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<東京怪談ノベル(シングル)>


〜マシンドール・イレヴン〜

メビオス零



「………では、やはりイレブンは廃棄ですか?」
「いや。只処分するよりかは、まだそこら辺の店に卸した方が、研究費の足しになるだろう」
「古い部品が多いし、もう予備としても新しい物に変えた方が……」

 目の前で数人の見慣れた研究者達が話している。電源を切るのを忘れているのか、それとも、ドールがどう思っていても関係ないのか………多分後者だろう。少なくとも、とくべつ親しかった一人を除いては、どうとも思っていないようだった。
 解体して部品として使うか、適当な店に卸して研究費にするか、スクラップにして壊すかを話し合っている。彼等が相談しているドールに残っているのは、この三つのプランのどれか一つだけだ。今までみたいに、取っ替え引っ替え新しい武装をつけ回したりするような日々も、もう終わりである。

(うーん………今まで通りなのもつまらないけど、ここで壊されちゃうのも……………………嫌だなぁ)

 充電用の金属椅子に座らされているマシンドール・イレヴンは、会話を聞きながらボンヤリとそんなことを考えていた。
 だが得意のタヌキ寝入りで、起きているのだとは気付かせない。ここで聞いていると気付かれたら、本格的に電源を切られかねないので視界のカメラは切り、目蓋を閉じている。
 なまじ人型をしているからか、研究者達でさえイレヴンが“眠っている”と判断し、好き勝手に話を続けていた。
 只一人だけ、イレヴンの方をチラチラと見ては、落ち着かない様子でソワソワしている。

(気付かれちゃったかな?)
「それじゃあ、研究資金の足しにするって事で、いつもの店に出しておこう。あ、充電はしておけよ。向こうだと、維持費削減のために放置されるから」
「はい。わかりました」

 会話が終わる。話していた研究者達は解散して部屋を出て行き、残ったのはジッとしているイレヴンと、充電をするために残った、親しい研究者の二人だけ………
 研究者は、やはりイレヴンが起きていることに気が付いていたのだろう。悲しそうな表情をして、イレヴンに近寄ってくる。
 最後に話をしたくてイレヴンが起きようと思ったとき、研究者は優しくイレヴンの頭に手を置いた。それから小さく言葉を発し、イレヴンをぎゅっと抱きしめる。

「ごめんね……君のことは好きなんだけど………私じゃ、どうしようもないの」

 優しく、悲しそうにそう呟いた研究員に話しかけることは出来ず、イレヴンは静かに意識を閉じた。

『でもね、きっと君にも……』









(懐かしいなぁ……)

 イレヴンは退屈そうに店の中を眺めながら、昔のことを思い返していた。
 あれからどれだけの月日が経ったのかは、よく解らない。だが、随分と長い時間を、イレヴンは小さな中古電気店の中で過ごしていた。こう言うときにはカレンダー機能等が付いていないのが悔やまれるが、恐らく一月や二月ではないだろう。
 その間、イレヴンはマシンドール用の金属製の椅子に固定され、店主に「騒がしそうだから」と言って口を塞がれていた。何一つすることが出来ず、静かに虚しい時を過ごしている。

(せめて、もっと人が来てくれれば売れたかも知れないのに……)

 唯一生きている目と耳を使って退屈凌ぎを探しながら、イレヴンは愚痴を零す。
 この店は、裏通り近い場所にある小さな電気店である。立地条件が最悪レベルな為か滅多にお客は訪れず、来たとしても、いくら格安とは言え、右腕と背部装備がないマシンドールなどを買いたがる客はいなかった。足りない部品を買い足すだけでも、相当な費用になってしまうし、返って安すぎる値段が胡散臭いからだ。
 長い間売れないイレヴンを見続けて、店主も段々諦めてきたのか、最近は「いっそ解体してジャンク部品に……」などとブツブツ呟き始めている。調子を見るために充電することもなくなり、イレヴンは出来るだけ長い間機能を保てるように動くためのエネルギーを全面的にカットし、視覚と聴覚だけを時々働かせていた。
 ………だが、それもこれまで。長い間放置されていたからだろう、視界は曇っている。

(せめて掃除ぐらいはして欲しいな……ついでに言うと、私の目の前で「解体」って言うの止めて〜〜)

 埃まみれになった体を眺めて、心の中で溜息をつく。それから、ウィンドウから見える外の景色を見つめ、それを心に焼き付けた。
 季節は秋から冬へ移行を始めている。寒々しい風が木の葉を舞わせ、珍しく外を通った人は、寒そうにコートを身に寄せ、足早に通り過ぎていく。やはり誰もこの店には入ろうとせず、お客が来る気配はない。
 もう、エネルギーは後僅か。もし視界を閉じたまま解体されれば、これが最後の景色となるだろう。

(これが見納めかなぁ…………やだな)

 呟いたイレヴンは、今までは出来るだけ無視しようとしてきた孤独感を感じ、最後は自分でさえ聞こえるか聞こえないかの小さな声を呟いた。
 もしイレヴンが人間だったのなら、ポロポロと涙を流していただろう。だがそれも出来ず、動きを封じられているイレヴンには、声を出すことも許されない。
 今まで感じたことのない程の感情を感じ、イレヴンは一言だけ、誰にも聞こえない涙声を上げていた。





 ……………イレヴンは、それから数日後には全てのエネルギーを使い切っていた。最後の最後まで泣き続けていたイレヴンは、なにも見えない虚無の中を漂い続けている。
 そこに、もはや聞くことも出来ないと思われていた音が戻ってきた。聞き慣れた店主の声。それと、その店主と会話する、一人のお客の声である。

「あの…………本当にこれで良いのですか?」
「ああ。これで良いんだ」
「ですが、こちらの商品の方が、機能的には随分と上ですよ?そちらの方だと、もう保証などは一切付きませんし………何でこれを?」
「ん、泣き声がな……」
「は?」
「いや、気にしないでくれ。多分気のせいだ」

 イレヴンの耳には、そんな会話が聞こえていた。聴覚に続き視界、さらには全身の機能に電気が走り、随分と長い間行われていなかった充電開始の信号が送られてくる。
 もはやスクラップになるとばかり思っていたイレヴンは驚き、目を見開いた。
 既に眠っている間に体の清掃は終わっていたらしく、視界は綺麗に映っている。そこに、店主と会話する青年が見えた。
 青年は「………気のせい……だよな?」とぼやき、煙草を取り出している。それから店の一角で埃を被っていた伐採目的に使用されるチェーンソーを指さし、店主に指示を出す。

「それじゃあ、そっちの方のチェーンソーもくれ。調整の方は、こっちの方でするから」
「分かりました。でも、後で突っ返さないで下さいよ」
「そんなに心配する必要はない。別に店に迷惑掛けようって訳じゃあ……ん?もう起きたのか」

 青年が振り返る。後ろでぼやいている店主を無視して、青年はスッと、イレヴンに手を差し伸べた。
 その手が自分に差し伸べられていることに気が付いたイレヴンは、驚きと、言いようのない暖かさに包まれる。

「俺は草間 武彦だ。これからよろしくなイレヴン」
「え?………う、うん!!よろしくお願いします、武彦さん!!」

 喜び勇んだイレヴンは、思わず武彦に飛びついた。人間的な感情表現としては良い行動かも知れないが、だが、そこはマシンドール。武彦は、イレヴンの重さに思わず呻き、一歩二歩と後退り、慌てて側にあった鉄棒で、イレヴンの重量によるダメージを緩和する。
 イレヴンの重量に押し倒されまいと頑張る武彦は、苦笑しながらイレヴンの頭を撫でてやる。その感触を感じながら、イレブンは、この店に来る前に聞いた言葉を思い出していた。






『でもね、きっと君にも、ずっと一緒に居たいと思える人が見つかるから。それだけは信じていてね』

 仲の良かった研究員の言葉が頭を過ぎる。
 事実、その言葉は嘘ではなかったのだと、信じていてよかったのだと、イレヴンは笑いながら頷いていた。











★★参加キャラクター★★

4964 マシンドール・イレヴン

★★ライター通信★★
 今回のご発注、誠にありがとうございます。メビオス零です。
 今回のお話はどうでしたでしょうか?マシンドール・イレヴンの初ノベルとして気に入って頂けたら本当に嬉しいです。と言うか安心出来ます。結構、受け入れられるか怖いです。
 もしご指摘、感想などがありましたら、HPの方でもファンレターとしてでも良いですから、ご連絡を頂けたら幸いです。励みになりますので。(叱咤だった場合は、より一層精進しますので、お許しを〜〜!)
 では、改めまして、今回のご発注、誠にありがとうございました(・_・)(._.)