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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


不死の少女
 私の幼馴染は、死んだ。
 圧倒的な一撃の下で、瞬殺された。
 殺したのは、年端も行かぬ少女だった。

 私は幼馴染の彼が遺した日記を読んで知った。
 彼の家系はある悪魔に魅入られ、呪いをかけられてしまった事。
 始めは当事者である彼の家系に居る全員が空言だと言って信じなかったこと。
 その中で、ある少女が呪いを行使し始めたこと。
 それと共に、彼の家系に血みどろの戦いが始まってしまったこと。

 呪いの内容は『家系図に居る生存者を全て殺せば生き残ったものに永遠の命をやる』。
 呪いというよりは祝福に近かったのかもしれない。初めは。
 だが、一人の少女がそれに近道をしようとしたことで祝福は呪いに変わる。
 少女は家系図に居る親戚を殺し始めたのだ。
 初めは自分の親、兄弟を。
 次に、一番近くに居た遠縁の叔父さん叔母さんを。
 次に、よく遊びにいっていた母方の実家に居るおじいさんおばあさんを。
 少女は次々に親戚を殺していった。
 少女はつい最近、私の幼馴染をも殺した。
 だから、私は……あの子を殺してでもとめたい。
 だから、私はオカルト関係に詳しい人を探して、そして雇った。
 私の復讐はこれからだ。
 愛しい人を奪った罪、償ってもらうわ。

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 どんなことをしても止めて欲しい。
 そう言ってある二人の女性の元を訪れたのは少女だった。
 年恰好は中学生か、若しくは小学生にも見えるかもしれない。
 そんな幼い少女がどこか悲壮さを感じさせるのに、レイベル・ラブは少し不思議に思った。
 だが、ロルフィーネ・ヒルデブラントはいつもと変わらぬ調子で
「うん、いいよ♪」
 と彼女の申し出を快諾していた。

 完全に陽光を遮断した部屋で、レイベルとロルフィーネは彼女の依頼の詳細を聞いた。
 彼女の申し出とは『幼馴染を殺した犯人をどんなことをしても止めて欲しい』というものだった。
 彼女の幼馴染を殺した犯人は見た目は年端も行かぬ少女で、更に圧倒的な一撃を振るえる怪物で、そして不老不死を目指しているという。
 パッと聞いてみれば、それこそ空言のように聞こえる。
 だが、依頼主の少女が『私が撮りました』と言って持ってきた写真を見ると、確かに圧倒的な一撃というのは存在するらしい。
 写真に写っていたのは上半身と下半身を完全に分断された死体。
 そして、その切り口を見ると斬ったというよりは千切ったに近いような印象を受ける。
 つまり、この犯人は鋭利な刃物を使わずに人体を切断したことになる。
 その行動に必要な力というのも、易々とは想像できない。
 ……というのが普通の人間であるが、レイベルにしてもロルフィーネにしても、予想しがたい事ではなかった。
 レイベルは電柱で恐竜を殴り殺せるほどの力の持ち主で、ロルフィーネに至っては伝説の生物といわれても仕方ないであろう吸血鬼の一族であるというのだから、予想しがたいことなんてそうそうありえないだろう。
 不老不死の話も悪魔という非現実的な存在が飛び出してきているが、彼女らの前ではありえない話ではない。
「ふむ、なるほどね」
 依頼主の少女の話をざっと聞いたところで、レイベルが差し出された写真を見て唸る。
「大体、解った」
「要はその犯人の娘をボクがカプっとやっちゃえば良いんだよね!」
「それで彼女が止まるなら、私はそれでも構いません」
 依頼主の答えを聞いて、ロルフィーネは笑顔を輝かせて飛び跳ねた。
 その横でレイベルが依頼主の少女に尋ねる。
「で? 犯人に目星はついてるのか? 見当がつかないなら家系図を元に色々やろうとは思うが……」
「いえ、犯人の予想はついています。おそらく、彼女は今晩にでも行動を開始するでしょう」
「今晩にも、か。なら、事件解決は早いほうがいいだろう。早速こちらも行動を開始するとしよう。そろそろ日が落ちる」
 レイベルは腕時計を確認してそう告げた。

***********************************

「ねえ、レイベル。知ってた?」
「何がだ?」
 夜。街頭がなくても明るい満月の夜。傾斜の緩い上り坂を依頼主と共に二人は歩いていた。
 依頼主の少女は二人と多少距離を空けて前を歩いている。
『犯人が次に現れる場所に心当たりがある』ということなので案内してもらっているのだ。
 この道の人通りは少ない。と言うのも、無駄に坂道が長く、上った先にはただの空き地しかないため、ここを通る理由はそうそうないのだ。
 偶に遊び場を求めて子供が自転車をこいで上るが、こんな夜中にはそんな子供も居ない。
 静かな夜道をたった三人で言葉少なに歩いていたのだ。
 そんな折、ロルフィーネは得意げにレイベルに尋ねた。
「あの依頼主の娘、実はすっごい秘密があるんだよ?」
「……どんな?」
 端的に受け答えするレイベルに、多少不満を持ちつつもロルフィーネは自分の持つ情報を打ち明ける。
 ただ、前を歩く少女に聞こえない程度の声量で。
「あの娘、実は幼馴染と犯人の家系にある子供なんだって。だから、あの娘も悪魔の呪いがかかってるんだよ」
「……ああ、そうか」
 やはり淡白な反応。
 その対応に不満がいっぱいになったのだろう。
 ロルフィーネは可愛らしく頬を膨らませて不貞腐れた。
「もぉ! レイベルったらつまんない! もっとそれらしい反応してくれたって良いじゃない!」
「ああ、いや、すまない。驚いてはいる。そうなると私の立てた仮説も筋道が通ってくるからな」
「かせつ?」
 ロルフィーネは頬に溜めた空気を抜き、首をかしげる。
「ああ。どうにもあの少女、怪しいとは思わないか?」
「う〜ん、確かに隠してることが多いかもねぇ」
「私はそれほど詳しく調べたわけでもないから、確証を持っては言えないが、彼女の話にはおかしい点が幾つかあった」
「たとえば?」
「圧倒的な一撃、という犯人の攻撃をぼかした表現で表したのにも拘らず、犯人が殺した者の詳細、順序が正確すぎるだろう」
「うん、確かに」
「そして、彼女が見せた写真。アレを見るに、写っていた死体はまだ新しかったように思える」
「確かにねぇ。死体から流れてた血がカメラのフラッシュを反射してたしね。まるであの娘が殺したみたいだね!」
「つまりだ。私が言いたいのは……」
 はたと気付く。
 前を歩く少女が歩みを止めていること。
 そして、こちらを向いて薄く笑っていること。
「ねぇ、レイベル。知ってた?」
 先程と変わらぬ調子で、ロルフィーネが尋ねる。
「何がだ?」
 レイベルも変わらぬ調子で訊き返す。
「あの娘の家系に『茜』って言う娘が居るんだけど、その娘、自分の家族を殺して行方不明になってるらしいよ」
「ああ、ついでにあの依頼主の名前も『茜』だったな。つまり、私が言いたかったのはそれだ」
「面白い話をしてますね。私も混ぜてくれませんか?」
 そう言った依頼主の少女『茜』は狂気を混ぜた笑みを浮かべた。
 その手にはいつの間にか剣が。
 しかも、ただの剣ではなく、2メートルは超えようかと言う全長、がっしりとした刀身、重そうな外見等を持ち合わせた剣。
 ドイツ製の大剣、ツヴァイハンダーであることは、言わなくても解った。
「……やれやれ、何が悲しくて依頼主と一戦交えなければならないのか」
「いいじゃない! ボクとしては悪魔に魅入られた呪いの血の味が気になってしょうがないよ♪」
「まぁ良いさ。憑き物を落とすのも出来ないわけじゃない。……さて、治療を始めようか」

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 依頼は唯一つ。
 殺人を繰り返す少女を止めて欲しい。
 そう、私を止めて欲しかったの。

 親から虐待を受け、兄弟達からもイジメを受けていた私は、心底この家系が憎かった。
 親類の集会にも呼ばれず、悪魔が降りたことも知らされずに放置されてきた。
 まだ本当に子供の頃、一緒に遊んだ男の子の事を考えて、日々を過ごしてきた。
 ある夜、悪魔が私の前に降りてきて、呪いの話をしてくれるまでは、ただ虐げられる側だった。
 悪魔が降りてきてからは世界が変わった。
 私を虐げてきたヤツらに仕返しをする良い引き金になった。
 だから、それに身を任せた。後悔もしなかった。ただ、自分の気の向くままに歩いた。
 私が幼馴染のあの子を手にかけるまでは、自分を憎んだりすることはなかった。
 今となっては、自分が怖くて、憎くて、許せない。
 どういうことか、自分で自分に刃を突きつけることが出来ず、高いところから飛び降りても傷一つつかない。
 そして、私の意思に反して、私は殺し続けてしまう。
 だから他人に助けを求めた。
 そして、この二人なら……!

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 勢いよく地を蹴り、まっすぐに飛び込んできた茜。
 それを防ぐためにレイベルは地面に拳をたたきつけた。
 すると、地面のアスファルトが3メートル程度めくれ上がって茜の突進を防ぎ、更に一瞬ではあるが猫騙しの効果も得られた。
 だが、一瞬の隙が稼げればそれで良い。
 その隙にロルフィーネは影に潜り、機を窺う。
 茜の首元に噛み付く隙を。
 次の瞬間には茜の振るったツヴァイハンダーがアスファルトを砕いていた。
 アスファルトが砕け散り、茜の姿を確認したレイベルは茜の突進を迎え撃つように自らも地を蹴って突進する。
 振り切られた大重量のツヴァイハンダーでは返しの刃もそうそう速くは切り出せまい。
 案の定、茜はレイベルを迎え撃つことが出来ず、レイベルは何の抵抗も受けずに少女の腕を掴んだ。
 そして着地。
 茜の両腕を掴み、ツヴァイハンダーでの攻撃を封じたレイベルは、今この瞬間がチェックメイトのように笑った。
「貴女に悪魔が憑いてるなら落とすことも出来ただろうけど、ただ正気を失ってる精神患者じゃどうしようもないな」
「何!?」
「それに、私が何を言ってもきかなそうな娘も一人居るし、後は貴女次第ってところだろうか」
 レイベルはそう言った後、茜が繰り出した牽制の蹴りを避けて、二、三歩距離をとった。
 茜の方も距離をとって、ツヴァイハンダーの有効範囲内にレイベルを収めようとしたのだが、ふと気付く。
「……ロルフィーネが居ない」
「ぶぶー、ちゃんと居るよッ!」
 茜の呟きに応えて、ロルフィーネの声が響く。声の元は茜の真下から。
 予想外の展開に、茜はその場から離脱しようとするが、それよりも早くロルフィーネの手が茜を掴んだ。
 その腕の出現場所は茜の落とした影。
 影から影への転移が出来る、ロルフィーネならではの行動だ。
 ロルフィーネはすばやく茜の行動を封じ、そしてのど元をおいしそうに眺めた。
「さぁて、君はどんな味がするのかな?」

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 血を吸われた茜は倒れたまま、しばらく動かなかった。
「この娘をどうしたんだ?」
 レイベルがロルフィーネに尋ねる。
「え? 別に普通だよ? ボクが血を吸っただけ」
「血を吸うとどうなる?」
「う〜ん、ボクと同じで吸血鬼になっちゃうかな。あ、でもその場合、ボクの命令には絶対従うようになってるけど」
「……なるほど。だがこれからどうしたものか。この娘を殺すというのも……」
「じゃあボクが血を吸って、あの娘をボクの下僕にしたら良いんじゃないかな?」
 軽く、無邪気に言ったロルフィーネだが下僕という言葉の重みがどうにもぬぐいきれない。
「げ、下僕?」
「そう。あ、でも今からダメって言っても遅いよ? もうすぐこの娘も起きるだろうけど、その時には手遅れだから」
「じゃあ、どうしようもないか……」
「これならボクが命令しない限り誰も殺せないから、依頼はバッチリ成功だよね〜♪」
「……そういうことに、なるかな」
「やったぁ! 大成功だぁ!」
 無邪気にはしゃぐロルフィーネの横でレイベルはどうにも『これで良いのか?』的な表情を浮かべていたが、すぐに切り替えてどうにか納得したようだ。
 そして、茜が目を覚ます。
「あ、おきた?」
「……あ、あれ、私は……?」
「君はね、ボクと同じで吸血鬼になっちゃったの」
「きゅうけつき……?」
「そ。あ、でも十字架見せられても大丈夫だし、にんにくも大丈夫だよ。海も川も渡れるから安心してね。でも日光だけは気をつけないとダメだよ!」
「……は、はい」
 さっきまで殺気の塊だった茜がロルフィーネの言葉を素直に受け入れている。
 確かに、命令を聞くようにはなったようだ。
「……これで一件落着、ということで良いのか?」
「多分大丈夫だと思うよ? だって、この娘は止めたわけだし、ね?」
 その言葉に茜は黙ってうなずく。
「それなら私はこれで失礼する。後は人に迷惑かけないようにな、ロルフィーネ」
「わかってるもん!」
 レイベルの上から見たような物言いに多少不満を覚えつつも、ロルフィーネは茜の手をとる。
「さ、二人でご飯(人間)食べに行こ!」
 そして、二人は夜の街に消えていった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4936 / ロルフィーネ・ヒルデブラント (ろるふぃーね・ひるでぶらんと) / 女性 / 183歳 / 吸血魔導士/ヒルデブラント第十二夫人】
【0606 / レイベル・ラブ (れいべる・らぶ) / 女性 / 395歳 / ストリートドクター】


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■         ライター通信          ■
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 ロルフィーネ ヒルデブラント様、依頼にご参加ありがとうございます! 『ありえないなんて事はありえない』ピコかめです。(何
 デカイ武器を振り回したり、ロリっ娘が妙に書きたい時が誰にでもあると信じて疑いません。(ぉ

 思いも寄らず、ロリっ娘が二人になったことに一瞬にしてテンションマックスになった俺です。俺の血も吸っ(略
 レイピアによる刺突が書けなかったのがちょっと残念でしたが、女の子が女の子の首元を噛むという、なんともアブナイ展開が書けて幸せ絶頂なのも否定しがたい事実です。(危
 ともあれ、お気に召しましたら、またよろしくお願いします!