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<東京怪談・PCゲームノベル>


惚薬危機一髪!

 ことん、と湯飲みが差し出される。ここは店内からもすこし見える銀屋の奥にある和室だ。店内とは段差が設けられ靴を脱いであがるようになっている。そしてちゃぶ台を中心に壁にはあやしげな掛け軸などもあるがこれも商品らしい。
 茶を差し出し、目の前に座っているのはこの店の店主で奈津ノ介。奈津と呼んでくださいと今しがた言われたところだ。
「すみません、本当にすみません。僕のせいです」
「えっと、と、とりあえず頭を上げてください」
 本当に申し訳ない、と奈津ノ介は畳に額をこすり付ける勢いで崎咲・里美に謝る。惚れ薬試作品を依頼で作ったのはいいがそれを出しっぱなしにしていたらしい。頭を上げて、そしてありがとうございます、と笑った。
「……あの、効果っていつ切れるの?」
「一時間やそこらで切れません。少量なら時間経過で効果はきれるのですが、全部飲んでますし……解毒薬はまだ出来上がっていないんです。といってもそちらもあと少しでできる段階なので少々待って頂ければご用意できます」
「別にわしはこのままでもいいぞ、里美はかわいい。好いておっても問題ない」
「親父殿はよくても里美さんにとってはよくないです、はい必要以上にくっつかないで」
 里美の隣に座りそれとなく接触を図ろうと藍ノ介がするたびに奈津ノ介は強い視線で睨む。里美もなんとかしようと藍ノ介に向かって言葉選び、そして紡ぐ。
「えーっと……好かれるのは嬉しいけど、それって薬原因だし? なんかちょっと違うよね? っていうか、完全に違うよね。だって自分の意志で好きになったのとは違うんだよ? 確かに『一目惚れ』っていうのはあるだろうけど、明らかに違うし……そう思うんですけど」
 里美の言葉に藍ノ介は頷く。一応の理解はしているらしいが、それでうまく終れるわけがない。
「確かに里美の言うことは正しいが、わしはきっと普通に会っても汝を好くと思うぞ」
 藍ノ介は笑っては言うが、その言い方は真摯なものがある。
 奈津ノ介は藍ノ介と里美の様子を見て、なんとなくこれなら自分が席をはずしても大丈夫だろう、と思った。そして里美に切り出す。
「親父殿は女性には優しい人なので変なことはしないと思います。僕は解毒薬作ってきますね。親父殿、里美さんの嫌がることしてはだめですよ」
「そんなことせぬよ、嫌われるのはごめんだ」
「もし何か、問題が起こったらすぐわかるので飛んできますね」
 奈津ノ介は里美にそう言い、席を立つ。里美は少々不安になりつつも、藍ノ介を見る。その視線を感じ、正面から受け取ると藍ノ介はにこりと笑いかけた。
「どうした?」
「薬で、好きになるのは本当に本心とは違うと思うから、早くもとに戻ってくださいね」
「うぬ、だがきっと薬が切れてもわしは汝を好いておるだろうよ、この前もそうであったからな。奈津がいつだか惚れ薬はきっかけを作るだけだと言っておったが、その通りなんだろう」
「きっかけかぁ……それは、確かにそうかも。って言っても私は人間だし、ね? こう、カテゴリ違うし、ね?」
「そんなことは気にはせぬ。狐の愛は深いのだ」
満面の笑みで言われても、と里美は少し困る。でも嫌な感じの好意ではないのは確かで、だからこそ扱いに困る。そんなだから少し焦ってしまうのだ。
「そ、それにさ、人間って酷い生き物だし! 私は新聞記者で人間の色んな面をみてるから」
少し瞳は伏せめがち、悲しそうな、寂しそうな表情を浮かべる。藍ノ介はそれをみて、
きっと無意識だろう、里美の頭を撫でる。
「だが汝はそうではなかろう? そうであっても気にはせぬよ。酷いのも良いのも、全部ひっくるめて人間というものだ、わしら妖怪も同じようなものよ」
最初に撫でられた時はおどろいたが、その撫でる手がやさしくて心地良い。心許してしまうような感覚だ。
「おなごは一人で抱え込むのを好くものもおる。話せば楽になることもあるのにな。汝も何かあれば話すと良い。わしは口が堅いからな」
「なんだか、父親みたいな感じ」
 くす、と里美はくすぐったそうに笑い、藍ノ介はそんな感覚かもしれんな、と言う。
「なんというかの、里美に感じる好意というのは、恋慕なんぞより親の感覚の方が強いかもしれんな、娘っ子がおったら、このような感じなのだろう。惚れ薬というが……惚れるというのとはちょっと違うらしい。奈津のやつもまだまだ修行が足りんようだ。となるとわしは自ら失敗作の実験台になってしまったらしい」
「あははっ、そうなのかも。だったら解毒薬はいらないかもね。きっと時間かけて関わって、つきあって、それで好きになるのにその手順がなくなっちゃったみたい」
「ほう、確かにそうだ。馬があわなんだら好いておるのも無理、きっとそのうち仲が悪くなるだろう」
 里美は聡いな、と言い再度頭を撫でる。幼い扱いだなと里美は思ったが、それがきっと、藍ノ介が自分にとる一番いい態度なのだと思ってのことと、なんとなく感じた。
「うーん、撫でられるのはちょっと恥ずかしいけど、まぁいいかな」
 えへへ、と撫でられた頭を自分でも触って、その今まであった手の感触を感じる。暖かさが残っているような気がした。
 と、奥から人が来る気配、奈津ノ介だ。
 奈津ノ介は里美と藍ノ介の雰囲気が、最初と変わっていることを感じる。
「薬、できました。里美さんも親父殿も、何かありました?」
「親睦を深めておった、な?」
 ええ、と里美はこくりと頷く。その表情は彼女本来の笑顔だろう、奈津ノ介はそう感じた。
「さて、親父殿はこれを飲んでください」
透明な小瓶を奈津ノ介は差し出す。その中の液体の色は、緑。何らかの濃い緑色の葉を煎じたような、色だ。たとえるなら青汁。
「……飲まん」
「飲んでください」
「それはいかにもまずそうな色だ、飲まん。里美、飲まんでも良いよな?」
 少し引け腰の藍ノ介は里美に問う。確かにすごい色だな、と思わずにいられない。自分でも飲みたくない。
「なんですか、子供用みたいにシロップにでもしろと言うんですか親父殿は。いい大人がこれぐらい飲めなくてどうするんです」
「む、なんだそのわしを馬鹿にしておるような言い草は。良い、飲んでやる、渡せ」
 奈津ノ介の挑発だとわかっていても乗らないわけにはいかない、藍ノ介の性格が逃げを許さなかった。奈津ノ介からそれを奪い取ると栓を抜き、一瞬眉を潜めたがそれを一気に藍ノ介は飲む。里美もそれをはらはらしながら見守っていた。
「……まずっ……!」
 飲み終わると同時に、藍ノ介は喉を押さえて俯く。かはっと吐き出しそうな衝動を抑えているようだ。
「そんなに、まずかったの? 大丈夫ですか?」
「こんなに不味いものをようつくれるな……我が子ながら恐ろしいわ」
 奈津ノ介はその様子を表情を変えずにみている。こうなるのがわかっていたようだった。
「もうこれで安心です。薬の効果はじき切れるでしょう。でも、なんだか解毒薬は必要なさそうな感じでしたけど」
「それでも飲ませたか。汝の作った薬はまだ未完成だ、恋慕など抱かんかった」
「ああ、そうですか……試作品でしたしね、うん。巻き込んでしまってすみませんでしたね」
「あ、はい。でももう、解決したし」
 里美は笑う。最初はどうなることかと確かに思ったけれども終ってみればそんなに問題などなかったように思える。頭を撫でられて話をして、少し心の休息になったような、そんな感じもする。
 明日からもまた頑張って記事を書こう。
 里美はそう思い、知らず知らず笑っていた。
 それにつられて奈津ノ介も藍ノ介も笑う。
「ご迷惑かけたことだし、とっておきのお茶菓子をご馳走しましょうかね」
 奈津ノ介はそう言い、立ち上がって準備にとりかかる。しまい込んでいる茶菓子を取り出しているのだ。
「うわー、それは楽しみ!」
 里美の声は明るく、そして軽い。もうしばしの間、この緩やかに流れる時間が満喫できそうだ。


<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【2836/崎咲・里美/女性/19歳/敏腕新聞記者】


【NPC/藍ノ介/男性/897/雑貨屋居候】
【NPC/奈津ノ介/男性/332/雑貨屋店主】

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■         ライター通信          ■
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崎咲・里美さま

はじめまして、ライターの志摩です。此度はご依頼ありがとうございました!
女の子はやっぱりいいなぁ…とにやにやしながら書かせていただきました。藍ノ介も言っておりますがかわいいときめき!プレイングから台詞もひっぱらせていただいて、里美さまらしさが出ていれば良いなぁと思っています。

それではまたどこかでお会いする機会があれば嬉しく思います。