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<白銀の姫・PCクエストノベル>


片翼の双子〜An oath Dream〜V



■始まり□


 走って走って・・・走りついた先には1台の馬車があった。
 光速馬車を小さくしたようなそれに駆け寄る。
 ガラガラと扉が開き、冬弥は躊躇なく飛び乗った。
 「ほら、早くしろっ!」
 差し出された手を掴み馬車に飛び乗る。
 すぐに扉が閉まり、馬車は軽快に走り出した。
 「はぁ〜。ったく、こんな無茶な作戦考えやがって。」
 「あら、仕方ないじゃない。これくらいの無茶はしないと、欺けないわ。」
 ふわっと香る薔薇の香り。
 どこかで聞いた事のある、独特のしゃべり方・・そして、声。
 「でもな、まさかデハームの選手がコイツラだったとは・・・マリー、お前は知ってたんだろ?」
 「えぇ。直前だったけれどね。貴方に言わなかったのは、驚かせたかったからよ。ふふ、びっくりしたでしょう?」
 「・・・まぁな。」
 “マリー”と呼ばれた女性と、目が合う。
 以前会った事のある・・・。
 『マルケリア・デ・ルーブ』
 「お久しぶりね“zaxaiv”。覚えているかしら?私の事。」
 「なんで・・・」
 「あら、言わなかったかしら?“amerial-ghoden”って。」
 “amerial-ghoden”その意味は・・
 「また会いましょう・・?」
 「そう。今がその“また”ってわけ。」
 真っ赤なルージュをひいた口の端をキュイっと持ち上げる。 
 「マリー。もう昔話は良いだろう?今は時間がない。」
 「えぇ、分かってるわ。“avune-jjneiy cpokne gegskihe”を助けに行くんでしょう?」
 「・・いいか、よく聞いてくれ。」
 冬弥の真剣な瞳が真っ直ぐに向かってくる。
 「美麗を今夜中に助けられなければ、全てが終わる。」
 「主に“夢”と“現実”がね。」
 「それは・・・」
 「美麗は今夜・・・。」
 冬弥が口ごもる。それを察したマルケリアが、ついと人差し指をこちらに向けた。
 真っ赤に塗られたマニキュア。長く伸びた爪。
 すっとそれを自分の首の前に持ってくると、真横に引いた。
 「“avune-jjneiy cpokne gegskihe”は今夜殺される。ダルワイブの祭りのメインに。そうなれば、全てが終わる。親を失った夢は暴走をはじめ、世界を飲み込もうとする。そうなれば現実も崩壊する。例え現実の親の中にいようとも、バランスを失った世界は崩れ、結果、真の現実が崩壊するわ。」
 「今日が2週間目だ。あの日から・・・この意味が、わかるな?」
 2週間。
 それは麗夜が夢の扉を管理できるぎりぎりのライン。
 「あっちがどうなってるのかは分からないが、もしもあの日・・美麗がこっちに引き込まれた時に、すでに夢がソレに気づいていたとしたなら・・。」
 夢が美麗の不在に気づいて暴走を始めていたなら・・その日から丁度2週間。
 「時間がない。でも、今は行動を起こすべき時じゃない。」
 「ダルワイブに着くまではまだ時間があるわ。だから・・・。」
 マルケリアは2人をその長い爪で交互に指差した。
 「今までの経緯を話してあげなさい。冬弥。」
 「あぁ・・・。」


 ----------【Another Side】----------

 「これだから余所者は・・・。」
 「仕方がないじゃない。余所者は余所者なんだから。信じるだけ、無駄よ。」
 くすくすと小さな笑い声を上げながら、ふわりと髪を掻き揚げる。
 「向こうはこちらがソレに気づいているのを知っているのか?」
 「まさか。あの子は私の事を信じているわ。“ソレが真実”だって疑ってもいない。」
 「さすがだな。」
 「お褒めいただき光栄ですわ。」
 そう言うと、すっと頭を下げる。
 上流階級の貴族がやるように、柔らかな動きで・・・。
 「嘘をついたものには罰を与えなければ・・・。」
 「それなら、仲間を捕らえましょう。えぇ、大丈夫。その手配は私がやっておくわ。なにせ私は彼に信頼されているのだから。」
 ふっと微笑む。
 彼女が動くたびに薔薇の香りが漂う。
 その赤い唇からも、長い爪からも、金色の髪からも・・・。
 「世界なんて壊れれば良いの。どうせ世界なんてちっぽけなものなんだから。」
 「そうだな。マルケリア・・・。」


□火宮 翔子■


 「話すって言っても、どこから話したら良いのか正直わかんねぇんだよな。」
 冬弥はそう言うと、翔子の顔を見て少しだけ考えた。
 こちらはききたい事がたくさんある。
 本当に、色々と・・・。
 「それなら、“zaxaiv”にきいてみれば良いじゃない。“zaxaiv”は、色々と聞きたい事があるのでしょう?」
 マルケリアはそう言うと、艶っぽい視線を翔子に向けた。
 「えぇ・・・そうね・・・。」
 翔子はコクリと頷くと、ひとまず溜息をついた。・・いや、それは溜息と言うよりは深呼吸と言うものに近いのかも知れない。
 ほっと、一息ついた時のあの独特な呼吸だ。
 「とりあえず・・・一安心って所かしら・・・。この馬車までダルワイブまで行くんでしょう?」
 「あぁ。」
 「それなら、少し休めるわね。・・・少しでも体力を温存しておかないと。」
 「そうだな。」
 ふわりと微笑みながら頷いた冬弥の顔をマジマジと見つめる。
 冬弥の髪も、笑顔も、匂いも・・・すべてが懐かしい。
 それほど長い間離れていたわけではないのに・・なんだか、久しぶりに会ったような、言い知れぬ安らぎが翔子の胸を温かくする。
 「とりあえず・・・生きていてくれて良かった・・・。心配・・したんだからね・・。」
 思わずそう呟いていた。
 なんだか甘い響きを持ってしまったその言葉に、翔子は思わずはっとした。
 「・・い、いや!・・そ・・そんなに深刻に心配してたわけじゃないけどね!?」
 あたふたと、意味もなく手をバタバタさせてしまう。
 その様子を見ていたマルケリアが思わず小さく微笑む。
 「えっと・・・。」
 カァっと、頬が火照る。恥ずかしさがこみ上げてきて、翔子の耳まで赤く染める。
 「ふっ・・・さんきゅ。」
 小さく微笑んだ後で、冬弥が優しく翔子の髪を撫ぜた。
 「悪かった。心配させて・・。」
 「だ・・だから、そんな深刻に心配してたわけじゃ・・・。」
 なんだかちょっぴりドギマギしてしまうのは・・きっと、翔子の心の勘違いだ。
 「そうだ・・・。崖から落ちた後はどうしていたの?ダルワイブのチームに居たって事は、随分と色々あったみたいだけど?」
 「まぁな。」
 冬弥が翔子の髪から手を離す。
 ほんの少しの間、視線を宙にさまよわせた後で、しっかりと翔子の瞳を見つめた。
 「光速馬車から落ちた後・・マリーが来てな。ワイヤーで2人して崖の木に引っかかって、そっから下に下りたんだ。」
 「ワイヤーで・・・?」
 それは、マルケリアが冬弥を胸に抱いて・・と言う事なのだろうか?
 だとしたら、マルケリアの力は侮れないものがある。
 「そうだ。そこで・・マリーから提案をされたんだ。」
 「提案?」
 「ダルワイブを滅ぼすための提案さ。」
 「どう言う事なの・・・?」
 「翔子は、女神に会ったか?」
 「・・・会ったわ。」
 そうかと、冬弥は呟くとそのままじっと目の前を見つめた。
 どちらも何も話さない時間が続く・・・。
 先に口を開いたのは翔子だった。
 「女神が・・・何か関係しているの?」
 「どうもダルワイブのヘッドは、こっちの世界から来たやつみたいなんだ。」
 「こっちの世界って・・つまりは私達と同じ世界って事?」
 「そうだ。マリーの話によると、美麗がこの世界に引き込まれる前に来たらしい。」
 「この世界に引き込まれる前・・・なんだか、偶然とは思えないわね。」
 まるで最初から計算されているように・・・ピタリと、正確に物事が進行している気がする。
 「なぁ、翔子。ココが、人を選ぶのを・・・覚えているか?」
 「えぇ、もちろん。」
 だからこの場には、もなの姿がないのだ。
 彼女はこちらの世界に来れなかった・・・。
 「あぁ。だから、俺達は必然的に配置されているんだ。」
 「どう言う事なの?」
 「つまり、この“話”には俺達が必要なんだ。もちろん、マリーも。これは、必然なんだ・・・。」
 ヒツゼン・・・?
 この“話”には、必要・・・必然・・・。
 一つの単語が、違う単語に絡まり、ぐちゃぐちゃと変な風にまとまる。
 ・・解らない。
 ただ解る事は、これには何かの力が働いていると言う事だ。
 ダルワイブの親玉が来たすぐ後に美麗が此方に入り込み、連れさらわれた。
 少々タイミングが良すぎるではないか・・・。
 「・・そう言えば・・。」
 ふっと頭を掠めた光景に、翔子は思わず口を開いていた。
 「コロセウムに行く前・・デハーム側の人が“ダルワイブが勝ってしまえば“アレ”がダルワイブの元へと渡ってしまう”って言っていたのだけれど・・“アレ”とはなんなの?」
 「なんだ、もうそこまで知ってるのか。」
 冬弥はそう言うと、すっとマルケリアに視線を向けた。
 「・・ここから先は、俺じゃなくマリーにきいた方が良いな。まだ、俺も知らない話があるだろう?マリー?」
 「えぇ、そうね。どうせなら全部最初から話してあげるわ。冬弥、貴方は2回同じ話を聞く事になるけれど・・・。」
 「覚えられて良いじゃないか。」
 「OK。それじゃぁまずは“zaxaiv”・・私に、聞きたい事があるのでしょう?質問タイムから先に終わらせましょう。」
 マルケリアはそう言ってくいっと口の端を持ち上げた。


■マルケリアの話□


 ----------【Another Side】----------

 「仲間を捕らえて、感動の再会の後で・・殺しましょう。目の前で。」
 「お前は残酷だな。」
 「あら、優しいって言ってくれないかしら?感動の再会はきちんと用意してあるのよ・・・?だって、せっかくここまでたどり着いて、目の前に変わり果てた仲間の姿があったなんて、ちょっと素敵じゃないじゃない。」
 「そうか?」
 「えぇ。ここまでたどり着いて、ソードを抜くの。そうすると、貴方は微笑んで・・・後ろに置いてある檻にかかったカーテンをはずすの。するとね、そこには仲間がいるのよ。ふふ、あの子、どんな顔するのかしら。」
 「楽しそうだな。」
 「ふふ。そして、貴方は言うの。ソードを置かなければ殺すとね。もちろん、すぐに彼はソードを置くわ。あの子は優しい子だから、仲間を見殺しにするなんて出来ないわ。どんなに仲間が叫ぼうとも、彼は絶対にソードを置く。」
 手に持ったグラスをゆっくりと回す。
 ワインが綺麗な曲線を描きながら透明なガラスを汚していく・・・。
 「そこで、私がソードを奪うの。大丈夫。他の装備は全て抑えておくわ。ココに来る前に、ソード以外のものは持ち込ませないようにするわ。」
 ふわりと香る・・薔薇の香り。
 「驚くでしょうね。私が、裏切ったなんて知ったら・・・違うわ。裏切りの裏切り。ほら、元通りだわ。」
 クスクスと小さく微笑む彼女の髪を優しく撫ぜる。
 ふわふわの髪の毛は、まるでじゃれ付くように手に絡みつく。
 「そして、彼から奪ったソードで、仲間を殺すの。・・あの子、どんな顔をするのかしら・・・。」
 「お前は本当にアレが好きなんだな。」
 「だって、考えても見て。あれだけ美しい男の子よ。その顔が、苦しみに歪むの。苦しくて、哀しくて、自己嫌悪とか、怒りとか、その全てが混ざった表情をするのよ。」
 「・・・美しいな。」
 「そうでしょう?そのまま永遠に閉じ込めてしまいたいくらいに・・・。」
 そう言うと、そっと口の端を上げた。
 本当にそれは口元だけの微笑だった。
 瞳は妖しく光り輝き、そこには一部の隙もない。
 「楽しみだわ・・・。“avune-jjneiy cpokne gegskihe”が殺されるのなんかよりも、ずーっと、ずっと。」


 ----------【Main Side】----------

 「さぁ、なんでも質問して。答えられる範囲の事は、素直に答えるつもりよ。」
 マルケリアはそう言うと、翔子に視線を向けた。
 金色の髪を掻き揚げ、じっと翔子の瞳を見つめる。
 「“avune-jjneiy cpokne gegskihe”が、美麗さんを指しているのは解るけれど・・それはどう言う意味なの?」
 「あら、冬弥。“avune-jjneiy cpokne gegskihe”は“美麗”って名前なの?」
 「・・・言ったはずだぞ?」
 「聞いてないわ。」
 マルケリアはしばし目を丸くして、口の中で数度“美麗”と呟いた。
 「どう言う事と言われても、詳しく説明できる自信はないわ。これは、感覚的な問題も入っているから。でも・・・意味なら、明確ね。」
 下げていた袋の中から紙とペンを取り出す。
 「この言葉はね、3つの単語から出来ているの。」
 そう言って、縦に3つ並べて言葉を書き付ける。
 “avune-jjneiy”
 “cpokne”
 “gegskihe”
 「“avune-jjneiy”は“2つで1つのもの”と言う意味。“cpokne”は欠けた。“gegskihe”は翼よ。」
 「全体での意味は・・あるのかしら?」
 「えぇ。“双子の片翼”・・・。」
 「双子の片翼・・・?」
 その言葉に、美麗と麗夜の顔が浮かんでは消える。
 「2つで1つのもの・・つまりは、双子。それと、翼がかかっているの。翼も、2つで1つのものでしょう?それが欠けている・・つまりは、片方しかないって意味。」
 「その片方は・・麗夜さん?」
 「さぁ。私はよく知らないわ。そもそも、美麗の名前ですらも知らなかったのだもの。」
 ケロリと言ってのけたマルケリアに、冬弥が再び「俺はちゃんと言っているはずだ」と呟く。
 「でもそうね、麗夜・・・。美麗と対の者の名前?」
 「あぁ。」
 マルケリアの問いに、頷いたのは冬弥だった。
 「それじゃぁ“zaxaiv”の意味は?」
 「勇気あるもの。だから、勇者なんかを呼ぶ時に、そう言うの。“zaxaiv”」
 マルケリアはそう言うと、翔子の顔を見つめてにこっと微笑んだ。
 あまりにも妖艶な微笑みに、思わず見とれてしまいそうになる・・・。
 「私は、そんな大そうなものじゃ・・・。」
 「あら、私は貴方の名前を知らないんだもの。“zaxaiv”以外に呼びようがないわ。」
 「火宮 翔子・・」
 「そう。それじゃぁ、翔子。私の事はマリーって呼んでね。」
 「えぇ。マリーさん。貴方は・・・もともと此処に居る人なの?」
 「いいえ。」
 「翔子・・マリーは俺らと同じなんだよ。白銀に引き込まれたくちだ。」
 「え・・?」
 思わずマジマジとマルケリアを見つめる。姿形もそうだが、その性格や口調さえも、なんだかずっとこの世界に居るような人物に思える・・。
 「そう。私も所詮は余所者ってわけ。」
 ニヤリ。不敵な微笑み・・・。
 「・・ダルワイブについて、詳しく聞いておきたいのだけれど・・・。」
 「えぇ。話してあげるわ。まだ、冬弥も知らない話も、入っているけれど・・・。」


□ダルワイブ■


 ----------【Another Side】----------

 「所詮、皆余所者。それなのに、仲間ごっこなんて・・くだらないわ。」
 金色に輝く髪を、掻き揚げる。
 「馬鹿馬鹿しい。私は・・あんな世界にしがみついたりしない。ねぇ?そうでしょう?貴方達も、そう思うでしょう?」
 「五月蝿いわ。ちょっと黙っててもらえる?」
 「あら・・ずいぶんな物言いね。せっかく私の一存で生かしてやっているのに。」
 「テメーに逢った時から、なんかあるとは思っていたが・・これが狙いか?」
 「そうよ。別に、彼じゃなくても良かったの。最も、彼が一番だまし易そうではあったけれどね。」
 「単純だからね。」
 「純粋だからよ。」
 真っ赤なルージュを、ひく。きゅいっと微笑んで、口の端についた赤を指で消す。
 「お前の目的は何だ?」
 「目的?そんなもの、あるわけないでしょう?だって、世界は終わるんですもの。そんなもの、持っているだけ邪魔よ。」
 ふわんと、薔薇の香りの香水を一振り、振り掛ける。
 「さぁ、貴方達はそこで大人しくしていて。その“時”が来るまで・・・。」


 ----------【Main Side】----------

 「まずね、これが・・あの試合の目的よ。」
 マルケリアはそう言うと、短いスカートのポケットから、小さな布製の袋を取り出した。
 巾着のような形で・・マルケリアはすっと紐を緩めて、掌に中身を出した。
 コロリ
 それは小さな石のようだった。丁度、キャッツアイのように、妖しく美しく光り輝く・・。
 「ダルワイブは、コレがあれば全ての力を手に入れることが出来る。でもね、ダルワイブ以外のものが手に入れれば、ダルワイブを壊すことが出来るの。」
 「それはなに?」
 「運命の石。最後の力の眠る・・ダルワイブの最深部へ行ける物。」
 「最後の力?」
 「そう。ダルワイブの最終兵器の眠る部屋。それをこじ開ける事の出来る唯一の鍵。右へ回せば、獣が解き放たれてこの世界を滅ぼす。左へ回せば、獣は消滅する。」
 「それがどうしてあの試合に・・?」
 「この石はもともとダルワイブの長に受け継がれてきたの。でもね、こんな危険な因子、放っておけるはずがないわ。だから、ダルワイブの中に潜入し、この石を奪った青年がいるの。その青年の名前が・・・」
 「“zaxaiv”ってわけか?」
 冬弥の言葉に、マルケリアは薄く微笑んだ。
 「そう。ダルワイブでは、強いものが必然的に上。だから、長を倒して石を奪った青年は・・勇気のある者。称えられるのよ。例え、余所者であろうとも・・強さこそ、全てなのだから。」
 マルケリアはそう言うと、袋に石を戻した。
 「ダルワイブには、一貫性がないの。今は私達の敵かも知れないわ。それは、長が私達の敵だから。ダルワイブでは、意思を持つ者はほとんどいない。長に近しい人物以外は、全てただの駒に成り下がる。ただ居るだけの存在、ココロなんて物は持たないわ。」
 「全ては長で決まると言う事・・?」
 「えぇ。だから、ダルワイブの最終兵器が未だに眠っているのよ。今までは、それほど危険な長ではなかったから・・もちろん“zaxaiv”が倒した長は、少々危険な因子を含んでいたけれどもね。」
 「それで・・マリー。祭りについての事だが・・。」
 「祭り・・ね。ダルワイブの祭り・・最終兵器の復活祭。今日、ダルワイブに鍵が届く予定だから・・。」
 「え・・・?けれど、鍵はここに・・・。」
 翔子の呟きに、冬弥が困ったような微笑を浮かべた。
 「流石に何度も言うのは嫌なんだが・・・。俺達は、ダルワイブ側だからな?もちろん、心までは属さないけどな。」
 「あ・・そうね・・・。」
 「そう。美麗を殺す事は、ダルワイブの人間には不可能なの。もちろん、長にもね。解る?美麗は、夢を含んでいる。普通の人間に、殺める事は出来ないの。唯一出来るのが・・最終兵器。」
 「その時間とか、場所はわかるの?」
 「時間は・・断言は出来ないけれど、場所はわかるわ。ダルワイブの最深部。最終兵器の眠る・・“約束の大広間”」
 「“約束の大広間”・・・?」
 「そう。なんでそう呼ばれているのかは、誰も知らない。でも、ずっと前からそう呼ばれている事だけは確かよ。」
 “約束の大広間”
 なんとなく、頭の中で反芻する。なにか、深い意味を含んでいそうなその名前を、頭に刻み付ける。
 約束・・それは、何の約束なのだろうか・・・?
 「んな心配しなくても大丈夫だって。美麗がつかまってる部屋がどこなのか、調べはついてるし・・。美麗を奪還したら、すぐに帰るぞ。」
 「えぇ。そうね・・・。」
 「ダルワイブに着いたら、早速行動開始になるわ。もう一度詳細を確認しましょう。」
 「あぁ・・・あ、翔子はどうする?」
 「捕虜として連れて来たと言えば、問題はないでしょ?」
 なんだか空しく響くその単語に、思わずガクリと力を抜いてしまいそうになる。
 「軽く、縄で縛っておきましょうか。捕虜だし・・それで、私が鍵を献上すると見せかけて、ソードを抜く。冬弥はタイミングをはずさずに出て、長の動きを封じて。」
 「あぁ。」
 「手元が狂って万が一・・長の首が落ちても・・・まぁ、それはそれで仕方がないわ。」
 「ずいぶん信用ねぇな。」
 「もしも冬弥が失敗した場合・・貴方に全てを任せるわ。」
 マルケリアはそう言うと、翔子の肩に手を置いた。
 「縄は緩くなっているから、ちょっと引っ張れば解けるわ。」
 「解ったわ。」
 まさか冬弥が失敗するとは思えないが、それでも・・万が一の時は・・・。
 「長さえ倒せばこっちのもの。後は美麗を救いましょう。長を倒した者には誰も逆らえないのだから・・・。」
 「しかし、奇妙な話だよな。なんと言うか、自我がないと言うか・・・」
 「それが・・約束だから・・・」
 「あ?」
 「いいえ。なんでも。」
 「ダルワイブの街の作りとか・・・詳しく解るかしら?守りが弱い所とか・・知っている事があれば出来るだけ詳しく教えて頂戴。色々なケースを考えて・・具体的な脱出方法くらいはきちんと考えておかないと・・・。」
 「街は、普通の街。本当に、いたって普通の・・ただ、塔が2つ、立っているわ。どちらかの塔に、美麗が居るの。そして反対の塔の地下には最終兵器が眠っている・・・。」
 それがどちらだかは、私にも解らないの。と、マルケリアは小さく付け足した。
 「ま、長を倒せば脱出もクソもねぇ。堂々と正面きって出られるからな。」
 「万が一の事を考えて・・一番安全な脱出経路を覚えておいた方が良いと思うのだけど・・・。」
 「一番安全な・・・。」
 マルケリアは何かを思い出したように、ふっと艶っぽく微笑んだ。
 「一番安全に、外に出る方法は・・・もちろん、長を倒す事。でも、もう1つだけ安全に待ちの外に出られる道があるわ。ダルワイブの連中に見つからずに脱出できる道。」
 「それはどこなの?」
 「最終兵器がある・・その、先。」
 「・・え?」
 「私もよくは知らないの。でもね、そこが外に通じる一番安全な道だって事は、聞かされたわ。」
 「聞かされたって?一体誰に?」
 「長・・に、決まってるでしょう?」
 マルケリアは何の事はないと言う風に、さらりとそう言ってのけると、ふっと息を吐き出した。
 「そこが一番安全に外に出られる。誰も知らない通路だからと言うのもあるけれど・・・」
 「最終兵器があるからでしょう?」
 「そう。」
 「どっちにしろ、やっぱり一番い簡単なのは長を倒す事だな。」
 「万が一にも、長を倒せないと言う事はないわ。計画は・・綿密だから・・。」
 「そうね。」
 そう言って頷いては見たものの、なんだか翔子は胸騒ぎを覚えていた。
 万が一は・・万が一だ。万に一はあるかもしれないと言う事。けれど、万だろうが億だろうが、失敗する事は許されない。
 失敗すれば、美麗が死に、世界が・・崩れる。
 「とりあえず・・着くまでは体力を温存しとかないとな。着いてからはすぐに行動に移らなくちゃならねぇし・・・。」
 「えぇ・・・。」
 「それじゃぁ、なるべく早く着くように“運転”するわね。」
 マルケリアはそう言うと、ひらりと外に出て行ってしまった。
 刻々と、時は過ぎてゆく。
 地平に太陽が沈み切った時・・・祭りは始まる。


    〈END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  3974/火宮 翔子/女性/23歳/ハンター


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 ■         ライター通信          ■
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  この度は『白銀の姫』“片翼の双子〜An oath Dream〜V”にご参加いただき有難う御座いました!
  そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 
  
 火宮 翔子様

  何時も有難う御座います。そして、今回もご参加いただき有難う御座いました。
  冬弥が落ちた後の話や、ダルワイブの事。そして、Another Sideの展開・・・如何でしたでしょうか?
  片翼の双子〜An oath Dream〜は次回で終了の予定です。
  もしよろしければ、最後までお付き合い願えればと思います。


   それでは、またお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
      “amerial-ghoden”