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心霊写真激写スポット
ぱさっぱさっと、紙が落ちるような音がアトラス編集部内に静かに響いていた。編集長である碇・麗香(いかり・れいか)のデスクには、何十枚もの写真の山が出来ている。そしてそれを戦々恐々と見ているのは、今日も不幸そうな顔をした三下・忠雄(みのした・ただお)であった。
「はい、終り」
「あひゃあー!」
碇の声に、三下が奇妙な叫び声を上げる。デスクの上にある写真の山は、二つの箱の片方のみに入れられていた。その一つには『採用』の文字が、もう一つには『没』の文字が書かれている。そして写真の山は『没』の方に出来ていた。『採用』の箱には一枚も入っていない。
「もっといい写真、撮って来れないの?」
「無理ですー! これが限界なんですー!」
「言い訳無用。……そうだ。そういえば心霊写真を撮るのに最適な場所があったわね」
おうおうと泣く三下に構わず、碇はデスクの引き出しの中から一枚の地図を取り出した。その地図を三下に無理矢理持たせる。
「そこはね、良いも悪いも関係なく幽霊の多い場所なんですって。何でも、霊感のない人間でも何十枚と心霊写真が撮れるそうよ。そこならあなたでも迫力のある心霊写真が撮れるでしょ」
「嫌ですー! そんなところに行ったら死んじゃいますー!」
地図を持ってガタガタと震える三下に、碇はにっこりと笑ってカメラを押し付けた。
「行ってらっしゃい」
出版社ビルから出てきた三下は、碇から渡されたカメラを見下ろして溜息を吐く。そして地図の場所を確認して、また溜息を吐いた。だれか一緒に行ってくれる人を探そうにも、運悪く編集部内に暇な人材はなく、こうして一人で向かうことになってしまったのである。
「あああ……どうしよう……ホントに死んじゃうかもしれないー……」
ううう、と泣きながら、三下は両手で顔を覆ったまま歩き始めた。道行く人々が怪訝な目で三下を見て、道を開けて行く。と、その道に、本に目を落としながら歩く一人の男が現れた。男は三下に気付かず、三下もまた男に気付かぬまま、二人は正面衝突した。
「あぎゃっ!」
「うひゃっ!」
似たような声を上げて、二人が同時に尻餅をつく。
「あたたぁ〜。誰ですかぁ〜? ……おやぁ〜?」
「す、すみません! すみま……あ、や、八坂さん……?」
条件反射で大げさなほどに頭を下げる三下が顔を上げると、そこにいたのは、のほほんとした雰囲気の八坂・佑作(やさか・ゆうさく)だった。
「えーっと……さんしたさん……でしたっけぇ〜?」
「あの……みのした、です……」
「ああ〜、そうでしたっけぇ〜。すみません〜」
腰を擦りながら八坂が立ち上がり、三下の落とした地図を拾う。それを三下に返しながら、八坂は三下を覗き込んだ。地図を見ながら情けない顔をする三下に、八坂が首を傾げる。
「何かお困りのようですけどぉ〜、どうしたんですかぁ〜?」
「あ、えっと、その、実は……」
今日のおかずと書かれた本を小脇に抱えながら三下の話を聞く八坂は、三下がいつも以上に暗いわけに気付くと、ぽんっと手を打った。
「なるほど〜。それで今から心霊写真を撮りに行くんですかぁ〜。面白そうですねぇ〜。ご一緒して宜しいでしょうかぁ〜?」
「え?」
「何でしたらぁ〜私が代わりに撮ってあげてもいいですよぉ〜?」
にっこりと笑う八坂に、三下は仏とばかりに顔を輝かせた。
それは黒々しい木々が生い茂る森だった。地面には一面に苔がびっしりと張り付き、フワフワとしている。日が届いていないのと湿度が高いせいで、ひやりと肌寒い。そんな森の奥に、八坂と三下はそろそろと入り込んでいた。
「いやぁ〜なかなか雰囲気のある森ですねぇ〜」
「そそそそうですねー」
「ここで写真を撮ればいいんですねぇ〜?」
ビクビクとしている三下とは違い、八坂はのんびりと森を見回している。そして三下からカメラを受け取り、森にレンズを向けた。だが、シャッターを切ろうとして、ただの景色だけじゃあつまらないと気付いた八坂は、三下を振り返った。
「被写体がいないんですがぁ〜本当に……あぁ〜三下さんが被写体になればいいんじゃないですかぁ〜」
「ええー!?」
いいことを思いついたとばかりに八坂は三下にレンズを向ける。それをぶんぶんと首を振って断ろうとする三下だが、八坂に強引に位置を直され、いかにも幽霊の出そうな木々の間に立たされた。
「三下さんいいですかぁ〜? ニッコリ笑ってくださいぃ〜♪」
言われて、引き攣った笑みを見せる三下を中心に、八坂がシャッターを切る。一瞬、明るくなった森の中に何か白いものが見えたような気がしたが、八坂は気にもせずに次の場所へと三下を移動させた。
「次は〜、ポーズをつけてみましょうか〜。はい、チーズ〜」
既に涙目の三下に無理矢理ピースサインをさせて、八坂は楽しげに写真を撮る。いかにも人が首を吊ってそうな丁度良い高さにある枝の下や、他は平らなのに妙に凹んでいる地面の辺り、見ようによっては血の跡にも見える染みのついた岩の隣などに三下を置き、八坂はバシャバシャと何十枚もの写真を撮って行った。
「やややや八坂さぁん……も、もう十分ですよぉ……そろそろ帰りましょうよぉ……」
「そうですねぇ〜。そろそろ暗くなってきましたしねぇ〜。帰りましょうか〜」
どんどん暗くなっていく森に不安の絶頂にあった三下が八坂に懇願すると、八坂は充分満足したような顔で頷いた。それに三下があからさまにホッとしたような顔を見せる。
「それではぁ〜早速帰って現像してみましょうよ〜」
ウキウキと森を出る八坂に、三下は写真が撮れたことよりも無事に森から出られることに幸せを感じていた。
二時間後。二人は店で現像して貰った写真を碇に渡し、その選別をして貰っていた。
「へぇ、結構ちゃんと写ってるじゃない」
「そうですかぁ〜」
にこにこと笑う八坂は自分の撮った写真が碇に褒められて嬉しそうである。碇も、予想していた以上に出来の良い心霊写真で、口元に笑みを浮かべている。が、当の三下はその写真の内容に顔を青褪めていた。
それは引き攣った笑いを浮かべる三下の周りに、沢山の幽霊たちが写っている写真だった。ある幽霊は三下の隣でピースサインを出し、ある幽霊は三下の首を絞めるように腕を伸ばし、ある幽霊は三下の右腕に抱きつき、また別の幽霊は三下の腹の部分から顔を突き出そうとしていた。
「これなら文句ないわ。良く撮って来たわね、さんしたくん」
「良かったですねぇ〜三下さん〜」
珍しい碇の褒め言葉に八坂が三下を見ると、三下は立ったまま白目を剥いていた。
「あららぁ〜?」
「…………」
そんな三下を見て八坂は困ったように頭を掻いたが、碇は上機嫌な笑みを消し、ばんっと机を叩く。
「さんしたぁ!! 気絶癖が治るまで撮り続けて来い!!」
「あひゃあああああっ!!」
碇の怒号と、三下の悲鳴が、出版社ビルに木霊した。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【4238/八坂・佑作/男性/36歳/低レベル専業主夫】
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ライター通信
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こんにちわ、ライターの緑奈緑です。
今回は『心霊写真激写スポット』にご参加下さいまして、有難う御座いました。
そして遅延申し訳ありませんでした。
頑張って執筆致しましたので、楽しんで頂ければ嬉しいです。
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