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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


篭目の中の鳥


かごめ かごめ

かごのなかのとりは

いついつでやる よあけのばんに

つるとかめがすべった

うしろのしょうめん だぁれ…



 それはもう十何年も前に遡る。
七五三の三つの祝いの日のことだった。
今日ばかりはいつもはしゃいでいる子供達も、親に手を引かれながら少しばかり大人を気どってしゃなりしゃなりと歩いている姿をそこかしこで見かけられる。
晴れ着に身を包んだ子供達が親に連れられ神社へ向かって歩いていく。
守崎家もそうであった。
啓斗と北斗も近所の子供と同じように三の祝いを済ませたばかり。
晴れ着姿のまま自宅の縁側をちょろちょろしている北斗は、何処から持ってきたのか女の子の晴れ着の簪を悪戯で啓斗の髪につけ、かわいいねーと啓斗の頬にちゅうっと口づけそれ逃げろと踵を返す。
しゃらしゃらと揺れる簪を手にとり、声を荒げることも無く、啓斗は北斗にある言葉を投げかけた。
「北斗はお兄ちゃんとお姉ちゃんどっちがいい?」
その問いに、にかっと笑って北斗は快活に答えた。
「―――――――」

そのときの答えを暫くの間は覚えていたが、何時しかそんなやり取りが合ったことも遠い記憶の彼方へ行ってしまい、月日は流れた…


 普通の子供と少し境遇が異なるも、二人を包む周囲の景色はそれなりに優しく過ぎていき、子供の頃のことなど微塵も思い出さなかった。
中学へ入る頃には、北斗の啓斗に対する思いは変化し、疎ましささえ感じるようになってしまった。
理由は至極簡単なものだった。
成長したいと思う思春期の複雑な思いと、現実の差があまりにも開いていた為に憧れはやがて羨望へそして嫉妬へと変化する。
自分が死に物狂いで啓斗を、兄を追い抜いても、彼はそんな自分に嬉しそうに微笑むだけ。
自分より優秀な影。
自分より優秀な鏡の中のもう一人の自分。
カードの表と裏。
対になる存在であるに関わらず、何故斯様に差がつくのだろうか。
追いかけても追いかけても、追い抜くことすらできぬ遥かなる高み…否、すぐ傍に居るはずなのに、全く違うところに立っているような気がしてならない。
次第に自分が惨めになってくる。

もうこれ以上惨めな思いをさせないでくれ!
もう沢山だ!

なんで、同じじゃないんだ
一緒に生まれたのに
なんで、俺は取り残されるんだ


悲哀と焦りは何時しか憤懣へ変わり、好きで大切でかけがえの無い存在なのに、辛く当たってしまう自分がいる。
そんな北斗の態度に啓斗は何も言わず、ただ静かに、物言いたげな眼差しを向けてくるも、頑として何も語らない。
何を聞いてもかぶりを振ることすらせず、聞き返すだけ。
勝手にしろ、と、喉元まででかかる回数がまた増えていく。
そして、状況は悪化の一途を辿っていった。
高校入学後、啓斗の様子が著しく変化していく。
前は時折微笑むぐらいあったのに、僅かばかりの感情までも失せていくのか。
「兄貴…」
名を呼んでも一瞥くれるだけでそれ以上何のリアクションも起こさない。
日を重ねるごとに気配も、眼も殺伐としていく啓斗を心配しつつ声をかけたりしても、それは表面上のこと。
実際には何も出来なかった…否、しなかったのだ。
むしろ見て見ぬ振りを決め込んだ。
何も話してくれない啓斗に嫌気が差していた、ということも少なからずあったろう。
だがそれよりもあの兄が壊れるはずは無いと、根拠の無い思いがあったのも事実だ。



歯車が

きしきしと音をたててかみ合わなくなっていく


 ある日の夜。
それぞれの部屋で眠る二人は夢を見た。
まるで夢を共有しているかの如く、この日二人は同じ夢を見ていた。
七五三の三つの祝いの日。
緩やかに、くい違う事も無くカタリカタリとかみ合っていた歯車が、僅かに軋んだあの日。
啓斗の心に小さな陰が落ちたあの日。
北斗が全く気づかなかった、分岐点の始まり。
はしゃぐ北斗に啓斗が尋ねたあの言葉。
「北斗はお兄ちゃんかお姉ちゃんか、どっちがいい?」
啓斗のその質問に、迷うことなく北斗が答えた言葉。
「どっちでもずっと一緒にいられるのがいい。いられないなら俺、いるようにするもん」
夢の中の問いの答え。
その瞬間、ビクッと身体が震え、目が覚めた。
「…今のは……」



 自分の変化はどことなく感じていた。
けれど、わかっていてもそれを止める術は無かった。
裏の仕事と表の生活の格差に耐えられなくなってきてるのがわかる。
汚れるのは自分だけでいい。
北斗にこんなことはさせられない。
自分一人だけでいいのだ…一人だけで…
北斗が自分に何か言いたげな顔をするも、すぐにそっぽをむいてしまう。
そのたびにズキリと胸が痛む。
すがれるものなら。
寄りかかれるものなら。
どんなに安らぐか、どれだけ考えたか知れない。
「…今更、言えやしない……」
身も心も凍えていく。
身体の奥にぽっかりと穴が開く。
深い、深い…
深淵のような深い闇が広がっていく。


 ある日の夜、啓斗は北斗と同時に同じ夢を見た。
幼き日のささやかな幸せに満ちていたあの日に落ちたひとつの陰が、あの問いの北斗の答えが頭をよぎる。
快活に答えた北斗がはしゃぎながら背を向け走り回る姿を見つめ、ぽつりと呟いた言葉。
北斗と同時に目覚めたけれど、静かに身体を起こした啓斗はあの時の北斗の答えに繋げた言葉。
「…北斗に、決めてもらいたかったのに…」
あの頃からずっと抱いてきた思い。
どちらでもない、どちらともいえないこの身。
北斗に決めてほしかった。
北斗にこの身の存在を定めてほしかった。
でもそれはあたわず、あの時のまま、不安定なまま…虚ろなまま…



同じ夜に同じ夢をみた二人はそれぞれ思う。
片や、あの時夢で思い出した会話は果たして現か幻か、と。
片や、あの時どうして改めて問い直さなかったのか、と。

言葉足らぬ二人は互いのすれ違う思いに、またもや言葉にせずただ願い望むばかり。



篭目篭目の籠の中の鳥は果たしてどちらなのか。
北斗が気づくが早いか、答えを出すが早いか。
啓斗が助けを求めるか。


今はただ

篭目から垣間見えるモノを見つめるだけ。




― 了 ―


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0568 / 守崎・北斗 / 男 / 17歳 / 高校生(忍)
0554 / 守崎・啓斗 / 男 / 17歳 / 高校生(忍)

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、鴉です。
この度はシチュエーションノベル(ツイン)を発注頂き、まことに有難う御座いました。

話の主体を北斗君の一人問答劇風でもよいとありましたが、せっかくの設定を使わない手はない!と思いましたので、啓斗君からの視点も少し交えてみました。

ともあれ、このノベルに際し何かありましたら遠慮なく御報せいただけますと幸いです。
この度は当方に発注して頂きました事、重ねてお礼申し上げます。