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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


嫌がらせ犯人を捜せ!

【オープニング】

 神聖都学園テニス部。
 高等部二年、伊里ヶ埼鈴[いりがざきりん]は、テニスも成績も顔も上々・少々性格が元気すぎてアレだが、却って男女問わず好かれるという人気者である。
 そんな彼女に災難が降りかかった。
 ライバル校との練習試合まであと一週間。張り切って部活に出ようとした鈴は、ロッカールームであることに気づいた。
(あれ? 朝練に持ってきたラケットがない)
 ロッカールームをぐるぐる捜しまわる。そしてようやく見つけた場所で、鈴は引きつった。
「ごぉみぃばぁこ〜〜〜〜!?」
 ……ゴミ箱につっこまれていた、自分の愛用のラケット……
 さらにはガットがぶちぶちと切れている。
「嫌がらせよ嫌がらせ! 嫌がらせ以外の何者でもないわ……!」
 憤まんやるかたなし。仕方なくその日は予備のラケットで練習に出てみたが、その日以降、鈴の血管が切れかかる出来事の連続だった。
 ユニフォームが泥につかっている。ジャージまで運動場のど真ん中に放り出されていた。制服には、朱書きでいたずら書き。あげくにシューズにがびょう……
(いつの時代の嫌がらせよ……っ!!)
 やられっぱなしの鈴ではない。彼女は三日目には決心していた。
「じょーだんじゃないわよっ! そっちがその気なら、こっちから罠にかけてあぶりだしてやる……!」

     ■□■□■

「誰だ……? でっけぇ声で騒いでんのー……」
 眠たそうな少年の声がする。
 運動部クラブハウスの前で決意の雄たけび(?)をあげていた鈴は、ふと振り返った。
 そこにいたのは、へたな女の子よりよほどかわいい顔立ちをした――男子生徒。
「あ。不城 (ふじょう)君だ」
 鈴はつい指を指す。
 学ランを着た少年は、不愉快そうにそのかわいい顔をしかめた。
「何で俺のこと知ってんだよ」
「だってここらの学校では有名じゃないの。顔に似合わない強さによる総番! ファンクラブの数無数! その名も不城鋼(はがね)……!」
「……人のことバカにしてんのか……」
 鋼は引きつった顔で力説する鈴をにらみつけた。
「褒めてるつもりなのに……」
「どこがだ!」
「それはそうと」
 すました顔で、鈴は話題を変えた。「なんでここにいるの?」
 鋼もしつこく迫る気はないらしい。
「用があって神聖都に来たんだけどな……昨日徹夜でじいさんに修業させられたもんだから眠くなってよ……木陰で寝てただけなんだけど……」
 言って、彼はふわあと大きく欠伸をした。
 ちなみに“じいさん”とは、彼が総番をはるほどの腕になることを手伝った脅威の師匠のことである。近所のじいさんらしいが。
「……んで、お前はだれ。何か不穏なこと叫んでた気がするけど。罠とかなんとか……」
 けっこうしっかり聞いていたらしい。
 鈴はうんと強くうなずいた。
「私は伊里ヶ埼鈴。ここのテニス部の二年生よ。実はね、言葉どおり罠をしかけようと思ってるわけ」
「……いや、何かお前の性格はほとんどもう分かった気がするけど、理由は?」
 鋼は顔をしかめてそう訊いた。
 彼は卑怯なことはものすごく嫌いだ。どんな理由であろうと、「罠」など論外である。
 一応、鈴の嫌がらせのアレコレを聞いてはみても、その主義は変わらなかった。
「たしかに行き過ぎの嫌がらせだな。だけど罠にかけてってのは気にくわねえ。んなことやっちまったらお前、そいつと同レベルになっちまうぞ、伊里ヶ埼」
「だってさあ」
「だっても何もねえの。罠はなし。オッケー?」
「………」
 鈴はむくれた。腰に両手をあてて、
「それじゃ、不城君、犯人見つけるの手伝ってくれるの?」
「――ま、いいけどさ。その嫌がらせも嫌な感じすぎるしな」
 こうして天下のかわいい総番は、嫌がらせ犯を見つける手伝いをすることとなったのだった。

     ■□■□■

 とりあえず、手っ取り早いところで情報収集。
 幸いなことに、この学園にも鋼のファンクラブは存在する。
 鈴には姿を隠してもらっておいて、鋼はファンクラブの面々に会いに行った。
 彼が一言「伊里ヶ埼鈴のこと教えてくれ」と言えば、
「あ、うちの女子テニス部のエースですねえ」
「二年生ですよ」
「わりと顔はいいですよぉ。不城君ほどじゃないですけど!」
「性格もそんなに悪くない……というか、みんな嫌うより前に呆れます」
 ――次々と情報がこぼれてきた。
 “嫌うより前に呆れます”の言葉に、鋼は思わず納得したりした。
 次に訊くのは、「その伊里ヶ埼が嫌がらせ受けてるって話、知ってっか?」だ。
 すると、ファンクラブの面々の視線が一斉にぎらりと光った。
「何でそんなに伊里ヶ埼さんのこと気にするのですか……?」
 恐怖のファンクラブ嫉妬。へたをしたらファンクラブの逆恨みで鈴の災難が悪化するかもしれない。
 鋼はため息をついて、
「俺が卑怯なこと嫌いなの知ってんだろ、みんな。伊里ヶ埼とは偶然話す機会があったんだけどな――その嫌がらせ犯が放っておけねえんだよ」
 ファンたちの中から、「さすが不城さま、正義の味方!」と訳の分からない黄色い声が飛んだ。
「だから嫌がらせ犯だけでもとっつかまえてどうにかしておきてぇんだ。情報ある?」
 鋼は再度尋ねる。
 女子たちは顔を見合わせ、
「それほど……嫌がらせを受けるようなタイプじゃ、ないとは思うですけどねえ……」
「あ、ほら今度テニスの試合があるじゃないですか。テニス部内のいざこざじゃないですか?」
「えー、ひょっとしたら恋愛関係かもよー?」
 と誰かが言った言葉に、
「それはありえないってー!」
 一斉に笑い声があがった。
 鋼は「なんで?」と心底不思議に思って訊いた。
 女生徒たちは笑いながら口々に言う。
「伊里ヶ埼さんはー、男友達はそうとう多いんですー。でもあくまで『友達』なんですー」
「そうそう、連続フラれ記録、こないだとうとう二十回を達成したとか……!」
「男友達いわく、『お前は友達にするにはもってこいだ。だけど彼女にするには最悪だ』」
「納得しちゃうねー」
「……さっきから黙ってきいてれば……」
 ごごごご。背後から怒りのオーラが立ちのぼる。
 鋼は慌てて振りむいた。そこに、陰からずっと見ていたはずの鈴が、いつの間にか肩をいからせて立っていた。
 まさに鬼の形相。
 ファンクラブの女生徒たちが、きゃっと飛び上がる。
「人のこと散々言ってーーーー!」
 鈴は大声でわめいた。「事実でも、言っていいことと悪いことがあるのよーーー!」
 ……否定はしないらしい。
「落ち着け伊里ヶ埼。どうどう」
「私は馬じゃなーい!」
「じゃじゃ馬ってのはお前みたいのを言うんだ――って、悪かったからラケットで殴る体勢に構えるなー!」
 ――鈴がおとなしくなるまで約数秒――
 ファンクラブの人間を散らせて鈴と二人きりになってから、鋼は深くため息をついた。
「お前、わけ分かんねえ評判だな……」
 どれも何となく納得できてしまうのが切ない話ではあるが。
 鈴はうううとうめいていた。
「たしかにね、つい先週連続フラれ記録とうとう二十の大台に乗ったわよっ。でも! 私はいつだって告白される側なんだから……!」
「……あー……」
 想像がついた。鋼は、ついそれを口にした。
「『実際につきあってみると、お前にはついていけねえ』とかって感じで?」
「どーして分かるのよーーー!」
「いや、伊里ヶ崎と十分も話せばすぐ分かると思う……」
「『遠くで見てる分には楽しい』とか、男友達連中は言いやがるのよ……っ。悔しい!」
 きーっとどこからかハンカチを取り出してくわえ、引きちぎらんばかりに引っ張る。
「そう言われて複雑な気分は、分からねえでもねえけどな……」
 自身、『遠くの人』扱いのアイドルな鋼はつぶやいた。そして、
「そんじゃ、さっきからそこの陰でのぞいてる男とかも、『遠くから見てるだけ的伊里ヶ崎のファン』なのか?」
「んー?」
 ちらりと横目で見る先。
 少し遠く、ちょうど曲がり角の陰になっている場所から、じいっとのぞきこんでいる男がいる。……でぶっちょな。
 鋼は、その男が何気にテニス部のクラブハウス――つまり、鋼が鈴と出会ったその場所からずっとついてきていることに気づいていた。
「んー。あいつは常連な感じ」
 鈴はすぐに視線を鋼に戻し、ため息をついた。「ああやって遠くから見て、たまに笑ってるヤツとかもいるの。やんなっちゃうわよね」
 ……遠くから見て喜ばれるのではなく笑われるということは、アイドルというよりはお笑い芸人である。
 なんにしても、おっかけが男ともなるとストーカーに近いと思うのだが、そのあたりはまったく気にしないのがこの伊里ヶ崎鈴という女らしい。
「けっきょく、伊里ヶ崎的にはどのあたりが怪しいんだ?」
「んー。やっぱりテニス部……って言いたいところなんだけど、みんなちょこまか出入りするたびにいちいち鍵閉めたりしないのよ。隙を狙えば誰でも入れるのよね」
 それに……と鈴は小さくつぶやく。
「……仲間だもん。疑いたくないし」
 鋼は苦笑した。
「そりゃそうだな。……さっき、近く試合があるとか情報にあったけど……」
「そうそう! ひょっとしたらそのライバル校かもしれない……! 私、あそこには連勝してるから」
 必死で練習してるもんね、と鈴は握り拳をつくる。そう言えばこの娘は、テニス部のエースだとか言われていたか。
「決め手はなしか……テニス関連のものばかり被害にあっている以上、そっちの方面な気もするけどよ……そうとも限らねえしな……」
「そうね」
 うなずいて――それから急に、鈴はしんみりとした顔をした。
「……ごめんね、不城君」
「あ?」
「関係ないのに、巻き込んで」
 突然しおらしくなった鈴に、鋼はおかしくなってぷっと笑った。
「バーカ。俺だって自分が何をどうするかくらい自分で決断してやってんだよ。――そんじゃま、一番確実な方法で……ちょっと卑怯にはなっちまうけど、待ち伏せでもするか?」
 鈴は嬉しそうに、大きくうなずいた。

     ■□■□■

 待ち伏せする場所はやはりクラブハウス。
 鋼は、かなり離れた場所から様子をうかがう。その視線の先では鈴が、打ち合わせどおり――テニス部のクラブハウスから出てきて、戸を閉めた。鍵はかけていないはずだ。
 そして、鈴も鋼とは違う場所へと姿を消して間もなく――
 人影が見えた。
 きょろきょろとあたりをうかがいながら、テニス部の部室の戸を開ける。明らかに女生徒ではない。
(アレか!)
 鋼は得意の四次元流歩法で一気に間合いを近づけた。
 そして、バンとテニス部の戸を開けた。
 中でぎょっと振り向いたのは――

「……あ? お前……」

 鋼は唖然としてその男を見やる。鈴の真新しいユフォームを腕にかき抱いている男。
 太っちょの男を。
 ――見覚えがあった。陰からずっと鈴の様子をうかがっていた男子生徒……
「つかまえた!? 不城君!」
 鈴が飛び込んできて、そしてその場の空気にはっと立ち止まった。
「……あれ? あなた……」
 鋼と同じようなことをつぶやき、鈴が男を見下ろす。
 それから、男子生徒が自分のユニフォームを抱いているのを見て――わなわなと震えた。
「あなたがやってたのね……っ! 私に何の恨みがあるのよっ!」
 恨みがあるなら堂々と言ってきなさい! 男らしいたんかを鈴が切る。
 男子生徒はユニフォームを抱きしめたまま、なぜか鋼のほうをにらみつけていた。
「……おい。何で俺に敵意向けてんだよ」
 鋼は嫌な予感がしていた。
「ぼ、僕は――」
 男は、言葉をつまらせながら話し始めた。
「――僕は、伊里ヶ崎さんと仲良くなりたかったんだ!」
 ………
「はあ?」
 鈴が「意味が分かりません」と言いたげな声をあげる。
 男は続けた。
「ずっと、ずっと陰から見てたのに、伊里ヶ崎さんはこっちをまともに見てくれなかった……! だから、僕の存在を認めてもらうためには、何か衝撃的な演出をしなきゃいけないと思ったんだ……!」
「………………」
 それで、嫌がらせ?
 激しく方向性が間違ってないか?
「本当は、本当は僕が、この嫌がらせの犯人を見つけ出す演出をして一気に伊里ヶ崎さんの恋人になるはずだったのに……お前が邪魔をした!」
 男は――どこまでもユニフォームは抱きしめたまま――鋼につかみかかってくる。
 鋼は冷静にさばいた。
「……ちょっと悪ぃが」
 大地から気を吸収――そして自分の闘気へと変換。
 男の腹へと、拳をいっぱつ。
「当て身じゃねえからな」
 思い切りその場につっぷした男を、鋼はズボンのポケットに両手をつっこみながら見下ろした。
「何か、お前のやり方は卑怯……というか、おかしすぎる。だから、ちょっと制裁な」
 げほっげほっと男は咳き込んだ。加減はしたので意識はあるようだ。
「ああ〜。私のおにゅーのユニフォーム〜……」
 男の下に敷かれたそれを、鈴が泣きそうな顔で見つめる。
 あ、しまったと鋼は鈴の表情を見て思ったが、
「……まあ、ヘンな男につかまらずに済んだ代償と思えよ」
「ユニフォームいくらすると思ってんの!!」
 とりあえずあさってを見ておくことにした。
 やがて、男がのそりと起き上がった。なぜか体を鋼のほうに向かせる。
 鋼は両手をポケットから出して、もう一度身構えた。
 だが――瞬間、うっとうめいた。
 男の、いやにきらきらした瞳を見て。
「強い……なんて強い方なんだ、あなたは……!」
「おい、こら、ちょっと待て何考え」
「僕と付き合ってください!!」
 男は鋼に飛びかかってきた。うわっと鋼は飛びのいた。
「バカ! 俺は男だ!……こー見えても!」
「僕は、僕はもう心からあなたの下僕です……! 性別なんて関係ありません!」
「関係しろよ!!」
 鋼は逃げ出した。男が猛然と追いかけていく。
 ――要するにあの男は、強い(あるいは強そうな)人間に惚れこんでしまうタチらしい。
 ぐしゃぐしゃになったユニフォームとともに部室に残された鈴は、ひとりつぶやいていた。
「ひょっとして……これである意味、フラれ記録二十一回目……?」
 その声は物悲しく、誰もいない部室へとこぼれて消えた。


【END】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2239/不城・鋼/男性/17歳/元総番(現在普通の高校生)】

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■         ライター通信          ■
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不城鋼様
初めまして。ライターの笠城夢斗と申します。
このたびは依頼にご参加くださりありがとうございました!
ひとりきりのご参加でしたが、充分に話にできるプレイングでありがたかったです。でも最後に災難に遭わせてしまい申し訳ございません……;
とても楽しく書かせて頂きましたv
またお会いできる日を願って……