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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


第二次道案内

*オープニング*

草間武彦は、草間興信所を軽装で飛び出し、走っていた。
もうすぐ、夜の11時。
薄暗い道をやや息を切らせながら、走る、走る。

向かった先は……草間興信所から一番近い、煙草の自動販売機。
「よかった、間に合った…」
やや息を切らし、煙草の自動販売機に小銭を投入する。
無事に奮発したマルボロを購入する。
その安堵感からか、草間は急に寒気を感じた。
「走ってきたとは言え…やっぱりジャケットぐらい羽織ってくるべきだったか…」

興信所に戻ろうと、振り返る。すると…

「あのぅ…」

「うわぁぁぁああああっ!?」
振り返ると、うだつのあがらそうな中年男性が立っていた。
あまりの気配のなさに、草間は思わず声を上げた。

心臓をバクバクさせながら、草間はその中年男性に目を向ける。
「な、なんですかっ?」

「す、すみませんが、あのー・・・天国には、どうやって行ったらいいんでしょうか?」


一瞬の間を置いてから、草間はその男性を興信所へと連れて行くことにした。



−シュライン・エマの第二次道案内−


「武彦さんてホント、霊に頼りにされるわよね…」
クスクスと笑いながら、シュライン・エマは帰ってきた武彦にはコーヒーを、そして連れてこられた中年男性、石田・郁三(いしだ・いくぞう)には温かいお茶を出す。
シュラインは好意の残業を終え、草間武彦に挨拶をして帰ろうとした矢先…うだつのあがらない中年親父さんを連れてきた。
やはり、呼吸や心音がないことから、シュラインは一目で「あぁ…」と見抜く。

今、二人は向かい合って事務所のソファーに座っている。
武彦はシュラインに「ありがとな」とコーヒーを口に含みつつ、その中年男性に声を掛けた。
「その、気配のなさと、目的から言うと…どうせアレだろ?もう死んでいるんだろ?」
「は、はぃぃ…」
あっさりと認めた石田は、申し訳なさそうにペコペコと頭をさげる。
頭を下げるたびに見え隠れする、うっすらと薄くなった頭頂部がより悲壮感を漂わせる。
そして、シュラインに対し「ありがとうございます、いただきます」とまたもやペコペコお辞儀をし、お茶に口をつける。

「あのな、うち、普通の興信所なんだよ。どこでどういう噂が広まってるのかわからないけど、幽霊専門じゃないんだからな」
そう武彦が言うと、石田は「そうですよね、ごめんなさい、ごめんなさい」とペコペコと頭を下げる。
ますます、悲壮感が漂う。

「まぁまぁ、武彦さん。それだけ武彦さんが頼りになる、というオーラが出ているのよ。そう怒らないで。」
笑顔でシュラインが武彦をなだめると、武彦は「仕方ないな」と呟き、改めて石田の方を向く。

「で、だ。自分の氏名、死亡原因、未練、思いつく限り話してくれ。まずはそれからだ」
「は、はい、名前は石田郁三と申します。46歳です…いや、でした。
 妻と高校受験を控えた娘がおり…死亡原因は電車に身を投げて…」
武彦が口を挟む
「おいおい、奥さんと娘残して自殺かぁ?」
「しかも、電車に身を投げて、だなんて…賠償金が相当よ?
 それに、高校受験を控えた娘さんだなんて…一番心労をかけちゃいけない時期じゃない」
シュラインも己のデスクで新聞をペラペラめくりつつ言う。
「本当にごめんなさい…」
シュンとする石田。
「妻もパートにでるほどで、決して裕福ではなかったのですが…」
「おいおい、あんた、本当に…なんで自殺なんてしちゃったんだ?その自殺原因をまずは調べないとな…」
「自殺原因は………なんだったんでしょうねぇ?」
「俺に聞かれてもわかるわけないだろうが!」
武彦が苦笑しつつ、今度はタバコに火をつけた。

すると、シュラインの「ちょっと待った!」コールがかかる。
思わず、タバコの火を消そうとする武彦。
「違うの、武彦さんじゃなくって!…ねぇ、石田さん。それ、いつの話?」
「え?いつって…つい最近だと思うのですが…すいません、記憶があやふやなもので」
ペコペコとお辞儀をする石田。

シュラインは名前を聞いた瞬間から、己の記憶、そして最近の新聞をチェックするが、そのような記事はない。
電車への投身自殺…あまりにありふれているから気づいてないだけなのかも、とシュラインはパソコンを立ち上げていた。

そして、石田のことが検索に引っかかったのである。

「石田さん、あなた、記憶…あやふやすぎよ?」
「へ?」
石田が目を真ん丸くする。

「あなたが亡くなったのは15年前。しかも、自殺じゃないわ。職場での一酸化炭素中毒。」
「あー・・・言われてみれば、そんな気もしますねぇ〜」
のほほんと言う石田に対し、

「「記憶、間違えすぎっ!!」」

シュラインと武彦の声が見事にハモったのは言うまでもない。





翌日。

昨夜はとりあえずシュラインは自宅に帰宅し、武彦と幽霊石田は興信所に寝泊りしたらしい。
前日の話し合いで、「今現在の家族の様子が見たい」と言い出した石田の望みをかなえるため、シュラインは草間興信所へやってきた。
合鍵で草間興信所のドアを開けると、お昼も近づいているというのに未だ眠っていた武彦と石田を優しく起こす。
「幽霊も眠るのね…」と思いながら。

「ふぁぁ…おはよぅ、シュライン…」
いまだ眠たげな武彦と、「おはようございますっ」とシャキっと起きだす石田。
シュラインはまたもや二人にコーヒーを入れ、差し出す。
「ありがとな」「ありがとうございます」
二人のお礼を聞きつつ「早速だけど…」と、シュラインは自分の鞄から独自に調べた情報をまとめた書類を取り出す。

「亡くなってから15年もたっているし、ご家族が同じ場所にいるとは限らないと思ってご家族の消息を調べてみたの。」
「さすがシュライン」
といまだ眠たげに言う武彦に、「武彦さんが調べてるとは思えなかったから」とフフと笑いつつ、その書類を石田に見せる。

「娘の郁代ちゃん…石田さんが亡くなられた当時、15歳で高校受験を控えていた。」
「そうです、そうです!それがもう気がかりで!!」
興奮する石田に、「自分の死んだ理由も忘れていたくせに」と武彦がチャチャを入れる。それらに構わず、シュラインは報告を続ける。
「今はもう30歳。調べてみると、その後悲しみを乗り越えて志望校に合格。石田さんはちゃんと保険に入っていたのね。大学も出れているみたい。」
安堵の表情の石田。
「それで、一般の企業にOLとして就職し、そこで出会った男性と結婚。今は仕事を辞め、二児の母、みたいね」
ニッコリとそう告げるシュライン。
きっと一般的な幸せをつかんだと思われる娘のことを思って、石田は涙目となる。

が。
「あの、つ、妻は??妻の由紀代は…」
そこで、シュラインの表情が曇る。
「由紀代さんは…3年前に亡くなっている、わ」
「なんでだっ?」
と、声を上げたのは武彦の方。
「心臓発作が原因、ね」
「そう、ですか…」
ガックリと肩を落とす石田。だが
「でも、そういうことなら、きっと奥さんが天国で待っているはずよ。何はともあれ、娘さんを見に行きましょう。
 今現在の娘さんの姿を見れば、あなたの未練も断ち切れるかも知れないわ」
「そ、そうですね!行きましょう行きましょう!!」
急に元気になる石田。「ほらほら、草間さん、早く準備してくださいっ」と草間を急がす始末。
不機嫌に、でも簡単に着替えだす草間にシュラインはジャケットを手渡し、二人と幽霊一人は寒空の外へと出かけた。


「寒ぃーなぁー」
武彦がつぶやく。
「そうね」とシュラインが答え、地図を見ながら歩く。

三人の足の向かった先は…お寺。

「あ、あの、お寺、ですか?」
石田がシュラインに言う。武彦も不思議顔だった。
シュラインは二人の疑問に答える。
「本当に何も覚えてないみたいね、石田さん。あなたが亡くなったのは、15年前の今日、なのよ」
「そ、そうなんですかぁ〜!」
「そんな調子じゃ…会社では窓際族とかじゃなかったのか?」
そういう草間に
「し、失礼ですねっ。これでも係長だったんですから!!」
珍しく石田が強気に反論する。
そんな二人のやり取りを気にも留めず、シュラインはお寺の墓地に足を踏み入れる。
そして、二人に手招きをした。
ついて来た武彦と石田に小声で言う。
「見て」

視線の先には…一組の夫婦と、二人の子供がお墓参りに来ていた。

「あれは…間違いなく、郁江…15年たっても変わらない…私の、娘…」
立ち尽くす石田。
石田の娘、郁江はそんな武彦とシュライン、石田には気づかずお墓に向かって手を合わせている。
きっと旦那さんであろう優しそうな男性も手を合わせている。
更にその隣で、小学校低学年、幼稚園生ぐらいの女の子二人が親の見よう見まねで手を合わせ、祈っている。

「あれが、今の郁江さんよ」
遠目に一家の姿を見せつつ、シュラインは言う。
「幸せそうな家庭じゃないか」
武彦も微笑ましい光景に珍しく微笑む。

「あぁ…」
涙目で立ち尽くす石田。
「元気そうで…よかった…」

祈りを終えたであろう郁代とその旦那、そして娘二人は立ち上がり、出口の方、シュライン達のいる方向に向かって歩き出した。

郁代とその旦那達はシュラインらとすれ違う。
軽く会釈をしてすれ違ったが…どうやら、石田の姿は見えていない模様だった。
「仕方ない、ですよね…」
そうつぶやく石田に
「でもまぁ、元気で、しかも幸せそうでよかったじゃないか」
と武彦が励ます。
その時。

「ねぇ、パパーママー。さっきのオジちゃん、ママに似てたねー」
一番小さい幼稚園生であろう郁江の娘が母親に話しかけた。
「えっ?」と郁江は振り返る。
旦那も、小学生であろう娘も振り返るが、三人にはシュラインと武彦の姿しか見えないらしい。
「え?似てないよー」
と小学生の娘は武彦を見て言った。

石田は、郁代と一瞬目が合った気がした。が
「おじいちゃん、会いに来てるのかもねー」
と微笑むと、娘二人の手を両手につなぎ、一家は歩き出した。


「…似ててたまるかよ」
そう、苦笑する武彦だが、石田は今にも泣き出さんばかりの表情だった。
「やっぱり、小さい子の方が霊に敏感なものなのかしらね」
そう納得するシュラインは改めてお墓を見た。すると…。

「迎え、来てるわよ、石田さん。」
優しく石田の肩を叩く。
石田が墓の方に目を向けると…

「由紀代っ!!」
武彦にも、シュラインにも見えた。
お墓の側で、40台位の女性が微笑んで立っている。
駆け寄る石田に、石田の妻、由紀代は言う。
「あなた、昔から方向音痴だったわよね。よかった、やっと会えた…」

そして、由紀代はシュラインと武彦に向かって、深々とお辞儀をする。
「ありがとうございました、石田をここまで連れてきてくださって」
石田の方も「ありがとうございますっ」とペコペコとお辞儀をする。
「いきましょう、あなた。郁代はあたし達がこれからも見守ってあげましょう、二人で」
微笑む由紀代に、頷く石田。

「シュラインさん、草間さん、本当にありがとうございました」
最後に深々とお辞儀をすると、石田と由紀代は徐々に体が浮かんでいった。
シュラインと武彦はその様子を見上げる。
最後に、二人は光となった。

「依頼、完了ね…」
空を見上げながら微笑むシュラインに、草間も上を見上げたまま「おぅ」と答えた。




その後、事務所に戻った二人は遅めの昼ご飯を食べていた。

食事中にポソリと武彦が「死んでもなお幸せな夫婦、か…」何気なくつぶやいた。
「…幸せなことよね」
そう言いながらシュラインはチラリと武彦を見る。
美味しそうにシュラインの作った昼食を食べる武彦の姿を微笑みながら見つめるシュライン。
その視線に気づき「ん?なんかついてるか?」と口元に手を当てる武彦。
「え?な、なんでもないわ」
やや赤面しつつ答えるシュラインに、ハテナ顔の武彦。

『幸せな夫婦、ね…』

そう、自分の中で武彦の言葉を復唱するシュラインであった。






END



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【NPC/石田・郁三/男性/46歳/うだつのあがらないサラリーマン兼幽霊】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは!二度目の発注、まことにありがとうございます、千野千智でございます!
またも発注していただけるとは思いもよらず…んもぅ、凄く凄く感激でございました!
ありがとうございますっ(土下座)

シュラインさんのプレイングの鋭さにドキドキしつつ、だいぶ…いや、かなりアレンジさせていただいちゃいましたが…
少しでも、お気に召してくださいましたら幸いでございます!!
まだまだヘッポコなライターでございますが、草間さんとシュラインさんの掛け合いを書くのが
凄く凄く楽しくて…どうかまた、シュラインさんを描かせていただけましたら幸いですっ。

本当に、このようなヘッポコライターに大事なPC様をお預けくださいまして
ありがとうございました!!

寒さも増してまいりましたが、PL様、そしてシュラインさんのお体の健康お祈り申し上げます!
それでは…!!


2005-12-12
千野千智