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<東京怪談・PCゲームノベル>


All seasons 【白銀のゲレンデで・・】



□始まり□

 「ゲレンデ〜光るダイヤモンド♪」
 そんな美しい歌声と共に登場したのは、桐生 暁だった。
 「暁ちゃん、お久しぶり〜!!」
 そう言って暁の腰にとびつくのは片桐 もなだ。
 普段となんら変わらない光景に、ホールに居た面々はチラリとそちらに視線を投げかけただけで何も言わずに自らの作業を続ける。
 「今日はどうしたんだ?」
 梶原 冬弥が、パタンと持っていた単行本を閉じると、ソファーから立ち上がった。
 「冬と言えば・・・スキー場でしょ!?」
 「わーい、スキースキーっ!!」
 きゃっきゃとはしゃぐもなに、頭を抱える冬弥。
 無論、暁ともなの協力コンビでは冬弥の逃げ場はゼロだ。
 つまりは、冬弥が嫌と言おうがなんと言おうが、冬弥は確実にこの2人と共にスキー場に行かなければいけないわけであって・・・。
 「良いですね、スキー。俺も一緒に行きましょうか。」
 「ってか、もー全員行っちゃおうよ〜!」
 沖坂 奏都の言葉に、暁はそう言った。ホールに集まった面々の顔を見つめる。
 夢宮 美麗、夢宮 麗夜が顔を見合わせた後で頷く。
 「そうですね、宜しければ俺達も一緒に・・・」
 「もちろん、わたくしはスキーなんてとても・・・」
 美麗がそう言ってふっと微笑む。なんだかその微笑が可愛くって、思わず暁の心をきゅんと掴む。
 「うわ、なんかちょっとキュンてしたww」
 「病気じゃないんですかぁ〜?」
 呑気な声と共に、暁の背後からすっと出てきた人物――紅咲 閏に、思わずビクリと驚く。
 「んじゃ、モチ俺も行くっつー事で。」
 神埼 魅琴がそう言いながら、閏をひょいと肩に担いでソファーの上に座らせた。
 この子はちょっと怖いので・・・目の届く範囲においておこうと言う魂胆らしい・・・。
 「それじゃ、私も行ったほうが良いわね。」
 リディア カラスはそう言うと、盛大に溜息をついた。
 「別にリデア、わざわざ行く必要は・・・」
 「冬弥。私が行かなかったらこの面々を全て貴方が見なければならなくなるけれど・・・それで良いなら私は・・・」
 「リデアも行こう!」
 「それでは、一応律さんも連れて行ったほうが良いですね。」
 奏都はそう言うと、少し待っててて下さいと言い残してどこかに行ってしまった。
 ・・・待つこと数分、その腕にぐったりとした京谷 律を抱いて奏都は帰ってきた。
 「えぇ!?奏都さん・・律、どうしちゃったの・・・!?」
 「ただの疲労です。別に夢幻館に残していても良いのですが・・・流石に、何があるのかわからないので・・」
 「ま、連れて行くにこしたこたぁねぇな。」
 魅琴がそう言って、奏都の腕から律を受け取る。
 青白い肌が、電球の明かりに照らされて艶かしく光る。
 「それでは・・・こちらです。」
 奏都が先頭を切って夢幻館の中を案内する。
 いくつもの扉の前を通り過ぎ、階段を上がったり下ったり・・そうして着いたのは1つの扉の前。
 「開けるよ〜!」
 暁がそう断ってから、扉を押し開けた。


■初心者達■

 「うっわ〜〜!!本当にゲレンデだ〜!」
 「当たり前です。ゲレンデに繋がる扉を開けたんですから。」
 暁のそんな驚きに、奏都が冷たく言い放つ。
 「奏都はこういう性格なので、あまり気にしない方が良いですよぉ〜。」
 そう言って暁の背後から再びぬっと出てきたのは閏だ。その登場に思わずビクリと肩を上下させる。
 「お前は、もーちょっと人間らしい登場の仕方が出来ねぇのかよっ!」
 そう言ってキャンキャン叫ぶのは、冬弥だ。その声に、少々眉をひそめながらも、知りまセーンと、顔をそっぽに向ける。
 「ひとまず、皆さん板を借りに行きましょうか。そのついでに律さんをどこか休める所に置いて来て・・。」
 「ホテルがあるじゃねぇーか、あそこで良くね〜?」
 魅琴が律を抱きながら目の前に聳え立つ真っ白な建物を指差した。
 「良いですね。多分このゲレンデを管理しているホテルでしょう。それじゃぁ、俺は魅琴さんと一緒に板を借りてきますから、皆さんはここで少し待っててください。」
 「俺達も行かなくて平気なの?」
 「大丈夫・・でしょう。」
 暁の言葉に、奏都はほんの少しだけ考えてから、にっこりと微笑んだ。
 どうも大丈夫そうではないが・・とりあえず、奏都が大丈夫だと言うのだからそれを信じるしかない。
 「そう言えば、美麗はスキー出来ないんだったよな?」
 「・・えぇ・・・。」
 冬弥の問いに、美麗がコクリと頷く。
 頬を染めて、お恥ずかしいです・・と消え入りそうなくらい小声で告げる。
 「美麗ちゃん、可愛い〜!!でも、大丈夫だよ!俺も初めてだしv」
 「・・・はぁ?」
 美麗と暁以外の全員が、何を言っているのかまったく分からないという顔で暁を見つめる。
 「実は、スキーは初めてなのですv」
 「・・・なんだって・・?」
 「テヘv」
 そう言って“カーイラシク”微笑んだ暁の顔を、冬弥が穴が開くほど見つめる。
 「そんなに見つめちゃイヤン☆」
 「ってかお前、スキー初挑戦なのか?」
 「うん。スノボーはダチに教えて貰ったから一応出来るけど・・・」
 「んじゃ、スキーじゃなくてスノボーやんのか?」
 「ん〜・・・冬弥ちゃんはスキーやった事あるの?」
 「・・・馬鹿にしてらっしゃいます?」
 「違くって・・・!」
 「スキーくらいあるっての。麗夜だってやった事あるよな?」
 「えぇ、一応・・それほど上手くは無いですが・・。」
 麗夜が苦笑しながら首を縦に振る。
 それならば、もちろん魅琴も・・そして奏都もやった事があるのだろう。
 「うちでスキーが出来ないのは、美麗と律だけ。」
 「リディアちゃんも出来るの?」
 「リデアはスキー上手ですよぉ〜。」
 閏がそう言って、冬弥を指差す。
 「冬弥の次にですけどねぇ〜。」
 「・・・えっ!?冬弥ちゃんって、そんなに上手いの!?」
 あまりの事に、暁はまじまじと冬弥の事を見つめてしまった。
 「奏都よりも冬弥の方が上手いんですよぉ〜。」
 「えー・・・んじゃ、ちょっと教えて〜!」
 「俺が??」
 「うん!やっぱさ、知識吸収するのって面白いよね♪」
 「それなら、今度俺が数学と物理を教えて差し上げましょうか?相対性理論から、万有引力まで・・・如何です?」
 にっこりと微笑んだ麗夜に向かって、暁は丁寧に頭を下げた。
 「辞退させていただきます・・・。」
 「まぁまぁ、そんなにご遠慮なさらずに・・・。わたくしも、フランス語からイタリア語、英語、ドイツ語からロシア語まで・・暁様にご伝授いたしましてよ?」
 麗夜に引き続き、美麗までにっこりと微笑んで暁の腕に自分の腕を絡めている。
 さっきまではあんなに少女のような愛らしさを放っていたのに・・・今では大人の女性のようだ。
 子供をからかう大人の女性・・・これは、美麗の将来が心配だ。幾千もの男を手玉に取る、伝説の悪女にならなければ良いのだが・・・。
 「コ〜ラ、暁をそんなに苛めんな。」
 冬弥がそう言って、ペイっと美麗から暁をはがす。
 「んじゃ、俺とは理科でも勉強するか〜?遺伝の仕組みに、科学反応式・・どれも楽しいぞ〜?」
 にやりと微笑む冬弥。
 「冬弥ちゃんのアホー!」
 「それじゃぁ、私は美術史でもお教えいたしましょうかぁ〜。」
 ガシっと腕を掴むと、閏はふわりと微笑んだ。可愛らしい微笑なのだが・・・その背後には酷く黒い“何か”がある・・!!
 「じゃ、私は歴史ね。日本史も世界史も、とことん教えてあげるわね。」
 リディアまでもがそう言い、暁の手をぎゅっと握る。
 温かい体温・・・リディアが自分から手を握ってきてくれる事なんてないだけに、かなり貴重な体験だ・・と、言いたいところだが、こんな状況で手を握られてもちっとも嬉しくないっ!
 「も・・・もなちゃぁ〜ん・・・!」
 最後の望みの綱、もなに向かって手を差し出す――もながしっかりと手を掴み返してくれ・・・。
 「それじゃ、あたしは音楽史ね〜☆フェルマータとか、ア・テンポとか、色々と教えてあげるね〜」
 そう言ってにっこりと微笑む。
 ・・・なんだか今日の夢幻館の住人は酷い。
 知識を吸収するはするでも、それは普通にお勉強ではないかっ!!
 「・・・実家に帰らせていただきますっ!」
 よよよっと、口元に袖を持ってくるマネをして、メソメソと泣き出す・・・ふりをする。
 「んあ〜?弱いもの苛めか〜?」
 「冬弥さんが反撃でもなさったんでしょう?」
 突然背後から、救いの手ならぬ救いの声が響き、暁は思わずそちらに走った。
 「奏都さんと魅琴ちゃんっ!みんなが酷いんだよぉ〜!!」
 「おー、どうした?ほら、俺に話してご覧?」
 ホストモード全快の魅琴が、暁の顎に手を当ててくいっと上を向かせる。
 ・・・ボディーガードと言うよりも、ホストの方が実は向いているのでは・・・?
 「暁ちゃんが、知識吸収するのって面白いよねって言うから、あたし達が色々と教えようとしたら〜・・・」
 「こんなんなっちゃったのぉ〜。」
 閏がそう言って暁を指差す。
 「んまぁ、閏ちゃんっ!人の事を指差しちゃいけないって、お母様に習わなかったのっ!?」
 「・・・んじゃ、暁さんは人外。」
 暁の必死の抵抗空しく、閏はサラリとそう言うと、魅琴の腕の中に居る暁の頭をそっと撫ぜた。
 「よしよし、ポチ。私が良い子に育ててあげるからねぇ〜。」
 「ポチって、犬!?」
 「・・んじゃ、ポチ子。」
 「いやいやいや、根本的に変わって無いじゃん!」
 「はいストップ。暁、閏の冗談に付き合ってたら永遠に続くぞ?」
 魅琴がそう言って、しっしと閏を追い払うと、暁をひょいと持ち上げた。
 「・・・なぁ魅琴。お前さ、最近人の事姫抱っこするの趣味?」
 「なぁに言ってんだ冬弥。俺は可愛い子にしかやらねぇっ!」
 わけのわからない主張をされた後で、魅琴が顎でクイっと冬弥と暁を指し示す。
 「お前とか、暁とかな。」
 「〜〜〜〜〜俺を可愛いに組み込むなっ!」
 「な〜、暁ぃ?」
 「ね〜☆」
 「ね〜じゃねぇっ!大体からして、どうしてお前らはいつも、揃いも揃って俺をからかうっ!!」
 ――それは貴方がからかうと面白いからである。
 「ね〜!暁ちゃん達っ!!スキーはかないのぉ〜?」
 そんな間延びした声が聞こえ、そちらを振り返る。
 スキー装備した夢幻館ご一行様が、整列ましましていた。
 「だぁぁぁぁぁっ!!!早く教えろっ!!」


□注目っ!!□

 「てなワケで、周囲の注目をどれだけ集められるか・・・冬弥ちゃん、勝負っ!!」
 「・・・だぁ〜かぁ〜らぁ〜・・・なんでお前はいちいち勝負しよーとすんだよ。たまには俺を休ませろっ!」
 「んじゃ、魅琴ちゃんでいーや。俺と冬弥ちゃんを賭けた・・・」
 「だぁらぁっ!!!なんでいちいち俺を賭けるんだぁっ!!!」
 「それなら、グループ対決にいたしません??」
 美麗の凛とした美しい声が響き、思わずそちらに注目する。
 真っ白なゲレンデの中の美麗はかなり綺麗だ・・・。
 「暁さん、暁さん。」
 思わず見とれる暁の袖を、閏がクイクイと引っ張る。
 「美麗は裏番はってましたから、気をつけてくださいねぇ〜。」
 にっこり☆
 ・・・そんな情報は欲しくない・・・。
 「それじゃぁ、くじで決めましょうか・・・っと、こんなところにくじなんて・・・」
 「とぉころがぁっ!!あたしは持ってるのでぇすっ!!」
 ジャーンと、口で言いながらもなはポケットから小さく折り畳まれた紙を取り出した。
 「こんな事もあろうかと、持ってきてたんだ〜♪」
 ――つまり、裏を返せば彼女は解っていたのだ。こうなる事を・・・。
 「んじゃ、サクっと決めっか。」
 奏都のスキーウェアーの中にくじを入れて、順々にそれを取って行く。
 「あ、俺2番だ・・・。」
 「うそ!それじゃ、あたし、暁ちゃんと一緒だぁ〜!」
 わぁ〜いと、もながはしゃぎながら暁の手を取る。
 「こうなったら、とことんやって冬弥ちゃんゲットだねっ☆」
 「だねっ!」
 「はいそこ、人の意見無視して勝手に話を進めない・・・」
 そう言う冬弥は、どうやら魅琴とペアになったらしい。・・・なかなか強敵だ・・・。
 美麗は麗夜と、閏は奏都とぺアになった。
 リディアは審判役として、ゲレンデを見渡せる位置に陣取っている。
 「ルールは簡単!ゲレンデの注目をより多く集めたチームの勝ちっ☆」
 「んで?賞品は?」
 「俺か冬弥ちゃ・・・」
 「人を賭け事の賞品にするなっ!!しかもなんなんだよ、俺か冬弥ちゃんって!曖昧じゃねぇかっ!」
 「んじゃ・・・勝った人にはもれなく冬弥ちゃんのチューが・・・!!」
 「テンメェ・・・」
 「いーじゃねぇか。冬弥が勝てば良いんダロ?」
 魅琴がいかにもつまらないと言った顔でしれっと言う。
 「そそ、それならいーでしょ?」
 「・・・ゼッテー勝つ。」
 「どうせなら、あたし、暁ちゃんのチューのがいーなぁ〜。」
 もながそう言って、溜息をつく。
 「それでは、始めましょうか。」
 奏都の合図と共に、いっせいに滑り出し――ドシャっと、暁が派手に転んだ。
 ゲレンデの注目は集められたものの、なんか違う・・・。
 「おいおい、平気か〜??」
 滑り始めた冬弥が、板を置いて走ってくる。他のメンバーも、途中で滑るのをやめて心配そうな顔で暁の方を見つめている。
 「いてててて・・・」
 「ったく。おい、ちょっと中止!まず、俺がコイツ教えて一応滑れるようになってからにしようぜ。危ねぇ。」
 「そうですね。俺も、美麗の事教えてますよ。さっき、ほんの少しコツは教えたのですが・・・。」
 麗夜も冬弥の意見に賛成して、ひとまず勝負は延期となった。

  ――小一時間後

 「それじゃぁ、気を取り直して・・・。」
 再び奏都の合図で飛び出す。
 先ほどとは違い、暁は軽快に滑っていた。その前で、冬弥と魅琴が思わず見とれずにいられないほどに素晴らしい技を繰り出す。
 「うわ・・俺、あれは無理・・・。」
 「あたしだって無理だよ。」
 シャっと、もなと暁は止った。上からは誰も滑って来ていない。
 ゲレンデの視線は冬弥と魅琴に集中している・・・。
 「俺、さっき教えてもらったばっかりでそんなに巧くないし・・・そう言う場合、とにかく面白い事すれば注目は集められるだろうケドどんなんがいいかなぁ、もなちゃん?」
 「ん〜・・・。」
 もなが小さく唸ると、空中を見つめる。
 その瞳は小さく左右に揺れており、宙に文字を描いているようにさえ見える。
 「速く滑るとか・・・。」
 「・・・え?」
 「ほら、驚異的スピードで滑ったら、結構みんな見ちゃうもんじゃんw」
 「あ〜、確かに。」
 「加速のつけ方ならあたし、解るし・・・ピュンって、下まで一気に降りて、華麗に冬弥ちゃん達の前で止ろうよ〜★」
 「い〜ねっ!それじゃ、もっかい上に登ろっかww」

 ・・・こうして悲劇は起こるのだった・・・。


■遭難ですか・・・?■

 「遭難・・かぁ。」
 「遭難ねぇ・・・。」
 「遭難って、俺が好きな歌だよ!」
 「あ、そうなんだ〜・・・。」
 別にギャグのつもりではないだろうに、なんだか冷たい雰囲気が張り付く。
 親父ギャグ以外の何者でもないその発言に、発言者本人がしょんぼりと肩を落とす。
 「って、違う違う!今そんなの歌ってる場合じゃないよ!しかも歌詞の中にそんな単語でてこないし・・・って、マジどうでも良くて!」
 暁はあたふたとそう言うと、辺りを見渡した。
 木々が空を覆い隠している。
 ――2人は遭難してしまったそうなんです・・・。
 ・・・決して親父ギャグではない。
 「どうしよっか・・・。」
 事の起こりは単純明快だ。
 スピードをつけすぎた暁ともなは止れずに、そのまま森の中に突っ込み・・・木々を避けるべく体重移動をしているうちにとんでもない事に・・・。
 「・・・あたしのせいだよね・・・ごめんねぇ・・・」
 もなが泣きそうな顔でそう言い、暁はあわててもなの頭を撫ぜた。
 「もなちゃんのせいじゃないって!と・・・とりあえず、きっと冬弥ちゃんとかが見つけにきてくれるって!だから、下手に動かないでここにいよう?」
 「・・・うん。」
 まだしょぼんとしているもなのために、暁は口からでまかせに色々な曲を歌い始めた。
 最近のヒット曲から、暁が生まれる前の曲まで、洋楽から、邦楽・・・とにかく色々な歌を歌った。
 そのうち歌う曲が無くなって、出鱈目に歌を作ったりなんかして・・・。
 「それにしても、遅いね・・・。」
 もながそう言って、寒そうに頬に手を当てる。
 遭難してしまってから、ずいぶんと時間が経っているように思う。陽も大分翳ってきており、夜の闇に沈もうとしている。
 ヤバイ・・・。
 暁は直感でそう思っていた。
 夜の山は冷える。それに、夜になってしまったらなおさら見つけられにくくなる。
 山の天気は変わりやすい。万が一、吹雪にでもなってしまったら――。
 やはり、先ほど動いておくべきだったのか??
 色々な考えが、暁の頭の中を回り、軽いパニックに陥りそうになる。
 寒そうに鼻をすするもなの横顔が目に入り――
 「ねぇ、暁ちゃん。あたしと暁ちゃんが2人きりでいるって珍しくない?」
 「・・え・・そう?」
 「そーだよ〜!いっつも冬弥ちゃん、冬弥ちゃんなんだも〜ん!」
 「あはは、ゴメンゴメン。だって、冬弥ちゃんって面白いんだもん〜!」
 「んじゃ、あたし明日から冬弥って名前にするっ!」
 「・・・いやいや、名前が面白いんじゃなくてね?」
 にこっと、もなは笑うと数度手に息を吹きかけた。
 ・・・パニックになりかけていた頭が落ち着きを取り戻す。もなが、気を利かせてくれたのだろうか・・・??
 ヒンヤリと、冷たい風が身にしみる。
 寒い・・・段々気温が下がってきているのだ。
 顔にはあまり出さないが、もなもきっと辛いのだろう。顔が青白くなってきている。
 こんな時・・・そうだ。雪を掘って・・・。
 けれど、スコップも何もない。あるのはスキーの板と自分の手。それだけで穴を掘れるほど、雪は柔らかくは無い。
 寒さで雪の表面が固く凍る。
 でも・・・雪を掘っていれば体が温まるのではないだろうか?
 「ね、もなちゃん・・一緒に雪・・・」
 振り向いた先、力なくまぶたを閉じたもなの姿――。
 「もなちゃんっ!?」
 「・・・ふぇ・・??あ、ごめん。なんか・・・眠くって・・」
 「寝ちゃ駄目だって!!」
 もなの体に触れる。ひんやりと冷たい体が、とてつもない恐怖を運んでくる。
 もしもこのまま、もなが――そんな事考えてはいけないのだろうけれど、もしもそうなってしまった場合、はたして正気でいられるだろうか・・?
 暁は唇を噛むと、おもむろにスキーウェアの上着を脱いだ。
 「・・・暁ちゃん・・・!?」
 「俺は平気だから、平気だから・・・」
 こみ上げてくる感情が疎ましくって、泣きそうになる自分がとても嫌で、きっと泣きたいのはもなの方であって・・・。
 ザァっと、音が聞こえたかと思った途端に、視界の端に見覚えのあるスキーウェアが映った。
 「なんでお前らは・・・って、暁!なんでそんな格好・・・」
 板をはずして走ってくる。触れる手が温かいのは、きっと錯覚だ。
 だって冬弥はこの寒い中、ずっと暁ともなの事を捜していたのだから・・・。
 「こんなに冷たくなって・・・!!」
 冬弥がスキーウェアを脱ぎ、暁がしたのとまったく同じ事を今度は暁にしてくれる。
 「おい、見つけた!さっさと来い!俺が行った方、真っ直ぐ来い!すぐにっ!!」
 腰に下げた真っ黒な無線機に向かってそう叫ぶと、冬弥はもなの方に走って行った。
 何度か確かめるように言葉を交わした後で、暁の元に戻って来た。
 「お前も、大丈夫か!?顔が真っ青だぞ・・・??」
 「ん・・へい・・き・・・。」
 グラリと、視界が揺れたと思った瞬間、暁の意識はどこか遠くに飛んで行ってしまった。


□目が覚めて・・・□

 ぼやける視界に、何人かの顔が映る。
 心配そうに覗き込む、儚い少年の顔・・・。
 「暁・・・大丈夫・・・??」
 「り・・・つ・・??」
 「まったく、無茶するんだからぁ。もなにスキーウェア貸したって、どんなフェミニストよぉ〜。」
 そう言って閏が腫れた目を向ける。怒ったような顔――きっと、暁ともなの事を心配してくれていたのだ。
 「気分は平気ですか?」
 麗夜が暁の枕元から声をかける。その隣には、今でも目に涙をためた美麗の姿がある。
 「わたくし・・・本当に・・・っ・・・。」
 「俺は大丈夫だって、美麗ちゃん、ごめんね??」
 「なぁにが『俺は大丈夫だって、美麗ちゃん、ごめんね??』だよ!この馬鹿男!!」
 魅琴の声が耳に響き、軽くお腹を蹴られる。
 「テメェ、どんだけ心配したと思ってんだ!もなと一緒にすっ飛んで行きやがって!!」
 これほど怒った魅琴を見たのは初めてだった。けれどその表情が辛そうなのは・・・。
 「まぁまぁ、こうして暁さんももなさんも無事だったんですし。それより、お加減はいかがです?」
 「ん、平気。」
 「体温が急激に下がっててね、危ない状態だったのよ。」
 リディアが暁の頬を温かいタオルで拭いてくれる。そして、わしゃわしゃと、暁の頭を撫ぜる・・・。
 「もなちゃんは?」
 「元気ですよ。多分今に戻って・・・」
 バタバタと走ってくる音と共に、ガラリと襖が開いた。その先には、もなと冬弥の姿がある。
 「あ、暁ちゃん・・・!!」
 走ってきて、隣に座り、暁の手を取る。暁も上半身をゆっくりと起こした。
 「ごめんね・・・ごめんねっ!あたしのせいで・・・。」
 「もなちゃんのせいじゃないって。」
 ポロポロと涙を流す・・・。その頭にそっと触れると優しく撫ぜた。
 「遭難は・・・もう勘弁だけど、また一緒にスキーしようよw冬弥ちゃんを賭けて・・・ね?」
 「暁ちゃぁぁん・・・。」
 「ったく、変な賭けをするなっ。」
 溜息混じりに冬弥が言い、腕時計を見つめた。
 「あ、俺・・一応医者呼んだんだ。暁の意識が戻ってなかったから・・・そろそろ来る・・・」
 ドスドスと、まるで熊が歩いて来るかのような音がして――開いた襖の向こう、なんだか恰幅の良いナースがいた。
 「さっきぃ〜、せんせいわぁ、帰っちゃったのでぇん、あたしがぁ〜、診察にぃん、来ましたぁ〜ん★ってぇ、あらぁ〜ん??やぁだぁっ、起きてるんじゃなぁぁ〜いっ。」
 ・・・筋肉でナース服がはちきれそうになっている。金髪の髪を頭の高い位置で2つに結び、毛先をクルリとタテロールにしている。
 なんか・・・変な人だ・・・。
 タラタラと、汗が流れそうだ・・。
 「あらぁん〜?なんかぁ、この男の子ぉん、顔色わるくなぁ〜〜い??」
 やけにねちっこい言い方でそう言うと、ナース(?)は暁の手を取った。
 「あたしがぁん、あんまりにも綺麗だからぁ〜〜、緊張しちゃってるのかなぁん〜?」
 ・・・再び意識が飛びそうになったのは、言うまでも無い。


■その後■

 ひとまずあの怪しげなナース(?)が帰り、部屋には暁と冬弥だけになった。
 くしゃっと頭をかき、困ったように溜息をつく冬弥の顔を見つめる。
 「〜〜〜ひっじょーに言い難い・・と言うか、言いたくないんだが・・」
 「なに?」
 冬弥が何かを言おうとして、口ごもり・・・再び何かを言おうとして・・・。
 「あのな、お前が・・・勝ったぞ。」
 「へ?」
 「リデアが言ってたんだよ。勝負はお前の勝ちだって。」
 そう言われて、やっと勝負をしていた事を思い出した。
 遭難なんて人生に一度あるかないかの事を経験した後だ。そんな日常的な事はスコーンと忘れ去られていたのだ。
 「ふ〜ん。んじゃ、冬弥ちゃんのチューは俺のもの?」
 「お前ともなのものだ。チーム戦だったしな。まぁ、アイツは辞退したけどな。」
 「んじゃ、俺はちゃんと頂戴ね〜?」
 「今?」
 「今☆」
 ・・・いつものノリでそう言ってしまい、はたと気がついた。
 なんだか冬弥さんのご様子がおかしいではないでしょうか・・・。
 別に、目が据わっているというわけではないのだが、なんと言うか、ホストモード全開と言うか・・・。
 暁のそばに座り、くいっと瞳を覗き込む。
 不敵な笑顔を浮かべて――そのまま・・・。
 「と・・・冬弥ちゃんっ・・・!?!」
 「バーカ。」
 顔を背けた暁の目の前、冬弥が覗き込むようにして笑っている。
 「ガキが。誰が本気ですっかよ。」
 はー、ヤレヤレと呟きながら冬弥は暁のそばから離れた。
 「なんか今日の冬弥ちゃん、全体的におかしいよ〜!?ってか、俺が本気でして欲しかったんならどうしてたのさ!?」
 「・・・どうしてたと思う?」
 にこっと、夜の帝王ばりの笑顔を見せる冬弥。なまじ顔立ちが良い分、思わずドキっとしてしまう。
 「まぁ、気が変わったらいつでも来いよ。待っててやるからな。」
 「〜〜〜〜〜ぜぇったい、冬弥ちゃんじゃないっ!!!」
 暁の言葉に、冬弥は苦笑すると優しい瞳で暁を見つめた。
 なんだかこちらがからかわれているような気がして、暁は思わず顔を背けた。
 その視線の先、綺麗にたたまれたスキーウェアが置かれていた・・・。
 「また明日も滑るだろ?」
 「・・安全運転でね。」
 暁はそう言うと、小さく微笑んだ――。


   〈END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト/トランスメンバー/劇団員


  NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード
  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー
  NPC/神崎 魅琴/男性/19歳/夢幻館の雇われボディーガード
  NPC/沖坂 奏都/男性/23歳/夢幻館の支配人
  NPC/夢宮 美麗/女性/18歳/夢への扉を開く者
  NPC/夢宮 麗夜/男性/18歳/現実への扉を開く者
  NPC/紅咲 閏/女性/13歳/中学生兼夢幻館の現実世界担当
  NPC/京谷 律/男性/17歳/神聖都学園の学生&怪奇探偵
  NPC/リディア カラス/女性/17歳/高校生

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 ■         ライター通信          ■
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  この度は『All seasons』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
  そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 

  さて、如何でしたでしょうか?
  夢幻館の住人総出演です☆それぞれの普段とは違った顔を色々とノベル内に散りばめてみました。
  いつになく強気な冬弥、弱いもな、珍しく冬弥に絡みすぎない魅琴、暁様に冷たい奏都、可愛い美麗、少し意地悪な麗夜、怒った閏、珍しく出番の少ない(笑)律、人にひっつくリディア・・・。
  アットホームでワイワイとした雰囲気が描けていればと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。