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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


三下君バイト物語〈モデル編〉




□■□オープニング■□■

 冷え切っている外とは打って変わって、アトラス編集部内は心地良い暖かさだった。
 それもこれも、部屋の隅に取り付けられている暖房のおかげだろう。
 本当に丁度良いくらいの暖かさで、少し眠くなってしまいそうになるのはいた仕方ない。
 それは碇 麗香も分かっていた。
 事実自分もほんの少し、離れた所で睡魔が見張っているのだから・・・。
 だから麗香はあえて眠そうに仕事をする人々に声をかけないでいた。
 まぁ、こんな日があっても良いじゃないかと・・・。
 ただ・・・。
 「ふんふんふ〜♪ふふん♪」
 「・・・さんしたクン・・・?」
 「ふんふ〜ん♪ふんふふん♪」
 「・・・さんしたクンっ!!」
 麗香の怒鳴り声に、数人はビクリと肩を上下させた。
 睡魔が何処かへと走って逃げる。
 「さんしたクン、ちょっとこっちにいらっしゃい。」
 今度は声のボリュームを落として、やや低い声で三下を呼ぶ。
 「はい。」
 シャキっと立つと、スタスタと麗香の側まで歩いてきて・・・ピシっと止まった。
 普段の三下なら、麗香に呼ばれれば恐る恐る顔色を伺い、ガタガタと震えながら側まで歩いて行っているのに・・・。

  お か し い ・ ・ ・

 アトラス編集部内に、妙な空気が流れ始める。
 「あのね、さんしたクン。眠そうになるのは分かるの、暖かいし、気持ち良いし。でもね、誰が鼻歌歌いながら仕事して良いって言ったの!?」
 しかも三下の鼻歌は微妙に音程がずれていて・・・神経質な人が聞いたなら相当イライラするようなものだった。
 麗香も最初は何の歌だかさっぱり分からなかったのだから・・・。
 「それで、何があったの・・・?」
 イヤイヤながらも麗香はそう尋ねた。
 一応の会話のマナーと言うヤツだ。
 三下が待ってましたとばかりに、背広の胸ポケットから一枚の名刺を取り出して麗香の目の前に置いた。
 『デザイナー 刈谷崎 明美(かりやざき あけみ)』
 とても有名な一流デザイナーだ。
 どうしてそんな人の名刺をこの三下が持っているのだろうか・・?
 「今朝、出社する前に声をかけられまして・・・その、僕の事をモデルに使いたいとか・・今度ショーがあるそうで・・。」
 頬を薄ピンク色に染めながら、恥ずかしそうに言う三下の言葉に、麗香は思わずガクリと肩を落とした。
 モデル・・・ショー・・・三下にはあまりにも重過ぎる大役だ。
 「さんしたクン、ちょっと聞きたいんだけど・・・刈谷崎先生に自分の名前名乗ったの?」
 「はい!もちろんです!名刺交換したんですよ〜。」
 ・・あいたたた〜〜。
 麗香は思わず頭を抱え込んでしまった。
 刈谷崎には、今度もし機会があったらインタビューを申し入れたいと思っていたのだ。
 こんな思いがけない所でチャンスが転がり込んでくるとは・・・その思いの反面、麗香は“絶対に起こりうる未来”を予想しては盛大なため息をついた。
 つまり・・三下がショーに出る→絶対失敗する→刈谷崎が怒る→インタビューのチャンスを逃す。
 あいたたた〜〜。
 かと言って断ってしまえばアトラスの評判が落ちてしまうし・・・。
 そうなると、手段は一つだけだ。
 麗香は決心したように立ち上がると、ビシっと三下に人差し指を突きつけた。
 「いい?さんしたクン!モデルは私が探すから、貴方はモデルの子達のマネージャーになってショー本番の日までサポートしてあげて!」
 「・・えぇぇ〜〜!!??で・・・でででで・・でも、モデルは・・」
 「刈谷崎先生には私から連絡を入れておくから。・・・それともなに?さんしたクンは私のお願い(命令)がきけないって・・・?」
 サァ〜っと、三下の顔色が変わる。
 「い・・いえ・・・。」
 「そう?それじゃぁ、よろしくね。」
 麗香はそう言うと、アトラス編集部内を物色し始めた。
 誰か・・・ショーのモデルになりそうな人材はいないだろうか・・・??


■□■梧 北斗□■□

 学校の帰り道、なんとなく寄ったアトラス編集部で、北斗は麗香につかまっていた。
 入るなり、麗香がとんでやって来て、北斗の腕を掴んで・・・。
 「さぁ、こっち。こっちに来て。座って。ほら、さんしたクン、お茶!お茶持ってきて!」
 麗香がバンバンとデスクを叩く。
 しょぼくれた三下が、しょぼくれたまま立ち上がり、すごすごとお茶を汲みに出る。
 ・・・とまぁ、ここはではそれほど珍しくはない日常だった。
 麗香が北斗に三下の椅子を勧める。
 「あのね、実は・・・折り入って話があるの。」
 「話・・?」
 「あのね、さんしたクンがモデルになる事になって・・・」
 「ふーん。三下がモデルとはなー・・・。」
 「それでね、話っていうのはね・・・。」
 麗香の声のトーンがガクリと下がる。
 ガシっと北斗の肩を掴み、に〜っこりと微笑んだ。
 「さんしたクンの代わりにショーに出て?」
 可愛らしく微笑みながら小首をかしげる。
 「え・・・なんで???」
 「考えても見て。さんしたクンがショーに出演する・・・絶対トチル・・せっかくの取材が・・・!!」
 取材??何の事だろうか?
 しかし、とにもかくにも、ショーだ・・・ショーに出演なんて・・・!!
 「俺もモデルって柄じゃないと思うけど?」
 そう言って唸る。
 そして・・思わずポツリと小声で言った。
 「身長だって低いしさ。」
 普通、モデルは長身のヤツがやるものだと言う固定概念が、北斗の頭にはあったのだ。
 「ただのショーのモデルよ〜!そんなに大きなところじゃないし・・・ね、駄目かしら・・?」
 すがるような目をする麗香。
 北斗はしばらく考えた後で、口を開いた。
 「俺に勤まるかどうか・・・」
 「ううん!大丈夫!他の人だってモデル初めての人ばかりなんだし・・ね、それじゃぁ、頼めるかしら?」
 「ま、面白そうなものは面白そうだしな。」
 北斗はそう言うと、承諾した。
 「ありがとう!!助かるわぁ〜!」
 麗香がにっこり微笑んだのと同時に、目の前に熱いお茶が置かれた。
 「と、言うわけで・・・さんしたクンがマネージャーだから、宜しくね?」
 その最後の“宜しくね”と言うのは、どちらに向けて言われたのだろうか・・・??


□■□レッスン■□■

 「さぁさぁ、みなさ〜ん、一列に並んでねぇ〜ん!」
 パンパンと、大きな音で手を叩く。
 「はぁ〜い、初めましてぇ〜。ジュリーって言いまぁ〜す☆今日はぁ、ウォーキングとポーズィングのレッスンをしまぁす。1週間後がショーなんてぇ、時間もないけれどぉ、みんなの運動能力を信じてビッシバシ行くからねぇ〜ん。覚悟、しといてよぉ〜ん☆んじゃぁ、まずは、メンバーを紹介しちゃうわねぇん♪」
 筋肉隆々、金髪で濃い目の顔のジュリー(自称)はそう言うと、脇においてあった鞄から紙の束を取り出した。
 この時すでに、一列に並んだ人々の中にはここに来てしまった事を後悔し始めている者もいた。
 仕方なくにしろ、快くにしろ、了承してしまった後で聞かされたのは“ショーまで日にちがない”と言う事。
 1週間後がショーだなんて、聞いてない。
 そして、レッスンをつけてくれると言う刈谷崎お勧めの元モデルで現ダンサー(嘘か真かは不明)は、どう見てもオカマだし・・・。
 「はぁい、まず、そっちの美形のお兄さんがぁ、蓮ちゃんねぇ〜。」
 ジュリーが相澤 蓮をすぅっと、流し目で見つめる。
 ・・・蓮の顔色がすぅっと悪くなる。
 細身で身長の高い蓮は、妖艶で美しい顔立ちで・・本職としてモデルをやっていてもおかしくないくらいの美形だった。
 「あ・・相澤 蓮・・と、申します・・・。」
 ついつい敬語になってしまうのは、仕方のない事だ。
 あまりにも非日常的な空間に、目の前がくらみそうだ。
 「そんでぇ、そっちのキレーな男の子がぁ、暁ちゃん。」
 「桐生 暁っていいま〜す、宜しくね?」
 金色の髪に赤の瞳。美しい顔立ちの暁はそう言うと、にこっと微笑んでヒラヒラと手を振った。
 「でぇ、そっちの落ち着いた感じのお兄さんがぁ、忍ちゃんね〜!」
 「加藤 忍と申します。」
 ややスローテンポな調子で忍はそう言うと、ペコリと頭を下げた。
 「そっちのかわい〜子がぁ、まことちゃん??」
 「桐生 まことと申します。えぇっと、精一杯頑張りたいと思います。」
 日本人形のように可憐な外見のまことは、そう言うと、深々と頭を下げた。
 「それでぇ、その隣のかわい〜男の子がぁ、北斗ちゃん?」
 「・・梧 北斗だ。宜しく・・・。」
 北斗はそう言うと、ぷいとそっぽを向いた。
 可愛いと言われた事が、少々心にずしんときているのだ。
 これは・・・身長が低いから可愛いと言われたのか?とか、色々と考えてしまう。
 「それで、最後〜、そっちのイケテル彼女がぁ、華蓮ちゃん?」
 「日比谷 華蓮。よろしくね〜!」
 イケテルと言われた事が少々嬉しかったのか、華蓮はそう言うと、にかっと笑った。
 「以上、6人。ビシバシ行くわよぉ〜!だぁって、明美ちゃんがあたしに頼るなんて〜。」
 ジュルリと、舌なめずりをする。
 ・・・恐ろしい・・・と言うか、帰りたい・・・。
 しかし、そんな事は言ってられない。
 ジュリーは一同をドスドスと更衣室まで連れて行くと、一人一人の手に小さな袋を渡した。
 「それに着替えてきてね。皆がそろったらレッスンを始めるからねぇ〜ん☆」
 ・・・バタン。


 数分後。
 何でこんな事になってしまったのかと、激しく後悔をする。
 真っ白な半そでのTシャツに、膝上までの真っ白な短パン。そして、真っ白なシューズ。
 「なんか、妙な団体みたいだね。」
 暁の言葉に、思わず頷きたくなる。
 「学校にいるみたいですね。」
 「だね〜!でもさぁ、学校の体操着にしたって、もーちっと考えてない〜?」
 まことに呟きに、華蓮はそう言うと、Tシャツのすそをびみょーんと引っ張った。
 100円均一で売っていそうな上下だ。
 「しめて1200円ってところですかね。」
 「流石に靴は100円じゃ売ってないだろ?」
 忍が100×2×6の計算で割り出す。それを受けて北斗は、おおよその靴の値段をはじき出そうとじっと足元を見つめた。
 「何で俺・・・こんな・・・。」
 一人でいじけそうになるのをぐっとこらえながら・・ついでに涙もぐっとこらえながら・・蓮は帰りたい気持ちでいっぱいになっていた。
 こんな辱めを受けるために、ここに来たのではないのに・・・。
 「靴が、300円くらいだとして・・」
 「300×6は1800。1800+1200=3000円ですね。」
 6人で3000円とは、ずいぶん安い。
 「まさかこれでショーの舞台歩けとか、ないよな?」
 「それは流石にないっしょ〜?刈谷崎明美でしょ〜?」
 北斗の言葉を聞きつけて、華蓮が語尾を上げる。
 「そんなに凄いんですか?その・・・刈谷崎先生と言うのは・・?」
 「あれ〜?刈谷崎明美って、聞いた事ない〜??」
 「ねね、華蓮ちゃん、その、刈谷崎さんってどーゆー服作ってるの?」
 小首を傾げながら暁が華蓮にそう聞く。
 「ん〜・・そーだなぁ。どっちかって言うと、あたしよりまこ系って言うかぁ。」
 「刈谷崎先生の洋服でしたら、私も何着か持っていますよ。そうですねぇ、柔らかい雰囲気の、可愛らしいデザインですね。」
 まことはそう言うと、ふんわりと微笑んだ。
 「ほとんどがレディースだけど、最近メンズにも力入れ始めてるって、なんかの雑誌で見たけど?」
 「って事は、メンズもそう言う可愛らしい感じになるのか?」
 うわぁ、俺、普段はスーツなのに・・と、ぼやいたのは蓮だ。
 しかし・・可愛らしいデザインのものでも着こなせそうな外見だが・・・?
 ざわざわと、談笑をしていたところ、前方の扉からきらびやかな衣装に身を包んだジュリーが堂々と歩いてきた。
 なんだか見入ってしまう・・・これが元モデル現ダンサーの実力なのだろうか・・?
 「さぁ、始めるわよ!まずは一列に並んで!」
 パンパンと、大きな音が室内を駆け巡る。
 それほど広くない部屋には、前方に巨大な鏡が取り付けてあり、足元からそこまでは白いテープが一直線に伸びている。
 「まずは真っ直ぐ歩く練習。下を見ないでテンポ良く歩くのよ〜!あたしの手拍子に合わせてね。どうしても線が気になるって子は、前方の鏡で確かめながら歩いてね!」
 ジュリーはそう言うと、手拍子を始めた。
 「はいって言ったら歩き始めてね・・・はい。」
 蓮が慌てて1歩目を踏み出す。
 手拍子の速度は速い。真っ直ぐに歩こうと、目の前の鏡に映る自分の足元を凝視する。
 足がもつれそうになる・・・。
 「はい。」
 蓮が鏡の前に着くか着かないかのうちに、暁は送り出された。
 手拍子は、それほど速いとは思わなかったのだが・・真っ直ぐ歩くのがかなりきつい。
 思わずそちらに集中してしまい、足と手が同時に出てしまう・・・。
 「はい。」
 次は忍だ。手拍子に合わせてリズム良く歩き、真っ直ぐ綺麗に歩けているのだが・・・なんだか少し物足りない。
 綺麗な事は綺麗なのだが、モデルというよりも忍者のような・・・。
 「はい。」
 次はまことだ。まことはなかなか綺麗に優雅に歩けている。
 線も気にしないで、ただ真っ直ぐ前を見て歩く。少し顔が真剣な面持ちになってしまっているが・・微調整程度でどうにかなるだろう。
 「はい。」
 北斗が歩いてくる。真っ直ぐに歩けてはいるのだが、やはり線が気になるらしく、じっと鏡を見つめている。
 そのためか、たまに手拍子から外れてしまう。
 「はい。」
 最後は華蓮だった。堂々とした足取りで、真っ直ぐに歩く。
 顔つきもかなり良く、微笑んでさえいる。華やかさは十分だ。後は些細な動きを調節すれば何とかなりそうではある。
 「んー。みんなまちまちだけど、総合得点は30点。」
 ジュリーが厳しい判断を下す。
 「それなりな子も中に入るけど、やっぱり基礎が駄目ね。とりあえず、みんな壁に立って。」
 そう言って、自分も壁に背を預ける。
 「まずね、立ちのポーズがなってないわ。背中と頭を壁につけて、視線は真っ直ぐ・・そして、少しだけ顎を引いて。胸を張る感じで、背筋をピンと伸ばして、手に力は入れちゃ駄目よ。」
 言われた通りのポーズをとる・・が、これがなかなか難しい。
 「蓮ちゃん、顎引きすぎない。暁ちゃん、もっと胸を張って。忍ちゃん、ピンと背筋を伸ばして。まことちゃん、そんなに苦しい顔したら駄目よ。北斗ちゃんも、腕の力を抜いて。華蓮ちゃんは・・・まずまずだけど、もっと優雅に。」
 それぞれが、指摘された所を直そうと頑張るが、そうするとまた違うところがおかしくなって来て・・・。
 「いい?このポーズを基本にして、歩くのよ。今日はそんな軽装だけど、当日は明美ちゃんのデザインした服を着るのよ?」
 ジュリーが一人一人を見回って、調節する。
 なんだか筋肉痛になってしまいそうなその体勢に、思わず顔が歪みそうになる。
 けれど、今からそんな事を言っていては始まらない。何せ、ショーは1週間後。その前日は・・・マネージャー三下によると、舞台でのきちんとしたリハーサルがあるらしい。
 「1週間で本当に出来上がるかしら・・・。いいわ。それじゃぁ、また歩いてみましょう。」
 「あの・・・私、頑張ります!」
 ジュリーの背に向かって、まことはそう言った。
 きゅっと口を引き結び、決意に満ちた瞳をジュリーに向ける。
 「あたしも、まこと一緒に頑張るよ!」
 華蓮はそう言うと、まことの頭を撫ぜた。
 女性2人の力強いの言葉に、残りの男性もこくりと頷く。
 もうここまで来てしまったのだから、いまさらぐちぐち言ったって仕方がない。もう、なるようになれ・・だ。
 「もちろん、あたしも精一杯やらせてもらうわ。外見は皆整ってるんだから、あとは綺麗に見せるだけ。服装とか髪型とかメイクとかは、専門の人に任せておけば良いの。良い?この練習はね、綺麗に歩く事とか、綺麗にポーズを決めるとか、そういう練習じゃないの。」
 何だと思う?
 ジュリーはそう言うと、悪戯っぽく微笑んだ。
 「オーラをつけるためよ。」
 「オーラ・・・??」
 「もちろん、モデルですもの。綺麗に歩いたり、ポーズとったりは重要よ。けどね、それ以上に・・オーラがなければ誰も見ないわ。オーラで惹きつけて、魅せるの。」
 「惹きつけて・・魅せる・・・。」
 まことが呪文のように、口の中で呟く。
 「そう。意識を持ちなさい。綺麗に見せようとするんじゃなく、綺麗だから見せようとするのよ。さぁ、続き行くわよ!リハまで時間もないし、ビシバシ行くわよ!」
 再び一列に並ばされ、線の上を歩かされる。
 今度は更に細かい動きまで指示をされる。
 「腰より上をふらつかせない!膝を伸ばして!」
 最初は辛かった体勢が、歩いているうちに段々慣れてくる。
 歩いている時のジュリーの指示も少なくなってくる。下を見ずに真っ直ぐに歩けるようになってくる・・・。
 「飲み込みが早いわね。1週間きっちりやったらそれなりに見れるかもしれないわ。」


■□■リハーサル□■□

 「本日は・・・明日のショー本番に向けて・・・リハーサルを行います。えっと・・・あれ?紙がない・・あれあれ??」
 三下マネージャーはそう言うと、服のポケットを一つ一つひっくり返していく。
 ・・なんだか、とても頼りない。
 あれから1週間みっちりとジュリーについてレッスンを行った一同は、かなり上手くなっていた。
 ジュリー採点は90点の大台に乗っていた。
 「あ、あった。えーっと、本番で着用する服を着て、歩きます。本番の通りにやりますので、リハーサルと思わずに、本番だと思ってやってください。」
 まるで小学生が作文を呼んでいるかのような声に、思わずガクリとなってしまう。
 「でもさ、どんな服なんだろうね。」
 三下マネージャーの案内で控え室までの長い廊下を歩く。
 「さぁな。ちょっと雑誌調べてみたけど、普通の服だったぞ?」
 暁のそんな問いに、蓮はそう言うと肩をすくめた。
 女の子の雑誌をコンビニで立ち読みしていたという苦い記憶がほんのりと蘇りそうになるが・・・必死に押し戻す。
 「控え室に行ったらあの上下真っ白の服があったりしてな。」
 「あながち否定できなくもないですが・・流石にそれはないでしょう。刈谷崎先生のデザインは、あれほどシンプルではありませんよ。」
 北斗と忍がそうささやく。
 「女性は右の部屋です。男性は左の部屋です。」
 三下が、メモを見ながら指差し確認をする。
 ・・それくらい、メモなしでやってほしい・・・。
 「髪型や、メイクもしますので、頑張ってください。」
 三下はそう言うと、ペコリと頭を下げた。
 「んじゃぁ、また後でね〜!」
 華蓮がブンブンと手を振って、まことと共に控え室へと消える。
 「あの2人、本当に仲良いよな。」
 「それじゃぁ、俺達も仲良くする?」
 蓮の呟きに、暁がにっこりと微笑みながら腕を取る。
 「・・え・・遠慮させていただいても・・・」
 「それはどうかなぁ〜☆」
 「ほら、暁!蓮!早く着替えようぜ。」
 妙な空気をかもし出す2人に、北斗が声をかける。
 「は〜い!ほら、早く行こう。」
 「お・・おう。」
 忍が控え室の扉を押し開け・・・。


 「今日は、細かい指導も入るけど、明日が本番だし・・みんなぁ、気を引き締めていきましょぉ〜ねぇっ!」
 「あの・・・」
 「なぁにぃ、まことちゃん。」
 「本番も・・・この服なんでしょうか・・・?」
 まことはそう言うと、自分の着ている服を見つめた。
 白いTシャツに白の短パン・・・って、練習で着てたのと変わんないじゃん!!
 「あたりまえでしょ〜・・・って、言いたいけど、違うわよ。本番は、明美ちゃんのデザインした綺麗な服よ〜!なんかぁ、皆の事ちらっと見てぇ、創作意欲がわいたとか言って、作り直してるらしいのよ〜。明日には当然間に合うんだろうけど、今日には間に合わないらしくって〜・・・て、そうマネージャーさんに伝えたはずなんだけど?」
 ジトリと、三下を見る。
 「あ・・・え・・・?あ・・・なんか、そんなような話を聞いたような・・・聞かないような・・・。」
 いや、きっと聞いているはずだろう。
 メモにとってあったかどうかは別にして・・・。
 「それじゃぁ、まずは蓮ちゃんからね。」
 蓮は長いステージの端に立つと、そこから綺麗に歩いてきて、教えられたとおりのポーズをとった。
 そしてターンして帰ろうと・・・
 「あ、待って待って!ターンはまだしちゃ駄目!今回の洋服はみんな、2wayだから、上着を脱いでもう1パターンのポーズをするの。それはみんなばらばらだから、あたしの指示をよく聞いてね。」
 ・・・待ってくださいよ〜!きいてませんよ〜!
 と、蓮は叫びたい気持ちになったがすぐにジュリーの声が会場内にこだまする。
 「はい、両腕で肩を抱いて!そうそう、それで、もっと色気を出して!ちが〜う!!もっとこう、お姉さんいらっしゃいみたいな・・・ほら、そこで流し目!そう、そして・・・」
 オロオロとする蓮に、ビシバシと言葉の鞭が放たれる。
 「・・どんな服なんだろー。」
 その様子を見ながら、思わず華蓮が呟いた。
 「これって、みんな違うポーズだって言ってたよな?ジャンルも違うのか?」
 「それはどうでしょう・・でも、私に色気なんて・・・」
 北斗が引きつった顔のまま、じっと舞台を見つめる。
 「なぁに言ってんの!まこは可愛いからいーのっ!」
 よしよしと、華蓮がまことの頭を撫ぜる。
 三下マネージャーは、髪型とメイクもやると言っていたが、もちろん誰一人としてそんな事はやっていない。
 「はい、それじゃぁ次は暁ちゃん!」
 疲労感いっぱいの蓮代わって、舞台の上に立ったのは暁だった。
 あれだけ練習した甲斐があり、ウォーキングもポーズもパーフェクトだ。
 しかし、問題なのはココからだった・・・。
 「右手を左肩に、左手を右の腰に・・そう!それで、ちょっと傷ついた風に・・・そんな元気いっぱいの目しないの!もっと、震える小鳥のガラスのハートをイメージして・・・ほらほら、笑ってないで・・!!」
 暁が言われるがままにポーズをとるが・・・どうやらもっと“儚く折れそう”なイメージがほしいらしく・・・。
 「俺、さっきまであんなんだったのか?」
 「あれにもっと、オロオロとした感じが加わってましたよ。」
 忍はそう言うと、肩を竦めた。
 「さっきとあんま変わってないねー。なんて言うか、コンセプトは儚い少年って言うかー。」
 少年って・・・。
 蓮が思わず苦悩する。
 「はい次!忍ちゃん!」
 「おや、順番が回ってきましたね。」
 忍は余裕そうにそう言うと、立ち上がって所定の位置に立った。
 そのまま、ウォーキング、ポーズを難なくこなし、ジュリーの指示を待つ。
 「忍ちゃんは、右手を腰に当てて、左手を真っ直ぐ前に伸ばして。そう・・そうよ!気分は時の番人ね!もっとこう、俺様系と言うか・・・偉そうな・・・そう!」
 グレイト!や、素敵!と言った言葉が会場にこだまする。
 「・・・あれぇ?俺達と、ちょっと雰囲気変わってない?」
 「確かに・・格好だけ見てるとまともそうだよな。」
 「儚い少年から、急に時の番人になったしねー!」
 「私に番人が出来るでしょうか・・・。」
 「ってか、普通のはないのかよ。普通のは。」
 暁と蓮が顔を見合わせ、華蓮が直球の意見を述べる。
 北斗の突っ込みは、残念ながらジュリーには・・そして更に遠い場所にいる、刈谷崎明美には届かない。
 「それじゃぁ次は・・まことちゃん・・なんだけど、まことちゃんは華蓮ちゃんと歩いてもらう事にするから。北斗ちゃんが先ね。」
 「うわ、来た。」
 北斗はそう呟くと、ノロノロとした足取りで所定の位置に着く。
 気分はさながらまな板の上の鯉だ。
 気分は置いておいて、ウォーク、ポーズを綺麗に決め、ジュリーの指示を待つ。
 「ほらほら、三下ちゃん!ボール投げてあげて!」
 「は?ボール?」
 ポカーンとする北斗の目の前に、バスケットボールがとんでくる。それを難なくキャッチして・・・。
 「指の上で回して!そうそう・・・あら、上手いじゃない。それで、顔はこう・・・年上の女性を誘う少年のような・・・もっと、色気!もっと不敵な笑顔!ほら、もっともっと!!」
 北斗の顔が思わず歪む。
 色気・・不敵・・・どうやったら良いのか分からないが、とりあえずジュリーの言葉に従っておく。
 「今度はスポーティーねー。でも、色気は必要なんだ?」
 「大分お困りのようですね。」
 忍が、哀れみのまなざしを北斗に送る。
 「それにしても、一貫性がない感じしない?」
 「確かにな。バラバラの趣向なのか・・・?」
 暁と蓮の言葉に答える者は・・・いない。
 「それじゃぁ、最後はまことちゃんと華蓮ちゃんね〜!」
 「はーい!ほら、まこ行こっ!」
 「はいっ!」
 元気良く走り出すまことと華蓮に代わって、少々やつれた北斗が帰ってくる。
 「・・お疲れ。」
 「ありがとう・・・。」
 まずはまことから、ウォーク、そしてポーズをとる。その後を追いかけるような形で、華蓮もウォークして来て、まことの隣にポーズをとる。
 「はい。良いわ、それじゃぁまずはまことちゃん!儚く美しい感じで・・いいわ〜、そう!いい!グレイト!次に華蓮ちゃんは、ちょっとお姉さんぽく!色気よ!色気をばら撒くの!そうよ!そうそう!そこでにこっと・・・いいわ〜!!」
 対照的な笑顔を見せる2人だったが、それでもどこか美しくまとまっている。
 「・・・でさ、結局明日どんな服着るんだろーねー。」
 「さぁ・・・な・・・。」


□■□ショーの始まり■□■

 太い文字とかいて、ロリータととく。
 その心は・・・??

   ゴシックです!

 「な・・・な・・・っ・・・!!」
 「はいはい、早くしてください!メイクも髪だってセットしなくちゃならないんですから。ほらほら。」
 てきぱきと、服を着せられてゆく。
 どうする事も出来なくて、逃げる事も出来なくて、なすがままに流される・・・。
 髪がセットされ、綺麗にメイクをされる。
 およそ、普段の自分とはかけ離れたその姿に、一瞬だけ唖然とし、躊躇し、そして諦める。
 他の人もこんな服装なのだろうか?
 そう思ってみるものの、部屋は区切られていて他の人の服装までは見えない。
 「それじゃぁ、開演しますので、所定の位置についてください。」
 係員に誘導され、細い廊下に立たされる。
 すぐ目の前は舞台だ。
 華やかな音楽が流れ、舞台の上をライトが行ったりきたりする。
 「刈谷崎明美、冬物新作ファッションショーを開始いたします。」
 落ち着いた女の人のアナウンスが入り、客席のライトが落とされ、舞台が華やかに輝く。


 一番最初に舞台に立ったのは蓮だった。
 真っ黒なコートは足元まである。
 肩の部分に金属の飾りがついており、ライトを反射してキラキラと輝く。
 音楽が流れる。それに合わせて、蓮は歩き始めた。
 コートの中に顔をうずめるようにして、少々伏目がちで歩く。
 先ほどまで「ととと、とりあえず、失敗しないように頑張るぜ・・」などと、ガチガチに緊張していたのが嘘のようだ。
 立ち止まり、綺麗なポーズを作る。
 ほぅ・・っと、ため息が客席からもれ聞こえる。それくらいに、蓮は綺麗だった。
 蓮がコートを一気に脱ぐ・・・!
 上はノースリーブで黒のチャイナ服。すそが短く、その細い腰があらわになっている。
 二の腕の部分はなにもなく、肘よりも少し上の辺りから手首までは袖がついており、袖口にはレースがついている。
 腰パンではかれた黒の皮のズボンは短くて、膝上まである編み上げブーツの上は悩ましげなほどに白く細い太ももがライトの光にさらされて仄かに光る。
 胸に揺れる、骸骨をあしらったネックレス。
 左の中指と小指、右の人差し指と中指にはゴツイ指輪がはめられている。
 髪はくしゃりと無造作ヘアー。ラメが入っているらしく、七色に光り輝く。
 腰についた、鎖がジャラジャラと音を立てる。
 蓮は両肩を抱くと、悩ましげに視線を下げ、そして客席をゆっくりと見渡した。
 魅せる。その、一挙一動で・・・。
 これはサラリーマンよりも向いているのでは・・?と、思わずにはいられない。
 寂しげに瞳を伏せ、溜息をつく。
 その姿に、卒倒してしまいそうになるおば様が、いたとか・・・いたとか・・・。


 次に舞台に立ったのは暁だった。
 神秘的な模様のかすれプリントの上着は、チャックやチェーンがたくさんついており、肘の部分がなく、そこはチェーンで繋がれている。
 下は、膝を大きく破き、ところどころダメージの入ったパンツを腰パンではいている。片方は切り裂き曲げ上げており、7分丈になっている。
 白い皮で英文や十字架を施してあるそれは、ところどころ開けてあるチャックから白い肌が覗いている。
 歩き出す。
 ウォレットチェーン軽く音立て揺れる・・・。
 ポーズをとる。凛々しい表情で、客席を見渡した後で、上着を脱いだ。
 ふわふわとした、真っ白なタートルネック・・違う、ふわふわのミニマフラーだ・・・。
 首には、ふわふわの耳当てもかかっており、暁はおもむろにそれをはずすと耳に当てた。
 その瞬間に、フワリと柔らかに微笑む。
 思わずその愛らしい微笑みに、こちらもにこりと微笑みたくなってくる・・・。
 中の服自体は、紐で結び上げる形のもので、こちらは二の腕の布がない。
 指輪を通したネックレスに、十字架に羽のついたピアスに、反対はカフスだ。手に皮紐を二連につけ、片方につけているリストバンドはチェーンでパンツと繋がっている。
 少し、傷ついたような・・思わず声をかけたくなるほどに儚く、視線を落とした後で、ふわりと穏やかに微笑む。
 ふわふわに整えられた髪には、ところどころ白く輝くラメが入っている。
 少年の儚い弱さ・・・。
 それに思わず胸キュンしちゃったおば様がいたとか・・・いたとか・・・。


 その次を引き継いだのは忍だった。
 形の綺麗なコートを羽織って、堂々と出てくると、真っ直ぐウォーキングし、ポーズをとる。
 コートを脱ぐとソレはまるで不思議の国だった。
 形こそ、普通のスーツのようだったが、ところどころ刈谷崎明美の小技が入っている。
 ボタン部分に施された、小さな雪の刺繍。
 袖口には、細かいレースがついており、ズボンもよくよく見れば綺麗な雪の結晶がラメで描かれている。
 ネクタイには真っ白な十字架が描かれ、指輪は細い鎖でブレスレッドと繋がっている。
 髪はスプレーで固められて、オールバックにされている。
 にこりと、穏やかなようで威厳に満ちた微笑を客席に向ける。
 すいと手を差し出す。まるで、導いているかのような・・・誘っているかのような・・・思わずそちらに行ってしまいたくなる。
 危険な香りのする笑顔。それでも美しい・・・。
 耳で揺れる十字架。一見するとピアスだが、それはイヤリングだった。
 革の靴をトントンと鳴らし、誘うように微笑みながら手招きをする。
 その瞬間、思わず席を立ちそうになった人が・・・いたとか・・・いたとか・・・。


 次に舞台に立ったのは北斗だった。
 今度はさっきまでとは打って変わって、真っ白なコートだった。
 そのところどころには、黒い髑髏の刺繍や十字架の刺繍が入っている。
 コートから覗くのは、黒いレースがついた袖口・・・。
 北斗は無表情で歩き始めた。にこりとも微笑まないその表情は、怒っていると言うよりも泣いているかのような、そんな弱弱しさがある。
 立ち止まり、ポーズをとる。その時も、表情は崩れない。
 そして、一気にコートを脱ぐ。
 脇からバスケットボールが北斗の前に投げ出され、北斗はそれをキャッチした。
 その瞬間に、にこりと元気に微笑む。元気な笑顔だけれども、それは少年独特の傷つきやすさを残しており・・・。
 おば様方が、思わず卒倒しそうになる。
 ところどころダメージ入りのTシャツは、なかなか動きやすそうだった。伸縮しそうな生地に描かれた、クロスウィングの絵。
 ズボンも、カジュアルなようでやはりどこかゴシック調の形だった。
 北斗が微笑みながらバスケットボールを指先で回し、ダンと、1回だけ弾ませる。
 髪は緩やかに整えられており、メッシュのようにラメが所々入っている。
 そしてズボンの後ろ・・・正確には、腰の部分からキャップを取り出すと、くいっとかぶった。
 合わないんじゃないか・・?と思ったのもつかの間、それは絶妙な感じで全体とマッチした。
 それは丁度、大人と子供の境目にいる少年のような・・・。
 おば様方の、パンフレットをもつ手に力が入ったとか・・・入ったとか・・・。


 最後に登場したのはまことと華蓮だった。
 まことは真っ白なふわふわのポンチョを羽織っており、その裾から見える足元は真っ白な編み上げブーツだった。
 華蓮は真っ白な長袖のワンピースを着ていた。首の部分には黒いふわふわのファーがまかれ、腰元は薄いピンクのリボンできゅっと縛られている。
 裾にはレースがついており、足元は見えない。
 最初にまことが歩き出す。
 ポンチョの真ん中には、ぽんぽんがついており、まことが歩くたびに左右に揺れる。真っ白なポンチョには、雪の結晶の装飾が淡い水色のラメで描かれており、ライトの光を受けて七色に光り輝く。
 華蓮が、裾をややもちあげる形で歩き出す。
 ふわふわと、スカートが軽やかに揺れる・・・。
 2人が所定の位置につき、ポーズを決めた後、一気にまことはポンチョを脱ぎ、華蓮はワンピースを前に引いた。
 背中を止めていたボタンが取れ、ワンピースをそのまま舞台の下に投げ捨てる。(そこには三下がおり、皆が投げ捨てたコートなどを回収している・・・。)
 まことの方は、上は真っ白なノースリーブタートルネック。袖口部分にはレースがついている・・・。
 下は膝上のミニスカートで、その裾部分にもレースがついており、スカートが揺れるたびに一緒に揺れる。
 腰の部分は太目のチェーンベルトが下がっており、胸にはクロスウィングのネックレス。肩からは、淡い水色のショールをかけている。
 髪は低い位置で2つに結び、ファーのぽんぽんが突いている。
 華蓮の方は、裾の短いキャミソールに、短いスカート。キャミソールの胸の下にはリボンがついており、裾部分にはレースがあしらってある。
 その細い腰元はあらわになっており、スカートのベルト部分にはジャラジャラとチェーンベルトが音を立てて揺れている。
 肩を出す形にして、袖がついており、手首の部分できゅっとすぼまっている。
 膝上の編み上げブーツから覗くニーハイソは、スカート部分と繋がっている。
 首には先ほどのファーがついており、その下には小さなネックレスが光っている。
 髪はふわりとムースで整えただけ。キラキラと輝くラメが艶かしい。
 まことは穏やかに微笑むと、クルリと回った。
 その隣では、華蓮がその細い肢体を使って、様々なポーズをしては客席に微笑みかけている。
 2人のその笑顔は、会場にいるおじ様達のハートをゲットしたとか・・・したとか・・。


 ショーが終わる。
 そのアナウンスが始まり、会場中が拍手に包まれたその時・・・急に舞台の上を一人の男が悠々と歩き始めた。
 どこからか持ってきたのか、スーツを着て・・・これは刈谷崎明美の数年前のものだ・・・。
 ポーズをとり、ターンを・・・どて!!
 その男は転んだ。
 舞台の中央で、右足が左足に絡まって・・・。
 会場の拍手がやむ。
 ・・・シーン・・・。
 三下忠雄の初舞台は、こうして幕を下ろした。


■□■そして・・・□■□

 「みんな、今回はありがとう。刈谷崎先生にも凄く喜んでもらえたわ。」
 麗香はそう言うと、にっこりと微笑んだ。
 その隣には、ほっぺたに大きな赤い手形をつけた三下の姿・・・。
 「それでね、お礼として、ショーで着た服は差し上げるって。良かったわね〜。刈谷崎先生の新作よ〜!」
 そうは言われても、普段に着れるような服でないことだけは確かだ・・・。
 「それにしても・・・みんな、本当にはまってたわよねぇ。もう、むしろそっちで行ってみたらどう?」
 麗香はにっこりと微笑むと、すっと一つのパンフレットを差し出した。
  『ジュリーのモデル事務所』
 ・・・勘弁願いたい・・・!!
 「あっと、俺、仕事があるんで〜・・。」
 「俺も、人と約束してるから・・」
 「私も・・華蓮ちゃんと・・」
 「そうだよね、まこ!」
 「あっと・・俺も、用事が・・・。」
 それぞれが明後日の方向を見て、後ずさりをする。
 「あ、ちょっと待ちなさ〜い!」
 それは無理な相談だ・・!
 それぞれが、思い思いの方向に走り出して行った・・・。


      〈END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  2295/相澤 蓮/男性/29歳/しがないサラリーマン

  4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト/トランスメンバー/劇団員

  5745/加藤 忍/男性/25歳/泥棒

  3854/桐生 まこと/女性/17歳/学生(副業 掃除屋)

  5698/梧 北斗/男性/17歳/退魔師兼高校生

  3914/日比谷 華蓮/18歳/大学院生


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 ■         ライター通信          ■
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  この度は『三下君バイト物語』〈モデル編〉にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
  
  梧 北斗様
 
  初めまして、このたびはご参加いただき、まことに有難うございました。
  スポーティ&カジュアル更にはゴシックと、付け足してしまいましたが・・・如何でしたでしょうか?
  元気に、爽やかに、けれどほんの少し色気も含めて・・と思いながら執筆いたしましたが、お気に召されれば嬉しく思います。
  

  それでは、またどこかでお逢いいたしましたらよろしくお願いいたします。