすぎはよくありませんから、部屋にこもらないで程々にしてくださいね」
「そうね、今度はそうするわ。あっ!」
 何かに付き足を速めた樟葉に裕介も後へと続いた。
「何か見つけました?」
「少し先にボートがあるみたい、乗ってみない?」
「いいですね、楽しそうです」
 無邪気にはしゃぐ樟葉をエスコートして、ボートに乗り込む。
「広々してて気持ちよさそう」
「少し寒いですから」
 人気があまりないのもその所為だろうが、寒さえ気にしなければゆったり出来る。
 ボートを借り、先に祐介が乗り込み手を差し出す。
「ありがとう」
「気をつけてください、揺れますから」
「ええ」
 多少揺れたが、気になるほどでもない。
 先に樟葉が座ったのを確認してから祐介も座り、力強くボートをこぎ出す。
「凄い凄い」
 ぱちぱちと小さな拍手を送られ、悪い気はしない。
「はしゃぎすぎて落ちないでくださいね」
「水冷たそうだものね」
 ほんの少しだけボートから出した手を水面に触れさせる。
 ボートが動くにつれ、線を引くように波が広がっていく。
「意外に綺麗」
「気をつけて、マフラーが……」
「え?」
 顔を上げた拍子に風に飛ばされ、ふわりとマフラーが舞い上がる。
「あっ!?」
 ぴたりと裕介と樟葉の驚きの声が重なるが、時すでに遅し。
 手を伸ばすよりずっと早くマフラーは風に飛ばされ、少し先の木の枝に引っかかってしまう。
「ああ……」
「とにかく下に行ってみましょう」
 ボートを漕ぎ下まで行くが、座ったまま手を伸ばしても届きそうにはない。
「俺が……」
「大丈夫、立てば届くから。祐介くんはボートをお願いね」
「……はい、気をつけてくださいね」
 背の高い裕介が立つよりも、バランスを崩しにくいのは確かだ。
 はらはらしながら見守る目の前で、樟葉はマフラーを掴むが毛糸が小さな枝に引っかかり上手くはずれないらしい。
「あと少し……」
「………」
 ほどかないように手元に集中していて、声がかけづらい雰囲気になりつつあった。
 うっかり声をかけて驚かせて落ちたら元もこもない、そう思っていたのだが……。
「とれたっ」
 嬉しそうな声にホッとしたのも束の間。
「足元っ!」
 忠告もむなしく、バランスを崩した樟葉は後ろへと倒れていく。
「きゃあっ!?」
「先輩っ!」
 短い悲鳴を上げボートから落ちた樟葉を追いかけ、裕介も水中へと飛び込む。
 水中は冷たかったが、直ぐに見つけた樟葉の体を掴み水面へと浮き上がる。
「ッは、大丈夫ですか?」
「う、うん」
 すぐ側にある岸へ樟葉を先にあげてから、裕介も池からあがる。
「ごめん、大丈夫?」
「はい、先輩は?」
「私は平気。でも……二人とも凄い格好」
 思わず吹き出したのに釣られ、二人で一緒に笑いあう。
「もうびしゃびしゃ」
「本当に、困りましたね」
 騒ぎを聞きつけてやってきた管理人が毛布を手渡してくれしてくれ、暖かい部屋に案内してくれるというのでありがたく借りることにした。
 先輩を抱きしめるように、直ぐ側の管理人小屋へと移動する。
 中は元々暖かかったが、更に暖房を強めて着替えたら声をかけるようにといってくれた。
 このままだったら間違いなく風邪を引いていただろうから本当に助かる。
「早く着替えないとね」
「先輩がいれば直ぐですよ」
 着替えなら、樟葉の特技である早着替えがあるから大丈夫だろう。
 だが………。
「少し、良い?」
「……先輩?」
 疑問符を浮かべる裕介の腕を、嬉しそうに抱きしめる。
「直ぐに来てくれて、ありがとう」
「当然ですよ」
 本当に咄嗟のことだったのだ。
「……少しだけこうしてて良い?」
「風邪、引かないでださい」
 隙間が出来ないぐらい、毛布で包む様に抱きしめる。
 そうしていられたのは、ほんの短い間の出来事。



 服を着替え、管理人にお礼をいってから公園を後にする。
「びっくりしたけど、暫くは笑い話に出来そうね」
「切り替えが早いですね、ついさっきのことなのに?」
「そうじゃない? 滅多にないだろうし……きっとあの公園で池に落ちたって噂されてるかも」
「………ここ、次からこれそうにありませんね」
 落ちた人がいるらしいなんて……出来れば、そんな噂のされ方はしたくない。
 並んで歩いていた樟葉が、何か思い付いたように祐介を呼ぶ。
「さっきの気に入っちゃった」
「さっきのって……?」
 答えを返されるよりも先に、裕介のコートの中へと入ってしまう。
「暖かいのよね、このまま帰っていい?」
 否定しないと解っていながら尋ねるのは、ずるいと思うが逆らえない。
「少しだけ、ですよ」
 どうせなら振り回される事も楽しんでしまった方が得なのだ、苦笑しながらもコートの下では樟葉の腰を抱き寄せ並んで歩き出す。
「噂される前に早く帰りましょう」
「……たしかに、急いだ方が良さそうですね」
 池の方が少し人が増え始めたのは気にしないことにして、少しばかり急ぎ足で退散する。
 その数日後に本当に自分たちの噂を聞くことになるのだが……困ったように笑いあった後、二人の胸だけに思い出話としてしまわれる事になったのだった。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1098/田中裕介/男性/18歳/孤児院のお手伝い兼何でも屋】

→もし付き合っていた先輩が死ななかったら

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。

発注ありがとうございました。
ご希望の甘さは出ているでしょうか?
喜んでいただけたら幸いです。