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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


心霊写真激写スポット


 ぱさっぱさっと、紙が落ちるような音がアトラス編集部内に静かに響いていた。編集長である碇・麗香(いかり・れいか)のデスクには、何十枚もの写真の山が出来ている。そしてそれを戦々恐々と見ているのは、今日も不幸そうな顔をした三下・忠雄(みのした・ただお)であった。
「はい、終り」
「あひゃあー!」
 碇の声に、三下が奇妙な叫び声を上げる。デスクの上にある写真の山は、二つの箱の片方のみに入れられていた。その一つには『採用』の文字が、もう一つには『没』の文字が書かれている。そして写真の山は『没』の方に出来ていた。『採用』の箱には一枚も入っていない。
「もっといい写真、撮って来れないの?」
「無理ですー! これが限界なんですー!」
「言い訳無用。……そうだ。そういえば心霊写真を撮るのに最適な場所があったわね」
 おうおうと泣く三下に構わず、碇はデスクの引き出しの中から一枚の地図を取り出した。その地図を三下に無理矢理持たせる。
「そこはね、良いも悪いも関係なく幽霊の多い場所なんですって。何でも、霊感のない人間でも何十枚と心霊写真が撮れるそうよ。そこならあなたでも迫力のある心霊写真が撮れるでしょ」
「嫌ですー! そんなところに行ったら死んじゃいますー!」
 地図を持ってガタガタと震える三下に、碇はにっこりと笑ってカメラを押し付けた。
「行ってらっしゃい」



 月刊アトラス編集部のデスクがある出版社ビルの廊下を、エドはその細い肩をがっくりと落とし、どんよりとしたオーラを引き摺りながら歩いていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁ……」
 口から漏れる長い溜息は、エドのなけなしの幸せを奪って逃げていく。エドは握り締めていた履歴書をくしゃくしゃと丸め、むりやりズボンのポケットに突っ込んだ。
「別に、遅刻したくてしたわけじゃないのに……」
 ぽつりと呟くのは、さきほど追い出されたコンビニの店長への恨み言である。ニート脱却の為、バイトの面接を頼み、遅刻してはいけないと家を早く出た筈なのに。
「人身事故で電車は凄い遅れるし、何か近くでやるミュージシャンのライブだか何だかで改札が込んでて出るのに十分とかかかっちゃったし、挙句に人波に押されて違う出口に出ちゃって場所が判らなくなっちゃうし、店長に連絡取ろうにも家に携帯忘れちゃってたのにそのとき気付いたし……何で今日に限ってこんなに不幸続きなんだろう……はぁぁぁぁぁ……」
「はぁぁぁぁぁ……」
 ぶつぶつと呟いて、エドがまた長い溜息を吐き、編集部のドアノブに手をかけようとしたとき、それを遮るようにドアが開いて別の溜息が聞こえた。エドが顔を上げると、そこにはご立派なカメラを抱えて泣きそうな顔をしている三下の姿があった。
「あ、エドさん……」
「あら」
 三下の情けない声に続いて、碇が覗き込むようにして顔を上げる。その、一瞬輝いたような目にエドは嫌な予感を感じたが、碇の立ち上がり際に見えた胸の谷間に目を奪われ、思わず身を乗り出した。
「丁度いいじゃない。さんしたくん。一緒に行って貰えば?」
 そう言って笑う碇に、碇の胸を物欲しそうな目で見ていたエドは、話を聞かぬまま、つい頷いてしまっていた。



「はぁぁぁぁぁ……」
 細い長身をくの字に折り曲げ、だらりと肩の力を落としたエドの隣では、三下がカメラを持ったままオロオロとしている。周りは鬱蒼と生い茂る木々に囲まれ薄暗く、足元は苔生した地面でフワフワと頼りない。そして、そこは碇の情報通りに、良いも悪いも様々な念に包まれている場所だった。
「まあ、生きた人間よりは死んでる方が慣れてるからいいんだけどね……」
 呟きながらエドは、泣きそうな顔をしている三下をじろりと見る。つい、胸に夢中になってしまったとはいえ、こんな奴と一緒に仕事しなければならないなんて。不快だ。物凄く不快だ。
「エドさぁん……」
 だが、今自分はニート。無職、無収入である。こんな状態で仕事を選べるほど、自分は余裕のある人間ではない。だから仕方ないのだ。
「エドさぁん……エドさぁん……」
「うるさいなぁ。何ですか。判ってますよ。写真撮ればいいんでしょ? 心霊写真」
 縋るように話しかけてくる三下の首からカメラを奪い取り、エドは半ばやけくそ気味にズカズカと森の奥に進んでいく。その後を三下はビクビクしながら追って行った。二人の通った木々の間から、半透明の人々がゆらりと現れる。
「うひゃあ! ななな、何か出てきましたよ、エドさぁん!」
 揺れる幽霊たちに驚く三下を振り返り、エドがシャッターを切った。瞬間、明るくなった世界に、三下が飛び上がる。
「いいいきなり撮らないで下さいよぉ!」
「あー、そこの人、三下くんの足消して」
「ぎゃーっ!」
 涙目の三下に追い討ちをかけるかのように、エドが近くの幽霊に注文を出した。それを受けて、ノリの良い幽霊は三下の足に腕を巻きつけて、カメラに映らないように遮る。
「ええええエドさーん!!」
「もっとこっち寄って」
「ひにゃー!!」
 悲痛な叫び声を上げる三下に気分を良くしたのか、エドはどんどん幽霊に注文をつけ、幽霊に絡まれる三下の写真を撮っていった。三下は数人の幽霊にべたべたと触られ、失神寸前である。
 そんな三下を後目に、エドは流し目を向けながら通っていく美女の幽霊や、巨乳の幽霊の胸の谷間を真剣にカメラに収めていた。ノリノリでポーズを取る幽霊たちに、エドもカメラマン気分で次々とシャッターをきって行く。
 エドに忘れられた三下は、幽霊の蠢く森の中で一人、立ったまま気絶していた。



「これはまた……意外なアングルね」
「あわわわっ! そ、それは、そのっ」
 現像された写真を選別していた碇は、手に取った一枚に思わず眉を顰めた。それはエドが嬉しそうに撮っていた巨乳幽霊の谷間だった。谷間がうっすらと透けて濃緑色の地面が映っているのが何とも微妙である。その写真を見て慌てる三下に構わず、碇が次の写真を見ると、そこには美女幽霊が木の根に座って股を大きく開いている姿が映っていた。一瞬固まった碇だが、気を取り直して次の写真に移ると、今度は身体にフィットしたエナメル質の服を着て腰を突き出している、線の細い男幽霊の写真で。
「……撮り直し!」
「うぎゃっ!」
 額に青筋を浮かばせた碇が三下の顔目掛けて写真を叩きつける。その様子をこっそり、編集室のドアの隙間から見ていたエドは、オロオロと散らばった写真を拾う三下に満足そうに笑っていた。










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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【5661/エド・ー/男性/41歳/ニート】



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           ライター通信         
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こんにちわ、ライターの緑奈緑です。
今回は『心霊写真激写スポット』にご参加下さいまして、有難う御座いました。
そして遅延申し訳ありませんでした。
頑張って執筆致しましたので、楽しんで頂ければ嬉しいです。