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サンタクロースの贈り物〜信じる心〜
【オープニング】
「Oh。今年もワタシたちがイチバン忙しい時期がやってきたネ!」
怪しい言葉づかいでるんるんと机に向かうは、赤く暖かそうな服装、赤い帽子――白いひげ。
サンタクロース……であるらしい。
「そうだネ☆ ボクたちもガンバらなくっちゃ、ダネ!」
おじいさんサンタの傍らに、小さな子供。こちらも赤い服装に、白いつけひげ。
見習い孫サンタである。
「ホラ、これをごらんお前。これが今年ワタシたちをお待ちのお客様リストだヨ」
おじいさんサンタは、束になった紙を孫サンタに見せた。孫サンタは嬉々としてそれをめくっていく。
「いっぱいだネ☆」
「そうとも。今年も忙しくなるネ」
そしておじいさんサンタは、優しい目をしてそっと孫に言った。
「いいかいお前。ワタシたちが届けるのは――ただの贈り物じゃナイ。心を、届けなくちゃダメだってことを、忘れるんじゃナイぞ?」
孫サンタは元気な顔で、「ハイっ☆」と大きくうなずいた。
【信じる心】
♪サンタクロースがやってくる……
街角でそんな歌を口ずさんでいる子供がいた。
それを聞いて、ふんと鼻を鳴らす少年がひとり……
門屋将紀 (かどや・まさき)、八歳。小学生である彼の、いつもは元気で明るく愛想のいい顔が、今日に限っては不機嫌そうにむっつりとしていた。
「サンタさん、何くれるかなあ?」
通りすぎていった子供が、母親にそんなことを尋ねている。
弾んだ口調。サンタクロースがいることを信じきっている口調。
「……アホちゃうか」
将紀はむすりとつぶやいた。
「サンタさんなんかおるわけないやろ。お父ちゃんかお母ちゃんのどっちかやって、ボク知っとる」
真冬の空の下、買い物袋をさげて将紀は家路についていた。
街はクリスマス一色。
あちこちでクリスマスソングが鳴り響く。
♪サンタクロースがやってくる……
「おるわけないやろ」
将紀は再度つぶやいた。
サンタクロースの存在なんて、かけらも信じちゃいない。いるわけがない。
……まして、両親が離婚し父がおらず、母は海外出張中の自分のところに来るわけがない。
「来るわけないやんか……」
立ち止まって見上げる先。今、自分が居候している叔父の家が見える。
♪サンタクロースがやってくる……
「………」
叔父の家の窓を見上げて、将紀はぽつりとつぶやいた。
「でも……ほんまにおるんやったら……会うてみたいなぁ」
そうしたら、今年もクリスマスが寂しい日だなんて思わなくて済む。そう、思って。
■□■□■
冬の夜。叔父と一緒に寝ているわけではないから、将紀はひとりきりで布団にもぐりこんでいた。
寒くて暗い部屋で。
彼は、寝たふりをしていた。
――どうしてそんなことをしたのか、自分でも分からなかったのだけれど……
かたり……
物音がした。
将紀は布団の中で、びくっと体を震わせた。
しーっ
静かにしろのサインを、誰かがしている。
「起こしちゃダメネ……そっと歩くんだヨ、お前」
「はいっ☆ おじいちゃん」
――まさか?
――まさか!
将紀はがばっと跳ね起きた。
ぱっと部屋の電気をつけ、物音のした場所を見つめる。
そこに、驚いたような表情で、二人の人物が硬直していた。
赤いあったかそうな服。白いわたのついた赤い帽子。肩にかついだ大きな荷物に、白いひげのおじいさん……
隣にいたのは、将紀より少し歳下ほどに見える少年だ。おじいさんと同じような服装をしていて、白いつけヒゲをしている。
「うわ! サンタさん、ほんまにおったんや!」
将紀は興奮して頬を真っ赤に染めた。「お話どおりのおじいさんや! そこの子は誰? え? 孫!? サンタさんにも孫おったんか」
いた、いた、本当にいた……!
仰天しすぎて、何が何だか分からない。おとぎ話どおりの姿のおじいさんに、孫と名乗る子供まで! もう、本当に何に驚いていいのかさっぱり分からない。
嬉しすぎて、何を言っていいのか分からない。
でも、でもやっぱり本物だろうか? これはただの夢かもしれない。夢かも――
「Oh。落ち着くネ、ボウヤ」
おじいさんサンタが穏やかに言って、呼吸まで荒くなった将紀の頭をそっとなでた。
「ワタシたちは、本物のサンタクロース。そう、間違いなくネ」
「そうだよっ☆ 信じてネ☆」
六、七歳ほどに見える孫サンタはにっこり笑って、将紀の顔をのぞきこんだ。
きらきらと星が見える、きれな瞳だった。
本物だ。おじいさんの優しい声と、孫のきれいな瞳に、将紀の疑う気持ちなんかどこかに吹っ飛んでしまった。
「あ、あんな……」
将紀はがらにもなくもじもじしながら「ボク、欲しいものあるんやけど……」
最後まで言い終わる前に、
「はいっ☆ プレゼントだよっ☆」
孫サンタが、ひょいと将紀の前に何かを差し出した。
赤と緑のクリスマス色の包装紙に、金色のリボンでラッピングした、四角い箱……
「………っ!」
将紀はものすごい勢いでリボンをほどき、包装紙を破って広げた。
中は白い箱。おそるおそるあけてみると――
「……うわあ……っ!」
将紀は大声をあげた。
箱の中におさまっていたのは、小さなブタさん貯金箱だった。
「ど、どうして分かったん!? これや! ボクが欲しかったんわ。おおきに、おおきに……!」
弾んだ声でそう言いながら、将紀はその小さな貯金箱を、元から宝物だったブタ貯金箱・ふくざわさんDXの横に置いた。
サイズ違いの貯金箱は、何だかとてもお似合いだった。
「これでふくざわさんDXにお友達でけたわ……」
感激もひとしおの声でつぶやき。
「そのもうひとつのチョキンバコも、かわいいねっ☆」
「それはボウヤの宝物だったのだろう? グレイトネ」
並んだ貯金箱を将紀の後ろで満足そうに眺める気配がする。
将紀は振り向いた。
彼の瞳は、孫サンタに負けていないくらいに、輝いていた。
「サンタさんたち、大好きやっ!」
おおはしゃぎで二人に抱きつく。
サンタの赤い服は、とてもあたたかかった。
「わーい☆」
と喜ぶ孫サンタの声が、無性に胸の奥に響く。
「ボウヤ」
おじいさんサンタの呼ぶ声がする。
抱きついたまま顔をあげると、優しい白ヒゲのおじいさんは穏やかに微笑んだ。
「たまには、信じてみるのもいい……そう思うだろう?」
「………」
ほんの十数分前まで、サンタを信じていなかった自分……
それを思い出し、将紀は抱きつくのをやめて、まじまじと二人のサンタクロースを見つめる。
「そうや……ボクだけちゃうで。信じてない人、きっとたくさんおる……」
それでもいいんか?――将紀は信じていなかったことをとても申し訳なく思うとともに、尋ねてみた。
おじいさんサンタは、ゆっくりと首を振った。
「我々自身を信じる信じないは関係ないヨ、ボウヤ。ただね、プレゼントをもらって喜んでくれればそれでいいと思っているんだ。でも……我々の存在を信じていないから、プレゼントをもらっても喜ばない人もイル」
――どうせ両親からだと思っているから、冷めた気持ちで受け取る人もいる。
「あのねっ☆」
孫サンタが嬉しそうに、将紀に抱きついた。「僕は、僕を知ってくれて、嬉しいなっ☆」
「………」
――サンタクロースは、陰で人を喜ばすもの……
それでも、本当は知ってほしいと、思っているのだろうか。
将紀は、「ほんま、許してな……」とつぶやいた。
「ボク、信じとらんかった。サンタクロース信じとらんかった。でも今日からは信じるで! みんなにも『サンタクロースは本当におる』ってゆったる! 笑われても平気や、だって目の前にいるんやもんな!」
「わあ☆ マサキお兄ちゃん、ありがとねっ☆」
いつの間にか名前まで知っている孫サンタが、将紀にぎゅうと抱きつく。
将紀もぎゅうと抱きしめ返した。
孫サンタは、かわいくてあったかかった。
「さて……そろそろ次のお客様のところへ行かなくてはネ」
おじいさんサンタがそっと孫の肩に手を置く。
「もうちょっとマサキお兄ちゃんといたいよう☆」
「こらこら。まだお客様はたくさんいるんだヨ」
しぶしぶ孫サンタは将紀から離れた。
とたんに、将紀は寂しい気持ちに襲われた。
「また……来年も来てくれるんか?」
窓から出て行こうとする二人に、問う。
二人は振り向いて、にっこり笑った。
「ボウヤが信じていてくれれば、もちろんネ」
「信じるとね、プレゼントの喜びアップ☆ するんだよ☆」
そう言って、
「それではボウヤ、また来年」
サンタクロースたちは姿を消した。
「………」
――信じるとね、プレゼントの喜びアップするんだよ……
「せやな。ほんとや……」
新しく増えたブタ貯金箱を見つめているうちに、将紀の顔に自然と笑みが広がっていく。
「よっしゃ! 明日はみんなに自慢したるでぇ」
楽しい気分が消えなかった。
信じていなかったものを、信じさせてくれた。
信じるだけで。喜びは倍増した。
――この信じさせてくれたことこそが、本当のプレゼント?
「おおきに、サンタさん……」
窓の外の夜空を見上げて、将紀はつぶやいた。
しゃんしゃんしゃん……と、ソリの鈴の音が、遠く――聞こえた気がした。
【END】
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★ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ★
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2371/門屋・将紀/男性/8歳/小学生】
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■ ライター通信 ■
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門屋将紀様
初めまして。ライターの笠城夢斗です。
このたびはクリスマスイベントに参加してくださり、ありがとうございました!
プレゼントの指定がなんともかわいく、将紀くん自身もかわいく、とても書いていて楽しい気分になりました。
プレゼント、貯金箱ペアで大切にしてやってください(笑)
またお会いできる日を願って……
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