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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


読者プレゼント★当選


★オープニング★

「…わかりました」

そう言い、電話を切ると、見目麗しきアトラス編集部編集長、碇麗香の眉間に皺がよった。
そしてさらに、デスクにて手を額に当て、悩ましげにため息をつく。
いや、本人はただため息をついているだけなのだろうが、周りから見れば憂いを帯びたその表情も美しくみえる。
が。
その麗香の反応に数人の編集員が気づくも、「触らぬ神に祟りなしっ!」との如く、誰も近寄ろうとはしない。

間もなくすると、いつものような状況に陥るわけである。

「ちょっと、三下くん?」

ニッコリと、しかし明らかに作り笑顔で三下忠雄を呼ぶ。
三下は条件反射の如く、「は、はいぃっ」と作業を取りやめ麗香のデスクに駆け寄った。

「先々月号の読者プレゼント企画、覚えてる?」
「はっはいっ。あの…『不思議体験一名様プレゼント』ってヤツ…ですよね」
「そう、それ。当選者を発表し、その当選者にアポは取れたの。
 で、肝心の『不思議体験』を行ってくれる、気功で空中浮遊させるおじいちゃんのアポも取れた。」
「は、はぁ」
三下が相槌を打つ。

「だけど、ね。そのお爺ちゃん、ギックリ腰になっちゃって来られない、って言うのよ」
「は、はぁ。」
「ってなわけで、不思議体験をさせてあげられる人物を今すぐ探してきて頂戴っ。
 当選者がアトラスを訪れるのは明後日。」
「え、な、なんで僕がぁ・・・・」

ギロリ。
麗香の目が光る。

「さささささ探してきますぅぅっっ!!」

ダダダダッ!と三下は外へと猛ダッシュしたのであった。


★救世主★

ダダダっと勢いよく編集部を出たものの、三下はトボトボと歩いていた。
「そう簡単に不思議な現象が起こせる人なんて見つかるわけないじゃないですかぁ…」
肩を落とし三下は歩いていた。
時刻は、もう昼過ぎ。
足も疲れたし、お腹もすいたし…と、三下はコンビニでお弁当を買い、公園のベンチででも食べよう、とやや大きめの公園へと向かった。

ベンチに座り、フと周りを見渡すと、公園内にあるちょとしたステージに一際大きな人だかりが出来ていた。
そして、時折聞こえる歓声。
なんだろう?芸能人でもいるのかな?…そう思いつつ、三下も荷物を持ったままその人だかりの輪の中に吸い寄せられていく。

場の中心にいたのは、志羽・翔流(しば・かける)。

「さぁさぁさぁ、今までのジャグリングとは打って変わって、ここからは和の、生粋の日本の大道芸をとくとご覧あれ〜!」

笑顔で威勢よく声を張り上げる翔流に、三下も思わず身を乗り出す。
和傘を使い升を回転させる、というよく見る芸は勿論のこと、その応用で見ていた観客を巻き込んで、観客の帽子や靴まで器用に和傘で回す。
周りからは拍手喝采!
「よぉし、次は何を回そうかぁ?…ん、そこのお兄さん、もしかしてそれ、今日のお昼ご飯?」
突然話を振られてビックリした三下は、オドオドしながらも「は、はいぃ」と答える。
「ちょっと借りるよ」
そう言い、翔流は三下が購入したコンビニ弁当を借り、和傘の上でクルクルと回転させる。
「ああああああ、僕のお弁当が〜!!!!!」
周りの観客もドキドキと見守る中、翔流はフィニッシュにお弁当を和傘で高く放り投げ、手で受け取る。
そして、それをニッコリと三下に返す。

「あ、あれ?全然中身が寄ったり崩れたりしてない!!」
思わず周りの観客にコンビニ弁当を見せる三下に、
「そんなことぐらい、朝飯前だぜっ…って、そいつは昼飯か」
と、翔流は笑いながら答えた。

「それじゃあ、今日の最後の芸…心して見てくれよっ」
翔流はそう言うと、和傘をしまい、愛用の金色鉄扇・風閂(かんぬき)を取り出す。
「ちょぉっと離れててくれよぉ…」
そう言い、鉄扇を開くと同時、扇から水しぶきがあがる。
噴水状、霧雨状と翔流がポーズを変えるごとに流れる水も形を変える。
勿論、種もしかけもあるようには見えない。

最後に、盛大な花火のように水を高く上げると、翔流は観客に向かって一礼をした。
その一礼と同時に、翔流の背後にザザーーッと水が落ちる。それはもう、素晴らしいタイミングで。


拍手喝采は勿論、たくさんのおひねりが翔流が置いておいた缶に投げ込まれる中、三下はしばし翔流の姿を見ていた。

「これだ!!大道芸だって、立派な不思議体験じゃないか!」

そう思った三下は、帰り支度をする翔流に声を掛けた…。


★ご相談★

「と、いうわけで」

アトラス編集部編集長、碇・麗香(いかり・れいか)が、集まった三人の男性、鈴森・鎮(すずもり・しず)、宇奈月・慎一郎(うなずき・しんいちろう)、志羽・翔流(しば・かける)を前に、改めて趣旨を説明する。

「まさか、ボランティアで三人も集まってくれるとは思わなかったわ。感謝するわ」
と、ニッコリ微笑む麗香に、「ボランティアぁ!?」と声を上げたのは翔流。
「なぁ、三下さん、あの時したギャラの交渉はっ?」
麗香の隣で縮こまり、今にも泣き出しそうな三下がフルフルと震えている。
「あ、あの、気孔のお爺ちゃんの分のギャラが回ると思ってたんですが…」
「あたしは、ギャラの話なんてしてなかったわよね?三下くん?」
ギロリと横目で三下をみやる麗香。
「そういうわけで、申し訳ないけど、三下くんのポケットマネーからギャラは貰ってちょうだい」
「ん〜〜、まぁ、三下さんがくれるっていうんなら…」
翔流が三下を見ると「わ、わかりましたぁ」と返事をする。勿論、涙目だ。

「でもさ、なんで体験は明後日なのに、今呼び出されたんだ?俺は暇だったから別にいーけど」
「そうですよ、大切なランチタイムの時間を割いて来ましたのに…」
そう麗香に訴えるのは鎮と慎一郎。
それに対し、麗香が返答する。

「勿論、その不思議体験がかぶらないためよ。そして、不思議体験は時間をずらして個々にやっていただくわ。
 その時間の打ち合わせ。あと、今回の体験者である当選者、和田・音彦(わだ・おとひこ)君の情報を与えておこうと思って。」
麗香はそう言いながら、簡単にプロフィールなどをまとめた書類を三人に手渡す。

和田音彦、16歳学生。平凡な都立高校生。
読者アンケートの内容によると、以前からアトラスを愛読しており、不思議な現象に興味は持っているのだが、自分がそのような現象に体感したことがない。
そのため、アンケートに応募。

「普通の少年…だな」
「アトラスを愛読、という時点で普通じゃない気もしますがねぇ」
翔流のつぶやきに慎一郎がポロリと発言をしてしまい、またも麗香に睨まれる。
「ま、とにかく面白そうじゃん♪俺、頑張るっ!」
ニコニコと、鎮が答えると、麗香もふんわりと笑顔で答えた。
「それじゃあ、明後日、書類に書いてある場所と時間集合で。三下くんが待ってるから、みんな、よろしく頼むわね」

その笑顔に見送られ、三人はアトラス編集部を後にした。


★ご対面 2★

鈴森・鎮との対面が終わった音彦は、いまだ満面の笑みで三下についてきた。相当楽しんだ模様である。
「それじゃあ、次は…」
三下がスケジュール帳を確認する。
「えっと、編集部を出て外に向かいます。行き先は、近くの公園です」
はいっ!と元気よく答えた音彦は、ヒョコヒョコと三下の後をついて行った。

その公園で待っていたのは、大道芸人、翔流。
「お、あんたが当選者の音彦かっ。待ってたぞっ」
ニコヤカに爽やかに、翔流が声を掛ける。音彦と年齢差は2つ程しかないのにも関わらず、貧弱そうな音彦と対照的に明るくまぶしい翔流に、音彦はやや恐縮した。
「あ、あの、和田音彦と申します、よろしくお願いいたします」
ペコペコと頭を下げる音彦。その横で、「それじゃあ、よろしくお願いします翔流さん」と、音彦以上に三下が頭をペコペコ下げる。
そんな光景に『似た者同士だな〜』と苦笑する。
「翔流さんは、大道芸人をやってるんですよ!凄いんですよ〜!!」
と、目をキラキラさせる三下に、『大道芸人?それは不思議体験じゃないんじゃないのかなぁ?』と言葉には出さないものの、やや不安げな表情になる音彦。
翔流はそんな音彦の表情をチラリと見、不敵に笑うと
「よぉし、そんじゃあ、俺のとっておきの芸を見せてやるぜ!!」
と、気合を入れた。

取り出したるは、扇。
「普通の大道芸は一通り出来るんだけど、今日は『俺にしか出来ない』大道芸を見せてやるよっ」
そう言い、翔流は扇を開く。
そして、扇から棒状に飛ぶ水。
「うわぁぁぁぁ、大道芸を見るのは初めてですが、凄いですっ!!」
まだまだ『翔流にしか出来ない』大道芸の域に達していないにも関わらず、音彦は感動している。一度見ているはずの三下も、やはり隣で感動している。

笑顔で演技しながらも、翔流は言う。
「おいおい、まだまだ感動するには早いぜ〜。こんぐらいなら、フツーの大道芸人でも出来ちゃうんだからな。こっからが本番だ!」
噴水状の水が、更に形を変え…
「えええええええええええええええっ!?」
思わず音彦は叫んだ。
噴水状の水が、徐々にカタチ作られていくのである。それは、小さな龍の形に。
「な、なんでっ?どうしてっ?」
目を丸くする音彦に、満足げな翔流。一度見ている三下も、なぜか満足げな表情だ。
「ふっふっふ、さらに〜」
扇を高く上げると、小さかった水で作られた龍…水龍の姿が、更に更に大きくなっていく。
翔流の身長をゆうに超え、迫力満点の水龍が扇の上で舞っている。
「うわぁぁぁぁぁぁ…」
言葉にもならない音彦。目はキラキラと輝いている。またもや、一度見ている三下も目を輝かせている。

「よし、それじゃあ最後にとっておきだ、見てなっ!」
翔流が、水龍に向かってフッと息を吹きかける。その瞬間、扇の上で舞っていた水龍が動きを止め、地上に落ちる。
否、落ちたのではない。
「こ、凍ってる…す、凄いです、翔流さんっっ!!!」
氷の彫刻と化した水龍に、大感激している音彦。
美しく、それでいて迫力、神秘的な魅力を兼ね備えた水龍の氷像。
「どうだ?俺の水芸は?満足できたか?」
笑顔で問う翔流に、音彦は更に笑顔で答えた。

「不思議なのは勿論、これはもう、芸術ですっ!!」
その言葉に翔流は微笑む。
「色んな公園で大道芸やってるからよ。来てくれたら、もっと色んなの見せるからな」
「はいっ、ぜひ伺いますっ!!」
ペコペコとお辞儀する音彦に満足そうな翔流。
そして、自分の手柄ではないのに三下まで満足げな表情だった、が。
「あ、いけない!もう次の…最後の不思議体験の時間ですっ。行きますよ、音彦くんっ」
「は、はい!ありがとうございました、翔流さんっ」
ペコリとお辞儀する音彦に、翔流は「またな!」と手を振った。


★それから数日後★

無事(?)に和田音彦に不思議を体験させることが出来た鎮、翔流、慎一郎の三人は、またしてもアトラス編集部編集長、麗香に呼び出された。
「三人とも、こないだはお疲れ様。助かったわ。」
そうお礼を言う麗香に、
「俺も楽しかったぜ!」
と明るく答える鎮。
「次に会うときにはもっと凄いもん見せたいし、精進しなきゃなっ」
と、嬉々として答えるのは翔流。
そして、なぜか全身包帯グルグル巻きの慎一郎と三下。

「そうそう、音彦くんから手紙が来たから、読み上げるわね。」

『アトラス編集部の皆さん、三下さん、鈴森さん、志羽さん、宇名月さんへ

 先日は大変お世話になりました、和田音彦です。
 皆様には凄く貴重な経験をさせていただいたり、拝見させていただいたり、と
 今までに見たことのない世界を垣間見ることが出来て、とても充実した一日でした。
 鈴森さん、今度は人間の形態でお会いしたいです!
 志羽さん、龍以外にも氷の彫刻は作れるのでしょうか?また見たいです!
 宇奈月さん、お体は大丈夫ですか?本当の夜のゴーントも見たい!とは思いますが
 それよりも宇奈月さんと三下さんのお体が心配です。

 本当に、不思議な体験を皆さんありがとうございました!
 僕、将来は必ずアトラスの記者になりたいと思います!
 そして、これからもアトラス愛読させていただきます!』

そう、満足そうに麗香は手紙を読み上げた。
「本当に、三人ともありがとう。また何かあったときはよろしくね」
ニッコリと笑う麗香に

『アトラス編集部員はやめておいたほうがいい…』

と思う、鎮、慎一郎、翔流プラス三下であった。


★END★


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2320/鈴森・鎮/男性/497歳/鎌鼬参番手】
【2322/宇奈月・慎一郎/男性/26歳/召喚師 最近ちょっと錬金術師】
【2951/志羽・翔流/男性/18歳/高校生大道芸人】

【NPC/和田・音彦/男性/16歳/夢いっぱいな男子高校生】

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■         ライター通信          ■
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はじめまして!新米ライター、千野千智と申します!
この度はこのような新人にPC様をお預けくださりありがとうございました!!

大道芸人な翔流さん…ワタクシ、大道芸を実際に拝見したことがありませんもので
イメージとかけ離れていたら申し訳ありません(土下座)
いやしかし、水龍、しかも凍って彫刻になる!というのは凄く綺麗だろうなぁ〜と
妄想にひたることができました、ありがとうございますッッ!!

ちなみに、個別部分が多くなっておりますので、もし気になりましたら
他のお二方の『不思議体験』もぜひご覧くださいませ♪

ご発注、本当にありがとうございました!
よろしければ、またお会いできることを願って…では!!

2005-12-08
千野千智