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復讐の咆哮
□始まり■
10年前、東京都内のとあるアパートの一室で、女子大生が刺殺体で発見された。
彼女の名前は『瀬綾 摩子(せあや まこ)』
その日、彼女の部屋からは激しい口論の声が聞こえていたと言う。
付近住民からの証言をまとめた結果、浮上した一人の容疑者。
『田辺 幸信(たなべ ゆきのぶ)』
彼は摩子と当時交際しており、その日のアリバイはない。
しかし警察は幸信を逮捕する事が出来なかった。なぜなら彼は、警察官が逮捕状を持って彼の自宅を訪れた時、既に行方をくらませていたのだから・・・。
摩子は、腰まである黒髪が美しい上品で物腰の柔らかな女性で、近所での評判も良かった。
だから皆は口をそろえて言うのだ。
なぜあの子があんな子と・・・?
金色に染めた髪、青のカラーコンタクト、たくさん開いたピアス、ジャラジャラと重たそうな音を立てながら胸で揺れる髑髏やクロス。
煙草のにおいを引き連れて歩き、黒いサングラスの奥の瞳はいつも鋭い。補導歴だってある。
どうしてあんな子と?そう聞くたび、摩子は穏やかに微笑んで言うのだ。人は、見かけではないのだと・・・。
彼女の死因は出血多量によるショック死。
預金通帳はなくなり、お財布からも現金が抜き取られていた。
そして・・摩子の隣には、寄り添うように摩子が飼っていた柴犬が事切れていたのだと言う。
「それで、連れの女の子は?」
「なにも。」
「そうか・・・。」
薄暗い興信所内で、草間 武彦は手渡された書類を真剣に見詰めていた。
傍らに置かれた新聞の一面には『また謎の狼が人を襲う』となっている。
「この傷の大きさから考えて、犬でない事は間違いないな。」
「えぇ。それと・・証言の“狼”が段々大きくなってきている気がするんですよ。事実、歯型が若干前よりも大きくなっているようですし・・。」
「今は狼ほどだが、これがもっと後になったら・・・。」
考えたくもないと言う風に、男性は軽く首を振った。
ここ最近話題になっている“黒の狼”。
昨日で死者は5人。怪我人が10人、未だ意識不明の重体が1人。いずれも、16〜25歳までの男性が被害にあっている。
被害者達には接点こそないものの、共通点はあった。
1、金色の髪
2、青のカラーコンタクト
3、ピアスやネックレス
4、煙草
5、黒のサングラス
「一緒にいた女の子に、怪我はなし・・か。」
6、長い黒髪の女性
「これ以上被害者が出ないためにも・・・協力を・・して下さいませんか?」
「あぁ、分かった。」
隣でじっと成り行きを見守っていた零に視線を移し、低く呟く。
「零、今すぐに動ける人を集めて欲しい。」
零は軽く頷くと、小走りで部屋を後にした・・・。
■考察□
零からの連絡を受けて集まった面々を、武彦は見渡した。
「それにしても、妙な事件だよね。何で急に狼なんて?」
桐生 暁がそう言って小首をかしげる。
金髪、赤眼の少年で、その美麗な顔立ちは見る者を虜にする、所謂美少年というやつだ。普段はチャラけているものの、いざと言う時にはかなり頼りになる事は武彦もよく知っていた。
「段々と大きくなって来ていると言うし・・・なにか、原因があるのよね?」
シュライン エマが、確認をするように武彦の瞳を覗き込む。
中性的な美人で、一見するととっつき難い印象を受けるが、口を開けば穏やかな物腰の女性で、しっかりとしており、この興信所を陰で支えてくれているのも彼女だ。
「狙われている人に、共通性がありますからね。恐らく過去の事件か何かが原因なんでしょう?」
加藤 忍はそう言うと、出されたお茶を一口啜った。
ピシっとしたスーツ姿で現れた忍は、不敵な、それでいて人好きのしそうな笑顔を浮かべながら柔らかい物腰でソファーの上に座っている。そこはかとなく漂う、只者ではない雰囲気に思わず期待してしまう。
「私も、そうだと思います。そうでなければ、こんな不思議な事件は起きるはずが無いですから・・・。」
水無瀬 霖はそう言うと、そっと自分の掌を見つめた。
金髪碧眼の美少女だが、その瞳は何処を見ているのか解らず、こちらが視線を合わせようとしても決して絡み合う事は無い。どこか儚い印象を受けるが、それでも期待できそうなくらいの力がその体に眠っているのを感じる・・・。
「武彦様は、もう粗方の推測が立っているのではないでしょうか?」
八重草 狛子が、すっと武彦の方に真っ直ぐな視線を向けた。
漆黒の髪を揺らしながら、穏やかに微笑む狛子は、見る者に良い印象を与える。モデルなみの身長だが、それが気にならないくらいにおっとりとした穏やかな雰囲気に、思わず引き込まれる。芯の強そうな瞳には、強さが滲み出ている。
「俺もそう思ってな、過去の事件を幾つか当たってみたんだ。今回の共通点を満たすような事件が無いかどうか。」
そう言って武彦は、デスクの上から数枚の紙を取ると、順々に手渡して行った。
恐らくインターネットから取ったのであろう。新聞記事のコピーの右斜め上、日付は今から10年前の12月だ・・・。
美人女子大生、自室で殺害――そんなキャッチコピーの踊る紙面を読み進めて行く・・・確かに、今回の事件と類似している点が多々ある。
「これって、未解決事件って事?」
「あぁ、そうだ。」
暁の驚きにも似た声に、武彦はコクリと首を縦に振った。
「確かに、今の事件の被害者と、この事件の容疑者は重なるわ。被害者の摩子さんも、犬を飼っていたようだし・・・でも、もしこの犬が黒い狼だったとして、何故十年経って?」
「それは狛も思います。もしもこの犬さんが噂の狼さんだとして、どうして今頃になってこんな事件を起こしたのでしょうか?」
シュラインと狛子の言葉に、武彦は思わず頭を掻いた。
それは自分も思っていた事だったのだ。何故、今頃―――――
「こう、考えては如何です?今頃になって動き始めたのではなく、今頃になって重大な事件になったのだと――」
忍はそう言うと、口元に手を持っていった。
視線があちこちを動き回る。何かを考え込んでいるらしく、しばらく誰も声をかけない時間が続いた・・・。
「事件の狼は段々大きくなってきていると、おっしゃいましたよね?と言う事は、最初はもっと小さかった可能性がある・・・」
「つまり、前から人を襲っていたけれども、それは事件になるほどの怪我ではなかったと言う事ですか?」
霖の言葉に、忍が曖昧な頷きを返してきた。
もともとは小さな念の塊だった犬の霊が、人を襲い、時が経つうちに大きくなって行った――それこそ、人を殺められるほどに――
「確かに、そう考えるのが一番妥当かも知れないわね。」
「だとしたら、この先もドンドン大きくなる可能性があると言う事だな。」
「今の段階で狼くらいなんでしょ?早く対処しとかないとマズイかも知れないよね。」
「暁君の言う通りだわ。・・・ねぇ、思うのだけれど・・・この事件の犯人って本当に田辺氏なのかしら?」
シュラインのそんな呟きに、興信所の中が水を打ったように静かになる。
外を走る、トラックの音がやけに大きく響き、興信所の窓をカタカタと揺らす。
「どう言う事だ?」
「そう聞かれるとどうにも答えられないんだけど、どうもピンと来なくて。・・・ただの希望なのかも知れないけれど、なんだか・・・引っかかるのよね。」
「これってさ、いかにもお金目当てって感じじゃん?被害者のお財布から現金抜き取られてるし、預金通帳だって・・・本当に田辺がやったのかな?」
暁もシュラインの言葉に、援護を加える。
「もちろん、金が欲しかっただけって理由も無きにしも非ずだよ?本当に田辺が殺したのかも知れないし・・・でも、なんか他に理由がある気がするんだよね。」
「それに、犬の死亡原因も不明瞭ね。もちろん、普通の新聞に犬の死亡理由なんてめったに載らないのだから、当たり前なのかも知れないけど。」
「どちらにせよ、この事件を調べてみて損な事はありませんね。」
忍がそう言って、バサリと新聞記事をテーブルに置いた。
「この事件の犬さんが、今の事件に何らかの関わりを持っていると思うのが、妥当だと思いますね。」
狛子の意見に、一同は同意の意を示した。
そう考えるより他は考えようが無かった。この2つの事件はあまりにも登場人物が似通っている。
犬と、金髪の青年、そして黒髪の女性。
「当時の担当刑事さんや、関係者さんから摩子さんや田辺氏、あと柴犬の情報を集めてみましょう。」
「そうだね、事件の詳細を追っていた刑事さんとか、この事件に関わった人にあたってみた方が良いかもね。」
「出来れば交友関係をたどって、当時田辺さんと面識のあった人にも話を聞きたいですね。」
霖の言葉を受けて、武彦は席を立った。電話を取り上げ、何処かへと電話をかける。何かを相手に告げ、数度の相槌の後で受話器を下ろした。
「とりあえず、あっちとの話はつけておいた。当時事件を担当していた刑事がまだ現役みたいでな、時間をとってくれるそうだ。」
武彦の言葉で、ソファーから立ち上がると、その刑事がいるという署まで一行は向かった――
□10年前の事件■
通された応接室で待つ事20分。小さなノックと共に入って来たのは、中年の刑事さんだった。
がっしりとした体つきで、いかにも刑事と言う風貌のその男は、頭を下げて自分の名を告げた後でニコリと微笑んだ。
遠野 正造(とおの・しょうぞう)と言う名の刑事は、見かけこそは厳つく強面で、なんとなくとっつき難い雰囲気だったが、話してみると普通のおじさんで、瞳は優しく微笑んでいた。
「それで、10年前の事件の何が聞きたいんですか?」
小脇に抱えていた大きなファイルをドンと机の上に置くと、正造は一人一人の顔を眺めた。
「まずは、被害者の瀬綾 摩子さんについて、教えて欲しいのだけれど・・・」
「都内の有名大学に通っていた女子大生さんでね、周囲の評判は良かったんですよ。黒髪で可愛らしい感じの女性でね・・・これが写真です。」
ファイルの中から、一枚の写真を抜き取ると、正造は机の上に置いた。それを順々に回して見る・・・。
本当に可愛らしい感じの女性だった。夏に撮ったのだろうか・・・半そでのシャツの袖から伸びる、すらりと細い腕と良い、細い肩と良い、全体的に華奢な体つきだ。
腰まで伸びた黒髪はしっとりと輝いており、ふわりと柔らかく微笑んでいるその瞳は大きな二重だ。
「可愛いでしょう?もう、事情聴取を取れば取るほど、彼女の人柄は素晴らしくてね。普通はどこかで変な噂とか、そう言う類のものを聞くんだけどね、彼女にいたってはまったくだったね。」
過去を思い出しているかのように、遠い目をしながら正造はそう言った。
「摩子さんのご家族は――」
「両親と・・確か1つ上に兄がいたな・・・。」
ファイルをパラパラと捲る。そのたびに、小さな風が冷たく机の上を滑る。
「あぁ、そうそう。瀬綾 俊司(せあや・しゅんじ)って言ったな。この兄も摩子さん同様出来た人でね、有名大学卒業後、大手の企業に就職して――少しシスコンって言うのか・・・その気が強かったらしくてね、摩子さんのお葬式の時なんて、見てるこっちが思わず胸を痛めそうになるほどに泣いててね・・・。」
視線を落とす。寂しそうな瞳が、ファイルの上を行ったり来たりする。
「あのお葬式は、人生で5本指に入るほど、哀しいものでしたよ。」
正造はそっと目を閉じると、語り始めた。
参列者は、まだ若い摩子の死に嘆き悲しみ、式の間中すすり泣く声が聞こえていましたよ。
摩子の両親と兄は、泣きながらもなんとか参列者の方々に頭を下げて――母親の方はいてもたってもいられなくなったみたいで、途中で式を抜けてしまってね。
親族や式の関係者が捜したんだけど、どうにも見つからないと言って、仕方なく父親も式を抜け出して・・・可哀想でしたよ。
残された兄は、必死に涙をこらえながら参列者に頭を下げて・・・手がね、震えてたんですよ。握った拳が、本当に辛そうでね。
遺影の中の摩子さんは、あんなに穏やかに微笑んでいるのにね――。
百合の花が好きだったそうでね、棺の中には百合の花が散りばめられていて、こんな事言ったらいけないのかも知れないけど、本当に摩子さんは綺麗だったんですよ。
まるで眠ってるみたいにね、そっと瞳を閉じていて・・・。
「哀しい、哀しい葬式だったんですよ。」
正造はそう言って目を開けた。ほんの少し、目が赤くなっているのはきっと当時を思い出したからなのだろう。
聞いているこっちも、なんだか切ない気分になってくる。
「田辺さんについては――」
「あぁ、田辺についてはね、こっちも結構捜査をしたんだけれど・・・まぁ、良い噂は聞かなかったね。」
パラパラとファイルを捲る。すっかりしんみりとしてしまった室内に、その音は大きく響いた。
正造は1枚の写真をファイルから抜き取ると、机の上に置いた。
金髪で、青の瞳。睨むようにして写っている・・・これが幸信だろうか・・・。
「田辺 幸信・・・暴行、器物破損、飲酒、その他・・・中高と、まぁ、青少年が犯しそうな事は全てやってたね、この男は。家族構成は・・・祖母が1人。」
「祖母・・・?」
「田辺がこうなってしまったのには、ちょっとした理由があってね。もちろん、田辺のやってきた事をそれでチャラにするつもりはサラサラないけど・・・。」
「何かあったんですか?」
「田辺の実の母親はね、田辺がまだ幼い時――5歳の時に殺されてしまったんですよ。実の父親にね――」
その言葉に、急に霖と暁の顔色が変わる。瞳が、揺れる。その先に何かを見つめながら・・・。
霖の隣に座る狛子も、ほんの少し切ないような表情をした後で、正造に視線を戻した。
「田辺の父親はロクでもないヤツでね、酒を飲んでは母親と田辺に手を上げていたそうですよ。幼い田辺にはどうする事も出来なくて、その度に護ってくれる母親の姿は、心に響いたんでしょうね・・・。田辺はお母さんっ子だったらしいですよ。」
「どうして、父親が母親を・・・?」
「その日、田辺の父親はパチンコで大損をしたらしくて、むしゃくしゃしてたそうなんです。普段通り酒を飲み、手を上げ・・・その日は珍しく母親が抵抗したそうで、勢い・・・でしょうね。台所にあった包丁を掴んで、そのまま――」
思わず目を閉じる。今にも浮かんできそうなその映像を、必死に意識の外に追い出す。
「幼い田辺の目の前でね、父親が母親を刺し・・・父親は、自殺したんです。その罪に耐えかねて、母親を殺害後、直ぐにね。通報したのは、田辺ですよ。解りますか?5歳の子供が、警察に電話を入れて来たんです。お母さんがお父さんに殺されて、お父さんも死んじゃった――その通報を受けた警察官は、田辺の家まで走ったそうですよ。」
目の前で繰り広げられた惨劇。もう動かない両親を前にして・・・5歳の子供には過酷過ぎる現実だ。
「警察官が着いた時、血溜りの中で倒れる両親を目の前に呆然と座り込む田辺の姿があったそうです。ただ、呆然とその場に座り込んで――それからですよ、祖母と暮らし始めたのは。田辺の父方の祖父母は既に他界していましたし、母方の祖父も田辺が生まれる前に他界している・・・母方の祖母の所で田辺は育ったんです。」
田辺には他に兄弟はおらず、祖母と2人、質素な生活だったと言う。
「一番最初に補導されたのは・・・万引きですね。それからは、なし崩しに色々としましてね、その度に田辺の祖母――静江(しずえ)さんって言うんですけどね、謝りに来てましたよ。」
「最後に、この犬の事を聞いておきたいのだけれど、この犬の死因は何だったんですか?」
「摩子さんと同じですよ。どうやら、摩子さんが襲われそうになった時、犬が相手に飛び掛ったらしくてね・・もちろん、そのまま刺されちゃったみたいなんですけど・・・。」
「犬の名前って、わかるかしら?」
「あー・・・なんて言ったかな・・・確か預かったホームビデオで摩子さんが――」
「そのビデオ、お借りできないでしょうか?」
シュラインの言葉に、正造はほんの少し、戸惑いの色を滲ませた。端に座る武彦の顔色を伺い・・・。
「解りました、すぐに探してそちらに持って行きます。ただし、この事はくれぐれも他言しないで下さいね。」
正造は念を押すようにそう言うと、背広のポケットからメモ帳を取り出して、そこに何かを書き付けると武彦に手渡した。
「これが摩子さんのお兄さんの現住所です。ご両親は海外に行ってしまったようで・・・よほど、摩子さんが生まれ育ったこの国に居たくなかったのでしょうね。」
「田辺さんのお祖母さんはどこにお住まいなのですか?」
「去年の暮れに、亡くなりましたよ。最期の最期まで、田辺の無実を信じていたようですよ・・・。」
しんみりとした空気が痛くて・・・武彦は立ち上がると、正造に頭を下げた。他の面々もそれに続き、部屋を出て行こうとした時、ふいに正造が武彦の名を呼んだ。
「忘れてた。これが田辺の母親ですよ、どことなくね、摩子さんに似てるでしょう?」
そう言って1枚の写真を渡すと、正造はクルリと背を向けた。
写真は色褪せており、白黒のそれはほとんどセピア色になっていたけれども――確かに、どこか摩子に通じるものがあった。
長い髪や、華奢な体つき、一番似ているのは、その穏やかな瞳・・・。
「ねぇ、本当に田辺が摩子さんを殺したのかな?」
暁が再びその疑問を口にする。
誰もその問いに答えられる者は居なかった。
■俊司□
都内の一等地に聳えるマンションの一室に、瀬綾 俊司は住んでいた。
IT企業の社員だと言う俊司は、見た目からエリート色の強い男で、なんだか気後れしてしまいそうになる。
ピシっと着たスーツは有名ブランドのもので、一着何百万と言う代物だ・・・。
「それで何が聞きたいんです?」
高そうなティーカップに紅茶を淹れながら、俊司がチラリと上目遣いでこちらを窺った。
「実は、10年前の摩子さんの事件について調査をしているのですが・・・」
「・・・どうして今頃になって・・・まさか、田辺の居所がつかめたんですか?」
紅茶を一人一人に配りながら、俊司が食い入るようにシュラインを見つめる。
「いいえ、けれど、そのヒントが無いかと思い、こうしてお話を窺いに。」
にっこりと微笑む狛子の顔を見て、ほんの少し落胆の色を見せたものの、テーブルを挟んだ向かいのソファーに座り、顔を上げた時には何の色も浮かんでいなかった。
武彦の提案で、今回の事件と過去の事件に接点があると言う事は伝えない方向でと話がまとまったのだ。
伝えても混乱させてしまうかも知れないし・・・最悪、過去の古傷を抉ってしまう事になりかねない。
「当時の田辺氏の交友関係を再びあたってみる事になったのですが、なにか知っている事はありますか?」
「さぁ、私は田辺の交友関係はさっぱりですからね。あぁ、でも・・・摩子と共通の知人は知っていますよ。」
「本当ですか?」
「えぇ、確かこの近くに住んでる――大原 加奈子(おおはら・かなこ)って言いましたね。摩子とは高校時代からの親友で、田辺ともそれなりに付き合いがあったとかって聞きますけど。私自身は、摩子の葬式の後で数度顔を合わせた程度ですけどね。」
「摩子さんのお葬式の後・・・ですか?」
「摩子の荷物が加奈子さんの家にあるって言って、私が引き取りに行ったんですよ。それと、加奈子さんの荷物が摩子の部屋にあって・・・それを届けたり・・・それっきりです。」
俊司は苦笑しながらそう言うと、立ち上がって部屋の壁に取り付けられている本棚に手を伸ばした。
すーっと背表紙を手でなぞり――1つの革張りの本を手にすると、パラパラと捲った。本棚の脇においてある小さな丸テーブルの上から真っ白なメモ用紙を1枚千切ると、そこに何かを書きつけた。
「これが加奈子さんの携帯の番号です。彼女の場合、携帯に電話するのが一番良いかと・・・あまり家には帰らない人なので。」
「加奈子さんは何をなさっているんですか?」
「新聞記者ですよ。色々な場所に飛び回っているらしく、自宅に行っても居ない可能性がありますので・・とりあえず、私の方から加奈子さんに電話を入れておきますので、恐らく折り返し電話がかかってくると思います。そちらの電話番号を聞いても宜しいですか?」
「あぁ。」
武彦はそう言うと、名刺を取り出した。それを俊司に差し出して・・・俊司の視線が名刺に注がれる。
「もし今日中に折り返しの電話が無い場合は、そちらから加奈子さんの方にかけていただいても宜しいですか?」
「えぇ、構いませんよ。それでは、我々はこれで・・・」
「宜しくお願いいたします。」
□加奈子■
「ねぇ、もしこの事件が摩子さんの飼っていた犬が原因だとしたら・・・犬を仕掛けた人がいるって事よね。」
興信所に帰ってくるなり、シュラインはそう言った。
何かを考え込んでいる顔で、そそくさとお茶の準備をして、テーブルの上にティーカップを置いて行く。
「犬を仕掛けた人・・・ですか?」
「つまり、犬をこの世に呼び覚ました人・・・?」
霖の言葉に、シュラインはコクリと首を縦に振った。
「ねー、それってさ、俊司さんじゃない?」
暁が間延びした声で言い、シュラインが出してくれたお茶を一口飲む。
「確かに、あの方の書物は面白いものばかりでしたね。“黒魔術”“蘇生術”“復活の呪い”」
「“復讐の復活術”」
「魔術系の書物の名前ですね。」
「狛、少し思ったのですが・・・」
狛子が言葉を濁しながら、助けを求めるように霖を見つめる。
「霖様も恐らくお気づきになったと思いますけれど、あの部屋からは獣の臭いが漂っていたように思うのですが・・・」
「獣の臭い?」
「えぇ、感じませんでしたか?」
霖が一人一人の顔を見つめる。もちろん、その視線は何処を見ているのか解らず、視線があう事は無かったけれども・・・。
「まるでこびりつく様に、部屋全体に臭いが染み付いていたんです。恐らく、俊司さんはあの部屋で“何か”を行ったんでしょうね。」
「黒魔術系の復活術は、対象の相手を仕留めるまで消える事はありません。俊司様をお責めになった所で、犬さんをどうにかしない限りは解決策が無いんです。」
「でも、それじゃぁどうして田辺以外の男の人が襲われてるわけ?」
「恐らく術が不完全なんだと思います。復活や蘇生など、その手の類の術は凄く難しく、不安定ですので――」
「私の推測ですけど、多分俊司さんはこの事件の原因が自分の放った犬だと言う事に、気づいているのではないでしょうか。」
「事件は大々的に新聞で報道されてるしね。だとしたら、あれだけ協力的だったのにも頷けるよね。」
「・・・俊司さんは、止めて欲しいんじゃないかしら。自分の放った犬を――」
シュラインが言いかけた時、興信所の電話が高らかに鳴り響いた。
武彦が席を立ち、受話器に向かって何かを言う。きょろきょろと辺りを見渡し・・・その意味に気づいたシュラインが急いでメモとペンを差し出す。
「草間さん、出来るなら瀬綾さんのお墓の場所など、聞いていただきたいのですが・・・」
忍の言葉に、武彦は左手を軽く上げると受話器に向かった。
「・・・はい、はい。解りました。えぇ、大丈夫です――ありがとうございます。」
カチャリと受話器を置いて、武彦は溜息をついた。
「やはり犬を放ったのは俊司だ。」
「加奈子さんがそう言ったんですか?」
「いや、はっきりとそう言われたわけではないが・・・。あの書物は彼女のものらしい。この事件が起こる1年ほど前に貸して欲しいと頼まれたそうだ。」
「・・・俊司様は、もしかしたら2つの感情に挟まれているのかも知れませんわ。犬さんを止めて欲しいと言う感情と、田辺様に復讐して欲しいと言う感情。その間で身動きが取れなくなってしまっているのではないでしょうか。」
罪の意識と、それでも残る、復讐と言う感情。
大切なものを突如として奪われてしまった悲しみは、留まる事を知らずに心の中に湧き上がる。悲しみと悔しさが交じり合い、憎しみと言う感情が生まれる。
「とにかく、犬を止める事が先決ね。」
「これ以上被害者が増えないうちに、手を打たなくてはいけませんね。」
考え込む一同を眺めながら、忍は違う事を考えていた。この事件の調査依頼を受けた時から、引っかかっていた一つの事・・・。
「草間さん、ずっとお聞きしたかったのですが――」
武彦が不思議そうに顔を上げる。
「この事件の依頼人の男性は、田辺さんでは?」
「・・・は?・・・いや、依頼人は山田・一郎と言う名前で、髪の毛は黒かったし、目だって青くなかったぞ??」
「武彦さん、名前や髪の毛なんて、どうにでも出来るでしょう?」
「そもそも田辺さんは髪を染めていましたし、瞳だってカラコンじゃないですか。」
霖の言葉に、武彦は頭を抱えた。
いや、そんなはずは・・・などと口ごもるが、なんだか頼りない。
「顔は見なかったの?ほら、刑事さんのところで、写真見たじゃん。その顔と、依頼人の男の人って・・・」
「あ〜〜〜〜っ!!!」
暁の言葉をさえぎっての絶叫に、思わずガクリと肩を落としたくなる。
聞いて呆れるほどの注意力の無さだ。探偵としては如何なものだろうか・・・。
「それなら話は早いわね。田辺氏を捜す手間が省けたわ。」
「電話番号は知ってるんでしょう?」
コクコクと、まるで人形のようにぎこちなく頷くと、武彦は電話に向かった。
■幸信□
武彦の電話で呼び出された幸信は、興信所に入った途端に取り押さえられた。必死の抵抗も空しく、渋々自分の正体を明かした。
「髪の色と瞳の色は直ぐに変えられるが、顔ばかりは変えられないからな。」
もっともらしい事を言う武彦だが、一番最初に気づくべき人物だったにもかかわらず、一番最後に気づいた――この事実は決して変える事は出来ない。
「それで、どうして偽名まで使ってこの事件の調査依頼をしたわけ?」
「俺の考えじゃねぇ。」
「加奈子さんの考えじゃないんですか?」
「・・・加奈子が言ったのか?」
霖の言葉に、驚いたように幸信が顔を上げる。
「いいえ。ただ、なんとなくそんな気がしたんです。・・・加奈子さんは、この事件の発端は自分のせいだと、思っているでしょうし・・・」
もしもあの時本を貸していなければ、そう思っても、不思議ではない。
「・・・言っとくが、俺は摩子を殺してねぇ。」
「じゃぁ、なんで逃げ回ってたのさ。」
間髪をいれずにそう言うと、暁は幸信の瞳を覗き込んだ。幸信が、気まずそうに視線を逸らす。
「俺は・・・摩子を殺した犯人をこの手で捕まえたかったんだ。」
「あの日何があったのか、話してくださいますか?」
狛子の言葉に、幸信は顔を上げると、記憶を紡ぐように視線を揺らした。
――あの日、摩子と些細な事で口論になったんだ。もちろん、半分以上俺が悪いんだけどな。
なんだかむしゃくしゃして、俺は摩子の元を飛び出したんだ。頭を冷やそうと思って、そこら辺をぶらぶらして・・・その途中で警官に捕まったんだ。
「確かに、アリバイらしいアリバイは無いな。」
「でも、俺はやってねぇ!・・・〜〜なんで俺が摩子を殺せるんだよ。」
ドンと、拳をテーブルに打ち付ける。今にも泣きそうな瞳が、頼りなさ気に揺れる。
「お前はやってないよ。加奈子もそう言ってたしな。」
武彦がいかにもだるそうにそう言うと、あの写真を取り出した。
「母親に似ている彼女を、どうしてお前が殺せるんだよ。」
切なそうに、哀しそうに、幸信はその写真をなぞると、そっと胸に抱いた。
「ここにいる誰も、アンタが犯人だなんて思ってないんだよ。」
暁が、安心させるかのように優しい声色でそう言うと、ふっと微笑んだ。
シュラインが奥から紅茶を淹れて持ってくる。
コンコンと、扉をノックする音がして、入ってきたのは先ほどの刑事だった。
武彦が慌ててそちらに向かい、幸信を正造の死角に隠す。
何か小さな箱を手渡すと、正造はそそくさとその場を後にした。
「ビデオテープだ。」
「それじゃ、早速見てみましょうか。」
シュラインがそう言って、準備をし始める。
ビデオテープの中には、楽しそうに犬――マメと遊ぶ、無邪気な摩子の姿があった。
その漆黒の髪が風に梳かれる度、甘いシャンプーの香りが漂ってきそうで、どうしようもなく胸を締め付けるのだった。
□囮■
次の日の新聞に、黒の狼の記事は無かった。
どうやら昨日は誰も被害にあっていないらしい。一同は再び興信所に集まると、そのままある場所へと向かった。
整然と墓石が並ぶ、見晴らしの良い墓地。
瀬綾と書かれた前で、手を合わせる。
それは忍の提案だった。こんな連続事件が発生しては、摩子もゆっくり眠れないだろうから・・・その、霊を慰めにだ。
「摩子さんも、気が気じゃないでしょうね。実の兄が愛犬を使って最愛の彼に復讐をしようとしているなんて。」
「これ以上哀しい事件を増やしてはいけませんよね。」
「絶対に、どっちも護るから。」
暁がそう言って、手を合わせる。
彼女が好きだと言う、百合の花を供える。武彦が買ってきたお線香が、ゆらゆらと立ち上り、独特の香りを撒き散らす。
お線香の香りは、何故だか少し心を哀しくさせる。
「摩子さんは、こんな事望んでませんよね?」
霖が問いかけるように優しく呟いた。
もしも摩子がこの場に居たならば、きっと頷いていただろう。こんな事は望んでいないのだと――。
「もう、囮しか、ないわよね。」
「そうですね・・・でも、誰がなります?それに、犬さんが現れる場所は決まってる訳ではありませんし・・・」
「あまり人の居ない場所が良いわね。」
「とりあえず、一旦戻るか。車内で決めれば良いだろう。」
「そうね・・・また、来るわね。」
「きっと良い知らせを報告しに参りますよ。」
忍がそう言い、最後にほんの少しだけ手を合わせて摩子に呼びかけた。
金色の髪、青の瞳、重たげに揺れるネックレスに、ピアス。
黒いサングラスをかけ、全身に煙草の香りを纏いながら、暁は霖と共に街中を歩いていた。
黒髪のカツラをつけた霖が、周囲を警戒しながら歩く。
もしも黒の狼が現れた場合、狙われるのは自分ではなくて暁の方だ。黒髪の女性に怪我は無いと聞く・・・つまりは、咄嗟のフォローを入れられるのは霖だけだった。
他のメンバーは、少し離れた位置で2人を見守っている。
一番最初の攻撃を避けるのは、暁の運動神経と反射神経に懸けるしかないが、その後再び襲ってくるであろう狼にいち早く反応しなければならないのは霖だ。
緊張する霖とは違い、暁はいたって普通だった。
あれこれと、なにか気になったものを指差しては霖に話しかけては笑っている。
・・・ザっと、何かが視界の端で動いた気がした。
狼ほどの――いや、狼よりも若干大きい黒い影。
咆える、地を揺らすほどに、力強い声で――。
「暁君っ!!」
シュラインの声が、響き渡る。黒い影がこちらに走って来て――暁が霖を軽く突き飛ばし、自分は身軽に影を避けた。
よろけた霖には目もくれず、狼が再び暁に襲いかかろうと――
『マメ!ほら、こっちよ〜!行くわよ・・・取って来い〜っ!!・・・って、えぇ〜!どうして取って来ないのよ〜!』
昨日見た、ビデオから録った声。楽しそうに遊ぶ、摩子とマメの姿が思い浮かぶ。
狼がその動きを止めた。まるで何かを探すように、きょろきょろと辺りを見渡す。
「マメさん、こんな事、瀬綾さんは望んでいるとお思いですか?」
忍の低い、落ち着いた声に影はそちらを向いた。
「貴方が襲っているのは無関係の人間だ。」
「そうよ、あれから十年経っているの、ねぇ、もう摩子さんが悲しむような事はやめましょう?」
シュラインの言葉に、影が困惑しているのがわかる。
言葉はどうやら通じるようだ・・・。
「マメ様、もうやめましょう?これ以上罪を重ねても、摩子様は喜びませんよ・・・?」
狛子の言葉で、影が揺れる。ふわふわと、まるで霧散してゆく前のように、頼りなさ気に・・・。
暁がサングラスを取り、コンタクトをはずす。その赤い瞳を見つめながら影が小さく鳴いた。
「お前が捜してるのは、今まで襲って来た人達じゃない。」
「復讐の咆哮をあげたとしても、もう聞く人は居ないんです。」
迷っている。この影――マメは、迷っているのだ。
自分が護れなかった主人を襲った相手、その人物に復讐するためだけに作られたこの体。
「自由になって、良いんです。もう、安らかに・・・摩子さんの元へ、行けるんです。」
霖の言葉が、深く心に刺さる。自由――それは、自分の望む事をして良いと言う事。
マメが1歩足を踏み出そうとした時、視界の端に武彦と・・・金髪の青年の姿が映った。
金髪に、青の瞳、重たげに揺れる・・・今回の被害者達と同じような格好をした、幸信だった。
マメが咆える。その大きな体を高く跳ねさせ、驚異的なスピードで走り去る。
「武彦さんっ!!」
シュラインの声が、長い尾を引いて響く。
動こうと思っても、間に合わない事だけは明白だった。だから動けないのだ。まるでピンで地面に留められたかのように、一同は微動だに出来ずに成り行きを見守っていた。
「マメ、これがお前の主人を襲った相手か?よく見ろ!」
武彦の強い言葉に、マメはその殺気を弱めた。
無理やり幸信の手を取り、マメに差し出す。においを嗅ぐ、まるで確かめるかのように・・・。
マメは動かない。ほんの少しも、動こうとはしない。
「・・・マメ・・・??」
幸信が、恐る恐るマメの名を呼んだ。
クゥン・・・
甘えるような声。擦り寄ってくるマメの頭を、優しく撫ぜる。
「これは・・・?」
「随分思い切った賭けに出たわね、武彦さん。」
「勝算はあったさ。」
忍が、シュラインが持っていたラジカセの再生ボタンを押す。
『ねぇ、どうして取って来ないんだと思う〜?』
『マメも、摩子を遊んでやるのに疲れたんだよな〜?』
『私が遊んであげてるんじゃないっ!・・・って・・・“も”ってなによっ!』
『言葉のアヤだって。ほら、貸してみろよ・・・マメ、取って来いっ!』
ワンっ!!
『あ、マメったら酷いっ!』
『ほらほら、マメが帰って来たぞ。今度は取って来るんじゃないか??』
楽しかった日々の思い出は、風にかき消される。
マメだって、幸信の事が好きだったのだ。けれどそれ以上に摩子を愛していた。だから――――
幸信の腕の中で、マメは幸せそうな顔をしたまま、消えて行った。
きっと、摩子の元へと。
■そして□
新聞の一面は、有名女優の結婚会見の速報だった。
お相手は不動産業を営む富豪で・・・。
「結局、真犯人はお金目当ての泥棒・・・か。」
「たまたま幸信さんと背格好が似てたんでしょうね。」
霖がそう言って、読んでいた新聞を綺麗に畳んだ。
女子大生刺殺事件の真犯人逮捕。当初容疑者と思われていた被害者の恋人は無実。
それは3面記事に小さく載っていた。
摩子とは何の面識も無い、当時28歳、現38歳の無職の男だった。
「最近は物騒ですからね、戸締りをしっかりとしないと・・・」
そう言う忍だが、彼も泥棒だ。ただ、俗に言う義賊の彼は、人を殺めもしないし、一般の人々の金品を盗る事は絶対にない。
「でもさ、これで全員の誤解が解けたわけでしょ?」
暁の言葉に、武彦は少しだけ微笑むと、頷いた。
「今度、みんなで摩子の墓参りに行くそうだ。」
加奈子は、今回の事件の真相を幸信には話さなかった。もちろん、幸信も薄々は解っているのかも知れないが・・・。
自分の勘違いから引き起こされた事件は、死傷者を含んでいる。警察に自首しようとした俊司だったが、加奈子に止められたのは言うまでも無い。
呪殺は罪にはならない。呪いは、目に見えるものではないから・・・。
法は裁けないながらも、きっと罪の意識が彼を裁くのだろう。尊い命を奪った罪を背負いながら、俊司はこの先も生き続けなければならない。
被害者達の無念と、被害者の家族達の嘆きを背負いながら、この先の長い人生の道を・・・。
「どんな理由があるにせよ、人を殺めてはいけません。けれど・・・救いは、ないのでしょうか。」
狛子の呟きに、武彦は苦笑した。その頭をそっと撫ぜ・・・。
「結婚するんだそうだ。加奈子と俊司は。」
――それはただの傷の舐め合いかも知れないけれど・・・
「支えてくださる方がいらっしゃるのでしたら、きっと、大丈夫ですよね?」
狛子が安心したように、ほっと息を吐き出す。
「そうです・・・皆さん、摩子さんのお墓参りに行きませんか?」
「お、いーね!今回の事の報告も兼ねて、行こっか!」
暁が元気良く言い、ソファーからピョンと飛び降りた。
「花屋さんに寄ってから行きましょう。百合の花を買わないと。」
「あと、ドッグフードも買って行きませんか?」
「マメ様に差し上げるんですね?」
「んじゃ、行くか。」
その声で、一同は興信所を後にした。
しっかりと鍵をかけて――
<END>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト/トランスメンバー/劇団員
0086/シュライン エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
5745/加藤 忍/男性/25歳/泥棒
2298/水無瀬 霖/女性/17歳/高校生
5206/八重草 狛子/女性/23歳/ボディーガード
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■ ライター通信 ■
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この度は『復讐の咆哮』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
お久しぶりの興信所での純シリアス依頼という事で、気を引き締めての執筆となりました。
私は個人的には“復讐”と言う言葉はあまり好きではありません。
とても強い感情が含まれている強い響きの言葉ではありますが、含む感情があまりにも哀しいので・・・。
最後の結末は、かなり悩みました。
呪殺は法で裁く事は出来ません。けれども、きっと自身の心が彼を裁くのだと思います。
そこまで来た時に、はたと止ってしまいました。この先、どうすれば彼を救えるのだろうかと。
摩子もマメも、そして加奈子も幸信も、俊司が不幸になる事を望んでいないのだと思います。
そしてきっと皆様も、俊司が不幸で終わる物語を望んでいるとは思えませんでした。
皆様からいただいたプレイングはどれも温かくて、どうにかして黒の狼=マメを救える道は無いのかと考えてくださっていて・・。
全ての登場人物が、不幸で終わらない物語を描きたいと思いました。
どんなに哀しくても、切なくても、次に繋がる、未来のあるお話にしたいと思いました。
それ故、結末はこのようにまとめさせていただきました。
まだまだ拙く、精進しなければならない部分は多々あると思いますが、少しでも皆様が楽しんでいただけたのならば、嬉しく思います。
それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
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