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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部EX ハロウィン・パーティ



 提灯を持ってふわりふわりと浮いて散歩をしていた久遠桜はきょとんとする。
 街がなにやら騒がしい。
 不思議な格好をしている若者が多いのだ。
「あら? あそこも」
 わいわいと騒がしい三人組がいる。
 近づいていくと「あ」と声を出す。
 見たことがあるかもしれないと思ったら、その勘は当たった。
 高見沢朱理、一ノ瀬奈々子、薬師寺正太郎の三人だ。
「あらまあ、本日はなんの集まりをしてらっしゃいますの?」
「あれえ? 桜さんこんなとこでなにしてんのー?」
 おーいと両手を振る朱理。
 朱理は目の前に降り立った桜にニヤっと笑うと大声で言う。
「トリック・オア・トリート!」
「…………?」
 きょとん……とする桜の前で朱理が「ありゃあ?」と首を傾げた。
「とりっくおわとりいと……? どういう意味ですの?」
「トリックオアトリートだってばあ。なんかくれなきゃ悪さするぞって意味だね」
「はあ……」
 意味がわからない桜に、奈々子が説明する。
 今日はハロウィンというもので、オバケの仮装をする日だと。
「集まってちょっとしたパーティーをするんです。久遠さんもどうですか?」
「え? いいんですの? あ、和菓子でしたらすぐに作れますけど。お台所借りられれば」
「やったー!」と、朱理。
 それを聞いて桜は小さく笑う。
「その格好、皆さんとてもお似合いですわ」



 場所は秋築玲奈のマンションとなった。
「よ、ようこそ〜」
 少しだけ上ずった声で言った玲奈は、ぱちぱちと拍手を受けてしまって顔を赤らめる。
 玲奈は猫耳と猫の尻尾をつけたワーキャットだ。膝丈のスカートで動き易さを重視した衣服である。初めてのハロウィンなので、よくわからずに選んだのだが朱理が褒めてくれたので安心した。
 ミイラ男の格好の正太郎に、カボチャのお面を頭につけた半ズボン姿の朱理が何か耳打ちしている。
 広いつばの帽子をかぶった魔女姿の奈々子は異様なほど似合っている。本当に魔法を使いそうだ。
「でも具体的にはなにをされるのかしら」
 困ったように周囲を見回しているのは半透明の女性だ。幽霊の桜である。
「いつもいつも怪奇的なものに脅されているので、今回は私たちがオバケになって仕返しって感じですから」
「はあ……。具体的には?」
「なにもしません。騒ぐのが目的ですからね……」
 半眼の奈々子の視線の先には、にやにや笑っている朱理と、困ったように「えー」とぼやいている正太郎がいる。
 吸血鬼姿の諏訪海月は持ってきた料理をテーブルに並べていた。
(ふふっ。かなりの自信作だぞ)
 胸を張りたいところだが、それはしない。
「あっ、手伝います!」
 慌てて駆け寄ってくる玲奈が、海月を手伝って並べていく。
「美味しそう……」
 ぽろっと洩らした玲奈の言葉に海月が手を止めた。ハッとして玲奈は困ったような笑いを浮かべる。
「そう思うか?」
「え。お。思いますけど」
「そうか……」
 なぜか頷いている海月に玲奈は首を傾げた。
 かぼちゃのシフォンケーキは後で出そうと思っていた海月は笑みを浮かべる。これはかなり喜んでもらえそうだ。そんな気がしてきた。
 カップを置く玲奈が「うわあ」と声を出す。シチューのパイ包みだ。
 カボチャを出した海月に、玲奈は尋ねる。
「それは?」
「これは中にご飯が入ってるんだ」
「! こ、凝ってる!」
「そうか?」
 褒められて悪い気はしない。海月はカボチャをテーブルの中央にどんと置いた。
 あの三人組が買ってきたポテトなどの類いも並べてさて、食事開始だ。
 海月は声をかけようとして「あれ?」と思う。なんだか人数が足りない気がする。
 楽しく喋っていた桜と奈々子に声をかけた。
「朱理と正太郎はどうした?」
「あれ? そういえばどこに?」
 一人ならトイレということも考えられるが二人一緒にというのは変だ。
 瞬間、部屋の電気が全部消えた。
 びくっとして動きを止める全員。
「あらあら〜」
 のんびりとした声を出す桜だけはぼんやりと光っているので、照らされている奈々子の横顔が微妙に浮かび上がって見えた。
「停電……?」と、玲奈。
 刹那。
 部屋の中でぽっ、ぽっ、と小さな火の玉が浮かび上がる。
 全員が完全に硬直した。
「く、久遠さん!?」
「あら。他にだれかいたのかしら?」
 奈々子が青ざめる。桜のしわざかと思っていたのだが違うようだ。
 海月は顔をしかめる。
 火の玉は次々と浮かび、そして消えていく。
 玲奈は不思議そうにする。霊気などは感じないからだ。
 ブレーカーが落ちたのではないかということで桜はふわふわと浮いて部屋から出ていってしまう。
 暗闇の中で海月は口を開いた。いや、開こうとしたのだ。
 ひやりと、玲奈の首に冷たいものが当たる。同時に奈々子の首にも。
「いやああああああああああああああああっっ!」
 咄嗟のことで玲奈と奈々子は心構えもできなかったので悲鳴をあげてしまった。
 部屋をびりびりと震えさせた悲鳴のあと、奈々子は両手を振り回す。ごん、と何かに当たった。
「ぶっ!」
 という声と共にボッ、と部屋に大きな火の玉が出た。
 それに対してまた奈々子が大声で悲鳴をあげる。かくんと力が抜けた奈々子は気絶してしまった。
 海月は嘆息してぐいっと何かを摘んだ。それは襟だ。
「正太郎?」
「う……」
 見えないのに、という反応をする相手。
 パッと部屋に電気がついた。
 やはりだ。海月が捕まえたのは正太郎で、奈々子に殴られてうずくまっているのは朱理だ。
 朱理と正太郎の手にはこんにゃくがある。
「あーっ! ひどい!」
 玲奈の非難に正太郎が「ごめんね」と弱々しく声を出して謝った。
「ブレーカーは落ちてませんでした。普通にスイッチが切れていただけで……あら? どうされたんです?」
 きょとんとする桜は戻ってきて見た光景にハテナマークをぽこぽこと浮かべる。



 真相はこうだ。
「みんなを驚かそう。せっかくのハロウィンだし。うしし」
「えー。やだよボク」
「なにがヤダだ。いっつもビクビクしてんだから、たまには皆をびくびくさせてやりなよ」
「なにそれえ? ワケわかんないよ朱理さん」
「いいのいいの。こんにゃく買ってきたからさ、これでさ。むふふ」
「…………さっきから笑い声がオッサンくさいよ」
 電気のスイッチを切って、それぞれこんにゃくを持つ。
 発火能力のある朱理が小細工のように火の玉を発生させ、そちらに目がいっている間に玲奈と奈々子の近くまで忍びより……。
 ということらしい。
 朱理の頭の上にはコブが五つくらい重なってできており、痛々しい。その横に座る正太郎の頭にも三つほどコブがある。
「まったく! なに考えてんですか、あなたたちは!」
 鬼のごとき顔で怒る奈々子に、朱理と正太郎は正座のままでおとなしく俯いていた。
 正太郎の霊力をもらって実体化した桜は食事をしている。玲奈と海月もだ。
「美味しい。ハイカラな食事ねぇ」
 ふふっと笑う桜。
 玲奈も絶品の料理に瞳を輝かせている。
「美味しい! すごい!」
「どうも」
 海月も自分の料理の出来栄えに満足そうだ。
 朱理の腹部からは空腹を訴える音が響く。
「うぅ。おなかへった……」
 それはそうだろう。目の前で美味しそうな料理のにおいと食事の音をさせられてはたまったものではない。
「朱理っ!」
「ひえっ!」
「自分の能力をイタズラに使った罰です! 食事は抜き!」
「ええええー!」
 悲痛な声をあげる朱理。
 奈々子は正太郎を引っ張りあげると食事に行ってしまう。残された朱理は「あうあう」と口を開閉させていたが、なにも言えないようだ。
 テーブルについた奈々子と正太郎を三人は見る。
「奈々子も許してやればいいのに。そんなに怒るほどでもないだろ」
「諏訪さんは甘いです! あの子はこれくらい怒られてちょうどいいんです!」
「でも……あんなに悲しそうに見てたら、可哀想だよ」
 ちらちらと正座のままの朱理をうかがう玲奈。
 桜も微笑む。
「そうよ。もう十分反省したんじゃないかしら」
 三人に言われて奈々子はチラっと朱理を見遣る。朱理は大きな溜息をついていた。

 奈々子のお許しをもらって朱理はテーブルにつく。
「今度やったら顔が変形するくらい平手打ちしてあげますから」
 という言葉でなんとか許してもらったのである。
 がつがつと料理を食べる朱理は美味しそうに頬張っていた。
「急いで食べると喉を詰まらせるぞ」
 海月が心配そうにうかがう。



 食べ終えて全員がベランダに出た。少し狭い感じがする。
 星空が遠い。けれども綺麗に見えた。
「こんな格好でベランダ出て……。通報されなきゃいいけど……」
 正太郎の心配に桜がくすくす笑う。本当に彼は心配性というか。
 なにをするんだろうという顔をしている玲奈の横で、朱理が「ふっ」と軽く息を吐き出す。
 彼女の吐息は火の玉となって出現し、消えた。間近で見るとなかなか面白い。
「すごいね。それ、どうやってるの?」
「え? あー……適当かな?」
 にやっと笑う朱理は、奈々子に後頭部をどつかれて「いって」と洩らす。
 カボチャのランタンを持ってきた海月がひょいとベランダに並べた。
「あ、い、う、え、お」
 わけのわからない掛け声でランタンを次々指差す朱理。だが指差した順番にランタンに火が灯る。
 まるでマジックだ。
「まあ綺麗」
 桜がぱちぱちと小さく拍手した。
 小さな明かりは弱いものだが、それでもとても頼もしい。
「あっ。流れ星!」
 玲奈が指差した空。
 全員がそちらを見遣る。
 空はただちかちかと、小さな灯火を輝かせているだけ――――。
「じゃあデザート食べるか」
 そう言いだした海月の言葉に朱理が「やったー!」と声をあげた。
 どやどやと全員が部屋に戻っていく。
「デザートってなんですか?」
「カボチャのシフォンケーキだ」
「あらあら。美味しそうね」
「久遠さんの作った栗金時と茶巾絞りもありますよ。楽しみですね〜」
 奈々子と海月、桜が先に入っていった後に玲奈が続く。
「あれだね。ハロウィンだね。ほら、お菓子もらうし」
「じゃあもうイタズラできないね、朱理さん」
「あちゃー。そうか」
 玲奈と朱理が笑いながら部屋に入った。
 残された正太郎は明かりを宿すカボチャのランタンを見遣ってそれに息を吹きかける。明かりが消えた。
「これでオバケを追い払えるのかな……ほんとに」
 後で片付けようと思って彼は室内へと足を踏み入れた。
 空では星が、静かに――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4766/秋築・玲奈(あきつき・れな)/女/15/高校一年生】
【3604/諏訪・海月(すわ・かげつ)/男/20/ハッカー&万屋、トランスのメンバー】
【3364/久遠・桜(くおん・さくら)/女/35/幽霊】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、久遠様。ライターのともやいずみです。
 霊現象はありませんが楽しく食事をさせていただきました。茶巾絞りと栗金時、ありがとうございます。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。