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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


『浄化で……ポン?』


「なあ、アンタ、マージャンできるかい?」
 
 何気なく立ち寄ったアンティークショップ・レンでとめどない会話に興じていた。
 あまりに脈絡のない唐突な問い。
 ふと口元に寄せていたカップをとめる。
 くすり、と目を細め顔を覗き込むようにして微笑い、蓮は先を続けた。
「そこにある麻雀牌、なんだけどさ」
 キセルの指す先に無造作においてある白木の箱――はたしかに雀箱の大きさだが、白木つくりとは珍しい。
「見事なもんなんだよ。時代はハッキリしないけどね、素材は最高級の総象牙、彫り込みは職人がやったものだろうがどの牌一つ見てもそれだけで一個の芸術って仕事だ」
 艶やかな唇に吸い口をつけ、紫煙を細くえがきながら蓮は続ける。
「朱は紅漆、牌の背の竹も……いけないね、きりがない。その逸品がね」
 片眉がわずかに曇る。

「悪さをね‥‥‥するのさ」

 収集趣味のある資産家の持ち物だったのだが、半ば持ち物自慢で金持ち連中とこの牌で卓を囲むと、遊びどころではなくなるという。
 その資産家は青ざめた顔で蓮の店に訪れ、タダ同然の金額で押し付けるように買い取らせ逃げるように去ってしまった。
「こういういわく付きが持ち込まれるのは珍しいことじゃないんだけどね、アタシの店じゃ。要はこのマージャン牌、憑いてるのさ。ちょっとは大人しくしててほしいと思って箱だけは神木に代えたんだ」
 なるほど、とあなたはもう一度、無造作に転がしてある白木の箱に目を落とす。
「よほどの博打好きが憑いてるらしくてねぇ、勝負したくてしょうがないってガタガタカタカタこうるさいったらないんだ。でもなにせ相手は死人だし、適当に相手をさせて負けでもしたら何が起こるか」
 わからない。
「だけどあんたタチなら、とおもってね。……どうだい? 謝礼は思い切りはずませてもらうよ」


【三者三様】

 ぱたん!

「よし、全部覚えたぜ!」
 蓮から借りた麻雀のルール本を閉じ、門屋・将太郎(かどや・しょうたろう)が威勢良く立ち上がった。
「早いじゃないか。さすが記憶はいいね」
 と蓮。
「伊達に独学開業してないさ。しかしこの麻雀ってゲーム、ただの絵合わせじゃねえな。読んでみてわかった。相手の読みをはずし心の隙をついてあがり牌を切らせる」
 不敵な微笑を浮かべる。
「となりゃあ、心理の専門家の俺の十八番さ。まあ見てなよ。……しかし」
 他のメンツ二人に目をやる。
「……子どもじゃないか、大丈夫なのか?」
 蓮は斜めに煙を吐いてそ知らぬ顔。

「将太郎どの、というたか、ご挨拶じゃの。これでもマージャン歴ならお主より相当上じゃぞ?」
 特に不快な風もなく、くすくす、と小袖を口元にあてて笑う少女。
 どう贔屓目に見ても小学生である。
 将太郎がいぶかしむのも無理のないことと言えた。
「わしは本郷・源(ほんごう・みなと)、血族のものと卓ならしょっちゅう囲んでおる」
「そんな家族内での馴れ合いマージャン……」
「ふふふ、家族内というても点100の青天井じゃぞ?」
「な、ぬわにぃ!? 青天井!?」
 将太郎の驚く番である。
「そ、そりゃたしかに強そうじゃねえか。悪かったな」
「よいよい。共同戦線をはる者同士じゃ、仲ようやろうではないか」
「んで、そちらの……剣士さんは?」

 源とさほど年はちがわぬであろう黒髪の少年が、刀を抱いて蹲踞している。
「兵衛。楓・兵衛(かえで・ひょうえ)。以後、御昵懇願えれば幸いで御座る」
「ああ、よ、よろしくな……」
「それがのう、わしが打ちにいくというたら有無もいわせずついてきてしまったのじゃ」
 そういって快活に笑う源の後ろで、表情を崩さぬ兵衛の耳だけが真っ赤だ。
 読心観察に長けた将太郎は同じ男として、この不器用そうな少年に心中エールを送るのであった……。

「それでだ、兵衛はどのぐらいできるんだ? マージャン」
「孫子にいう。疾きこと此風の如し。動くこと此、雷震の如し。兵法は拙速を尊ぶものでござるゆえ」
「なるほど! ようするにスピードでハデに動く、鳴きマージャンてことだな!」
 実はポンジャンしか知らないとは言えない兵衛。
「左様でござる。さらに云う、衆寡の用を知れば是必ず勝つ」
「(……さすがにちょっと疲れてきた)えー、つまりこっちは三人で人数が優勢ってことか?」
 如何にも、と兵衛は腕を組んで頷いた。
「じゃあ、これからサインを決めとくとするか。蓮さん、どこで打つんだ?」
「事が事だしね、近くのちいさな雀荘を借り切ってあるよ。時間はある」


【出現、開局】

 いわくつきの例のマージャン牌を全自動卓にセットし、さて一同で席決めである。
「おや、お主は参加せんのか?」
 源が蓮に声をかけた。壁に背をついて遠くから見守る風情だ。
「アタシは見物さ。言ったろ、その牌には憑いてるって。三人そろえば憑き物が喜んで姿を現すとみてるんだ」
「となると自由に決めていいことになるな。そこでだ、俺は目を見た相手の思考を完全に感知できる。どんなんがでてくるかしらねえが、そいつの正面に座りてえ」
 将太郎の赤い目が爛々と輝きを増す。
 兵衛は源の正面に座れるのが決まったことになりポーカーフェイスと裏腹に心中おだやかでない。
「では将太郎殿の位置は決まりでござるな。拙者は……」
「兵衛、おぬし鳴きマージャンをやるのであろう。チーを考えて空席の憑き物の下家じゃ!」
 やはりポンしかできぬとは言い出せぬ彼であった。
「じゃ、キマリだな。ヤマを積むぜ。鬼がでるか、蛇がでるか」
 自動卓のボタンが押される。
 同時に空席――に白髪の男が、映りの悪いテレビの中の人物のように浮かび上がった。
 表情なく、卓に目を落としている。
「なるほど、ウチに持ち込まれるのも必然さね」
 と蓮がため息とも歎息ともつかぬ息を吐きながら言う。
 たしかに場を用意するたびにこんなのが出てきては、常人にはたまったものではない。
「こやつがこの牌の憑き霊でござるな」
「おもしれえ、これでメンツがそろったってわけだ。」
「ではみなの衆、奴を四位にして引導を渡してやるのじゃ!」
「おうよ!」
「御意。」


【東一局、ドラ表示牌6】

 親は将太郎。
「うーん、だめだこりゃ、ばらばらだ。国士もむり。とにかく連荘狙いで聴牌をいそぐとするか」
 将太郎、@切り。
 タンヤオ系でやむなければ鳴き、テンパイで親を確保する作戦である。
 源のツモ。
 三、有効牌。源の配牌はドラなし役なしとはいえメンツみっつで、なかなかである、が。
 バカ高いレートでしかうったことのない源は目もくれないでそのまま切り。
「リーチのみなど面白くもなんともなかろう? わしはドカンと一発じゃ!」
 ……後ろで見ていた蓮含め一同あきれる。(ホの字の一名のぞく)
 ツモ順は三人の標的である白髪に。
 ツモって手出し、なんと初巡でドラの7おとしである。
 実は兵衛、このドラを678と鳴くことができる……。しかも鳴いて9を切ればタンヤオ三色がついてイーシャンテン。
 が、チーを知らないのでそのままツモへ。
 ただただトイツを集める彼。
 しかし源の手元にポンできる形がなかなかはいらない。
 
 三人が手が進まずに進むうち六順目。
「……ツモ」
 憑依霊がぼそりとつぶやいて牌を倒した。

 224466AACCGG二 二←(ツモ牌)

「ツモ、タンヤオ、チートイツ。1600、3200」
 捨てハイに一枚のかぶりもないノーミスのチートイツである。
「ちぇっ、間に合わなかったか。早いな」と将太郎が点棒を放りなげる。
「なんじゃ貧乏くさいアガリじゃの」
 源はまったく危機感がない。
 しかし全く別の予感を感じ始めている男がいた。
 兵衛である。
(これは……拙者のポンできる牌を全て握りつぶされている。不覚)
 マージャン牌は一種類につき4枚。
 七対子をめざすなら、ドラ表示牌につかわれている6は、なかなか持ってこれない公算が高くきらっていくところ。
 初めから2枚もっていたとしても普通ならば、、6につながるドラの7はもう少し残す。
「――失礼ながら、一服所望する。源殿、将太郎殿も」


【ストラテジー・ビバーク】

「どうしたのじゃ、早々に中断とはお主らしくもない」
「そうそう、まだ6400点リードされただけだぜ!」
 雀荘の事務所に、兵衛は二人を集めていた。
「あの敵の強さ……すでに見切った」
「マジか!」
「冴えとるの」
 ポンしか知らないという欠点。それが逆に兵衛に憑依霊の強さの秘密を感づかせた。
「将太郎殿、貴殿の能力で奴の手牌は筒抜けだったでござろう」
「ああ、でもツモられたんじゃ仕方ない」
「実のところ……」

 ――ごにょごにょ。

「確かにそうだ!」
 将太郎が膝を打つ。
「間チャンばっかりであまりに埋まらないな、と思ってたぜ、そういうわけか」
「これを逆手にとれば終局を待たずにトドメをさせるで御座ろう。まさに三十六計のうちに云う、仮痴不癲でござ――」
「オ、オーケーオーケー、行こうぜ。度肝ぬいてやるっ」


【EXPLOSION!】

 三人が卓に戻ると、再び白髪の男が空席に浮かび上がった。
 親は源。
(どうじゃ将太郎、奴は気付いておらんか?)
 と源が送った視線に将太郎がかすかな微笑でイエス、と返す。
(気付かれたら教えるぜ)
「じゃ、はじめるか」
 ドラ表示牌はH。
 不思議な光景が卓上に現れだした。
 三人が捨てる牌捨てる牌、ことごとく偶数牌。
「ポン。」
 源との通しで、兵衛が手を進める。
 さらに二順後。
「その一、ポン」
 次巡、兵衛がさらにポン。
 憑依霊はツモることができずどんどん飛ばされる。
 一方、将太郎。
 兵衛と源の通しコンビプレイで多くなったツモの機会を大いに利用し、着々と手を進めていた。
(よし、あとひとつでテンパイだぜ)
「ポンっ」
 兵衛、三度目の鳴き。トイトイホーのみながら既にシャボ待ちであった。
「よし、入った。リーチ!」
 ここでついに将太郎リーチ。
 待ちは仲間の二人にキッチリ伝えてある。
 ――煙幕をはりつつこっそり残しておいた@の単騎まち。
「ポン」
 兵衛、シャボ二面待ちテンパイを捨てさらに四鳴き。
 裸単騎まち……。
 準備は整った。
「ふっふ、おぬし、背中が焦げておるのじゃ――」
「ん? どういう意味だ、それ」と将太郎。
 瞬間――少女の手から雷光奔る。
 源のツモ、伸ばすその手中には手持ちから将太郎のアガリである@が潜んでいる。
 次に憑きもののツモる牌を@に音もなくすり替え。
 そして自分の指に入った牌を盲牌。
 将太郎の手牌にあるものであると瞬時に察知するや、手元に戻す指先で裏ドラにすべり込ませ、何事もなかったかのように自分の手配へ。
 この間わずか一秒コンマ2、そろばんで鍛えた指技は伊達ではない。
 ――あとは、憑き霊が@をツモ切ってくれるかどうか――
 三人に緊張が走る……。

「それだ。その@ロンっ、リーチ一発、白、チャンタ、ここまでで8000点……」
 初めに声を上げたのは将太郎。

 北北北白白白789七八九@ ←@ロン

「さあて、裏ドラはっと」
 すでに、源によってすりかえられている。
 裏ドラは中――
「ドラみっつのり、倍満16000!」
「強運じゃのう、将太郎」
 この時点で憑き霊の持ち点は14400点である。
「……一声遅れたが。それでござる」
 続けて兵衛が牌を倒した。

 ロン@→@ 333一一一555DDD

「それで御座る。トイトイのみ」
 からからと源が笑う。
「兵衛、何をいうておる? ドラ3つきで満貫じゃぞ」
 なんと、いつの間にやら表ドラ表示が九になっている。
ドラ三つのり……。
「これは失礼至極、満貫。8000点、頂く」
 無論、これも源が将太郎が裏を確認している隙に横合いから滑り込ませておいたもの。
 しかし事が済んだ後では水掛け論、
「さてお主、これでのこり6400じゃの。焦げるどころか火がついておるぞ」
「いやあ、ダブロンとは運がないねぇー」
「賭け事とは危ういもので御座る」
 忍び笑いつつ同情の言葉をかける三人。
 

【カバーリング・ファイア】

 ――実質勝負は決した。
「それじゃ、将太郎。タンヤオ、ドラふたつ5200点じゃ」
「おっとこりゃいけねえ」
 次局も。
「ポン」
「おお兵衛、その牌、ロンじゃ。白のみ1000点じゃがな」
「またつまらぬ牌を切ってしまった――」
「それはひょっとして笑うとこなのか兵衛!? さりげにジョークなのか!?」
 三人、すでに余裕綽々。
 開始から点のうごいていない源に、余裕のある将太郎と兵衛が素早い差し込み。
 源と兵衛のサイン、将太郎の完全読心術で互いの手はガラスのようなものだ。
 万が一にも源を最下位にすまいという鉄壁のコンビプレイ。

「さてと――東風戦終了じゃな」
「最下位はあんただ、憑き物さんよ」
 満足げに蓮が卓へ歩み寄り、牌を片付け始めた。


 帰路。
 肩を並べて揚々と引き上げる一同だ。
「しかし兵衛、よく気付いたな。あのカラクリ、看破できなきゃやばかったかもだ」
「うむまったく、なかなかに手柄じゃぞ」
 寒風のせいか別の感情かまたも耳たぶを赤くしながら兵衛は経緯をときだした。
「あの最初の局、拙者がポンしようと持っていた偶数牌がことごとく場にでなかったのでござる。そして憑き物のアガリをみると全て握りつぶされてござった」
「それで、奴の強さの秘訣に気付いたわけじゃな」
 偶数牌の位置を全てなんらかの能力で把握しているのではないか、と兵衛が見破り、となれば必然的にこぼれてこざるをえない奇数の端の牌を、将太郎と兵衛が狙いうち。
 さらに源が積み込みで二人の手にドラをごっそり乗せる。
「異能は初太刀で斬るのが鉄則……ふ」
「しかしあの牌、どうなったのじゃろうな」
「蓮が持って帰ったんだからただの牌に戻ったんじゃねえか?」
「そうだとよいがの……、ところでどうじゃ? まだ日も浅いことじゃ、そのへんの雀荘で遊ばんか? このメンバーなら負け知らずじゃ!」
「悪くねえな、それ!」


 ――この夜、二人の小学生と青年のトリオが都内の雀荘を荒らしに荒らし、後にプロ連を震え上がらす伝説となったのであった――



-end-


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1108 /本郷・源(ほんごう・みなと)/女性/6歳/ オーナー 小学生 獣人】
【1522 /門屋・将太郎(かどや・しょうたろう)/男性/28歳/臨床心理士】
【3940 /楓・兵衛(かえで・ひょうえ)/男性/6歳/ 小学生 兵法師】


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■         ライター通信          ■
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まずこの度はご参加ありがとうございました。
かなり変わった趣向の依頼ではありましたが、お楽しみ頂けたでしょうか。


『憑き物は偶数牌全ての位置を把握している』という隠し設定は初めから決まっていたのですが。

「ヒントがあまりになさすぎるか」と少々心配しておりました。
 しかし兵衛様がポンマージャンに徹するプレイングに出てくださり、見事露見する条件が整うことと相成りました。
 ちょっと驚いております。(笑)

尚、ルールのよくわからないPL様もいらっしゃったようなので節介至極ながら下に註を入れます。
御時間を割いてざっと読んでいただけると討ち取れた理由等々がよりおわかりいただけるかと。

 それでは本郷源様の、益々のご健勝を祈りつつ。

あきしまいさむ 拝


<WR註 青天井:満貫制度なしルール。麻雀の点数は役がつくごとに倍々になっていくので、これがなければ大きいアガリ点は天文学的数字になる>
<WR註 タンヤオ:一九字牌をつかわない役。>
<WR註 国士(国士無双):字牌と全色の1、9牌を14種類そろえる役満。役満の中では比較的出来やすい>
<WR註 イーシャンテン:あと一回の有効牌をもってくれば聴牌という状態>
<WR註 三色同順:字の如く同順の面子をみっつそれぞれの色でそろえる。このときの兵衛はタンヤオとドラひとつでそこそこの点数にはなる牌姿>
<WR註 チートイツ(七対子):同じ牌の二個(対子)を七つそろえる>
<WR註 トイトイ(対対和):すべてのメンツをコウツ(333や中中中など)で作る。勿論ポンしてよい>
<WR註 差し込む:味方や自分と大差のある下位のロン牌をわざと切り、場を回したり援護したりすること>