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片翼の双子〜An oath Dream〜V
■始まり□
走って走って・・・走りついた先には1台の馬車があった。
光速馬車を小さくしたようなそれに駆け寄る。
ガラガラと扉が開き、冬弥は躊躇なく飛び乗った。
「ほら、早くしろっ!」
差し出された手を掴み馬車に飛び乗る。
すぐに扉が閉まり、馬車は軽快に走り出した。
「はぁ〜。ったく、こんな無茶な作戦考えやがって。」
「あら、仕方ないじゃない。これくらいの無茶はしないと、欺けないわ。」
ふわっと香る薔薇の香り。
どこかで聞いた事のある、独特のしゃべり方・・そして、声。
「でもな、まさかデハームの選手がコイツラだったとは・・・マリー、お前は知ってたんだろ?」
「えぇ。直前だったけれどね。貴方に言わなかったのは、驚かせたかったからよ。ふふ、びっくりしたでしょう?」
「・・・まぁな。」
“マリー”と呼ばれた女性と、目が合う。
以前会った事のある・・・。
『マルケリア・デ・ルーブ』
「お久しぶりね“zaxaiv”。覚えているかしら?私の事。」
「なんで・・・」
「あら、言わなかったかしら?“amerial-ghoden”って。」
“amerial-ghoden”その意味は・・
「また会いましょう・・?」
「そう。今がその“また”ってわけ。」
真っ赤なルージュをひいた口の端をキュイっと持ち上げる。
「マリー。もう昔話は良いだろう?今は時間がない。」
「えぇ、分かってるわ。“avune-jjneiy cpokne gegskihe”を助けに行くんでしょう?」
「・・いいか、よく聞いてくれ。」
冬弥の真剣な瞳が真っ直ぐに向かってくる。
「美麗を今夜中に助けられなければ、全てが終わる。」
「主に“夢”と“現実”がね。」
「それは・・・」
「美麗は今夜・・・。」
冬弥が口ごもる。それを察したマルケリアが、ついと人差し指をこちらに向けた。
真っ赤に塗られたマニキュア。長く伸びた爪。
すっとそれを自分の首の前に持ってくると、真横に引いた。
「“avune-jjneiy cpokne gegskihe”は今夜殺される。ダルワイブの祭りのメインに。そうなれば、全てが終わる。親を失った夢は暴走をはじめ、世界を飲み込もうとする。そうなれば現実も崩壊する。例え現実の親の中にいようとも、バランスを失った世界は崩れ、結果、真の現実が崩壊するわ。」
「今日が2週間目だ。あの日から・・・この意味が、わかるな?」
2週間。
それは麗夜が夢の扉を管理できるぎりぎりのライン。
「あっちがどうなってるのかは分からないが、もしもあの日・・美麗がこっちに引き込まれた時に、すでに夢がソレに気づいていたとしたなら・・。」
夢が美麗の不在に気づいて暴走を始めていたなら・・その日から丁度2週間。
「時間がない。でも、今は行動を起こすべき時じゃない。」
「ダルワイブに着くまではまだ時間があるわ。だから・・・。」
マルケリアは2人をその長い爪で交互に指差した。
「今までの経緯を話してあげなさい。冬弥。」
「あぁ・・・。」
----------【Another Side】----------
「これだから余所者は・・・。」
「仕方がないじゃない。余所者は余所者なんだから。信じるだけ、無駄よ。」
くすくすと小さな笑い声を上げながら、ふわりと髪を掻き揚げる。
「向こうはこちらがソレに気づいているのを知っているのか?」
「まさか。あの子は私の事を信じているわ。“ソレが真実”だって疑ってもいない。」
「さすがだな。」
「お褒めいただき光栄ですわ。」
そう言うと、すっと頭を下げる。
上流階級の貴族がやるように、柔らかな動きで・・・。
「嘘をついたものには罰を与えなければ・・・。」
「それなら、仲間を捕らえましょう。えぇ、大丈夫。その手配は私がやっておくわ。なにせ私は彼に信頼されているのだから。」
ふっと微笑む。
彼女が動くたびに薔薇の香りが漂う。
その赤い唇からも、長い爪からも、金色の髪からも・・・。
「世界なんて壊れれば良いの。どうせ世界なんてちっぽけなものなんだから。」
「そうだな。マルケリア・・・。」
□桐生 暁■
「話すって言っても、どこから話したら良いのか正直わかんねぇんだよな。」
冬弥はそう言うと、暁の顔を見て少しだけ考えた。
こちらはききたい事がたくさんある。
本当に、色々と・・・。
「それなら、“zaxaiv”にきいてみれば良いじゃない。“zaxaiv”は、色々と聞きたい事があるのでしょう?」
マルケリアはそう言うと、艶っぽい視線を暁に向けた。
「あぁ、一応。」
暁は言葉を濁すと、チラリと冬弥の顔を盗み見た。
「ふふ。そうね、内緒のお話でもあるでしょう?けれど・・・私にもききたい事がある。違う?」
どう言ったら良いものか、迷った。
けれどここで嘘をついたところできっとばれてしまうのだろう。
マルケリアの瞳にはそんな輝きが宿っていた。
「あぁ。」
「そう、それじゃぁ、私は少し外に出ているわ。」
マルケリアはそう言って、扉を開けると、身軽にひょいと前方へ移った。
「・・アイツはスピード狂だからな、手綱を持ったが最後、すげぇ勢いで走り出すからな・・・」
冬弥がそう言った直後に、ピシリと乾いた音が響き渡り、急に速度が増した。
・・・スピード狂なら、冬弥も負けていないではないかと、思ったが・・今はそんな事を言っている場合ではない。
「ねぇ、何でダルワイブ側に居たの?」
暁は本当に小さい声でそう尋ねた。
それは、うっかりすると聞き逃してしまいそうになるくらいに小さい声だった。
「光速馬車から落ちた時の事、覚えてるか?」
コクリと、小さく頷く。
あまりにも最近の記憶だ。
あの光景が目の前に蘇り、暁は眉をしかめた。
「あの時、マリーが来てな。ワイヤーで2人して崖の木に引っかかって、そっから下に下りたんだ。」
マルケリアが持っている武器はワイヤーだ・・・。
暁はそう思うと、心のノートにそっと書きとめた。
「伸縮自在のワイヤーって事?」
「あぁ。そこで・・マリーから提案をされたんだ。」
「提案?」
「ダルワイブを滅ぼすための提案さ。」
「滅ぼすって・・・?」
「お前、女神に会ったか?」
「・・・会ったけど?」
そうかと、冬弥は呟くとそのままじっと目の前を見つめた。
どちらも何も話さない時間が続く・・・。
先に口を開いたのは暁だった。
「女神が何か関係しているの?」
「どうもダルワイブのヘッドは、こっちの世界から来たやつみたいなんだ。」
「こっちの世界って・・つまりは俺達と同じ世界って事?」
「そうだ。マリーの話によると、美麗がこの世界に引き込まれる前に来たらしい。」
「ねぇ、冬弥ちゃん。マルケリアって本当に信用できるの?」
真っ赤なルージュ、薔薇の香り・・・。
マルケリアには謎な部分が多かった。
全てを知っているかのような口ぶり、瞳・・・。
一筋縄でいかない相手なんだと言う事は、会った時から直感していた。
「マリーは、信じられる。」
「どうして?」
「マリーの作戦には無駄がない。あれだけ頭が切れるヤツが、ダルワイブによって美麗が殺された後に世界がどうなるか、考えないわけないだろう?」
「それは・・・」
「ダルワイブに味方して、世界が滅びて・・・メリットがないだろう?」
それでも、何かあるのかもしれない。
そう疑ってしまうのは仕方のない事だ。
マルケリアには素直に信用できない何かがある。
それは口ぶりだとか、態度だとか、そう言うありきたりのものなんかではなく・・・。
しいて言うならば瞳の輝きだろうか??
「暁、ココが、人を選ぶのを・・・覚えているか?」
「え?うん。もなちゃんとか、来れなかったよね。」
「あぁ。だから、俺達は必然的に配置されているんだ。」
「どう言う事なの?」
「つまり、この“話”には俺達が必要なんだ。もちろん、マリーも。これは、必然なんだ・・・。」
ヒツゼン・・・?
暁の頭の中がこんがらがる。
とにかく、この数日の間に色々な事が起きすぎて・・・。
「そうだよ、ねぇ冬弥ちゃん。本当に今日が2週間目なの?」
どうしてソレが解るのだろうか?
ココの時間は、きっと向こうの時間とは違う。
今がいつの何時なのかはわからなかったが・・・ソレだけははっきりと解った。
「あぁ。間違いない。」
冬弥はそう言うと、袖をめくった。
腕に絡みつく、ゴツイ時計。
それは確かにあの日から刻々と時を刻み続けていた・・・。
「・・な?」
「うん。解った。それは、納得した。」
暁は頷くと、先ほど途中まで巡らせた考えを再び自分のもとに持って来た。
この“話”には、必要・・・必然・・・。
解らない。
ただ解る事は、これには何かの力が働いていると言う事だ。
ダルワイブの親玉が来たすぐ後に美麗が此方に入り込み、連れさらわれた。
タイミングが良すぎるではないか・・・。
「ねぇ、ダルワイブって悪者なの?」
「さぁな。立場によって違うだろ?」
「立場?」
「俺らからしたら悪者でも、向こうからしたら俺らが悪者だ。一概にどうこうは言えねぇな。ただ・・・俺らからしてみたら敵だっつー事は間違いねぇな。」
冬弥はそう言って肩を竦めると、溜息をついた。
「・・ダルワイブが祭り騒ぎなのって本当なの?」
「一部はな。“心”のあるヤツは、騒いでる。他のやつらはみんなボケっとソレを見てるよ。」
「どう言う事なの?」
「お前・・・コロセウムで戦っただろう?おかしくなかったか?うちの選手。」
うちの選手と言う言葉に、思わず胸が締め付けられる・・・。
思い出す、ダルワイブの選手の顔。
ぶつぶつと何かを呟き、両目はドロリと力なく淀んでいた・・。
「確かに・・なんか、様子がおかしかったね。」
「洗脳されてるんだよ。戦うためだけに作り出された人形と同じ・・・。痛みもなければ、恐怖もない。」
「それでも、傷つけば血が出るし、最悪・・死んじゃう事だってあるんでしょう?」
「・・あぁ。」
冬弥はコクリと頷くと、視線を床に落とした。
「ねぇ、冬弥ちゃん。どうしてダルワイブはあの試合に出たの?それに、デハーム側の人が言ってた・・ダルワイブが勝ってしまえば“アレ”がダルワイブの元へと渡ってしまう。」
真っ直ぐに冬弥の瞳を見据える。
「“アレ”ってなんなの?冬弥ちゃん。それがダルワイブの元に渡ると、世界がどうにかなっちゃうんでしょう?」
「なんだ、もうそこまで知ってるのか。」
冬弥はそう言うと、コンコンと壁を叩いた。
少ししてから、扉が開いてマルケリアが顔を出す。
「お話は終わったの?」
「・・ここから先は、俺じゃなくマリーにきいた方が良いと思ってな。まだ、俺も知らない話があるだろう?マリー?」
「そうね。どうせなら全部最初から話してあげるわ。冬弥、貴方は2回同じ話を聞く事になるけれど・・・。」
「覚えられて良いじゃないか。」
「OK。それじゃぁまずは“zaxaiv”・・私に、聞きたい事があるのでしょう?質問タイムから先に終わらせましょう。」
マルケリアはそう言ってくいっと口の端を持ち上げると、身軽に車内に滑り込んだ。
パタリと、扉を閉じる・・・。
■マルケリアの話□
----------【Another Side】----------
「仲間を捕らえて、感動の再会の後で・・殺しましょう。目の前で。」
「お前は残酷だな。」
「あら、優しいって言ってくれないかしら?感動の再会はきちんと用意してあるのよ・・・?だって、せっかくここまでたどり着いて、目の前に変わり果てた仲間の姿があったなんて、ちょっと素敵じゃないじゃない。」
「そうか?」
「えぇ。ここまでたどり着いて、ソードを抜くの。そうすると、貴方は微笑んで・・・後ろに置いてある檻にかかったカーテンをはずすの。するとね、そこには仲間がいるのよ。ふふ、あの子、どんな顔するのかしら。」
「楽しそうだな。」
「ふふ。そして、貴方は言うの。ソードを置かなければ殺すとね。もちろん、すぐに彼はソードを置くわ。あの子は優しい子だから、仲間を見殺しにするなんて出来ないわ。どんなに仲間が叫ぼうとも、彼は絶対にソードを置く。」
手に持ったグラスをゆっくりと回す。
ワインが綺麗な曲線を描きながら透明なガラスを汚していく・・・。
「そこで、私がソードを奪うの。大丈夫。他の装備は全て抑えておくわ。ココに来る前に、ソード以外のものは持ち込ませないようにするわ。」
ふわりと香る・・薔薇の香り。
「驚くでしょうね。私が、裏切ったなんて知ったら・・・違うわ。裏切りの裏切り。ほら、元通りだわ。」
クスクスと小さく微笑む彼女の髪を優しく撫ぜる。
ふわふわの髪の毛は、まるでじゃれ付くように手に絡みつく。
「そして、彼から奪ったソードで、仲間を殺すの。・・あの子、どんな顔をするのかしら・・・。」
「お前は本当にアレが好きなんだな。」
「だって、考えても見て。あれだけ美しい男の子よ。その顔が、苦しみに歪むの。苦しくて、哀しくて、自己嫌悪とか、怒りとか、その全てが混ざった表情をするのよ。」
「・・・美しいな。」
「そうでしょう?そのまま永遠に閉じ込めてしまいたいくらいに・・・。」
そう言うと、そっと口の端を上げた。
本当にそれは口元だけの微笑だった。
瞳は妖しく光り輝き、そこには一部の隙もない。
「楽しみだわ・・・。“avune-jjneiy cpokne gegskihe”が殺されるのなんかよりも、ずーっと、ずっと。」
----------【Main Side】----------
「さぁ、なんでも質問して。答えられる範囲の事は、素直に答えるつもりよ。」
マルケリアはそう言うと、暁の前に座った。
金色の髪を掻き揚げ、くいっと口の端をあげる。
「“avune-jjneiy cpokne gegskihe”が、美麗ちゃんって、どう言う事なの?そもそも、それはどう言う意味なの?」
「あら、冬弥。“avune-jjneiy cpokne gegskihe”は“美麗”って名前なの?」
「・・・言ったはずだぞ?」
「聞いてないわ。」
マルケリアはしばし目を丸くして、口の中で数度“美麗”と呟いた。
「どう言う事と言われても、詳しく説明できる自信はないわ。これは、感覚的な問題も入っているから。でも・・・意味なら、明確ね。」
下げていた袋の中から紙とペンを取り出す。
「この言葉はね、3つの単語から出来ているの。」
そう言って、縦に3つ並べて言葉を書き付ける。
“avune-jjneiy”
“cpokne”
“gegskihe”
「“avune-jjneiy”は“2つで1つのもの”と言う意味。“cpokne”は欠けた。“gegskihe”は翼よ。」
「全体での意味ってあるの?」
「えぇ。“双子の片翼”・・・。」
「双子の片翼・・・?」
その言葉に、美麗と麗夜の顔が浮かんでは消える。
「2つで1つのもの・・つまりは、双子。それと、翼がかかっているの。翼も、2つで1つのものでしょう?それが欠けている・・つまりは、片方しかないって意味。」
「その片方は・・麗夜ちゃん?」
「さぁ。私はよく知らないわ。そもそも、美麗の名前ですらも知らなかったのだもの。」
ケロリと言ってのけたマルケリアに、冬弥が再び「俺はちゃんと言っているはずだ」と呟く。
「でもそうね、麗夜・・・。美麗と対の者の名前?」
「あぁ。」
マルケリアの問いに、頷いたのは冬弥だった。
「それじゃぁ“zaxaiv”の意味は?」
「勇気あるもの。だから、勇者なんかを呼ぶ時に、そう言うの。“zaxaiv”」
マルケリアはそう言うと、暁の顔を見つめてにこっと微笑んだ。
あまりにも妖艶な微笑みに、思わず見とれてしまいそうになる・・・。
「俺はそんなんじゃないよ。」
「あら、私は貴方の名前を知らないんだもの。“zaxaiv”以外に呼びようがないわ。」
「桐生 暁・・」
「そう。それじゃぁ、暁。私の事はマリーって呼んでね。」
「・・マリーは、どうして今日が2週間目だって解るの?」
「冬弥の時計を見たからに決まっているでしょう?」
「暁・・マリーは俺らと同じなんだよ。白銀に引き込まれたくちだ。」
「え・・?」
思わずマジマジとマルケリアを見つめる。姿形もそうだが、その性格や口調さえも、なんだかずっとこの世界に居るような人物に思える・・。
「そう。私も所詮は余所者ってわけ。」
ニヤリ。不敵な微笑みは、あまりにも何かを含みすぎている。それは、暁を警戒させるには十分すぎるほどの微笑で・・。
「マリーはさ、なんで補助してくれんの?」
「・・どうして?」
暁の問いに、マルケリアが再び問い返す。
「だってさ・・なんか、目的とかあんの?」
「言ったでしょう?私は貴方達と同じ世界から来た・・・手伝わない理由がある?」
なんだか、上手く丸め込まれた気がして、暁は思わず口を閉ざした。
そう言われてしまえば、もう後が続かない。
世界の崩壊を、同じ世界の住人が阻止し合い、助け合うのは至極当然の事であって・・けれども、なぜだか引っかかる。
マルケリアの一挙一動はあまりにもこの世界に溶け込みすぎていて、そう、あまりにも・・・。
「んじゃ、大切な人とか・・居る?」
「それはどう言った質問なのかしら?」
大人の微笑み。赤くひかれたルージュ。香る薔薇の花。
完璧と言う言葉が、一瞬頭を掠める。完璧・・つまりは、欠けた部分がない。隙が、ない・・。
考え込む暁の顔を見つめた後で、マルケリアはふっと微笑んだ。
「私だって、貴方達の事を完全に信じているわけじゃないわ。ずっと一緒に居た仲間でもない。本当に、ついこの間出来た、同じ志を持つ者。ココロを知りたいと思うのは、決して悪い事じゃないわ。」
穏やかに微笑むマルケリアの顔は、まるで先ほどまでとは別人だった。
そこら辺に沢山居そうな、優しいお姉さんのような・・・。
「居るわよ。大切な人。もっとも、この世界の話ではないけれど。」
「この世界の外にいるの?」
「そう。白銀の外。私達が居た世界に、彼はまだ居る。」
彼・・と言う事は、男の人だろうか?マルケリアの恋人か何かなのだろうか?
「他に質問は?」
「一番大切なものは・・?」
「・・・それは、私個人の一番?それとも、全体的に見た一番?」
「どう言う事?」
「個人では、もちろん“彼”が一番大切。でも、全体的・・それこそ、世界の事を考えるなら、今の場合なら美麗ね。」
マルケリアはそう言うと、ふっと息を吐き出した。
「好きなものとか、嫌いなものとかは?」
「また、範囲の広い質問ね。好きなものは、薔薇の花、綺麗な夕日、虹、星空、温かいシチュー、動物、優しい人、志を持った人、強い人、雨上がりの公園、深い藍色、クロスのネックレス、石のついた指輪・・・もっと言った方が良いかしら?」
暁は、何も言わずに首を振った。
「嫌いなものは・・色々あるわ。牡蠣は嫌い、虫もあまり得意ではないし・・蛙とか蛇とかもあまり好きではないわね。」
マルケリアは言いながら、徐々に顔を歪めて行った。どうやら、色々と思い出しているらしい。
「そっか。それじゃぁさ・・・。」
もうそれ以上言わせるのも酷だと思い、暁は口を挟んだ。
「世界について、どう思う?」
その瞬間、マルケリアの瞳が異様な輝きを放った気がした。
キラリと・・まるで射るような・・凄まじい視線・・・。
「世界・・ね。世界はね、小さなようで大きくて、一つなようで、一つじゃないの。自分の知っている世界の広さに比べて、知らない世界はもっと広い。小さな世界同士が複雑に絡み合って、大きな世界を作っている・・・けれど、その大きな世界も、同じような大きな世界と共に結びついて、絡み合って、更に大きな世界を作るの。」
マルケリアは、ふっと微笑むと、暁の目の前に顔を突き出した。
あまりにも顔が近くて、暁は思わず顔をのけぞらせた。マルケリアが、暁の手をそっと掴む・・・。
「けれどね、世界には終わりがないように見えて、終わりは確実に存在するの。見えないだけで、世界の終わりはすぐそこにあるかも知れないし、あるいは・・・私達がもうこの世からいなくなった後かも知れない。それは私にも解らないわ。世界の終わりは、誰も知らない。世界を知るものですらも、そればっかりは明確には解らない。ね、どうしてだか解る?」
暁は黙って首を振った。
「世界が一つじゃないから。小さな世界が一つ終わっても、まだ世界は続いているの。解る?全ての世界が消失するまで、世界は終わらない・・・。」
ふっと、マルケリアは再びあの、無敵な微笑を浮かべると、すっと暁から離れた。
「これで質問は終わりかしら?暁?」
「・・あぁ。後は、ダルワイブについてとか・・それは、マリーが話してくれるんでしょ?」
「えぇ。話してあげるわ。まだ、冬弥も知らない話・・・。」
□ダルワイブ■
----------【Another Side】----------
「所詮、皆余所者。それなのに、仲間ごっこなんて・・くだらないわ。」
金色に輝く髪を、掻き揚げる。
「馬鹿馬鹿しい。私は・・あんな世界にしがみついたりしない。ねぇ?そうでしょう?貴方達も、そう思うでしょう?」
「五月蝿いわ。ちょっと黙っててもらえる?」
「あら・・ずいぶんな物言いね。せっかく私の一存で生かしてやっているのに。」
「テメーに逢った時から、なんかあるとは思っていたが・・これが狙いか?」
「そうよ。別に、彼じゃなくても良かったの。最も、彼が一番だまし易そうではあったけれどね。」
「単純だからね。」
「純粋だからよ。」
真っ赤なルージュを、ひく。きゅいっと微笑んで、口の端についた赤を指で消す。
「お前の目的は何だ?」
「目的?そんなもの、あるわけないでしょう?だって、世界は終わるんですもの。そんなもの、持っているだけ邪魔よ。」
ふわんと、薔薇の香りの香水を一振り、振り掛ける。
「さぁ、貴方達はそこで大人しくしていて。その“時”が来るまで・・・。」
----------【Main Side】----------
「まずね、これが・・あの試合の目的よ。」
マルケリアはそう言うと、短いスカートのポケットから、小さな布製の袋を取り出した。
巾着のような形で・・マルケリアはすっと紐を緩めて、掌に中身を出した。
コロリ
それは小さな石のようだった。丁度、キャッツアイのように、妖しく美しく光り輝く・・。
「ダルワイブは、コレがあれば全ての力を手に入れることが出来る。でもね、ダルワイブ以外のものが手に入れれば、ダルワイブを壊すことが出来るの。」
「それはなんだ?」
「運命の石。最後の力の眠る・・ダルワイブの最深部へ行ける物。」
「最後の力?」
「そう。ダルワイブの最終兵器の眠る部屋。それをこじ開ける事の出来る唯一の鍵。右へ回せば、獣が解き放たれてこの世界を滅ぼす。左へ回せば、獣は消滅する。」
「それがなんであの試合に・・?」
「この石はもともとダルワイブの長に受け継がれてきたの。でもね、こんな危険な因子、放っておけるはずがないわ。だから、ダルワイブの中に潜入し、この石を奪った青年がいるの。その青年の名前が・・・」
「“zaxaiv”ってわけか?」
冬弥の言葉に、マルケリアは薄く微笑んだ。
「そう。ダルワイブでは、強いものが必然的に上。だから、長を倒して石を奪った青年は・・勇気のある者。称えられるのよ。例え、余所者であろうとも・・強さこそ、全てなのだから。」
マルケリアはそう言うと、袋に石を戻した。
「ダルワイブには、一貫性がないの。今は私達の敵かも知れないわ。それは、長が私達の敵だから。ダルワイブでは、意思を持つ者はほとんどいない。長に近しい人物以外は、全てただの駒に成り下がる。ただ居るだけの存在、ココロなんて物は持たないわ。」
「全ては長で決まるって事・・?」
「えぇ。だから、ダルワイブの最終兵器が未だに眠っているのよ。今までは、それほど危険な長ではなかったから・・もちろん“zaxaiv”が倒した長は、少々危険な因子を含んでいたけれどもね。」
「それで・・マリー。祭りについての事だが・・。」
「祭り・・ね。ダルワイブの祭り・・最終兵器の復活祭。今日、ダルワイブに鍵が届く予定だから・・。」
「え?でも、鍵はここに・・・。」
暁の呟きに、冬弥が困ったような微笑を浮かべた。
「流石に何度も言うのは嫌なんだが・・・。俺達は、ダルワイブ側だからな?もちろん、心までは属さないけどな。」
「あ、そっか・・・。」
「そう。美麗を殺す事は、ダルワイブの人間には不可能なの。もちろん、長にもね。解る?美麗は、夢を含んでいる。普通の人間に、殺める事は出来ないの。唯一出来るのが・・最終兵器。」
「その時間とか、場所はわかるの?」
「時間は・・断言は出来ないけれど、場所はわかるわ。ダルワイブの最深部。最終兵器の眠る・・“約束の大広間”」
「“約束の大広間”・・・?」
「そう。なんでそう呼ばれているのかは、誰も知らない。でも、ずっと前からそう呼ばれている事だけは確かよ。」
“約束の大広間”
なんとなく、頭の中で反芻する。なにか、深い意味を含んでいそうなその名前を、頭に刻み付ける。
約束・・それは、何の約束なのだろうか・・・?
「んな心配しなくても大丈夫だって。美麗がつかまってる部屋がどこなのか、調べはついてるし・・。美麗を奪還したら、すぐに帰るぞ。」
「うん。そうだね・・・。」
「ダルワイブに着いたら、早速行動開始になるわ。もう一度詳細を確認しましょう。」
「あぁ・・・あ、暁はどうする?」
「捕虜として連れて来たと言えば、問題はないでしょ?」
なんだか空しく響くその単語に、思わずガクリと力を抜いてしまいそうになる。
「軽く、縄で縛っておきましょうか。捕虜だし・・それで、私が鍵を献上すると見せかけて、ソードを抜く。冬弥はタイミングをはずさずに出て、長の動きを封じて。」
「あぁ。」
「手元が狂って万が一・・長の首が落ちても・・・まぁ、それはそれで仕方がないわ。」
「ずいぶん信用ねぇな。」
「もしも冬弥が失敗した場合・・貴方に全てを任せるわ。」
マルケリアはそう言うと、暁の肩に手を置いた。
「縄は緩くなっているから、ちょっと引っ張れば解けるわ。」
「解った。」
まさか冬弥が失敗するとは思えないが、それでも・・万が一の時は・・・。
「長さえ倒せばこっちのもの。後は美麗を救いましょう。長を倒した者には誰も逆らえないのだから・・・。」
「しかし、奇妙な話だよな。なんと言うか、自我がないと言うか・・・」
「それが・・約束だから・・・」
「あ?」
「いいえ。なんでも。それじゃぁ、なるべく早く着くように“運転”するわね。」
マルケリアはそう言うと、ひらりと外に出て行ってしまった。
「・・どうだ?信用できそうか?」
「うん・・。解らない。でも、とりあえずマリーの話に乗るより他、手立てがない事だけは解ったよ。」
「そうか・・・。」
刻々と、時は過ぎてゆく。
地平に太陽が沈み切った時・・・祭りは始まる。
〈END〉
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト/トランスメンバー/劇団員
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■ ライター通信 ■
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この度は『白銀の姫』“片翼の双子〜An oath Dream〜V”にご参加いただき有難う御座いました!
そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
桐生 暁様
何時も有難う御座います。そして、今回もご参加いただき有難う御座いました。
冬弥が落ちた後の話や、ダルワイブの事。そして、Another Sideの展開・・・如何でしたでしょうか?
片翼の双子〜An oath Dream〜は次回で終了の予定です。
もしよろしければ、最後までお付き合い願えればと思います。
それでは、またお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
“amerial-ghoden”
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