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<白銀の姫・PCクエストノベル>


Imperfect angel―不完全天使―
〜appearance〜


◆オープニング◆

ひとりぼっちのおうじさま。
びょうきできよわでひとみしり。
いつもおしろでひとりきり。
おともだちは、めいどとほんとしぜんだけ。
そんなつまらないまいにちのなか。




――――――あるひ、おうじさまのめのまえに、ひとりのてんしがあらわれました。




***


「…森が妙に静かだな」


森の中に一歩踏み込んだ冒険者の男が、辺りを警戒しながらぽつりと呟く。
隣に立つ女の冒険者も、少し怯えた様子で男に寄り添う。

辺りはあまりにも静かだ。
モンスターの気配も無ければ、動物の気配も、ましてや鳥の鳴き声なんて欠片も感じられない。
噂では、この森は確か自然が豊かで、様々な動物が見かけられる幻想的なものだと聞いていたのに。


これではまるで…死んだ森ではないか。


おかしいと思いながら、男は気を緩めないように腰に下げた長剣に手をかける。
ぴり、と張り詰めた空気に、一緒にいた女も持っていた杖を握りしめた。







――――――――瞬間。







ざぁっ、と、強い風が吹く。
唐突の強風に二人は同時に反射的に目を閉じる。
そしてすぐに閉じていた瞼を開き…目を丸くした。


ほんの一瞬前には存在しなかったものたち。
自分達を囲むように佇む大量のモンスター。
目は虚ろに濁り、ゆらりゆらりと、静かに波打つように揺れる。


そんなモンスター達の囲いの上空…男達の正面に当たる位置に、『それ』はいた。


スピネルカラーの瞳と、同じ色の肩口までの髪を靡かせた、ジェノサイドエンジェルに良く似た『何か』。
翼には確かに機械が組み込まれているのに、そのしなやかな身体には欠片も機械の存在は見あたらない。
柔らかく白い、滑らかな右腕に描かれた、『Imperfect angel』の刺青。
何よりも異質なのは―――背に存在する、闇のように真っ黒な翼。



まるで堕天使のような女が、二人を見据えながら緩やかに艶やかな唇の両端を持ち上げた。



「…なんだこいつら…!」
「アレ、ジェノサイドエンジェルじゃない…!?」
二人の冒険者は、予想外の登場人物に同時に目を見開く。
その二人の言葉が皮切りになったように、『堕天使』は笑いながら、そっと唇を震わせた。




【――――――ひとりぼっちのおうじさま】




その口からこぼれたのは、歌。
緩やかなそれは、独白にも似て、しかしどこか舌っ足らずに聞こえる。


【いつもいつもひとりぼっち。
 ともだちがほしくても、だれもおしろにきてくれない。
 おうじさまは、いつもひとりぼっち】


「…? あいつ、何を…?」
男が、何をするでもなくただ歌う堕天使に訝しげに眉を寄せる。
変なものでも見るような表情で見ていた男は、不意に隣の女が妙に静かなことに気づき、横を向く。




――――――女は、まるで周りにいるモンスターのように虚ろな瞳で、じっと堕天使を見ていた。




「!!」
ぎょっとした男が女を呼び止めるより早く、女が歩き出す。
持っていた杖は手から離れ、からん、と乾いた音を立てて地を転がった。

【だいじなだいじなおうじさま。いまはねむりつづけるおうじさま。
 わたしのだいじなおうじさまが、おともだちをほしがってる】

女はまるで歌に誘われるように、迷うことなくまっすぐ進んでいく。
モンスターたちは、まるで道を譲るかのように、一斉に女の進行方向から退いた。
「おい!! どうしたんだ!?!?」
男の叫び声にも、女は眉一つ動かさない。
男が慌てて止めようと駆け出すよりも早く、モンスターたちがまるで遮るように立ちふさがり、行く手を阻む。

「くそっ、どけっ!!
 おい! 戻ってこいよ!! おい!!!!」

モンスターは倒しても倒しても次から次へと現れた。
まるで泉のように湧き出てくるモンスターは皆目がうつろで、まるで操られているかのようにゆらゆらと揺れ、時々思い出したように男に武器を振り下ろす。
男が必死に道を作ろうと努力している間に、女は堕天使の目の前に立っていた。




【だからわたしは、おうじさまのおともだちをたくさんたくさんみつけるの。
 めをさましたおうじさま、ともだちがたくさんできてたら…きっと、よろこんでくれるから】




堕天使はゆるりと唇で弧を描くと、そっと女に手を伸ばす。
手が女の頬に触れると同時。
ざあ、と先ほどよりも強い突風が起こり、男の視界を奪う。
反射的に目を閉じた男が、慌てて目を開けた時。








――――――――――そこには、堕天使も女も…モンスターすらも、なにも残っていなかった。









ただ、堕天使の翼からとれてしまったのであろう、一枚の真っ黒な羽根だけを、除いては…。



***





――――――――ところ移って、とある城。





「…そして消えた女は何故か現実世界に戻っていたのですが、女はその日から奇妙な行動をとる、人形のようなイキモノになってしまったのでした。めでたしめでたし、と?」
「……どこがめでたいのよ。
 まったく、存在しない筈のイベントが勝手に発生して、無差別にプレイヤーを襲うなんて…」


読み上げた書物をテーブルに放り出す男。
続けて茶化すように上げられた低い声に、目の前に座った女…モリガンが不機嫌そうに顔を顰めて返す。
そしてすぐに眉間に拳を当てて、苦々しげに呟いた。
それにくっと笑いを返した男は、モリガンににらみつけられてわざとらしく肩を竦める。


「…何が楽しいの?」
「別に?
 悲劇のヒーローぶってあちこちに吹聴してるくだらない話がモリガン様のお耳に届いてよかったな、ってね」


目の前に座る男は、変わった格好をしていた。
ライダースーツに、椅子の背にかけたベルベットコート、同様にロングブーツやグローブまでもが全てレザー素材に漆黒で纏められ、せいぜいところどころに別色のアクセントが入っている程度だ。
髪は翡翠よりも深く美しい、絶妙な色合いの琅稈<ろうかん>色の髪。
顔の上半分はフェイスマウントディスプレイで覆われているため、瞳の色や顔全体までは残念ながら確認できないが、顔の下半分だけでも、整っている方であることぐらいは判別できた。




――――――男の名は、ヒスイ。




とは言っても、当然本名ではない。
それどころか、この姿が本物であるかどうかすら怪しい、謎に包まれた男であった。
本名も、本当の姿も、どんな場所に住んでいるのかも…誰も、知らない。
唯一わかっているのは、超一流のハッカーであるということと…性格がひねくれているということだけ。


整った唇を愉快そうに歪ませ、ヒスイはテーブルに頬杖をつきながらモリガンを見る。
モリガンは益々眉間に皺を寄せると、不意に皺を緩ませて深々と溜息を吐いた。

「……相変わらず嫌味な男ね、あなた」
「お褒めに預かり至極光栄ですよ、女神様」
「やめて頂戴、見え見えのお世辞なんていらないわ」

そう返しながら、クッキーをつまみ、紅茶を飲む。
本来なら一人で三下に用意させたこのクッキーと紅茶で優雅に時間を過ごす予定だったのだが、唐突に現れたこの男…ヒスイのせいで台無しだ。
どこの女神にもつかない代わり、どこの女神にもどんなに頼まれようと手を貸そうとはしない。手を貸すのは、気が向いたときだけ。
その上、時々勝手に現れては、勝手に場を荒らして去っていく。迷惑極まりない男。


……それでも、下手に扱えない理由が、モリガンに…いや、女神達にはあった。






――――――それはひとえに、ヒスイが一流のハッカーであることにある。






ヒスイの能力。
その詳細は不明だが、少なくとも自分達のような…電脳的な世界に深く干渉できる能力を持っているようなのだ。
この世界では自分達の方が確かに力は上。
だが…ヒスイを敵に回せば、おそらくは外…この世界の外であるもとの世界から、何かしら干渉を行ってくる可能性がある。
それがどの程度のものなのか、自分達には予想できないが…少なくとも、いい影響であるわけもなく。
だからと言って、ヒスイは純粋にこの世界を楽しみに来ているだけであり、この世界に何かをする気もない。
それに稀に…本当に稀だが、自分達が困っている問題に興味を抱いて、解決してくれることもある。
この世界を乗っ取ろうとか、もっと悪意があればこちらもそれなりの対応もできるのだが…これでは、無闇にはじき出すわけにもいかないだろう。



つらつらと考えながら顔を顰めていくモリガンを眺め、ヒスイは目を細める。



白銀の姫をかなり初めの方で見つけ、積極的にこの世界を知ろうとしたのは、他ならぬヒスイだ。
この女神達との付き合いも、結構なものになる。
プログラムが意思を持ち、悩み、怒り、笑い…様々な感情を持つ姿を見ているのは、中々に面白いものだ。
『人間』には興味はないが、『意思を持ったプログラム』である『女神』には興味がある。
どうせなら、この世界を作った人間に会ってみたかったが…残念ながら、それは敵わないだろうから諦めておく。
…別にこの世界がどうなろうと知ったことではないが、まだ当分の間、自分はこの世界に出入りをするだろう。
こういったものは、いい暇つぶしになる。


少しだけ残った紅茶をぐっと煽ると、ヒスイはがたりとわざとらしく音を立てて立ち上がった。
その音にはっとしてこちらに視線を向けるモリガンに口端を持ち上げ、椅子の背からコートを取り上げる。
ばさりと大きく翻して羽織ると、モリガンに背を向ける。







「…興味が沸いたら俺が調べて差し上げますよ、モリガンサマ」







「……期待しないで待ってるわ」

楽しそうな声音に呆れ気味に返すと、ヒスイはくっと喉を鳴らして、そのまま立ち去っていった。
その背を見送ってから、モリガンは放り出された書物を手に取る。


「…『Sleeping Beauty』…眠り続ける王子に恋をした、堕天使の物語。
 その堕天使の設定の異常性から、創造主様はイベントとして組み込むのを断念していた。
 ……それどころか、組み込む前の構想段階で消えて行った筈だったのに…それを誰かが見つけて、イベント化して無理矢理挟み込んだ……」


そこまで呟いて、モリガンはらしくもなく、ギリ…と歯軋りを零す。
そのあまりにも苦々しげな表情は、自分の世界を穢された怒りにも似た感情が溢れている。










「――――――いったい、誰がこんなことを…」










彼女の苛立ちに満ちた呟きは―――誰にも届くことなく、風に溶けて消えた。






◆情報収集



 ――――白銀の姫内部・とある森の近くにある村。



「情報、って言ってもなぁ…俺達は最近は森に行ってないし、そういうイベントには興味ないから…」
「そう…いえ、わざわざありがとう」

 シュライン・エマはそう返した村に泊まっていた冒険者の男に礼を告げると、その場を離れるために背を向けた。
 難しい顔で、手の中にある何枚もの紙を眺める。
 手元にある紙には、びっしりと様々な情報が書かれていた。
 些細な噂から、人伝ではあるが実際に被害にあった人間から聞いた情報まで、ほとんど殴り書き状態で連ねられたそれは、全てエマが独自で調べたものだ。

 エマは此度の事件の話を聞いて、ほうっておけないと手をつけたのだった。
 元々ゲームに取り込まれた一般人の救出の為、女神陣営につかず動いているフリーの冒険者だ。
 特になにをどうしなければならないという誓約が無い分、自由に動き回れる。
 助けるべき一般人が襲われず、襲われるのは出入りが自由な冒険者。
 なにかあるのではと思い、独自に動き回っていたのだが…。



「…これじゃあ、特定もできないわね…」



 軽く頭を掻く姿は少々間抜けではあったが、実際問題、あまりにも情報が少なすぎた。
 被害にあった人間から話が聞ければ一番手っ取り早いのかもしれないが、生憎、この周辺にはそれらしき人間はいないようだ。
 過去に被害にあった森の位置をある程度は調べられたが、恐らく事件が発生した場所はこれの倍はあるだろう。
 ゲームのセオリー通り特定のフラグをおこせば何かもっと有力な情報が得られるのではないかとあちこち調べてはいるのだが、イマイチしっかりとした情報も得られない。
 とりあえずジャンゴに近い事件場所の森に近い村や町に聞き込みをした後、ジャンゴに戻って知恵の環で関連書物の捜索、その後に女神達へ聞き込みしてみるとしよう。


 そこまで考えたエマがようやく一歩踏み出した時、不意に後ろの男が小さく声をあげた。





「…そういや、ここ最近、急に変なこと言うNPCが一人増えてたな。
 天使がどうとか、王子が眠ってどうとか…」





 その言葉に、エマはぴくりと大きく肩を跳ねさせる。
 そして素早く振り返ると、勢い良く男に詰め寄った。


「そのNPCどこにいるの!? どんな姿!? 今すぐ教えて!!!」

「…お、おお…この村の南側の入り口近くにある、でっかい木の下だ。
 金髪のお嬢様っぽい女の姿のNPCで、そのくせなんか吟遊詩人みたいな雰囲気だったな…」


 気おされた男がしどろもどろに返すと、エマはすぐに背を向ける。




「ありがとう! それじゃあね!!」




 礼もそこそこに、エマは大急ぎでそこへ向かって走り出した。



**




 ――――――――――少女は、確かにそこに立っていた。




 ゆるやかなウェーブのかかった髪と柔らかなドレスを風になびかせ、どこを見ているのかわからない視線を、ただ静かに空へ向けている。
 あまりにも浮世離れした雰囲気に、一瞬、エマは声をかけるかどうか戸惑った。
 しかし、いつまでもここで留まっているわけにもいかない。
 エマは意を決して歩き出すと、そっと、その少女に声をかけた。


「……ちょっと、いい?」


 エマの声に、少女が緩やかに振り向いた。
 ちりん、と、髪に結ばれた鈴が軽やかな音を立てる。
 振り向いた少女の双眸は、菖蒲のような鮮やかな紫色をしていた。



「…だぁれ? なんの用?」



 声は甘く、柔らかい。この声で甘えられたら、大抵の男はイチコロだろう。
 そんな少しばかり抜けた思考に行きかけていたエマは頭を振って思考を戻すと、少女に問いかけた。





「………貴方が、天使と王子様の話をしていると聞いて、その話を聞きにきたの」





 その言葉に、少女がきょとんとする。
 しかしすぐにふわりと嬉しそうに微笑んで、ととと、と可愛らしい動きでエマに近寄った。

「おはなし、聞きにきたの?」

 どこか嬉しそうな問いかけにエマが頷くと、少女は満足そうに笑ってエマを見る。
「それじゃあ、お話してあげる」
 少女はふわりと笑って体の後ろで手を組み、空を見上げて口を開いた。



「この村に、伝わってるおはなし」



 エマが緊張でごくりとツバを飲み込むと、少女は楽しそうに笑う。




「一人の天使が、悪いことをして天から落とされたの。真っ黒な翼は、悪いことをした証。
 そしてその天使は、ひとりの王子様に恋をしたわ。
 そして、天使と王子様はお友達になった。二人は幸せだった。
 …だけど、あるひ、王子様が眠ってしまったの。
 それから、天使は『おともだち』を集めるためにあちこちを飛び回ってるんだって」




 ところどころ省かれているが、大体の事情は飲み込めた。
 そこでエマは、もう少し踏み込んだところを、彼女に聞いて見ることにする。

「……集められた『おともだち』は、いったいどうなるの?」
「しらない。でも、帰って来た人はひとりもいないって」
「…そう…」

 どうやら、そこまで教えてくれるほど親切では無いらしい。
 明らかにセイレーン事件を起こした人間が作ったであろうNPCは、楽しそうに笑ってエマを見た。



「でもね、セイレーンは、おともだちにあることを求めるんだって」
「…『あること』?」



 弾むような声音とその内容に、エマは眉を寄せる。
 くすくすと笑うと、少女は口元に指先を当てて、囁くように呟いた。





「――――――自分と王子様の名前を知ってること。
 知らないと、どうなっちゃうのかは知らないけどね」





 あまりにもほがらかに笑う少女に――エマは無意識のうちに眉間に皺を寄せた。


◆静穏の森

 あのあと何度か少女に問いかけてみたが、同じような答えしか返ってこなかった。
 どうやらこれ以上の情報はプログラムにロックがかかっているようだ。
 話すことを諦めて、エマは森の中へ入っていた。
 先ほどまでいた村の、街道のある方向とは逆にあるある森。
 まだ襲撃されていない森らしいが、どうやらつい先ほど、二人一組の冒険者が中へ入っていったと言うのだ。




「セイレーンのことを知らないみたいだし…一応話しておかないと危ないわよね。
 遭遇してしまう前に、合流できるといいんだけど…」




 困ったようにそうぼやきながら、近くに人の手によって形を変えられた形跡のある草木を辿って、エマは進んでいく。
 もし何事もなく、出会えないまま森を抜けたら、彼女達は無事に森を抜けたということだ。
 途中で出会えたなら事情を説明すればいいし、無事なら無事でそれで構わない。

 そんなことを考えながらがさがさと草木を掻き分けていたエマだったが――――もう一度がさりと草を掻き分けたところで、人間の後姿らしきものを発見した。

 藍色の腰までの長い髪。少々露出の高い服。
 きっと例の冒険者の一人だろう。声をかけようともう一度草木を掻き分けた時―――。





「きゃああぁぁぁあああっ!!!!」





 ――――――――劈くような悲鳴が上がり、エマは思わず硬直してしまう。



 少しの間の後、はっとしたエマが慌てて一歩踏み出す―――いや、踏み出そうと、した。


 しかし足を踏み出すよりも前に、視界を遮るように、一気にモンスターが現れたのだ。
 反射的に身構えたエマだったが、モンスター達はエマに攻撃する気配はまったくない。
 それどころか、エマに背を向け―――完全に無視されるような状態に、エマも流石に面食らった。
 モンスターの壁の向こうから、武器がぶつかる音が聞こえる。きっとさっきの女性らしき人が戦っているのだ。
 誰かの名前を必死に呼ぶような声に、エマも急いで辿り着こうと走り出す。
 まるで際限がないように現れてくるモンスターたちは、どうやら固定された東西南北の短い幅をまるで崖にかけられた丸太の端をわたるようにゆっくりと歩いて増えていた。
 最初から、そう定められているかのように。
 そこを塞げればなんとかなるかと思ったが、それだけの力も時間も、エマにはない。
 なんとか隙間をぬって辿り着くことが先決だと、エマは急いでモンスターの山を駆け抜けた。


 ようやくモンスターの姿が見えなくなった時―――エマは、『それ』を見た。


 赤い髪と、同じ色の瞳。黒い翼、腕に描かれた刺青。
 腕に抱えられた、剣士風の女性。



 ――――――セイレーンと、今まさに連れて行かれようとしている女性の姿。



 エマの姿を認めたセイレーンは、ふっと微笑む。
 そして翼を大きくはためかせると、風とともに巻き上がった砂埃に目を細めるエマをあざ笑うかのように、空へ飛び上がって移動をし出した。
 今までそんな事例を聞いたことがなかったエマは、驚いて目を見開く。
 その間に、あれだけいたモンスターは何処へと姿を消していた。

「…い、もうと…を、返し、て…!」

 傷だらけの少女だけが残され、そこで少女は苦しげに声をあげる。
 それを聞いて、エマは慌てて小さくなりかけているセイレーンを見る。
 少しだけ胸が痛んだが、エマはセイレーンを見失わないうちにと走り出しながら背後を振り返る。





「――――そこで待ってて!
 妹さんたちは私が追いかけるから!!」





 慌てて駆け出す中、視界の端に、少しだけ少女が頷くのが見えた。


**


 しばらく粘って追いかけてはみたのだが、途中で、まるで自分達をあざ笑うかのように、セイレーンはあっさりと姿を消してしまった。
 散々追いかけっこを楽しんだ後に、さっさと家に帰ってしまった子供のような、意地の悪いやり方だ。
 悔しさにぎり、と歯を噛み締めながら、エマは急いで戻る。
 草木が荒らされた場所に辿り着くと、そっと草むらを掻き分けて少女の下へと進む。






「ごめんなさい。セイレーンと妹さんには逃げられてしまったわ…」






 申し訳なくて小さな声で呟いた後、少女を抱えていた男性とバッチリ目が合った。
 黒い緩やかなウェーブのかかった長い髪。黒を貴重とした衣装に身を包み、少女を支えるのとは逆の手に兜を被った白兎。更に肩には奇妙な色をしたキノコが大量に入った風呂敷を背負っている。


 ――――シオン・レ・ハイだ。


「…あなたは、どうしてここに…?」
 訝しげな声を発するエマに苦笑しながら、シオンは口を開く。
「悲鳴が聞こえて来ました。
 この子が言っていたセイレーンを追っていった女性というのは、あなたのことだったんですね」
「!! セイレーンのことを知ってるの!?」
 シオンの言葉に、エマは反射的に思い切り詰め寄る。
 エマの思わぬ反応にきょとんとしたシオンだったが、その言葉の意味することをなんとなく悟り、そっと呟く。



「…貴方も、セイレーンについて調べていらっしゃるのですね?」
「『貴方も』、ってことは…そっちも?」



 どうやら、エマは同じようにセイレーンのことを調べていたらしい。
 何が目的かは分からないが、見る限りでは、悪用しようなどとは考えていないだろう。
 お互いに顔を見合わせていると、エマが小さく溜息を吐く。



「…とりあえず、ここから離れましょう。
 近くの村で、この子の治療もしてもらわないといけないし、お互いに事情を話し合う必要もあるみたいだし、ね」



 その言葉に、シオンは否定する理由もなく、小さく頷いた。


**


 近くの村に戻ったエマとシオンは、村の中にある小さな酒場に座り、顔を突き合わせてお互いの事情を話し合っていた。
 ちなみにシオンは、盛大に腹の音を響かせたせいか、苦笑気味なエマによって食事を奢って貰っていた。
 今度は奇妙な形と恐ろしい形相をした魚のフライ定食だ。ところが見た目によらず意外と美味いらしく、シオンは嬉しそうに食べているが。
 ちなみにシオンの背負っていた奇妙な植物一式はほとんどエマの手によって処分された。どうやらほんの一割程度を除いて、全部毒キノコだったらしい。
 シオンは捨てられていくキノコに『あぁもったいない!!』と全力で身悶えしていたが、『命を捨てるつもりなの!?』とエマに叱られ、しゅんとして大人しく諦めた。
 よって、今彼の横に置かれている風呂敷は森の中にいた時の四分の一程度の膨らみにおさまっている。その隣ではウサギが興味深げに鼻をひくひくと動かしていた。


 一通りお互いの事情を話し合ったところで、エマがシオンから渡された情報が連ねられた紙を返す。


「…どうやら、集められた情報はお互いに大差ないみたいね。
 まぁ、シオンさんの方が直接被害者に聞けた分、セイレーン自体に関する情報は多いけど」
「ですね。
 シュラインさんの集めてくださった情報は、地図を探してから照らし合わせた方がよさそうです」
「そうね…」




 二人で集まった情報が書かれた紙をじっと見つめた後、同時に紙を纏めて立ち上がる。





「ここで紙とにらめっこしていても何も進まないわね。
 もう少し情報を集めるために、ジャンゴに戻って、知恵の環に行って調べましょう?」
「そうですね。
 あの女の子も、幸い命に関わる大ケガはしていないようですし、あとはここの人たちにお任せしましょう」
「ええ」







 ――――――そうして二人は同時に立ち上がり、ジャンゴに戻るため酒場を後にしたのだった。







 合流したエマとシオンは、ジャンゴに戻って知恵の環へ向かっていた。
 聞き込みで成果があがらなかった分、少しでもいいから関係した文献がないか探そうと思ったからだ。
 リアルタイムに刻まれていく情報の中に、セイレーンの情報が少しでもいいから入っていればなんとかなるかもしれない。
 そんな思いを抱きながら、エマとシオンは今後のことを話し合いながら知恵の環へ歩みを進めていた。



 暫く歩くと、ようやく知恵の環の入り口が見える。
 二人は少しだけ歩みを早めたところで―――ふと、入り口で話をしている二つの影を見つけた。



 一人は長い銀髪で、黒を基調としたどことなく民族衣装を思わせる衣装と、十字架を模した杖を持っている。
 後姿だからよくは分からないが、シルエットは男性のようだ。
 もう一人は小柄で、どこかおどおどした印象を受ける黒髪の少女―――女神の一人、ネヴァン。

 二人は話を終えたらしく、ネヴァンは男性に手を振ってそそくさとその場を立ち去った。
 その後姿を見送ってから、男性は背後から受ける視線に気づいたのか、ふと後ろを振り返る。




「――――セレスティさん?」
「おや。その声はシュラインさんですか?」




 その人物に見覚えのあるエマが声を上げると、男性の方も面白そうに青色の瞳を眇めて声を上げた。
 青年の名はセレスティ・カーニンガム。
 二人と同様に、此度のセイレーン事件を調べている人物であった。



◆知恵の環―不完全天使

「――まさか、貴方もセイレーンを追っているとは思わなかったわ」
「それは私も一緒ですよ」


 エマの言葉に、セレスティは小さく苦笑を零した。
 二人と同様に知恵の環に用があったらしいセレスティと一緒に中に入った三人。
 まずは落ち着いてお互いの事情を話し合っていたら、どうやら目的が同じらしいことが発覚。
 そしてそのまま一緒にセイレーンに関係する文献がないか探しながら、出来るだけ声を抑えて会話していた。

「しかし、やっぱり情報の書いてある本は中々見つかりませんねぇ…」

 本を食べようとするウサギを必死に止めながら、困ったように背表紙をチェックするシオン。
 そんなシオンに頷きながら、セレスティも困ったように呟いた。



「ええ。ネヴァン嬢に色々と聞いてみたのですが、あまり成果はあがりませんでしたし。
 この世界を一番よく知っている筈の女神にも把握しきれないということは、此処に明確なセイレーンの情報があることは、あまり期待しないほうがいいでしょう。
 せめて、事件の詳細が載っている本でも見つかればいいのですが…」



 その言葉に、エマも神妙な顔つきで頷く。


「そうね。とりあえず、事件に関する詳しい情報だけでも手に入れられれば…」






「――――探すにしても、探し方がそんなんじゃ、調べられる情報もタカが知れてるな」






 別の本に手を伸ばそうとしたエマの後ろから、唐突に現れた腕がエマの手の先の棚の真上にある棚から本を一冊抜き取る。
 驚いて三人が振り返ると、そこには浅黄色の『酒場の使い方』と書かれた本を肩に乗せて楽しそうに…というか意地悪そうに笑う、一人の青年の姿。
 その言葉に顔を顰めたエマが、少し不機嫌そうな声音でその青年の名を呟いた。



「…ヒスイさん…」



 その声に、名を呼ばれた青年――――ヒスイは、皮肉げに口元を歪める。
「くくっ、わざわざ『さん』付けで呼んでくれるなんて、丁寧だねぇ? シュライン殿?」
 へりくだったような言い方の中に多分に含まれたバカにするような響きに、エマが益々眉間に皺を寄せた。
 そんな二人の空気を知ってか知らずか、シオンが嬉しそうに声を上げる。



「ああ、ヒスイさんではありませんか!!
 先ほどはスパゲティを奢っていただいて有難う御座いました!!!」



 エマが顔を顰めているのもなんのその。
 勢いよく近寄り、がしっと両手を掴んで笑う。
 当然と言うかなんというか…そのリアクションは想定していなかったのか、ヒスイも驚いたように動きを止める。
 意外そうなエマの視線を受けても暫くは身動きを取らなかったヒスイは…唐突に、ぶふぅっ、と派手に噴出した。
 驚く三人をよそに、ヒスイは暫くの間肩を震わせ、声を殺して笑い続ける。
 三人の訝しげな視線をものともせず、ひとしきり笑いきったヒスイは、目尻を拭ってシオンを見た。


「ははは…! …シオン、あんたやっぱり面白いよ。
 うん、やっぱり俺の目は間違っちゃいなかった」


「…はぁ…ありがとう、ございます?」
 ヒスイの楽しそうな声に、現状を理解しきれていないシオンが、同じように間抜けな返事を返す。
 それにまたくつくつと面白そうに喉を鳴らすヒスイに、困ったように微笑んだセレスティが口を開く。





「それにしても…さっきの発言はどういう意味ですか?
 まるで、私達の探し方が悪いって言っていらっしゃるようですが…」





 その言葉に、ヒスイはバカにするように鼻を鳴らす。



「どういう意味もなにも、まんまその意味だよ。
 ……なにせ、この程度のものも見分けられないんだからな」



 そう言ったヒスイは、懐から静かに武器を取り出す。
 2本の平行したバーと、その間に渡された握りとなる2本の横木。握りが刃先に対して直角になっていて、刃は一本鋭いものが、カバーを被されていた。
 いわゆる、ジャマダハルという変わった武器だ。
 それを振ってカバーを外すと、ヒスイは持っていた本に刃を向ける。

「なっ!?
 ちょっ、ヒスイさん…っ!!」

 その行動にぎょっとしたエマたちが止めに入る間もなく、ヒスイは問答無用で本の表紙に武器を走らせた。
 ビィッ、と紙が切り裂かれるような音がして、表紙が切り裂かれる。




「な、なんてことを…!!」




 驚いたエマが大急ぎでヒスイから本を奪い取り、表紙を確認した。
 傷の度合いによっては、まだ修復することができるかもしれないと思ったからだ。
 しかしエマは表紙を見て―――大きく目を見開き、硬直した。



「…これは…」



 エマのただならぬ様子に、他の二人も異変を感じたのか彼女の持つ本を後ろから覗き込む。
 そして―――同じように、目を見開いた。





 エマの持っている本は、奇妙な状態になっていた。
 傷つけられた部分の周辺を、まるで壊れたデータが戻ろうとしているかのように虹色に変化する小さな欠片が漂う。
 緩やかに漂う欠片に覆われたその傷の下。
 本来ならば破れた紙片とただのページが見えているはずのそこには――――違う色の、『違う本の表紙』が覗いていた。
 破れた隙間から見える僅かな表紙にあるものを見つけ、エマははっとして目を見開く。






 ――――――スピネルカラーの髪のようなイラストと、漆黒の翼のようなイラストを。






 エマはそれが間違いないと確認すると、その表紙―――本を覆うカバーのその裂け目に手をかけ、一気に引き裂いた。
 ビリィッ!!!と大きな音が響いて、本のカバーがビリビリに引き裂かれた状態で宙を舞う。
 ぎょっとするセレスティとシオンをよそに、ヒスイは面白そうにヒュゥ、と口笛を鳴らし『やるねー』と呟いた。
 他の視線を気にしている余裕すらないのか、エマはまだへばりついているカバーを全て破り、その下にあった表紙を全て露にした。
 その表紙を見て、シオンとセレスティも目を見開く。




「……なるほど。…確かに、私達の探し方じゃ見つかるわけないわね……」




 苦々しげに呟くエマの言葉に、ヒスイは満足そうに笑う。
 その視線の先にあるのは―――エマの持つ、カバーを破り捨てた本。










 ―――――――――『不完全天使』という題名の、『セイレーン』と一人の少年が描かれた絵本だった。









***


おうじさまはてんしがだいすきでした。
てんしもおうじさまがだいすきでした。
ふたりはいつも、どこにいくのもいっしょ。
おうじさまも、てんしも、ひとりぼっちだったから、ひとりぼっちがふたりで、ひとりぼっちじゃなくなりました。
しあわせで、あたたかくて、やさしいひびでした。




――――――けれど、あるひ、おうじさまはびょうきにかかってしまいました。




ねむって、ねむって、ねむりつづけて。
しなないのに、めをさまさない。
いつおきるのかもわからない。
ただただ、しずかにねむりつづけるだけの、ふしぎなびょうき。

てんしはなきました。
おうじさまはめをさましません。
そのきれいなめでてんしをみることも、てんしのなまえをよぶことも、てんしにほほえみかけてくれることも、してくれないのです。
ないて、ないて、なきつづけて。
はるがきて、なつがきて、あきがきて。
ふゆがきたとき、ようやく、てんしはなきやみました。
ないても、おうじさまがめをさましてくれないことに、ようやくきづいたのです。
てんしは、なくのをやめて、おうじさまのすぐそばで、じっとおうじさまのねがおをながめるようになりました。
そうして、またたくさんのじかんがすぎたとき。





てんしは――――おうじさまがいっていたことをおもいだしました。





「ねえ、『―――』。ぼく…『―――』と『―――』だけじゃなくて、もっともっと、たくさんのおともだちがいたら。
 …きっと、いまよりもずっとたのしいんだろうね」



そのことばをおもいだして、てんしはあることをこころにきめました。









――――――おうじさまに、もっともっと、たくさんのおともだちをつくってあげよう。









そうして、てんしは、たくさんのおともだちをさがしにでかけました。
おうじさまがめをさましたとき、たくさんのおともだちがそばにいてくれれば、おうじさまはよろこんでくれる。
そうしんじて、てんしはおともだちをさがしつづけました。
おうじさまのために、ただひたすら、ともだちをさがしつづけて……。



◆謎のかけら。古の城。



「……話は、ここで終わってるみたいね」


 エマは最後のページを読み上げた後、溜息混じりに呟いて本を閉じた。
 それを黙って聞いていたセレスティが、思案顔で口を開く。

「…肝心の王子と天使の名前が掠れて隠されているのが、何かの鍵だと思われるのですが…」
「ええ。たとえ伝承をわざと残しても、名前だけは読まれたくなかったのかもしれないわね。
 こんなんじゃ、ほとんど記号か暗号か、って感じだもの」
 再度本を開いてかすれた上に滲んで字の形自体を判別することすら難しくなっている部分を指でなぞるエマ。
 それを見て、セレスティは隣に座る、面白そうにこちらの様子を見つめているヒスイに目を向けた。



「…ヒスイさん、ここのデータの修復をしていただくことはできますか?」



 ヒスイに関しての情報ならば現時点ではセレスティが一番持っている。
 ヒスイほどの腕前の持ち主なら、この文字のデータを修復することも可能かもしれない。
 そう思ったからこその一言だったのだが――ヒスイは、その言葉を鼻で笑って一蹴した。

「丁重にお断りさせていただくよ。
 そんなことしたら、簡単すぎて面白くないからな」
「なっ…! なんてこと言うのよ!!
 たくさんの人が犠牲になってるのに、『面白くないから』なんてくだらない理由で断るなんて…!!!」





「―――――俺にとっては、お前達の『人を助けたいから』って理由の方がくだらないね」





 ヒスイの言葉に激昂したエマが怒鳴り声を上げるが、静かな声に遮られて、エマは目を見開いて硬直した。
 今までのふざけたような表情が一変、冷たく、刺すような視線がディスプレイ越しからでもはっきりとわかるほどに、一気に声のトーンが下がる。
 驚いたような三人の視線を受けながら、ヒスイは皮肉げに口の端を持ち上げて頬杖をつき、顔を逸らす。


「俺にとって、『面白い』か『面白くない』かは、なによりも最優先すべきことなんだよ。
 俺は他人がどうこうなろうがこれっぽっちも困りはしないしな。
 セイレーンに連れてかれたヤツらがおかしい? 素晴らしい、そっちのが面白いじゃないか。
 『人を助けたい』なんて、所詮偽善者の考えることさ」
「な…っ!!」


 エマが怒りに任せて反論する前に、ヒスイはがたりと大きな音を立てて立ち上がる。
 三人の視線が集まるのも気にせず、ヒスイは静かに背を向けた。





「そういうわけで、俺は必要以上にあんたらに協力する気はこれっぽっちもない。
 俺が面白いと思った時だけ、あんた達に手を貸してやるよ」





 そう言って、ヒスイは歩き出す。
「ヒスイさ…っ」
「無駄よ、シオンさん。
 止めたって止まってくれるような人じゃないわ」
 シオンは止めようと椅子を立ちかけたが、エマに止められて大人しく椅子に戻る。
 そんなやりとりが聞こえていたのだろうか。
 ヒスイはくっと喉を鳴らすと、足を止めて緩く振り返る。





「――――――『歌』は『音』であるとは限らない。
 『灯台下暗し』。宝物は、案外わかりやすい場所に隠してあるモノさ」





「? それはいったい…」
「それ以上は自分で考えるんだな。…じゃあ、俺はこれで」


 訝しげな声を上げるエマの声を遮ると、ヒスイは片手を挙げて軽く振り、今度こそ振り返らずに立ち去っていった。
 その後姿を見送って、エマはがたりと音を立てて立ち上がった。
 シオンとセレスティの視線が集まっているのを確認して、エマは横に避けてあった地図を手に取る。
 ざっと広げると、どこからか取り出したペンを握り、フタをしたまま地図の上をこんこん、と叩く。



「彼には必要以上に頼らないほうがいいわ。蹴られるのがオチだからね。
 ここから先は私達でなんとかしましょう」



 エマの真剣な表情に、セレスティとシオンも真面目な顔をして頷く。
 エマは横に用意してあった自力で調べた資料と、セレスティが持っていた資料を引き寄せる。






「…あくまで私の予想なんだけど、セイレーン…天使は、王子の城からそんなに離れた行動範囲じゃないと思うの。
 あの絵本を読んで、その可能性が強くなったと私は思ってる。
 だから…」






 エマはそう呟きながらペンのフタを外し、資料と照らし合わせながら地図のセイレーン出現地点に×印をつけ始めた。
 全部の地点に×印を付け終わったところで、エマは長い定規を取り出して×印同士を繋いでいく。
 きゅっ、と音を立てて、全ての×印が繋ぎ終わると同時にペンにフタをして横に置き、エマが一点を指差す。
 二人が覗き込んだのを確認して、エマはゆっくりと口を開いた。





「――――――×印を繋いで行った中で、最も線が交わる場所が、一番怪しいと思う」






「……周辺の森がほぼ全て襲われているにも関わらず、わざとらしくこの森の中だけは襲われてませんね」
「では、ここにセイレーンが…?」
 セレスティが納得するように呟き、シオンが二人の顔を見る。
 その動きに、エマがこくりと頷いた。
「その可能性が一番高いと思うわ」
 それを見て、セレスティが唐突に席を立ち上がる。




「セイレーンに関しての資料は見つかりませんでしたが、この森の資料なら探せば見つかりそうですね。
 まだ時間はあることですし、ゆっくり探してみましょう」




 セレスティの言葉に、二人も真剣な表情で頷いて立ち上がった。
 そして一斉に、資料を探すために分かれる。







 ―――――――エマが指差した地点には、『獏の森』と書かれていた。







◆獏の森、降臨



 三人は、調べた森―――獏の森へとやってきていた。
 ちなみにシオンのウサギさんは危ないからと、偶然見つけた知り合いに預けておいた。



 その森は他の場所より閑散としており、何故か町の境目から一歩出て森の中へと入った時点から、既に動物の声どころか、気配すらもしなくなっている。
 明らかなまでの怪しさを醸し出す森に隠す気があるのかと疑いたい気分になりながらも、三人はエマの先導の下、奥へと進んでいく。

 目指す先は――地図で見つけた、事件の場所を伸ばした先が交わる場所。

 歩き続けるうち、セレスティがぴくりと眉を跳ねさせ、不意に立ち止まった。
「…どうしたの?」
 つられて立ち止まった二人から訝しげな視線を向けられて小さく苦笑しながらも、セレスティはふっと表情を引き締める。



「……この辺りから、変な気配を感じます。気をつけてください」



 その言葉に、エマとシオンはぴくりと反応し、同時にきゅっと口を引き結んだ。
 空気が、ぴん、と張り詰める。
 しぃ…んと鎮まったままの空間の中、三人は注意深く周囲を見渡しながら進んでいく。
 しばらくがさがさと草むらを掻き分けて進むと―――不意に、開けた場所に到着した。

 大きく広い円状に、草だけが広がる場所。
 そこには鳥も獣も、欠片も存在しない。

 三人は奇妙に感じながらも、恐らくここが目的地だと直感で感じていた。
 一歩一歩、確かめるように静かに歩く。
 緩やかに、しかししっかりと踏みしめたエマの足が、その円の縁に入り込む。






 ―――――――――足が地面に付いた時には、目の前には森が広がっていた。






「え…?」
 思わず声をあげると同時に、急に真横に気配が現れる。
 振り向くと、同じように呆然とした表情のセレスティとシオンが立っていた。
 その背後には――先ほども見た、薄緑の円。
 慌ててもう一度踏み込むと、やっぱり、また円の外へと足がついた。

「……どうなってるの?」

 エマが呆然と呟くと、セレスティが顎に手を当てて考え込む。
 少しの間を空けてから…すっと、目を細めた。



「おそらく結界の一種でしょう。この円の端と端が繋がっていて、その中には他人は決して踏み込めない。
 …どうやら、ここがセイレーンのアジトだと考えて間違いないでしょう」



 その言葉に、エマとシオンの表情が強張る。
「もしもこの結界に侵入者を探知する力も付加されていたとしたら、何かが襲い掛かってくるのも時間の問題かと」
「そう…それは厄介ね」
 付け足したセレスティの言葉にエマが顔を顰める。
 その様子を見ていたシオンは、ふと自分のポケットに手を突っ込んだ。



「あ、あの!!」



 急に声を上げたシオンに、エマとセレスティが驚いて彼を見る。
 シオンは少し引き攣った顔で笑うと、二人にあるものを差し出した。





 ――――――――――小さい、四センチ四方のチップ。





 二人の手にそのチップを半ば無理矢理握らせるシオン。
 訝しげな視線を受けて、困ったように頬を掻いた。


「えーっと…これは皆さんと合流する前にヒスイさんからいただいたものなんですが」
「「ヒスイさんから?」」


 シオンの言葉に、セレスティは驚いたように、エマは訝しげに顔を歪ませる。
 その二人の対照的な反応に苦笑しながら、シオンは言葉を紡ぐ。



「なんでも、ウィルスを無効化するチップだそうで。まぁきちんと効果が出るかどうかはランダムらしいのですが。
 えっと、持っているだけでも発動する時には自動的に発動するらしんですよね。
 それで、三枚もらったのでお二人にも一枚ずつ渡しておいた方が後々何かの役に立つかもしれないと思いまして…」



 そう言って自分の手元にあったチップを小さく弄ると、セレスティとエマが手の中のチップを見た。
 黒く艶のある小さな塊に、少々の疑念と、少々の胡散臭さを感じながらも、二人はそれを懐にしまう。
「まあ、期待しないで持っておくわ」
「発動してくれるなら、それに越したことはありませんしね」

 その返答に嬉しそうに笑ったシオンだったが―――すぐに、目を大きく見開く。

 少しだけ上に固定されたまま固まったシオンの視線にどうしたのかと二人が問いかけるその前に。
 はらり、はらりと、柔らかに降って来る。






 ――――――――それが黒い羽根だと認識する前に、バサリと大きな音を立てて、背後に気配が現れた。






「セッ…!!」
 セイレーン、と口にする前に、黒い翼が大きく羽ばたく。
 発生した大きな風に、三人は揃って吹き飛ばされた。
 不意を突いた攻撃に、対応するのが遅れてしまったのだ。
 地面に叩きつけられるのと同時に、森からわらわらとまるでウジが湧くかのように、モンスターが現れる。

「…どうやら、私達の推理は大当たりだったみたいね」

 エマの静かな声に、二人は小さく頷く。
 一斉に囲まれて、三人は思わず身構えた。


 …しかし、モンスターはゆらゆらと揺れて取り囲むだけで、攻撃をしかけてはこない。


 今まで手に入れた証言と同じ状況に、三人は体に力を入れる。
 迂闊に手を出せば、このモンスター達に袋叩きにされるだろう。
 かといって、このままではセイレーンに…。




 ――――――――その瞬間、耳に柔らかな旋律が届いた。




 うた。
 柔らかく、優しく、体中に染み渡るような。
 頭の中に響くような、そんな歌。
 聴覚が鋭いエマは、はっとして耳を塞ぐ。
 しかし歌はその手を通り抜けて、問答無用で頭に叩き込むように頭の中へ響いていく。
 次第に、歌の合間に、変な声が混ざってきた。
 おいで。おいで。おいで。
 歌の合間に、まるで誘うように混ざる声。
 あまりに優しい声音に、誘われる。
 頭の中が少しずつもやに覆われていくような感覚が、体を支配する。
 霞んでいく思考の中で存在を主張しているのは、ただ歌が綺麗だという思いと、進まなければという、思いだけ。



 少しだけ懐が暖かくなったような気がしたが…それは、すぐに消えた。



 ぼんやりと、一歩一歩、セイレーンへと近づいていく。
 近づく度に、誘うような声は一層強く、優しく、エマを甘く誘う。
 誰かが叫ぶような声が聞こえたような気がしたが、すぐに誘い声に掻き消されて消えた。





 ……とうとう、セイレーンの目の前に辿り着いてしまった。





 セイレーンが嬉しそうに歌い、微笑む。
 ふわりと黒い翼が動き、エマを囲うように動いた。
 エマはそれを受け入れるように、そっと瞳を閉じる。








 ――――――――――――自分の体を包み込んだその翼は、思っていたよりも、ずっと、柔らかくて温かかった。








◆狂気の糸

 柔らかな旋律。
 包み込むようなそれは、自分に向けられるものではない。
 ぼんやりとした頭をなんとか働かせ…エマは、もぞもぞと体を揺らそうとした。
 …しかし、体が動かない。背中の後ろで後ろにぴったりとつけられた腕は、糸のようなものでぐるぐる巻きにされていた。
 途中から記憶が無い。
 ただ印象に残っているのは、黒い、翼。
 ……セイレーンに、捕らえられたのだろうか。

 ぼんやりとそう思いながら、エマはそっと瞳を開いた。



 ―――――視界に入ったのは、目の前に存在する干からびた人のミイラ。



 思わず叫び声を上げそうになって、慌てて歯を食いしばり、なんとか吐息を漏らすだけに留める。
 ここはセイレーンの領域だ。
 迂闊に声をあげて、セイレーンに目をつけられてはたまらない。
 落ち着くために大きく深呼吸をしてから、素早く辺りを見渡した。
 セイレーンが近くにいないことを確認して、エマは落ち着くために一旦目を閉じた。

 なんとか少しだけ首を回せることを確認し、エマもう一度、今度は状況を把握するためにゆっくりと辺りを見渡す。



 自分の周りに、沢山の人が転がっていた。先攫われた女性も、近くに確認できた。
 中には白骨化していたり、目の前に居る者と同じようにミイラのようになっているものもいる。
 一ヶ月でここまでなってしまった人たちなのか、それとも、ここに用意されたプログラムの一種なのか。
 どちらなのかはわからないが、エマにとっては気味の悪いものでしかない。




 ――――――天井には、『繭』も大量にぶらさがっていた。




 その繭は時折脈動するように光り、眉の中の影を陰影で映し出す。
 その影は、人の形をしていた。
 ……もしかしたら、囚われた人たちの一部が、繭の中に閉じ込められているのかもしれない。


 エマはそこまで確認してから、歌声が流れる―――大きく開いた扉の向こうへ視線を向けた。


 薄暗い中、そこだけはやけに明るい。
 その中には、布に囲まれた大きな天蓋付きベッドと、セイレーンが笑いながら歌っていた。
 ベッドにはなにか楕円型のものがベッドの上を囲むように並べられ、セイレーンがそれを突きながら微笑む。



【おうじさまのおともだち。
 ほんとのおともだちじゃないけれど。
 おうじさまのおともだち、すこしだけ、おともだち。
 ひとりぼっちじゃないおうじさま。
 おうじさま、ひとりじゃないから、とってもしあわせ】



 セイレーンは嬉しそうに歌い、笑いながら、手に持った楕円型の物に頬を摺り寄せた。
 一瞬それにうまい具合に光りが当たり、楕円型の物の正体が照らされる。








 ―――――――――――――人の、生首。








 また、叫び声を上げそうになった。
 なんとか口を噤んで飲み込み、ばっと辺りを見渡す。


 ――――――転がった死体や繭の中の影の幾つかには、『首』にあたる部分が見あたらなかった。


 まさか、そんな、と、頭の中を混乱が埋め尽くす。
 「友達」の『首』を、王子様に捧げるために、飾り代わりに並べるなんて。










 ―――――――――――――なんて、狂っている。










 体中から血の気が引き、真っ青になった顔。
 唇を震わせ、エマは顔を顰め、目を閉じた。
 今の状況を見るに、自分やあの女性は、まだ首を取られたりはしないだろう。…多分、ではあるが。
 ならば、それまでの間に、少しでも体力を回復しておかなければ。脱出するために落ち着いておかなければ、ならない。
 エマは眉を寄せて唇を噛み締め、気を抜けば叫びそうになるのを必死に耐える。



 ――――――セイレーンの手に抱かれた顔の目が、血の涙を流していた。



***




 しばらく後、エマは翼を大きくはばたかせる音で目を覚ました。




 どうやら何時の間にか眠ってしまっていたらしい。
 緩やかに目を瞬かせていると、今度は音が断続的に耳に届く。
 ばさりばさりと大きく揺れる翼。撒き散る黒い羽根。
 …セイレーンが飛ぼうとしているのだ。

 目を開き、音の方向へ顔を向ける。
 セイレーンはこちらに背を向け、ばさばさと窓らしき場所からあっさりと飛び立っていってしまった。



 ――――――その直後に、エマの体が一気に楽になる。



 腕は未だに自由にならないものの、体を動かすことはたやすくなった。
 セイレーンがこの場から離れたせいかもしれないし、あの歌声が聞こえないからかもしれない。
 わからないが、今はとにかく起き上がることが先決だろう。
 エマはもぞもぞと体を動かし、なんとか起き上がる。
 そのまま倒れそうになりながらも必死で立ち上がり、セイレーンが飛び出した窓のあった場所まで駆け寄った。
 …しかし、セイレーンの姿が完全に窓から離れた瞬間、窓はまるでもとからそうであったかのように、壁になってうんともすんとも言わなくなっている。
 触っても、叩いてみても同じだ。かけらも動かない。


「……とにかく、少し歩き回ってみましょう」


 脱出の手段がすぐになくなってしまったことが悔しくはあったが、このままじっとしているわけにもいかない。
 もしかしたら他にも出口が見つかるかもしれないと、エマは意を決して歩き出した。


**


 腕を縛られているせいで、うまく歩けない。
 ほとんど壁によりかかるように進み、エマは城の中を歩いていた。


 とは言っても、あまり長い時間は歩いてはいられまい。
 セイレーンが帰って来た時に自分がいなかったら、怪しまれてしまう。
 追いかけられれば、今の自分の方が全てにおいて圧倒的に不利だ。




 ――城ならば、入り口は大体一番下にあるのがセオリーだろう。




 なければ急いで戻って、セイレーンが戻ってくる前に寝たフリをするしかない。
 またセイレーンが出て行けば、きっと自由に動けるはずだから。
 エマはそう思いながら、静かに歩いていく。
 ヒールが固い床を叩く音が連続する。
 エマは注意深く辺りを見渡しながら、少しずつ進んでいった。






 ――――――――すると、目の前に、大きな鉄の扉が現れる。






 見つけた、と喜んだエマは、時々こけそうになりながら、急いで扉へ近寄る。
 扉は硬く閉ざされているが、どこかに扉を開けるギミックのようなものがあるだろう。
 エマは扉に寄りかかって安堵の息を吐き、周りを見回す。


 ――――見つけた。


 扉の右奥に、レバーのようなもの。しかも、自分でも充分手が届く位置。
 エマは嬉々としてそのギミックに近寄り―――――四苦八苦しながら、レバーを降ろす。





 ――――――――――――ギギィ…と大きな音を立てて、重々しい扉がゆっくりと開いていった。





 人一人が通り抜けられる程度の隙間が出来たところで、エマは急いで走り抜ける。
 扉の向こうには、眩いほどの光が待ち構えていた。
 なんとか脱出できたと、エマはほっとしながら少しでも城から離れようと走っていく。
 現実で起こっている異常を、知る由もなく。
 ただ、脱出できるという喜びだけを、胸に抱いて。










 ――――――――エマの後姿が光の中に消えていった後の扉の向こう。人の形をした影が、その後姿を静かに見送っていた。











Next Story…?


◆登場人物(この物語に登場した人物の一覧)◆
 【整理番号/名前/性別/年齢/職業】

 【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
 【1833/セレスティ・カーニンガム/男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】
 【3356/シオン・レ・ハイ/男/42歳/びんぼーにん】

 【NPC/ヒスイ/男/??歳(外見年齢二十歳前後)/ハッカー】
 【NPC/ネヴァン/女/??歳(不明)/女神】

◆◇入手アイテム情報◇◆
 《ウィルス無効化チップ》
    文字通り持ち主に対するウィルス(白銀の姫内では持ち主に異常を与えるようなもの)攻撃を自動的に無効化する小型チップ。
    が、それは確実ではなく、発動しないこともあるため、頼るのは得策とはいえません。
    回数制限があり、三回使用すると自動的に消滅します。(この世界でのカウント:今回一回発動。残り二回)

◇◇ライター通信◇◇
 お待たせいたしました。白銀の姫クエストノベル第一弾、「Imperfect angel―不完全天使― 〜appearance〜」をお届けします。
 結構自分設定が散りばめられているので、「あれ、ここ違わね?」ってところは…見逃してやって下さい(爆)
 今回はお三方とも単独での御参加ということでしたので、三人でパーティーを組んでいただくことにしました。…いかがでしたでしょうか?
 また、いつものように個別9:共通1の割合で書いてますので、個別シーンが相変わらず多量です(ぇ)
 今回は一人ひとりにバラバラの情報を提供する形になっています。
 行動によって情報にバラツキがあるので、他の人のノベルも見て情報を集めて下さい。
 また、最後のシーンも二方それぞれに個別のシーンを用意しています。他の方のノベルを見て(一部PL情報扱いになりますが)情報を手に入れておくのもいいかと。
 あと、ヒスイは大分ひねくれてるというか…ものすっごい性格悪いですが、どうか大目に見てやって下さいませ…(苦笑)
 さらに知恵の環で立ち去り際に残していった言葉は、今回と次回共通のヒントのようなものになってます。
 まあ、正直な話無理に考えると逆にややこしくなるかもしれないんで、考えなくても問題ないですよ。ええ全然(ぇえ)
 セイレーンの住む古城があるであろう森を見つけることはできましたが、特殊なプログラムとウィルスでジャミングされており、入るには何か別の手段が必要になるようです。
 なにはともあれ、このどれくらい続くかわからないシリーズ、よろしければお付き合いお願い致します(ぺこり)

 エマ様:
    今回のクエストノベルへのご参加、どうも有難う御座いました。
    色々好き勝手な展開しちゃってますが…だ、大丈夫でしょうか?(汗)
    ヒスイの名前を知っているのは、セレスティ様から情報を聞いていたからです。
    個人的見解で、人の命よりも面白さを優先する相手は好きそうじゃないな、との思い込みから、ヒスイに対してはちょっとばかり非友好的です。
    まあ、あんなのじゃまず好きになれってのが無理な話だとは思…げふごふ(爆)
    序盤は変な女の子に絡まされてますが、これが今回のイベントを解決する上での重要なヒントになっています。
    色々と「おお、流石だっ!!」といった感じのプレイングをしていただいたので、ちょっとしたプレゼントだと思ってください。
    チップはもらえましたが、発動したものの効果発生は失敗したので誘拐されました(爆)
    最後はほんのりホラー風味ですが、書いててちょっぴり楽しかった場面だったりします(ぇ)
    とは言ってもまだまだ問題は山積みです。他の方のノベルを見て自分の現状を確認してみてください(爆)
    一応城から脱出はできましたが、次も同じ手段で脱出できるとは限りませんし、侵入する方法も不明なままです。頑張って調べてください。
    しかもお一人だけ色々と大変な状況に放り込まれてしまいましたが、頑張って下さい、エマ様!!(無茶苦茶)

 色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
 それでは、またお会いできることを願って。