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<東京怪談・PCゲームノベル>


鍋祭しよう!

 からから、と引き戸を海原・みなもは開けて店の中へと入る。
「ごめんください、まだちょっと早かったかしら……」
「! みなも君なのじゃ!」
 聞き覚えのある声に反応して奥の和室から店の入口へと駆け寄ってくるものがいる。蝶子だ。
「嬉しいのじゃー、もしかして鍋祭に来てくれたのじゃろ?」
「ええ、いっぱいお土産もって来ましたよ」
 そういってみなもは手にしていた紙袋を両手で持って広げてみせる。そこには寒ブリにマグロ、サバ、アンコウと多種多様の海産物が最初に目に入る。
「おおお、すごいのじゃー!これは鍋がいっぱいできるのじゃ! 要君要君!」
 その荷を嬉しそうに受け取って蝶子は奥に向かって声をかける。その声に、奥から一人の少女が姿を現す。みなもよりも、二つ三つ上、というところだ。
「何ですか、蝶子さん。あ、いらっしゃいませ!」
「みなも君、彼女は要君じゃ、鍋奉行をいつもしているのじゃ」
「はじめまして、ここでアルバイトしている音原要といいます。鍋奉行は毎日じゃないんですけどね」
「海原・みなもです。今日は鍋祭のチラシをみてきました。どうぞよろしくお願いします」
 ぺこ、と互いに頭をさげあい、なにやら穏やかな空気が流れる。
「うんうん、きっと二人は仲良くなれるのじゃ! で、みなも君からこれをもらったのじゃ」
「うわーすごい!これ色んな鍋作れますねー! 寒ブリで雪鍋と、アンコウ鍋、マグロはそのままお刺身でもいいかも! すごいすごい」
「家族では食べ切れそうにないので……ちょっと多かったでしょうか?」
 蝶子がまるで自分が持ってきたぞ、というようにみせる紙袋の中を要も覗いて嬉しそうにする。どうやらこれだけの種類の魚をみて料理好きの性質が騒ぐらしい。
「大丈夫、大丈夫! あ、せっかくだから一緒に準備しましょう? まだ支度してないし、土鍋が来ないから下拵えくらいしかできないけど」
「うん、みなも君も手伝うのじゃ! 色々と話をしながらやれば楽しいのじゃ」
 そう言って蝶子はみなもの手をとると少々小走り気味、ひっぱるように和室の方へ。靴を脱いであがって、さらに奥。台所へと引っ張っていく。後ろから要がマイペースに少し遅れてやってくる。
台所は一つ材料を置くためのようなテーブルがあり、広さとしては小さく、けれども整っていてとても使いやすそうだ。
「なんだかかわいい台所ですね」
「ここは要君の城じゃよ」
「確かに私の城ですね。さぁ、はじめましょうか!」
 要が作業開始を告げる。みなもも蝶子もそれに笑って頷く。要はどこからかエプロンを出してきて二人に渡すと必要だと思われる道具を出し始めた。
「そういえば奈津さんは今日はいらっしゃらないみたいですね」
「奈津は土鍋を買いにいっておるのじゃ。奈津の父上が大きな土鍋がほしいと言い出して散財させないように一緒に行ってくると、言っていたのじゃ」
「そうなんですか、今日はその奈津さんのお父様にも会えるのかな」
「きっと会えますよ、鍋大好きですからね、藍ノ介さん」
 そうですか、とみなもは要に笑いかける。そんな彼女に要ははい、とすり鉢を渡す。それを受け取ったみなもはどうするのかな、と思った。
「サバは一度叩いてそのあとちょっとごりごりしてツミレ! ふわふわにしたほうがおいしくなるからね。その時にちょっと生姜をいれるといいかな」
「へーそうなんですか。他にはどうするんですか?」
「あとは……土鍋がもう一つ手に入るから今日は鍋二種をしようかなと。アンコウ鍋とブリの雪鍋。アンコウ鍋を先に作っておいて、新しい土鍋で雪鍋をしようかなー」
「今日は多種多様で嬉しいのじゃ!」
 女の子だけでの会話というのは楽しいらしく、内容が料理のことから色んなことへと発展していく。おしゃべりしながらの作業というのははかどるようではかどらないがそれなりに進んでいる。
「あ、そういえば髪の手入れの仕方なのじゃが」
「それ聞きたいです。この前聞きそびれてからずっと聞こうと思ってたんです」
「私も、私もそれ気になる!」
 髪の話に二人くいつき、蝶子は笑う。そしていくつかポイントを挙げていく。
「髪を洗ったあとは早めに乾かすのが良いのじゃ。あといたんだ時はちょっと髪をぬらしてマヨネーズをぬりこんでしばらく置き、シャンプーすると良いのじゃ。マヨネーズの油分などが潤わしてくれるのじゃよ」
「マヨネーズ……なんだかもったいない気がしますけど……でもマヨネーズ……」
「マヨネーズか……よし」
 何だか決意したような表情を浮かべる要に、本当にこの人やる気だ、とみなもは思う。自分はまだ実行するか、決めてはいない。とりあえず髪を早く乾かすようにはしようと思っていた。
「よし、アンコウを湯通ししたからこれは水切りで終わり。糸こんにゃくとごぼう、あときのこ類いれて最後に今日は雑炊じゃなくてこの煮汁でおそばかおうどん茹でちゃおう。どっちがいいかな?」
「どっちでもおいしそうですね、迷います!」
「じゃあそれはあとで決めようか。今のうちにじっくり迷っといて」
 鍋にそれぞれ想いを馳せつつ、会話は女の子同士ならはずせないテーマへと移る。そう、恋愛話。みなもはちょっと照れ、恥らいつつ言葉を紡ぐ。
「何かいい恋愛術があれば教えてほしいです……男の子との付き合い方とか」
「蝶子さん、何かあります? ほら、今まで長生きしてるし」
「うーん……こう長生きしてても他人の色恋沙汰は知っているが自分のことは微妙なんじゃよ。けども、まぁ、あれじゃ、気持ちをちゃんと伝えているものは皆幸せになっているのじゃ。あたって砕けろの意気じゃよ」
 砕けるのはやだな、と思いつつも確かにそうかもしれないと感じる。何事もやらなければ始まらないのはその通りだ。
「あとはさりげなく相手に自分を印象付けたりするのじゃ。性格とかも関係するんじゃろうが、適度に押して引けというのは正しいようじゃよ」
「覚えてもらうのは大事ですよね」
「うん、それはどんな関係でも大事じゃ」
「そうですね。あ、もうツミレよさそうな感じ」
 みなもがごりごりとすり鉢ですっていたサバの状態を要が見定めてストップをかける。あとは軽く形を整えて鍋におとせばいい。
「鍋の準備は、あとは寒ブリだね。さっと湯通しして霜降りにして、冷やしてのこってる血と鱗を流水でおとすんだよ」
「へーそうすると何かいいことあるんですか?」
「うん、生臭さがとれるんだよ。あ、お湯は沸騰前くらいの温度ね」
 的確な指示を要は出しながら大根を一生懸命作っている。蝶子とみなもにブリは任せた、と信頼しているのだ。それに答えるように二人もその準備をする。
 沸騰前の湯に一口大のブリをくぐらせ氷水へ。そしてそれを軽くささっと洗う。その作業が終る頃には要も大根おろしを大量に作り終わり水気を切っていた。
「これで準備できたけど、土鍋がない。奈津さん遅いな……」
「そうじゃなーアンコウ鍋はばっちりなのに雪鍋がだめじゃ」
 そんな話をしていると、からから、と引き戸の開く音がする。三人同時に、そちらを見ると奈津ノ介がきっと土鍋だろう、紙包みを持って帰ってきたところだった。
「ただいま戻りました……こんにちは、あ、もうこんばんわ、ですね、みなもさん」
「こんばんわ、鍋祭しにきましたよ」
 それは嬉しいですね、と言いながら奈津ノ介は買ってきた土鍋を和室の畳の上に置く。
「あれ、藍ノ介さんは? 奈津さん一緒に出て行ったのに」
「親父殿は……途中でみつけた酒屋に座り込んでいくら出ますよ、と言っても動かないので放ってきました。気が済んだら帰ってくるでしょう」
「あら、残念です。お会いできると思っていたのに」
 みなもの言葉にまた機会はありますよ、と奈津ノ介は言う。
「さて土鍋もきたしお鍋の準備の続きしよっか! って言ってももうブリと野菜、ツミレおとして大根おろしを入れるだけなんだけど」
「ブリの雪鍋ですか? 大根が白雪みたいでいいですよね」
「それだけじゃないのじゃ」
「アンコウ鍋もあるんです。いっぱいお魚持ってきたので」
 奈津ノ介はそれは楽しみだな、と言う。もうすぐ楽しい鍋祭開始だ。


<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1252/海原・みなも/女性/13歳/中学生】


【NPC/音原要/女性/15/学生アルバイト】
【NPC/蝶子/女性/461/暇つぶしが本業の情報屋】
【NPC/奈津ノ介/男性/332/雑貨屋店主】

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■         ライター通信          ■
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 海原・みなもさま

 ライターの志摩です。今回も書かせていただきありがとうございます!
 今回はみなもさまがいっぱい魚を持ってきてくださったので食べるのメインよりもその作業過程にポイントをおいてみました。鍋を作りつつ女の子同士でおしゃべり。いや、もう絶対楽しいはずと思い込んでます。そしてこれから鍋を4人でわいわい囲むのを想像していただけると嬉しいです。

 最後に誤字を発見されましたらどうぞ突っ返してくださいませ…!
 それではこの辺で、またお会いできることを祈りつつ!