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萌桜学園物語 ---入学試験---
□始まり□
ばら撒かれたピンク色のチラシと願書を手に、桐生 暁は夢幻館を訪れていた。
いつもはもっと余裕のある夢幻館だったが・・・今日ばかりはてんてこ舞いだ。
来る人来る人に、夢幻館の住民が総出で対応している。
「あ、暁さん・・・」
腕に黄色の腕章をつけた沖坂 奏都が暁に気がついて走ってきた。
「凄い人だね。」
「そうなんですよ、もう、朝からこちらはてんてこ舞いでして・・・」
疲れたような、それでいて困ったような、複雑な微笑を見せる。
「まぁこういう日もたまには良いのでしょうけれど・・・。」
「だね、俺も良いもん見れた〜って感じするし。」
悪戯っぽい微笑を覗かせながら、暁は微笑んだ。
「ところで、暁さんも入学試験ですか?」
「そーそ、なぁんか、面白い事やってるな〜って思ったら、住所此処なんだもん!絶対面白そうじゃん★」
「そうですか・・・??」
苦笑交じりに奏都はそう言うと、暁を引き連れて夢幻館の裏口へと回った。
初めてつれてこられるソコに、もしやリンチでもされるのでは・・・?!と、一瞬恐怖が走る。
しかも相手は奏都・・・絶体絶命の大ピンチ到来か・・・!?
「さぁ、こちらです。」
奏都が扉を押し開けた。
その先には、学校がデンと構えている――どうやらリンチではないらしい・・・。
「特別待遇です。夢幻館にかかわりのある人は、優先的に試験が受けられるんですよ。あの行列に並んでいたら、いつになるかわかりませんしね。」
「え?いーの??」
「えぇ。そう言う約束ですから。」
なんだか少し悪いような気がしたが・・・まぁ、特権は特権だ。
「それじゃぁ、行って来ま〜す!」
「頑張って行って来て下さいね。」
そんな柔らかな微笑を見たが最後、扉は閉ざされた・・・。
■試験■
久しぶりに着る、真面目そうなスーツ姿に、思わず苦笑する。
まさか普段と同じような服を着ていくわけにも行かず、とりあえず選んだのがスーツだった。もちろん、サラリーマンのようにきちっと着ているわけではないのだが・・・。
それにしても、あんま似合わないな〜・・・。
などと思いながら、ネクタイをいじる。
「次、桐生 暁さん。入ってください。」
その声に暁は立ち上がると、軽くノックをしてから扉を開けた。
「失礼しま〜す。」
丁寧にお辞儀をしてから、顔を上げたそこ――並ぶ試験官達。
チラリと見ただけで、暁はこの試験の合格を悟った。なんて良いタイミングで・・・。
「座ってください。」
「はい。」
ニヤリと微笑んでしまいそうなのを必死にこらえると、暁は試験官から少し離れた位置に置かれている椅子へと歩み、座った。
試験官の方へ体を向け、おもむろに暁は上着のボタンを1つ・・・また1つとはずした。
かなり色っぽい手つきで、ドンドンとボタンをはずして行く・・・。
・・・ゴクリと、生唾を呑む声が微かに聞こえ、思わず笑ってしまいそうになる。なんとなく、チラリと見た時から解っていたのだ。
一番右端の試験官が・・・だと言う事を・・・!!
全てのボタンがはずし終わると、暁は右の腕を抜き、今度は左の腕を抜いた。
やけにゆっくりとしたその動きは、色っぽいを通り越して官能的なまでで・・・椅子の背に上着を引っ掛けると、暁はふわりと微笑んだ。
本当にふわりと、無垢なまでの笑顔を見せた。
・・・・・バタバタバタ・・・。
何か水のようなものが滴り落ちる音がして――。
「あぁっ!!!粟黍(あわきび)先生!粟黍せんせーいっ!!鼻血が、鼻血がぁっ!!!」
一番右に座っていた試験官の鼻から滝のように流れ出る、赤い・・・。
これは流石に暁にも予想外だった。あまりにも刺激が強すぎただろうか??
いかにも体育教師ですと言う格好のその男性は、真ん中に座っている少しインテリっぽい先生に大量のティッシュを渡されている。
「えーっと・・・大変お見苦しいところを・・・」
一番左に座っていた試験官が苦笑いを浮かべる。
右胸につけられているネームプレートには“驫木”の文字・・・。
「驫木(とどろき)先生!鼻血が止ったようですっ!」
ビシっと、真ん中の試験官が驫木先生に敬礼をする。
「落ち着いてください、百目鬼(どうめき)先生。今は試験の最中なのですから・・・こちらももっと、落ち着いた・・・」
「そうでしたね。それでは桐生君。自己紹介をして下さい。」
急にふっと、表情を変える百目鬼先生。
なんだか楽しそうな先生達じゃないか。
・・・な、粟黍先生に、二重人格の百目鬼先生。そして、優しい感じの驫木先生。
「受験番号208番、桐生 暁です。貴校の自由な校風に惹かれまして・・・」
「えぇっ!?あの、桐生 暁!?」
粟黍先生がそう言って、暁の事を指差す。
・・・いつの間にそんなに有名人になったのだろうか?
暁は苦笑しながらも、ヒラヒラと手を振った。
「俺、本物のアキくんですよ?」
「う・・・嘘だっ!!」
そう言って、試験会場の隅に置いてあったバッグをおもむろに掴むと、中から写真を幾つか取り出した。
・・・おいおいおい、いつの間に撮られたんだ・・・??
そう思わずにはいられない、暁の素敵★私生活ショットに思わず顔が引きつる。
どれもこれも、暁の視線はどこかそっぽを向いており、それが隠し撮りであることが窺える。
「あ・・あぁぁぁぁぁ・・・あき・・・???」
「も〜、偽者じゃないって〜。」
ヘラリと微笑んで、手を振る。
それよりも、こんな写真がいつの間に世に流れていたのか・・。
「ってかセンセー、この入手先って?」
「こ・・・こここここ・・・」
そう言いながらブルブルと差し出された名刺に、思わず溜息をつく。
知った名前だった。いつもいつも暁の事を美男子だ何だと言って、お前の写真なら売れるとか、言いまくっていた友達・・・。
本当に売っているだなんて夢にも思わなかった・・・。
アイツ・・絶対売り上げの80%は取り返してやるっ!
「とりあえず、落ち着いてください粟黍先生!今は試験中なんですから・・・」
百目鬼先生があせったような声で粟黍先生の洋服の裾を引っ張る。
「それじゃぁ、自分の良いところをアピールしてくれるかな?」
「いつも明るく楽しく!が良い所??だと思ってますっ!」
「元気が良くて好感が持てますね。」
驫木先生はそう言うと、目の前に置かれていた紙になにやら書き付けた。
どうやらここは元気な風で言った方が良さそうだ。
それなら暁は得意中の得意だった。つまりは、いつも通りで良いと言う事なのだから・・・。
「頭はともかく、運動関係なら任せて♪」
「何か得意なものでも?」
「うん・・運動関係なら全部得意だけど・・・」
「今この場ですぐに見せられるようなものはありますか?」
「バク宙・・・とか?」
小首をかしげる暁に、驫木先生はにっこりと微笑んで、やって見せてくださいと小さく付け加えた。
椅子をひとまず、脇にずらし・・高く跳んでクルリと1回転する。
着地も綺麗で、ドスンと言う重たげな音は響かなかった。トンと、靴底が床にあたった音が響いただけだった。
「うん、綺麗ですね〜。」
パチパチと驫木先生が拍手をしてくれて、ソレに続いて百目鬼先生も拍手をする。
・・・粟黍先生にいたっては、アイドルのコンサートかと言うノリで拍手を送っている・・・。
「学校生活では、何かあったら騒ぎ立てて事を大きくし・・・いえ、楽しく盛り上げて行きたいと思います!」
いくら普段どおりで良いとは言っても、流石にマズかっただろうか?
「良いですね。我が学園は年間の行事数も多いですし、ゼヒ学園を盛り上げて行ってください。」
「はい!」
暁は元気良く返事をすると、上着を掴んで部屋から退室した・・・。
□合格発表□
30分後、廊下には真っ白な紙が張り出された。
合格者の受験番号がつらつらと書かれている・・・。
暁は受験票を見ながら、自分の番号を探した。
202・・・204・・・205・・・208・・・あった。
「合格者は、受付まで受験票を提出してください。」
聞きなれた声が学校中に響き渡り、暁は思わずスピーカーを見つめた。
・・・随分気取ったような声をしていたが、片桐 もなの声ではなかったであろうか・・・?
考え込むものの、もうスピーカーからは音は流れてこない。
仕方が無い。暁は受験票片手に受付まで向かった。
「はい、198番の幡ヶ谷 精留(はたがや・せいりゅう)さん。おめでとうございます。これが萌桜学園の指定制服になります。もちろん、制服に着替えなくても良いですし、私服でも通学は可能です。入学式は明日の午前9:00からになります。場所は学園の体育館になります。校内の地図もつけておきますので、明日は迷わずに体育館まで集合してください。」
テキパキと、合格者をさばしていく姿には暁にも見覚えがあった。
何も言わずに列に並び、にっこりと受験票を差し出す。
「はい、208番の桐生 暁さん。おめでとうございます。これが萌桜学園の指定制服になります。もちろん・・・・」
言葉が途切れる。
暁の顔を見上げる、梶原 冬弥の顔が、なんだかとっても痛々しい。
「暁ぃ・・おまっ・・・。」
「ハァ〜イ☆合格しちったw」
「合格しちったじゃねぇよ!ったく・・・お前は本当、なにかあると居るな。」
「面白いことが大好きな性分ですゆえ。」
ケラケラとそう言って笑う暁の目の前に、デンと大きな箱を差し出す。
「なに?」
「これが萌桜学園の指定制服になります。もちろん、制服に着替えなくても良いですし、私服でも通学は可能です。」
薄っぺらい商売用の笑顔で、冬弥が淡々と説明を続ける。
なんだかロボットみたいだ。
「校内の地図もつけておきますので、明日は迷わず・・・」
「ねね、冬弥ちゃん。」
「あ〜!?お前、俺にしゃきっと仕事をさせろ!」
「冬弥ちゃんは、この学校の生徒なの?」
冬弥の着ているものを指差しながら暁はそう言った。
深い緑のブレザーに、真っ白なYシャツ。そして赤いネクタイは、キュっと首元で縛られている。
「〜〜〜〜仮、生徒会長だ。」
凄く言いたくなさそうな感じで冬弥はそう言うと、腕につけている腕章を指差した。
先ほどとは打って変わって、今度は真っ白な腕章。そこには黒い文字で“生徒会長(仮)”と書かれている。
「お前らの中から生徒会長が決まるまでの、仮の生徒会長をやれって・・・奏都が・・・」
「それじゃ、さっきの放送の声ってやっぱりもなちゃんだったわけ?」
「あいつは生徒会副会長(仮)だ。」
「・・・他にもいるの?夢幻館のメンバー。」
「魅琴が生徒会副会長(仮)、リデアが生徒会書記(仮)、奏都が生徒会会計(仮)」
奏都まで入っているとは・・・恐るべし萌桜学園・・・。
「ま、お前らの中から主要なメンバーが決まったら、俺らはお役御免になるんだけどな。」
「いーじゃん、生徒会長〜!」
「どこがだよ、ったく、こんなメンドクセー仕事押し付けられるし、とっととお前らの中から生徒会長を選んで俺は普通の生活に・・・」
「んじゃ、俺が不良の少年になるから、生徒会長は、俺の事つ・か・ま・え・・・・」
「テメェはどんな本読んでんだ!!!」
ゴスっと、頭を叩かれて暁は涙目になった。
「も〜!!生徒会長の癖に、手を上げないでよ〜!」
「関係ネー!!」
「大体、本だなんて一言も言ってないし。冬弥ちゃんってば、どんな本を想像したのかな〜?」
「セクハラだ・・・ゼッテーこれはセクハラだ・・・。」
「あはは☆ま、いーや。よろしくね、冬弥ちゃん。」
「俺は絶対直ぐにこの学園から出てってやるんだからな〜!!」
冬弥のそんな叫び声を背に、暁は箱を掴んで走り出した。
なんだか楽しそうな学園生活になりそうだ。それにしても、冬弥が生徒会長・・・笑える・・・w
そんなウキウキ気分MAXの暁の背後に、怪しい人影があった。
そっとその後姿を見つめるのは・・・粟黍先生だ。
「本物・・・」
ポツリと呟く言葉に、甘い色が窺える。
そんなことが起こっているとは露知らず、暁はルンルン気分で萌桜学園を去って行ったのである。
この先の暁の学園生活はどうなってしまうのだろうか――
〈END〉
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト/トランスメンバー/劇団員
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■ ライター通信 ■
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この度は『萌桜学園 ---入学試験--- 』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
さて、如何でしたでしょうか?
何故か生徒会長(仮)になってしまった冬弥達・・・夢幻館のメンバーが生徒会では、この学園の将来も心配だな・・などと思ってしまいますが・・(苦笑)
そして、粟黍先生に目をつけられてしまった暁さん・・・しかも相手は体育教師(!)
そのあたりは生徒会(仮)に任せたいと思いますけれども・・・。
それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
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