コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


The light of the Noel


 招待状に記されていた地図を辿り来てみると、そこは確かに森だった。
 ただし、規模としては決して大きくはないものだ。だが民家が密集している場所から離れ、――いや、しかし、決して交通の便が悪くなるわけでもない。そう、人々の記憶から、ひょいと取り除かれてしまったかのような、そんな場所だ。
 夜の風がさわさわと木々を撫でて通り過ぎ、時折車のライトが通り過ぎていく。
 どことなく、不思議な空気を漂わせているその場所に、その建物はひっそりと佇んでいた。


 冬の夜の寒さに白い息を吐きながら、真言はゆっくりと呼び鈴を鳴らした。
 間を置かず開けられたドアから顔を覗かせたのは、いつもと同じ黒衣を身にまとっている壮年、田辺聖人。真言は田辺の顔を確かめて、軽い会釈をしてみせた。
「運動会の時は、どうも」
「おう。あん時は落ちつけなかっただろうから、今日はゆっくりしてってくれよ」
 軽い笑みを浮かべている田辺の向こうから、賑やかな笑い声が聞こえる。どうやら他の客人達は既に到着しているらしい。
 玄関で靴を脱ぎつつ、笑い声が聞こえてくる方に目を向けている真言に、田辺が頭を掻きつつ肩を竦めた。
「運動会ん時に一緒になった縁も兼ねてな、声かけてみたんだ」
「ああ、うん。賑やかな方が楽しくていい」 
 うなずきを返し、案内されるままに廊下を進む。
 ――――と、どこかから、見知った香がふわりと流れ、真言の鼻をくすぐった。
 真言はその香にふと足を留め、空気が流れて来た方向――二階部分へと目を向ける。
 ふわりと舞うような動きで、襦袢の裾がひらりと揺れたのが見えた。
「……立藤?」
 呟き、眉根を寄せる。
 ――――いや、いるはずがない。……ここは立藤がいる場所ではないのだから。
 軽くかぶりを振って再び歩みを進めた。しかし頭のどこかでは、もしかしたらという期待が未だ消える事なく燻っていた。

「俺ん家ってさ、洋菓子なんて滅多にお目にかかれないわけ。ほら、兄貴がこんなじゃん。ふたりだけでクリスマスなんつったら大変でさ。ありゃクリスマスなんて言えたもんじゃねえっての」
 ショートケーキのいちごをフォークで突き刺して、北斗がしみじみと頬を緩めた。
「あ、ふたりってやっぱり双子なんだ? そうだよね、顔とかそっくりだもん」
 北斗の隣で弓月が大きくうなずく。その手にはマロンを用いたモンブランののった皿がおさまっていた。
 それを、テーブルの端でプディングをつついていた啓斗が睨みやる。
「クリスマスにはきちんとした料理を並べているだろう。ケーキだって、おまえのためにわざわざ作って」
「あれがケーキと呼べるようなもんかよ、兄貴!」
 啓斗の言葉をさえぎって、北斗が大きくかぶりを振った。
「ほう、啓斗はケーキを作れるのか」
「すごいじゃないですか。ケーキなんかそうそう作れるものじゃあないですよ」
 田辺と詫助の、どこかのんびりとした声に、北斗は皿の中のケーキを一口に食し、言葉を返す。
「いやいやいや、ケーキっつうかカステラ! 買ってきたカステラにロウソク立ててクリスマスをあしらってみました的なもん! あれをクリスマスケーキと呼ぶなら、このケーキはおケーキさまさまだ!」
 ふたつめのケーキとしてモンブランを皿に取りつつ、北斗はそっと目尻を拭いた。
「……いやでも俺は生クリームが苦手だと……」
 ぼやきつつ、テーブルに並んだ料理の品々を見渡して、啓斗は静かに田辺を見遣る。
「洋菓子職人はケーキしか作れないものかと思っていたが……」
「ああ、まあ、こういったオードブルなら、一通りはな」
 啓斗の言葉に得意げに胸を張ってみせる田辺の横で、弓月がふと真言に視線を向けた。
「あの、真言さん、さっきからなんでそんなにきょろきょろしてるんですか?」
「――――え? あ、ああ、いや、なんでもない」
 弓月の言葉通り、真言は確かにどこか落ち着かないような態度で周りを見回したりしていたが、手に持っていたグラスを空けて小さな息を吐いた。
「何かお探しですか?」
 からになった真言のグラスに二杯目のワインを注ぎいれながら、詫助が穏やかに口許を緩める。
 真言は軽くかぶりを振ってから、再び周りに視線を巡らせた。
「……いや。……そういえばあんたも四つ辻の人なんだよな」
「え? ああ、そうですよ。……おや、もしや会いたい相手でも?」
 詫助の表情がやわらかな笑みを浮かべる。真言は詫助の顔にちらと一瞥すると、否定するでもなく、自分の皿に取り分けられたサーモンを口に運ぶ。
「四つ辻って、詫助さんとか妖怪さん達がいるとこですよね? 真言さんも行った事あるんですか?」
「え、なに、よつつじってどこ?」
 弓月と北斗が口を挟み、顔を覗かせる。
「ええ、何人かおりますよ。ええと、真言クンが四つ辻で会ってらっしゃるってのは」
 首を捻り湯呑を口に運ぶ詫助に、真言は少しばかり慌てて顔をあげた。
 と、
「……あ」
 啓斗が一言そう口にして、リビングのドアの方へと目を向けた。自然、他の皆の視線もそちらへと寄せられる。そして
「立藤……!?」
 弾かれたように、真言が椅子を転がしつつ立ちあがる。
 ドアの前に立っていたのは、およそクリスマスという場には似つかわしくない風体の女。
「うお、花魁じゃね!?」
 飲んでいたジュースを噴き出し、北斗が口を拭う。
 立藤はしゃなりと首を傾げると、双眸をゆらりと細めて笑みを浮かべた。
「おや、真言クンのお相手は立藤でしたか」
 詫助がのんびりと微笑むその横を、真言は少しばかり急ぎ足で過ぎていく。
「……驚いたな」
「なにがでありんすか?」
「いや、あんたがこういったところに出てくるとは思わなかったから」
 真言の言葉に、立藤は肩を竦めてふうふと笑う。そしてその視線を真言の向こうへと向けると、ゆっくりと歩みを進めた。
「こっちの坊(ぼん)等と娘御とは初の御目文字でありんすね」
 しゃなりと首を傾げる立藤に、視線を奪われていた弓月が小走りに駆け寄る。それに続き、北斗もまた立藤の前へと近付いた。
「私、私、弓月っていいます。うわあ、花魁さんと会えるなんて感激です!」
「うわ、すっげ、マジで本物だよ」
 目を輝かせる弓月の後ろで北斗が立藤の顔をじろじろと確かめる。
「で、真言とはどんなご関係で?!」
 そう言葉を続けながらスプーンをマイクに見立てて立藤に向ける北斗の頭を、すかさず啓斗がパカンと叩いた。
「阿呆、それは無粋というんだ」
 ぼそりと告げつつ、弟を殴った手の平を軽く振る。殴られた弟はといえば、うずくまって頭を抱え、恨めし気に啓斗の顔を睨みあげていた。
 立藤はふたりのやり取りを眺めてやんわりと目を細め、ついとテーブルへと歩み進めた。
「おまえの口に合うようなものがあれば取り分けてやるが」
 田辺が皿を一枚取って話しかける。それを受け、立藤はテーブルを指差しながら時折うなずいたりして言葉を返す。
 そのやり取りを言葉なく見守っている真言の傍らに近寄った弓月が、真言の顔を見上げながら頬を緩める。
「行ってきたらいいじゃないですか! ガッツですよ、真言さんっ」
 ガッツポーズを取りながらそう笑う弓月を、真言は「いや、別に」などと言いながら見遣ったていた。が、しばしの後、意を決したように立藤の傍へと近付いていった。
「あー、青春ってやつだよね」
 まだ痛む頭を撫で付けつつ、北斗がにやりと笑みを作る。
「いやいや、きみ達も若いんですから」
 詫助がやんわりとした声で苦笑いを浮かべた。


 立藤の隣で足を留め、その横顔を見遣る。
「あんた、西洋料理も食べるんだな」
 そう言葉をかけて、立藤の皿に目を落とす。皿の上にはテリーヌやカルパッチョ等、定番のメニューが取り分けられてのっている。
 立藤は真言の言葉にうなずいて、皿の料理を一口食んだ。
「大抵のものならば大丈夫でありんすよ」
 微笑む立藤に、真言は無言でうなずきを返す。
「あんたも来ているとは思わなかった」
「ふ、ふ。詫助から、ぬし様もおいでだと聞かされて、ならばと思い決めんした」
 なんのてらいもなくそう続ける立藤に、真言はしばし目を細ませる。
「しかし、あれだな。いつもと場所が違うからか、あんたの様子もいつもと少し違って見える」
「まあ。どんな風に見えていんすか?」
 しゃなりと首を傾げ微笑む。
 真言は束の間視線を泳がせ、ぼそりと呟くようにして述べた。
「いや。多分、俺の見方がいくらか変わっただけだろう。……いつもと、場所も違うしな」
 返した言葉に、立藤はしばし頬を膨らませた。
「話を茶化すなんて、ぬし様はずるいお方でありんすね」
 ぷいと顔を背けた立藤に、真言は慌てて口を開こうとする。が、うまい具合に言葉が形を成そうとしてくれない。
 少しばかり慌てふためいている真言を、立藤は横目でちらりと一瞥し、そしてふと笑みを浮かべた。
「わっちが今日ここに来んしたのは、ひとえに、ぬし様にお渡ししたいものがあったからでありんす。洋風料理を口にするためではありんせん」
 ふわりと柔らかな笑みを浮かべ、立藤は真っ直ぐに真言の顔を見遣る。
 その視線を受け、ぎこちない笑みを滲ませた真言に、立藤はそっと手を差し伸べた。
「これは」
 立藤の手の中にあったのは、花の絵柄で彩色された千代紙で折られた折り鶴だった。
「この折り鶴には、わっちの息吹をふきこめてありんす。――これがあれば、ぬし様のお心はわっちに、わっちの心はぬし様に届けられんす」
 そう告げられて伸べられたその折り鶴を受け取って、真言は立藤の顔を眺め返す。
「……どういう意味だ?」
 問うと、立藤は華のような笑みを満面に湛え、すいと両目を細ませた。
「手紙やら、簡単なものならば、声を届ける折り鶴でありんす。……わっちの事、どこに在りても忘れないでくれなんし」
 真言の目を真っ直ぐに見つめてそう告げる立藤の言葉を、真言は黙したままで聞きとめた。

「食事もあらかた終わったな」
 田辺はあいた皿を片付けながら、入れ替わりにプディングをテーブルに運ぶ。
「これだったらおまえも食べられるだろ?」
 そう続け、啓斗を見遣る。啓斗はしばし思案した後にうなずいた。
「多分……大丈夫だと思う」
「これって確かブランデーを燃やして食べるやつですよね!」
 弓月が目を輝かせる。
「え、燃やすの? これを? もったいねえじゃん」
 北斗がぶんぶんとかぶりを振る。田辺が苦笑しつつ、カルヴァドスを揺らした。
「プディングは食す前に再び蒸すもんだ。だがその代わりに、こうやって火を点けて温める」
 言いながら、プディングにカルヴァドスをかけて火を点ける。途端に香り高い炎が立ち昇った。
「こうやって食うのもアリだ」
 アゴを撫でる田辺の言葉と同時に、歓声がリビングに響き渡る。
「綺麗! 私、こうやってプディングに火をつけるの、初めて見ました!」
 弓月があげる歓声を耳に、真言は横にいる立藤に目を向ける。立藤もまた真言を見上げ、にこりと頬を緩めた。
「今度うちでもやろうぜ、兄貴」
「……いや、さすがにここまでは」
 北斗の言葉に、啓斗が低い唸り声をあげた。
「さあ、それじゃあ、また乾杯し直しましょう」
 詫助がやわらかな笑みと共にグラスを掲げ持った。


Please pass good Christmas   
 



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【0554 / 守崎・啓斗 / 男性 / 17歳 / 高校生(忍)】
【0568 / 守崎・北斗 / 男性 / 17歳 / 高校生(忍)】
【4441 / 物部・真言 / 男性 / 24歳 / フリーアルバイター】
【5649 / 藤郷・弓月 / 女性 / 17歳 / 高校生】

NPC:田辺聖人、詫助、立藤

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

クリスマスをテーマにしたゲームノベル、お届けいたします。

今回のゲームノベルは総勢8名のPCさまが参加してくださいました。ありがとうございます。
一覧をご覧いただければお分かりのように、8名さまをふたつのグループに分け、描写させていただいております。。
この際、相関と、これまでのノベルでの描写等を参考にさせていただきました。
また、ノベル中でNPCから贈らせていただきましたプレゼントは、アイテムとしてお渡しさせていただきました。お気に召していただけましたら幸いです。

>物部・真言さま
いつもお世話様です。また、いつも立藤を構ってくださってありがとうございます。
今回もそこはかとなくあまあまな雰囲気で書かせていただいておりますが、いかがでしたでしょうか。少しでもお楽しみいただけていればと思います。
また、今回お贈りいたしました折り鶴ですが、四つ辻と現世との中を結びつけるものでもあります。お気に召していただきましたら幸いです。よろしければ今後のノベル中などでご利用ください。

それでは、またお会いできることを祈りつつ。
よいクリスマスをお過ごしください。