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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「小噺・南瓜」



 仕事の帰り。嘉神しえるは大きく息を吐いた。
 今日の業務は終了。やっと家に帰って寝れる。
(今日はかなり疲れたわね……)
 しかし。
 彼女はパッと表情を輝かせた。
 前方を歩いている、あの後ろ姿は!
(遠逆欠月クン発見!)
 すらっとした肢体の少年は颯爽と歩く。前の時も思っていたが、姿勢が綺麗だ。
(うふふ……)
 にやにやしながらしえるは足早に近づいていく。
 もう少しだ。彼との距離はほんの……。
(せーの、)
 だ〜れだ、と手を伸ばそうとしたが、彼がくるりとこちらを振り向いた。
 二人ともほぼ同時に足を止める。
 イタズラが見つかったしえるは伸ばした手を見下ろし、姿勢を正して笑う。
「やぁだ。バレてた?」
「後ろから忍び笑いが聞こえたからね」
 小さく微笑む欠月は、相変わらずの笑顔のようだ。
 しえるは腰に手を当てた。
「でも、私の接近に気づくとはさすがね」
「そうかな」
「謙遜しなくていいのよ。欠月クンが強いのはわかっているわ」
 笑顔のしえるに彼はちょっと驚いたような表情になるが「そっか」と微笑んだ。
「強いって褒められるの、嬉しいよ」
「あら? そうなの? でも事実でしょ」
「慢心するといけないからね」
 肩をすくめる欠月に、しえるは「ふふっ」と笑う。
「でも元気そうでなによりだわ。ほら、元気ってことは、怪我なくお仕事してる証でしょ?」
「そういう見方もあるね。なるほど」
 感心している欠月はまたもにっこり微笑んだ。
「まあボクって痛いの嫌いだから、そうそうケガをしないようにしてるんだよ」
「あら。欠月クンは痛みに弱いの?」
「弱くないけど……。ケガをするの、好きじゃないだけ」
 まあ痛いのは誰でも嫌だ。
 しえるは納得して「そうなの」と呟く。
 兄に聞いていたように彼ら遠逆の人間はかなりの神出鬼没のようだ。見つけたら捕獲しなければいつ会えるかわからない。
(まるで珍獣ねえ)
 でもあながち間違っていないと思う。
(まあ欠月クンて……動物系よね、見た目が)
 耳とかつけたら可愛いかもしれない。
 想像してしまい、しえるは微かに震える。似合いすぎていて怖かった。
(今度猫耳つけてって言ってみようかしら。…………ダメね。笑顔で断られるわ)
 あっさり断念したしえるは彼がひらひらと、手で持って揺らしているものに目がいく。
 なんだろうあれは。チケット?
(割引券か何かかしら。商品券? それとも図書券?)
 欠月が? 想像しにくい。
「ねえねえ欠月クン」
「ん?」
「その、左手に持ってるのはなに?」
 欠月は己の左手を見下ろし、ああ、と呟いて持ち上げた。
 やはりチケットだ。
「あら。やっぱりチケットなのね」
「うん。これね、タダ券なんだよ」
「タダ券? なんの?」
「食事。ただし仮装と、ペアであることが条件」
「カップルを狙ったものかしら。ハロウィンものね」
 チケットを覗き込んでいるしえるは、欠月が苦笑しているのに気づく。
 こんな魅力的なチケットを持っているのになぜ喜んでいないのだろうか。
「欠月クン、嬉しそうじゃないわね」
「そりゃ、使えもしないもの持ってても嬉しくないよ」
「使えもしない? 女性限定とかなの?」
「違う違う。誘う相手がいないの」
 にこっと微笑んで欠月はしえるにチケットを差し出した。
 しえるはきょとんとして欠月とチケットを見る。
「あげる。嘉神さん、誰かと行きなよ。恋人とか、いるんでしょ?」
「そりゃ恋人はいるけど……」
「そう。ならこの券はムダにはならないわけか。良かった良かった」
 はい、とさらにチケットを近づけてきた。
 しえるは嘆息して、受け取る。だが、そのまま欠月の手を握り締めた。
「? どうかした?」
「実は一つ、問題があるの」
 真剣な表情のしえるが、はあーっと嘆息する。
「なにが?」
「恋人は誘えないのよね」
「え?」
「『異教徒の祭なぞ却下!』っていう姑のせいで、私の彼氏は絶対来られないわ」
 うんうん、と頷くしえるであった。
「そりゃ……すごい彼氏さんだね。嘉神さん、結婚したら大変そうだ」
「気苦労が絶えない気がするわね。というわけで」
 にっこりと微笑む彼女に、欠月は疑問符を浮かべる。
「欠月クンを私のパートナーに任命するわ!」
「……………………」
 彼は無言でしえるを見つめた。そして首を傾げる。
「ボクでいいならいいけど……。彼氏さんに悪いなあ」
「いいのよべつに。来られないあの人が悪いのよ」
「あはは。嘉神さんてほんとに……豪胆というか」
 くくくと笑う欠月は、微笑んだ。
「いいよ。じゃあボクがお相手しよう」
「よしよし! 衣装だけど、私が去年着たものがあるんだけど、それを使えばいいわよ欠月クンは」
「あれ。ボクの衣装を用意してくれるの? 親切だね」
「新撰組の衣装なの。欠月クンには似合うと思って」
 正直に、見てみたい、と思っただけなのである。
 欠月は「そっか」と笑顔で言った。
「私とそんなに背丈は違わないから、たぶん大丈夫ね」
「嘉神さんは?」
「私? 私は楊貴妃ね」
「似合いそうだね」
「でしょう?」
 自信満々に胸をそらすしえるに、欠月は笑顔で「うん」と返事をしたのだ。



「美味しい〜!」
 しえるは料理に素直に感想を述べた。
 行ったことのない店だったのも理由だったが、ここは『正解』だったようだ。来て良かった。
 彼女の向かい側の席には新撰組の衣装の欠月が居る。
 かなり似合っていた。思った通り、和物がかなり似合う。
(可愛い男の子って、目の保養になるから二重に嬉しいわね)
 この状況は。
「私って料理できないのよね。だから美味しい料理ってほんと感動するわ」
 しえるの言葉に欠月は手を止めて顔をあげた。
「あれ? 嘉神さんもなの?」
「ん?」
「ボクも料理、全然できないよ」
 さらっと言った彼の発言にしえるは唖然とする。
「え? そうなの?」
「うん。だから外食とか、コンビニ弁当ばっかりだね」
「…………」
 栄養が偏るのでは。
 そう思ってしまうが欠月がそんなミスをするとは思えない。
「ふーん。でも外食って、誰も作ってくれないの?」
「一人暮らしだからね」
「一人!?」
「そう。今は仕事で東京に居るだけだから」
「そうなんだ。食べるもので、好き嫌いはないの?」
「特にないね。いや、嫌いな食べ物はあるにはあるけど……そういうものってお店には滅多にないものだから」
「???」
 お店には滅多にない?
 まあそれなら、彼が嫌いなものを食べることはないということだろう。
「へえ〜。普段はなにしてるの?」
「やけに訊いてくるね」
「あら。だってそれは当然よ!」
 しえるに欠月は不思議そうな表情を向けた。
 しえるは微笑む。
「友達のことは知りたい。そういうものじゃない?」
「…………トモダチ?」
 怪訝そうな声音で呟く欠月はしばし呆然としてから、ふふっと小さく笑う。
「トモダチねぇ。ボクにそんなこと言ったの嘉神さんが初めてだよ。……物好きな」
「物好きじゃないわ。私は欠月クンをお友達として認識済みよ!」
「はいはい。逆らわないよ、ボクは。嘉神さんがどう認識してようと気にしないからね」
「そういう時は嘘でもいいからカッコつけて『もう友達じゃないか、ボクたち』みたいに言って欲しかったわ〜」
「だ〜め。嘉神さんは一度言ったことを憶えてるタイプだから言わないよ。
 嘘とわかっていても、『だって言ったじゃないの』って言いそうだもん」
「じゃあ私は友達じゃないの? 欠月クンの」
「あのねえ。嘉神さんに会ったのはまだ少しだけなんだよ。直感だけじゃ、ボクは動かないからね」
 くすっと意地悪く笑う欠月は、料理をもぐもぐと食べる。
 しえるは腕組みして眉をあげた。
(むぅ。なかなか手強いわね、欠月クンは)
 易々と折れないタイプだ。
 まあいいのだ。
「まあいいわ。私にとって欠月クンはもう友達になってるもの。あなたがどう思おうとね」
「……嘉神さんの、そういう我が道を行くスタイルは、ボクは嫌いじゃないよ」
 微笑んで言う彼の前で、しえるは頬を染める。なんという直球さだ。
「そんなにはっきり言われると、照れるわね」
「照れると可愛いね、嘉神さんて」
「…………口説くのはなしよ。彼氏持ちなんだから」
「まさか。ボクは仕事が恋人なの」
 それはあながち間違っていないだろう。
 鈴の音と共に現れる少年の噂。それは欠月のことだ。
 鈴の音の噂は、しえるも最近よく耳にする。ということは、欠月の出現回数が多いということだ。
 すなわち、彼が仕事をしている、ということになる。
「仕事、大変?」
「そうだね。まあ暇になるよりはいいよ」
「まあ体は動かしていたほうがいいわよね。健康にもいいし。でもほどほどにしておかないと、体壊すわよ」
「ちゃんと休んでるよ」
「ほんとに〜?」
 疑わしそうに見るしえるの前で、彼は微笑んだままだ。
「休んでるって。こうして目の前にいるでしょ、休んでるボクが」
「あ。なるほどね。
 じゃあお休みはなにしてるの?」
「寝てる」
 あっさり白状した欠月の前で、しえるが期待外れだったように「なあんだ」とぼやいた。
「そういう嘉神さんは?」
「そうね。友達に会ったり、出かけたり、買い物したりするわね」
「色々やることがあって大変だね、休日も」
「休日でリフレッシュするのよ。大変じゃないわ」
 わかって言っている欠月の言葉に、しえるは乗せられたように答える。
 料理は美味しいし、面白いし。
 しえるはかなり満足していた。なにより欠月がきちんと答えてくれたのが嬉しい。
(欠月クンのこと、また一つ知ったわね)
「よーし!」
「ん?」
 突然のしえるの声に欠月は怪訝そうに首を傾げる。
 しえるはにやりと笑って欠月を見た。
「どうかしたの? 嘉神さん」
「いいえ。今後の目標について考えてただけ」
「もくひょう?」
「いいのよ。こっちのこと」
 欠月に友達と言わせてみせる。絶対に。
 ううん。言わなくてもいい。でも思わせてみせる。
(ふふっ。目標があると、なんだか面白いわね)
 これなら、退屈せずにすみそうだ。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【2617/嘉神・しえる (かがみ・しえる)/女/22/外国語教室講師】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、嘉神様。ライターのともやいずみです。
 前回よりも多少心を開いているようですが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!