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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「小噺・南瓜」



「ありがとうございました」
 午前のモデルの仕事は無事に終わったのだ。
 頭をさげる少女は休憩を取りに外に出る。
 彼女は……いや、彼は天樹火月。正真正銘の男だ。
 モデルの仕事で洋食店に来ていた彼は、大きくのびをする。
「あと少ししたらまた撮影開始か」
 と、そこで店のガラスを眺めている人物がいるのに気づいた。
 じっと店のポスターを見ている少女の格好に火月は「わあ」と内心驚く。
(袴姿?)
 これで巾着でも持っていればバッチリである。
 彼女が見ているポスターはこの店でやっている、ハロウィン限定の企画だ。
 チケットが店の会員に配られており、仮装であることとペアであることを条件に無料で食事を楽しめるというものである。
 少女はポスターから視線をはずし、見つめている火月に顔を向けた。
 ぎょっとする火月。
 彼女の瞳は左右で色違いなのだ。
 黄色と、黒。あまりにも違う色合いに息を呑む。
 彼女は視線を伏せると歩き出す。火月の横を通り過ぎて、すたすたと行ってしまった。
「あれ?」
 火月は落ちているものに気づいて、それを拾い上げる。
 チケットだ。
(これ、ハロウィン限定の……。もしかして、今の女の子が……?)
 振り向いて火月は駆け出す。今なら追いつける。
 後ろ姿は多少遠いが追いつけない距離ではない。

「あの!」
 声をかけると少女は振り向いた。
「なに?」
 にっこり笑顔で返事をした彼女に、火月はチケットを差し出す。
「これ、落としましたよ」
「…………」
 少女はじっと火月の手にあるチケットを見てから微笑んだ。
「それ、あたしのじゃないわ」
 え? と火月はチケットを見遣る。
「そんなはずは……。あなた以外に落とした人は見ませんでしたけど」
「あたしじゃない」
 はっきり言い放って、じゃあねと彼女は去ろうとする。
 火月は慌てて手を掴もうとするが、彼女はひらりと横に跳んで避けた。
「しつこいわねえ。あたしじゃないって言ってるじゃないの」
 嘆息する少女に火月は言う。
「そんなはずないですよ。これはあなたのです」
「……まあ、仮にあたしのだとするけど」
 彼女はにこっと笑った。
「それ、いらない。あげるわ、あなたに」
「そうはいきません。使ってください」
「いらないわ」
 笑顔で言う少女。
 なぜそんなにいらないと言うのだろうか。
「どうしてですか? これ、いいと思いますけど」
「そうね。無料での食事は、そそられると思う」
 彼女は同意して頷く。
 だがすぐに面倒そうに肩をすくめた。
「でも、誘う相手もいないから無理なの。あなたにあげる。可愛い彼女と使えば?」
「これ……あなたのなのに」
「一人で食べられるなら使うんだけどね。それよりその格好、あなたの趣味なの?」
「え?」
 火月は自身を見下ろす。
 自分の女装を知り合い以外に見抜かれるとは思わなかった。
「オカマなの?」
 害意のない可愛い笑顔で言われて無性にショックを受ける火月。
「ち、違いますよ」
 苦笑して堪えるが、彼女は首を傾げた。
「似合ってるとは思うけど……。そんな格好してるようじゃ、女の子にモテないでしょ」
「…………」
 結構失礼な女の子のようだ。はっきりものを言うというか。
(敵意はないようだけど……)
 あ、と彼女が声をあげて掌を打った。
「わかった! 変態ね!」
 そんな嬉しそうな顔で。
「仕事以外で変態を見れるとは思わなかったな。そっか、可愛い顔してるのに変態なのね」
 勝手に自己完結している。
 火月は「ははは」と乾いた笑いを洩らす。
「変態じゃないんですけど……。ちょっと事情があってこの格好をしてたんです」
「そう」
 変態じゃないのか、と彼女の顔に書いてあった。
「でも、よくわかりましたね。俺が男だってことに」
「体型見ればわかるじゃない」
 さらっと少女は言う。
 いや、普通はわからないはずだ。
「女顔だとは思ってたんですけど」
「顔? 顔なんて見ないわ。顔なんて見てどうするの?」
 どうするのと訊かれても。
 人間はだいたい最初に顔に目がいくはずだ。
 彼女だって、最初に火月の顔を見たはずなのだから。
「でも」
「顔で判断するなんて三流……ううん、五流のすることね。だいたい、腰を見ればすぐにわかるでしょ」
 腰?
 妙な発言に火月は疑問符を浮かべる。
「だいたい女と男は骨格が違うんだからさ。わからないほうが変じゃない?」
「そうですかね。気づかない人のほうが多いはずですよ」
「それは注意力が足りないのね。いくら女物の衣服を着ていても、女性特有の丸みがないじゃないあなた」
 細身の女性で十分通用するはずだ。
「腰と足を見ればわかるわよ。体をいじってなければあたしに見抜けないはずないもの」
「はぁ……。それは、手術とかで胸を作ったり……ということですか?」
「そういういじり方でも見分けはつくわよ」
「すごいんですね」
「性別見抜けたくらいで凄いなんて、変な人ね」
 きょとんとする少女であった。
 とにかくだ。この少女は普通とちょっと違うらしい。
 だいたい見かけの話をしているようで、していないのではないか。
(足を見るって……歩き方かな、もしかして)
 足の形ではないだろう、おそらく。
 手にあるチケットを見て、火月はそうだと名案を思いついた。
「あの、よければ一緒にどうですか?」
「? なにが?」
「これです。一緒に行きましょう、俺と」
「なんで?」
「相手がいないんだったら俺が付き合います。どうですか?」
「……女装で?」
「……きちんと着ますから」
「うーん」
 彼女は少し考える。
「まあいいか。ご飯食べるだけだし」
「そうですか」
 にっこりと笑みを浮かべる火月を彼女はじっと見つめた。
 まっすぐ見られるので火月は不思議そうだ。
「やっぱその格好さ、趣味じゃないの?」
「…………」



 撮影を時間内に終わらせて、火月はほっと安堵した。
 昼間の時間が終われば店は普通に営業する手はずだったのである。
 なにせこの店は美味い料理を出すことで、微妙に有名なのだ。値段も手頃とくる。
 チラチラと店の端に座っていた少女を見遣る火月に、衣装担当のお姉さんが声をかけた。
「どうしたの?」
「え? あ、いえ、あの女の子と約束があるんです。ほら、このお店、ペア限定のハロウィンコースやってるじゃないですか」
「ああ! 仮装して食事ってやつね!」
 彼女はうんうんと頷く。
「じゃああの子と食事なんだ。あや〜、でも可愛い女の子ねえ。格好が似合うけど〜。女学生さん?」
「さあ……?」
「でも仮装しないと食事できないんでしょ? チケットもないといけないし」
「チケットは彼女が持ってますから」
「あらあ! じゃあ逆ナンなのかしら!」
 このこのぉ、と肘で小突かれてしまった。
「まさか。俺が彼女を誘ったんですよ」
「あら! じゃあ天樹クンがナンパ?」
「そうじゃなくて……。ちょっと事情があるんです」
 にっこり。
 微笑む火月は、窓の外を眺めている少女をもう一度見た。
 あの格好がある意味仮装だ。
「ねえねえ、じゃあ衣装決めてあげる! ちょうど色々持ってきてるし」
「え? でも」
「どうせスタッフ皆ここでご飯食べて帰るわよ。その時に一緒に持って帰るから」
 ウィンクをする女性に、火月は「ありがとうございます」と礼を述べた。

「ごめんなさい、待たせました」
 黒いシャツ姿の火月は、少女の前に立つ。
 彼女は「べつに」と笑顔で言った。
「あの、仮装の衣服は貸してもらえるので、よければ着替えませんか?」
「着替えないと食べられないんじゃなかったっけ?」
「はい。ですから、よければ」
 笑顔で言う火月の後ろから、衣装係の女性が顔を覗かせる。
「あらま。ほんとに可愛い子ね!」
「こんにちは」
 愛想のいい笑顔で挨拶する少女に、女は照れた。
「あ、こ、こんにちは。
 わたしが衣装を選ぶことを条件に、衣装を貸してあげるわ。いいかしら?」
「もちろん」
 にこっと微笑む。普通に見ればまさに天使の笑顔だ。
 しかし彼女は火月に対し、変態と言い放った人物なのである。



 衣装を着て食事をする火月と少女。
 もう時間も時間なので、店内は他にも客がいる。どれも仮装していた。
 衣装を選ぶのに時間をかけすぎた結果だ。
 火月はスタッフの好奇の視線にさらされていた。だが目の前の少女は気にしていない。
 火月の格好は女吸血鬼。少女は狼男だ。
 スリットの深く入った黒のドレスに、黒のマント姿の火月。
 猫耳ならぬ、狼の耳をつけた少女。これでは狼男ではなくて狼少女だ。
「あの、まだ自己紹介してませんでした。俺は天樹火月。あなたは?」
 黙々と食べていた少女は手を止める。
「あたし? あたしは遠逆日無子」
「遠逆さんですか。なにかしてらっしゃるんでしょうか?」
「は?」
「ほら、俺が男だって見破った理由です」
「腰と足」
「いえ……それではなくて」
 苦笑する火月。
「武術とか習っているんですか? もしかして」
「武術? まあ戦闘技術は学んでるけど」
「やっぱり。足って、足の運び方を見てたんですね」
「さあどうだろう」
 にやっと笑う日無子はもぐもぐと料理を食べている。
「天樹さんはやっぱり女装が趣味なんだ」
「違います。これは衣装さんの趣味ですから」
「そう。でもなんで女装してるの?」
「仕事なので」
「仕事でそんなの着てるの? へぇー。物好きねえ」
 感心している日無子はじろじろと火月を見遣った。
「まあ断らないってことは、好きでやってるんでしょ? その女装」
 無言で困ってしまう火月。きょとんとしている日無子はどう見ても悪意がない。
 どうやって答えようかと考えていたが、日無子は興味がないのかさっさと食事を再開させていた。
「あの、好きな料理なんですか?」
「べつに」
「べつに?」
「大抵のものならなんでも食べるから」
 なんというか、外見とは不似合いな性格のようだ。
(変わった人だなあ……)
 火月は密かにそう思ったのである。

 食事を終えたあと、スタッフの好意で写真を撮ってもらえることになった。
「記念にどうです?」
 笑顔で言う火月に、日無子はにっこり微笑むが首を振る。
「いい。あたし、写真に写るのダメなのよ」
「どうしてです?」
「仕事柄、そういうのは遠慮してるの。ごめんね」
「はぁ。そうですか」
 一体日無子はどういう仕事をしているのだろうか。謎だ。
 謎だらけの日無子は最後までにこにこと笑顔であった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【1600/天樹・火月(あまぎ・かづき)/男/15/高校生&喫茶店店員(祓い屋)】

NPC
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、天樹様。ライターのともやいずみです。
 すみません、日無子が色々としでかしてます……。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!