コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


求む!配達人


★オープニング★

「さってと♪今日もHPと掲示板のチェックチェック〜♪」

瀬名雫が毎日の日課であるHPのチェックをしている。
わーー、ホントにぃ〜?やら、これは…気になるけど学校がぁ〜!などと独り言を言いつつ
一つ一つの書き込みに目をやると、ふと『バイト募集』という記事が目に止まった。


●一日だけのバイト募集。
●お客様に荷物を届けるだけの簡単なお仕事です。
●年齢、性別一切不問。
●免許の有無、関係なし(但し、乗り物は指定のものに乗っていただきます)
●制服支給、食事支給、交通費全額支給


「……怪しい。内容もそうだけど、わざわざこの掲示板に書き込みするのが怪しい」
雫は一人でウンウンと頷く。

「でも、ちょ〜〜っと気になるよね〜。誰か行ってみてくれないかなぁ」
誰に言うでもなく、雫は頬杖をつきモニターを改めて眺めた。


★集合★

「こんな寒いところで…いつまで待たせておく気なのじゃ!」
いつものように着物姿、それに若干の防寒具を着込んだ本郷・源(ほんごう・みなと)は苛立っていた。
6歳とは思えない発言、貫禄。
それらはすべて、6歳ながらもいくつもの店を経営しているからか。
「せっかく面白そうじゃから、と普段はバイトを雇う側にもなれるわしが、こうして来てやっておるのに…」

バイト募集にアクセスすると、即座に連絡が返ってきた。
詳細については当日話す、というやはり怪しげなものではあったが、怪奇現象に慣れている輩は意外にもたくさんいる。
源も、本来ならアルバイトなどしない(と、いうか年齢的に出来ない?)が、こうして指示通り、夜の公園に訪れたわけである。

「まぁまぁ、源ちゃん」
そんな源を、優しくなだめたのは崎咲・里美 (さきざき・さとみ)。敏腕新聞記者である。
19歳という若さながらも、両親も実力のある新聞記者だった、ということもあり里美も随分と期待されている。
そして、十分その期待に応えているのは言うまでもない。
「きっともうすぐ来るわよっ」
里美はニッコリ微笑むと、源の前にしゃがみこみ、自分の巻いていたマフラーをはずす。そして、寒そうにしている源の首にふんわりと巻く。
「う、うぬ…ありがとう、なのじゃ里美殿」
ニッコリと、源も微笑む。

女性二人が和やかな光景を繰り広げる中で、今回のバイトの紅一点…の逆、男子高校生の櫻・紫桜(さくら・しおう)は空を見上げていた。
彼も同じく、「一日ぐらいならいいか」とバイトに応募した者である。
15歳とは思えぬその落ち着きぶり。そして、紫桜からは数々の武道を嗜んでこなければ身につかないであろう「気」が漂っている。

「そろそろ…来るみたいです」
上を見上げたままの紫桜の言葉に、源も里美も上を見上げた。
空気も澄んでおり、星がキラキラと光る夜空。そこで、何か光るものが動いている。
「あれは…UFOっ?」
里美は思わずカメラを構える。が、徐々に空から彼らに近づいてくるソレは明らかにUFOなどではなく…

シャンシャンシャンと鳴り響く鈴の音が近づく。
架空ではあるが、年末お決まりの光景。

トナカイにソリを引っ張られ後ろの荷台には真っ白い大きな袋。
乗っている人物は、真っ赤な赤い上下の服、真っ赤な三角帽子の先には白いポンポン。
丸い眼鏡をかけ、白いヒゲをふさふさに蓄えた爺さんが笑顔で手を振りながら近づいてきた。

「やっぱりじゃ…」
「やっぱり」
「やっぱり、ですね」

三人は小声で呟いたとか、呟かなかったとか。

そして、三人の目の前にトナカイとソリが降りてきた。
よっこいしょ、とその爺さんは声を出し、ソリから降りた。
トナカイをヨシヨシと撫で、改めて源、里美、紫桜に顔を向ける。
そして、真っ赤な爺さんはやっと口を開いた。


「いやー、えらぁ遅れてすんまへんなぁ」


「「関西弁っ!?」」



どう見ても、サンタクロースである。空を飛ぶトナカイ、ソリ、服装。優しそうな外国人お爺ちゃんな風貌。
まさしく、正真正銘のサンタクロースであろう。
が、まさか関西弁を扱うとは思わなかった里美と紫桜は思わず肩の力が抜けた。
源だけは、自分の口調も年齢の割りに変わってるせいか気にも留めなかったようである。
むしろ、
「遅いのじゃ!」
とサンタらしき人物に臆せず口を開く。

「堪忍なぁ、嬢ちゃん」
関西弁サンタは頭を掻きながら謝ると、改めて三人を見渡し、口を開いた。

「ちゃんと応募が来るなんて、流石ゴーストネットやね〜。
 え〜と、源嬢ちゃんに、里美嬢ちゃん。と、紫桜あんちゃん。
 三人ともよろしゅうなぁ」

ペコリ、と頭を下げるサンタに合わせて、里美も紫桜も「よろしくお願いします」と頭を下げる。
「こらっ、止めるのじゃっ」
源は、トナカイに舐められていた。そんなトナカイのデコをサンタはペチンッ!と叩き、話を続ける。

「一応一般の求人にも載せたんやけど、みんな怪しがって誰も連絡してきぃひんかって。
 ホンマ、集まってくれておおきにな〜。
 あ、募集広告見てくれたらわかる思うねんけど、クリスマスプレゼントをトナカイのソリに乗って届けてもらうんが今回の仕事や。
 制服もちゃんと用意してきたで〜。」

関西弁サンタ爺さんは三人に制服を渡す。
勿論、あの真っ赤な衣装、サンタ服である。

『あぁ、やっぱりこれを着なければならないのか…』と紫桜は思った。
似合うのか、と若干抵抗がある模様。

「あとな、三人には用意してあるそれぞれのトナカイに乗ってプレゼントを運んでもろーて…」
関西弁サンタが指をパチンッと鳴らすと、三台のトナカイソリが空から降りてきた。
後ろには既にプレゼントが入っているらしき袋が乗っかっている。
源用には、子供トナカイ。里美用のトナカイ。紫桜用のトナカイはやや大きい。

「ほな、サンタ服に着替えてソリ乗ってもろたら、後はトナカイが勝手にプレゼントの渡し先に連れてくさかい、難しいことはあらへん。頑張てなー!」

そう言うと、関西弁サンタはまたソリに乗り、空へと戻っていった。
「随分、アバウトな説明ね…」
里美は、光りながら空を飛ぶソリを見送りながら苦笑した。


★発進!里美サンタガール★

サンタ服は、着替えるといっても、上から羽織るだけの簡単なものだった。
源と紫桜に「それじゃあ、またね!」と声をかけ、そしてトナカイにも「よろしくねっ!」と頭を撫で、ソリに乗りこむ。

ソリに乗り込むと、トナカイは最初はゆっくりと、しかし段々早く空へと駆け上がっていく。

「うわぁぁぁぁ…綺麗〜!!!」

都会の夜景。タワーや高いビルからならば見慣れてはいるが、ここまで高い位置から見下ろしたことなどない。
サンタ服のおかげなのか、上空だというのに寒さも感じず快適だ。
里美はしばしキラキラと光る地上に見惚れていたが、ハッ!と思い出し、プレゼントの中身を確認しようと袋を手に取る。
「あれ?軽い…?」
まさか、何も入ってないんじゃ…!?と、袋を開いてみると、そこには一通の封筒が入っていた。
宛名も、差出人も書かれていない。そして、封も空いている。
「う〜ん…」としばし唸ってから、里美は思い切って封筒の中身を覗いた。
そこに入っていたのは、一枚の写真だった。
一組の夫婦であろう男女。女性は赤ちゃんを抱いている。

「これ…カラーに復元された写真だよね?昭和初期くらいの…かなぁ?
 ……いいなぁ、この写真の家族。凄く、温かい。凄く、幸せそう」

職業柄、写真には詳しい里美。人物の服装や背景から察するに、最近撮影されたものではないことは一目でわかった。
微笑み、その写真を眺める。
しばし眺めてから裏を見ると、『娘、ゆり子と、玄関先にて 1926年12月』と毛筆で書かれている。

家族。

両親を亡くしている彼女にとっては大事なキーワードだろう。
複雑な思いを胸に抱きつつ写真を眺めていると、いつの間にかトナカイが地上へと下降している事に気がついた。
気を引き締め、里美はその写真をまた封筒へと戻した。


トナカイがついた先は、小さなアパートだった。
数部屋しかない小さなアパート。手がかりは「ゆり子」だけだったが、配達先は見つかった。
8つほど並んだ小さな郵便受けに『島田 ゆり子』という文字を容易に見つけることが出来たからだ。

「う〜ん…このポストに入れておくだけでも任務は完了なんだろうけど…」

里美は、ぜひともこの写真を直に渡したい!と思った。
年月から推測するに、このゆり子さんは80歳を過ぎているだろう。そして、表札にはゆり子さんの名前しかない。
「一人暮らしのお婆ちゃん…」
里美は、ドアの前まで来てみたものの、もう夜も遅いし、と躊躇していた。

すると、突然キィィとドアが開いた。
顔を覗かせたのは、お婆ちゃん。人影に気がついたのか、ドアを開けたらしい。
驚いたのは、お婆ちゃんよりも里美の方だった。
「え、えっと、あのっ、あたし、サンタクロースですっ。プレゼント持って来ましたっ」
アワアワと対応する里美に、お婆ちゃんは一瞬目を丸くしたものの、
「そんな格好じゃ寒いじゃろ、コタツにあたりねぇ」と微笑み、部屋へと案内した。

四畳一間。お婆ちゃんが一人暮らしするには丁度いいのかもしれない。
里美はサンタ服のまま、勧められるがままにコタツに入り、お茶を頂く。
限りなく質素な部屋を見回していると、おばあちゃんは「よっこいしょ」と言いながらコタツの対面に座った。
「本当に、サンタクロースなんているもんなんだねぇ。しかも、こんな可愛いお嬢さんだなんて」
ニコニコと、そしておっとりとお婆ちゃんは言う。
里美は『実は、アルバイトなんです』とも言えず、苦笑した。そして、話をそらすかのように、早速写真の入った封筒を取り出す。
「あの、ホントはポストに入れて帰ろうかと思ったんですけど、あまりにもいい写真だったから、直接渡したくて…」

里美は、封筒をツツ、とお婆ちゃんの前に差し出した。

写真?おやまぁ、なんだろねぇ、と微笑みながらお婆ちゃんは封筒を受け取り、中身を取り出す。
それまで朗らかな笑顔だったお婆ちゃんの表情が、固まった。

「こ、これは…」
「凄く、素敵な写真ですよね」
微笑み言う里美。それに対し、真顔、そして無言で写真を見続けたお婆ちゃんは…一筋の涙を流した。

「空襲ですべて焼けてしまったとばかりに思っていたのに、写真が…しかも、白黒じゃない…
 あぁ、裏の筆跡は明らかに父の…あぁ…」

お婆ちゃんはボロボロと涙をこぼした。
里美はてっきり、現代の技術でモノクロ写真をカラーにしただけだと思っていたが、そうではなかったようだ。
なくなった写真を元通りに、しかもカラーというおまけつきでサンタはプレゼントしたらしい。

「お父ちゃん、お母ちゃん…」
写真を見つめ写真の中の両親を指先で撫でる。とめどなく溢れるお婆ちゃんの涙を見ていたら、里美ももらい泣きをしてしまった。
否、里美だって、同じ境遇なのだ。もう写真でしか会えない、父と、母。

「ありがとう、本当にありがとう、サンタのお嬢ちゃん…記憶の中にしかいなかった父と母が、こんなに鮮明に…写真の中で生きている。笑っておる…」
お婆ちゃんは涙を拭いてから、シワシワの手で里美の手を握った。
「こちらこそ、喜んでいただけて何よりです」
里美も、涙を拭きつつ微笑んだ。


★任務完了★

一同がソリの乗ると、また自動的に元いた公園へと戻ってきた。
そこには関西弁サンタが笑顔で手を振ってみんなの帰りを待っていた。

「なんだったのじゃ、あのプレゼントはっ!?」
と、疑問符が浮かぶ源。
「凄く素敵なプレゼントで…喜んでもらえたみたいですっ」
とは、まだやや涙目な里美。
「毎年お疲れ様です、サンタクロースさん」
とねぎらいの言葉をかけたのは紫桜。

ふぉっふぉっふぉっ、と笑いつつ関西弁サンタは口を開く。

「三人とも、無事に帰って来てくれておおきになー。
 随分と助かったで♪
 そんな三人にささやかながらプレゼントや」

そう言うと、サンタはシャンペンとケーキ、そしてわずかばかりのアルバイト料をみなに渡す。

「あ、あとそのサンタ服も思い出に持ち帰ってな。
 そして、もしまた来年、手伝いの募集かけたら…よかったら、きたってな。
 ホンマ、感謝しとる。おおきに!」

そう言うと、サンタクロースはまたソリに乗りトナカイと共に上空へと去っていった。

空を見上げ見送る三人に、サンタは笑顔で手を振り続けた。




★END★




□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1108/本郷・源/女性/6歳/オーナー 小学生 獣人】
【2836/崎咲・里美/女性/19歳/敏腕新聞記者】
【5453/櫻・紫桜/男性/15歳/高校生】

【NPC/島田・ゆり子/女性/80歳/ご隠居】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

はじめまして!新米ライター、千野千智と申します!
この度はこのような新人にPC様をお預けくださりありがとうございました!!

里美さんのプレイングに…ホロリとキました。
当方、お爺ちゃんっ子なもので…。
里美ちゃんは本来は元気な娘っ子さんのようですが、話の内容から若干しっとりしてしまいました。
ごめんなさい!(土下座)

再現…には程遠いかもしれませんが、少しでもお気に召していただけたら幸いです(ペコリ)

ご発注、本当にありがとうございました!
よろしければ、またお会いできることを願って…では!!

2005-12-18
千野千智