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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


三下君バイト物語 〜結成してみる?〜 『バンド編』


□オープニング□

 『癒してあげる』
   『君の心を』
 『歌ってあげる』
   『君のために』
 『ほら、笑って?』

 そんなテロップが流れた後で、癒し系の音楽が流れ出す。
 映像は・・どこかの森だろうか?緑の木々の間からは、キラキラと木漏れ日が散っている。

 『乾いた時は・・・』

 突然森林の中に、ペットボトルが出現し、クルクルと回る・・・。
 けれどそれは滑稽な映像ではなくて、何故かふっと見入ってしまうような映像だった。

 『リアル・クール』

 ぱっと、森林が消えたかと思うと、真っ暗な画面の右下になにやら細々と小さな白い文字が現れた。

 『12月24日“Cool Freedom”発進』


 碇 麗香はそこまで見ると、ブツリとテレビの電源を落とした。持っていたリモコンを、乱暴にデスクに置く。
 「・・・で?」
 「は・・・はははははひ・・・・。」
 オドオドしながら、視線を宙にさまよわせているのは三下忠雄。持っていたハンカチは、彼の汗を吸収してしっとりと濡れている。
 「あ・・あああああの・・あのですね・・。昨夜・・刈谷崎・・先生からお・・おおお電話が・・ごございまして・・。」
 “刈谷崎”その名前をきいて、麗香の視線が更に鋭くなる。
 世界的なデザイナーの刈谷崎明美のファッションショーを、少しばかりお手伝いしたのはつい先日。それが上手く行ったら、明美にインタビューを出来るはずだった。
 そう。出来る・・“はず”だったのだ・・。
 「それで?」
 「で・・ですね・・。その・・前回・・その・・失敗・・と申しますか・・え〜っと・・・。」
 「知ってる。で?」
 「あ・・あの・・そのですね・・あの〜・・・。」
 「・・・いいから、さっさと言いなさいっ!」
 思わず声を荒げた麗香に、三下はビクっと肩を上下させると、シャキシャキとした口調で話し始めた。
 「前回インタビューの方は白紙になってしまったのですが、今回またお手伝いをしてくださって、このお仕事が成功したさいにはインタビューをお受けしようと思いますと言う、刈谷崎先生直々の申し出があったのですが・・・。」
 「それが、どうしてコレなの?」
 麗香はデスクに置かれた書類をバンバン叩いた。その書類の中央には、先ほどテレビで宣伝していた清涼飲料水のボトルがデカデカと印刷してある。
 「そのですね。最初・・お願いしていたバンドのメンバーが・・突然キャンセルをしてしまいまして・・その・・穴埋めを探しているようなのですが・・・。」
 「それで、そのバンドのメンバーを集めて欲しいのね?」
 「は・・・はい・・・。」
 「うちは人材派遣会社じゃないのよ〜っ!!」
 麗香はそう叫んで立ち上がった。椅子が思い切り後ろに下がり、壁にぶつかって派手な音を上げる。
 「・・ひぃっ・・!」
 「バンド名は“Cool Freedom”曲名は未定。癒し系の音楽・・・。顔は出さない・・あくまで、声とシルエットだけの活動。」
 「は・・はひ・・。」
 目が据わったまま、じとりと三下を見つめる。思わず走って逃げ出したい衝動を、三下は必死にこらえていた。
 もし貴方が山で熊と遭遇したとしましょう。走って逃げるのは危険です。逃げるものを追いたくなる衝動は、人にだってあります。
 この場合に、その例えがどれほど合致するのかどうかはひとまず置いておくとして・・逃げたら確実に“何かが起きる”のは必死だ。
 「“Cool Freedom”としての曲が1つと、ソロでの曲が1つ。一人2曲・・ね。」
 そう呟くと、麗香はにこりと微笑んだ。
 「解ったわ。さんしたクン・・・。見つけてあげる。」
 「ほ・・本当ですか〜!?」
 「ただぁしっ!!今度ヘマしたら・・・。」
 鋭い視線が三下を射抜いた。まさに、蛇に睨まれた蛙・・絶体絶命だ・・。
 「それじゃぁ、ちょっとそこの子達!でかい網かなんか持ってきて!さて・・と。誰が引っかかるかしら〜?」
 麗香の命令で、アトラス編集部の出入り口には巨大な網がかけられていた・・・。


■加藤 忍■

 風の便りで耳にした。あの後の三下の身に起こった出来事に、忍はほんの少し気にかかっていた。
 その後の三下の処遇が気になり、そっと窓からアトラス編集部へと――なんだかドアのところに巨大な網が張ってあるが・・・。
 「あ、丁度良い所に・・・!」
 忍の姿を目に留めた麗香がそう言って、パタパタと走ってくる。
 「これは窓から失敬。それにしても、あの網は?」
 「捕獲用なのよ。ちょっと、手伝って欲しい事があって・・・人をさがしてるの。」
 言葉の綾で網を張るとあるが、本当に張ってしまうとは・・・流石は麗香と言うかなんと言うかである。
 「実はね、かくかくしかじかで・・・」
 麗香が事の発端を話しだし、デスクの上に置かれた書類を忍に手渡す。
 清涼飲料水のボトルが中央にデカデカと印刷してある書類に、目を通す・・・。
 「でね、メンバーをさがしてるんだけど。」
 「解りました。私の責任もありますので、お手伝いさせて下さい。」
 忍はそう言うと、ペコリと頭を下げた。
 「そう?でも、助かるわ〜・・・。」
 麗香がそう言って、にっこりと微笑んだ。
 音楽は人並みではあるが、前回のように素晴しい先生(?)のもとで、また頑張ってみようではないか。
 忍はそう思うと、麗香に微笑み返した・・・。


□レッスンの時間□

 「さぁさぁ、みなさ〜ん、一列に並んでねぇ〜ん!」
 パンパンと、大きな音で手を叩く。
 「はぁ〜い、初めましてぇ〜。ジュリーって言いまぁ〜す☆今日はぁ、歌のレッスンをしまぁすっ。もう、曲と歌詞は出来てるからぁん、すぐに本番に行かなくちゃならなくってぇん、時間もないけれどぉ、みんなの歌唱力を信じてビッシバシ行くからねぇ〜ん。覚悟、しといてよぉ〜ん☆んじゃぁ、まずは、メンバーを紹介しちゃうわねぇん♪」
 筋肉隆々、金髪で濃い目の顔のジュリー(自称)はそう言うと、脇においてあった鞄から紙の束を取り出した。
 サァ・・・っと、顔色が悪くなったのは、ゼハールを除く残り3人だ。
 まるで悪夢を見ているかのように、真っ青に染まった顔は、痛々しいまでだった。
 「それじゃぁん、そっちの可愛い子がぁん、ゼハールちゃん。メンバー名はぁ【ニブルヘイム】ねぇん。」
 「宜しくお願いいたします。」
 金色の髪をサラサラと揺らしながら丁寧に頭を下げたゼハール。愛らしい少女の顔が僅かに笑む。
 「それでぇん、そっちの・・・って、あらぁ〜ん。みんな、またこの私に会いたくって来てくれたのぉん??」
 ジュリーがそう言ってニコニコと微笑む。
 ・・・決してそう言うつもりでここに立ってるわけではないのだが・・・。
 「ま、感動の再会は後にしてぇ、そっちの綺麗な男のこがぁ、桐生 暁ちゃん。メンバー名はぁ【アキ】ねぇん。」
 「よ・・・宜しくお願いします。」
 引きつり笑顔で暁はそう言うと、ペコリと頭を下げた。
 前回モデルをした時に、ウォーキングとポージングのレッスンをしてくれたジュリーちゃんが、一体何故、この場にいるのかさっぱり解らない。
 「次がぁ〜、そっちのぉ、カッコイー男のこがぁ、加藤 忍ちゃん。メンバー名はぁ【夜風(ナイト ウィンド)】ねぇん。」
 「今回も宜しくお願いします。」
 忍はそう言うと、丁寧に頭を下げた。とりあえず、再びジュリーと組む事になろうとは・・・夢にも思っていなかったとはこの事だろう。
 「最後にぃ、そっちのぉ、元気っ子っぽい子がぁん、梧 北斗ちゃぁん。メンバー名はぁ【ホクト】ねぇん。」
 ジュリーのねちっこい視線が北斗の体を行ったり来たりする。頭からつま先までを眺められて、北斗は冷や汗をかいていた。
 「よろしく・・・」
 やっとの思いで頭を下げると、北斗は思いきり視線を明後日の方向に飛ばした。
 「これからはぁ、みんなメンバー名で呼ぶのよぉ〜!それじゃぁ、まずはニブルヘイムちゃんからぁ、ブースに入ってぇ〜。」
 ジュリーに促されて、ゼハールはスタジオ=ブースに入った。
 ベッドホンをつけ、丸く大きなマイクの目の前に立つ。
 「言っておくけど、これが本番の曲じゃないからねぇん。あくまで、皆の今の歌唱力を見るためだけよぉん。」
 そう言って、ジュリーが何かのボタンをポチっと押した。


  揺らめく世界     感じて永久に
  もしも願いが叶うなら 永遠に変わらない世界
  終わる事の無い    この楽園で
  君は今何を思う    この空の下


 ヴィジュアル系に近いそのサウンドを、1回聞いた後に、ゼハールが歌いだす。
 狂いの無い音は、まさに完璧だった。綺麗な歌声がマイクを通してこちらにも響く――。
 「ねね、ジュリーちゃん、俺らもこの曲なの?」
 暁の質問に、ジュリーはただ首を振った。
 「みんなそれぞれに合いそうな曲を選んでおいたから、大丈夫よぉん。」
 にっこりと微笑み――その時、ゼハールがブースから出て来た。
 「後は、もっと感情移入をすれば完璧よ。それじゃぁ、次はアキ!入って〜!」
 ジュリーがゼハールにそう助言をし、暁の背中をブースへと押す。
 暁がスタンバイをして・・・ジュリーが先ほどとは違うボタンを押した。


  もう逢えないと知って それでも夢を見た
  淡い思い出ならば   いっそ消え去って
  辛い痛みを      楽にしてしまえば
  この星空の下で    微笑んでいられるのに


 バラード調のゆるやかとしたサウンドを、1回だけ聞くと暁は歌い始めた。
 テノールとアルトの中間のような、綺麗な声だった。別段女性的な声と言うわけではなかったが――。
 「ふぅん、音域は中々広いわね。」
 暁がブースから出て来た。髪の毛をくしゃりといじりながら、じっとジュリーの言葉を待つ。
 「アキは低い音をもう少し練習しましょう。せっかく音域は良いんだから。それじゃ次は夜風!入って。」
 忍がブースに入り、スタンバイをする。それを確認した後で、ジュリーはボタンを押した。


  教えてください  この世の善を
  全ての物事を司る 時の支配者よ
  この世の悪を   教えてください
  対の概念が    きっと善だから・・・


 低音のその曲を、1回聞いた後に忍は難なく歌いこなした。
 低く響くその声は、周囲の空気を引き連れながら振動する。甘く深く、思わず惹き込まれるほどに――。
 「中々素敵な声じゃない。」
 忍がブースから出てくると、ジュリーは直ぐに言葉を紡いだ。
 「夜風は、高い音をもう少し練習しましょう。せっかく低音は素敵なんだから。それじゃ、次はホクト!入って。」
 北斗がブースに入る。少し緊張した面持ちでスタンバイをして――それを確認するとジュリーはボタンを押した。


  強さを力に変えて それでも優しさの夢を見る
  誰を護るでもなく 誰に護られるでもなく
  全ての人の幸福を そっと願う事は
  きっと自分にでも 出来るはずだから・・・


 軽やかなポップスだった。爽やかで、清々しいその曲は北斗の声に良く似合っていた。
 低音から高音へ――北斗は上手く歌いきった。声量も申し分なく、声質も美しかった。
 「あらぁ!良いじゃなぁ〜い!」
 北斗がブースから出てきた瞬間に、ジュリーは飛びついた。
 避ける機会を与えられなかった北斗は、ジュリーに抱きつかれ・・・固まった。
 「ホクト、いーじゃない!完璧だわ!後はもう少し、個性を引き出すような歌い方をすれば・・・。あら?って、どうして固まってるのかしら?」
 それは貴方が抱きついたからですとも言えず、3人は気の毒そうな顔で北斗を見つめていた。
 「まぁ、みんなそれなりに歌唱力はあるから、これから歌詞が出来上がるまでの間、練習すればかなりのモノになるんじゃないかしら〜?楽しみだわぁ〜!」
 そう言うと、ジュリーはにっこりと一人一人に微笑みかけた。
 無論、視線が合う前に思わず瞳を逸らしてしまう・・・。


■Transparent Heart■


  穏やかに凪ぐ風に 思いを馳せて
  詠う 小瓶の中の 淡い琥珀の虹を
  色褪せて行く 箱庭での思い出達
  四角く切り取られた空を 仰ぐ
  針葉樹の高い梢の隙間から 木漏れ日が差し込む
  その夢のような場所で 君と育って来た
  君の笑顔 確かな温度 感じながら
 
  それは古びた衣を脱ぎ捨てるように
  それは生きた証を忘れるように
  淡くけぶる景色の中で
  全ては終わって行った
  音もなく確かな温もりだけを残して

  色の名を 幾度となく問うた
  泉に浮かぶ 貴方の顔
  水面に差し込む 温かな陽光
  風が熱を冷ます 緩やかに 穏やかに
  深緑 森に立ち込める 霧が薫る
  風の息吹 其の光より鮮やかに
  葵の色彩が 心を揺らす

  貴方を祝福する人は去って行った
  踊りながら歌いながら
  目も醒める様な甘い香り
  全ては消えて行った
  夏の名残だけを残して

  私に貴方を見せてください
  私に貴方を聞かせてください
  私は貴方を許します
  例え貴方が私を見捨てても
  私は貴方を許します
  あの箱庭の中でたった一人
  指折り数え待っています

  穏やかに凪ぐ風に 思いを馳せて
  詠う 小瓶の中の 淡い琥珀の虹を
  色褪せて行く 箱庭での思い出達
  けれどそんな物より 願う
  きみがきみに 願ったのと同じ事を
  この夢のような場所で
  君の笑顔 確かな温度 感じるために


□この空の下□


  青い空に浮かぶ 真っ白な雲
  街路樹の下から 見上げる空
  七色に光る   陽の光
  穏やかな午後に 暖かな風

  ふわりふわりと 子供の持つ風船が揺れ
  可愛らしい笑い声が 小さく響く
  穏やかな光を浴びて 朝に降りた霜が
  キラリキラリと儚く光る―――

  沈む夕日に     紫の雲
  空のコントラストが あまりにも美しくて
  地平で崩れる    真っ赤な太陽
  反対を向けば    夜の足音

  買い物袋片手に 帰路を急ぐ主婦達
  反対の手に繋がれた 子供の手が愛らしくて
  ぼうっと空を見上げる その瞳に映る
  夕日はやけに幻想的で―――

  キラキラと光る 星空の下
  ネオンが瞬く  この町の中央で
  貴方に届ける  描いた夢を
  七色に変化する この空の下で

  幾千の人々が すれ違い去って行く
  名も名乗らないままに
  今日に出会った人と 明日会う事は無いかも知れないけれど
  明日も必ず 陽は昇る
  星が輝きを失った時
  ゆっくりと 朝日が再び地上を照らす―――


■汚名を取り戻せ!■

 忍はこっそりと三下のもとを訪れていた。
 三下がいそいそとお茶を汲み、忍の目の前に温かい緑茶を出してくれる。
 その様子を見ながら、忍はふと思っていた。
 明美先生も、人を見ているのではないだろうか・・・?
 三下を誘う→碇さんが心配→人材を探す→全てが上手く行く!?
 きっとそうなのだろう。思うに、刈谷崎明美と言う人物は、相当頭がきれるのだろう。
 仕事の成功の影には、きっとそれも含まれているのではないだろうか・・・?
 「ところで三下さん?」
 「はい?」
 「明美先生は貴方に責任をと電話してきたわけで、一曲作ってみては?」
 その申し出に、ポカンとした表情で三下は忍を見つめていた。
 「私が巧く他のテープと混ぜておきますよ?」
 「で・・・でも・・・」
 「汚名挽回のチャンスですよ?」
 三下の瞳がキラリと光った。どうやらその言葉にくいついてきたようだった。
 「実はですね・・・歌の方には自信がありまして・・・。」
 照れたように言う三下に、1曲歌ってみるよう勧め――後日、録音したと言うテープを受け取った。
 それを巧く他のテープと混ぜ・・・。
 「さて、汚名は取り戻せますかね?」
 ニコリ、微笑むと・・・忍はそっとその場を後にした―――。


      〈END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4563/ゼハール/男性/15歳/堕天使

  4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト/トランスメンバー/劇団員

  5745/加藤 忍/男性/25歳/泥棒

  5698/梧 北斗/男性/17歳/退魔師兼高校生


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 ■         ライター通信          ■
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  この度は“三下君バイト物語 〜結成してみる?〜 『バンド編』”にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
  
  加藤 忍様
 
  ご参加いただき、まことに有難うございました。
  そして、モデル編に引き続きましてのご参加、まことに有難う御座いました!
  ソロ曲の部分は、個別となっております。もし宜しければ、他の方の歌詞もご覧下さい。
  この空の下は、日常の風景を優しい雰囲気で・・・と思いながら詩を作りました。
  いただいたプレイングをもとに、雰囲気を壊さないようにと最大限の努力をいたしました。
  如何でしたでしょうか?
  “レッスンの時間”での歌詞は、私が思う皆さんのイメージです。
  こんなのじゃないっ!!と思われてしまうかも知れませんが・・・・。
  皆さんからいただいたフレーズは、そのまま歌詞の中に使われております。少しでも変えてしまうと、意味まで変わってしまう恐れがありましたので・・・。

  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。