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<東京怪談・PCゲームノベル>


■椎名の手紙■



「シィだろ」
「いや椎名じゃねぇの」
「シィが最初じゃないか」
「だから椎名だろうが」
「シィだって」

 男二人が真面目に話しこむ内容は非常に微笑ましいものである。
 聞けば、管理人の買物のお供に出た某中年男性が先程ひょいと顔を出したらしい。
 名前を失くしてしまったままの少年に名前をと考えていたアルバートが「シィ、かなやっぱり」と言った瞬間に「じゃあ椎名くんだね」と笑顔で告げてそのまま立ち去って……なので今現在男二人が言い合っているのはつまり少年の名前をどうするかという。
「間抜けね」
「……はぁ」
 そうですか、と戻るなりのエレナの言葉に曖昧に頷く櫻紫桜。
 少年の手を引いて歩く間ずっと、胸中で形を作りかけては崩れまた形を成そうとしていた薄暗い気持ちもこの瞬間には頭を引っ込めている。空気が呑気過ぎるのだ。
 というか、ジェラルドは怪我人ではないのか。
 何を元気に少年の名前について言い合っているのか。
 よくよく見れば微妙に包帯が薄紅く濡れているのは出血ではないのかというか無駄に上半身露出しているのはどういうつもりなのか。
「傷口開いてませんか?」
「死にゃしないわよ」
「……はぁ」
 これもシビアだとか言ってしまえば済む話だろうか。
 ぼんやりとそんな風に考える紫桜の手をその少年――シィだか椎名だかという名前になる子供がぎゅうと握り締めたままでいる。その温もりに気付いてはいるし注がれる視線も元より承知なのだけれど、相手を見返す事が出来ない。

 ――だって。
 だって何とか出来たかもしれないのに。
 だって他に方法があったかもしれないのに。
 だってこの子の目の前で終わらせてしまったのに。
 だって、だって、だって。

 ふ、と唇を割って洩れる吐息が重くて自嘲する。
 本当に、色々と覚悟の上で同行したつもりだったのだ。
 けれど子供――椎名としよう。椎名と手を繋いで返る途中で足を止めたあの時。振り返った先にはもう塵になった男の残骸なぞまるで見当たらなくて、あったとしてもきっと地面と同化していて見えなくて。
『とうさん』
 黙祷だけでもと改めて目を閉じた紫桜の耳に届いた椎名の小さな声。
 握り締めてくる幼い指が縋るように力を込めたのを感じながら、紫桜は自分の指先が第二関節あたりからぴくりと跳ねるように動くのを感じたのだ。その時に、それ以前からじわりと感じてはいた居た堪れない感情が泡立って形を朧に作ってみせたのも。
 握ったままの手を離すのも、握り返すのも躊躇われる。、
 温もりは確かに椎名が生きている証だ。生きて、そして男に呼ばわった言葉の震えを思えば感情だって確かにある。初めて会った時のような空白じゃない。では感情のある子供が父親の死を目の当たりにして何を思ったのだろう。
 懐かれているわねとエレナは言った。振り返って居なくなった男を見る前に言ったそれは真実だろうか。本当にこの子供は懐いているのだろうか。
(――そんな、筈)
 淀む感情の底に広がるのは罪悪感だ。
 それが胸の裡を濡らすまま己の行動を振り返れば後悔ばかりになる。
 握られた手。握る手。握り返せない。
 自分よりも小さな手の持ち主を見るのが恐ろしい。どんな顔をしているのだろう。どんな事を思って自分を見ているだろう。
 眼前で名前について話し合う男達、呆れて眺める女、その力を抜いた遣り取りは耳に届いても通り過ぎるばかり。屋外での出来事はほんの少し前の時間で、思い出せば感情は今のものになる。
(落ち着け――覚悟の内だ)
 どれだけ心身を鍛えても年若いなりに荒れる感情は諌め辛い。
 それでも他の同年代よりは冷静であれる紫桜は細く長く息をして、制御を拒み暗く巡り出そうとする精神の手綱を取った。ぐいと引く。きつく目を閉じて開く。
 繋いだ手の先、金色の髪の下を見た。
 きゅ、と握る手に力を込められて、離れかけていたのだと気付いた紫桜を静かに見ていた椎名が唇を小さく開いて何事かを言いかける。だが言葉にはならずまた唇を閉じると椎名は淡い紫の瞳を大人達へと向けた。

「だって椎名のが言いやすいだろ」
「だからどうしてわざわざ日本名」
「シィより収まりいいんだから気にすんな」
「シィって可愛いじゃないか」
「お前は何を基準に名前考えてんだ」
「……じゃあシィは愛称で」
「目ェ逸らしてんのは何だろなぁ」

 力の抜ける二人だなと、つられて眺める紫桜をまた椎名は見る。
 握るのではなく今度はくいと引かれて子供に意識を戻せばぽつりと。

「ぼく――ぼく」

 ひたと見据えられて息を詰めた。
 覚悟していても、それでも子供の言葉を聞くのが怖い。
 何と言うのだろう。何と言いたいのだろう。
 けれどどんな言葉であれ紫桜は聞くのだ。それは覚悟の内だ。どんな結果でも、受け入れると決めて手伝った人間が残された子供の言葉を恐れてどうする。恐れても逃れてどうする。
 そんな風にぐるぐると回る思考の中に椎名の言葉がようやく続けて投げ込まれ、意味を噛み砕く前に紫桜の瞳は丸くなった。

「ぼく、しぃな?」
「――は」


** *** *


 ちょこんと隣に腰掛けてホットミルクの入ったマグカップを両手で持つ。
 椎名のその姿と並んで同じように赤毛の妖精さんである茶々が両手でミルクを持つ。
 つまり紫桜、椎名、茶々という段々と小さくなる並びな訳で。

「最初はシィでそれが妖精さんにちなんで『sidhe』だなんてきっと忘れられて椎名が定着するんだろうなぁいや駄目じゃないけどさぁ」
「煙草吸いながらその一気に話すのは見事だけどね」
「本人が椎名と思ったならいいじゃねぇか」
 双子が暮らすにしては不必要な程に大きなテーブルの上にコーヒー紅茶それからミルク。
 温められたそれらの放つ匂いに鼻腔を擽られながら、紫桜の受け取ったのは紅茶。お疲れ様、とアルバートが言えば双子もそれぞれに「助かったわ」だとか「ありがとよ」だとか、笑って告げる。それらには微笑んで返したのだけれど、どうしてもすっきりとしないのはだから椎名の事の所為。
 お茶でも飲んでという流れになれば流石に椎名も手を離したのだけれど、ミルク持参でやって来た茶々と一緒に今度は紫桜の隣を占拠したのである。
 ――考えが解らない。
 今回の件に関して紫桜の役回りというのは、けして椎名にとって良い印象では無い筈だ。だのに隣でのんびりとマグカップを抱えるのはどういうつもりだと。
 ちらと視線を向けるとごく薄い色の瞳とかち合う。
 手を離してからも何度も視線がぶつかって、その度に椎名は何かを言いかけては口を噤む。
(言い辛い事、だろうな)
 考えても表情には出さない。エレナから差し出された小皿をそのまま受け取って隣に渡せば椎名が手を伸ばして、茶々が手を伸ばして――マグカップはそれぞれ片手で抱き締めるようにしているけれど危なっかしいことこの上ない。
「二人とも、マグカップは一度テーブルに置きませんか?」
「はい。置くです」
「うん、置く」
 思わず口を出せば、ことことと硬い音が二つして、アルバートが「素直でいい子達だなぁ」と蕩けた声で言うのを聞く。笑いを誘われながら溢す心配の無くなった子供達の前にクッキーの皿。そこで紫桜もようやく一つ摘んだところでまた、椎名の瞳。
 じ、と。
 視線は真っ直ぐ紫桜のそれに。
 ぼく、と小さく声が聞こえたがそれだけだ。
 結局言いかけてそれで終わってしまう少年。
 取ったクッキーを緩慢に口の中へ運んで紫桜は視線を逸らす。

 何度目だろう。

「きっと、何か言いたいんだとは思うんです」
「そうね」
 茶々と椎名が菓子を齧っている気配を遠くに、紫桜が話す傍らにはエレナ。
 キッチンに食器を下げて、そこで水音に混ぜて話せば広い造りの部屋ではそれぞれの声は殆ど聞こえない。潜めれば余程耳が良くないと内容の判別なぞ出来ないだろう。
 何度も繰り返された椎名の視線と唇の動き。
 キッチンで「何をお悩み?」とエレナに水を向けられたのを幸いと紫桜は彼女の隣に立った。
 勝手の違う他所の家だ。手伝う程の事も無いし、相手によっては嫌がられるし、と気を遣う辺りだったのだけれどエレナは咽喉で笑うと立ち位置をずらす。
「懐かれてると思うけれど」
「……俺は、彼の父親を救えなかったのに?」
 けたけたと笑うジェラルドの声がする。あんなに笑って傷は大丈夫だろうか。
「私なんて片付けてしまおうとしか思わなかったわよ。親切ねあなた」
「そうですか?他の手段を考えもせず誘き寄せて、死なせたんですよ」
 子供の前で、その父親を。
 互いに淡々とした、特に声を荒げる事も無い遣り取りは時に水音に押し流されそうだ。
 下げてきた食器を水に晒しながらエレナの瞳がしばし紫桜を見る。苦笑。
「あなたが殺したわけじゃないのよ」
「救えなかったなら同じです」
「……親切と言うより、律儀なのかしら」
「律儀でもないですよ俺」
 殊更にゆっくりと洗い物を片付けていくエレナが口元から微笑を消す事は無い。
 ただ紫桜が言葉を紡ぐ度に静かに問うだけだ。そうかしら、と。
「仕方ないでしょう。あなたには選択肢が用意されていなかったもの」
「選択肢」
「助ける手伝い、調べる手伝い、最後は誘い出したいとか言われて来たでしょ」
「ええ」
「出来る事なんて限られてるわよ」
「ですけど俺は」
「最後にしても話をまずしようとしただけ偉いと思うわよぉ?」
 堂々巡りになりかけ、おどけた調子で語尾を括られた。
 悪意の無い声音に言いかけた言葉を飲み込んで静かに流れる水を見る。静かに、ただ静かに。
 男を呑んだ影を水にしたあの最後。大きく零れた水音を思い出せば結局椎名の「とうさん」と言った小さな声を思い出して。
「椎名君が、何か言いたそうにするんです」
 それは何か紫桜に告げるべき事があるからだろう、ならば父を救えなかった事だろう、そんな気持ちで吐き出した言葉はけれど「そう」とあっさりとした一言で片付けられた。
「何か言いたいイコール文句をつけたい罵りたい、じゃないでしょ」
「感謝される事じゃないのは確かです」
「文句言われる事でもないじゃない」
「そうかもしれませんけど」
 どう言えばいいのだろう。
 確かに椎名が言いたい事が罵りだとか、そういったものだという根拠は無い。ただ紫桜が自分の行動と結末に納得出来なくて、そうして椎名が何か言おうとしている事が気に掛かるのだ。あるいは、むしろそうして明確な感情を示される方がいい。だからそう思うだけで。
「なんていうのか、曖昧で」
 滑り出た言葉に自らが瞬いた。乾いてもいないのに瞬きを繰り返す。
 そう、曖昧でそれが辛い。具体的な方法は思いつかないのに「他に方法があったかも」と思っては自分の行動を振り返って思い悩む、更に加えて椎名のその意味有りげな仕草。いっそ罵ってくれる方が自分の中でもけじめを付けやすい。だから、だから。
(わからない)
 感情を全てきちんと言葉に出来る程、自分の内側を把握している訳じゃない。
 責められて一息に片付けられてしまう方が気楽だから今の生殺しとも言える繰り返しが居た堪れないのか、違うのか、それさえも確かではないのだ。
 だから、解らない。
「責任感が強いな紫桜君」
 沈黙した紫桜をエレナは横目で見るだけで何も言わず、代わって加わった声はアルバートだった。
 現れたと思えば腕を伸ばして空のマグカップに水を注いで濯ぐ。
 身長の分だけ紫桜の肩越しでも問題無く届いてそのまま言葉を彼が続けるのを、紫桜は彼の腕を眺めながら聞いた。
「行動を振り返るってのは大事だけど、そればっかりもね」
「おかわりは?」
「ミルクティ三つ。茶葉は任せるよ」
「よく飲むわね」
「温かい物は落ち着くよ――シィはあれ、文句言いたいとかじゃないと俺は思うけど」
「椎名じゃないの?」
「俺はシィと呼ぶんです」
 落ち着いた遣り取り。慣れた会話のテンポ。
「俺は、君が一人で悩むだけなら言っちゃなんだけど放っておくね」
 洗ったばかりのティーカップを拭いてトレイに並べながらアルバートが言う。
 エレナは素知らぬ風で紅茶の用意をしていた。
「勝手な印象だけど、紫桜君は最終的に自分で考えや気持ちを整理するだろうし」
 違うかな、と問われても半端に頷き返すしか出来ないのだが。
 砂糖を用意しながら行儀悪くスプーンで縁を鳴らしてみるアルバートの手元を見る。
 その手の向こう側にキッチンを他と区切る壁が置かれているのだけれど、そちらを自然眺める形になって紫桜は僅かに顔を傾けた。何か、今そこに妙な色が。というかアルバートの髪と似たような色が、いやもっと薄いけれど。
「……あの」
「だからまあ俺が言うのはシィも多分、お」
「出来上がったらアルバートが持って行くからシオウはもう行きなさい」
「え」
「そうだな。そこの会話に不慣れな子と一緒に行っとくといい」
「不慣れな、子」
 とんと背中を押されて一歩動く。
 アルバートの前を横切って進むと儚い金色の髪がひょっこりと揺れていた。
「……」
「……し」
 あなた前フリ長いのよ、どこが長いよどこが。
 二人の会話をすぐ後ろに流しながら紫桜が見下ろす先に椎名。
 もう数えるのも面倒な程繰り返された対峙、同じように唇を動かす。
「ぼく」
 あ、今度はしっかり聞こえた。
「ぼく……し」
 し?

「しお」

「…………」
 多分それ「う」が足りてません。
 言うべきか。言わざるべきか。やはり言うべきか。
 今までは、たどたどしくても言葉自体は間違い無かったのにどうして「紫桜」が「しお」なのだ。
「しお、う?」
「……そうです」
 言い直して正解になったので、何事も無かったように会話を続ける事にした。
 頷いて名前を肯定してみればきゅと唇を丸く引いて――笑う。子供らしい柔らかい頬の肉が動いて椎名の表情がはっきりと変わるのを紫桜は当然初めて見たのだけれど、咄嗟に動きどころか息も止まるかと思う程驚いた。

 ――だって。
 だって、笑って手を掴んでくるから。
 だって、その手をきゅうと握り締めるから。
 だって、だって、だって。

「しおう、ぼく、しぃな」

 そこでまた笑みを消してぱくりと口を無音で開閉させるので、そこでふと紫桜は思ったのである。
 椎名も、何か胸中でまとめきれない気持ちがあるのではないかと。


** *** *


「心の分別なんて出来る訳無いからなぁ」
「煙たいのよスモーカー……分別ってあなたね」
 今頃くるくる湯の中で踊っているだろう茶葉を覗ける程に姿勢を低くしてぷかりと一吐き。
 艶っぽい唇を歪めてわざとらしくその煙を払うエレナは他の洗い物を拭いている。
「紫桜君がシィや父親についてあれこれ考えてるのと同じように、シィも考えてる」
「そりゃ父親の事もあるし」
「俺の想像だと、こう――」
「言わなくても同じ想像出来るわよ」
 そう、と別段表情を変えずアルバートはただ肩を竦めてみせた。

 長い長い時間、子供は父親を見ている。
 空白になった身体のまま父親が一つの基準の下に人を殺めていくのを見ている。
 発端と経過と結末と、それはどれだけ苦しい事だろう。
 かつての父を覚えておればこそ殊更に。

「整理出来るもんでもないしねぇ」
「助けてくれたけど、決定打もその人、ね」
「解りやすくしちゃえばそう、だけどね」
「シンプルにしとけばいいじゃない」
 ティーカップにお湯を入れて温めておいたのを捨てて空ける。
 充分に蒸らして躍らせた紅茶を注げば甘味のある香りがアルバートの煙を押し遣った。
 丁寧な手付きで注ぎながら、でも、とエレナの声。
「嫌われてないわよね」
「そりゃあ――」
 むしろ懐かれているので間違いないわ、と続ける相手に咥え煙草で笑ってアルバートは一言返した。考えすぎて気付かない紫桜以外には明らかな根拠を。

「嫌ってたら手なんかあんなに繋がないだろ」

 そりゃそうだわ、と笑ってトレイに並んだ温かなミルクティを渡す。
 受け取って椎名よりも濃い金髪の彼はキッチンの外へと足を向け、一度振り返ると付け加えた。
「そもそもあんなに追い回さない」
「その通り!」
 あっはっは、と笑う低めの女声に紫桜と椎名、茶々が顔を上げるのがアルバートから見える。
 心配しなくても、気に病まなくても、大丈夫だよと言ってやりたいけれど。
 ちらりと寝そべったジェラルドが片目を開けて笑って見せる。気付いてアルバートも笑った。
 ――大丈夫だろう。
 目の前で子供は紫桜にたどたどしくも何かを言おうとしているし、紫桜も先程より落ち着いて相手の言葉を待っている。意思疎通もそう難しくはあるまい。



 それは、紫桜は知らない年長者のその時の会話。





** *** *


『ぼく おいしかった。
 お茶 のんで食べる いいね』

 綺麗に書かれた宛名はアルバートの代筆だろうか。
 切手も無くどうやって送ってきたのやらと思いながら便箋を開くと唐突な書き出しだった。
 ぎこちない不器用な書き文字はおそらく椎名自身の手蹟だろう。大きな字は小さな子供が文字を練習するものとよく似ている。
 言葉も、文字も、何も知らない場所で覚えていく椎名。
 頑張れと心で思って便箋をめくる。一枚目は、中心部から占拠していたその二文だけだった。
 二枚目は、上の方から書き出されていたけれど文字はそれ程多くはない。。

『しお好き
 とうさん は ぼく も』

 そこで紫桜の視線が止まる。
 笑ったのは、好き、だと言ってくれるそれが理由だろうか。
 エレナの言っていた通り懐いていてくれたのだろうか。
 思いながら濡れた跡のある微かに滲んだ文字を追う。
 小さな水滴の跡が幾つもある便箋。

『ごめんね ありがと』

 言いたかった言葉。
 何度も口を開いては閉じていたのは、この言葉の為だろうか。
 謝罪は何に対してなのか、それは解らないけれど椎名は謝りたいのだろうか。
 それは自分こそだと記憶を掘り起こして眉を寄せながら、三枚目。

 そこには濡れた跡が一つあって、ずっとずっと下に。


『また来て』


 そうだね、と小さく声に出してみる。
 また温かいお茶を飲んでお菓子を食べよう。
 そんな風に考えながら、便箋を丁寧にたたんで封筒に戻す。



 あの日飲んだミルクティが今染み渡るような気がした。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【5453/櫻紫桜/男性/15/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 シリアスともほのぼのともつかないお話となり平伏してみるライター珠洲です。こんにちは。
 プレイングを斜め方向に飛ばす形のノベルとなったように思います、が、如何なものでしょうか。
 時間軸を「糸の端」のラスト直後、同日としたのですが結果として紫桜様・NPC椎名ともにこれはきっと気持ちごちゃごちゃだ!という結論に至りまして……NPCが出張って会話しちゃっていますが中心は紫桜様と椎名……主にアルバートとエレナが会話していますけれど!
 キッチンでのNPC二名の会話が椎名の紫桜様への感情ベクトルです。複雑だけど好きーという。時間軸的に描写出来ないかなぁと(会話不慣れでたどたどしい子ですからカルガモヒナ状態で精一杯)二人の会話で示しておきました。
 以前のゲーノベ続編というプレイングが本当に嬉しかったです。ありがとうございました!