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<東京怪談・PCゲームノベル>


[ 雪月花2.5 風花の舞う日]



「今日は……少し休みたい」

 よく晴れた日だった。冬の気配は近いとは言え、朝晩を除けばまだまだ過ごしやすい。
 昨日取った宿に荷物を置いたまま、ただ一言を残し。彼は独り、外へと出かけていった。
 木漏れ日を肌で感じ、奥へ奥へと進んでいく。その先にあるのは小さな湖だ。
 水辺だけに涼しいが、差し込む陽の光はそこへと反射し辺りは輝いている。そんな景色を、共に見ていた。
「……、やっぱり付いて来たんだ?」
 そして不意に立ち止まり彼は呟く。その言葉に、彼の後ろを歩いていた弓月は立ち止まり苦笑した。
「あー、やっぱり洸くん気づいてたんだ」
 一応こっそりと後をつけていたはずだったが、彼には通用しなかったようだ。彼は「当たり前だよ…」と苦笑し、しかしそのまま何も言うことも無く僅か考えに耽ると、ポツリ言った。
「――良ければ少し、話をしていかない?」
 振り返る洸に、弓月の表情が驚きの色を含む。恐らく、こうして彼から話を切り出すのは珍しい。ましてや話をしようと、その考えに今までと少し違う彼を見た気がした。
 ただどうしてその言葉を紡いだか――彼自身も判らない。どうしてか、自然とその言葉が出てしまったのだと思う。恐らく気まぐれという言葉がぴったりだ。
 それでも多分弓月ならば、多少気を紛らわせてくれるんじゃないかと、彼は内心期待もしていた。
「丁度、珍しく誰かと話したかったんだよ。良ければ、だけど――俺に色々、教えてくれない? そうだな……家族、だとかこの世界の景色とかね」
 ざわり。吹く風に木々が揺れ。緑を失い、水分を失った葉が二人の頭上ではらり舞う。目の前では波打つ湖面。弓月が一歩を踏み出せば、足元でパキッと小枝の折れる音。どこか遠くで鳥の声がする。ただ、此処は余りにも静かで。生きている気配と言うものは多くは無い。
 弓月は小さく頷き。その後「うん」と呟くと、再び一歩を踏み出すと洸の隣、小さな湖の湖畔に立った。
「えっと洸くん、さっきから気になってたんだけど具合が悪い…とかじゃないよね?」
 不安げに問う弓月に、洸は少しの笑みを浮かべゆっくりかぶりを振る。すると彼女は安心したのか一つ息を吐き。輝く湖面を見て呟く。
「……んー、家族かぁ」
 こういうことを聞かれ、改めて家族を思い返す機会などそう多くはない。家族と言う存在は、今の彼女にとってはごく当たり前の存在で、こうして人に聞かせることなどそうは無いだろう。ましてや兄や弟という限定でもなく、全体についてを話すとなれば尚更だ。
「うち、の話になるんだけどね。うちはお祖父ちゃんやお祖母ちゃんもいる七人家族だから、何をするにもすんごく賑やかっていうか、うるさいんだよー」
 楽しそうに話し出した弓月に、洸は彼女を横目に小さく相槌を打つ。兄弟が居ることは耳にしていたが、祖父母が居る七人家族ということは今日初めて聞かされた話でもある。
「あ、前にメールで言ってた演歌とか歌謡曲はお祖母ちゃんが凄く好きで、偶に一緒に聴いてたら覚えちゃったんだ」
「へぇ、そうだったんだ。仲も、いいんだね……」
 僅かに綻ばせた洸の顔を見て、弓月もつられ笑う。ただ、その表情は唐突に俯き。次に上げられた時、その楽しさは引き出しにしまったかのように。真剣な眼差しで言う。それはあの日、あの丘での彼女にも似ていて。でも、少し違う。
「あのね……私が思うに家族って、地面みたいなものなんじゃないかと思うな」
「地面? 足元に広がる――って意味?」
「そう、だね。気がついた時には歩き易いように作り変えてもらってたり、急に何か増えて歩き辛くなったり、無くなって…その穴に嵌ってなかなか立てなくなったり。あ、でもこれって家族だけじゃなくて出会った人みんなの事になる、かな?」
 弓月の言葉に、洸は特別否定も肯定もしなかった。ただ、聞きながら何かを考えている姿は、聞いた話を次の瞬間には考えているのだと思う。そして、理解できるか否かを自分の中でまとめてるのだと。
「まぁ、そういうのも景色、になるんじゃないかなって思うんだけど」
「――――そう……なんだ」
 最後に付け足すように行った言葉は、殆ど洸の耳には届いていなかったようだった。曖昧で小さな相槌に、弓月は彼を横目で見ると、言っても良いのか迷いながらもそれを口にする。
「洸くん、さ…目、見えないよね?」
「――……あ、ぁ…そう、だね」
 唐突の問いかけに弾かれた様に顔を上げると一瞬言葉に詰まり、それでも頷いた洸に弓月は「やっぱり…」と小さく呟いた。
「そう…か。キミのことだから、ずっと気づいてないかとも思っていたけれど――判ってたんだね。……良かった、かもしれない」
 彼はそう、何か吹っ切れたかのように。次には小さく笑みすら浮かべ。かけていたサングラスを外す。その目にはカラーコンタクトが入れられていて、視点も特別定まっていないわけでもない。まっすぐ、今は青い眼が弓月の方を見ていた。ただ、その視線は彼女の先……ずっと向こうを見ているようにも思える。
「あ、でもね! 時々変だなーって思う時があったんだけど、動きとかそんな風に見えなくてなかなか気付けなかった」
「…、その辺りはらしい」
 彼は少し、声に出し笑った。同時にホンの少し、この場の雰囲気が柔らかくなった気もする。
「気付かせないようにしてたのかなっても思ったんだけど……解っちゃったから。傍に居るから――一緒に旅をしてるんだから、嘘はナシで言っちゃおうって。そう、思って」
 どんな言葉が返ってくるか、最早予測もつかず。弓月はそっと目を伏せた。彼にそれを見られることはない。それだけが、今は救いかもしれない。ただ洸の反応は悪いものでもなんでもなかった。
「別に隠そうとしていたわけでも、話したくない訳じゃない。もう、ずっとこうして生活しているから、これが当たり前になってるんだよ。だからそんな説明、最近は考えたことも、した事すらなくてね。何度か、キミに問いを出したことはあったけど」
「そう、なんだ。うん…確かにそうだったけど」
 それは弓月が考えていた程、本人にとっては然程気にすることでもなかったらしい。気を遣っているようにも見えないし、多分洸ならば弓月に気を遣うということも無さそうな気がして。その本心に内心弓月はホッとしていた。そんな彼女を知ってか知らずか、洸は続ける。
「俺にとって見えないことは当たり前だけど、同時に視えることが当たり前になっていた。感じる…と言った方が正しのだろうけどね」
「うーん、よく本とかテレビで見る、五感の一つが無いから他がずば抜けてる――みたいな?」
 洸が使い分ける『みえる』をなんとなく判断し弓月は問う。
「かもね? ただ、物心ついたときから俺の世界は今俺が見ているこの景色であり。でも他の人は違う世界を見ている、それだけなんだ。予想もつかないと思う。ただ、独りきりの世界の――」
 しかしそこで弓月は躊躇うことなく制止の声を入れた。
「あ、さっきも言ったよね。洸くんの傍には今、少なくとも私が居るよ。これって前は例えそうだとしても、やっぱり今は独りじゃないってことだよ。それに、柾葵さんだって居るんだし。どんな関係であれ、長い間一緒に居るには変わりないでしょ? それって、結構凄いことだと思うけどなー」
 そっとしゃがみ込むと、湖面の水を少し手で掬う。水は冷たく、けれど澄んでいてとても綺麗で。ぱしゃりとそれを上から落とすと、出来る波紋は遠くへと広がり消えていく。
「……やっぱりさ、眼が見えていようがいまいが、みんなそれぞれみている世界は違うと思うな。考え方とか受け取り方と似てるんだよ。ただ、見ているものがそれぞれ違ってても、みんな一緒だよ。同じ世界に居る」
 弓月が立ち上がると、自分を見ていた洸と目が合った。
「なんかさ…キミって、意外なところで言葉が豊か、って言うのかな。いつも俺の思いつかない言葉を平気で、それが当たり前のように喋るんだね」
 それは確かに弓月にとって当たり前なのだから、ただ一言だけ「うん」とだけ返す。
「それに嘘は無し、か……」
 木々の枯葉や枝の間から見える空を仰ぎ。洸は弓月に背を向けた。そしてそのまま、少し前へと進んでいく。
「――今日、体調が悪いわけじゃないんだけどね。本当のところなんとなく調子が出ないというか、気分的に良くない感じがするんだよ」
「え…やっぱりそう、なの?」
 驚きに声を上げると、洸は弓月には背を向けたまま足を止めた。
「旅に出始めてから痛む、んだ……酷く、強く。それが最近酷くなってきて。今日はあまりにも、耐えられなかった」
 そのまま洸は右手で自らの左腕を掴み、きつく握り締める。痛みを紛らわすかのよう。
「痛むって、まさかろくに治療してない怪我が、とかじゃないよね? 旅に出始めてから酷いって事はもしかして、その前から――」
 彼の様子に弓月は思わず一歩。又一歩と近づき、そっと手を伸ばした。そこで唐突に、洸の右手が左耳を掴む。強く。そして発される声は掠れる様小さく。哀しく。
「いっそ、この耳を引き千切りたいくらいっ」
「ちょ‥っと、洸くん!? 落ち、着いて……?」
 本当に、そんな力があれば引きちぎってしまいそうな勢いで。思わず弓月が伸ばしかけていた手は、後ろから洸を静止させるものとなった。右手を掴めば彼は左手でどうにかしようとして、左手をも掴み取るとガクンと彼の膝が折れる。
「――夢も、最近多く見る」
 俯いたまま。彼はポツリポツリと。もう抵抗はしないようで。思わず見た左耳には引っかいたらしき傷からうっすら血が滲み出ていた。同時、そこにある青いピアス。確かに気づいていた。だからと言ってそこが化膿しているだとか、そういう風にも見えなかった。
「決まって同じ夢だ……あの日見た風花が舞っている――」
「あの日?」
 左耳から目を逸らし、問いかけると同時答えを待つが、彼は少しの沈黙を守った後、不意に後ろに立つ弓月を顔だけ振り返り逆に問い返す。
「あの日、って?」
「え、私に聞かれても?」
「…………ごめ、ん。なんか、おかしい。自分でも良く分からないから今のは忘れて。それにもう、何もしないから離してくれていい」
 言われて未だ洸の手を掴んでいたことを思い出し、弓月はパッと離すと「こっちこそごめんね」と小さく呟いた。ただ、その声は洸へと届いていなかったかもしれない。彼はそれに対し返事はせず、少し話題が逸れていく。
「ただ…本当は判ってるよ」
「なにが?」
 弓月もゆっくり、洸の隣にしゃがみ。ひとまず目線の高さを合わせてみた。何より、こんな状況で見下ろしている状態は好きではない。
「俺の世界は今、これまで無かった物で溢れてる。特に大きなのは……独りじゃないって、最近は時々そう思える。キミのお陰でね」
「なんだ…やっぱりそうなんだ? なら良かったけど」
 そして洸を見れば、彼はジッと地を見つめていた。
「でもね、ただ…それだけなんだよ。結局痛みが俺を現実に引き戻す。キミという光が入ってきた分、それを理解してしまった分闇は狭く、けれど濃くなって俺を虚無の世界へと誘って行く。考える事もまともに出来なくて。もう自分の中で何が嘘かも判らない。どれも本当で、どれも嘘なのかもしれない」
 気のせいなのかもしれない。けれどどこか、内心静かに混乱している様子が伺える。
「大丈夫、だよ。だってさっき嘘はナシって、それで今話してくれたんでしょ? ちゃんと理解できてると思うよ」
「でも今日が初めてじゃない。俺は多分、これから先もキミに平気で嘘をつき続けるのだと思うよ」
「見破れるかもしれないし、見破れないかもしれないね」
 弓月は小さく苦笑を浮かべ、けれどすぐさまかぶりを振り「でも」と続けた。
「必要性のある嘘なら……その嘘に理由があるのならば。騙そうとかしての嘘は嫌だけど、そういうものならば多分誰でもつい、吐いちゃうものだと思うよ。それが絶対いいってわけでもないんだけど…だから――」
「もう、帰ろう」
 言葉は途中で遮られ。洸は同時に立ち上がる。
「明日からはまた、今日休んだ分取り戻せるよう行くんだしね」
「…うん」
 頷き、弓月も立ち上がった。ただ、そこに少しの変化を見た。
「行くよ?」
 いつもならば先を行く彼は、立ち上がったまま。そこで動きを止めていた。そして少しだけ弓月を振り返り。その姿は返事を待っているように見える。
「……うん、大丈夫! もう、帰ろう。少し寒くなってきたし」
 そう言い弓月が洸の隣に並ぶと、彼はゆっくり歩き出す。
 まだ昼を回ったくらいのはずだが、先ほどまでは過ごしやすいと思っていた辺りの気温がグッと落ちた気がした。
 勿論洸もそれには気づいていたようで、結局すぐ足を止めると空を見上げる。
「雪が…降りそうだね――――」
 つられ見上げた空は灰色で。確かに今にも降って来そうな予感はした。
「もうそんな季節なんだねぇ」
 呟くと、隣で洸が笑みを浮かべた気がする。

 二人が出会った頃。確かに暖かい季節とはいえなかったが、今よりはまだ温かい時だった。
 行き倒れだった洸と、それを見つけ介抱した弓月。別れと繰り返し交わされた何通ものメール、そして再会。
 共に同じ旅路を行く関係になり。互いにゆっくりと、何かを知り、何かを覚え……そして何かを感じ。
 きっと、出会った頃と今の状況は少し違うはずだった。
 そう、思っていた。
 不意に、再び歩き始めた洸がその歩みを止める。今日の彼はやはりいつもとは少し違う。
 「どうしたの?」と弓月が問えば、彼はそっと隣に立つ彼女を見て。
「よくは覚えてないんだけどね。俺がいつか見たあんな風花を……弓月さんと見たいと思うよ」
 言うや否や、やはり今まで通り早足で先へ先へと行ってしまった。
 残された弓月は一人。今の言葉の意味と、何か違和感に頭を傾げ。その理由の一つに気づくとその場であたふたと動揺しながらも、洸の背を見失わぬようにと後を追う。なんと言っても彼を追いかけてここまで来たのだから、どの道を戻れば良いなど全く判らない。
 本当に、目が見えていない故感覚は鋭いのか。洸は初めてのはずのこの土地を、良く分かっている歩き方をしている。ただ、そんな彼に追いついても弓月は何か話しかけるきっかけを見出せなかった。
「……本当にね、きっと今だから此処まで言えるんだと思うよ。ずっと、どうしてこんな俺に近づいてくるのか、分からなかった。でもね、今はこうして隣に居るのがキミで良かったって思うよ。こんなわけのわからない旅にずっと同行してさ……」
 追いついてきた弓月に洸がそう言うと、彼女は複雑な表情を浮かべながらも、最後には少し照れたような笑みを浮かべる。そんな彼女に、淡い笑みを浮かべていた洸はその表情を普段の物へと戻し言った。
「だけど、これだけは約束して欲しい。もしこの先俺に何かあっても無茶はしないって。キミって目を離すと何やるか少し判らなさそうだから……ね。それだけは、良いかな?」
 そう言うということは、その可能性が何処かにあるという事になるのか。そっと考えるが、弓月はそれを口には出さず。頷いた。第一に出会った頃の彼ならば、こんなことは言わなかったと思う。
「……分かった。今は、約束するよ。でもそんなの状況次第の気もしちゃうんだけどね? 考える前に行動起こしてる事だってあるだろうし。それを言うなら洸くんにだってあんまり無理しないで欲しいな」
「それをなるべく控えて欲しいのだけど…まぁ、良いよ。俺も出来る限りは無理しないって、じゃあ約束。破ったら、俺はキミを嫌うかもしれないし、俺が破ったら俺を嫌いになってもなんでも良いよ」
「っ…ホン、ト? いや、嫌いになるかどうかは……アレなんだけどね」
「本気か冗談か、キミなら分かるんじゃない?」
 口の端を僅かに上げると、意味ありげな笑みを浮かべ。洸は目を伏せ弓月に次々と言葉を投げかけた。
「まぁ、とにかく無茶はしないでよ? はい」
「はい?」
 そう言い弓月の前に差し出されたのは洸の右手、基右手の小指。
「嘘吐いたら針、千本呑ますからね」
「…ハリセンボンなんだよね、ホントは。うう、でもなんだろうと呑まされそう…か」
 洸には聞こえるかどうか、ギリギリの声を出し。けれど弓月も素直に右手の小指を差し出した。
 ゆっくりと絡まる小指は優しく、ただ一度ギュッと結ばれると洸の方から離れていく。
 一瞬結ばれた部分だけは、この寒さの中少し暖かく。けれどゆっくりとその体温は正常へと戻されていく。残されたのは、胸の奥に残る温かさ。


 宿まで戻ると、彼は既にいつもの彼だった。
「それじゃ、又明日迎えに来るから。それまでに支度を整えといて。遅れたら……許さないよ」
「はーい。でも、又夕食でね?」
「……あぁ、そうだね」
 そして最後に笑みを浮かべながら部屋へと入っていった洸の横顔を、弓月は見逃しやしない。そして自分もと、隣の部屋のドアを開けた。

 明日から又同じことが繰り返されていく。前へ前へと。雪で足が進まなくなる前に距離を稼ごうと。少し休んでは三人、他愛も無い言葉を交わし。
 けれど、その晩降り始めた雪は、この季節にしては少し早いくらいだというのに止むことは無く。出発の日、カーテンを開ければ外は一面の銀世界。もう吹雪いてこそいないが、完全に足を取られる環境にはなっていた。
「うわぁ…凄い!」
 宿を出た弓月は、隣に立つ洸と後ろで眠気眼を擦る柾葵を見て、開口一番そう言った。
「土地柄にもよるのだろうけど、この時期にしては去年より雪が多い……もしかしたら」
 洸はただ一言、呟く。隣で柾葵が頷いていた。多分雪の話についてなのだと思う。



 温もりは互い、まだ少しだけ奥に残っている。触れた感触も。交わした約束の内容もちゃんと覚えてる。
 けれど、それを――互いに守れるのかどうか。
「また降って来たか」
 降り積もる雪は、交わした約束の上にさえも降り積もり。全てを白く、書き換えてしまいそうで少し怖い。
「二人とも頑張って行こうね!」
 それ故不安な分だけ更に声を上げ、明るく。そんな彼女だから尚更、洸にとって弓月という存在は――光になりえたのだと思う。

 昇る三つの息。雪を踏みしめる足音。残る足跡。それはやがてちらつく小雪が降り積もり消えてしまうが。時折交わされる会話。
 三人を取り巻く環境は日々、ただゆっくりと変わりゆく。
 ただこの数日後から、洸の足がまるで何かに導かれるよう。ただ一つの方向へと進んでいることに、二人はまだ気づいてはいなかった。



「近い…あなたが……近くに居る、気がする――――」

  ――――こうして誰かと約束を交わすのは二回目だった。
   左耳がまた、焼けるように痛い。
    風花の舞う日――あの日が共有した記憶、最後の日…‥。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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→PC
 [5649/藤郷・弓月/女性/17歳/高校生]

→NPC
 [  洸・男性・16歳・放浪者 ]←only
 [ 柾葵・男性・21歳・大学生 ]

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、いつも色々と有難うございます。亀ライターの李月です。雪月花2.5洸編へのご参加、有難うございました。
 感情優先という形で、会話ばかりでしたが大きなイベント的出来事が2つ。どちらも好感度によるもので、ゆびきりイベントは後のストーリーに大きく反映となります。この約束はひとまず曖昧な物なので、その状況に置かれたとき守るも破るも最終的にはPCさんの自由です。どちらの行動をとっても、それは何かしらの方向へと大きく動くと思われます。
 今回は別名洸の過去シナリオなのですが、そこにはあまり触れられず今がメインとなりました。しかしなにやら、気づけば洸は弓月さんとの会話が億劫ではないようで。弓月さんの行動言動も大丈夫かな…と思いつつ、何かありましたらご連絡ください。

 さて、これが今年最後のゲームノベルということで。又来年もご縁がありましたら宜しくお願いいたします。
 李月蒼