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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■道案内

*オープニング*

トゥルルルルルル・・・・

草間興信所の電話が鳴る。
ソファーで昼寝していた草間武彦が目覚める。
零ーーー!電話ーー!
ソファーに寝そべったまま、零に電話を取るように命じるが、返事がない。

そういえば、買い物に出かけるって言ってたよな・・・
ぼんやりと思い出し、慌てて起き上がると、まだ切れていない電話に草間は手をかけた。
コホン、と咳払いをひとつしてから受話器を取る。

「はい、草間興信所です。」

………

「すまないが、専門外なんでね。他をあたってくれな、お嬢さん」

そう言うと、草間は受話器を置いた。
ふぅ、と一息ため息をつくと・・・

「今の、依頼の電話じゃないんですか?」
いつのまにか、買い物帰りの零が草間の後ろに立っていた。
草間は少々ビックリしつつも、おかえり、と言いソファーに腰掛け煙草に火をつけた。
「ん、あぁ依頼だ。でも内容が『道案内』だったからな。交番にでも行けば安く済む、と伝えておいた」
そうなんですか、と零はスーパーで買ってきた食材を冷蔵庫にしまう。
零は尋ねた。
「ちなみに、どこに案内してほしい、と言われたのですか?」

草間は煙草の煙をふぅと吐き出しながら答えた。

「天国、だってよ」


−シュライン・エマの道案内−


「あの、草間興信所さん、ですよね?ちょっと、お願いしたいことがありまして…お電話させていただきました」
黒髪の少女が公園のベンチに座り、携帯電話から電話をかけている。


11月も、もう終わる。
日中の日差しは明るいものの、やはり徐々に深まる寒さが身にしみる。

シュライン・エマが今日も草間興信所へ向かおうとする途中、小さな公園のベンチに座り、必死な表情で電話をする女子高生を見かけた。
彼氏さんとのお電話かしら?とそのまま通り過ぎようと思った矢先、聞き覚えのある単語がシュラインの耳に入ってきた。
『…草間興信所?』
足を止め、彼女を見やると、その女子高生は既に電話を終えていた。
その表情は曇っている。そして、ベンチに座ったままボンヤリと空を見上げている少女。

しばらく彼女を見守る。そして、シュラインは小首をかしげた。
見た目には、普通の女子高生なのだが…何か違和感を感じたのだ。

12月だというのに、制服は着ているもののコートも何もなく、やや薄着と言える。
そして…
「彼女…呼吸をしていない??」
シュラインの持つ、類いまれなる聴音能力がなければ気づくことは出来なかったであろう。
更に意識を研ぎ澄ますと、心音も聞こえないことに気がつく。

シュラインは、急いで草間興信所に電話をかけた。
草間武彦が、やや真剣味を加えた営業声で電話を受ける。
「はいもしもし、草間興信所です…って、なんだ、シュラインじゃないか?どうしたんだ?」
「ねぇ武彦さん、今女の子から電話がなかったかしら?」
「ん?どうして知ってるんだ?」
「たまたま歩いていたら、女の子が武彦さんの所に電話しているようだったから。凄く落ち込んでいるみたいなんだけど、何の話だったの?」
「あぁ…『天国に行くにはどうしたらいいですか?』ってな。とうとう自殺志願者までうちに電話してくるようになったみたいだな。一応、人生の楽しさというものを語っておいたが…落ち込んでいる様子じゃ、俺のギャンブル論じゃ通じなかったか」
ハハ、と武彦は笑う。しかし、シュラインはまだ公園のベンチに座り、ボンヤリしている彼女がどこかに行ってしまわない様、目線ははずさず電話を続ける。
「彼女、本当に天国に行きたがってるみたいよ」
「へ?」
武彦が素っ頓狂な声を上げる。
彼女が薄着なこと、そして…呼吸をしていない、心音も聞こえないことを伝える。
つまりは、本当に天国に行きたい!と望んでいる死者なのだろう。
「ねぇ?『天国に行きたい』以外に彼女は何か話していなかった?」
「え?あー…さっき言った通り、俺、人生の希望というものを一方的に論じてて…」
苦笑しているであろう武彦の顔を想像し、
「つまり、何も情報はない、ってことね」
「ごめんなさい」
力なく武彦が答える。
「ちょっと私、彼女と接触してみるわね」
「す、すまないシュライン、後は任せた!」
力強く応援する武彦に苦笑しつつ、シュラインは電話を切り、相変わらずベンチに座っている少女の下へと歩み寄った。


小さな公園のため、ベンチはひとつしかない。
シュラインはゆっくりと彼女に近づいていく。

「隣、座ってもいいかしら?」
微笑みながら、シュラインは彼女に声をかけた。
声を掛けられ、初めてシュラインの存在に気づいた彼女は「あ、は、はいっ」と急いでベンチの端っこに移動する。
ありがとう、と言いシュラインは彼女の隣に腰掛けた。そして、話を切り出す。
「突然声をかけてごめんなさいね。あなたがあまりにもボンヤリとしていたから、なんだかほおっておけなくて」
なおも笑顔で話しかけるシュラインに、少女は安心したのか微笑み返す。
「見ず知らずの方なのに、気に掛けていただいて…ありがとうございます」
「気にしないでいいわ。私はシュライン・エマ。あなたは?」
「あたしは、秋田亜津子と申します。」

秋田亜津子。

シュラインはその名前を心の中で復唱する。
ピン、とシュラインの脳裏に新聞の記事が浮かんだ。
凄く小さな記事であったが
『17歳女子高生、ひき逃げされ死亡。犯人未だ捕まらず』
数ヶ月前の地元の新聞にそんな記事が載っていたのを思い出す。「まだ若いのに…」そう思っていたことから印象に残っていた。

シュラインは、亜津子の表情を伺いつつ、口を開いた。
「数ヶ月前に、事故で亡くなった女の子と同じ名前…ね」

シュラインのその言葉に、一瞬口をパクパクと動かした亜津子は「この人は、全てを察している」と感じたのか…急に泣き出した。
やっぱり、と思うシュラインに、亜津子は涙を流しながら声を搾り出す。

「そう…です、それ、あたし…です。信号、赤…だったのに…無理やり渡ろうとしちゃって」
それ以上は言葉にならなかった。
シュラインは亜津子の肩を抱き、ハンカチを取り出し彼女の涙を拭う。
辛かったでしょうね、痛かったでしょうね、と優しく髪を撫でながら、時間を掛けて彼女を落ち着かせた。
もう痛い思いも、辛い思いもしなくてすむのよ、と優しく優しく言葉を掛けながら。
ようやく亜津子の嗚咽が止んだ頃、シュラインは彼女に質問した。

「あなたは、そのひき逃げの犯人を捕まえたい…ワケじゃないのよね?」
「は、はい…。犯人を捕まえても、今のあたしには何もできないですし…。ただ…」
「ただ?」
シュラインは、今までで一番の微笑みを浮かべながら亜津子の言葉を待つ。
「天国に、行きたいんです。誰かはわからないんですけど、声が聞こえるんです。」
声?とシュラインが復唱すると、亜津子は頷きながら答えた。
「早く天国に来なさい、って」


流石のシュラインも、天国への道なんてわかるハズがなかった。
当たり前だが、死んだことなんてないのだから。
現世に魂が残っているのは、きっと現世に何か未練があるから。
それを取り除けば、きっと彼女は天国にいけるはず。

そう考えたシュラインは、亜津子に何か未練とか…心残りはないの?と優しく問うが…
彼女は首をひねるばかりであった。
そんな彼女を見かねて、シュラインは立ち上がった。
「ここで座っていても何も思い出せないかもしれないわね。よかったら、少しお散歩しない?」
座ったままの彼女に、シュラインは微笑みながら手を差し伸べた。
「あ、は、はいっ」
シュラインのその手を取る亜津子の手は、やはり冷たかった。
それでも、シュラインはその手をしっかりと繋ぎ、公園から出ようと歩き出す。
「あなたがよく行った場所や、行きたい場所、どこにでも付き合うわ」
「ありがとうございますっ」
それじゃあ…と、今度は逆に亜津子がシュラインの手を引き歩き出した。


「ここがいつも歩いていた通学路で…そうそう、裏にすっごく美味しい鯛焼き屋さんがあるんですよっ。餡子が零れ落ちそうなくらいにたっぷりで、皮はパリッとしてて、ちょっと変わってて…美味しかったなぁ〜」
シュラインの手を取り、通学路を歩きつつ亜津子は笑顔で説明をする。
「へぇ…この辺の道は詳しいつもりだったけど、そんな鯛焼き屋さんがあるのは知らなかったわねぇ」
シュラインも、普通の人間と話してるのと同じように会話をする。
「食べたい?」と聞いてみるが、亜津子は「今はお腹がすいていないから大丈夫ですよ」と微笑み答える。「今度、あたしも草間興信所のみんなに買っていこうかしら」
そういうシュラインに、亜津子が反応した。
「シュラインさん、興信所の方だったんですね!」
亜津子は目を丸くしているが、その表情に怒りや悲しみはない。むしろ
「なんだかんだ言って、こうやってお手伝いしてくださるなんて…やはり、噂どおり素敵な興信所なんですね」
と微笑んでいる。
そういう亜津子に安心するシュライン。
『なんとか武彦さんのメンツは保ててるようね』と。

更に歩くと、亜津子は立ち止まった。
何の変哲もない、信号。だが…目線の先には、花が供えられている。

「ここ、あたしが轢かれちゃった場所、です」
悲しげに、しかし気丈に亜津子は答える。
「そう…他の道に行く?」
気を遣いそう言うシュライン。目の前の信号は、青から赤へと点滅しだした。
すると、亜津子は突然何かを思い出したようにシュラインの手を強く掴んだ。
「シュラインさん、思い出しましたっ」
「え?な、何を??」
「猫!!」
「猫?」
ハテナ顔のシュラインに、亜津子は晴れ晴れとした表情で話し出す。

「あたし、いつも学校帰りに猫を見かけていたんです。黒い、ノラ猫。
 最初は全然懐かなかったんですけど、毎日会う内に撫でることが出来るくらいに仲良くなれて。
 事故があった日、あたし、早くその猫にミルクをあげたくて走っていたんです。
 信号が赤になったから、あたしは立ち止まったんですけれど、猫はあたしの姿を見つけたからか信号を渡ろうとして…」
「亜津子ちゃんと…その、猫、も?」
「えぇ、きっと…あぁ、あたしどうしてそのことを思い出せなかったんだろう…」
悲しげな亜津子の表情を見、シュラインは「ちょっと待ってて」と亜津子をその場に待たせ、近くのコンビニに走った。

帰ってきたシュラインの手には…牛乳。
「信号が青になったら、渡りましょう。そして、このミルクを亜津子ちゃんの手で」
ニッコリと、シュラインは亜津子に牛乳を手渡した。


亜津子と共に、シュラインは信号を渡る。
車通りは少ないこの道で轢かれてしまった亜津子のことを考えると、胸が締め付けられる思いだった。
そして、きっと亜津子が好きだったのであろう備えられたカスミ草の横に、亜津子はそっと封を開いた牛乳を置く。

「あぁ、あたしを天国に呼んでくれていたのは、きっとあの猫ちゃんだったんですね」

亜津子は、改めてシュラインの顔を見て、微笑んだ。
そして、その亜津子の体がだんだんとぼやけていく。

「ありがとう、シュラインさん。あたし、天国へ…行けそうな気がします」

優しく、優しく微笑む亜津子。
ぼやけていく亜津子の手を、シュラインはもう一度掴んだ。今度は、暖かい。
「きっと、猫ちゃんや、あなたのご先祖様が待ってるわ。いってらっしゃい、亜津子ちゃん」

シュラインが微笑む。そして亜津子は強く頷くと、体は光となり、スゥーっと空へと上っていった。


*エンディング*

「そっかそっか、無事に天国に行けたんだなー」
「んもぅ、イタズラだと思わないで最初からちゃんと相談に乗ってあげればよかったのに」
そう言いながら、シュラインは草間武彦にレシートを示した。
「ん?…牛乳代?」
「必要経費ですからねっ。」
「嗚呼、煙草一箱分がぁ・・・」

まったくもぅ、と思いながら、シュラインは興信所の窓から空を見上げた。
様々な形をした雲の中、猫とよりそう少女のような形の雲を見つけ、シュラインが微笑んだことに、無論武彦は気づかなかった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【NPC/秋田・亜津子/女性/17歳/女子高生兼幽霊】

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■         ライター通信          ■
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はじめまして!新米ライター、千野千智と申します!
この度は初シナリオにご参加くださり、まことにありがとうございました!!!
優しいエマさんのプレイングに感動しつつ、楽しく書くことが出来ましたです。
まだまだ拙いヘッポコライターですが、少しでもお気に召してくださいましたら幸いです!
今後とも、マイペースで活動させていただきますので、もしお目に止まりましたら
また遊んでやってくださると幸いです!

本当に、ありがとうございました!
またお会いできることを願って…では!!

2005-11-30
千野千智