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[ 運動会打ち上げ! -その額に鉢巻は靡いているか!?- ]
暑い秋のイベントはもう終わりを間近に迎えていた。
ある者は疲れきり、又ある者は物足りなさにその身を振るわせる。
とはいえ、競技は終了したのだ。
しかし各選手、帰路へと着く前その足は止まる。
『打ち上げ決行!運動会不参加も歓迎、本日開催
打ち上げ参加者は各自使用した鉢巻
(持っていない人は事前に三下忠雄に申請し貰ってください)持参
飲み放題・食い放題・遊び放題 四時間カラオケ・プールつきコース
参加費→男性\5000 女性\4000 未成年\2500(後払い可能)
打ち上げのメインイベントとして全員王様になれちゃう王様ゲームがあります
まだまだ遊び足りない人、運動会に参加できなかった人は
ぜひこの打ち上げパーティーで素晴らしい汗や恐怖の汗を流しましょう!!
参加希望者は本日17:00に○×駅前に集合。
途中参加や、途中帰宅OK。集合の場合、目印は白ヤギさん(てらやぎ)です』
いたるところに張られていた打ち上げ告知の張り紙。
運営会側のサービスと考えて……良いとは思う。
□□□
「――……参加費が、無い?」
「このとおり、未成年と言っても足りません」
自ら開いて見せた財布の中身は、やたら細かい小銭で合計160円。
「ホント、これはなかなか面白い中身ね」
溜息と同時、顔が完全にそらされた。
「なので、打ち上げが開催される場所でアルバイトをしたいと思うんです」
「そう……まぁ、人手は欲しいからいいわよ。所でちょっと気になったのだけど」
キィッと、回転椅子の軋む音。そして彼女は椅子から立ち、目の前のそれを怪訝な目で見た。
「そのふざけた鉢巻は、なんなのよ?」
「麗香さん、これ可愛いでしょう? 兎さんに気合を入れたこの文字。もう私の宝物です」
そう言う彼は得意げに額に巻いていた白い鉢巻を彼女――碇麗香へと見せる。
嬉々とした彼の表情とは逆に、麗香はただ無表情のまま、そこに書かれているやたら可愛らしい兎のイラストと、『失踪』の文字を見ていた。周りにはカラーペンで書いたのか、お花の模様も散らばりなんだかぱっと見わけが分からない。
もはやそれは『疾走』なのだろうと思いながらも突っ込む気力も、そんな義理もなく。麗香は一つ息を吐くと、引き出しから一枚の紙を出し手渡す。
「さんしたくんは今回目印で今は集合場所に立たせているから、先に行って準備して。はい、これは会場の地図」
「はい、頑張ります!」
それは打ち上げ広告を見た彼ことシオン・レ・ハイが、白王社の月刊アトラス編集部編集長であり、打ち上げ会計係の碇麗香を訪れたことから始まった、アルバイト日誌の一部である……。
鉢巻を巻いたまま会場に着くなり、目の前に現れた桂に「これを着てください」と言われ上着の上から更に着せられたのが『打ち上げ実行委員』と背に書かれた半纏だった。既に会場には草間二人の姿は勿論、ごたごたと運動会関係者が同じ半纏を着て動き回っているようだ。
そしてシオンに任された最初の仕事は麗香が会場に着くまでの代理としての会計係り。払える者は前払い、そしてゲームで勝利した場合は帰りに返金されるシステムらしい。単にお金を受け取り、今度は受付へと案内する――それがシオンの役目だ。一応と渡されたマニュアルを受け取りはするが、後にそれはお絵かき帳になる事をこの時桂は知らなかった……。
入り口に置かれた机に座り「では頑張ります!」と意気込んだところ、シオンより少し離れた会場寄りの机に座る零から声がかかる。
「シオンさん鉢巻、見せてもらいますか?」
「勿論! この可愛い兎さんのイラストと魂の篭ったこの鉢巻を是非。これ、麗香さんにも好評でしたし」
麗香の居ない今既にシオンの頭の中ではそんな設定が出来上がっていた。
「あ、ホント可愛いですね。では少し拝見して……」
言うなり零は鉢巻の裏側を見て、なにやら紙へと書いていく。そして鉢巻と共に紙とペンを渡される。
「えっと、ゲームが始まる前に、その紙に王様ゲームのルールに則り指示を書き、私に提出してください。くれぐれも書いているところは他の方に見られないようにしてください」
零の言うことにはこの鉢巻には裏面に小さく番号が書いてあるらしい。もっともシオンの鉢巻には落書きが多すぎて少しばかり数字が読み取りにくかったのだが。番号は1〜5が振り当てられていて、その番号がシオンの場合1なので、それ以外の数字を選べば良いとの事だった。
状況をなんとなく理解すると、早速一人目の参加者が現れる。
「いらっしゃいませー。参加費はこちらで集めています!」
するとシオンはたちまち営業スマイルを浮かべた。どこぞで賞を取った事もある程素敵な笑みだ。勿論額には可愛らしい鉢巻を巻いたまま。
「……えっと、確かシオン」
まずは梧・北斗(あおぎり・ほくと)が一人で来たようだ。シオンはもう一度同じ言葉を繰り返し、それに北斗は我に返り財布を出した。
「あ、はい参加費な。細かいのないからこれで」
千円札を三枚出してきた北斗に五百円を返すと、シオンは引き続き奥を示し言う。
「ではこのまま受付に行って登録をしてくださいね」
一人目は無事クリア。北斗は零から説明を受け奥の会場へと移動したようだ。すると、少し遅れて団体が現れた。てらやぎ着ぐるみ基、三下忠雄に連れられてきたシュライン・エマ――「はい、参加費。それにしても此処でバイトを?」に新座・クレイボーン(にいざ・―)――「んじゃこれ、参加費」、藤井・蘭(ふじい・らん)――「僕はみせーねんだから、2500円なのー。お札二枚と、おっきー、丸いお金一つー」に今花・かりん(いまはな・―)――「はい、参加費」のご一行だ。
それぞれを北斗にしたのと同じよう、営業スマイルと共に参加費を集め受付へと案内する。そして最後。
「いらっしゃ――」
「もういいわ。後はこれから中を手伝って。厨房と料理運びとか、やることは山とあるのよ!」
颯爽と現れたのはやはり半纏を着た麗香だった。しかし彼女の場合意外と何を着ても似合ってしまうのが不思議なもので。シオンはそんな麗香を見ると椅子から立ち上がり、敬礼のポーズを決めた。
「はい! 勿論です、麗香さん!! あ、参加費全員分集めました。ここに置いておきますね」
「はいはい」と適当に返答を返してきた麗香に、シオンは鉢巻を翻しメイン会場へと走るが、少しすると他の参加者五人が会場入り口で足を止めていた。
「す、っげぇ……」
「広い、わね」
「うおおっ、凄いぞぎゃお、ケツァ!」
「わーい、食べ物いっぱいなのー」
「わぁ、ホントにプールがあるっ」
確かに皆がそう言うだけある。否、どうしてたかが運動会の打ち上げでこれほどの事が出来るのか。畳作りの宴会場、その長机の上には豪勢な料理が並び、机の前方にはカラオケ、右側に仕切りも何も無くプールが、左側にはよく旅館で見かける昔懐かしのゲーム台。その奥になるのだろうか、ピンポン台にサウナ…の案内表示まである。
「さて、頑張って働きますよ、麗香さん」
結局参加者はシュライン・エマ、シオン・レ・ハイ、梧・北斗、新座・クレイボーン、藤井・蘭、今花・かりんの六名。
そして、奥のゲーム台方面から出てきた草間武彦の声により、打ち上げのはじまりはじまり…‥
□□□
メニューはあらかじめ机に用意されているパーティーメニューと、ドリンクバー形式のソフトドリンクに加え、オーダーでサイドメニューや酒類が頼める仕組みになっていた。サイドメニューに酒類も豊富だが、まずは乾杯の音頭が武彦によりされることとなり、仕事途中のシオンもひとまず休みを入れグラスを持った。
「運動会出れた奴も出れなかった奴も、賞を取れた奴も取れなかった奴もご苦労さんということで…乾杯っ」
「乾杯」
「かんぱーい」
「乾杯っ!」
「かんぱいだー」
「かんぱいなのー」
「かんぱ〜い」
長机の、いわば誕生席に座る武彦。彼から向かって右側にはシュライン、蘭、かりんが座り、左側には北斗とシオン、新座とぎゃお、ケツァが座る。
そしてそれぞれ持ったグラスを机の中心でカツンとぶつけ、早速飲み食いが始まった。もっとも、シオンに限っては麗香に首根っこを掴まれ早々に参加者としての席から離れてしまったのだが……。
「あぁーれぇーーー」
「ほら、キビキビ働く! とりあえず適当なBGMかけといて、それくらい出来るでしょう?」
「勿論!」
頷くや否や、シオンは懐からCDを取り出すとプレイヤーにセットする。流れ出した曲はやたらポップでキュートでファンシーな音楽で、すぐさま麗香が戻ってきては音楽をブツリと止めた。
「何かけてんのよ!? もういいから今度はほら、オーダー取って来る! 紙とペン」
そう言うと麗香はCDを替え、会場には運動会の音楽が流れては止まり、最終的には静かな…癒し系の音楽で落ち着いたようだ。
一方のシオンは麗香から与えられたバイト道具を手に、皆のもとへオーダーを取りに行く。
「はぁーーいー、オーダー取りに来ましたよー。ソフトドリンクはあっちですから、それ以外をご注文の方はどうぞ」
「生ビールジョッキと枝豆と刺身と鳥の軟骨と――」
「ケーキなのー」
「俺ハンバーガー」
長々とつまみを読み上げる武彦に続き、蘭に北斗がすかさず好きな物を頼んでいく。
「うげ、またハンバーガーか? おれはこの色々果物丸ごとセットってやつと、ウォッカとジンを瓶で。後シェーカーと氷も」
それら全てを書き留めると、シオンはそそくさと調理場へと向かう。
「オーダーでーす」
そう言い自分の書いた伝票を貼り付けるが、誰しもが解読不能によりいちいち読み上げる羽目になった。
そして十数分後、シオンは両手のトレイ一杯にあらゆるものを乗せ皆のもとへと登場する。重さにより手がプルプルと震えてはいるが、営業スマイルは欠かさない。
「はい、まずは生と枝豆にその他色々、ウォッカとジンとシェーカーですよー。あ、プールやサウナ使う方は水着やタオルのレンタルも無料でしてますからね〜、麗香さんに言ってください。ゲーム台は無料で遊べますよ」
「低価格でよくそこまで出来るわね……うーん、プールは私も帰りに入っていこうかな」
そのままシュラインはプールから目を逸らし、空いた皿を集め立ち上がり、そのまま調理場の方へと向かっていった。
「何でもありますから、何か欲しくなったら言ってください。後は肩がこっただとか、カラオケが使いたいだとか」
「あ、俺歌いたいかも」
「はいはい」
北斗のリクエストに、シオンはカラオケセットの電源を入れに走り、カタログとマイクとリモコンを手渡した。
「俺肩揉み希望」
そして武彦から飛ぶ気だるいリクエストに「はいはいー」と応え、北斗の曲が始まれば「わーー」っと声を上げ、時折拍手を混ぜながらその場を盛り上げる。
そして北斗が一曲終える頃、盛大なシオンの拍手と新座の「出来たっ」の声が重なった。見ればいつの間にか、何種類かのカクテルが出来上がっている。見れば既にウォッカの瓶もジンの瓶も空という有様だ。
「うわ、こんな作れんだ?」
「簡単なのならな。酒は頼めば出てくるし、折角だしコレ少し飲むか?」
「私、飲みたいです!」
新座の誘いに乗ったのは仕事中のはずのシオンだった。幸いと言うべきか、麗香はプールの方に居てこの有様に気づいていないし、武彦はいつの間にか席を立っていた。
「あー…俺はぁ……」
「じゃあコレ。かんぱーい」
躊躇していた北斗には強制的にグラスが渡され、男三人再びの乾杯。
「……ん、美味いかも」
一口飲んで北斗。
「だろ?」
「私もう一杯欲しいです!」
既にシオンはグラスを空け、新座は好きなものをどんどん飲むぞと意気込み。
何度かシオンがベースを取りに行ったり来たりし。その瓶の数が十本に達した頃。既に北斗もシオンも落ちていた。
「なんつうか…強すぎ、だろぉ〜?」
座布団が既に枕代わりの北斗は、未だピンピンしている新座を見上げ、恨めしげに言う。
「あぁ、おれ酒強いし、酔わないから」
そういう新座は、今もまだカクテルを作りながら飲んでは食っていた。カクテルもたまにシェーカーで振ったかと思えば、グラスの中で混ぜ合わせて見せたり。意外に器用と言うべきか、芸達者と言うべきか。
しかし新座と机を挟んだ正面では異変が起きていた。
「…………あははは、私なんだか本当にこのバイト、楽しくなってきました〜。もっともっとほかのバイトもしちゃいますよぉー!」
「……こわ、れたぁ?」
「壊れた、な」
思わず北斗は上半身を起き上がらせ、新座はカクテル作りの手を止める。
「そぉだ、本買いませんかぁ。可愛い可愛い、『プリティ☆お芋さん写真集vol.1』! なんと私の手作りですよぉ。ほらぁ、こんなに可愛いお芋さんの悩殺ショットにプライベートショットが満載、フルカラーでなんと一冊千円、今なら生写真まで付いちゃうんですよ、お買い得ですよ。どうですか? ほら参加した記念に、今日の思い出に」
懐からばっさばっさと出てくる本は、何処を開いても芋の姿。シオン、渾身の力作だ。
「……なんだこの芋」
「ぁ、いや…ほらぁ俺の相手だった芋は、そいつじゃ…ないし?」
しかしあまりにも受けが悪く、これではダメだと二人から目を逸らすと、一人の人物が頭に思い浮かぶ。
「そーだ、れーかさんに売ってきましょう! れーかさんあらこの可愛さも! あとはあの記事も〜〜」
ふらっと立ち上がるとやがてシオンはふらふらとプールの方へと向かって行った。
シオン目的の麗香は、現在シオンとはプールを挟んだ向こう側、そのプールサイドの椅子で寛ぎながら雑誌を捲っている。麗香は目の前だと言うのに、迂回しなければいけないこのもどかしさ。大きな障害。
そんな思いに耽っていると、更衣室らしき場所から蘭とかりんが出てきたため、ここぞとばかりに再び販売を始める。
「あ、お二人とも…本買いませんかぁ。可愛い可愛い、『プリティ☆お芋さん写真集vol.1』! ほらぁ、こんなに可愛いお芋さんの写真が満載、フルカラーでなんと一冊千円、今なら生写真まで付いちゃうんですよ。どうですか? 記念に」
「……あ、私はお小遣い前借りしたくらいだし無理かなーって」
「お芋さんなのー!? ふにぃ、でも僕もお札も丸いお金も無いの……」
しかし二人にあっさり言われ、シオンはガックリと肩を落とすと、フラフラと麗香の方へと向かっていった。
「麗香ひゃぁん〜、そんな雑誌より私手作りのお芋さん写真集見ませんか〜? 可愛いですよ? 麗香さん運動会ではあんなに熱い眼差しで見てましたから、きっとこ――」
「…………」
ちらりと、シオンが手にする写真集を見た麗香は、そのまま雑誌へと視線を戻す。何も言われないのが一番ダメージがでかいと、きっと彼女は知っている。
「麗香さぁん、……しょうだ、これ! 私が書いた記事です、どうじょ!」
「――――何々?『スプーク動くお芋さん』……あ……ぁそう」
シオンの懐から出された少し温かくやたら量の多い記事を受け取り、その表題を見た麗香は、冒頭の一部を淡々と読み上げ。無表情のままその記事はシオンへと返された。見ればスプークの部分に赤ペンで斜線が引かれ、ご丁寧に『スクープ』と書き直されている。
「いいから仕事に戻りなさい? ……っても、酔ってるのよね。まぁ、もうすぐメインゲームだから、それまで適当に休んで。それともう指令は書いたの?」
「あ、まりゃでひゅ…えーと私はぁ――」
言いながらシオンは紙とペンを出す。
「『2番の方にリンボーダンスをやって欲しいです』…リンボーダンス、こんにゃ感じで、麗香さんも一緒にどうですか?」
紙を二つ折りにしプールサイドでリンボーダンスの真似事を始めるシオンに、麗香は頭を抱え椅子から立ち上がると、雑誌を持ってどこか違い場所へと離れていく。
それに気づき、シオンは慌てて後を追おうとした。
「あっ、待って下さい麗香さ――っ」
――ツルッ……ドボーン..
大量の水飛沫。そこに間髪入れず入る、放送の声。
――――ピンピンパンポーン
『後十分で本日メインイベント、王様ゲームの開始です。皆さん、用紙を提出してください』
「……せめてもの情けよ、紙だけは私が代わりに出しといてあげるわ」
仰向けに浮かんだまま聞いた麗香の声。プールサイドは走ってはいけないと今更ながら思い出し、今はただ揺れる水面にそっとその身を委ね。ゆっくりと、けれど確実に醒めていく酔いと、ホンの少しだけ冷静になっていく自分、そして高い天井の向こうに見える夜空を見つめるだけだった…‥。
□□□
「それでは王様ゲームを始めます。皆さん揃ってますか?」
このゲーム開始十分前まで、それぞれ色々な事があったりもしたが、皆今は無事机に揃っていた。机の上にはまだ食事が並んでいるが、大半が今デザートに占領されている。
一応とマイクを持った桂が一人一人点呼を取り、それぞれ返事を返すとルール説明が始まった。
今回は全員説明を受けているよう、それぞれあらかじめ振り当てられている番号が鉢巻に書かれており、それは変更のしようが無い。そして紙に書いた他者への命令も、きちんと受付でコピーを取り、変更の無いように管理していた。
「まず皆さんが書いた命令の紙をお返しします。王様の権利は順番に回ってきますので、紙に書いたことをそのまま読み上げてください。誰が何番だと判ったからと言って、変更は許可しません」
桂が言い終えると零が、確かに各自が書いた命令の紙を手渡してきた。
「さて、このゲームの形式上被害を受けないと言うのはやむを得ないのですが、命令を出した番号が居ないのも寂しいので急遽居ない番号はこちらで補う形としました。ただし、補うものであり命令は出せませんので安心してください。ちなみに公正に、あみだくじで決めました」
「で、順番ってどうなんだ?」
北斗がふと疑問を漏らすと、桂はにっこり微笑み答える。
「順番は今お返しした紙の右上に。王様になれる前にリタイアしないよう、頑張って下さい」
そう言い桂はマイクを零へと渡し、数歩下がってその場に正座した。
「あ、確かに」
「私最後……かぁ」
「私は…次ですね」
「わーい、5番目なのー」
「おれまだまだ先だぁ……結局一番は誰だ?」
新座の問いに、シュラインが手を上げた。
「1番、私だわ」
「では、白鉢巻シュライン エマさんまずはこちらにどうぞ」
言われシュラインは零が手で示す上座へと座る。頭の上に何か乗せられたと思えば、金色の折り紙を貼り付けた手作りの王冠だ。
「……ええっと、これで後は命令を読み上げればいいのかしら?」
「はい、どうぞ!」
「『1番の人に参加者其々の飲み物、少しずつ混ぜたものを飲む』、これ宜しくね」
「うあ、おれ1番。でもゲームでも飲めんなら」
「私も1番ですよ。また、飲むんですか…」
そう言ったのは新座とシオンの二人。どうやら1番は二人いたらしい。
「えーっと、じゃあ今みんなが飲んでいるもの、少しずつ混ぜましょう?」
「あ、おれ自分でやる」
言いながら新座はシオンに空のグラスを二個持ってくるよう言うと、さっきまでカクテル作りで使っていた道具を再び活用し始めた。ちなみに今、この場にあるのは水・生ビール・ワイン・ウイスキー・焼酎・リキュール・ウォッカ・ジン・放置されているカクテル多数・オレンジジュース・グレープフルーツジュース・緑茶・アイスコーヒー等などと、飲みかけも多い上に大人子供が集まっているため無節操にも程がある。
「はい、グラス二つ持ってきましたよ」
「さんきゅ。てか、さすがにこれはシェーカーに入れないと……混ざ、んないだろなぁ」
流石に命令を出したシュラインが新座の少しばかり本格的な行動に不安を抱くが、ブツブツと呟きながら新座はシェーカーの中に氷を入れ、続けて飲み物をどんどん入れていく。シェイクしてしまうものの、これだけならばスクリュードライバー、それだけならソルティドッグなど無駄に呟き、最後に蓋をして勢い良くシェイク。
「――出来上がり〜っと」
「これを、飲むんですね…」
「なんか凄い色ー」
「臭いが…やばいぞ?」
「臭いのー…」
「地味にきついわね…」
グラスに注がれた液体と言うべきかその物体は、どろっとしていて黒っぽく、なんだかこの世のものとは思えない臭いがする。
「一気だ」
「一揆、ですね」
飲んだ後の気持ち的にはきっと一揆だろう。二人揃ってグラスを持つと、一気に中身を呷った。
「「…………ぅ゛(げぇ)っ」」
揃って声を上げると、立ち上がり洗面所へと走っていく。一応二人のグラスは空で、見事にクリアはしていた。
「うーん、恐れ入ったわ。限界の更に上を知ったような……えっと、次は?」
思わず関心の声を上げ、シュラインは王冠を外し次にバトンタッチ。
しかし次はシオンと言うことで、零の指示で五分だけ彼の帰りを待つことにした。
「では、白鉢巻シオン レ ハイさんこちらにどうぞ?」
「お待たせ…しました。私からは『2番の方にリンボーダンスをやって欲しいです』よ」
新座と共にふらふら状態で帰り命令を読み上げるや否や、会場の照明が一気に消え、スポットライトが一人を照らす。
「誰がリンボーダンスですって?」
「れ、麗香さん?」
スポットライトに照らされたのも、声を上げたのも碇麗香だ。
「2番は碇さんが代役となってます」
「リンボーダンスのステージはプールサイドに作ったわ。それでどうするわけ?」
「――――1番シオン レ ハイ、リンボーダンスします! Let's Limbo! HEY!! HEY!!」
唐突に右手を上げ、そしてシオンは手を叩きながらプールの方へと走って行く。皆はその様子を止めることなく見守っていた……。
確かにプールサイドに出来ていたリンボーステージ――といっても、二本の棒が地面と垂直に、その間に一本の棒が地面と平行にあるだけの普通のもの――に到着。すると何処からとも無く流れてきた陽気な音楽に合わせ、シオンは地上からかなり低い位置に設定されている棒の下をえびぞり状態で見事くぐり抜け。
「やりまし、たぁっ!?」
万歳と同時、再びプールへと落ちた。
その様子を見守っていた北斗だが、転がっていた王冠を手にすると「次俺!」と上座で胡坐をかく。
「では、黒鉢巻梧北斗さんどうぞ」
「俺は『3番に得意な芸を見せてもらう』ってな」
しかし命令を読み上げるとやはり会場の照明が一気に消え、スポットライトが一人を照らす。
「ぼ、僕ですか!?」
声を上げたのは着ぐるみの頭だけ脱いでいる忠雄だった。
「3番は同じくアトラス編集部から三下さんが代役です」
「と、得意芸といっても……ぼぼぼ僕はぁああ!?」
着ぐるみのままおたおたと右へ左への忠雄に、酔いはしていないが机に突っ伏していた新座がはっと顔を上げる。それと同時、彼の頭に乗っかっていたケツァが転がり落ちる。
「――そんぐらいぎゃおだってできるぞー、ってぎゃお確かまだゲーム台食ってるかもな……でもそれぐらいやって見せろよな、こんな……風にっ!!」
そう言うと新座は何処からともなくカラフルな馬のぬいぐるみを出し、大量に宙へと放り投げた。
「あ、可愛いお馬さんなのー」
「馬だ!」
「ええっ、馬ぁ!?」
「……馬」
「お馬さぁん…」
しかしそのぬいぐるみ、いつの間にか新座に生命を吹き込まれていたようで、落下すると同時にある馬は走り出し、ある馬は人の頭の上で寛ぎ、またある馬は近くに居た人物を嘗め回す行動に移りだす。
「これくらい出来れば芸になるぞ……で、次はおれなんだけど、命令が『3番の奴にコレ一気飲み』だからよろしく。もうしくじんなよーぉうっ…‥」
そう言い新座が忠雄の前に出したのは『世界のタバスコ詰め合わせセット』そして再び机に突っ伏した。そんな新座の首にケツァが、頭にふらふらしていた馬がのっかり寛ぎ始める。ある馬は新座の青鉢巻を解きにかかっていた。
「結局、こうなるんですかぁ」
よもやここまでの事態になると予想していなかった忠雄は泣きそうな顔で、それでも大人しく箱を開けると中身を見る。そのまま大きな溜め息を吐きながら、中身の瓶を出した。中身は要するに世界のペッパーソースが入っていると言うもの。殆ど小さい瓶の物だが種類が多く、見ているだけで汗が出てきそうな中身だった。
「三下くん……頑張って!」
「頑張るなのー!」
「頑張れよー」
「ガンバ!」
「うぉ…もうくえねぇ……」
皆の声援を受け、馬達の視線を受け、忠雄は合計六本の小瓶を取り出す。量にすれば全部を足してもミニペットボトル程度の量だ。その蓋を恐る恐る開けていくと、六本を両手に持ち一気に呷る。
「――――…………□×☆Э‰△!!!?」
「よぉし、それでこそだぞ」
その様子を見ていたのか、新座が起き上がり嬉しそうに手を叩いた。
中身は確かに空っぽであったが、同時にやはり忠雄が座っていた場所も空となったのだが。
「次は赤鉢巻の藤井蘭さん、どうぞ」
「僕なのー。えーっと『2番と4番の人がキスするのー』」
「2番はぁ、シュラインさんですよね……」
ポツリ呟いた零。ぶかぶかの王冠を頭に、馬を一匹その胸の中に抱えニコニコ微笑む蘭に、一瞬その場が凍りつく。
そして今しがたプールから上がってきたびしょ濡れのシオンもその場で凍りついた。
「……零ちゃんや武彦さんに当たったらやだって少し思っていたけど…まさか自分に当たるとは思わなかったわ…」
ポツリ、シュラインが呟いた声が隣に座る蘭に聞こえたかは分からない。ただ蘭は、期待の眼差しでシュラインと麗香を見ていた。
「こういうのは何の繋がりの無い男女とか男同士がするから面白いと思うのよ……」
しかし向けられる期待の眼差しから逃げることは無理でもある。
「どうやらやるしか、ないわね」
「そう、ね…麗香さん」
麗香の声に了承を出すと、シュラインは麗香の方へと歩み寄る。ここでいったい誰がしているのか、唐突にムードある曲が流れ、会場の明かりがピンクへと変わった。
共にクールビューティーといえる女性が向かい合い皆にその横顔を見せている。ゆっくりと、互いの顔の角度を変えていった。そしてそっと目を伏せ――――…‥。
「わーい。えーっと、男の人と女の人じゃないから、恋人じゃないなの…? でも二人はとっても仲良しさんなのー」
にっこり微笑んだ蘭に罪など微塵も無い。
「最後は赤鉢巻、今花かりんさんです。どうぞ」
そして蘭から「どうぞ、なの」と王冠を手渡され、かりんはそれを頭の上に載せると、足の上に擦り寄ってきた馬を乗せたまま紙に書かれている内容を読み上げた。
「私からは『3番の人に私の携帯で写真を撮ってもらう』なんだ〜。だから、みんなもよろしく!」
かりんは自分の携帯電話のカメラ画面を開くと、それを今しがた戻ってきたが半分落ちかけている忠雄へと手渡した。
「ひゃ…いごがまひょもでひょかっひゃでしゅ」
彼は彼で回らぬ口と定まらぬ焦点で、なんとかかりんから携帯電話を受け取ると、全員が納まるようにと調整する。もっとも新座とシオンは半分机に突っ伏しかけているのだが、勿論馬達も入るようにと試行錯誤が繰り返され。
「であわりゃってくりゃしゃぁい……しゃん、にい、いひ」
――――カシャッ
かりんが撮られた画像を確認し満足すると、そこでゲームは終了。
命令を受けなかった北斗、蘭、かりんには帰りに参加費が返されることが告げられた。
□□□
酒が入り。写真集は売れず、月刊アトラスへと提出した記事は即没にされ。変な飲み物を飲まされ、最後には衝撃のシーンを目の当たりにする事となったが、それよりも更に衝撃だったのは気がついたとき既に麗香が帰っていたということだった。
どうやらシオンが髪の毛と服を乾かしている間に帰ってしまったらしく、今は武彦や零を中心に片づけが進行されていた。
「……お芋さん…」
そして今、シオンはリンボーダンスをしていたバーの下、体育座りでプールの水面を眺め。お芋さん写真集を捲っては涙する。その背に声をかけられる者はおらず、会場の明かりが消されるまでシオンは放置される羽目となる…‥。
結局参加者六人と、麗香を除いた打ち上げ実行委員の面子は揃って会場を後にする。
それぞれ晴れた空に浮かぶ綺麗な月と星を見上げ、そして一部外し忘れている鉢巻を夜風に靡かせながら帰路についた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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[0086/シュライン・エマ /女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員]
[3356/シオン・レ・ハイ /男性/42歳/びんぼーにん+高校生?+α]
[5698/ 梧・北斗 /男性/17歳/退魔師兼高校生]
[3060/新座・クレイボーン/男性/14歳/ユニサス(神馬)・競馬予想師・艦隊軍属]
[2163/ 藤井・蘭 /男性/ 1歳/藤井家の居候]
[2972/ 今花・かりん /女性/15歳/中学生]
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、亀ライターの李月です。このたびは運動会打ち上げ参加、有難うございました。気づけば既に季節は冬ですが、打ち上げということでお届けいたします。
かなりノリ重視の進行で、誤字脱字ありましたらすみませんが、ノリで処理してして下さると幸いです…。何か不都合な問題に関してはご連絡ください。
どうなるかと思っていたのですが、少々命令・被害共に番号に偏りが出たので、急遽被害側にNPC(と言っても毎度書いているNPCからあみだ、だったのですが…)を出動させました。どこか少しでもお楽しみいただけていれば嬉しいです。
【シオン レ ハイさま】
打ち上げまでご参加有難うございました。前回お楽しみいただけていたようで良かったですっ。
そして今回は前回のネタを拾ってくださったプレイングで有難うございました!しかし、とんでもない方向に動かしすぎてしまった感も…(汗)一応バイトとしてはかなり役に立っていたとは思います。というか、表はほぼ一人で切り盛りしていただく状態で…した。
さて、これが今年最後の集合型ということで。又来年もご縁がありましたら宜しくお願いいたします。
李月蒼
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