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怪しい石
【オープニング】
怪奇現象用サイト・ゴーストネットOFFへの書き込みは、つまり以下のようなものだ。
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件名 怪しい石があるんだ
投稿者 ちょっと怖いかも
あのさ、●◎○公園に、前はどっか違うとこに記念碑的においてあったけど、そっちが潰されたからって移動させられてきた石あるじゃん。あの石気味悪くね? 近く通ったらすごい気持ち悪くなったんだ。俺だけ?
件名 Re.怪しい石があるんだ
投稿者 abc
知ってる知ってる!私も気持ち悪くなって、ついその石にもたれかかったら背筋ぞお〜ってした。それでさそれでさ、ちょっと裏側見て見たんよ。そしたら赤い字で……「タスケテ」とか書いてあって!うっわ、ベタだよベタ!
件名 Re.Re.怪しい石があるんだ
投稿者 同感
僕も見たよ。近くにいったらちょっと吐くかと思った。それで僕も石の後ろ見たけど、僕が見た血文字は「タスケテ」じゃなかったな。「コレヲ ドカシテ」だったよ?
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「『タスケテ』に、『コレヲドカシテ』ねえ……」
瀬名雫はふーむをうなった。「いたずらにありがちな言葉っちゃー言葉よね。でも……」
みんな近寄ると気持ちが悪くなるという。
「怪奇現象の可能性……大!」
雫は歓喜の声をあげて、「さあ、誰かと一緒にたしかめにいこうっと……!」
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そのときたまたまインターネットカフェにいて、雫の燃える気合に巻き込まれた被害者――もとい協力者は二人。
門屋将太郎(かどや・しょうたろう)と阿佐人悠輔(あざと・ゆうすけ)である。
「ねっねっ、二人とも、気になると思わない〜?」
サイトの例の書き込みを見せながら、雫は二人の男性に向かって興奮した声で言い続けた。
分かった、分かったと唯一の二十代、年長者の落ち着きを見せながら将太郎がなだめた。
「石の裏に『タスケテ』と『コレヲドカシテ』の血文字か……それって、その石のメッセージだったりして」
彼はとんとんとディスプレイを指で叩きながら、「その石の下に死体があるよ、とか言いたいんじゃないのか?――というのは俺の推測に過ぎないんだけど。たしかに怪奇現象の可能性大だ」
「でしょでしょ!」
興奮して雫がぱたぱたと足を暴れさせる。
「その問題を解決して、その公園に静けさを取り戻すしか解決法がなさそうだな……」
将太郎が悩むように言うと、
「まずは事実をたしかめに行くべきじゃないですか?」
少しばかり人とは一線を画したような雰囲気で、十八歳の悠輔がさらりと言った。額に巻かれた赤いバンダナが妙に映える。
そりゃあそうだな、と将太郎は苦笑した。
「んじゃ、まずはその石の調査からだ」
解決する前に、理由を探るのもひとつの方法だ。そう言って、将太郎は雫と悠輔の顔を順ぐりに見る。
歳下の二人は、そろってうなずいた。
まず雫がインターネット上で調べられることを調べる。主に石に関係しそうな事件の類だ。
足で石のことを聞くのは、将太郎と悠輔の仕事となった。
とりあえず、後で雫も来ることを約束してから問題の公園に来てみることにする。
「どの石だ?」
将太郎が公園をぐるりと見渡した。
「……あれじゃないですか」
悠輔が一点を指差した。
公園の、本当に隅っこ。植樹された場所の、一本の樹の根元に置いてある、不自然に大きな石。
夕方のこの時間帯、公園は人が多かったが、うわさが広まっているのかその石の周辺にだけは人気がない。
「過去の経歴を確認して、現場の状況を確認した上で動かないと」
悠輔が難しい顔をして言う。
将太郎は「同感」と視線を石から、公園にいる他の人々へと移した。
「近づく前に、公園にいる人たちに話を聞いてみるか」
石について知ることは、そう難しいことではなかった。
石――一応前に置いてあった建物の完成記念碑だったらしいが、その建物が取り壊されてこの公園に移されたらしい。それが一ヶ月前。
建物のほうに記念碑としてあったときは、ふつうに人々も触れることのできる、ただの石だったらしい。
それが――この公園に来て、化けた。
怪奇現象が起こったのは、ここに移されてすぐだったようだ。
「ふむ」
将太郎は腕を組んで考えこんだ。「ネットの書き込みと一致するな。やっぱり本物か」
「近づいてみなくては分かりません」
「さっきから正論ばっかり吐くなよ。あー……瀬名の嬢ちゃんが来るまでと思ってたんだが、まあいいか」
二人はそっと石に近づいた。
近づくにつれて、徐々に何かがのしかかるような気持ち悪さが襲ってくる。
「うっわ……相当きついぞ、これ」
「……本物ですね」
悠輔も少しばかり驚いたようにつぶやく。
石にたどりつくころには、二人とも顔が青ざめていた。
「こりゃ石のそばにいるのも一苦労だなあ」
将太郎が石に片手を置いてため息をついた。
「触っただけじゃ何も起こらないみたいだな」
「………」
悠輔は早々に石の裏側に回っていた。その視線が上へ下へと忙しく動く。
将太郎が何となく悠輔の動きを見守っていると、悠輔はやがて眉をしかめてしゃがみこんだ。
「どうした?」
将太郎がかがみこむ。
「血文字が……」
悠輔が言いかけたそのとき、
「ふったりっともー!」
公園の入り口から、雫が駆けてきた。
二人は顔をあげた。視線をを合わせ、少女に「こっちに近づくな」と制するかどうかで一瞬迷ったが、怪奇現象大好き少女である。経験させておくのもいいか、と男性二人は無言で意見の一致をさせた。
「調べてきた……よ……うきゃっ」
雫にも大きく影響があったようだ。石に近づくなり、その顔が真っ青になり足ががくがく震え始める。
「ううう、ううう〜。ほ、本物……だね、これ」
「それっぽいな。――ほら、無理すんな、石から適当に離れろ」
「離れてちゃ調査報告が出来ないよお」
仕方なく、いったん三人で揃って離れる。
重いのしかかりから解放されて、三人は一斉に大きく息を吐いた。
「しんどいから早めに終わらせよう。……何が分かった?」
将太郎が雫に問う。
雫は強くうなずいて、
「あのね、ここ二ヶ月間ほどこのあたり……ここと、前の建物で事故とか事件とか、まったくないのよ。石を移す工事の際も何事もなく終了だって」
「よくネットで工事のことまで分かったな」
「うーん、サイトにさ、丁度『その石の工事に関わりました』って人のカキコが増えてたから。『そのときは何もなかったんですけどねえ……後から見に行って、何じゃこりゃと思いましたよ』って書いてあった」
「そりゃ都合いいね」
将太郎はにっと唇の端をつりあげて、それから悠輔を見た。
「んで、お前さっき何を発見したんだ? 血文字か?」
「血文字ですよ。噂どおりの血文字です」
悠輔はうなずく。将太郎が眉をしかめた。
「噂どおりってのは、どういう意味だ?」
「噂どおりの文字が書いてありますという意味です。噂どおり――『タスケテ』と『コレヲドカシテ』が」
将太郎と雫は目を見張った。
「二つともあるの!?」
「あった」
そう言って、少年はずんずんともう一度石に近づいていく。将太郎と雫は顔を見合わせて、少しだけ怖気ついたような足取りで悠輔の後ろを追った。
「見てください――」
悠輔は、まず石の上部を指差す。
疑いようもない。どす黒く変色してしまっているが、いかにも血文字的に『コレヲドカシテ』と書いてある。
「それから――」
悠輔はしゃがみこみ、石の大分下を指差した。
将太郎と雫は、苦労して石の下のほうをのぞきこんだ。
石の陰になって見にくいが、たしかに字がある。『タスケテ』と。
「多分かきこみで『コレヲドカシテ』を見たほうの人は、こっちの『タスケテ』が見えにくい場所にあったから、気づかなかったんだ」
「なるほど……でもひとり目の『タスケテ』を見たほうは――」
「『コレヲドカシテ』がすごく分かりやすい位置にあります。見えなかったはずがありません」
「つまり」
雫がごくりと喉をならした。「これ……時間差で書かれてるってことよ、ね?」
「それだけじゃない。書いた人間が違う可能性がある」
悠輔は真顔で言った。「あまりにも書いてある場所が違いすぎる……」
「なるほどな」
将太郎は腕組みをして、目を細めた。
「俺はてっきり、誰かが殺人を犯し、数人がかりで石をどけて、そこに死体を埋めたんじゃないかと思っていたが……少し違う感触だな」
「殺人!」
きゃあと雫が飛び上がった。そして石の圧力も加わって、くらりとふらついた。
慌てて将太郎が支えるが、雫は膝を震わせてまともに立っていられなくなった。
「い、いっけない、今の衝撃で体支えていられなくなっちゃった……」
「じゃあ俺にもたれてろ」
呆れた声で将太郎は言い、それから悠輔に向かって「どうするかね」と問いかけた。
「……できるだけ過激な解決方法は避けたいんです」
悠輔はぽつりと言った。「俺は……この血文字を書いた『誰か』を助けてやりたい」
「俺もだよ」
「わ、私も……よ!」
でも、そのためにはどうしたらいいのかな、と雫は将太郎の腕に支えられながら石を眺めた。
「やっぱり……石を移動させる?」
「移動させるだけでいいのかどうかだな」
「移動させただけでは、役所の人間が気づいたときに位置を直そうとするかもしれない」
悠輔は淡々と述べる。その視線が真剣だった。「こんな重い石を動かすためにそうそう役所が動くとは思いませんが……変に動くと、逆にさっき門屋さんがおっしゃったことと勘違いされるかもしれないでしょう」
「ああ……誰かが下に埋めるために石を動かしたってか」
「ええ。それで掘り返されてしまったのでは、この血文字の主が喜ぶかどうか……」
たぶん喜ばねえだろうなと将太郎はつぶやいた。
「何となくそんな気がする。何て言うかな……俺はさっきから、この石で気持ち悪くはなるんだが……どうも、妙な害意――みたいなものを感じないんだ。この気持ち悪さが、人間を拒絶してのものには思えないというか……」
「俺も同感です」
少年が熱心にうなずく。気のせいか、最初出会ったばかりの頃よりも打ち解け始めているようだ。
「て、てことはさ」
雫が石を見つめて言った。
「……やっぱり、私たちが掘り返すべき?」
将太郎と悠輔はしばらく黙りこんだ。
それぞれに、それが最善の策かどうかを考え――
「――そうしてみようぜ」
将太郎が、石の血文字を見つめながらそう言った。「この『タスケテ』が下にあるってことは――下にいるヤツが助けてくれって言ってるのかもしれねえしな」
「今思ったんですが」
悠輔がふと、視線を下におろして、「この『タスケテ』のほう……ひどくいびつで下手な字ですね」
「埋まりながら書いたんじゃそんなもんじゃねえのか」
「………」
「ねえ、今すぐやるのは人目につくよ」
雫が、今にも吐きそうなのを越える熱意で、この怪奇現象の解決に乗りかかろうとしている。
「やっぱり夜やるべきじゃないかな。ちょっと怪しいけど」
「……怪しすぎるけどな。それ以前に、この石ちょっと重そうだ。動かせるか……?」
「てこの原理があります」
悠輔がうなずきながら言った。「そっちのほうに、少し大きめのふつうの石があります。あれさえあればてこの原理の応用で俺が動かせますから、大丈夫です」
「お前にもそういう特別な力があるのか」
「………」
悠輔は深くは言わなかった。
分かった、と将太郎は言った。
「もし怪しいやつら、とかって見咎められたら、年長者として俺が責任取るよ。夜に、出直そう」
「ていうか出直さないと、長時間ここにはいられないよお〜」
雫が情けない声で訴える。
……他の二人も、同感だった。
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あまり夜遅すぎる時間に来てもますます怪しくなるだけだろう、と、三人は夜の十時に公園に集まった。
今は冬だ。冷え込む夜に、三人は厚着をしてきていた。
「うい〜……寒い上に気持ち悪さが加わるのかあ」
雫が寒さでがたがた震えながらぼやく。
「我慢しろ。それでもゴーストネットの管理人か」
将太郎がぺしぺしと雫の頭を叩いた。「ういっ!」と雫が気合を入れなおした。
当たり前のようにライトを将太郎が持っている。
それ以外に手荷物を持っていたのは、悠輔だけだった。
荷物と言っても――
「お前……それ何に使うんだ?」
大きなバスタオル。
「石を動かすのに使うんです」
さらりと悠輔は言い、「さ、行きましょう」
と二人を促した。
三人であたりをうかがいながら、そっと石に近づいていく……
あと数歩で石にたどりつく、という位置まで来て、雫がううっとうめきだした。
「ね、ねえ……何だかすごく肩が重いよう」
「………?」
男子陣二人が振り向いた。そして、雫を見てぎょっと目を見張った。
「な、なに? どうしたの、二人ともぉ」
雫だけが分からずに二人の顔を見比べているが――
将太郎と悠輔には見えていた。
ぼんやりと白く……雫の肩に乗っている女の子――が。
「幽霊か……?」
将太郎がつぶやくと、雫が「ええっ!?」と自分の肩を振り返ろうとする。だが位置的に、彼女にはどうしても見えないようだ。
「タイミング的に言って、石の関係者ですね」
『―――』
白い少女は口を動かさなかった。代わりに、悠輔の言葉を肯定するかのように、石を指差した。
「ビンゴだな」
「歳が近くて女の子だから、瀬名に引っついたんだ……」
悠輔が言うと、雫が「女の子なんだ」と急に痛ましそうな顔になる。
「この子が、……やっぱり埋まってるのか……な?」
「とにかく石に近づくぞ」
将太郎のライトを頼りに、一歩、また一歩、慎重に近づいていく。
やがて石にたどりついたとき、
『―――』
雫の肩の少女が、その腕をすらりと動かして一点を指差した。
『コレヲドカシテ』
白い指がつきつけられたのは、記念碑の上部にあったその文字列。
「こう言いたいのか……?」
「もしくは、これを書いたのは自分だと言いたいのか……」
「どっちでも、結局は一緒だな」
雫は、自分の肩から生えた手に驚いて硬直している。
「動かしてもいいんだな?」
将太郎は、少女にたしかめるように尋ねた。
少女は――小さくうなずいた。
「よし」
将太郎が、寒さと気持ち悪さと肩の重さで倒れそうな雫を支える。
悠輔が、昼間に「あれを使う」と言っていたそこらへんの大きめの石を持ってきて、記念碑からわずかに離した場所に置いた。
それから、記念碑の端の少し下を軽く掘った。
そして――
手にしていたバスタオルを、絞るようにして細長くする。
ふっ――
一瞬、バスタオルが光った気がした。
次の瞬間には、それはかちこちに硬くなっていた。まるで一本の鉄の棒のように。いや、いっそ鋼だ。
「おー。すげー……」
硬くなったバスタオルをこんこん小突きながら、将太郎が感嘆の声をあげた。
「触った布の形を好きなように変えさせられる。それが俺の能力です」
悠輔は淡々と言い、そしてその『棒』と化したバスタオルを、記念碑と、傍らの大きめの石との間に置いた。下の先っぽはさっき掘った記念碑の下の小さな穴にはまるように。
そして、棒の上端を――ぐっと下へと押した。
これぞてこの原理。ぎしぎしと棒が音を立てながら、記念碑を徐々に持ち上げていく。
将太郎は雫に詫びて彼女から離れ、悠輔の棒に手を添えた。
二人でてこを押して――
ぐぐぐと持ち上がった記念碑は、やがてどかんと横向きに倒れた。
「よし、動いた」
将太郎が拳を握る。
悠輔は早々に記念碑のあった場所の土の状態をたしかめていた。一ヶ月石が乗り、硬くかたまった土。
「やっぱり……一部分だけ、草の生え方がおかしい」
将太郎が傍らからのぞきこみ、ああ、とうなずいた。
「そうだな。そこを一回掘り返してるんだろう」
雫がよっこらよっこら二人の背中からのぞきこんで、
「でもー、人を埋める……には、小さすぎない? その一部分」
「たしかに」
悠輔が眉根を寄せる。「このていどの大きさじゃ、動物ぐらいしか埋められ――」
言いかけて、
三人は、顔を見合わせた。
「……動物?」
記念碑をもう一度見る。横倒しになった今はよく見えた。石の下のほうにあった、『タスケテ』の文字のいびつさ……
「ま、まさか本当に――」
将太郎が慌てて雫の肩の少女を見た。
白い少女の顔は――嬉しそうに破顔していた。
「……間違いないみたいですね」
その表情を見て、悠輔がつぶやく。
「自分じゃなくて、自分の大切な動物……ペットか何かが埋まってるのか……」
将太郎は優しく笑った。「なるほどな……そりゃあ、こんな石に乗っかってて欲しくないだろうな」
「気づいてよかった」
悠輔が少しだけ笑った。
「しかし、肝心のお前さんはどうして幽霊なんだ」
不思議そうに将太郎が尋ねると、
「あ……」
雫が声をあげた。
「なんだ?」
「い、今、声……聞こえた」
「何て言ってた?」
「……自分は病死です、って」
なるほど、と将太郎はうなずいた。
「ペットが先に亡くなって、その子はここに埋めた。その後にこの石がここに乗っかっちまって、あー……順番的には、その子はさらにその後に亡くなったのか。『コレヲドカシテ』が後に書かれてるしなあ」
「たぶんそうでしょうね」
悠輔は、「どうしましょうか」と雫と将太郎の顔を見る。
「記念碑の下にいさせるのが嫌だというなら、掘り返して別の場所に埋めなおしてやるしかないでしょう」
「そうだなあ……それでいいか、お前?」
少女はこくりと、沈痛な面持ちでうなずいた。
「掘り返したくなんかないよな。……許してくれ。今度こそ、ちゃんと安寧な場所に丁寧に埋葬してやる」
将太郎が優しく告げる。
悠輔が、鉄棒状態だったバスタオルの形状を変えた。スコップ状に。
そして、その場所をそっと掘り返し始めた。
見つかったのは、すでに白骨化した動物……
「猫だな」
柔らかく戻したバスタオルにそっと乗せ、そして周囲の、土が綺麗で今度こそ邪魔をされなさそうな場所をさがす。
三人は手が汚れるのも構わずそこを掘り返し、そして骨を埋めなおした。
雫が、公園のどこからか花を持ってきて、そっとその上に添えた。
雫の肩の上の少女が、嬉しそうにふわりと微笑んだ。
後は、もう一度てこの原理を使って記念碑を元の位置に戻し――(若干位置がずれたが)、三人はぱんぱんと手をはたく。
「これで、一応解決ってことかな。……満足したか?」
将太郎が尋ねた相手は、もちろん白い少女――
少女は、柔らかい微笑みをたたえたままだった。
その輪郭が発光する。白く白く、ぼんやりとかすみがかっていく。
「行くんだな……」
悠輔が、そのさまを目を細めて見つめながら、つぶやいた。
やがて少女は、
すう……と闇に溶けるように姿を消した。
「声……聞こえたよ」
雫がつぶやいた。
――ありがとう、だって。
動物は人間よりもたたるという。
「だからこんなに、石の周辺が怪奇になってたのかもなあ……」
将太郎は、直した記念碑を叩いてつぶやいた。
もう、あののしかかるような気持ち悪さはない。
「ちゃんとペットと一緒に逝けたかな」
三人は空を見上げる。
満天の星空が、彼らを優しく見下ろしていた。
―Fin―
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1522/門屋・将太郎/男/28歳/臨床心理士】
【5973/阿佐人・悠輔/男/17歳/高校生】
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■ ライター通信 ■
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門屋将太郎様
こんにちは、笠城夢斗です。今回も依頼にご参加くださりありがとうございました。
一番年長者ということで、「みんなの行動の責任をとる」なんていうとんでもない配置にしてしまいましたが;優しい門屋さんのセリフを考えるのはとても楽しいです。
本当にありがとうございました。
またお会いできる日を願って……
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