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<東京怪談・PCゲームノベル>


変化する力・想像する力


 特異なことは、何時だって日常の間に解らないようにして紛れ込んでいる。
 大通りから少し離れたこの場所で、千里の目の前で起きている出来事の様に。
 何もない空間から薄いベールを取り去るように彼女は現れ、背負っていた幾何学模様の翼は落ち葉が散るように消えていく。
 ほんの一瞬前から、今も尚続く特異な能力。
「……」
 降り出した雨に気づいて上を見上げ、持ち上げた手の中にはカラフルな傘が握られていた。
 深くため息を付き歩き出そうとする瞬間、ようやく千里の止まりかけていた思考が動き出す。
 そこからは、直感に近かった。
 これにまで色々な能力を持っている友人や知人は居たし、一見しただけで彼女がどんな能力を持って居るかを確定できるはずもなかったのだが……それでも似ていると思ってしまったのである。
 千里の持つ能力に似ているのではないか。
 だとしたら話がしたい。
 聞きたいこともある。
 色々なことがどっと堰を切ったように頭の中占領し、気づけば反射的に声をかけてしまった。
「……さっきのは、一体なに?」
「………!」
 驚きを含んだ声と目は、そうとは意図せず目の前にいる彼女をおびえさせてしまったようだ。
 僅かに後ずさり、駆け出そうとする少女の背に慌てて声をかける。
「待って! 月見里千里っていうの」
 声は、届くだろうか?
「……」
 僅かにためらった後。
 数歩先で立ち止まり怖々と千里の方へと振り返る。
 パラパラとカサを叩く雨の音が響く中。
 どう声をかけようかを僅かに迷い、選んだのは……千里も力を使うことだった。
 作り出したのは、彼女と全く同じ模様の傘。
「……え?」
「あたしも、作れる能力だから」
 これなら言葉よりも多くのことが明確に伝えられる。
「………」
 振り向いてくれた物の、不安は完全にはぬぐいきれないらしい。
 意を決し、今度はちゃんと言葉で語り掛ける。
「雨がやむまで、少しだけ話したいんだけど……だめかな?」
 それでもまだ悩んでいたようではあったが、頷くのにそう長い時間はかからなかった。



 出会った場所から、近くにあった喫茶店へと場所を変える。
 注文したコーヒーが目の前に置かれてから、どうして呼び止めたかの説明から始めた。
 千里の持つ能力と似ていと思った事。
 本当に敵意がない事。
 どうしても話がしてみたいのだと思った事も、ゆっくりとした口調で一つずつ説明して行く。
 そうでなければ彼女は何時も何かに怯えているようで、萎縮してしまうからである。
 もっとも暫く話している間に、ようやく名前を教えて貰える程には落ち着いてきたようだ。
「もう大丈夫。わたしはレイニー・アーデット」
「改めて、あたしは月見里千里って言うの、よろしくね」
「よろしく、千里さん」
 一度うち解けた後は、すんなりと話が出来るようになっていった。
「驚かせてごめんなさい、同じような能力を持ってるかも知れないと思ったら、どうしても話がしたくなって」
「あのカサがそうだね?」
 頷いてから、千里は同じデザインのカサが並べられている方へと視線を移す。
「あたしの方は一時間で消えるけど」
「制限が明確なんだ、他にも?」
「分子を変化させる力で、使えるのは一日三回、一時間ずつ」
「変化……?」
 最初の一言が気になったらしいレイニーに詳しい説明を付け加えた。
「分子を変化させて、思った通りの物を作れるの」
 傍目には何でも出来るように思える能力だが、しっかりと揺るぐことのない根底という物が存在している。
「便利な能力だね」
「……そう、かな? 昔はもっと使えてたし、大人になったら完全に使えなくなるかも知れない」
 次第に弱まる力は、そう遠くない未来に現実になるだろう事は薄々気づいていた。
「使えなくなるのが怖い?」
 目の前にあるカップを両手で包み込むように持ち上げると、掌からじわりと暖かさが伝わりほっとする。
「……うん、最近……色々あったからかも」
 ある物がなくなってしまうのはとても怖い。
 普通の人になる事が嫌なのではなく、胸の中に渦巻く不安はもっと別のことから来ている。
 いつも千里が力を使うようにはいかない、もっと……時間をかけてゆっくりと変わるのを受け入れるしかないのだろう。
 自分の中にある物や、周りが変わっていく事など止められはしないのだ。
「わたしも怖いよ」
「……あなたも?」
 千里が顔を上げると、レイニーは視線を落としティースプーンでコーヒーをかき混ぜる。
「わたしは想像するだけで作れてしまうから、安定しないんだ」
 不安定な力が、どれほどの苦労を伴う物かは今まで数々の事件に関わってきた千里だからよく解った。
 コーヒーを飲んで喉をうるおしてから顔を上げ、レイニーがあまりコーヒーを飲んでいないことに気づく。
「……?」
「ああ……つい癖で。普段は食事も力で済ませてたから」
 何気ない一言に凄いと思ってしまうが、彼女にとってはそうではないらしい。
 強い能力であるのと便利であることは、決してイコールではないのである。
 最初に出会った時何かに怯え、逃げようとしたのもその為だろう。
 不安に感じているのは、決して自分一人だけではないのだ。
 いずれ消えてしまう力なら、それまでに何かをしておきたい。
「もっと話聞かせて?」
「え、でも……これ以上、誰にも迷惑をかけるわけには」
「お願い、何か手伝いたいの。それに一人で行動するの良くないし」
「………」
「あたしだと不安なら、頼りになる知り合いも沢山いるから」
「……他にも?」
 驚かれたようだと気づき、念のために補足しておく。
「うん、能力は別だけど信用していい人ばかりだから。ダメ……かな?」
「………」
 何かを考え込むように押し黙り、コーヒーを見つめていたがカップを持ち上げ口を付けた。
「そうだね……そうかも知れない。わたしも、もう一人は疲れたから」
 繰り返し呟き、ゆっくりと顔を上げる。
「みんな凄くいい人だから、安心して」 
「どういう人達?」
 考えるまでもない。
 よく知っているのだから。
「力のことも解ってくれるし、どんな事件も真剣に考えてくれるよ。あたしも事件に関わったり、助けて貰ったりしたから」
「どんな事件?」
「沢山。能力者がらみのこともあったし、怪奇事件もあったんだ」
 関わった事件を幾つか話している内に、千里も思っていたよりもずっと多くの人達と関わっていることを再確認した。
 悩んでいる人。
 どうしようもなくて人を傷つけた人。
 けれど、そんな人達に手をさしのべてくれる人は必ずいる。
「もっと、楽に考えて良いと思う」
 分にも言い聞かせるように語り掛けた言葉を、レイニーはどう受け取ったのだろうか?
「楽に……? でも、わたしの力は……」
「力を制御できる方法を知ってる人もきっと見つかるよ、色々な人がいるから」
「……ありがとう」
「どうしたの?」
 礼を言い、立ち上がるレイニーにドキリとしながら顔を上げる。
 何か気を悪くさせるようなことをしてしまったのかと思ったのだが……?
「雨がやんだから」
「あ、本当」
 窓の外を歩く人は、もう傘を差している人は誰も居ない。
「能力も少し不安定になってきたら、また今度」
「え、でも」
 このまま一人になったら余計に危ないのではないのではと思ったのだが、どうやら違うようだとは直ぐに解った。
「誰かがわたしに危害を加えるわけではなくて、わたしが人を傷付けてしまうかも知れ無い。続きは、落ち着いてからでいいかな」
「あ、それならわたしの携帯の番号教えとくね。何かあったら連絡して」
 急いで鞄からペンとメモを取り出し、携帯番号とメールアドレスを書いて差し出す。
「うん、連絡するよ。ごちそうさまでした」
 先に店を後にし、席に残った千里が傘に視線を移す。
 千里と同じように残されたカサの数は一本だけ。
 ここに来てから一時間はとっくに過ぎているし、レイニーもなにも持たずに出たのだからこれは間違いなく彼女の作り出したカサだ。
「あ……」
 後を追いかけようと振り返るも、彼女の姿はもう影も形もなかった。
「どうしよう……」
 店の扉とカサを交互に見比べ、悩んだのも束の間。
 結論は直ぐに出た。
 使わない物かも知れないとしても、この街にいるのであればきっとまた会う機会があるだろうから、次に出会った時に渡せばいい。
 その時まで、このカサは大事に取っておこう。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【0165/月見里・千里/女性/16歳/女子高校生】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございました。

レイニー・アーデットを書かせて貰う機会を頂きありがとうございました。
このような形になりましたが如何でしたでしょうか?
喜んでいただけたら幸いです。