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<東京怪談・PCゲームノベル>


ALICE〜失くしものを探しに〜

「あっ。お父さん!」
 めるへん堂に入ると、真っ先にディーが駆け寄ってきた。
「おおっ、ディー。この間はマドレーヌさんきゅなっ」
「騒がしいのが来たわね・・・」
 鈴音が溜息をついている。
「鈴音もサンキュー」
 笑顔で言ってやると鈴音は一瞬言葉を詰まらせ、小声で「ど・・・どういたしまして」と呟いた。
 相変わらず素直じゃない。
「で、何なのよ。まさかただ寄っただけとか言わないわよね?」
「や。ただ寄っただけだけど」
「・・・」
 無言で蓮を睨む鈴音。いつものように本の整理をしながら、氷月が口を挟んできた。
「今月の来店者数はのべ7名。売上はゼロです」
「そののべ7名のうち3名はただ遊びに来ただけの29歳サラリーマンなのよね」
 「ただ遊びに来ただけ」という言葉を妙に強調して鈴音が氷月の台詞を引き継ぐ。蓮は「う・・・」とうめき、ディーに視線を戻した。
「赤字って辛いんだって。僕にはよくわかんないけど」
「・・・・・・何か買っていきマス・・・」


【ドライブに行こう〜相澤・蓮〜】


 どれくらい意識を失っていたかわからない。
 目を開けるとそこは本屋ではなく、森の中だった。
「は・・・・・・?」
 慌てて上半身を起こす。
 ――な・・・何が起きたんだっけ・・・・・・?
 本を選んでいて、「不思議の国のアリス」と表紙に書かれた本を手に取った所までは覚えている。だが、その後は?
「お父さん、大丈夫!?」
「まったく・・・面倒かけないでよ・・・」
「うおわっ!?」
 突然現れたディーと鈴音に蓮は思わず間の抜けた声をあげた。
「お・・・お前ら、どこから・・・」
「どこって、外」
「外?」
 ぽかんとしていると鈴音が嫌そうな顔をしつつもきちんと説明してくれた。
 あの「不思議の国のアリス」という本は曰く付きの本だそうで、開いた相手を物語の中に取り込んでしまうらしい。
「な・・・何だよ、それ・・・っ。大変じゃねーかっ!」
「そう大変なのよ」
「お父さん。何か無くなってるものとかない・・・?」
「無くなってるもの・・・?」
 今日はめるへん堂に遊びに来ていただけなので、それ程持ち物はないのだが。ポケットに手を突っ込んでみて「あれ?」と思う。
 ない。
 確かにここに入れたはずの・・・
「運転免許証がない・・・・・・?」
「めんきょしょー?」
「車を運転するために必要なカードみたいなものよ」
「へえ〜」
 ディーと鈴音が何となく微笑ましい会話をしている間にも蓮の額には冷や汗が流れていく。
「だぁぁっ!レンタカー借りて出かける予定がぁっっ!!」
「あらま」
「頼む・・・!ディー、鈴音、助けてくれーーーーーーっ」
 恥を捨て、二人に向けて頭を下げた。おろおろするディーと意地悪く微笑む鈴音。
「どうしようかしらねー」
「お・・・鬼か、お前・・・」
「店長から聞いたんだけど、商店街の喫茶店の特大パフェがすっごくおいしいんですってね。1200円するらしいけど」
「せ・・・・っ?それは高すぎないか!?パフェだろ!?」
「食べてみたいなー」
「う・・・・・・」
 結局、蓮が特大パフェを二人に奢るということで交渉が成立した。

 そもそも免許証など盗んで何の得になるのだろう。ここは不思議の国のアリスの世界なわけで、車など存在しないというのに。
「単にここの連中は悪戯好きなだけなのよ。たまーにあなたみたいな人間が迷い込むとちょっかい出したくなるんでしょ」
「そんな無茶苦茶な・・・」
「あ。あそこに人がいるよ」
「人?」
 ディーが指差した先を見てみると、こちらに向かって14、5歳ほどの少女が歩いてくるところだった。髪はショートカットで、赤くて大きな瞳が印象的だ。
「めんきょしょうのこと、あの人に訊いてみようよ」
「・・・そうだな」
 この世界のことはこの世界の住人に訊いてみるのが一番手っ取り早い。
 と―――
「あーっ!人間!!」
 声をかける前に声を上げられた。
「めっずらしい。あ、あたし白うさぎ!よろしくねっ」
 握手までされてしまう。やたら勢いのある少女だ。その場の流れで自己紹介を終えてから、蓮は尋ねた。
「うさぎって普通、耳はえてるよな・・・?」
「耳?耳ならあるじゃん」
「や。そんな普通の耳でなくて」
「じゃあ、どんな耳なの?」
「えーっと・・・・・・」
「ちょっとっ」
 鈴音に腕を引っ張られ、耳打ちされる。彼女の話では、この「不思議の国のアリス」の登場人物は皆、人の姿をしているらしい。
 そんなアリス、ありなのか。
 釈然としなかったが、咳払いをしてようやく本題に入る。
「お前、どこかでこれくらいの大きさのカード見なかったか?皮でできたケースに入れてあったりする」
「皮のケースに入ったカード・・・・・・?」
 白うさぎは考え込み・・・・・・何か思い当たったのか「あー」と口を開いた。
「あれかな・・・あいつがさっき『珍しいもの見つけたんだぜ。お前にゃやらねーよ、ばーかばーか!馬に踏まれて死んでしまえっ』と見せびらかしてきたのがそうだったのかな・・・」
「それって誰のこと?」
「や。お父さんはそれよりもそいつが吐いた暴言の方が気になるぞ、ディー」
 白うさぎはあからさまに嫌そうな顔で、ディーの問いに答える。
「三月ウサギっていうわけわかんないクソガキだよ」
「ク・・・クソ・・・?女の子がそんなはしたない言葉使っちゃいけません・・・っ!」
「・・・鈴音ちゃん。この蓮さんって人、ウザイね」
「同感だわ」
「鈴音!?」
 鈴音は「嘘よ」と言ったが、それこそ嘘に思えてならない。
 彼女の蓮に対する毒舌が日に日に酷くなっている気がするのは単なる被害妄想だろうか。
「まあ、いいや。そのめんきょしょーとやら取り返しにいくならあたしも協力するよ」
「本当か?」
「うん。あの三月ウサギ、今日こそあたしの方がいかに優れてるかを思い知らせてやらなくちゃねえ・・・」
 一体、おまえらの間に何があったんだ。
 訊いてみたかったが何となく恐くなったのでやめた。

 三月ウサギの自宅はそれほど遠くはなかった。突然の訪問者に小柄な少年はきょとんとしていたが、白うさぎの姿を認めるとすぐに表情を変えた。
「何しに来たんだよ、体力馬鹿女」
「めんきょしょー」
「はあ?」
 白うさぎは手の平を前に突き出しながら、三月ウサギに詰め寄る。
「あんた、この人から物盗んだでしょ?返しなさい」
「はっ。今はオレが持ってんだから、これはオレのもんなんだよっ」
 胸を張って堂々と理不尽な発言をする三月ウサギ。鈴音がディーに囁いた。
「いい?あれは悪い子供の典型よ。真似しちゃ駄目だからね」
「そうなの?」
「はは、ディー。おまえはおりこうさんだから大丈夫だよなー?」
「お前ら何なんだーーーーーーーーーーっ!!」
 3人の会話を掻き消すように三月ウサギが声を張り上げる。
「黙って聞いてれば好き勝手言いやが―――」
「最近キレやすい子供が増えてるよな」
「世も末ね」
「こらあああああああっ!」
 叫び疲れたのか肩で息をする三月ウサギ。呼吸が整うと、「ふっ」と鼻で笑った。
「オレとしたことが・・・取り乱したぜ・・・」
「いつもじゃない」
「うるせっ脳内筋肉女!いいさ。このめんきょしょとやら、返してやるよ。ただし、ゲームでオレに勝ったらな・・・!」
「ゲ・・・ゲームだあ?」
 蓮は顔をしかめる。
 何故、そんな展開になるのだ。
「あんた、何でもかんでもゲームで解決しようとするよね。ほんっっと、ちょーっと頭いいからっていい気になっちゃって」
「なるほど。自分の得意分野でしか勝負を挑めない弱虫さんなわけね」
 鈴音が白うさぎに加勢し始めた。
「んだと!?何でも体力で解決しようとするお前に言われたくねーよっ」
「あんた、体力ないもんね」
「その体型じゃあねえ・・・」
「おいこら、そこの白うさぎの横にいる女!お前、オレよりちっさいだろーが!」
「私はあなたより年下だし、女だもの。当然じゃない」
「こ・の・・・・っ」
「・・・・・・」
 勃発してしまった3人の口喧嘩合戦に、蓮とディーは入りこむ隙間もない。
「ディー・・・おまえはああなるなよ・・・?」
「なりたくてもなれないと思うな・・・」

 数十分後。
 勝負方法はブラックジャックで落ち着いた。
「これなら頭の良さとかあんまり関係ねーんだから文句ないだろ」
 トランプを切りながら、三月ウサギはどこまでも不機嫌そうだ。
「ぶらっくじゃっくって何?」
 ディーの質問に答えたのは鈴音。
「トランプを引いていって、合計を21に近づけてくゲームよ。21に近い方が勝ち。ただし、21を越えたらその時点で負けになるわ」
「へえ・・・。お父さん、知ってた?」
「そりゃあ、知ってることは知ってるけどなあ・・・」
 正直に白状すると、蓮はこのゲームで勝った経験がほとんどない。あまり運の良い方ではないのだ。
 ――や・・・やばいかも・・・・・・
 内心冷や冷やしながら、配られた二枚のカードを見る。
 7と4。合計11。
「どうする?引く?」
「当然よ」
 蓮の代わりに鈴音がトランプに手を伸ばした。
 数字は8。合計19。
「オレはこれでストップしとくよ。蓮さんは?」
「えーっと・・・・・・」
 微妙な数字だ。止めるか、勝負に出るか。
「うーん・・・あー・・・」
「お父さん、大丈夫?」
 免許証がかかっている。ここは慎重に・・・慎重に・・・・・・
「もうっ、男らしくないなー。ここは引くとこでしょ?」
「あ・・・っこら!」
 白うさぎの手がトランプを掴む。
 トランプの合計は・・・・・・
「・・・・・・21だ」
「ゲ」
 うめく三月ウサギ。彼の合計値は20だった。
「こっちの勝ちね」
「やった!お父さんっ勝ったよ!」
「あ・・・ああ・・・」
 ――俺は何もしてねーんだけどなあ・・・
 鈴音と白うさぎを交互に見る。この二人なら・・・まあ、確かに運は良さそうだ。
「さーて、小ウサギちゃん?とっとと返してもらいましょーか」
「小ウサギ言うなっ!デカ女!!」
「あたしの身長、標準なんだけどね・・・。いいから、早く返しなさいよ」
「・・・・・・」
 三月ウサギは悔しそうに顔を歪めながら、蓮に免許証を渡した。
「わ・・・悪かったな・・・」
「あー・・・いや」
 何となく罪悪感を覚えてしまい、複雑な気分な蓮。三月ウサギは「ふんっ」と蓮から視線を外すと、すっかり意気投合してしまっている白うさぎと鈴音をびしっと指差した。
「デカ女とチビ女!次は絶対負けないからな!首を洗って待ってやがれっ!!」
 言い捨て、部屋を飛び出す三月ウサギ。
 その場を妙な静寂が支配した。
「お父さん、ここあの人の家だよね?」
「捨て台詞はなかなか良かったんだけどなー」
「馬鹿なのね」
「そーいうこと。あたし達がずっとここにいたら、あいつ帰って来れないかな?」
「可哀想だから、やめてやれ・・・・・・」


 めるへん堂店内。
 無事取り戻した免許証を眺め、蓮は安堵の溜息をついた。
「良かったー。一時はどうなることかと・・・」
「それが免許証?」
「ディーは初めて見るのか」
「うん」
 ディーに渡してやると、彼は物珍しそうにカードを裏にしたり表にしたりする。
 ふと思い当たって、蓮は彼に話しかけた。
「そうだ、ディー。今度ドライブ行くか?」
「どらいぶ・・・?」
「そう。車に乗せてやるよ」
「本当?」
 ディーは嬉しそうに笑い、鈴音の腕を引く。
「ねえ、鈴音さんも行くよね?」
「は?私は・・・」
「もちろん鈴音もだよ」
「ち・・・ちょっと何勝手に決めてんのよっ」
 喚きつつも、本気で拒否しないところを見ると、行きたいという意志はあるらしい。
 本当に素直じゃない。
「よっしゃ。決定なっ」
 その時はあの二人のうさぎも連れて行ってやろう。栞の力があれば彼らが外を出歩くことも可能なはずだ。
 多少・・・いや、かなり賑やかなドライブになるだろうが。

 その方がきっと、楽しいに決まってる。


fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【2295/相澤・蓮(あいざわ・れん)/男性/29/しがないサラリーマン】

NPC

【鈴音(すずね)/女性/10/めるへん堂店員】
【D−1(デイーワン)/男性/12/機械人形】

【氷月(ひづき)/男性/20/めるへん堂店員】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは!ライターのひろちです。
またの発注本当にありがとうございますv
それなのに納品が大変遅くなってしまい、申し訳ありませんでした・・・!

蓮さんを書かせて頂くのが本当に楽しくて、今回もかなりウキウキしながらの執筆でした。
鈴音とディーの他に二人のうさぎも登場しまして、賑やかな感じが出ていればな・・・と。
口喧嘩合戦に押され気味の蓮さんを楽しんで頂けたなら幸いです(笑

ファンレターもありがとうございました!
お返事出せていなくてすいません・・・。
これからも機会がありましたら、よろしくしてやって下さいませ!