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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


『ストーカーを捕まえろ!』


【オープニング・草間興信所にて】

「ストーカーを見つけてほしい?」
 俺、草間興信所所長・草間武彦の前には、売れっ子アイドルの女の子がいた。
 暖房をずいぶんきかせているのだが、女の子はがたがたと震えている。助手の零が彼女の肩を支えているが、女の子の方は震えを押さえることができないようだ。
「実は今度コンサートをする予定なんですが、私の所属しているプロダクションにこんなものが送られてきたんです」
 そう言って、女の子は便箋と写真を俺の前に突きだした。
「こいつは……」
 さすがの俺も吐き気がこみ上げるようだった。
 アイドルの隠し撮り写真がずたずたに引き裂かれ、便箋には赤い血文字で、
『どうして君は他の男の前で歌うの? 君は僕のためだけに歌うんだ。もうがまんできない。今度のコンサートの日に、君を僕だけのものにしてあげる』
 と書かれている。これはあきらかに殺人予告とも受け取れる内容だった。
「お願いです。助けてください。わたしもう怖くて怖くて夜もまともに眠れないんです。コンサート当日、この人から襲われるかと思うと、レッスンにも力が入らないんです」
 俺は煙草に火をつけると、大きく息を吐いた。
「確かにイカレた奴のようだが、でもアイドルという職業をしていると、こうしたいやがらせなんてしょっちゅうあるって話じゃないか。君を困らせることに快感を得るような愉快犯の仕業さ。あまり騒ぎ立てない方がいいんじゃないのか」
「違います! わたし、本当に狙われてるんです!」
 女の子の悲痛な叫びに、思わず俺はたじろいだ。
「わたしの家に銃弾みたいなものが撃ち込まれたり、リハーサルの時に照明が落ちてきたりしたんです。しかも、その照明は何者かによって斬られた痕があったんですから。お願いです! 信じてください!」
 女の子は身を乗り出すと、俺の腕を信じられない力で握りしめてきた。彼女の目は血走り我を忘れている。よほど怖い目に遭ってきたに違いない。
「落ち着いてください。お兄さんはあなたの話を信じていないわけじゃないです」
「――す、すみません」
 零になだめられて、女の子はようやく俺から離れた。
「最近はストーカー絡みの事件も頻発しているからなんとかしたいが……正直なところ俺のような探偵よりも警察に頼んだ方がいいんじゃないか。最近はストーカー対策にも力を入れているようだし」
「もちろん警察の方にもお願いしました。でも、コンサート中はスタッフや関係者の出入りがはげしいですし、警察も舞台上までは入ることができません。もしスタッフの中に紛れ込んでいたらと思うと……」
「確かにそうだが……」
「だから、どんな事件でも解決してきた草間さんにしかお願いできないんです。お金なら用意しますからコンサート当日までわたしの警護をしてください」
 女の子は恐怖のあまり泣き出してしまった。
「お兄さん、なんとかしてあげて。このままじゃこのひとかわいそうです」
 零にも懇願されてしまい、さすがの俺もまいってしまった。このまま依頼を断って、彼女の身に何かあったら、それこそ寝覚めが悪い。
「わかった。依頼は引き受ける。コンサート当日までしっかり守るよ」
 半ば投げやりな口調だったが、女の子と零の顔がぱっと輝いた。
「ありがとうございます。お願いします!」
「さすがお兄さんです!」
 女の子はぺこぺこと頭を下げると、迎えに来たプロダクションの人間と一緒に帰っていった。
 依頼主が帰った後、俺は煙草に火を付けると、ソファに寝転がった。
「さて、どうしたもんかねえ」
 コンサート当日までは警察やらマネージャーやらが付きっきりで側にいるから心配ないだろうが、確かに何百人ものスタッフが出入りするコンサート当日は守るのが難しい。しかも、どこから狙ってくるかわからない相手に俺と零だけで守るのは少々無理がある。
「零。悪いが、護衛に使えそうな人員を集めてきてくれ」
「はい。お兄さん」
 零はかろやかに微笑むと、俺の前から去っていった。

【本編・コンサート当日】

「みんな、元気!?」
 コンサート会場に集まった一万人のファンは総立ちになっていた。
 アイドルの女の子の呼び声に、一万人の返事が地鳴りとなって返ってくる。アイドルの女の子は最高の笑顔を広げて歌を披露している。
 コンサート当日までストーカーへの恐怖に震えていたアイドルも、コンサート本番となると、不安な顔など微塵も見せなかった。
「今夜のバンドメンバーは最高の人たちだよ。みんなに紹介するね!」
 アイドルは振り返って、警備のために紛れ込んだメンバーに笑顔を向ける。
「ギター・唐島灰師!」
 スポットライトを浴びた灰師は、ギターソロで舞台の前に出てくる。煙草をくわえたクールな外見とは裏腹に、派手なパフォーマンスで観客の女の子たちの声援を浴びていた。
「ベース・五代真」
 真は灰師の派手なギターパフォーマンスにも、ベースをうまく合わせている。男らしく落ち着いたベースは、バンド全体をひとつにまとめている。
「ドラム・草間武彦!」
 武彦のドラムソロに、男性ファンからも歓声があがる。
「ダンサー・梧北斗と草間零!」
 北斗と零はお互いに息のあったダンスを披露する。北斗はブレイクダンスまで披露し、零はアクロバティックなダンスで会場をどよめかせている。
「そして、今夜の演出は加藤忍!」
 忍は音楽でも演奏するかのように、ステージの照明を華やかに彩る。
「みんな今夜はこのメンバーと一緒に最高の夜にしようね!」
 会場が熱気と歓声の渦の中にのみ込まれていった。

 コンサートはプログラムはとどこおりなく進んでいく。
 武彦に集められたメンバーたちは最高の演出と演奏をし、観客たちを興奮させている。
 最初はストーカーがいつ襲ってくるのかとピリピリしていたスタッフも、今夜集まったメンバーたちのパフォーマンスに酔いしれ、いつしかストーカーのことを忘れかけていた。
「みんなありがとう。今夜は最高の夜だったよ」
 だが、フィナーレを迎えようとしたそのとき、待ちかまえていた事態が起きた。
「―――っ!!」
 突然、会場の中心で爆発が起き、観客たちが絶叫をあげた。
「花火だとぉ!?」
 コンサートの演出のために用意された花火を、何者かが観客席の真ん中で爆破させたのだった。
 爆破した花火は七色の光を放ちながら、四方八方へと飛んでいく。
 そのひとつがアイドルへと花火が炎の塊と化して襲いかかる。
「あぶないっ!」
 武彦はドラムからアイドルの元へと駆け寄って彼女を抱き寄せる。
 そのとき、灰師が武彦とアイドルの前に立った。
「楽しくなってきたじゃないの」
炎の塊が目の前にあるのに、灰師は笑みを浮かべていた。彼が腕を炎の塊へと向けると、演出のために用意されていた水が水鉄砲のように火花へと向かい、火花を打ち消した。
「灰師。助かった」
「別にあんたのためじゃないよ。零ちゃんによろこんでもらいたいだけさ」
 そう言って、灰師は零にウインクをする。
「それよりも、そんなこと気にしてていいわけ?」
 灰師にうながされて顔をあげると、観客席は大混乱に陥っていた。最前列の席の観客は背後から押し寄せる人並みと鉄柵にはさまれて悲鳴をあげている。
「やばい。このままじゃ鉄柵に肺が圧迫されて最前列の観客が死ぬぞ」
 観客の恐慌をおさえなくては、観客の中に多大な犠牲者が出る。
 恐慌に陥った観客を警備スタッフがおさえられるわけもない。このまま観客に大勢犠牲者が出るようなことがあれば、アイドルの女の子の歌手生命にもかかわる。
「なんて卑劣な手を使いやがるんだ」
 真もストーカーの考えを察したらしく、怒りをあらわにしている。
『草間さん。アイドルの彼女にみんなに呼びかけてもらってください』
 そのとき、武彦の無線に忍からの声が聞こえた。
「なんだって? どういうことだ」
『彼女は観客にとっての心の支えだ。彼女が説得をすれば、観客たちの心に響く。彼らの心を冷静にさせれば、誰も犠牲者を出さずにすむってことですよ』
 忍の提案はうなずけるものがあった。だが、こんな悲惨な状況を前にして、アイドルの女の子が冷静に観客たちを説得できるか疑問だった。
 武彦がアイドルの女の子を見ると、彼女はがたがたと震えている。彼女も耳の無線機から忍の提案は聞こえている。
「わ、わたしにはできません。こんな状態を鎮めるなんて」
『いいですか、お嬢さん。これはあなたのために集まった観客なんですよ。あなたは自分のせいでファンを死なせてしまってもいいのですか? あなたはあなたのできることでファンのひとたちを守るべきなんです』
 のんびりとしていたが、忍の口調には強い意志が込められていた。
「……わかりました。やってみます」
 忍の説得に背を押され、ゆっくりとアイドルは立ち上がる。
 舞台のライトが歌でも奏でるかのようにはげしく明滅した。それに合わせて灰師や真が演奏を始める。北斗や零もダンスを披露して演奏を盛り上げていく。
 混乱していた観客たちも一瞬、何事かという立ち止まった。
 アイドルの女の子はゆっくりと立ち上がってマイクへと向かった。
「みんな落ち着いて! まわりをよく見て! わたしは今この場で誰も死んでほしくないの。お願い! まわりのひとたちを助けてあげて!」
 アイドルの説得に応じて、観客たちの混乱は落ち着いていく。
 やがて我に返った観客たちは自主的に火花で怪我をした観客や、押しつぶされてもみくちゃにされた子供を助け始めた。
 ようやく落ち着きを取り始め、武彦は安堵の息を吐いたが、
「おい! この花火はストーカーの仕業だ。彼女を殺すための仕業だ!」
 観客席の中で誰かが叫んだ。その途端、鎮まりかけていた暴動がふたたび起き始めた。
「俺たちの手で彼女を守るんだ!」
 誰かの声に押されて、熱狂的なファンが口々にアイドルの女の子の名前を呼びながら、舞台へと駆けてくる。しかし、ストーカーが誰かもわからない以上片っ端から殴りつけるわけにもいかない。
「一気にあいつらの水分を奪って動けなくてしてやろうか」
 くすりと灰師は悪意に満ちた笑みを浮かべる。
「灰師。無関係なやつを巻き込むな」
 武彦の叱咤の声に、へえへえ、と灰師は緊張感のない声で答える。
「だったら、俺に任せてよ。火月!」
 北斗は懐に忍ばせていた結界符・火月を飛ばす。
 火月は舞台の袖に張り付いた瞬間、炎が走り、舞台の前方をふさぐ。
 舞台にあがろうとしていた連中たちは結界の炎にはじき飛ばされていた。
「これでしばらくは誰も入れない。いまのうちその子を舞台袖に連れていってよ」
「わかった。零。彼女を舞台から連れていくんだ」
「はい。お兄さん」
 零は恐怖に震えているアイドルを抱きかかえると、舞台袖へと連れていこうとする。
 その瞬間、天井から火花が散った。
 顔を上げれば、舞台の天井から大きな支柱が落下してくる。
「あぶない!」
 とっさに零はアイドルの女の子を突き飛ばした。落下してきた支柱は地鳴りをあげ、零を巻き込んで舞台の床に突き刺さる。
「零!」
 武彦が近寄ると、零は鉄柱の隙間に挟まっていた。だが、さすがに頑強な零も巨大な鉄柱を支えられるはずもなく、腕がひしゃげている。
「だ、大丈夫です、お兄さん。それよりもあの子を守ってあげてください」
 くそっ、と武彦は毒づいた。相手は相当いかれた奴のようだ。
 アイドルも含めてバンドのメンバーは完全に舞台に閉じ込められている。しかも、北斗が食いとめているものの、目の前からはいつ暴徒が押し寄せてくるかわからない。
「この状況でどこから……、どこから襲ってくる?」
 武彦は必死にあたりを見回す。先ほどファンを誘導したのはストーカーの仕業だろう。けれど、もうストーカーがそこにいるとはかぎらない。どこかでアイドルを狙っているはずだ。
 舞台袖で心配そうにこちらを見ているスタッフ。
 観客席で混乱している観客。
 暴徒と化した熱狂的なファン。
 だが、人数が多すぎて、犯人がどこにいるかわからない。
『草間さん。後ろだ!』
 無線機からの怒声に振り返れば、スポットライトが舞台の背後を照らしている。垂れ下がった薄い幕には確かに人影を映しだしていた。
「ちぃっ!」
 幕の中で誰かが叫ぶと、突如幕が裂かれて中から小男が飛び出してきた。
「もう少しでボクのものにできたのに。みんなみんなおまえらのせいだ!」
 小男はナイフを振りかざすと、一気にアイドルの女の子を目掛けて襲いかかってきた。
「きあああっ!」
 銀色に輝くナイフがアイドルの女の子に突き刺さる。
 だが、真が身を挺してナイフを受けとめた。
「なっ!?」
 鋼のような真の肉体に、ナイフは突き刺さらない。
「残念だったな」
 あぜんとするストーカーを、真は気を練ったベースで殴り飛ばした。
「ぐはっ!」
 まるでゴム玉のように吹き飛び、鉄柱にたたきつけられた。ずるずると崩れ落ちたストーカーに武彦が近づくと、彼はもう白目を剥いて意識を失っていた。
 一瞬、コンサートホールが沈黙に包まれる。
 だが、次第に観客席のどこからともなく拍手がわき上がった。
 やがて拍手は歓声に代わり、コンサートホール全体を揺らしたのだった。

       *

「やれやれ。疲れたな」
 月夜の中、北斗は腕を回しながらコンサートホールを後にした。ストーカーを捕まえることができたわけだが、明日からまた退屈な高校生活が始まる。
「待って、梧君!」
 突然呼びかけられて振り返れば、学校のクラスメイトの女の子たちがいた。
「梧君がダンサーとして出演していることにびっくりしちゃった」
「まあ、特別ゲストとしてね」
「今度学校の文化祭でも梧桐君のダンスを見たいよ」
「お呼びがかかれば、いつでも披露してあげるよ」
「ほんと? わたしたち絶対に今度の文化祭でダンス大会を開いてあげるから」
「わかった。楽しみにしてる」
北斗はクラスメイトの女の子たちと共にダンスの話で盛り上がりながら帰っていった。
 これからもまだまだ楽しい毎日は続きそうだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
参加していただいたPCのみなさま
 4697/唐島灰師/男性/29歳/暇人
 1335/五代真/男性/20歳/バックパッカー
 5693/梧北斗/男性/17歳/退魔師兼高校生
 5745/加藤忍/男性/25歳/泥棒

登場したNPC
 A001/草間武彦/男性/30歳/草間興信所所長、探偵
 A015/草間零/女性/不明/大日本帝国軍決戦兵器・霊鬼兵

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございました。
 今後もみなさまに楽しんでいただけるようなゲームを提供いたします。
 今後も引き続きよろしくお願い申し上げます。