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[ 運動会打ち上げ! -その額に鉢巻は靡いているか!?- ]
暑い秋のイベントはもう終わりを間近に迎えていた。
ある者は疲れきり、又ある者は物足りなさにその身を振るわせる。
とはいえ、競技は終了したのだ。
しかし各選手、帰路へと着く前その足は止まる。
『打ち上げ決行!運動会不参加も歓迎、本日開催
打ち上げ参加者は各自使用した鉢巻
(持っていない人は事前に三下忠雄に申請し貰ってください)持参
飲み放題・食い放題・遊び放題 四時間カラオケ・プールつきコース
参加費→男性\5000 女性\4000 未成年\2500(後払い可能)
打ち上げのメインイベントとして全員王様になれちゃう王様ゲームがあります
まだまだ遊び足りない人、運動会に参加できなかった人は
ぜひこの打ち上げパーティーで素晴らしい汗や恐怖の汗を流しましょう!!
参加希望者は本日17:00に○×駅前に集合。
途中参加や、途中帰宅OK。集合の場合、目印は白ヤギさん(てらやぎ)です』
いたるところに張られていた打ち上げ告知の張り紙。
運営会側のサービスと考えて……良いとは思う。
□□□
「ふぅ……運動会、楽しかったな〜」
片付けもようやく終わり、汗を一瞬にして冷やすような……風が寒さを運んできた帰宅の頃。梧北斗はそのチラシを見つけ足を止めた。
「――――へぇー、打ち上げ…かぁ。確かに他の組の奴らとも仲良くなれたし」
ここで終わりなのは少し寂しいと、そこに書かれていた打ち上げの詳細に目を通す。そして読めば未成年の格安さに食い放題飲み放題、遊び要素も満載となれば、やはり参加しないのはもったいないと言う結論に一瞬で至る。後はもう、隅っこに小さく書いてあった会場へとすぐさま向かうことにした。
「それにしても気になるのが『王様ゲーム』なんだけど……ま、なんとかなんだろ」
両手を頭の後ろに回し、秋晴れの空を仰ぎ見た北斗は止めていた足を動かし、運動会の疲れなど微塵も見せないまま、やがてゆっくり走り出す。
本来集合場所である駅から歩くこと十数分。賑わいから離れた落ち着きの場所にあった会場、その内部は薄っすらとライトアップされた静かな所だった。だが、その入り口にいたのは紛れも無い顔見知りの人間だ。
「いらっしゃいませー。参加費はこちらで集めています!」
しかし会場に着くなり北斗の足は止まった。その異様な光景に。
「…………えっと、確かシオン」
会計と言うプレートの置かれた机の前に座るのは紛れも無くシオン・レ・ハイの姿である。額にはやたらファンシーでカラフルで勘違いな鉢巻――兎のイラストに大きな失踪の文字――を巻き、半纏を着たシオンはもう一度同じ言葉を繰り返し、それに北斗は我に返り財布を出した。
「……あ、はい参加費な。細かいのないからこれで」
千円札を三枚出し、おつりで五百円を受け取ると、シオンは引き続き奥を示し言う。
「ではこのまま受付に行って登録をしてくださいね」
どうやら見る限り彼は此処でアルバイトをしているように思える。参加者……ではないのだろうか。そう考えながらも、登録とは何かと首を傾げると、シオンより少し奥の机に座っていた草間零がひょっこり顔を覗かせた。
「登録受付はこちらです。最後のゲームのために必ず此処で登録を行ってください」
「えーっと、俺はここで何すりゃいいんだ?」
言うや否や、零は鉢巻の提出を願い、北斗はポケットに突っ込んだままの、少し皺になった鉢巻を手渡した。零はその裏側を見ると書類に何やら書き示し、そのまま鉢巻と一緒に一枚の紙とペンを渡してきた。
「あ、鉢巻は打ち上げ中額に巻いていてくださいね。そしてゲームが始まる前に、この紙に王様ゲームのルールに則り指示を書き私に提出してください。くれぐれも書いているところは他の方に見られないように」
「って事は、何番の奴が何をするって奴だよな? え、どうやって?」
零の言うことにはこの鉢巻には裏面に小さく番号が書いてあるらしい。番号は1〜5が振り当てられていて、その番号が北斗の場合5なので、それ以外の数字を選べば良いとの事だった。
それを理解すると、北斗は紙とペンを片手にメイン会場へと入る。
アルバイトをしているシオンを除き、一番乗りだった北斗は、まずその会場の馬鹿でかさに空いた口が塞がらない。どうしてたかが運動会の打ち上げでこれほどの事が出来るのか。畳作りの宴会場、その長机の上には豪勢な料理が並び、机の前方にはカラオケ、右側に仕切りも何も無くプールが、左側にはよく旅館で見かける昔懐かしのゲーム台。その奥になるのだろうか、ピンポン台にサウナ…の案内表示まである。
「す、っげぇ……」
絶句状態で立ち尽くしていると、やがて他の参加者――駅前で集合した組――が到着し、受付を済ませ現れた。丁度シオンも会計業を終えたのか、揃って現れる。
「広い、わね」
「うおおっ、凄いぞぎゃお、ケツァ!」
「わーい、食べ物いっぱいなのー」
「わぁ、ホントにプールがあるっ」
「さて、頑張って働きますよ、麗香さん」
結局参加者はシュライン・エマ、シオン・レ・ハイ、梧・北斗、新座・クレイボーン(にいざ・―)、藤井・蘭(ふじいらん)、今花・かりん(いまはな・―)の六名。
そして、奥のゲーム台方面から出てきた草間武彦の声により、打ち上げのはじまりはじまり…‥
□□□
メニューはあらかじめ机に用意されているパーティーメニューと、ドリンクバー形式のソフトドリンクに加え、オーダーでサイドメニューや酒類が頼める仕組みになっていた。サイドメニューに酒類も豊富だが、まずは乾杯の音頭が武彦によりされることとなり、仕事途中のシオンもひとまず休みを入れグラスを持った。
「運動会出れた奴も出れなかった奴も、賞を取れた奴も取れなかった奴もご苦労さんということで…乾杯っ」
「乾杯」
「かんぱーい」
「乾杯っ!」
「かんぱいだー」
「かんぱいなのー」
「かんぱ〜い」
長机の、いわば誕生席に座る武彦。彼から向かって右側にはシュライン、蘭、かりんが座り、左側には北斗とシオン、新座とぎゃお、ケツァが座る。
そしてそれぞれ持ったグラスを机の中心でカツンとぶつけ、早速飲み食いが始まった。もっとも、シオンに限っては麗香に首根っこを掴まれ早々に参加者としての席から消えてしまったが……。
「にしても白に赤に青に黒とは、よくもまぁカラフルな鉢巻が靡いてんな……さっき一人異色な鉢巻もあったが」
タバコを吹かし、早くもサイドメニュー表を見ながら、武彦は参加者を見渡しそう言った。どうもこの人はこの打ち上げの最中、与えられた仕事が無いらしい。
「後一色あったら全色揃ってたわね」
おかずを摘みながらも、てきぱきと早々に空いた皿は纏め机の下へ置き、シュラインが言う。
それと同時、会場に微妙なBGMが流れ始める。やたら可愛い曲と言うべきなのか。かと思えば突如運動会定番の音楽が流れ始め、結局ころころ変わり続けるBGMについては触れないことが暗黙の了解となった。
「にしても、見事に芋メンバーが揃ったな……で、新座は又食い物の席で一緒なわけで…よろしくな」
結局シオンが居なくなったため、彼の分の席も新座達が寛いでおり、ほぼ隣という事と一番年齢の近い男と言うこともあり、北斗はおかずを摘みつつ彼を見て言う。
「あー、そ言えばそうだな。まぁ、今回もおれ食うし飲むし遊ぶから。ぎゃおとケツァも一緒によろしくな」
言いながら新座は既にグラスを空け、ゴトリと机に置くとメニューを見る。誰もが気づいていなかったが、その中身はアルコールだった。
「よぉっし、差し支えない程度に食べたら泳ごっと〜」
持参した水着のバックを傍らに置き、かりんはひとまず箸を手に持ち両手を合わせると、然程お腹には溜まらなさそうな軽いおかずを摘んでいく。
「! ふに、僕も泳ぐのー」
そしてフォークでおかずや果物を突付きながらその言葉を隣で聞いていた蘭がパッと顔を上げ、かりんを見るとにっこり微笑んだ。
「うん、じゃあ一緒ね!」
「わーい、嬉しいのー」
勿論と了承したかりんに、蘭は両手を挙げ喜んで見せた。
「はぁーーいー、オーダー取りに来ましたよー。ソフトドリンクはあっちですから、それ以外をご注文の方はどうぞ」
そこへ丁度シオンが現れた。手にはペンと伝票を持ち、その姿は妙に様になっている。
「生ビールジョッキと枝豆と刺身と鳥の軟骨と――」
「ケーキなのー」
「俺ハンバーガー」
長々とつまみを読み上げる武彦に続き、蘭に北斗がすかさず好きな物を頼んでいく。
「うげ、またハンバーガーか? おれはこの色々果物丸ごとセットってやつと、ウォッカとジンを瓶で。後シェーカーと氷も」
「ベースにシェーカーって、まさか自分で?」
シュラインの問いに新座は「勿論」と頷き、席を立つとドリンクバーからなにやら色々とジュースを調達してきた。
「ご馳走様っ! それじゃあ私先泳いでるから」
「あ、僕も一緒にいくのー」
立ち上がったかりんに、蘭もフォークを置き後を追う。どうやらケーキはプール後のデザートになりそうだ。
それと入れ替わりで、両手のトレイ一杯にあらゆるものを乗せたシオンが現れる。
「はい、まずは生と枝豆にその他色々、ウォッカとジンとシェーカーですよー。あ、プールやサウナ使う方は水着やタオルのレンタルも無料でしてますからね〜、麗香さんに言ってください。ゲーム台は無料で遊べますよ」
「低価格でよくそこまで出来るわね……うーん、プールは私も帰りに入っていこうかな」
早速プールサイドではしゃいでいるかりんと蘭を見ていると、微笑ましくも羨ましいかも知れない。
そのままシュラインはプールから目を逸らし、空いた皿を集め立ち上がり、そのまま調理場の方へと向かっていった。
「何でもありますから、何か欲しくなったら言ってください。後は肩がこっただとか、カラオケが使いたいだとか」
「あ、俺歌いたいかも」
「はいはい」
言うなりシオンはカラオケセットの電源を入れに走り、北斗にカタログとマイクとリモコンを手渡した。
その横で新座はウキウキとウォッカの栓を抜き、まずはグラスに氷を落とす。
「――ん、何作んだ?」
リモコンを片手に番号を打ち込み始めた北斗は、隣でなにやら混ぜ始めた新座に興味を持った。
「ん、まずはモスコ」
ピッと、北斗の持つリモコンがなにやら曲を送信したらしい。始まるイントロは会場中に流れ、かりんや蘭もいったん泳ぎを止めていてなにやら恥ずかしい……。
「わーー」
そんな北斗の斜め前には武彦の肩を揉みながら声を上げ、時折拍手を混ぜるシオンの姿と、ひたすらカクテルを作る新座と相変わらず果物やスプーンをまるかじりしているぎゃお。新座の肩の辺りに巻き付き、事の行方を見守っているケツァ。
ここまで男だけが集まっていると、なんともいえない光景だ。
北斗が一曲終える頃、盛大なシオンの拍手と新座の「出来たっ」の声が重なった。見ればいつの間にか、何種類かのカクテルが出来上がっていた。見れば既にウォッカの瓶もジンの瓶も空という有様だ。
「うわ、こんな作れんだ?」
「簡単なのならな。酒は頼めば出てくるし、折角だしコレ少し飲むか?」
「私、飲みたいです!」
新座の誘いに乗ったのは仕事中のはずのシオンだった。幸いと言うべきか、麗香はプールの方に居てこの有様に気づいていないし、武彦はいつの間にか席を立っていた。
「あー…俺はぁ……」
「じゃあコレ。かんぱーい」
躊躇していた北斗には強制的にグラスが渡され、男三人再びの乾杯。
「……ん、美味いかも」
一口飲んで北斗。
「だろ?」
「私もう一杯欲しいです!」
既にシオンはグラスを空け、新座は好きなものをどんどん飲むぞと意気込み。
何度かシオンがベースを取りに行ったり来たりし。その瓶の数が十本に達した頃。既に北斗もシオンも落ちていた。
「なんつうか…強すぎ、だろぉ〜?」
座布団が既に枕代わりの北斗は、未だピンピンしている新座を見上げ、恨めしげに言う。
「あぁ、おれ酒強いし、酔わないから」
そういう新座は、今もまだカクテルを作りながら飲んでは食っていた。カクテルもたまにシェーカーで振ったかと思えば、グラスの中で混ぜ合わせて見せたり。意外に器用と言うべきか、芸達者と言うべきか。
しかし新座と机を挟んだ正面では異変が起きていた。
「…………あははは、私なんだか本当にこのバイト、楽しくなってきました〜。もっともっとほかのバイトもしちゃいますよぉー!」
「……こわ、れたぁ?」
「壊れた、な」
思わず北斗は上半身を起き上がらせ、新座はカクテル作りの手を止める。
丁度そこでシュラインが戻り、この状況にしばし思考が追いつかないのか、三人を見たまま立ち止まっていた。
「そぉだ、本買いませんかぁ。可愛い可愛い、『プリティ☆お芋さん写真集vol.1』! なんと私の手作りですよぉ。ほらぁ、こんなに可愛いお芋さんの悩殺ショットにプライベートショットが満載、フルカラーでなんと一冊千円、今なら生写真まで付いちゃうんですよ、お買い得ですよ。どうですか? ほら参加した記念に、今日の思い出に」
何故か懐から何冊もばっさばっさと出てくる本は、何処を開いても芋の姿があり、それは新座にとっては未知の領域だった。
「……なんだこの芋」
「ぁ、いや…ほらぁ俺の相手だった芋は、そいつじゃ…ないし?」
「そーだ、れーかさんに売ってきましょう! れーかさんあらこの可愛さも! あとはあの記事も〜〜」
ふらっと立ち上がるとやがてシオンはふらふらとプールの方へと向かっていった。
シオンの去った後はやけに静かで、新座はふっと再び寝転がった北斗に目をつける。
「――食後の運動っ!! …ってもおれまだ食うけど、なっ」
言いながら素早く新座は寝転がっている北斗をプロレス技で絞めにかかり、そのままゴロゴロと机から遠ざかりゲームコーナー、今シュラインが立ち尽くしているほうへと転がっていった。
「ぎゃっ!? ちょっ、待て! それはっ、酒が回る! うっ…」
「わー、なんだか賑やか〜いいないいな」
「わーい、楽しそうなのー」
丁度そこでかりんと蘭も帰って来る。二人とも髪の毛まできちんと乾いた状態で、すっかり満喫してきたようだ。
「楽しそ…うとかじゃねぇ……解、けぇっ!?」
「おっと、まだま――」
「っと、そこまで。やっぱり素面…じゃないわね」
ようやく机の上や下に転がる酒瓶を見て理解したシュラインは北斗から新座を引き剥がし、さっさと机の片づけを始めた。それを見て、蘭やかりんも思わず動く。
「そういえばシオンさんは……またどこかでお仕事かしら?」
「今会ったなのー」
「プールに来たけど、なんか酔っ払って――」
――ドボーン
かりんの言葉の途中、響く水音に五人の視線は一斉にプールへと向いた。
しかしそこにはただ、水面を見つめている麗香の後ろ姿があるだけだ……。
――――ピンピンパンポーン
『後十分で本日メインイベント、王様ゲームの開始です。皆さん、用紙を提出してください』
会場中に零の声が響き、何処からとも無く戻ってきた武彦が手を叩いた所で皆は我に返り、それぞれ散らばると持っていた紙にペンで指示を書き始めた。
「うぁー…頭いてぇ……えぇっと『3番に得意な芸を見せてもらう』…っと」
早くも回り始めているというか、意外に強かった酒による酔いは、書く文字をミミズにも見せるが一応解読は出来るだろう。しかしながら酔っ払い、頭に鉢巻を巻いている北斗の姿。遠い、ずっと先の未来にこの鉢巻がネクタイに変わらぬことを、今はただ願うだけである。今はまだ、若気の至りと言える時期なのだから、今のこれもきっとありだろう。
ふらっと立ち上がると、北斗は途中何度も畳の縁に何度か足を取られながらも受付まで用紙を持っていき。結局指令の確認を零と一緒にして元の席へと戻った。要するに、やはりあの文字は読めなかったと言うことだ。
「後十分で少しは治せるか? っていうかぁ…この状況でなんか指示きたら最後だよな……」
ブツブツ呟きながら、北斗は隣で依然元気良く飲み食いする新座を見、「はぁっ…」と一つ大きなため息を吐いた。
□□□
「それでは王様ゲームを始めます。皆さん揃ってますか?」
このゲーム開始十分前まで、それぞれ色々な事があったりもしたが、皆今は無事机に揃っていた。机の上にはまだ食事が並んでいるが、大半が今デザートに占領されている。
一応とマイクを持った桂が一人一人点呼を取り、それぞれ返事を返すとルール説明が始まった。
今回は全員説明を受けているよう、それぞれあらかじめ振り当てられている番号が鉢巻に書かれており、それは変更のしようが無い。そして紙に書いた他者への命令も、きちんと受付でコピーを取り、変更の無いように管理していた。
「まず皆さんが書いた命令の紙をお返しします。王様の権利は順番に回ってきますので、紙に書いたことをそのまま読み上げてください。誰が何番だと判ったからと言って、変更は許可しません」
桂が言い終えると零が、確かに各自が書いた命令の紙を手渡してきた。
「さて、このゲームの形式上被害を受けないと言うのはやむを得ないのですが、命令を出した番号が居ないのも寂しいので急遽居ない番号はこちらで補う形としました。ただし、補うものであり命令は出せませんので安心してください。ちなみに公正に、あみだくじで決めました」
「で、順番ってどうなんだ?」
北斗がふと疑問を漏らすと、桂はにっこり微笑み答える。
「順番は今お返しした紙の右上に。王様になれる前にリタイアしないよう、頑張って下さい」
そう言い桂はマイクを零へと渡し、数歩下がってその場に正座した。
「あ、確かに」
「私最後……かぁ」
「私は…次ですね」
「わーい、5番目なのー」
「おれまだまだ先だぁ……結局一番は誰だ?」
新座の問いに、シュラインが手を上げた。
「1番、私だわ」
「では、白鉢巻シュライン エマさんまずはこちらにどうぞ」
言われシュラインは零が手で示す上座へと座る。頭の上に何か乗せられたと思えば、金色の折り紙を貼り付けた手作りの王冠だ。
「……ええっと、これで後は命令を読み上げればいいのかしら?」
「はい、どうぞ!」
「『1番の人に参加者其々の飲み物、少しずつ混ぜたものを飲む』、これ宜しくね」
「うあ、おれ1番。でもゲームでも飲めんなら」
「私も1番ですよ。また、飲むんですか…」
そう言ったのは新座とシオンの二人。どうやら1番は二人いたらしい。
「えーっと、じゃあ今みんなが飲んでいるもの、少しずつ混ぜましょう?」
「あ、おれ自分でやる」
言いながら新座はシオンに空のグラスを二個持ってくるよう言うと、さっきまでカクテル作りで使っていた道具を再び活用し始めた。ちなみに今、この場にあるのは水・生ビール・ワイン・ウイスキー・焼酎・リキュール・ウォッカ・ジン・放置されているカクテル多数・オレンジジュース・グレープフルーツジュース・緑茶・アイスコーヒー等などと、飲みかけも多い上に大人子供が集まっているため無節操にも程がある。
「はい、グラス二つ持ってきましたよ」
「さんきゅ。てか、さすがにこれはシェーカーに入れないと……混ざ、んないだろなぁ」
流石に命令を出したシュラインが新座の少しばかり本格的な行動に不安を抱くが、ブツブツと呟きながら新座はシェーカーの中に氷を入れ、続けて飲み物をどんどん入れていく。シェイクしてしまうものの、これだけならばスクリュードライバー、それだけならソルティドッグなど無駄に呟き、最後に蓋をして勢い良くシェイク。
「――出来上がり〜っと」
「これを、飲むんですね…」
「なんか凄い色ー」
「臭いが…やばいぞ?」
「臭いのー…」
「地味にきついわね…」
グラスに注がれた液体と言うべきかその物体は、どろっとしていて黒っぽく、なんだかこの世のものとは思えない臭いがする。
「一気だ」
「一揆、ですね」
飲んだ後の気持ち的にはきっと一揆だろう。二人揃ってグラスを持つと、一気に中身を呷った。
「「…………ぅ゛(げぇ)っ」」
揃って声を上げると、立ち上がり洗面所へと走っていく。一応二人のグラスは空で、見事にクリアはしていた。
「うーん、恐れ入ったわ。限界の更に上を知ったような……えっと、次は?」
思わず関心の声を上げ、シュラインは王冠を外し次にバトンタッチ。
しかし次はシオンと言うことで、零の指示で五分だけ彼の帰りを待つことにした。
「では、白鉢巻シオン レ ハイさんこちらにどうぞ?」
「お待たせ…しました。私からは『2番の方にリンボーダンスをやって欲しいです』よ」
新座と共にふらふら状態で帰り命令を読み上げるや否や、会場の照明が一気に消え、スポットライトが一人を照らす。
「誰がリンボーダンスですって?」
「れ、麗香さん?」
スポットライトに照らされたのも、声を上げたのも碇麗香だ。
「2番は碇さんが代役となってます」
「リンボーダンスのステージはプールサイドに作ったわ。それでどうするわけ?」
「――――1番シオン レ ハイ、リンボーダンスします! Let's Limbo! HEY!! HEY!!」
唐突に右手を上げ、そしてシオンは手を叩きながらプールの方へと走って行く。皆はその様子を止めることなく見守っていた……。
確かにプールサイドに出来ていたリンボーステージ――といっても、二本の棒が地面と垂直に、その間に一本の棒が地面と平行にあるだけの普通のもの――に到着。すると何処からとも無く流れてきた陽気な音楽に合わせ、シオンは地上からかなり低い位置に設定されている棒の下をえびぞり状態で見事くぐり抜け。
「やりまし、たぁっ!?」
万歳と同時、再びプールへと落ちた。
その様子を見守っていた北斗だが、転がっていた王冠を手にすると「次俺!」と上座で胡坐をかく。
「では、黒鉢巻梧北斗さんどうぞ」
「俺は『3番に得意な芸を見せてもらう』ってな」
しかし命令を読み上げるとやはり会場の照明が一気に消え、スポットライトが一人を照らす。
「ぼ、僕ですか!?」
声を上げたのは着ぐるみの頭だけ脱いでいる忠雄だった。
「3番は同じくアトラス編集部から三下さんが代役です」
「と、得意芸といっても……ぼぼぼ僕はぁああ!?」
着ぐるみのままおたおたと右へ左への忠雄に、酔いはしていないが机に突っ伏していた新座がはっと顔を上げる。それと同時、彼の頭に乗っかっていたケツァが転がり落ちる。
「――そんぐらいぎゃおだってできるぞー、ってぎゃお確かまだゲーム台食ってるかもな……でもそれぐらいやって見せろよな、こんな……風にっ!!」
そう言うと新座は何処からともなくカラフルな馬のぬいぐるみを出し、大量に宙へと放り投げた。
「あ、可愛いお馬さんなのー」
「馬だ!」
「ええっ、馬ぁ!?」
「……馬」
「お馬さぁん…」
しかしそのぬいぐるみ、いつの間にか新座に生命を吹き込まれていたようで、落下すると同時にある馬は走り出し、ある馬は人の頭の上で寛ぎ、またある馬は近くに居た人物を嘗め回す行動に移りだす。
「これくらい出来れば芸になるぞ……で、次はおれなんだけど、命令が『3番の奴にコレ一気飲み』だからよろしく。もうしくじんなよーぉうっ…‥」
そう言い新座が忠雄の前に出したのは『世界のタバスコ詰め合わせセット』そして再び机に突っ伏した。そんな新座の首にケツァが、頭にふらふらしていた馬がのっかり寛ぎ始める。ある馬は新座の青鉢巻を解きにかかっていた。
「結局、こうなるんですかぁ」
よもやここまでの事態になると予想していなかった忠雄は泣きそうな顔で、それでも大人しく箱を開けると中身を見る。そのまま大きな溜め息を吐きながら、中身の瓶を出した。中身は要するに世界のペッパーソースが入っていると言うもの。殆ど小さい瓶の物だが種類が多く、見ているだけで汗が出てきそうな中身だった。
「三下くん……頑張って!」
「頑張るなのー!」
「頑張れよー」
「ガンバ!」
「うぉ…もうくえねぇ……」
皆の声援を受け、馬達の視線を受け、忠雄は合計六本の小瓶を取り出す。量にすれば全部を足してもミニペットボトル程度の量だ。その蓋を恐る恐る開けていくと、六本を両手に持ち一気に呷る。
「――――…………□×☆Э‰△!!!?」
「よぉし、それでこそだぞ」
その様子を見ていたのか、新座が起き上がり嬉しそうに手を叩いた。
中身は確かに空っぽであったが、同時にやはり忠雄が座っていた場所も空となったのだが。
「次は赤鉢巻の藤井蘭さん、どうぞ」
「僕なのー。えーっと『2番と4番の人がキスするのー』」
「2番はぁ、シュラインさんですよね……」
ポツリ呟いた零。ぶかぶかの王冠を頭に、馬を一匹その胸の中に抱えニコニコ微笑む蘭に、一瞬その場が凍りつく。
そして今しがたプールから上がってきたびしょ濡れのシオンもその場で凍りついた。
「……零ちゃんや武彦さんに当たったらやだって少し思っていたけど…まさか自分に当たるとは思わなかったわ…」
ポツリ、シュラインが呟いた声が隣に座る蘭に聞こえたかは分からない。ただ蘭は、期待の眼差しでシュラインと麗香を見ていた。
「こういうのは何の繋がりの無い男女とか男同士がするから面白いと思うのよ……」
しかし向けられる期待の眼差しから逃げることは無理でもある。
「どうやらやるしか、ないわね」
「そう、ね…麗香さん」
麗香の声に了承を出すと、シュラインは麗香の方へと歩み寄る。ここでいったい誰がしているのか、唐突にムードある曲が流れ、会場の明かりがピンクへと変わった。
共にクールビューティーといえる女性が向かい合い皆にその横顔を見せている。ゆっくりと、互いの顔の角度を変えていった。そしてそっと目を伏せ――――…‥。
「わーい。えーっと、男の人と女の人じゃないから、恋人じゃないなの…? でも二人はとっても仲良しさんなのー」
にっこり微笑んだ蘭に罪など微塵も無い。
「最後は赤鉢巻、今花かりんさんです。どうぞ」
そして蘭から「どうぞ、なの」と王冠を手渡され、かりんはそれを頭の上に載せると、足の上に擦り寄ってきた馬を乗せたまま紙に書かれている内容を読み上げた。
「私からは『3番の人に私の携帯で写真を撮ってもらう』なんだ〜。だから、みんなもよろしく!」
かりんは自分の携帯電話のカメラ画面を開くと、それを今しがた戻ってきたが半分落ちかけている忠雄へと手渡した。
「ひゃ…いごがまひょもでひょかっひゃでしゅ」
彼は彼で回らぬ口と定まらぬ焦点で、なんとかかりんから携帯電話を受け取ると、全員が納まるようにと調整する。もっとも新座とシオンは半分机に突っ伏しかけているのだが、勿論馬達も入るようにと試行錯誤が繰り返され。
「であわりゃってくりゃしゃぁい……しゃん、にい、いひ」
――――カシャッ
かりんが撮られた画像を確認し満足すると、そこでゲームは終了。
命令を受けなかった北斗、蘭、かりんには帰りに参加費が返されることが告げられた。
□□□
「あー…疲れた……」
ゲーム終了後、軽い脱力感を覚え北斗も机に突っ伏した。自分が命令されなかったのは運が良かったとしか言いようが無いだろうが、その前にある意味被害を受けたようなものである。
強い酒はほぼ抜け落ちている気はしたが、なんだか胸のむかつきと言うか、胃が荒れていると言うべきか。もやもやとしたものは拭いきれなかった。とりあえず考えることは明日二日酔いなんかにならなければ良いということくらいだろう。
「うー、最後に…もう数曲」
ただ、折角残り短い時間も自由なのだからとマイクを持ち。一曲終えてはぱちぱちと誰かの拍手を受けながら、終了時間までずっと歌い続け。最後はこの打ち上げの幕引きにふさわしい一曲を歌い上げ、会場の明かりがポツリポツリと消されていく。
帰り際、受付を通ると参加費の2500円を封筒に入れられた状態で返された。その袋には何故かお年玉と書かれていたが、深く考えることはやめ、北斗はそれをポケットへと捻じ込んだ。
結局参加者六人と、麗香を除いた打ち上げ実行委員の面子は揃って会場を後にする。
それぞれ晴れた空に浮かぶ綺麗な月と星を見上げ、そして一部外し忘れている鉢巻を夜風に靡かせながら帰路についた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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[0086/シュライン・エマ /女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員]
[3356/シオン・レ・ハイ /男性/42歳/びんぼーにん+高校生?+α]
[5698/ 梧・北斗 /男性/17歳/退魔師兼高校生]
[3060/新座・クレイボーン/男性/14歳/ユニサス(神馬)・競馬予想師・艦隊軍属]
[2163/ 藤井・蘭 /男性/ 1歳/藤井家の居候]
[2972/ 今花・かりん /女性/15歳/中学生]
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、亀ライターの李月です。このたびは運動会打ち上げ参加、有難うございました。気づけば既に季節は冬ですが、打ち上げということでお届けいたします。
かなりノリ重視の進行で、誤字脱字ありましたらすみませんが、ノリで処理してして下さると幸いです…。何か不都合な問題に関してはご連絡ください。
どうなるかと思っていたのですが、少々命令・被害共に番号に偏りが出たので、急遽被害側にNPC(と言っても毎度書いているNPCからあみだ、だったのですが…)を出動させました。どこか少しでもお楽しみいただけていれば嬉しいです。
【梧 北斗さま】
今回もご参加有難うございました!今回残念ながら(?)命令はされませんでしたが、ゲームの前に半分潰れかけと言う状況に。実はお酒に強いのか、人並みか、弱いのか…少し気になるところでした(笑)
席が近いことや歳も近かったりで、また新座さんと飲んだり盛り上がりどころか暴れたり。挙句、今回も懲りずにハンバーガー注文してたりします..。
さて、これが今年最後の集合型ということで。又来年もご縁がありましたら宜しくお願いいたします。
李月蒼
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