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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


三下の明日はどっちだ!? デェト予行練習!?
「はぁ? 三下くんがデート!?」
「しぃ! 声が大きいですよ編集長!」
 珍しくクールビューティー麗香が頓狂な声を上げた。
 原因は月刊アトラスのアルバイト、桂から聞かされた情報である。
「どうやら三下さんが困ってた女の人を助けたみたいで、それのお礼がしたいと申し出てきてくれたそうなんです」
「……桂くん、言って良い冗談と悪い冗談があるわよ。そんな事言ったら三下くんが可哀想過ぎる……っぶ! あっははは!」
「編集長もかなり酷いですよね」
 そんなことは知らず、三下は自分の机の前でそわそわそわそわしている。
 挙動不審なことこの上ない。
 そんな三下を見ながら麗香はため息を吐く様に言った。
「……ふ〜ん、まぁでも、その話が本当なら完全に失敗しそうよね。三下くんってば女性に免疫なさそうだし」
「そうなんですよ。それで、ボクのところに相談に来たらしいんですが、ボクにもこれと言って助言できそうなことはないですし……」
「それで桂が私に相談してきたわけだ……なるほど」
 麗香は面白そうに笑うと、自分の携帯電話を取り出す。因みにこれはプライベート用だ。
「何人か恋愛に詳しそうな暇人を呼びつけるから、どうにか三下くんを鍛え上げてやりなさい。私に出来るのはそれくらいよ」
「あ、ありがとうございます」
「でも、良い? ちゃんと良い記事にするのよ?」
「え? 何をですか?」
「何言ってるのよ。三下くんが立派な漢になる様をお届けするのよ。オカルト雑誌からは遠ざかったネタだけど、面白そうだわ」
「……この人、鬼だ」
 当の三下を他所に、話はどんどん進んでいく。

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「どぉして、どぉしていろんな人に広まってるんですかぁ……」
 半べそかきつつ、三下は桂にすがりついた。
「あ、いえ、悪気は無いんですよ。ボク一人じゃどうしようもないですし、助っ人は多い方が良いでしょ?」
「そ、そうですけど」
 三下が納得したのを見て、加藤・忍(かとう・しのぶ)が、ズイと前に出る。
「それでは、早速三下さんを鍛え上げましょうか。恋愛には詳しくはありませんがお宝の手に入れ方は知ってますからね」
 不適に笑う忍の横で門屋・将太郎(かどや・しょうたろう)が笑って手を振った。
「まぁ頑張りな、三下。お前が成長する様はバッチリ見ててやるからな!」
「え? 門屋さんは助けてくれないんですか?」
 三下の問いに将太郎は笑って答えた。
「ばか。見守ってやるって言ってるだろうが。それに、俺は桂の方を手伝おうと思ってな」
「え? 桂さんにも何かやることが?」
「ああ、いえ、それは三下さんには関係ないというか、知らない方が良いというか」
 歯切れの悪い桂を三下は首を傾げてみていたが、
「ほら、さっさとしないと日が暮れてしまいますよ。まずは下準備。そのくたびれた服からどうにかすべきですね」
 という忍の一声で一行は移動を始めた。

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 洋服屋に着いた一行。
 三下がスーツの試着をしている内に、他の三人はちょっとした会議を開いていた。
「で、これからなんですけど、どうしたら三下さんを鍛え上げられますかね?」
 という桂の質問に、将太郎は難しい顔をした。
「なんたってあの三下だからな。はっきり言わせてもらうけど、泣き虫で根性無しのあいつを短期間で漢にするのは無理ってもんだ」
「でも、だからと言って一度受けた依頼を放り投げるのは許せませんからね。どうにかしましょう」
 消極的な将太郎に比べ忍は乗り気なようだ。
「そうですね……。これからすべきはやはり外面から改善でしょうね。三下さんも顔は悪くないのに挙動がおかしいですから」
「ああ、そういや何かにつけてオドオドしてて見ていてイラついてくるもんな」
「そ、そこまで言うのはどうかと……」
 桂が苦笑している間に、試着室のカーテンが開き、三下が出てきた。
「こ、こんな感じでどうでしょう?」
 三下が着たスーツは深い紺色のスーツ。いつも着ている多少くたびれたモノよりは数段良い感じになっている。
「ふむ、まぁ良いでしょう。後はネクタイと、シャツですか。それらも落ち着いた感じの色をチョイスしましょう。派手な色は三下さんに似合いませんからね」
 忍に言われて三下は『はぁ』と曖昧に返事をした。
「こりゃ、先が思いやられるな」
「は、はは」
 様子を見てため息を吐く将太郎と苦笑が絶えない桂。
 三下改造計画は続く。

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「三下さん。デートの日はいつですか?」
「で、ででで、デートなんて、そんな大それたものじゃありませんよ!!」
 忍の問いにオーバーにリアクションを取る三下。
「訊き方が悪かったでしょうか。では、その女性と会う日はいつなのですか?」
「え、ええと、来週の土曜日、だったかな」
「では眼鏡も新調しましょう。今の物では多少地味すぎますからね」
「え、でも眼鏡って高いじゃないですか」
「別に私達が支払うわけではありません。請求書は全てアトラス編集部につけてありますから」
 その言葉を聞いて、三下は目に見えて顔を青くした。
「な、なんてことを! そんな事したら僕が編集長に殺されちゃいますよッ!!」
「なに、心配要りませんよ。雑誌の取材の必要経費という奴です」
「ひ、必要経費? だってこれは僕の個人的な用事じゃ……?」
「さぁ、そんな事は気にせず、眼鏡を買いに行きましょう」
 疑問符を浮かべる三下を引っ張って、忍は眼鏡屋を目指した。

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「さて、外面は大体改善できましたね。挙動はまだおかしいですが、これは流石に一朝一夕でどうにかなるものではありませんでしたし」
 忍は思案するように顎に手を当て、三下を見回した。
「これからどうするんだ? まだ時間はあるぜ」
「そうですね。デートプランの下見でもして見ましょうか」
「で、ででで、デートなんて……!!」
「ああ、解ってますよ。ただ女性と会うだけですよね」
 うろたえる三下を軽くいなして、忍は三下にデートプランを聞き出す。
「え、ええと、あちらが仕事が忙しいらしくて、仕事が終わった後に待ち合わせをしてます。まず午後8時に駅前で待ち合わせて、それから近くのレストランで食事、そのあと解散です」
「はぁ? なんだそりゃ。一緒に飯食うだけかよ?」
「それではインパクトが薄いですね。……そうですね。その後にバーにでも誘いましょうか」
「そ、そんな大それたこと!!」
「三下じゃハードル高すぎるかもな」
 将太郎は三下の様子を見て頭をかいてため息を吐いた。
「そんなに大した事ではありませんよ。ただ食事が終わった後に『良い店を知ってますから、そこに行きませんか』と誘えば良いだけです」
「それが大した事なんですよぉ!!」
「まぁ、ガンバんな、三下。俺が見守っててやるからよ」
「そ、そんなぁ!!」
「あとは日時を間違えないように執事として私が相手に確認の電話をしておきましょう。それに行き先に迷わないようにお迎えに高級車に運転手をつけ、レストランでの予約、メニューにウエイターのサービスも手配しておきますね」
「そ、そんなお金がかかりそうなこと!!」
「お金の心配をしていては、相手も満足してくれませんよ。デートの成否は自分が楽しむのではなく相手を楽しませることらしいですからね」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「決まりですね。それらは私がどうにかしておきましょう。今のところは下見を済ませましょう」
 ということで、一行は更に移動を始める。

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 デートで回る場所の下見も終わり、シュミレーションも済ませ、色々手配も終わり、これで準備万端!
「いやぁ、今日一日で三下が妙に生まれ変わった気がするぜ。あとは嫌われないようにその内股と手癖をやめないとな」
「え? あ、はい」
 将太郎に言われて三下は胸の前でモニャモニャしていた手を放し、内股を直した。
「さて、私に出来ることはここらで終わりですね。デートが成功するかどうかは三下さん次第ですよ。頑張ってください」
「あ、はい。ありがとうございます。がんばります。桂さんもありがとうございました」
「いえいえ、ボクはなにもしてませんよ。……というか、ボクが謝らねばならないというか……」
「え? なんですか?」
「いえ、こちらのことです。三下さん。頑張ってくださいね」

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デート当日

「さぁて、どうなるかね」
 待ち合わせにも間に合い、レストランも何の障害もなくスルリと席につけて、相手の女性も笑顔が絶えなかった。
「まぁ、今までの評価は『三下さんとしては上々』というところでしょうか。しかし本番はこれからですよ」
「で、でも良いんでしょうか? こんな覗き見みたいなことして……」
 忍、将太郎、桂の三人は三下の行動が確認できる場所に隠れて、その様子を見ていたのだ。
「ちゃんと見ておかないと記事にする時、困るだろうが。これはれっきとした仕事だぜ、桂」
「そう、なんでしょうか?」
 良心が痛む桂は出来るだけ三下の様子を見ないようにしていた。
「店を出るみたいですよ。ここが正念場です」
 三下がバーに誘えるかどうか!? 今日のメインイベントだ。
「さぁて、どうなることやら!」
「このハードルを越えれば三下さんも一回り大きくなるって事です。頑張ってください」
 言葉だけ聞いていれば純粋に三下を応援しているように聞こえるが、二人の表情からは薄い笑いがとれない。
 この場所からでは店の出口に居る三下と相手の女性の話し声は聞こえないが、忍は読唇術を心得ているし、将太郎は相手の目を見れば心が読める。
 声が聞こえなくてもどういう状況だか、ちゃんと把握することが出来るのだ。
 それによるとこうだ。

「え、えええ、ええと、これからの、ののの、飲みなおすってどうですか?」
 と三下。
「え、どこか良いお店でも知ってるんですか?」
 と女性。聞く限り好感触であろうか。
「は、はい。すぐ近くに綺麗なお店があるんですよ」
 女性の受け答えに安心したのか、三下の挙動不審も多少安定している。
「そうですね……それなら、少し―――」
(おお! 成功か!!)
(待ってください。まだ判りませんよ)
「―――と言いたいところですけど、残念。これからまだちょっと用事があるんです。また今度誘ってくださいね」
「え、……あ、はい」
「それじゃ、さよなら」
「はい。さようなら……」

「……散ったな」
「見事に敗れましたね」
「え? どうなったんですか?」
 哀愁漂う三下の姿を二人は同情の目で眺めた。
「さて、桂。帰って記事でも作ろうか。手伝うぜ」
「え、あの、結果はどうなったんですか?」
「あの三下の姿を見りゃ解るだろ。行こうぜ」
「あ、ああ、あはは。三下さん。……なんていうか、頑張ってください」
 桂は励ましの言葉を送ったが、三下には届いてないだろう。

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 余談だが。
「あんの、サンシタ! この編集部に請求書送りつけてくるとは、良い度胸じゃない!!」
 と、アトラス編集室の編集長デスクの前で碇 麗香が激昂していたことに、三下は知る由もない。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【5745 / 加藤・忍 (かとう・しのぶ) / 男性 / 25歳 / 泥棒】
【1522 / 門屋・将太郎 (かどや・しょうたろう) / 男性 / 28歳 / 臨床心理士】

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■         ライター通信          ■
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 加藤 忍様、依頼にご参加いただき本当にありがとうございます。『恋愛は一時の気の迷い、しかし一瞬の輝きに勝るもの無し』ピコかめです。(何
 結局、三下くんは恋に破れたのか、まだまだこれからなのか、微妙なラインで終わっちゃいましたが、当たって砕けるどころか爆砕してくれる三下くんが、俺は好きです。

 三下くん改造計画の指揮を執ってもらいましたが、どんなもんだったでしょうか。
 進行役が一人居れば大分楽に文章を作れますから、とてもありがたかったです。
 しかし、手先が器用などの能力が活かせなかったのがちょっと悔しいですね。
 三下くんにちょっとした小細工でもしておけばよかった。(ぉ
 それでは、また気が向いたらよろしくお願いしますね。